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現場からのオピニオン - 全国老人保健施設協会
現場からのオピニオン ∼介護現場はいま∼ 現場からのオピニオン ∼介護現場はいま∼ 在宅復帰率問題と 地域における老健施設の立ち位置 全老健岩手県支部長、介護老人保健施設さわなり苑理事長 長澤 茂 の態勢は大変なご苦労もあると聞く。 “生活の場” は酷似している。地域格差は明らかである。 とも考えるが、 “自宅” “居宅”または“在宅”に 岩手県の人口は平成24 年度現在130 万人であ ついての議論が必要であろう。年齢と共に複数の るが、平成47 年度は117 万人と減少し、65 歳以 疾患を抱える高齢者は、キュアからケアを中心に 上の人口は36 万人から41 万人と、5 万人の増加 すえた医療の在り方でもある。老健施設では、看 が推測されている。5 人に1 人が県都盛岡に住ま 取りも含め多岐にわたる機能が求められる。 いする現状から推測すると、今日そのものが将来 昨年末、政権交代以降デフレ脱却との評価もあ の姿とそれほどの相違はないとの見方もあり、都 るが、まだまだ見極めには時間がかかる。加えて、 市部で指摘されている2025 年問題と、地方小都 社会保障制度を語る時、少子高齢化問題は避けて 市の実態には微妙な相違が生じてくると思われる。 通れない。2012 年度の社会保障費は約110 兆円 また、平均県民所得は221 万円、都市部のそれ であり、国家歳出費の90 兆円を上回り、内訳は は上位5 県の平均316 万円である。なかでも東京 医療福祉が50%、年金50%と示されている。こ 都は391 万円と飛びぬけている。地方で高齢者を の水準を維持するだけでも税金は1 兆円規模の投 抱えた中小企業の働き手は、仕事と介護のはざま 入が必要となっている。結局、財政問題からも高 で生活は決して豊かではない。生活保護受給世帯 齢者の在宅への方向性は同一であり、復帰加算が を地域別にみると東北北部と北海道、西日本が上 大きいものになったと理解しているが、ご指摘い 位に入っている。さらに、単独世帯(一人暮ら ただきたい。 し)は2010 年の32%から2015 年には33%に増 異なる特色をもつ地域のなかで 老健施設ができることを 加し、このうち65 歳以上の高齢者単独世帯は 2035 年には762 万世帯(2010 年の1.5 倍)に膨 らむと予測され、一人暮らし高齢者の見守り等に 我々の住まいする地域で、さまざまな生活様式 留意が求められている。 現在の“在宅強化型老健施設”は全体の約3.5% の変革が猛烈な勢いで始まっている。廉価な人件 昨年から発足した、 “地域包括ケアシステム” であった。過日、 “医療や介護は追い風産業”と 費や地代などで、活路を見出そうとした行政政策 は、その地域に合った24 時間365 日安全で安心 のご講演を拝聴したが、現場での感覚は“今でさ で始まった工場誘致が去った今、いまだにさまざ して生活することをめざした“要”であり、老健 先日、平成24 年度第2 回臨時社員総会に出席 え、経営は厳しい”との声が多数聞かれたことか まな影を強く落としている。工場閉鎖などで一時 施設は多職種協働の硬軟可能な“砦”になり得る する機会があった。 “老健施設の経営安定化と老 らして、施設のご努力に敬意を表するものである。 的には介護士不足も解消されたかに見えたが、長 であろう。在宅復帰についても、それぞれの地域 健施設機能の発揮を図るため”とする資料が添付 一方で、多くの老健施設で長期療養を余儀なくせ 続きはしなかった。賃金は人手の確保という介護 でご尽力あって然るべきものと考えるが、前述し され、目についた内容は“在宅復帰率50%”問 ざるを得ない地域背景への考察も必要と思われた。 現場が抱える問題に直結するが、待遇改善が必要 たごとく地域で抱えるさまざまな問題が存在する。 題であった。 利用者や家族のご理解なくしてこの条件をクリア なことは全産業平均離職率(14.4%:2011 年度) これらに伴う介護報酬も大いに魅力的ではあるが、 詳細な資料は、平成22 年度老人保健健康増進 することは容易ではなく、在宅療養についても家 を上回る数値(16.1%)にも示されている。そし 家族・利用者へのひずみが生じては本末転倒であ 等事業などに掲載されているが、在所日数の中央 族そして多職種のご尽力の賜物であろう。 て追い打ちをかけるように、3.11 の東北東日本の る。 “在宅復帰50%”と並び称せられる老健施設 値は358 日(11.8 か月)と長期にわたり、2 年以 老健施設がめざす“在宅復帰”に軽費老人ホー 被災である。2012 年岩手県の人口移動報告書に の“種々なる努力”にも今後大きな評価がいただ 上は全体の1 割を占めた。老健施設から自宅退所 ム、サービス型高齢者住宅やグループホーム、そ は2,385 人の転出超過が示された。甚大な被害を けるよう、全老健執行部にご指導ご尽力をお願い した者の割合が、1か月あたり3%未満の施設は して有料老人ホームも含まれるが、終の棲家とす 受けた沿岸部を中心に人口流出に歯止めがかから 申し上げたい。地域にとって必要不可欠なものへ 8 割と報じられている。厚労省は段階を経て、6 る特養はその範疇にない。現在の特養は、より高 ない。ちなみに福島県は、約1 万4,000 人の転出 の努力は惜しまず、施設ならびに在宅療養の中核 年間のスパンで機能強化を求め、平成24 年10 月 い介護度の方が多いと承知しているが、夜間など 超過である。