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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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<総説>木材への液体注入 : ピットの構造と浸透性向上技
術
今村, 祐嗣
木材研究・資料 (1995), 31: 11-30
1995-12-20
http://hdl.handle.net/2433/51430
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
総 説
(
REVI
EW)
木材への液体注入 *
- ピットの構造 と浸透性向上技術一
今
村
祐
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onYuj
iIMAMURA*
*
(
平成 7年 8月3
1日受理)
1.は じめに
木材 の性能向上あるいは機能性付与 を目的 とした複合化処理 においては,す ぐれた薬剤や処理方法が開
発 された として も,木材への薬剤等の注入工程がネ ックとなってその発展 を阻んでいることが多い。例 え
ば,最近増加 している外構部材 (
エ クステ リアウ ッド)な ど,厳 しい環境条件下で使用 される材料 におい
ては,保存薬剤の効果以外 に木材-の浸透性の良 し悪 Lによって,期待 される耐久性能が影響 されること
が多いのはよく指摘 されるところである (
図 1)。 また,木材 とプラスチ ックあるいは無機質 との複合化処
理などにおいて も, まず問題 となるのはモ ノマーや溶液な どの処理液 をいかに材中にムラな く迅速 にかつ
目的 とする深 さまで導入するか とい うことであろう。
しか し,細胞壁で囲まれた小部屋の集合体である木材 は,けっして注入の容易 な材料ではない。したが っ
て,薄い単板状の ものに処理 を施 し,それを積層す る手段が取 られることが多い。た しかにエ レメン トを
小 さ くして処理 を行 うのは,木質ボー ドの製造などを対象 とす る場合 には有意義であ り,今後の材料 開発
の手段 として も有力な方策 となろう。その一方で,比較的大 きな断面の木材 を自由に処理 したい とい う要
望 も高い。木材への薬剤注入性能 を向上 させ る目的は,材中での偏 りをな くし均一化す るとともに,難注
入性の樹種であって も部材の内部深 く薬液 を浸透 させ ることにある (
表 1) 。
さて,木材 は壁で仕切 られた多 くの小部屋の集合体である。小部屋 同士の間の壁 にはピッ トと称 される
弁の備わった部分があ り,樹木における樹液流動の通路 となるとともに水分移動の調節弁の役割 を果 た し
ている。その形態 は,広葉樹 と針葉樹で, また細胞の種類毎 に異なっているが, この通路すなわち 『
壁孔
(
ピット)
』は,"
木材細胞壁の二次壁が欠如 し,壁孔壁 を境界 として隣接する二つの細胞が接 している部分"
と定義 されてい る。樹 液 や水分移動 の主 たる経路 であ る道管 や仮道管では,壁孔壁 が ドーム状 に覆 わ
*
第5
0回木研公開講演会 (
平成 7年 5月 1
9日,宇治市) において, 『
木に水 を入れる』 と題 して講演
* *
木質複合材料研究分野 (
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木材研究 ・資料
第3
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号 (
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)
表 1 主 な木の浸透性 ランキ ング (
心材)1)
針
葉
樹
広
葉
樹
レッ
ヒバ,サザ
ラジア一
ドウッ
夕マツ
ンパイン.
ド,
ヤチ
ゴム ノキ
タモ.ケ ンバ ス.
やや良好
チツガ.ペ
ア力マツ,
デマツ
イツガ.
スギ,
カバ.
イエ
ロー
シオジ,
メランチ
囲
エゾマツ,
シ
ヒノキ,ベ
トカスプルース
イモ
トドマツ.
ミ.
ブナ.
カブー ケ
ル ヤキ,
良
好
図 1 防腐剤の末含浸部位の腐朽例 (
矢田茂樹氏提供)
(
ccA処理 したベ イマツ材 (
左) とスギ丸太 (
右))
れているため有縁壁孔 と呼ばれている。
われわれが木材 を利用す るとい う立場で考 えてみると, この ピッ トが きわめて大 きな意味 をもって くる。
乾燥 に伴 う水分移動 も各種 の処理 における注入工程で も,すべて この "
穴"のお世話 になる必要がある。
もちろん,細胞壁 その ものを通過 しての拡散移動 も生 じるが, より大 きなオーダーで液体流動 に寄与 して
いるのはこの ピッ トである。
針葉樹仮道管 の場合, ドームの中で は弁 (トールス)がセルロースの フ ィブ リルの紐で吊 り下 げ られて
お り,弁が中立の位置 にあれば液体 の移動 はフ ィブ リルの間隙 を通 して行 われる。細胞 中に液体がな くな
るとその表面張力 に引 っ張 られるように弁 は ドームの口の方 に移動 し,ち ょうど閉 じたバ ルブの ように通
路 を閉鎖 して しまう。
広葉樹材 の有縁壁孔 では,明瞭な トールス構造 を欠いてお り, しか も密 なフ ィブ リル構造が存在 してい
るため,針葉樹材 の場合 とは水分移動 に果 たす壁孔の役割 は異 なっている。 また,広葉樹材では木材組織
を構成す る要素が よ り分化発達 しているため,道管が仮道管や木繊維 と異 な り液体移動 の主た る役割 を果
たす。 したが って,木材への液体注入性 の向上技術 について論 じる場合, この 2者 には共通す る ものがあ
る一方で,別の論議 を必要 とす る場合 も多い。 ここでは,用材 と して使用 されることの多い針葉樹材 を対
象 に, ピッ トの構造 と液体注入性 を向上 させ る技術 について論 じてみたい。
- 1
2-
今村 :木材への液体注入
2.ピ ッ トの はた らき
2. 1 ピッ トの構造
ピットは,一つの細胞 (
仮道管)当た り数十-百数十個分布 してお り,その大部分 は仮道管の先端部分
の半径壁 に集中 し,主 として上下方向に隣接する仮道管 を連絡 している (
図 2左)。バルブの口に相当する
孔 口の直径 は早材で数 ミクロン,晩材ではそれ よりさらに小 さい。個 々の ピットは,細胞壁が ドーム型に
盛 り上が り中央部が開口 したボーダー (
壁孔縁)の部分 と,その中にあって トールス と呼 ばれる弁 を備 え
たメンブレン (
壁孔壁)か らなっている (
図 2右)。 メンブ レンは円盤状の トールスと周辺のセルロース ・
ミクロフィブ リルの網 目構造か らなるマルゴの部分か ら構成 されている。マルゴは トールスを吊 り下げる
ように放射状 に並んだ ミクロフィブ リル束 と,それに交差 して配列 している細い ミクロフィブリルか らなっ
)。
ている2
針葉樹仮道管の ピットの基本的構造 は上に述べ た通 りであるが,メンブレンの構造 は樹種 によって相違
す るところが大 きい。一般的にマツ科の ものは肥厚 した明瞭な トールスをもち,その周辺表面 には トール
スをマルゴか ら区切 るように円周状配列の ミクロフィブ リルが堆積 している (
図 3A)。一方その他の樹種
においては,スギの例 にみ られるように, トールスの ミクロフィブ リルはマルゴか ら延長 したランダム構
造 を呈 している (
図 3B)。 もちろん個 々の樹種 によって特有の形態に変異 してお り,ベイスギなどでは肥
厚 した形状での トールスは明瞭 には認めることはで きない3)。 さらに,マツ型の トールスの場合,マルゴ
の ミクロフィブ リルの間隙はスギ型に比較 して一般的に広い。
ところで,液体や物質流動 に直接関与する と考 えられるメンブ レンのマルゴに存在す る小孔 の形状 や寸
法はどのようであろうか。電子顕微鏡 を用いた形態学的研究は もちろん,径の異なる粒子懸濁液 を使用 し
ての物理学的手法によって も検討 されて きた。大越 らによると, メンブ レン小孔の形状 はヒノキとスギの
辺材およびそれぞれの早晩材間でほ とんど差はな く,楕 円に近い多角形か ら三角形 にわたる多様 な ものを
含 むが,最 も多 く出現するのは長方形ない し菱形 に近い多角形であった4)。
0
4-0.
