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複合的水質監視装置の開発とナミウズムシの生態

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複合的水質監視装置の開発とナミウズムシの生態
①
2016 日本ストックホルム青少年水大賞申請書
1.調査研究の標題
フリガナ
フクゴウテキスイシツカンシソウチノカイハツトナミウズムシノセイタイ
表題名
複合的水質監視装置の開発とナミウズムシの生態
2.学校名
フリガナ
ヤマグチケンリツヤマグチコウトウガッコウ
学校名
山口県立山口高等学校
3.学校の郵便番号・住所・電話番号・FAX番号・E-mail
フリガナ
住
所
ヤマグチケンヤマグチシ 1 チョウメ 9 バン 1 ゴウ
〒753-8508
山口県山口市糸米 1 丁目 9 番 1 号
電話番号
FAX番号
E-mail
4.指導教諭名、電話番号
フリガナ
コダマ
イチロウ
氏
児玉
伊智郎
名
連絡電話番号
5.応募者の団体名及び代表者の氏名・住所・生年月日・性別等
フリガナ
ヤマグチケンリツヤマグチコウトウガッコウ
団体名
山口県立山口高等学校
フリガナ
ハマダ
ナオキ
名
濵田
尚輝
フリガナ
マツモト
キュウヤ
名
松本
久也
フリガナ
ハラダ
カナメ
名
原田
要
前
カガク・セイブツブ
化学・生物部
生年月日
年
月
性別
日
男・女
フリガナ
住
所
前
生年月日
年
月
性別
日
男・女
フリガナ
住
所
前
フリガナ
住
所
生年月日
年
月
性別
日
男・女
6.応募者の履歴と将来の志望
7.応募団体の過去の受賞暦
2010年(平成22年)
・第 18 回衛星設計コンテスト(主催:日本宇宙フォーラム他)
「宇宙水族館」
ジュニア部門賞(高校部門
1位)
2011年(平成23年)
・第 19 回衛星設計コンテスト(主催:日本宇宙フォーラム他)
「ヒドラの重力走性」ジュニア大賞(高校部門
1位)
・第8回 中高生南極北極科学コンテスト(主催:国立極地研究所)
「どこでも簡単ストレス検査」優秀賞
2012年(平成24年)
・第 20 回衛星設計コンテスト(主催:日本宇宙フォーラム他)
「コバンザメロボット」ジュニア大賞(高校部門
「スペースリーフ」
1位)
宇宙科学振興会賞
・JSEC2012(主催:朝日新聞社・テレビ朝日)
「オヤニラミの闘争行動を引き起こす刺激」テレビ朝日特別奨励賞
2013年(平成25年)
・JSEC2013(主催:朝日新聞社・テレビ朝日)
「プラナリアを用いた水質監視装置の開発」優等賞
・第 21 回衛星設計コンテスト(主催:日本宇宙フォーラム他)
「重力から解き放たれた宇宙での思考」日本宇宙フォーラム賞
・第 10 回中高生南極北極科学コンテスト(主催:国立極地研究所)
「極域の海に生息する生物の会話」南極科学賞(全国1位相当)
・第7回動物実験代替法チャレンジコンテスト(主催:日本動物実験代替法学会)
「プラナリアのクローン個体を用いた医薬品検査」
優秀賞
2014年(平成26年)
・第 22 回衛星設計コンテスト(主催:日本宇宙フォーラム他)
「プラナリアを用いたバイオアッセイ」日本宇宙フォーラム賞
・第 11 回南極北極科学コンテスト(主催:国立極地研究所)
「極域の海水に溶解している二酸化炭素の計測」優秀賞
・第8回動物実験代替法チャレンジコンテスト(主催:日本動物実験代替法学会)
「ナミウズムシを用いた水質モニタリングシステム」最優秀賞
・JSEC2014(主催:朝日新聞社・テレビ朝日)、花王特別奨励賞
「緑色のナミウズムシの生態 」
②調査研究報告書
表紙
複合的水質監視装置の開発と
ナミウズムシの生態
濵田 尚輝・松本 久也・原田 要
山口県立山口高等学校
化学・生物部
前付
(a) 要旨
生物の授業で、オオカナダモの細胞質流動を観察した。ダイナミックな葉緑体の運動
を実際に見て、大きな感銘を受けた。生きている細胞でしか起こらないこの運動を何か
に応用できないかと考えていた時、本校の卒業生の研究「プラナリアを用いた水質監視
装置の開発」と結びついた。オカナダモの細胞質流動の観察を中核として、現行の水質
監視の問題点を改善した新しい水質監視装置の提案を目指した。
オオカナダモ・ナミウズムシ・オオミジンコを対象として、光走性などの行動特性や
毒性物質に対する耐性について調べた。なお、生物に苦痛を与えることを極力避け、耐
性の違いを活かして毒性物質の種類や量を推定できる水質監視システムとなるよう配慮
した。今回開発した水質監視装置では、脊椎動物を用いない方法への改善を試みている。
また、生物量調査を行い、ナミウズムシの個体数や体長が、採取した時期や場所で多
様であることに気が付いた。生物量調査を継続的に行い採集データを多角的に考察した
ところ、トビケラ類の個体数とナミウズムシの個体数に相関関係が見られることが分
かった。
将来的には、世界中の国々で安全な水を確保するための水質監視装置に、私たちが開
発した装置が貢献することを期待している。
(b) 目次
要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第一部
細胞質流動の監視を中核とした水質監視装置の開発
