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詳細版 - GEC
平成 25 年度 JCM 実現可能性調査
天然ゴム製造工程の
排水処理における嫌気性処理の導入
報告書
平成 26 年3月
株式会社 日水コン
-
目次
-
1. 調査の背景 ···································································································· 1
2. 調査対象プロジェクト ····················································································· 5
2.1. プロジェクトの概要 ··················································································· 5
2.2. 企画立案の背景 ························································································· 8
2.3. ホスト国における状況 ················································································ 9
2.4. プロジェクトの普及 ················································································· 20
3. 調査の方法 ·································································································· 22
3.1. 調査実施体制 ·························································································· 22
3.2. 調査課題 ································································································ 23
3.3. 調査内容 ································································································ 24
4. JCM 方法論に関する調査結果 ·········································································· 43
4.1. JCM 方法論の概要 ··················································································· 43
4.2. 用語の定義 ····························································································· 46
4.3. 適格性要件 ····························································································· 47
4.4. 対象 GHG 及びその排出源 ········································································ 50
4.5. 算定のための情報・データ ········································································ 52
4.6. デフォルト値の設定 ················································································· 54
4.7. 事前設定値の設定方法 ·············································································· 55
4.8. リファレンス排出量の算定根拠 ·································································· 58
4.9. リファレンス排出量の算定方法 ·································································· 61
4.10. プロジェクト排出量の算定根拠 ································································ 64
4.11. プロジェクト排出量の算定方法 ································································ 65
4.12. モニタリング手法 ·················································································· 66