1
3ミクロンの広い範囲にまたが り,その うち流動 に支配的
さらに,かれ らは小孔の平均直径 は0.
に働 くのは0.
0
8
7ミクロン以上の孔径 をもつ もので,それ らは一つのメンブレンあた り3
0
0-4
0
0
個存在する
有縁壁孔) とピットの模式図
図 2 スギの ピット (
(
T :トールス,M :マルゴ)
-
13 -
木材研究 ・資料
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図 3 アカマ ツ (
A)お よびスギ (
B)の ピット(
有縁壁孔)のメ ンブ レン
と推定 している。 したが って, もし微粒子化 した ものを木材 に注入 しようとして も,小孔 の最大径以上の
粒子 は最初 のメ ンブ レンに出 くわす とそ こで止 まって しまい,それ以下の径の もので も徐 々に小 さい小孔
。
に トラ ップされマルゴを閉鎖 してい くため,木材内部への移動 は困難 となる (
図 4)
もちろん, メンブ レンの構造 は一定 した ものではな く,材内部位 によって も相違する。一般的にいって,
ただ し,晩材 ではメ ンブ レンその ものが厚いため壁孔 閉鎖 を
早材の小孔径 は晩材 のそれ よりも大 きい5) (
生 じる移動が起 こ りに くく,流動 はむ しろ早材 よ り容易であると考 えられている)。 また,樹齢 を経 るに従
い小孔 は拡大 してい くといわれている。年齢 によって孔径が広がるのは,樹体内における樹液の流動 によっ
てメンブ レンが移動 し,それによって小孔の形 や大 きさが影響 されるためであろうか。
さらに,心材 になると種 々の心材物質が メンブ レンに付着す るため,間隙をよ り小 さ くして くるに違い
ない。 この心材仮道管の メンブ レンに付着する物質は,いわゆる摘 出成分 とリグニ ン様物質である。その
代表的樹種 はベ イスギであ り,心材 ではアスピレーシ ョンによって閉鎖 している状態の ピッ トはむ しろ少
ないが,逆 にマルゴのフ ィブ リル間が心材物質でびっしりと埋 め られている。極端 な場合 は,ピットの ドー
ムの中全体が充填 されていることもある。小林の研究 によると,ベ イスギ材 の乾燥 に際 して しば しば出現
す る落 ち込 みには, この充填現象 も寄与 しているらしい6)。ベ イスギ ピッ トの充填物質は,熱水や有機溶
剤の抽 出操作で除去 される部分 も多 いが,それで も取れない部分があ りリグニ ン様 の物質が沈着 している
と考 えられている。
また, スギにおいて も,屋久杉 や春 日杉 とい う樹齢が数百年以上の老齢材では,細胞 の内腔 や ピッ トの
ドームの中は心材物質で被覆あるいは充填 されている (
図 5)
。老齢材の場合, こういった物質は銘木特有
の木香の元 になるものであるが,一方,市場価値の低 い黒心材 において も同様 に ピ ットが充填 されている
ようすが観察 される。一般 に黒心材 は乾燥性が悪 い といわれているが,その原因はこのあた りにもあ るの
ではないだろ うか。
2. 2 壁孔閉鎖 (ピッ ト・アスピレーション)
生育状態 にある辺材で は樹 液流動 が活発 に行 われているため,大半の ピッ トで は トールスがほぼ中立状
態にあると考 えて よい。しか し,心材では生 きた樹木であって もほ とん どの ピットでは穴が閉鎖 (
ピット・
- 1
4-
今村 :木材への液体注入
図 4 スギ材の表層近 くの細胞 にのみ沈着 した無機物
図 5 老齢スギの仮道管内腔 に沈着 した内容物
(
BPは有縁壁孔 ,cpは分野壁孔)
アス ピレーシ ョン) している。 ラジア一夕パ インについて閉鎖 しているピットの割合 を詳細 に観察 した結
果では,早材の場合,辺材で1
0-3
0%,心材では約9
0%,晩材の場合では辺材で 0-1
0%,心材では約2
0%
であった と報告 されている7)。 また特殊 な乾燥法,例 えば凍結乾燥法 とか溶媒置換法 を採用 しない限 り,
乾燥 した木材ではほとんどの ピットに閉鎖が生 じていると考えてよい0
トールスが移動 して孔 口をふ さぐ壁孔閉鎖 についての古典的解釈 は,本来生材 においては中央 にあった
トールスが,
水分の蒸発 につれて片方の面が空気層 にな り,
残 った方の水の表面張力に引 っ張 られて移動 し,
ドームの口を閉鎖 して しまう現象 とされている。壁孔閉鎖 を起 こさせ るためには, トールスを孔 口まで移
-
15
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動 させ るの に十分 な表面張力 を木材 中の液体が備 えていること,移動 で きるほ どメ ンブ レンが柔軟である
こと, メンブ レンとボーダーとが密着 した際離れない結合力があること,の 3つの条件が必要 となる。
したが って,晩材 のメンブ レンは早材 よ りも厚 くかつ ミクロフィブ リル も密 に存在 しているため,移動
させ る力 に対 して抵抗力が高 く閉鎖 を起 こしに くいのは前述 した通 りである。 また,水 をアルコールやア
セ トンで置換 して乾燥す ると, これ らの液体 の表面張力が水の半分以下であるため,閉鎖す るピットの割
合が低下す る。移動後の メンブ レンとボーダー との結合,す なわち水素結合 も壁孔 閉鎖の現象面では重要
で,木材 にアセチル化 な どの化学修飾 を施す と,水 を最終の蒸発液体 に して乾燥 して も閉鎖 した ピッ トの
数は急減す が
9。
しか し,通常の方法 によって木材 を水 か ら乾燥 した場合,ほとん どの ピットは閉鎖 していると考 えて よ
く, しか も乾燥状態 にある期間が長 いほ ど閉鎖 を解 くのはます ます困難 になって くる。心材 は辺材 よ りも
注入性が悪 いのは,心材物質の沈着 な ど心材化 に ともな う理由以外 に結合力が増加することも寄与 してい
ると考 えられる。
また,物質の沈着 による壁孔 閉鎖の状態が樹種 によって相違するほか,組織構造的な違 いの影響 も認め
られ る。す なわち, トールスが孔 口をふ さいだ壁孔 閉鎖 にあるベイマ ツとベ イツガの ピッ トを比べてみる
と,ベ イマ ツの場合 トールスはぴっち りと ドームに くっついているが,ベ イツガで は ドーム内側 の壁表面
にイボ状層が存在するため完全 なシール状態 にはなっていない。
2.3 ピッ トの形成
上述の ような構造 をもつ ピッ ト, とくにメンブ レンはどの ように して形成 されるのであろうか。
細胞が伸長成長 してい く過程でつ くられ る一次壁の形成が終 わる と,細胞 の形 は定 ま り続いて二次壁の
堆積 が始 まる。一次壁 の形成が終了 した段階で将来 ピッ トになる領域 はすでに円形 に区切 られてお り, し
か も中央の トールスとその周囲のマル ゴの区分がで きている。 さらにマルゴには放射状 に配列 した ミクロ
フ ィブ リルの存在 さえうかが うことがで きる。マル ゴの部分 は非セル ロース様物質で密 に充填 されている