Ⅰ 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅱ 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅲ 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅳ 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
Ⅴ まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
Ⅵ 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
Ⅶ 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第二部
ナミウズムシの生息状況と河川の生態環境の関係
Ⅰ 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Ⅱ 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Ⅲ 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Ⅳ 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
Ⅴ まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
Ⅵ 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(c) 報告書で使用する略号及び頭字語
使用していません。
(d) 謝辞
細胞質流動については首都大学東京の門田明雄先生(オオカナダモの細胞質流動の観察
方法などについてご指導を賜りました。)、オオミジンコについては国立環境研究所の鑪迫
典久先生(実験方法や飼育、毒性試験の方法などについてご指導を賜りました。)、ナミウ
ズムシについては京都大学の井上武先生(実験方法やデータの解析などについてご指導を
賜りました。)。画像解析については山口大学の水上嘉樹先生(自作したプログラムの改善
方法についてご指導を賜りました。)、実験計画については山口大学の堀学先生から御指導
を賜りました。なお、研究費は JST「中高生の科学部活動振興プログラム」による支援を受け
ています。また、実験で使用したオオミジンコは、国立環境研究所水環境実験施設で継代
飼育されている系統を分譲していただいたものです。ナミウズムシは、京都大学 井上武 先
生から分譲していただきました。皆様のご支援に心から感謝いたします。
第一部
Ⅰ
細胞質流動の監視を中核とした水質監視装置の開発
序論
生物の授業で、オオカナダモ(Egeria densa)の細胞質流動(原形質流動)を観察した。オ
オカナダモの葉は2層の細胞からなっていて非常に薄く、細胞質の流動によって葉緑体が大
きく移動するため、理科の授業に取り上げられることが多い1)。葉緑体のダイナミックな運
動を目の当たりにして、大きな感銘を受けた。また、細胞質流動は生きた細胞でしか起こ
らないことを知った。細胞質流動は植物にとっては心拍のようなものだと感じ、これを何
かに利用できないかと考えた。そんな時、本校の卒業生が中心となって研究していた「プ
ラナリアを用いた水質監視装置の開発」2)3)と結びついた。
現在、水の安全性を検査する方法としては、メダカを用いた水質の連続監視4)のほか、数
日間の藻類の増殖から判断する方法やミジンコの遊泳阻害を目視で判断する方法などがあ
る 5) 。メダカを用いる方法については、動物実験の適切な施行の国際原則である3Rs
(Replacement、Reduction、Refinement)6)に則して考えると、無脊椎動物へ変更すること
が望ましい。また、ミジンコや藻類を用いた試験は人手に頼ることが多く、費用や労力を
要する。これら既存の試験をオオカナダモの細胞質流動の観察による水質監視に置き換え
ることができれば、3Rsを遵守した新たな機構の水質監視装置を開発することができると
考えた。ただし、植物の反応のみで毒物を検出すると、動物のみに有害な物質を検出でき
ない可能性が危惧される。そこで、オオカナダモを中核としつつ食物連鎖の過程も考慮し
て、植物食性動物としてオオミジンコ(Daphnia magna)、動物食性動物としてナミウズムシ
(Dugesia japonica)を生物検定の対象として加えることにした。
Ⅱ
研究の目的
オオカナダモの細胞質流動のモニタリングを中核とし、コンピュータで監視することで
労力やランニングコストを低減できる水質監視装置を開発することを目的とした。3Rsを
遵守した実用性の高い装置を製作することで世界中の人々に利用していただき、安全な飲
用水を提供する一助としたいと考えた。
Ⅲ
材料と方法
1. 生物材料の入手と管理
(1) オオカナダモ(Egeria densa)
クロモが混在せず、カナダモのみが群生する萩市の阿武川下流域で採取した。脱塩素
した水道水を入れた水槽(W60cm×H36cm×D30cm、水深25cm)にカナダモを入れ、照明(平
均光量子80μmol/m2・s)を常に当てた状態で、室温にて栽培した。1週間に1回、複合肥料
(株式会社ハイポネックスジャパン、6-10-5)を1000倍に希釈して与えた。また、水質
の悪化を防ぐため1か月に1回、飼育水を半量入れ替えた。