4.13. GHG 排出量及び削減量 ··········································································· 68
5. JCM PDD 作成に係る調査結果 ········································································· 71
5.1. プロジェクト実施体制及びプロジェクト参加者············································· 71
5.2. プロジェクト開始時期及び実施期間···························································· 71
5.3. 方法論適格性要件との整合性確保 ······························································· 73
5.4. プロジェクト排出源とモニタリングポイント················································ 74
5.5. モニタリング計画 ···················································································· 75
5.6. 環境影響評価 ·························································································· 76
5.7. 利害関係者のコメント ·············································································· 76
6. プロジェクト実現化に係る調査結果 ································································· 84
6.1. プロジェクト開発状況 ·············································································· 84
6.2. 資金計画 ································································································ 90
6.3. MRV 体制 ······························································································· 92
6.4. プロジェクトの許認可 ·············································································· 93
6.5. 日本製技術の導入 ···················································································· 93
6.6. ホスト国への貢献 ···················································································· 99
6.7. 環境十全性の確保 ·················································································· 102
6.8. その他の間接影響 ·················································································· 102
6.9. 今後の見込み及び課題 ············································································ 103
1. 調査の背景
インドネシアは 1992 年 6 月に国連気候変動枠組条約に署名し、1994 年 8 月に同条約を批准し
た。1998 年 6 月には京都議定書に署名し、2004 年 12 月に同議定書を批准している。
一方、2007 年インドネシア・バリで開催された、気候変動枠組条約(UNFCCC)第 13 回締約国
会議(COP13)において、2013 年以降の先進国による新たな排出削減目標の設定と開発途上国によ
る適切な緩和行動(NAMAs)について国際交渉を行う特別作業部会(AWG)が設置された。
この特別作業部会での交渉結果を受けて、2009 年デンマーク・コペンハーゲンで開催された
COP15 では、コペンハーゲン合意(Copenhagen Accord)について「留意する(take note)」という
決定が採択された。
2010 年 メ キ シ コ ・ カ ン ク ン で 開 催 さ れ た COP16 で 採 択 さ れ た カ ン ク ン 合 意 (Cancun
Agreements)には、新たなクレジットメカニズムに関して「COP17 において新しい市場メカニズ
ムの創設を検討することを決定する」との内容が盛り込まれた。
その間、インドネシアでは 2008 年 7 月には大統領令(No.46)国家気候変動協議会(National
Council on Climate Change; DNPI)が創設され、以下の業務が義務付けられた。

気候変動緩和に関する国家政策・戦略・プログラム・活動の形成

気候変動に関する適応・緩和策、技術移転、資金を含めた管理業務に関する調整