が,充填物質 を化学的に除去 してみ ると,放射状 に並 んだ ミクロフィブ リル束 とそれに交差す る細い ミク
ロフィブ リルで構成 され,完成 されたメ ンブ レンと同等 の仕組 みを, この段 階ですでに認 めることがで き
る9)。 さらに トールスの部分では,ペ クチ ンが蓄積 されているのが認め られる。
マルゴにおける ミクロフィブ リル束の放射状配列 について は,か っては,元来網 目状配列 として形成 さ
れた ミクロフ ィブ リルが トールスの孔 口への移動 によ り引 っ張 られ,二次的に再配列 した もの と考 え られ
ていたことがある。 しか し,先程述べ た観察結果か らわかるように, トールスの移動が行 われ得 ない分化
段階ですでにマルゴに放射状 に配列 した ミクロフィブ リルがみ られる。 したが って この放射状配列 は,坐
きている細胞の壁形成機能に よって もた らされた ものであ り, ミクロフィブ リルの二次的再配列 によると
は考 えがたい。
この ように,細胞壁の形成段 階の きわめて初期 に,将来のバルブ機能 を果 たすべ く形態形成 を行 ってい
るo仮道管壁の ピッ トの領域 に トールス とそれか ら伸 びる放射状 の ミクロフ ィブ リルの形成が行 われ るの
は,木材細胞 に本来備 わった働 きと考 えられ,放射組織細胞 との間にあって,バルブによる閉鎖 とい う現
象の生 じない分野の ピットに もそれ を観察す ることがで きる。
その後, メ ンブ レンは複数のヘ ミセルロース成分で充填 されたまま,二次壁最内層の壁層形成が終了す
る段階 まで を経過 し,原形質が 自己分解 した後 は じめて除去 され,マルゴは網 目状の隙間構造 を呈す る (
図
6)。道管 な どの通導組織 において,細胞壁の形成直後 にまだ木化 していない壁部分 (
せん孔 など)で非セ
ルロース性 の多糖類が消失す るのは,植物細胞 に一般的にみ られる現象 とされているが, ピッ トの開孔現
象 もこの一つ と考 えられる10)0
- 1
6-
今村 :木材への液体注入
図 6 形成段階にあるアカマツの ピット (
有縁壁孔)のメンブ レン
A)および
(
マルゴの ミクロフィブ リルが充填 された段階 (
充填物質が分解 されている途上 (
B) を示す)
3 浸透性改良のための前処理技術
3. 1 生物的処理
(1)菌類 による処理
腐朽菌に木材が侵 されると,菌糸は木材細胞壁 を貫通 して内部- と侵入 し, とくにピッ トを縫 うように
細胞か ら細胞へ と伸 びていっている (
図 7)。隣の細胞へ侵入する際,細胞壁 に新たに穴 (
穿孔 -ボアホー
ルと呼ばれる) を開けるより,木材 に本来備 わった穴 を利用す る方が腐朽菌 にとって も格段 に有利 なので
あろう。 と くに辺材では仮道管壁孔 の トールスに存在す るリグニ ン量が少 ないためか,セルロースを主体
的に分解する褐色腐朽菌で も, トールスの真 ん中に穴 を開けた り,メ ンブ レン全体 を分解 して しまってい
ることが しば しば観察 される。
木材 を劣化 させずにピッ トを貫通す るような菌類があれば,強度 を下げないで浸透性 を向上 させ ること
がで きる。木材 の浸透性の向上に腐朽菌 を用いた研究は,腐朽力がそれほど強 くない変色菌の Tr
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c
ho
de
nna
を用いたのが最初であ り11),サザ ンパイ ンの辺材の浸透性が良 くなることが示 され,その後ベ イマ ツ,ス
プルースあるいはアスペ ンな どで試み られた12)。 しか し,Tr
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c
ho
de
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maだけを作用 させ た場合,浸透性改
良の効果 はそれほど認め られなかった。その理由はこの菌の場合,軸方向組織細胞- はあまり侵入せず,
放射組織細胞のみ貫通 してい くためにあるらしい。そこで,Tr
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maだけでな く,Gl
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や Ch
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um などの腐朽菌 を一緒 に木材 に作用 させ る研究 も行われた13)。
辺材部においては,メンブ レンはセルロース とペ クチ ンが主要な構成成分であ り,い くつかの樹種 にお
いてポ リフェノール類が存在す るとして も,一般的ではない。 しか し,心材 の仮道管相互間におけるピッ
トの トールスは,全般的にポ リフェノールを含みさらにリグニ ンも存在す ることが指摘 されている14)。 し
たがって,Phane
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um の ような リグニ ン分解菌 を用いると,心材 において も浸透性 が向上
するといわれている15)○ さらには,セルロースとポ リフェノールの両者 を分解で きる腐朽菌であればより
効率的であろうということで,心材への注入処理の前処理 として試み られたことがある16)。
もし的確 に ピットを攻撃で きる菌が見付かれば,胞子懸濁液に木材 を浸漬 して注入性向上の前処理 にす
ることも可能であ り, さらに心材など浸透性の悪い部分の処理 においては,あ らか じめ木材表面にインサ
ー 1
7-
木材研究 ・資料
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図 7 スギ材仮道管の ピットに選択的に侵入 した
腐朽菌系 (
オオウズラタケ)
イジングを施 しておいて,刺傷内部に胞子 を入れて処理時間の短縮 をはかることも考えられる-5)。
わが国で このような処理 を試みた例では,人為的に木材に腐朽菌 を接種 して木材組織 を侵 し,モ ノマー
の浸透 を促進 させてプラスチ ックとの複合体である WPC を調製 した試みがある17)。 しか し,腐朽菌 を採
用す る場合 は,処理の程度のコ ン トロールが難 しく, また一般的に注入性の困難な樹種あるいは部位 ほど
腐朽菌にとって も分解が容易でないことが多い。
(2)バクテ リアによる処理
薬液の浸透経路 になるピットの部分のみ生物的に分解 しようとい う試みは,長期 間水中に貯木 した木材
の乾燥性が向上 し,顕微鏡で観察 してみるとピットの部分にバ クテ リア (
細菌類)が集 まって穴 を開けて
いることか ら着 目された ものである18 22)。水中に漬けてあった木材では,細菌類は仮道管相互間の,ある