(2) オオミジンコ(Daphnia magna)
NBRPから分譲していただいた。カルキ抜き(テトラ社、コントラコロライン)で脱塩
素した水道水を水槽(W30cm×H17cm×D16cm、水深10cm)に注ぎ、20℃に設定したインキュ
ベータ(SHIMADZU,BITEC-300L)内で、明暗サイクル14:10(照明2270lux)で飼育した。
別水槽(W25cm×H30cm×D25cm)で飼育した緑藻(セネデスムス属やアナベナ属)を1日1
回、飼育水が薄く緑色を呈する濃度で与えた。1週間に1回水を換え、脱皮した殻を除去
した。
(3)
ナミウズムシ(Dugesia japonica)
行動の実験には京都大学 井上 武 先生から分譲していただいた株を、毒性試験には山
口市錦川で採集した個体群を用いた。飼育水に人工海水(株式会社ジャパンバイオケミ
カル)を0.05g/Lの濃度で溶解させ、プラスチック容器(W22cm×H6cm×D15cm)に水深1
~1.5cmになるよう注いだ。これにナミウズムシを入れ、20℃に設定したインキュベータ
(SANYO,MIR-153)内で恒暗条件にて飼育した。ニワトリのレバーを3日に1回与え、その
3時間後に新しい飼育水を注いだ容器に移した。
2. 動きの観察
(1) オオカナダモの細胞質流動
オオカナダモの細胞質流動を連続して
観察するための装置(図1)を自作した。
イオン交換水をエアレーションし、冷却
器(アズワン、201TCN)で温度を一定に
保ちつつ、観察用セル(自作、図2)に流
した(流速120mL/分)。一定の光量子束密
度 に 調 整 し た LED を 顕 微 鏡 ( ニ コ ン
D22-4211EL)の反射鏡部に取り付け、流動
の様子を観察した。倍率は50倍で、記録
にはデジタルカメラ(Canon EOSX7)を用い
た。なお、細胞質流動の有無、及び流動
速度の測定は、室内の照明を消灯し、明
るさを調節したステージ下のLEDの光だ
けが照射される状態で行った。オオカナ
図 1 細胞質流動の観察
ダモは、イオン交換水に48時間以上順化さ
せた健康な個体の、最上部(新芽)から5cm
の位置にある葉を使用した。各細胞の中で
四隅にある4個の葉緑体の速度の平均値
を一つの細胞の速度とし、各群で平均100
個の細胞の細胞質流動を計測し、比較した。
(2) オオミジンコの光走性
U字型プラスチック製のレーンの両端
をカバーガラスで封じて小型水槽
図 2 流水中で細胞質流動を計測する自作セル
(W1.5cm×H1.0cm×L20cm)とし、ミネラ
ルウォーター(日本コカコーラ、森の水だ
より)を入れた(水深9mm)。この小型水槽
にミジンコ1匹を入れ、冷却器(アズワン、
201TCN)で20℃に保った大型水槽に水没し
図 3 ミジンコの光走性
ない様に置いた。光量子計(apogee、MQ-200)を用いて一定の光量子束密度(50μmol/(m2・
s))に調整したLED(青色:日亜化学工業、NSPB500AS、緑色:OptoSupply,OSG58A5111A、
黄色:CREE,C503B-AAN、赤色:CREE、C503B-RAN、白色:OptoSupply,OSW4K5111A)をビ
ニールの袋に入れてレーン端のカバーガラスに密着させて光源とし、小型水槽内のオオ
ミジンコの位置を2分後(レーンの端から端まで移動するのに十分な時間)に記録した(図
3)。レーンを0(暗端)~7(光源側)の8区間に分け、存在位置を光走性の強さの度合
いとして数値化した。オオミジンコは、24穴マイクロプレート(ケニス、穴径15.6mm、
容量3.3mL)内でミネラルウォーターに48時間以上順化させ、産後24時間以内の仔とその
親を1組として使用した。なお、1回ごとにレーンを回転させて光源がレーンの両端に交
互に位置するようにし、1匹のミジンコに対して10回分のデータを取った。実験には親仔
各15匹のミジンコを用いた。
(3)
ナミウズムシの尾側断片の行動
1週間絶食させた個体の体の中央で、頭部と尾
部に2分するようにカミソリ刃を用いて切断し
た。飼育水を入れた白い陶器(W9cm×H4cm×D9cm)
を2つ用意し、一方には頭部断片5個体分を、他
方には尾部断片5個体分を入れて室温を20℃に
保った。LEDライト(GEX社AURORA、照度50lux)
で照明しながら、カメラ(SONY
HDR-AS15)を
用いて60秒間隔でインターバル撮影を行った(図4)。
図 4 尾部断片の行動観察
撮影した画像を連続して比較し、ナミウズムシ断片の動きを確認した。
3. 毒性試験
各生物の毒性試験は、オオミジンコの急性遊泳阻害試験
であるOECDテストガイドライン(TG)202に準拠して次の手
順で行った(図5)。
・毒性を試験したい物質を含む溶液を1/2ずつ段階的に希
釈した試験水と、飼育水(対照実験)を用意した。これ
に、オオカナダモ、オオミジンコ、ナミウズムシを入
図 5 毒性試験の様子
れ、インキュベータ内で温度を一定に保ち、24時間後と48時間後に観察した。
・オオカナダモについては、細胞質流動の様子を顕微鏡に接続したカメラ(Canon
EOSX7)
で5秒間隔で撮影し、流動の完全停止を細胞死とみなしてLC50(半数致死濃度)を求めた。
ナミウズムシは、組織が崩壊していることで死亡を判断し、LC50を求めた。オオミジンコ
の試験では、仔とその親の耐性の違いを明らかにするため、「抱卵している個体」を親と