炭素取引のための政策・手続きの決定メカニズムの形成

気候変動緩和に関する政策履行の監視・評価の実施

先進国による気候変動に関する取組の促進
2009 年 12 月 COP15 において、インドネシア大統領が GHG 排出削減目標を公表した。
また 2010 年 1 月コペンハーゲン合意に基づき、
インドネシア NAMAs に関する文書を UNFCCC
事務局へ提出した。その中で、2020 年まで現在の経済成長が継続し、かつ何ら対策を行わなかっ
たと仮定した場合に排出される温室効果ガス(GHG)排出量を参照レベル(BAU)とし、市場で
入手可能な技術の導入や、環境政策および規制の実施などを通じて、国内で独自に削減する 26%
の GHG 排出量に加え、国外からの資金的な支援を受けた場合、さらに 41%までを削減、吸収す
ることを表明している。
日本国政府とインドネシア政府とは、2012 年の COP17 開催前に、両国間の気候変動分野にお
ける具体的な協力と更なる対話の促進が重要との認識の下、両国政府にて同分野における二国間
協力についての以下の内容の文書を取りまとめ、オフセット・クレジット・メカニズムに関する
相互理解を深めてきた。
 COP17 の成功を確保するために建設的に協力すること
 産業分野等における先進技術が持続可能な成長を達成し、気候変動問題に対処する上で重要
Ⅳ-1
であること
 オフセット・クレジット・メカニズムに関する相互理解を深め、温室効果ガス削減への具体的
行動を促進するため、これまでの取組に加え、モデル事業等を通じて官民協議プロセスを拡
大していくこと 等
そして、2011 年 12 月南アフリカ・ダーバンで開催された COP17 において、将来の枠組みへ
の道筋、京都議定書第二約束期間に向けた合意、緑の気候基金およびカンクン合意の実施のため
の決定が採択された。COP17 の決定書には、新たなメカニズムに関して「気候変動枠組条約の下
での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)の作業結果」として以下のような内容が
含まれていた。
 市場利用の機会など多様なアプローチは、実際に緩和成果をあげる基準を満たす必要がある
ことを強調する。
 AWG-LCA に対し、このようなアプローチの枠組みを検討する作業計画を実行し、COP 18
への決定書送付を目指すことを要請する。
 AWG-LCA に対し、これらのメカニズムの様式および手順を遂行する作業計画の実施を要請
する。
また、2013 年 8 月 26 日(現地時間同日)
、日本とインドネシア間の二国間クレジット制度に関
する二国間文書に、日本側は外務大臣、インドネシア側は経済担当調整大臣が署名しており、そ
の二国間文書の概要は以下のとおりである(次頁の枠内に二国間文書を示す)
。
 日・インドネシア間の低炭素成長パートナーシップの推進のため、両国は二国間クレジッ
ト制度(以下、本制度)を創設し、本制度を運営するため、合同委員会を設置する。
 双方は、本制度の下での排出削減又は吸収量を、国際的に表明したそれぞれの温室効果ガ
ス緩和努力の一部として使用できることを相互に認める。
 温室効果ガスの排出削減又は吸収量の二重計算を回避するため、いずれの側も、JCM の下
で登録された緩和事業を、他の国際的な気候緩和制度の目的のために使用しない。
なお、第1回日・インドネシア合同委員会は 2013 年 10 月 16~17 日に開催された。合同委員
会では、その運営規則の決定後、共同議長を選出し、オブザーバの出席に同意した。そして、JCM
実施規則、プロジェクトサイクルの諸手続き、各種ガイドラインとその様式を決定して閉会した。
さらに、2013 年 11 月 11~23 日にポーランドのワルシャワで開催された COP19 の日本パビリ
オンで行われた「二国間クレジット制度(JCM)
」セッションでは、技術移転を伴う形で今後ます
ます両国間の気候変動に関する協力が進むことへの期待が述べられた。また、インドネシアでは
独自の JCM のための事務局の設立が急務であることや、NAMA のインドネシアにおける策定プ
ロセスのオプションを示した上で、JCM を含む複数のプロセスを包括的に管理する必要性が述べ
られた。インドネシア政府は JCM を自国のものと受け止め、UNFCCC プロセスと、低炭素発展
に向けた国家政策体系の中に位置づけようする姿勢を示している。
Ⅳ-2
日本国とインドネシア共和国との間の低炭素成長パートナーシップのための
二国間クレジット制度に関する二国間協力
1.日本側及びインドネシア側(以下「双方」という。)は、気候変動に関する国際連合枠組条約(以
下「条約」という。)第 2 条に言及される条約の究極的な目的及び持続可能な開発の達成を追求
し、また 2013 年以降も協力して、引き続き気候変動に取り組むため、次のとおり低炭素成長パ
ートナーシップを推進する。
2 双方は、国際連合の下並びに東アジア低炭素成長パートナーシップを含めた、地域的及び二
国間の枠組みでの低炭素成長に向けた協力のため、様々なレベルで緊密に政策協議を行う。
3 双方は、インドネシアにおける低炭素成長を実現するための投資並びに低炭素技術、製品、
システム、サービス及び社会基盤の普及を促進するため、二国間クレジット制度(以下「JCM」 と
いう。)を創設し、それぞれの国の関連する有効な国内法令に従って JCM を実施する。
4. 双方は、JCM を運営するため、双方からの代表者から構成される合同委員会を設置する。
5 合同委員会は、関係する省庁及び閣僚から、JCM の実施に関する適切な助言を受ける。
6. 合同委員会は、JCM に関する規則及び指針を決定する。