いは放射柔細胞 との間にある分野の ピットに集 まる傾向がある。細菌類 はそれ自身の力で移動する能力 を
それほどもっているわけではないが,水の木材中-の浸透にともなって細胞の中-, ピッ トの ところへ と
移動 してい くと考 えられている23)。
どの ような種類 の細菌が ピッ トの開口に関与 しているのか, どうい う様式で分解が進行するのか,最適
な活動条件 は何 か,などについて多 くの研究が行われて きた。マツについては Bac
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ブルースについては Bac
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um15)が, ピッ ト-の主要な攻撃細菌である
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iが分解細菌 として同
ことが報告 されている。 また,ある種 の針葉樹材 については,Cl
定 されている25)。 これ ら細菌類 の分解の作用 は,ア ミラーゼ,キシラナ-ゼ,ペクチナーゼ という酵素が
分泌 され る ことに よる と考 え られている2
6
)
。中林 らも長期 間貯木 した池 の水 か らPs
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udmno
nas l種 と
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us6種 を分離 し,乾燥性の促進や注入性の向上に有効的であったと報告 している (
図 8)23)。
細菌 によるピットの開口を考 える上で問題 となるのは,腐朽菌による場合 と同様,辺材の注入性向上に
は寄与す るが,心材では効果が発現 しに くい という点であろう。 シ トカスプルースの ように,辺材であっ
て も注入性 の悪い材ではこの手法で も有用であるが,一般的な実用性 という点では心材部分で も攻撃で き
る細菌でない と意味がない。細菌類 による処理で心材の注入性 を向上 させた とい う報告 もみ られるが27)I
もしこれが可能であ りしか も処理時間が比較的短縮で きれば,実用的方法 として興味深い。細菌類の木材
中への移動 に立木注入法 を適用 した中林 らの研究 も処理時間の短縮 をね らった もので,細菌類 を含んだ液
- 18 -
今村 :木材-の液体注入
図 8 水 中貯木 したスギ辺材の ピッ トメンブ レンにみ られる
バ クテ リア23)
を立木の根元か ら吸い上げさせ,その後伐採 して放置 した後,効果の発現 を期待 している23)0
細菌類の うち木材の分解に関係す るのは,主に真正細菌 と放線菌であ り,水中貯木材 におけるピッ トの
分解以外では経済的重要性 に乏 しかったため,木材保存の立場か らはあま り研究の対象にはならなかった。
しか し,近年,土中の細菌類 による木材劣化が注 目され,劣化形態の観察や菌株の分離実験が積極的に行
われるようになって きた28)。 ピットの分解以外 に, トンネリングバクテ リアの ように細胞壁の内腔側 か ら
穴 を開け,それが しば しばリグニ ンが高密度で沈着 している細胞間層 にまで及んでいるような特徴的な細
胞壁の分解様式が報告 されている29)。 しか し,単離細菌の単独での木材分解力 は一般的に弱 く, また,人
工培地による培養実験の成功例 も乏 しいことか ら細菌類 による木材成分の分解 についてはまだ十分解明さ
れていない30)0
(3)酵素処理
微生物 による分解 を人工的に発展 させ ようとして,各種の酵素処理 も試み られて きた31 35)。 とくに,ペ
クチナーゼで処理すると トールスの消失,ヘ ミセルラーゼでは トールスの部分的な分解が,セルラーゼで
はマルゴの ミクロフィブリルの喪失 と一部 トールスが崩壊するのが認め られる (
図 9) 。 もちろん,樹種 に
よって も酵素作用の受けやす さに相違があ り,前述 の水中貯木の場合 と同様 マツ属 の ものは比較的分解 さ
れやすいが,それに比べ て トウヒやツガのなかま,あるいはベイマツなどは酵素処理が困難であるとされ
ている。
ペクチナーゼ処理で トールスが分解 されるのは,先 に述べ たようにその部分がペ クチ ン質に富 んでいる
ためで,蒸煮処理の後に酵素で処理す るとさらに効率的であるといわれている。酵素処理 は ミクロ的 にみ
ると確かにメンブ レンの分解 に働いているが,効率性 とい う点か らは長い処理時間が要求 される上,最適
条件の設定が容易ではない。酵素 を複合的には働 かせた り,あるいは超音波 を作用 させて酵素の作用効果
を向上 させ る試み も行われているが
,寸法の大 きな試料の場合 はよ り困難である。 さらに,酵素処理が
4)
有効であるのは辺材だけであって,心材 にはその ままでは効果が小 さい。 これは,上述 したように心材化
にともなって リグニ ンやポ リフェノール類が トールスに沈着 し,酵素の作用が阻害 されるためで,なにが
しかの前処理 を施 さない と酵素の分解作用 は発現 ざれに くい。
この ような生物的な助 けを利用す る手段 は,学術面で は興味の深い ところであるが,現時点での実用化
とい う観点か らみる と,壁孔部分 を選択的かつ効率的に分解する …ピッ ト・イータ-" としての微生物が
兄い出されないか ぎり,汎用技術 として確立するのは困難 といわざるを得 ない。
- 1
9-
木材研究 ・資料
第3
1
号 (
1
99
5
)
図 9 ペ クチナーゼ処理 によ り分解 された トールス
3.2 化学的処理
従来,木材 の注入性向上 に化学的処理 を用 いる背景 にある原理 は, ピッ トに沈着 している物質 を抽 出す
ることと,化学的に分解 しようとい うことであろう。
心材部分 で注入効率が悪 くなる大 きな要 因は, ピットメ ンブ レンへ の心材成分の沈着であ り,溶剤 を用
いて これ らを溶か し出す試みが行 われて きた。 しか しなが ら,溶剤が高価 であること,処理 に長い時 間が
かかるとい うことか ら実用 とい う面では可能性 に乏 しか った。
また,WPC の製造 に際 して,抽出成分や充填物質 を取 り除 く方法 として,木材 をあ らか じめ漂 白剤 を含
んだ p
HI
O以上のカセ イソーダ水溶液 に常温で浸漬後,界面活性剤で処理 し, さらに中和 によってヤニ成
分 を除去 した うえで,モ ノマーを注入 して含浸率 を向上 させ る方法,界面活性剤溶液で木材 を煮沸 して樹
脂分 を抽出除去す る方法などが提案 されている17)。
化学 的に分解 しようとい う試みは,亜塩素酸 ソーダ,パ ルプ蒸解液,あるいはその他 の酸や塩基 を用い
て試 み られて きた。 しか し,いずれ も木材 自身の劣化 が付随 して生 じる結果 になっている。 したが って,
いかに木材の強度低下 を抑 えて,かつ ピッ トの部分 だけを分解す るかがポイン トとなる。3.