して定義し、親仔双方に同様の試験を行った。ミジンコが遊泳できるかどうかを確認し、
LC50を求めた。
Ⅳ
結果と考察
1
オオカナダモの細胞質流動のモニタリングによる水質監視
(1) 細胞質流動に環境要因が与える影響
[目的]試験水に含まれる毒物の検出にオオカナダモの細胞質流動の状態を指標として用
いるならば、毒物と非生物的環境のどちらが影響しているのかを判断する必要がある。
水質監視装置に利用する光源の色や細胞質流動が検出可能な温度条件について検証する。
[結果]実験実施日:2015年7月8日~9月1日
①
細胞質流動の速度は、照射する光の色によって変化した。青色の光が最も速く、次
12.0
(図6)。各群間には、5%水準で有意
10.0
な差が検出された(Steel-Dwass法)
。
②
5℃~25℃の水温では、温度が
高いほど流速が速まる傾向があり、
各温度間には5%水準で有意な差が
流動速度(µm/s)
いで白色、赤色、黄色の順となった
検出された(Steel-Dwass法)
(図7)。
b
3.26
8.0
6.0
4.0
a
1.63
0.0
黄色
外光)が有効7)とされ、今回の実験
られ、白色の場合は分散していた
(図8、9:各色の光源を照射して
20分後)。植物細胞では、葉緑体は
青色
値は中央値、バーは最大・最小値、a・b・c・d は有意差
25.0
流動速度(µm/s)
細胞の縁に集合する定位運動が見
白色
図 6 照射した光の色と流動速度の関係
物を鋭敏に検出するには青色光源
青色を照射した場合には葉緑体が
赤色
照射した光の色
動には、通常、短波長の光(青、紫
が良いと考えられた。ところが、
d
7.80
2.0
[考察] 先行研究によると細胞質流
結果もこれと一致したことから、毒
c
5.84
20.0
15.0
a
3.00
10.0
b
5.84
c
10.2
5.0
0.0
5℃
細胞質流動により受動的に運動す
15℃
25℃
水温(℃)
るだけではなく、光の影響のもと
に能動的に定位する運動も行う。
図 7 水温と流動速度の関係
この定位運動は、光受容タンパク
値は中央値、バーは最大・最小値、a・b・c は有意差
質(フォトトロピン)の働きが深く関わっている8) 。青色光は、定位運動を誘発するフォ
トトロピンに作用するため、監視装置の光源としては白色の方がが適していると推察さ
れた。
水温については、山口県を流れる佐波川(地点:新橋)の場合、日間水温の最低値の
平均は7.2℃、日間水温の平均は16.0℃、最高値の平均は25.8℃であった(国土交通省水
文水質データベース)。これらの水温の範囲であれば、オオカナダモの細胞質流動を観察
することが可能である。
葉緑体の凝集(定位)
図 8 青色光による葉緑体の定位
葉緑体
図 9 白色光で分散している葉緑体
オオカナダモの細胞質流動:適する光源は白色、水温は 5℃~25℃で観察可能
2
オオミジンコのモニタリングによる水質監視の検証
[目的]オオミジンコを飼育していて明るい側に集まる(正の光走性)9)ことに気づき、オ
オミジンコの健康状態の確認に、この習性を利用出来ると考えた。飼育水槽に試験水を
流入させ、光に集まる個体がいなくなれば遊泳を阻害する毒物が流入した可能性があり、
警報で知らせるという仕組みである。そこで、オオミジンコの光走性について詳しく調
べ、観察しやすく、かつ強い正の光走性を示す光の波長を特定することにした。
[結果]
実験実施日:2015年7月25日~8月25日
1.00
間に分け、各個体10回分の、各区間に存在
0.80
した回数の度数分布を求めた。いずれの色
の光源に対しても親仔ともに顕著な正の
光走性を示した(図10,11;親仔各15匹)。
存在頻度
レーンを0(暗端)~7(光源側)の8区
青
0.60
緑
0.40
黄
0.20
なお、レーンの中央から光源側(4~7区)
赤
0.00
に存在しているか、暗端側(0~3区)に存
在しているかをカイ二乗検定で検定した
暗端
ところ、親仔ともに全色光において1%水準
1.00
とが示唆された(χ2値:青=親41.6・仔67.2、
親個体のうち最も強い正の光走性を示し
0.80
存在頻度
赤=親17.3・仔46.9、白=親40.2・仔46.9)。
青
0.60
緑
0.40
たのは緑色光で存在頻度88%、仔個体では
0.20
青色光で85%であった。光色によって光走
0.00
黄
赤
白
0 1 2 3 4 5 6 7
性の度合いに僅かな違いが見られた。また、
親個体(15個体)と仔個体(15個体)のデー
光源
存在区
図 10 光の色と光走性(親)
で有意差が検出され、正の光走性があるこ
緑=親85.1・仔37.5、黄=親43.7・仔38.0、
白
0 1 2 3 4 5 6 7
暗端
存在区
光源
図 11 光源の色と光走性(仔)
タを一緒にして、明所での存在頻度を光源
の色毎にまとめたのが(図12)である。ミジンコの分布が光源側に最も集中した形になっ
ているのは緑色光であり、緑色光と赤色光の間のみ有意差(カイ二乗検定、5%水準)が
検出された。他の光色間では有意差は検出されなかった。
[考察] オオミジンコは緑色の光
あったが、これは、餌となる植物
プランクトンが緑色であるため
ではないだろうか。親子間で光源
の色に対する光走性の度合いが
僅かに異なったものの、緑色の光
明所での存在頻度