7. 双方は、JCM の下での緩和事業における認証された排出削減又は吸収量を、国際的に表明し
たそれぞれの温室効果ガス緩和努力の一部として使用できることを相互に認める。
8 双方は、世界的な温室効果ガスの排出削減又は吸収に向けた具体的行動を促進するために、
JCM の堅固な方法論、透明性及び環境十全性を確保するとともに、JCM を簡素で実用的なもの
とする。
9. 双方は、JCM の下で登録された緩和事業を、他の国際的な気候緩和制度の目的のために使用
しないことによって、温室効果ガスの排出削減又は吸収量の二重計算の回避を確保する。
10.双方は、JCM を実施していくために必要な資金、技術及び能力向上の支援の円滑化のため、
緊密に協力する。
11. JCM は取引を行わないクレジット制度としてその運用を開始する。双方は、取引可能なクレ
ジット制度への移行のための協議を継続し、可能な限り早い段階で当該協議の結論を得る。
12.双方は、JCM の取引可能なクレジット制度の運用時に、JCM を通じ、途上国の適応努力の
支援への具体的な貢献を目指す。
13.本パートナーシップは、この文書が署名されてから、条約の下での新たな国際的な枠組みが
運用されるまでの期間を対象とする。双方は、特に、条約の下での交渉の進展を踏まえつつ、
本パートナーシップのあり得る延長につき検討し、本パートナーシップの期限までに結論を得
る。
14. この文書の各内容は、双方の書面による相互の同意によって修正され得る。
Ⅳ-3
日本側によって、東京において 2013 年
て 2013 年
月 日、インドネシア側によって、ジャカルタにおい
月 日に、日本語、インドネシア語及び英語による本書 2 通に署名された。これら
の文書は等しく価値を有する。解釈に相違がある場合には、英語が参照される。
日本側を代表して
インドネシア側を代表して
岸田文雄
M ハッタ・ラジャサ
外務大臣
経済担当調整大臣
Ⅳ-4
2. 調査対象プロジェクト
2.1. プロジェクトの概要
2.1.1. インドネシアにおける天然ゴム製造業の状況
インドネシアにおいて天然ゴム製造業は産業政策を進める上で重要な業種である。すなわちゴ
ム製品(天然ゴム及び合成ゴムを含む)は表 2.1 に示すように同国の主要輸出品目となっている
(輸出額にして全体の 5.5%、2012 年、インドネシア中央統計局)。
また、天然ゴム生産量は年々増加しており、2013 年の生産量は 320 万トン、輸出量は 270 万
トンと推計されており、毎年 80%以上が輸出されている(表 2.2、Indonesian Rubber Association
and Food and Agriculture Organization of the United Nations)。
さらに天然ゴム生産量の世界シェアはタイに次いで第 2 位(26%)となっており、この 2 カ国
で全世界の半分以上を生産している(表 2.3、総理府統計局)。
表 2.1
インドネシアにおける輸出額構成
(単位:百万 US$)
注)通関ベース。非石油・ガスの内訳は、主要製品の HS コード 2 桁による分類。非石油・
ガスは記載した内訳以外も含む。2012 年の品目別輸出入額は暫定値。よって輸出(国・地域
別)の総額の金額と一致しない。
出典)世界貿易報告:インドネシア、JETRO、出所)インドネシア中央統計局
表 2.2
インドネシアの天然ゴム生産量と輸出量
注)2013 年は推計値
出典) Association of Natural Rubber Producing Countries, Indonesian Rubber Association
(Gapkindo), and Food and Agriculture Organization of the United Nations
Ⅳ-5
表 2.3
国(地域)
タイ
インドネシア
マレーシア
インド
ベトナム
中国 注)
コートジボワール
ナイジェリア
スリランカ
ブラジル
フィリピン
グアテマラ
リベリア
カメルーン
ミャンマー
全世界
天然ゴム生産量
2008
2009
生産量(千 t) 構成比(%) 生産量(千 t) 構成比(%)
3,167
31.0
3,090
31.7
2,751
26.9
2,440
25.0
1,072
10.5
857
8.8
864
8.5
831
8.5
660
6.5
711
7.3
548
5.4
619
6.3
203
2.0
210
2.2
110
1.1
145
1.5
129
1.3
136
1.4
121
1.2
127
1.3
136
1.3
129
1.3
73
0.7
81
0.8
85
0.8
60
0.6
53
0.5
52
0.5
87
0.9
92
0.9
10,220
9,749
2010
生産量(千 t) 構成比(%)
3,052
30.5
2,592
25.9
859
8.6
851
8.5
754
7.5
691
6.9
231
2.3
144
1.4
139
1.4
133
1.3
130
1.3
98
1.0
62
0.6
55
0.5
44
0.4
10,004
出典)総理府統計局、注)中国は香港,マカオ及び台湾を含む
そして、天然ゴムの世界全体での総消費量は、2010 年時点で過去 10 年間で約 1.5 倍、20 年間
では 2 倍という伸びを示しており、今後もアジア地域を中心に同様の伸びが続くものと予測され
ている(
「平成 24 年度アジア産業基盤強化当事業-天然ゴムの安定調達に資する協力のあり方に
関する調査-最終報告書」
、2013 年 3 月、野村総合研究所)
。
2.1.2. 本事業の概要
天然ゴム製造過程からは、ゴムの木から採取したラテックスを洗浄するため大量の排水が発生