2%のオゾ ンを
含 む酸素 ガスを,ベ イスギ材 に繰 り返 して加圧注入す る と, メンブ レンや細胞内腔 に付着 した充填物質が
除去 され,浸透性が向上 した と報告 されている36)。 しか し, この処理 において も細胞壁その ものの劣化が
かな り激 しい ものになって しまう。
そのほか,酸 性下で鉄 を触媒 に して酸化反応 をおこさせ, メンブ レンを分解 しようとい う試みや37),加
熱 したアンモニウムオキサ レー トの液でペ クチ ンを分解除去す る実験が報告 されている38)0
3.3 物理的処理
(日 圧縮処理
前節 で述べ た浸透性の改良は,充填物質 を分解除去 し壁孔 閉鎖 を解放 しようとす るものであるが,一方
では, メンブ レンを物理的に破壊す ることによって,浸透性 を改良す る試み もある。
例 えば,生材 を厚 さの約 1
0%程度圧縮 し,乾燥 後注入す る と,庄締 しない材 の 2- 3倍 の吸収量がみ
られた といわれてい る39)。その理由は, トールスに庄蹄 に よって亀裂が入 り,通導 しやす くなったため と
推定 されている。 こういった取 り組みは, もともと木材乾燥 を容易 に行 うための前処理法 として検討 され
て きた もので,カバの生材 を一定の間隔 にセ ットしたローラーの間を通 して変形 を与 えると,高温の乾燥
スケジュールで も乾燥障害 な しに仕上 げるこ とがで きた とい う報告 もみ られる。 この理 由は,道管の壁孔
- 20 -
今村 :木材への液体注入
壁 に無数のス リッ トが形成 されたため,水の通導性が向上 したことに起 因するとい う。 しか し,1
5%の変
形 を付与 した場合で も,効果の出現 は樹種 によって も異な り,アマ ビリスモ ミやベ イツガ,ベイマツ (
コー
ス トタイプ)で は有効であったが, ロ ッジポールパ インやホワイ トスブルース,ベイマ ツ (
内陸タイプ)
ではそれ程で もなかった とされている40)。
ところで, ロータリー単板が各種の処理 に際 して, きわめて浸透 させやすい ことは しば しば体験 される
ところであるが,逆にこれを利用 して人為的に通導経路 となる "
裏割れ" を作 ることも考 えられて も良い
であろう。例 えば,新 しい木質材料のエ レメン トとして注 目されているゼファーの製造方法 も, この観点
か ら取 り上げて も興味あると考え られる。 しか し,細胞壁 に著 しい亀裂 を発生 させ,注入効率 を向上 させ
注入 ムラを改善する方法は,木材の強度低下 を引 き起 こすため,用途的には限定 された ものにならざるを
得ない。
最近,飯 田らは,マイクロ波加熱 した木材の圧縮変形 を利用 した液体注入法 を考案 している41・42)。すな
わち,飽水材 をサ ランラップで包み,マイクロ波 をそれに照射 して加熱 し,繊維軸 に横方向か ら圧縮変形
を与えて固定 し,ただちに注入液中に漬けて圧縮固定 を解除 し液の注入 を促進 させた (
図10)。注入性が向
上 した理由は,液中での変形復元力 と材内温度の急上昇 による水分移動 に ともな う液の吸引力,ならびに
壁孔部分のマイクロクラックの発生であると考察 している。水分非定常下の加熱では,永久変形な しに大
きな変形 を与えることがで き, これがこの手法の特徴 ある点であろ う。図11は,長 さの異 なるカラマ ツの
生材 をマイクロ波で加熱 し,40%の圧縮率 まで横圧縮 した後,その まま乾燥 し変形 を固定 したセ ット試験
体 を,一方は水中にその まま漬 けて吸水 させ,他方 は通常の方法で加圧注入 した結果である。 とくに加圧
注入の場合,無処理木材 の約 3倍近 くの注入量が達成 され, しか も試験体が長 くなって もほぼその値 は変
わ らなかった。 これは,木口か らだけでな く側面か らの浸透 も促進 された可能性 を示す もの と考 え られ,
注 目される点である。
なお,横圧縮 に際 して, ピットの部分が選択的に破壊 されるのは, この部分でセルロース ・ミクロフィ
ブ リルが特異な配向をしていることに起因 し,メンブレンお よび壁孔縁周辺 は細胞壁の変異点 として破壊
A) および圧縮処理 (
B) の後 に染色液 を加圧注入 した長 さ 1
図10 左 :無処理 (
m 材の中央付近の木口面の ようす
(
スギ心材)
右 :圧縮処理後 に水 を注入 して回復 させたスギ心材 の壁孔部分 (
メンブ レ
ンの破壊のようす)
43)
-
21 -
木材研究 ・資料
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9
5
)
_
4
_
_
_
_
_
_
I
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
+
_a
●
(
s
u
J
]6
q)欄Y想
\\
0
20
40
▲
60
80
試験体長 さ (
c
m)
図1
1 圧縮処理 したカラマツ心材への注入量42)
(
A :自由浸透,B :加圧注入)
現象 にかかわるため と考えられている。 しか し, ミクロな破壊様式 は負荷時の温度条件 によって も影響 を
受け,一定ではないという見解 もある44)0
(2)凍結処理
寒冷地の場合,生 きている樹木あるいは土場 に置かれた木材 は, しば しば凍結現象 を生 じて凍裂す るこ
とがある。乾燥の前処理法 として人為的に凍結処理 を施 してみると,その後の乾燥工程において木材の収
縮や落ち込みが減少すると指摘 されている45)。木材中の水分 を凍結 させ ると,氷 に変化することによる体
積膨張 と結晶成長 によって細胞壁が物理的影響 を受けるということであろう。
ベ イツガ材 を凍結 と融解の繰 り返 し状態に置 くと,壁孔閉鎖 した トールスが緩 んだ り, トールスが壁孔
口か ら移動 したようすが観察 された という46)。細胞壁が変形作用 を受ける原因は,細胞内腔 における氷の
形成であ り,凍結温度が低いほ どかつ繰 り返 しサ イクルが多いほどその作用は大 きいと考察 されている。
もちろん処理前の木材含水率 は高いほど効果的であるが, この報告では顕著 な影響 は木 口か らそれほ ど内
部にまでは及ばなかった としている。
(3)熟および蒸責 を利用 した処理
1
5
0-2
0
0℃の雰囲気下で,高含水率の木材 を加熱処理す ることによ り,浸透性が改良されるという研究
がある47)。 この報告 によれば,丸太の辺材 に近い心材では著 しく透過性が改善 されるが,樹心に近い心材
ではその効果は認め られなかった としている。改良効果 は,処理後半における材内での蒸気圧傾斜 による
道管内の樹脂様隔壁の軟化および破壊 によるもの と推定 されている。
一方,蒸煮処理 は,材温の上昇,高含水率域の脱水,含水率の均一化,多脂材か らの脱脂などを目的に,
乾燥効率 を上げるために行われているが48), これが木材の浸透性向上の処理法 として も有効 なのは以前か
ら指摘 されて きた。蒸煮処理 によって,放射柔組織 の細胞壁が内部に落ち込み,その結果細胞間道が数多
く形成 され,浸透性向上に寄与 した という報告 もみ られる49)。沢辺は,耐圧容器内で1
0
0-1
5
0℃の雰囲気
でベ イマツ, カラマツとい う難注入性木材の生材 を蒸煮処理 したところ,乾燥の促進 と注入性の向上が認
め られたが,ある程度の変色や強度劣化 は避けられなかったとしている50)。
また,最近,スチームインジェクションが厚物ボー ドの製造に試み られ,ボー ド内部 を短時間で高温に
して接着製板す る技術が開発 されている。 この高温蒸気噴射 は,木材組成 にも変化 をもたらし,浸透性の
向上 にも寄与す るのではとい うことで関心が払 われている。水蒸気処理による木材構成成分-の影響 は,
)
。生材 をステー ミ
リグニ ンおよびヘ ミセルロースの低分子化 とセルロースか らの分離 と推定 されている51
ングすると,乾燥速度が向上す るといわれているが,これは壁孔閉鎖が減少する とともに,ある種の沈着
成分 も除去 されるため と考 えられている。 しか し,一定の樹種のみ効果が現れるという報告 もあ り, また,
12
2-
今村 :木材への液体注入
蒸煮温度,木材の初期含水率,比重などに支配 されるところも大 きい と考 えられる。
加熱水蒸気処理 によるピット部分の軟化 と圧力差 による破壊 を利用 して,浸透性 の改善 を目的 として考
案 されたのが低圧水蒸気爆砕処理で,長時間加熱 による材質劣化 を抑制す るために,加熱水蒸気 による短
時間の加熱の後,瞬間的に大気圧 に戻 し,その際の圧力差 を壁孔破壊 に繰 り返 し利用 しようとした もので
ある。 これ らの処理法では,短時間で行 えるほか,熱源 として木材工業では常設のボイラーが利用で きる
長所 や,薬剤注入 と同一の圧力容器 を共用で きる可能性があるが,莫大材では材内のばらつ きに留意すべ
きであると指摘 されている52)0
2I
以上述べて きた,浸透性 向上のための生物的,化学的,物理的処理にかかわる因子 を取 りまとめて図1
に示 した。
3.4 刺傷処理
(1)従来型 インサイジングの改良
0
0-1
0,
0
0
0
倍 にも達する. したが って,浸透 しやすい小 さ
一般的に繊維方向 と他の方向の浸透性の比は1
な木 口面 を人工的に木材の表面に作 って浸透促進 させ るの も一つの手段であろう。 この考 え方か ら実用的
に用い られているのが,インサ イジング加工である。
従来のイ ンサ イジングは,円筒系の ドラムにナイフ型あるいはノ ミ型の刃 をセ ットし, この ドラムを上
下 と左右 に取 り付 け, この中に角材 を通 して 1m2あた り3,
0
0
0-5,
0
0
0
個 の刺傷 を,ち どり型あるいは並列
に施すローラー型イ ンサ イジングである。 また,丸太の加工用 にはデ ィスクタイプのインサ イジ ング機械
も開発 されている。
インサイジングによる浸潤領域 は,刃物の形状や圧入深 さによって変化するが,幅6.