東北ならびに東日本被災地域の状況 となり得る老健施設でありたいと願う。 今求められる 在宅復帰と老健施設の多機能性 58 ●老健 2013.5 老健 2013.5 ● 59 現場からのオピニオン ∼介護現場はいま∼ 現場からのオピニオン ∼介護現場はいま∼ 私の考える老健施設とは 経営を困難にさせている。 沖縄県における 今後の老健施設のあり方 とかPT、OT、ST を加配し対応しているが、経 営を苦しくさせている。 今後さらに高齢化が進むことを考えると、ます ます老健施設での維持期リハビリテーションとし ここ数年でサービス付き高齢者住宅を始め、 てのニーズは高まっていくものと考えられ、現在 数々の住宅系居住施設が急増し、県内の介護事業 のPT、OT、ST の人員配置基準を上げ、リハビ は競争が激化してきている。そのなかであらため リ機能を強化し、少しでも介護度の進行を遅らせ て老健施設の特性を考えてみたい。 て在宅や施設での安定した生活ができるようにし 老健施設とは「利用者の尊厳を守り、安全に配 ていかなければならない。そうすることで、在宅 慮し、生活機能の維持・向上をめざし総合的に援 や施設での介護負担を減少させ、より多くの労働 助する。また、家族や地域の人びと・機関と協力 力を創出していけることになるはずである。 し、安心して自立した在宅生活が続けられるよう 政権交代後、アベノミクスによる経済効果は 支援する」となっており、その役割として― TPP 参加が表明され、中国や韓国との国境問題 1 包括的ケアサービス施設 などの不安があるものの、今のところ我々老健施 2 リハビリテーション施設 設にも希望を抱かせるものであることを期待した 3 在宅復帰施設 い。 成元年に沖縄県での老人保健施設第1 号として開 4 在宅生活支援施設 最後に、昨年の10 月に平良会長を中心とした 設された。当初より特に認知症を中心としたケア 5 地域に根ざした施設 沖縄県で初めての全国介護老人保健施設大会が開 を行っており、認知症専門棟40 床を含む140 床 が挙げられている。他のリハビリテーション医療 催され、当初目標の3,500 人を超える4,000 人あ 厚生労働省によると、2030 年にはいわゆる介 を有している。年々重度の認知症が増え、今や過 と異なり、維持期リハビリテーションの中核施設 まりの参加者があり、成功裏に終えることができ 護難民が47 万人になるというが、それに対して 半数が認知症のお年寄りである。親病院との連携 として位置付けられている。つまり、リハビリ た。10 月開催ということで台風の影響はほとん の対策は後手にまわっている。景気低迷による財 をはかり早期に在宅ケアへと移行させるよう努め テーションにより自立支援や在宅復帰をめざして どないものと高を括っていたが、例年にない台風 源不足からどうあがいても施設が必要であるにも ているが、認知症のお年寄りは受け入れの問題や いくなかで発生する医療ニーズにも対応していこ の当たり年となり、直前の台風により会場の一部 かかわらず、あれこれと在宅介護を推奨し、絵に その多くが身体合併症を有しており、苦戦を強い うという病院と在宅をつなぐ中間施設なのである。 が被害に遭い、一時は開催が危ぶまれるという状 かいた餅を並べているように感じられる。少子化 られている。身体合併症が悪化した際にも、ご家 しかし、当施設においては介護老人福祉施設 況だった。しかし、ご参加頂いた皆さまや木川田 により生産年齢人口は減少を続けており、その一 族はできれば転院させずに施設内での対応を希望 (いわゆる特養)の総量規制により溢れ出てきた、 会長を始めとする全老健のスタッフの皆さまのご 方では2030 年には必要介護者数が現在の倍の されるため、親病院との連携が行われている。親 介護度が高くて身体合併症を有した歩行困難なお 支援を受け無事に開催できたことを感謝する次第 255 万人になるという。つまり、少子高齢化が続 病院は26 床と小規模ながら療養病床を有してお 年寄りの割合が高くなってきており、リハビリの だ。また今回は、沖縄県介護老人保健施設協議会 き、外国からの介護者の供給がない限りは、少な り、また精神科病院であるにもかかわらず内科医 効果が上げにくくなってきている。また認知症治 の結束の良さを再認識した大会でもあった。この い人数でより多くの高齢者を介護していかなけれ や外科医、泌尿器科医などを採用し、可能な限り 療は残念ながら現段階では一時的に改善すること 大会で得た全国のスタッフの創意工夫に満ちたご ばならない。地域包括ケアについてもそれぞれの の全人的な医療を提供できるようにしており、当 はあるもののほとんどは進行を遅らせることしか 発表と連帯感を糧に、さらに飛躍していこうと励 地域での条件が異なり、容易ではない。 施設との間でも連携を行っている。しかし、包括 できない。当施設は認知症の介護に重点を置いて まされた次第である。本当にありがとうございま さて、私どもの「嬉野の園」は精神科病院を母 医療である老健施設では施設負担が多く、一昨年 いるものの現在のPT、OT、ST の人員配置基準 した。 体とする医療法人であり、その併設施設として平 に新たに追認された抗認知症治療薬も高額であり、 では十分なリハビリテーションは困難であり、何 沖縄県支部代議員、介護老人保健施設嬉野の園理事長 田崎琢二 はじめに 60 ●老健 2013.5 老健 2013.5 ● 61