源に強く引き寄せられる傾向が
1.0
0.8
0.9
青
緑
0.9
0.8
0.9
赤
白
0.6
0.4
0.2
0.0
源を用いると、親仔ともに強く誘
黄
光源の色
引することができる。光源に近い
部分を遊泳するオオミジンコをモ
1.0
図 12 光走性(親仔)
(グラフ中の数字は中央値、バーは最小値を示す)
ニタリングすることで、オオミジ
ンコには自由に活動させつつ、遊泳阻害の状態を確認することが可能となる。
オオミジンコには正の光走性がある。オオミジンコを集める光源は緑色が良い。
3
ナミウズムシの尾側断片を用いた生物検定
[目的]ナミウズムシは高い再生能力を有しており、体の中央から横に切断した場合、2
週間程度で元の状態にまで再生する。脳の機能的な再生は5日目に急速に起こり10)、刺
激に反応する機構は、4日目までの尾側断片には整っていないと考えられる11)。そのた
め、切断後4日目までであれば、生物検定に用いる尾部断片に対して痛みや苦痛を与え
る可能性は低いと考えられる。ナミウズムシ切断後尾部の行動について調べ、苦痛を与
えない期間を推定することで、水質監視装置の改良に役立てる。
[結果]実験実施日:2015年6月17日~9月25日
100
後に止まり、57.0時間後から動き始め
た(図13)。また、72時間までは動いて
いる断片は少なく(20%程度)、28時
間まではほとんどの断片が静止して
いた。
[考察]
ほとんどの尾部断片は切断後
動いている個体(%)
尾部断片は撮影開始後平均14.5分
80
60
40
20
0
0
8 16 24 32 40 48 56 64 72
切断後の時間(時)
72時間までは動かず、この時期までは
脳の構造の再生は不完全だと確認で
図 13 切断後の時間と尾部断片の動き
きた。特に28時間までは動く個体が少ないことから、切断後28時間までの尾部断片を生
物検定に用いた場合は、苦痛や痛みを与える可能性は少ないと考えられる。切断後の尾
部断片をガラス管の内壁に吸着させ、どれくらいの水流に対して流されずに付着するこ
とができるか調べた結果、64.8cm/秒(標準偏差±23.8)であった。これは、内径が7mm
の管であれば1分間に1.5L流れる速さであり、検査したい水の量に応じて、ナミウズムシ
を付着させる管の径を変えれば対応できる。
4
毒性試験
[目的]TG202に準拠した方法で各種生物に対して毒性試験を行い、毒性物質に対する耐性
の違いを明らかにする。毒性物質としては、重金属の銅を含む硫酸銅、界面活性剤
であるサルコシル、肥料として用いられる硝酸カリウムを選定した。
[結果]試験の結果を表1の要領でまとめた。表1の場合、オオカナダモのCuSO4aqに対するL
C50は0.64~1.28mg/Lであることが分か
る。他の生物に対するLC50も各物質で求
CuSO₄濃度(mg/L)
24h後
オオカナダモ
48h後
0.64
3/20
7/20
1.28
5/20
16/20
めた(図14)。KNO3aqについてオオミジ
表 1 CuSO4 に対するオオカナダモの耐性
ンコの仔のLC50は50~100mg/Lで、他の (表中の分数は死亡個体数/実験個体数)
生物に対しては無害であった。
なお、ナミウズムシの毒物への耐性の比較対象としてアメリカナミウズムシ
(Girardia tigrina)を用いた。
1000
12.0
10
3.00
0.960
1
0.1
0.0750
0.0188
0.01
オオカナダモ オオミジンコ オオミジンコ ナミウズムシ アメリカ
親
仔
ナミウズムシ
サルコシルaq濃度(mg/L)
CuSO₄aq濃度(mg/L)
100
93.8
100
25.0
5.86
10
3.75
7.50
1
オオカナダモ オオミジンコ オオミジンコ ナミウズムシ アメリカ
親
仔
ナミウズムシ
図14 各種生物の毒性試験の結果(図示した区間はLC50値、区間上の数字は中央値、濃度:mg/L)
[考察]各種生物ごとに異なるLC50が定まった。これらの生物を組み合わせて水質監視に
用いることで、毒性物質の種類まで特定できる水質監視装置に発展させることができる
可能性がある。水道水の銅イオンの基準は1.0mg/Lであり12)、オオミジンコの親のLC50
はこの基準値を下回った。TG202ではオオミジンコは産後24時間以内の仔を用いることが
示されているが、親個体でも水道水の基準で銅イオンを検出することが可能であること
から、親を用いた水質監視が可能であると考えられる。
また、アメリカナミウズムシはナミウズムシと比べて界面活性剤に強く、銅イオンに
は弱いことが分かった。アメリカナミウズムシは水質汚濁の進んだ河川でも生息するこ
とができるとされる13)が、これは汚濁に関わった物質の種類によって異なり、場合によっ
てはナミウズムシの方が特定の物質による汚濁に強いことがあることが示唆された。
なお、オオカナダモの流動停止が一時的なものではなく、細胞死によるものだという
ことを以下の観察で確認した。LC50のCuSO4aqにオオカナダモの葉を48時間暴露して細胞
質流動の停止を確認し、この葉を蒸留水で洗浄して48時間に流動の様子を観察した。細
胞質流動は復帰しなかったため、流動の停止は仮死状態ではなく細胞死であった。細胞
質流動はATPのエネルギーを用いて能動的に起こる。銅イオンなどは呼吸を阻害するため、
CuSO4aqによる細胞質流動の停止は、呼吸阻害によってATPが供給されずに起こっている可