5
m
m,厚 さ 1m
mの刃
物でロ ッジポールパ イン材 にインサ イジングを行 った場合では,一つの刃物あた り幅 1.
7
m
m,
軸方向長 さ20mm
であったという。
刃型の改良や木材の繊維 に対する刺傷方向を工夫す ることによって浸透長が改善 されることか ら, イン
サイジングの密度分布 を低下 させ るなどの検討 も行われている。刃物 を用いる従来型のインサ イジングに
再検討 を加 え,繊維方向に刃物 を傾斜 させてインサ イジ ングを行 う方法は,軸方向に一定の角度で傾斜 さ
せて刺傷 し,一つの刃物が切断する繊維切断幅 を広げて浸透効果 を向上 させ ようという方法である。中村
0-4
5度が最適である
の研究によると,刃物の庄入力や薬液の浸透効果 を考慮 した場合,刃先の傾斜角 は3
としている53)o送材方式や刃物の特性 など検討すべ き課題 は残 されているが,強度 と表面性状の低下 を抑
2 ピット攻撃の戦略
図1
-2
3-
木材研究 ・資料
第3
1
号 (
1
9
9
5
)
え られれば実用化 の待 たれる手法であろ う。
しか し,従 来型の イ ンサ イジ ング方法 は,比較的堅牢で安価 である半面,木材表面 にか な り明瞭 な刺傷
の跡がつ き,外観 的 に もまた強度低下へ の配慮 か らも新 しい改良方式の開発が望 まれて きた54)。
(2)針式 インサ イジング
イ ンサ イジ ングの新 しい手法 として,刺針 イ ンサ イジ ングや レーザ光 イ ンサ イジ ング等 の技術 開発が,
難注入材であ るスブルースな どの蓄積 の大 きいカナ ダで研究が進め られ, その後 同様 な問題 を抱 えるヨー
.
6
m
m
位の
ロ ッパ諸 国やわが国で も関心が払 われて きた55)。試 み られてい る刺針 インサ イジ ングは,直径 0
2あた り1
0,
0
0
0-3
0,
0
0
0の密度で刺針 を施 した もので,外観 的にはほ とん ど目立 たない。
針 を用 い, 1m
直径 0.
6
8
m
mの針 をスプルース材 に深 さ9.
5
m
mまで差 し込 み,CCA防腐剤 を加圧 注入 した場合 の浸潤領域
mの位置で幅2.
5
m
m,軸方向 1
4
m
mであ った。浸透領域 と組織破壊度の比較 を顕微鏡 的に行
は,材表 面か ら 9m
うと,刃物 イ ンサ イジ ングに比べ刺針 で は,強度低 下 を低 く抑 えてかつ満足 すべ き浸潤度が得 られた と報
告 されてい る56)。現在実用化 に向けて機械装置 の開発 が進め られ,針の堅牢性,刺針機構 (
例 えば, 1本
ずつ独立 した針 を使用 し,節 な どに当たった場合 は逃げ られる構造 にす るな ど),材の送 り速度,価格 など
の点 について検討 が加 えられている。
(3) レーザ インサ イジング
9
8
1
年 スイスで始 まったが, その後 カナ ダで炭酸 ガス レーザ装置 を
レーザ光 イ ンサ イジ ングの研究 は,1
2%の ベ イマ ツで ,1
0
m
m穿孔 す るの に必 要 な レーザ照射 条件 は
用 い た研 究 が進 め られた57,58)。含 水 率 1
1
2
5
W -0.
0
3
秒 ,4
2
m
m材 を打 ち抜 くには2
5
0
W -0.
8
秒 のエ ネルギー ・照射パ ル ス条件が必要 とい う結果が
,
3
0
0
W レーザ を用 いた別の研究で は,1
5
m
m
穿孔す るのには0.
0
0
8-0.
0
1
秒 で十分
報告 されている。 また,1
であ り, この際の木材表面 の傷 の大 きさは直径 0.
8
m
m
程度である とい う。
レーザ光 を用 いた穿孔で は投射 され るシ ングル ビームによるため,それに適 した木材表面での刺傷パ ター
ンが工夫 されている。例 えば,一定方 向 に供試材 を送 りなが ら,ジグザ グパ ター ンになるよう材幅の半分
ずつ ビーム照射 して,浸潤領域 としては全面 を覆 うよう考案 されたパ ター ンである57)0
わが国で も東京農工 大学の服部 らが精 力的 に研究 を進めてお り,木材 (
ベ イツガ,ベ イマ ツ) に照射す
0
" レンズの焦点位置の条件で,1,
7
0
0
W -0.
2
秒 照射で直径 3
.
5
m
mで深 さ1
0
0
m
mの貫通穴が,
る実験 で は,2
3
2
0
W -1秒照射で直径 1.
5
n
l
mで深 さ5
0
m
mの穴が開いた としてい る。 また,かれ らの研究 による と,横断面
でみた繊維方向の浸潤長 は,機械 インサ イジ ングの場合 と同程度かそれ以上であ った としている59)。ただ,
通常 の加圧 注入 を行 った場合で も,繊維 に直角方向で は数 ミリに しか達 しないため,穴 自身の大 きさ も浸
潤幅 に大 き く影響す ると指摘 している (
図1
3
)。
先の Kropfの研 究 において は,集成材用の ラ ミナの側面 に深 さ1
5
m
mの穴 を開 けて も, 曲げ強度 の低 下 は
ラ ミナの段 階で 1
5-2
0%,集成 後では 5-1
0%に とどまるとしてい る。一方,服部 らの部分圧縮強度試験
2を超 える と強度低下が明 らかに認 め られ, イ ンサ イ
の結果 において は, インサ イジ ング密度が 4万個 /m
ジ ング面 に加圧す るよ り側面 に力 をかける方がやや強度低下が大 きか った と報告 してい 8 59).