する。インドネシアの排水基準を満足するためにはその排水処理過程で好気性処理を行うことに
なり、そのための曝気に用いるエネルギーを消費する。3 章の調査結果に示すように大・中規模
の天然ゴム製造工場ではほとんどの工場で活性汚泥法を採用しており、今後排水処理施設が普及
していくとエネルギー消費が増大し、電力需要を拡大するとともに、温室効果ガスの排出量が増
加していくことが懸念される。
我が国は天然ゴムの供給を 100%輸入に頼っており、主要産業の 1 つであるゴム、タイヤ業界
にとって、インドネシアは重要な原料輸入先でもある。インドネシアにおける天然ゴム製造業の
産業排水処理が良好に行われ、またエネルギー消費が少ない排水処理の導入を支援することは、
原料を輸入する国の責務であるとも言える。
本プロジェクトの対象となる(株)ブリヂストンはスマトラ工場、カリマンタン工場の 2 か所
で、系列会社が自社の所有する農園からの天然ゴムを原料として、ゴム製品を製造している。工
場内で利用される電力は、軽油による発電でまかなっており、軽油の年間使用量が多くその低減
と、温室効果ガス排出量の削減が課題となっている。
Ⅳ-6
当該工場の生産過程で発生する排水は現在活性汚泥法で処理されており、曝気のためのエネル
ギー使用と、排水処理後の汚泥処分において温室効果ガスが排出される。このため、排水処理の
前段に嫌気性処理(メタン回収)を導入し、後段の活性汚泥法の曝気動力を軽減させるとともに、
嫌気性処理の特徴である汚泥発生量の低減、さらに回収したメタンを発電エネルギーの燃料とし
て利用、発電後の余熱を熱利用する(コジェネ利用)ことで、温室効果ガスの削減を図るもので
ある(図 2.1)。
図 2.1
本プロジェクトの概要
ゴム製造工場の排水は、製造工程によって有機性物質の濃度が変わるが、当該工場では排水濃
度が低い工程の排水量が多く、一般的な嫌気性処理の導入が難しい。今までに嫌気性処理の代表
である UASB 法を導入する実験による検討を行ってきたが、ガスの発生が期待できず実験を中止
している。UASB 法はメタン発酵槽内でグラニュール層を形成し、この層内でのメタン発酵を行
うものであるが、有機性濃度が低い場合には十分なグラニュールが形成できないことが原因であ
る。
そのため、本事業では低濃度の有機性排水での嫌気性処理の実績がある「担体を用いた嫌気性
処理」を導入する。この技術は我が国のメーカー(外注先の栗田工業)が開発した固有の技術で
ある。UASB 法ではグラニュールが形成できない低濃度の CODcr(500~2000 mg/L 程度)の排
水でも、担体に付着した微生物の分解によりメタンガスの発生が可能で、有機物の除去が期待で
きる排水処理技術である。
本プロジェクトではゴム製造工場の既存排水処理施設の前段に嫌気性処理(メタン回収)を導
入することで、後段の好気性処理のエネルギー消費量を削減すると同時にメタンガスのコジェネ
利用を行い、温室効果ガスの削減を図る。
なお、当初スマトラ島及びカリマンタン島の両工場での調査を予定していたが、調査を進める
段階でカリマンタン島の排水処理量が少なく、嫌気性処理の導入効果が期待できないと判断され
たため、スマトラ島工場に調査を限定して行うこととした。
Ⅳ-7
BSRE の 所 在 地 は ス マ ト ラ 島 北 部 の 内 陸 部 ( Dolok Merangir Serbalawan 21155,North
Sumatra,Indonesia)にあり、インドネシア第 3 の都市メダンの空港から車で約 2 時間の距離にあ
る。年間ゴム生産量はインドネシアのゴム工場の中でも有数の生産量を誇っている。
図 2.2
プロジェクトサイトの位置
2.2. 企画立案の背景
ブリヂストンのスマトラ島、カリマンタン島の系列会社は、天然ゴム農園から収集したラテッ
クスからゴム原料となる製品を製造している。これらのゴム原料製造工場での排水処理に要する
エネルギーが多大なことから、排水処理方法の改善を検討していた。現状の好気性処理(活性汚
泥法)に UASB 法を追加することを目的で実験を進めていたが、排水の CODcr 濃度が低くメタ
ンガスが発生せず実験を中断していた。
当社が、環境省委託業務でインドネシアの工場向けにコベネフィット型排水処理対策のキャパ
シティビルディングを行った際に相談を受け、当該工場での排水水質に適した省エネ型排水処理
の検討を始めることとなった。
我国で低濃度有機性排水を嫌気性処理できる技術を有する企業を調査したところ、栗田工業の
嫌気性処理プロセス(バイオセーバーTK)が CODcr500mg/L 以上で処理可能ということがわかり、
その後栗田工業も加わり 3 社での協議を実施した。
BSRE で実施している排水水質分析結果を栗田工業に確認したところ、同社の嫌気性処理が適
用可能であるとの結論を得た。さらに、電気使用量、軽油使用量のデータを確認し、嫌気性処理
設備費用と軽油削減費用の試算結果より事業の実施の可能性が高いと判断されたため、本実行可
能性調査を実施することを決定した。
Ⅳ-8
2.3. ホスト国における状況
2.3.1. 地球温暖化対策に関する現状と制度・規制
インドネシアの GHG 排出量は、2005 年で 2,055MtCO2e と報告されており、その内訳は
LULUCF840 MtCO2e、泥炭 770 MtCO2e、農業 130 MtCO2e、電力 110 MtCO2e などとなっている。
将来的には BAU シナリオで 2030 年には 3,260MtCO2e になると予測されている。この間で世界の
GHG 排出量におけるシェアは 4.97%から 5.07%まで 0.2 ポイント上昇する。また、2005 年から
2030 年のまでの変化率では、電力部門が 110 から 810 MtCO2e まで約 8 倍、交通部門が 60 から