能性が考えられる。もし、細胞質流動の監視によって呼吸阻害を検出することができる
のであれば、水質監視装置に利用する生物検定の材料として、動物から植物への移行が
期待できる。今後の研究によって、細胞質流動が停止する機構を解明したい。
ナミウズムシは界面活性剤に、オオミジンコは Cu2+と NO3-に弱い。オオカナダ
モは Cu2+に対してナミウズムシより鋭敏な反応。組み合わせにより検出力 UP。
5
水質監視の開発と製作
上記の実験や観察の結果を活用し、水質監視装置の開発に取り組み装置を製作した。
(1) システムの構成
開発したシステムは、オオカナダモ監視部、オオミジンコ監視部、ナミウズムシ監視部、
および、それらの判断出力を統合してグラフィカルに提示するフロントエンド部によって
構成されている。最初の3つは C 言語と画像処理ライブラリ OpenCV で実装し、最後のフロ
ントエンド部は Java 言語で実装した。これらのプログラムは計算装置 ASUS X200M 上で並
列実行される(図 15)。以下、個々の監視部について処理内容を説明する。
↑ミジンコの検出画面
↑装置全体
図 15 システムの構成
(2)
オオカナダモ監視部
Canon EOS kiss X7 からの画像を EOS Utility が取り込んで保存する。保存された画
像を読み込み、グレースケール画像に変換する。自動露出による画像の変化を打ち消
すために画像の画素の値の和が一定になるように正規化する。そして、各画素のフレー
ム間差分により画像の変化した部分を求める 14)(図 16)。その後、変化した部分を HSV
変換して、60
H
180の部分を抽出し、葉緑体とみなす。その画像の抽出した部分
の面積が一定以下であれば原形質流動が停止、もしくは遅くなったとみなす。その状
態が 3 回以上続いた時に水質異常通報をフロントエンド部に送信する。
時刻 t
時刻 t+10 秒
時刻 t+5 秒
フレーム間差分画像
30μm
図 16
オオカナダモの細胞質流動(葉緑体の流動)とフレーム間差分画像
図中の〇印は,葉緑体の動きが判別しやすい部分。少しずつ右へ移動し、フレーム間差分画像で緑色表示。
(3) ナミウズムシ監視部
撮影画像を HSV 色空間に変換後、色相 H について一定の値を満たす画素を抽出し、
該当する領域を 1、それ以外が 0 となる二値画像を作成する。さらに、画像をグレース
ケール画像に変換し、しきい値以下を 0、しきい値以上が 1 となる二値画像を作成する。
これらの二値画像間で画素毎に AND 演算を行い、ナミウズムシのマスク画像を作成す
る。ここで、ノイズを除去するために、膨張収縮処理を行う。探索窓の中にある輪郭
を抽出し、対象領域の面積と周囲長に基づいて円形度を計算する。最後に、面積と円
形度が基準範囲にある領域をナミウズムシとして検出している。ナミウズムシが撮影
範囲内で検出されれば水質は維持されていると判断し、流出した場合には水質異常通
報をフロントエンド部に送信する。連続運転したところ、きれいな水質の水流でも尾
部断片が押し流されたり、汚染水の流入で死滅した断片が管の内部に付着したまま残
ることがあった。現在、監視部の改良に取組んでいる。
(4) オオミジンコ監視部
オオミジンコを撮影した画像を用いて毒性物質の影響を検出する手法
15)
は開発され
ているが、既存の技術は小さなセルに入れた止水中の個体に対するモニタリングであ
る。本研究では、自由遊泳させたミジンコを光に集め、これを監視する独自のシステ
ムを構築した。まず、集団を USB カメラ(Logicool HD Webcam C310)から撮影した画像
を取り込む。なお、起動時には、画像を撮影し、重み付き平均を更新することを繰り
返して 16)、平均画像を作成する。USB カメラから取り込んだ画像と作成した平均画像の
差分を作成し、二値化をする。しきい値処理のち、画像を平滑化し、別のしきい値で
二値化する。そして、ノイズを取り除くために、画像に収縮処理をかけて、探索窓の
中にある輪郭を抽出する。輪郭の面積と円形度の基準でオオミジンコの成体を識別す
る。その後、探索窓の中にオオミジンコの成体がいなくなれば、オオミジンコの遊泳
が阻害されたとみなし、警報を発する(図 15)
。
Ⅴ
まとめ
研究により以下の内容を明らかにし、水質監視装置を製作した(図17)。
オオカナダモの細胞質流動
ナミウズムシ
CuSO4に対しナミウズムシよりも敏感
尾部断片
葉の内部へ物質が浸透
28時間固着(不動)
植物を用いた生物検定が可能
脳の再生前に検定
痛みや苦痛軽減
図 17 新たな水質
監装置の概要
Ⅵ
新たな水質
監視装置
複数種の生物の組合せ
毒物の種類や量を推定可能
今後の課題
有害物質の成分や濃度を推定できるよう、検定に用いる生物種の選定や毒性試験の
データを蓄積したい。また、開発した装置を用いて水質検査を行い、実用性を高めたい。
Ⅶ 参考文献
1) “細胞の運動と細胞骨格”. ニューステージ新生物図表. 浜島書店編集部. 浜島書店,
p.48, 2011
2) 山口県立山口高等学校. “プラナリアを用いた水質監視装置の開発”.JSEC 2013, 2013.
3) 山口県立山口高等学校. “ナミウズムシを用いた水質モニタリングシステム”.第8回動
物実験代替法チャレンジコンテスト最優秀賞受賞, 2014.