レーザ イ ンサ イジ ングの最大 の特徴 は,機械 インサ イジ ングに比べ て穴の直径 の5
0
倍程度 と, はるかに
深 くインサ イジ ングで きる点 にあるが,材料表面 に茶褐色 の こげ跡がで き切削 して も消 えないため,表面
の美観が問 われ る用途 においては,部材 の見付 け面以外 に加工す るな どの工夫 が必要 であ ろ う。 また,機
械 の物理的損傷 が少 な く,非接触で穿孔で きるこ とも特徴 であ るが, この こ とか ら機械 イ ンサ イジ ングが
困難 な丸太 の加工 に適用 され十分 な薬剤浸透性 も達成 されている60)o
現在,服部 らは レーザ インサ イジ ングを通常 の防腐薬剤 の注入 に応用す る以外 に,アセチル化 やホルマー
ル化 な どの液相 あ るい は気相 の化学修飾処理 に展開 した り, さ らには,部材 の表面層 な ど限 られた箇所)
0
の樹脂注入 な どへ試みている61
(4)その他
-
24 -
今村 :木材-の液体注入
3 レーザ によるインサ イジ ング状況 (
左 :出力 1,
5
00W ,
パ ルス幅400ms
)と
図1
穴密度 を変えたインサ イジング例 (
右)(
服部順昭氏提供)
上述 した以外の方法 としては,木質材料の切断な ど一部の木材加工 にすで に応用 されている高圧水流に
よる切断技術 をインサイジングに利用 しようとす る, ウオーター ・ジェ ット・インサイジ ングがある。水
の代 わ りに注入 しようとする薬液 を用いれば,木材表面 に細かい傷 をつけて同時に薬液注入がで きる可能
性がある6
2
,
6
3
)
。 この方法が成功する と,密閉タンクは必要 とせず,連続的に処理がで きるほか,木材の一
部だけに薬剤 を注入す ることも可能であるなど他 の方法にはない利点 を有 している。 この高圧噴射 インサ
イジ ングは, まだ実験的段階であるが,材表面の損傷 を防 ぐため,金属デ ィスクを通 した り,あるいは木
材 を防腐剤の液中に沈めて噴射することによりかな りの浸潤度が得 られる ともいわれている。 しか し樹種
による影響や圧力条件 などまだ検討の余地が多い。
また,井上 らは,木材の方向によって浸透性が著 しく異なることを利用 して,1
5
c
mのインターバルで所
定深 さに溝 を加工 し,表面か ら一定深 さだけ水 を注入 して希望の水分傾斜 を与え,木材表面層 のみを圧密
化することに成功 している64)。 これなどは,木材の浸透現象 をうまく使 ったユニークな発想であろう。
4.処理エ レメン トの棲小化
薬液の注入処理 に際 し,処理対象 となる木材の寸法 を小 さくすることは,上述の各種技術 とは発想 を全
く異 にする ものの, 目的 とするところにおいて共通す る点がある。す なわち,寸法の小 さいエ レメン トを
処理対象にする場合,処理液の注入や反応後の液の回収が容易であ り,かつ反応 を均一に行 うことがで き
る。 また,化学処理 においては反応の前後で木材 を乾燥することが多いが,エ レメ ン トが小 さい とこれ も
また容易であ り, さらに含浸 ・処理 ・乾燥工程 を連続 したシステムに組 むことが可能 となる65)。
エ レメン トを小 さくして処理 を行 い,性能 を付与する手段が最大に適用で きるのは木質材料であろう。
最近,大断面集成材が大型建造物や橋梁の構造部材 として使用 されることが増 えて きたが,高い耐久性 を
与 えるため内部 まで防腐処理する必要がある場合,あ らか じめ ラミナに薬剤 を含浸処理 してお き積層する
ことが行われる (
図1
4)。集成材のラミナで も厚 さ的に十分な含浸がで きない場合 はインサ イジングが援用
されるが,エ レメン トの厚 さが より薄 くなった LVLの単板では含浸処理が容易 となる。単板の場合 は裏割
-2
5-
木材研究 ・資料
第31
号 (
1
995
)
図1
4 防腐剤 (
AÅc)を加圧注入 した ヒノキ ラ ミナ を積層 した
集成材 をアーチ材 に用いた木造一等橋 (
奈良県黒滝村,
粟飯戸橋,宮武 敦氏提供)
れが液体の浸透 をさらに助長す ることになる。
しか し,エ レメン トの処理で留意 しなければならないのは,含浸 した薬剤 のその後の接着性への影響で
ある。一般的に有機系の薬剤 に比べて無機系のそれは接着阻害 を引 き起 こす ことが多い といわれている66)。
パ ーテ ィクルやフ ァイバーな ど,エ レメ ン トの寸法が よ り小 さ くなれば,浸透 は さらに容易 になる。図
1
5は,梶 田によ り提案 された低分子 フェノール樹脂 を含浸 して,耐水強度 と寸法安定性 を向上 させ,かつ
生物劣化 に も抵抗性 を備 えた,高性 能パ ーテ ィクルボー ドを製造す る新 しいシステ ムを示 した ものであ
る67)0 Aはパ ーテ ィクルの樹脂水溶液中への浸漬処理 ,Bはスプ レーによる吹 き付 け処理 ,Cは接着剤 中
に低分子量の樹脂 を混合 して一緒 に噴霧す る処理であ る。Cはいわば防腐薬剤の接着剤混合法 と対比で き
る方法で,含浸用樹脂 だけ木材 中-浸透 させ ようとす る ものであ る。いずれの方法 に よって も,高い性能
がボー ドに付与で きた としている。
5.注入方法
木材への液体注入性向上において, もう一つ重要 なのは注入方法の工夫であろ う。 この総説 の主 旨が浸
透性 向上のための木材 の前処理技術 にあ るため,注入方法について は概 略に とどめるが,主 に防腐 ・防虫
に関連す る分野で行われて きた技術 を中心 に して述べてい くことにする。
従来の加圧注入法は,いわゆる古典的方式 であ るベセル, 1
)ユー ビング, ロー リーとい う減圧,加圧条
件の組み合 わせ によって分類 される注入法 を継承 して適用 し,処理薬剤の種類,処理木材の用途,樹種 に
よって使い分 けが行われて きている。 しか し,処理時間の短縮や処理性 あるいは薬剤の均一 な浸透 とい う
点では改善が求め られている。
改良型注入方法の一つである複式真空処理法 は,
真空 に して木材 に薬液 を十分吸収 させた後,薬液 を戻 し,
8)0
さらにその後再 び真空 に して過剰の液 を木材か ら回収する方法で,吸収量 を調節す ることがで きる6
乾式処理 (
溶媒回収処理法) において は,薬剤 を含 んだ非水系 の溶媒が木材 中に注入 されるが,次 の段
階 として溶媒のみ回収 される。 このため処理後の乾燥工程が省 け, したが って水分移動 に伴 う寸法変化が
引 き起 こされることがな く,最終製品での処理が可能 となるばか りでな く,木材への浸透性 もかな り良い。
従来検討 されて きた使用溶剤 別の タイプには,液化 ガスによる方法 とメチ レンクロライ ドを用いる もの
があ る。前者 はセ ロン法あるいは ドリロ ン法 といわれ るもので,通常 の温度,圧力条件下ではガス状 であ
るが,加圧下では液状 になる液化 ガスをキ ャリアー として用いる。 メチ レンクロライ ド等 を使用溶媒 とす
-
26
-
今村 :木材への液体注入
5 フェノール樹脂処理パーテ ィクルボー ドの製造工程スキーム67)
図1
(*は低分子樹脂の含浸工程)
る方法はクリーン法 ともいわれ,加圧 して防腐剤 を含んだ溶媒 を木材 中に注入 した後,蒸気あるいは加熱
空気 を吹 き込んで溶媒 を回収す る方法である。
7年 に初 めての処理装置が完成 し,その後実用 レベルでの工場生産が開始 されてい
わが国で は,昭和 5
る69)。木材 は気乾状態あるいは含水率 を4
0%以下に して注薬缶 に収容 され,注入は従来の方法 とおな じで,
通常減圧で行 うが必要があれば加圧 を併用す る。溶媒の回収は,凝縮法,圧縮法,活性炭素吸着法な どの
手法で行われる。 この処理に用い られる薬剤 は特 に限定 される ものでな く,使用溶媒 との相溶性 と目的に
合わせて選択 される。 また,溶媒は,毒性が低いこと,薬剤注入後の回収率が高い こと,薬剤 を所定量溶
解で きること,引火 ・燃焼性が きわめて低い こと等の条件 を満たす必要がある。か って使用 されたフ レオ
ンはコン トロール しやすい溶媒であるが,オゾンの破壊作用があるため使用 には問題がある。それに代わ
り,北海道林産試験場等では塩素あるいはフッ素系溶媒である トリクロルエ タン, トリクロロモノフルオ
ロメタン等が検討 されたことがある70)0
加減圧交替法,OSPあるいは OPM と呼ばれるこの方法は,加圧 と減圧 を交互に繰 り返す ことによって,
生材で も乾燥材 で も内部深 くまで処理液 を浸透 させ ようとい う方法である。すなわち,常圧 で リテ ンシ ョ
ンタイムをとらないのが この方法の特徴 で,加圧か ら減圧,減圧 か ら加圧-の操作 を数回あるいは数百回
繰 り返す (
図1
6)。 また,ニュージーラン ドでは,加圧 と大気圧 とのサ イクル繰 り返 し法 を開発 し,APM