4) 四国総合研究所. “メダカdeモニタ”
.http://www.co.jp/service/environment/seibutumonita.htm
5) OECDにおける生態影響試験法及びGLP基準. 環境省p.1-16,
http://www.env.go.jp/chemi/seitai-kento/h13/02/01.pdf
6) 日本動物実験代替法学会. http://www.asas.or.jp/jsaae/, (参照 2015-09-26)
7) Hans Mohr, Peter Schopfer. “運動の生理学”.植物生理学.網野真一ほか.シュプリン
ガーフェアラーク東京, 1998,p.520
8) Akeo Kadota. “Short actin-based mechanism for light-directed chloroplast movement
in Arabidopsis”. PNAS,vol.106,no.31,p13106-13111,2009
9) U. C. Storz, R. J. Paul, “Phototaxis in water fleas(Daphnia magna) is differently
influenced by visible and UV light”. J Comp Physiol. A183:709-717,1998
10) Takeshi Inoue, et al. “Morphological and Functional Recovery of the Planarian
Photosensing System during Head Regeneration”. Zoological Science 21:275-283, 2004
11) Takeshi Inoue, et al. “Planarian shows decision-making behavior in response to
multiple stimuli by integrative brain function”.Zoological Letters , 1-7, 2015
12) 厚生労働省,水質基準項目と基準値,2003年,
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html
13)富川光・鳥越兼治.外来種アメリカナミウズムシ(扁形動物門,三岐腸目)の広島県か
らの初記録.広島大学大学院教育学研究科紀要.第二部,第60号,2011,21-23
14)小枝正直, 上田悦子, 中村恭之. OpenCVによる画像処理入門.第一版,講談社,2014
15) Kei TANIGUCHI, Kazuhiro SASA and Katsumi TAKAYAMA Development of a real-time image
analysis system for toxicity testing using Daphnia magna.福井工業高等専門学校
研究紀要 自然科学・工学第46号, 2012
16) 永田雅人.実践 OpenCV 2.4 映像処理&解析.第一版、カットシステム,2013
以下参考(実際の応募時の書類ではなく、提供されたものを参考として閲覧対
象としました)
第二部
Ⅰ
ナミウズムシの生息状況と河川の生態環境の関係
序論
山口市内を流れる糸米川でナミウズムシや水生生物を採取していたところ、ナミウズム
シの捕獲数や体長が、採取月や採取地点で異なることに気付いた。ナミウズムシの生息状
況と、環境要因や他種の生物量の間には密接な関係があるのではないかと考えた。そこで、
糸米川水系における生物量調査と水質調査を継続して行い、ナミウズムシの生息状況と環
境要因との間にはどのような関係があるのかを調べた。
Ⅱ
目的
糸米川水系における生物量・水質とナミウズムシの生息状況の関係について明らかにす
る。
Ⅲ
材料と方法
1. 生物材料の入手と管理
(1) ナミウズムシ
山口県糸米川に生息するナミウズムシを採集した。環境や
植生の異なる3地点(図3)について採集を行い、ナミウズム
シとしての同定は『プラナリアの形態分化』(手代木渉,
図1 自作したトラップ
渡辺健二.共立出版(株).1998)を参考に仮同定した。ニ
ワトリのレバーを入れた茶こしをストッキングで包み、
黒いシートで日陰にしたトラップ(図1)を各地点3か所
ずつ設置し、30分間で集まった個体を採集した。採集し
た個体は第一部(3)と同様の方法で飼育した。
(2) 水生生物
図2 調査に用いる道具
ナミウズムシを採集した地点と同じ地点で採集し、採
集方法はコドラート法にのっとって行った。コドラート枠(30cm×30cm)を川底に設置し、
その範囲内の水生生物をシャベルを用いて砂利ごと採集して、砂利を除いて水生生物を集
めた。採集した生物はガラス製のビン(W4.5cm×H4.5cm×D9.0cm)に入れて持ち帰り、学
校で冷凍保存した。
(3) 水質
水生生物の採集の際、水温・照度(ロガー)、溶存酸素濃度、硝酸態窒素濃度、pH、流速、
水深を測定した。
図3 各調査地点 左からA地点、B地点、C地点
2. 採集データの処理
(1) ナミウズムシの個体数と体長
採集したナミウズムシの体長を採集後1日以内に測定し、個体数と合わせて地点別に記録
した。50個体以上採集できた地点のナミウズムシについては、50個体を無作為に抽出して
体長を測定した。なお、体の一部が欠けている個体については、体長は測定しなかったが
個体数には含めた。
(2) 水生生物の種類と個体数及び乾燥重量
冷凍保存していたものを解凍し、生物種や個体数を記録し
た。個体の同定は『日本淡水生物学』(上野益三.図鑑の北隆
館(株).1973)を参考に、可能な限り「属」まで分類した。ま
た、これらの特定が完了したものについては乾燥重量を測定
し た。 解凍し たも のを生 物ご とろ過 し、 ろ 紙を オー ブ ン
(National NE-C50)で乾燥させ、砂利を取り除いてろ紙の重
図4 乾燥重量の測定後
に保存した生物
さを差し引き算出した。このデータは現在集計中であるため、今回は掲載
していない。
3. ナミウズムシの嗜好性
採集した個体と、京都大学から分譲していただいた個体につ
いて、捕食対象への嗜好性を比較した。暗室内に実験槽として
大型シャーレ(内径235mm,深さ44mm)を設置し,中心から70mm離
れた場所に黒色パイプ(ナミウズムシに見させないため)に
入れたサヤミドロ(糸状藻類)
・トリレバー・トビケラ幼虫を
図5 捕食対象を等間隔に
等間隔で置いた(図5)。実験槽の中央の囲い(アクリル製,
置いたシャーレ
内径13mm)にナミウズムシ10匹を置き,囲いを取り除いた時点を開始とし,3分ごとに10回,
試料に付着しているナミウズムシの匹数を計測した。実験は3回行い,計30匹について調べ
た。計測にあたっては微弱なライト(39.3lux)を点灯したが,短時間の点灯であるためナ
ミウズムシの走性には大きな影響は与えなかった。実験には、採集したナミウズムシ(体
長:6.1mm±0.6(平均±標準偏差))と室内でレバーを与えて飼育しているナミウズムシ(体
長:6.0mm±0.5(平均±標準偏差))をそれぞれ30匹ずつ用いて比較した。
Ⅳ
結果と考察
1
生物量と個体数
[結果]調査結果をグラフにまとめた。(図6)
0
C地点
50
500
0
0
3月 4月 5月 6月 7月 9月
調査月
ナミウズムシ(匹)
生物個体数(匹)
3月 4月 5月 6月 7月 9月
調査月
生物個体数(匹)
生物個体数(匹)
0
B地点
400
10
200
5
0
0
3月 4月 5月 6月 7月 9月
調査月
ナミウズムシ(匹)
100
50
1000
ナミウズムシ(匹)
A地点
500
図6 地点別・月別生物量と
ナミウズムシ数の関係
青:カゲロウ類
赤:トビケラ類
緑:エビ類
紫:その他
橙折れ線:ナミウズムシの個体数
(コドラート捕獲分)
[考察]総計の生物量とナミウズムシの個体数には関係性を見出すことはできなかったが、
特定の生物種に着目すると、地点ごとに異なる関係性があった。C地点では、6月に環境の
急変が起こり、それまでに生物量の大半を占めていたトビケラ類が激減し、代わりにカゲ
ロウ類が急増した。一方、ナミウズムシは7月以降ほとんど見られなくなっている。このこ
とから、C地点のナミウズムシはトビケラ類を主に捕食していた可能性が考えられた。そこ
で、それぞれの地点からトビケラ以外の生物量を除いたのが図7である。このグラフから、
トビケラ類の個体数の増減に伴ってナミウズムシの個体数が増減している可能性が推察さ
20
0
3月
4月
5月
6月
7月
9月
0
8
15
6
10
4
5
2
0
0
調査月
C地点
800
80
600
60
400
40
200
20
0
0
3月
4月
5月
6月
7月
9月
20
B地点
トビケラ類個体数(匹)
40
20
3月
4月
5月
6月
7月
9月
40
トビケラ類個体数(匹)
60
ナミウズムシ個体数(匹)
A地点
ナミウズムシ個体数(匹)
60
ナミウズムシ個体数(匹)
トビケラ類個体数(匹)
れた。今後、トビケラ類とナミウズムシとの相関関係を中心に調査を継続する予定である。
調査月
調査月
図7 トビケラ類の生物量とナミウズムシの個体数
水温と個体数
[考察]A・B地点では最高水温とナミウズムシ
の個体数の関連性を見出すことはできな
かった。しかし、C地点では6・7月で最高水
温が30℃を超えており、この頃にナミウズ
ムシの個体数が減少している。また、7・8
月にはナミウズムシが見られな
くなったが、温度が下がった9月
C地点
40
30
50
20
10
0
最高水温(℃)
[結果]調査結果をグラフにまとめた。(図8)
ナミウズムシ個体数
2
0
4月 5月 6月 7月 8月 9月
調査月
図8 C地点の月別最高水温とナミウズムシ個体数
橙:ナミウズムシ個体数 赤折れ線:最高水温
には再び見られ始めた。このこと
から、ナミウズムシの生存には、被食者の生物量のほかに、最高水温が関わっている
可能性が示唆された。これから水温が下がっていくとナミウズムシの個体数がどう変
化するのかを継続して調査していく方針である。
3
ナミウズムシの嗜好性
[目的]褐色のナミウズムシをナガレトビケラ幼虫(図9)と同じ
容器に入れ、しばらく経って飼育容器に移そうとしたところ、鮮
やかな緑色のナミウズムシ(図10)が出現していた。また,ナガ
レトビケラの体の一部が容器の底に落ちていた。図7のトビケラ類
図9 ナガレトビケラ
とナミウズムシの関係から、ナミウズムシはトビケラ
類を積極的に摂食していること、また緑色の発色の要
因の一端が緑色のトビケラの捕食である可能性が考え
られた。野生のナミウズムシがトビケラ類を積極的に
捕食しているのか、検証することにした。
10
多く集合した(図11のC地
点)。30匹のうち,集合し
て いた 個体数 は 7.1匹±
2.73(平均±標準偏差)
であった。一方,レバー
集合した数(/30匹)
ムシは,トビケラに最も
を与えて飼育していたナ
ミウズムシ(図11の京大
8
京大個体
15
a
6
4
b
2
b
藻
C地点個体
b
10
5
a
a
0
0
レバー
集合した数(/30匹)
[結果]野外のナミウズ
図10 緑色のナミウズムシ
トビケラ
レバー
藻
トビケラ
図 11 嗜好性実験結果 バーは標準偏差,a・b は有意差
個体)は,レバーに最も多
く集合し,6.7匹±2.21(平均±標準偏差)であった。Steel-Dwass法(5%水準)で検定した
ところ,野外のナミウズムシはレバーや藻類よりもトビケラに有意に多く集まり,レバー
を与えて飼育していたナミウズムシはトビケラや藻類よりもレバーに有意に多く集合した。
[考察]ナミウズムシは植物性物質より動物性物質に対して嗜好性が強かった。さらに,
同じ動物性のエサの中でも,日ごろ食べている物を学習しており,差異が生じたと考えら
れた。つまり,野外で生活しているものはトビケラ幼虫などを食べ,室内飼育の個体はレ
バーを食べ,それらのエサの匂いに引き寄せられていると推察された。
Ⅴ
まとめ
図12
Ⅵ
ナミウズムシと生態系の相関性と今後の課題
参考文献
1) “ プ ラ ナ リ ア の 摂 食 行 動 の 解 析 ” . 下 山 せ い ら . つ く ば 生 物 ジ ャ ー ナ ル Vol.10
January,2011
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