と呼んでいる。
いずれにせ よ,この方法の利点 は,難注入性で断面の大 きな木材の処理 を可能にするとい う点 よりむ し
ろ,生材の処理がで きるというところにあるが,スブルースへの CCA防腐剤の注入 においては,最適な処
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0%であった という72)。
理性 を得 る木材含水率は1
最近,加減圧交替法による注入処理 に,高圧力 を作用 させ る試みが行われている。す なわち,通常 の加
圧注入では1
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以上の力 をかけると,木部組織 にコラップスが生 じることが多いが,サ イクル毎 に圧
力 を上昇 させた り,高圧力で も単位時間あた りのサイクル数 をふや して, コラップスを防いでかつ注入量
を増加 させ ることがで きた と報告 されている73)0
ところで本来,樹木における樹液の蒸散量 は莫大な量で,夏では 1日に数百 リッ トル以上の樹液が根か
ら葉へ移動するといわれている。 この現象 を利用 して,伐採直後の丸太の元 口にキ ャップを固着 して薬液
を注入す る樹液交替法は前世紀か ら行 われて きた。いわゆるブ ッシェリー法である。長い丸太の処理が可
能な方法であるが,キャップの装填に手間を要 した り,注入に時間がかか りす ぎるのが欠点であった。最
- 27 -
木材研究 ・資料
A
第3
1
号 (
1
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)
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図1
6 0PM における圧力チ ャー ト71)
(
減圧加圧 の保持時 間が 0秒 (
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B)
お よび通常 のベセ ル法 (
C))
7 元 口浸せ き法 (
左) ならびに穿孔法 (
右) による立木注入のようす
図1
(
飯 田生穂氏提供)
近,立木注入が染色 を目的に熱心 に取 り組 まれている74)。 この場合,樹種 に よって染色 される領域あ るい
はパ ター ンが特異的であ り,針葉樹 は大体辺材部のみが染色 されるが,広葉樹では辺材部 だけ染 まる もの
や,辺材部だけで な く心材部 も染色 される もの,縞状 になる ものなど変化 に富んでお り,工芸材料 として
関心が もたれている。
6.あ わ りに
木材 の複合化処理に付 随 して必要 な工程 となる含浸処理 に関連 して・浸透経路 となる ピッ トの構造 と浸
透性 向上 に試み られている手法 を前処理技術 を中心 に概観 して きた。 もちろん,すべての方策 について拾
いあげた もので はな く, ここで言及 していない ものの中には,今後の技術 開発 に有力な可能性 を秘めてい
る もの もあろう。
また,浸透促進剤 の添加 など注入剤の修飾技術や含浸度評価技術 もこれに関連 した もの として重要 にな
- 28 -
今村 :木材-の液体注入
ろう。特 に後者 は,供試木材の表面か らどの程度内部 まで入 っているか とい うマ クロな評価 と,細胞 ある
いは細胞壁の段階での分布 を分析す る ミクロな評価 とに分かれるが,処理 レベルの設定 と製品の品質管理
の上ばか りでな く,性能発現の しくみの面か らも大切 な点である。
浸透や注入の問題は,木材研究の古 くて新 しい代表的な課題であ り,複合化処理の技術 開発 にはきわめ
てかかわ りの深 い命題である。それぞれの研究の立場か らの積極的な取 り組みが行 われ,画期的な進歩が
達成で きるよう期待 したい。
文
献
1)"
木材保存学入門"-㈱ 日本木材保存協会編 ,1
992年 より抜粋
2)原田 浩,今村祐嗣 :電子顕微鏡 ,1
3,41 (
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4) 大越 誠 :京都大学学位論文 (
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6)小林好紀 :京都大学学位論文 (
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7)野橋健三 :木材工業,42,402 (
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28) 長島陽子,福 田清春,原口隆英 :木材学会誌 ,34,1
22,1
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86)
29) 高橋 旨象 :木材研究 ・資料 ,No.
4,6
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4) 中戸莞二 :昭和 5
9年度文部省科学研究費補助金成果報告書 (
5
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985
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1
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35) 大越 誠,徳田 充,佐道 健 :木材学会誌 ,33,3
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木材研究 ・資料
第31
号 (
1
995
)
41
)飯 田生穂,高山知香子,馴 1 修,今村祐嗣 :木材学会誌 ,38,233 (
1
992)
42) 飯田生穂,今村祐嗣,柏 直樹,中村嘉明 :木材保存 ,1
8,31 (
1
992)
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47) 金川 靖,奥山 剛,服部芳明 :木材学会誌 ,3
48) 寺沢 真,小林柘治郎 :木材工業,29,327 (
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0) 沢辺 攻 :日本木材学会生物劣化研究会 シンポジウム要 旨集 ,p.
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)棚橋光彦 :日本木材学会 レオロジー講演会要 旨集,p.
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2) 金川 靖 :木材工業 ,48,21
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53) 中村嘉明 :木材学会誌 ,34,61
4,71 (
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4)柏崎清作 :木材保存 ,1
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59) 喜多 山 繁 : "レーザ イ ンサ イジ ング法 の開発"
,平成 4年度文部省科学研究費補助金成果報告書
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1
99
4)
60)服部順昭,安藤恵介,喜多山 繁,中村嘉明 :木材学会誌 ,40,1
440 (
1
995
)
61
) 安藤恵介ほか :第40回 日本木材学会年次大会要 旨集 ,p.
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89)
65) 今村祐嗣 :木材工業 ,44,63
66) 中村嘉明 :第 8回 日本木材加工技術協会年次大会講演要 旨集 ,p.
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67)梶 田 畢 :木材学会誌 ,35,406 (
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985
)
69) 岩崎克己 :木材保存 ,26,6
70) 土居修一ほか : "
木製開口部材の防腐処理技術の開発",中企庁技術開発補助事業テキス ト,1
987
6,2
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1
990)
71
) 井上 衛 :木材保存 ,1
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988)
7
4)飯田生穂 :木材保存 ,1
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