440 MtCO2e まで約 7 倍になるなど、その増加率が極めて大きい。
GHG排出量推計(MtCO2/年)
3500
40
75
105
150
3000
2500
2000
25
95
130
60
110
30
45
100
145
220
440
810
370
1500
840
730
670
770
890
970
2005
2020
2030
1000
500
建物
セメント
石油・ガス
農業
交通
電力
LULUCF
泥炭
0
図 2.3
インドネシアの GHG 排出量の推計結果
インドネシア NAMAs は、基本的に国家開発の全部門(森林・農業・産業・鉱業・エネルギー・
公共事業等)における既存の排出削減対策プログラム・活動からなる。排出削減目標達成手法は明
確でないが、DNPI は参照レベルを BAU とし、26%の排出削減対策として、国家予算(APBN)の活
用もしくは国内における独自の NAMAs(Unilateral NAMAs)の実施、追加の 15%排出削減対策につ
いては、政府開発援助(ODA)の活用もしくは国外からの資金的支援を受けた NAMAs(Financed/
Supported NAMAs)の実施をあげている。また、更なる排出削減量については、クレジット創出可
能な NAMAs(Creditable NAMAs)として位置付けられる可能性を示している。
セクター別のそれぞれの対策については表 2.4 に示すとおりである。
Ⅳ-9
図 2.4
表 2.4
セクター
BAU の排出量と NAMA 別の削減量
地球温暖化防止アクションプランの内容
排出削減
(Gt CO2)
26%
0.672
0.367
廃棄物
0.048
0.030
農業
0.008
0.003
産業
0.001
0.004
合
計
機
関
+15%
森林およ
び泥炭
エネルギ
ー・運輸
行動計画
0.038
0.018
0.767
0.422
山林火災の管理、泥炭地における
水 資 源 管 理 、森 林 お よ び 土 壌 再 生 、
森林、違法伐採管理、森林伐採の
回避、コミュニティの発展
ゴミ処理場開発、都市部における
3R お よ び 下 水 シ ス テ ム
低炭素のお米の品種の導入、灌漑
の効率化、有機農法の活用
エネルギー効率、再生可能エネル
ギー開発
バイオ燃料開発および利用、燃費
効率の改善、公共交通機関、エネ
ルギー需要の管理、再生可能エネ
ルギー、エネルギー効率
Ⅳ-10
森 林 省 、環 境 省 、
公共事業省、農
業省
公共事業省、環
境省
農業省、環境省
産業省
運輸省、エネル
ギー・鉱業省、
公共事業省
2.3.2. ホスト国の関連法制度
1) 環境管理に関する法制度
環境管理に関する最新の法律を整理すると以下の通りである。
環境に関する法律を成立年とともに表 2.5 に示す。インドネシアにおいて環境基本法にあたる
法律は 2009 年法律 32 号の環境管理法である。旧法(1982 年)が 1997 年に大改正され、事業活
動に対する環境規制強化、罰則強化、紛争処理に関する規定の充実、国民の環境情報に対する権
利規定の導入等が行われた。さらにそれに続いて、2009 年の改正では環境当局の権限や罰則が大
幅に強化され、環境省には警察と協力して環境犯罪の容疑者を逮捕する権限が与えられている。
また、このほか、水資源に関する法律(2004 年法律第 7 号)
、京都議定書の批准に関する法律
(2004 年法律第 17 号)、エネルギーに関する法律(2007 年法律第 30 号)、廃棄物に関する法律
(2008 年法律第 18 号)なども制定されている。
表 2.5
No
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
環境管理に関する法律
法
律
名
2004 年水資源に関する法律 No.7
2004 年京都議定書批准に関する法律 No.17
2004 年プランテーション業に関する法律 No.18
2007 年土地利用に関する法律 No.26
2007 年沿岸、小諸島地域管理に関する法律 No.27
2007 年エネルギーに関する法律 No.30
2008 年ごみ廃棄物の管理に関する法律 No.18(廃棄物管理法)
2009 年鉱物および石炭採掘に係る法律 No.4
2009 年残留性有機汚染物質に関するストックホルム会議批准に関する法律 No.19
2009 年公共サービスに関する法律 No.25
2009 年電力に関する法律 No. 30
2009 年環境保護、保全に関する法律 No.32(環境管理法)
2011 年住宅および住宅地に関する法律 No.1
次に、環境管理に係る政令を表 2−6 に示す。環境影響評価に関する政令(1999 年第 27 号)、
大気汚染防止に関する政令(1999 年第 41 号)、水質保全及び汚染水管理に関する政令(2001 年
第 82 号)、省エネルギーに関する政令(2009 年第 70 号)など、近年になっても新たな環境管
理に関する政令が策定されている。
表 2.6
No
1
2
3
4
5
環境管理に関する政令
政令名
1999 年危険性、毒性を持った廃棄物管理に関する政令 No.18
1999 年海洋汚染、悪化防止に関する政令 No.19
1999 年環境影響評価に関する政令 No.27
1999 年大気汚染防止に関する政令 No.41
上記政令 1999 年 No.18 の一部改訂に関する政令 No.85
Ⅳ-11
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
2000 年バイオマス生産による地盤脆弱化防止に関する政令 No.150
2001 年森林および土地使用における環境汚染、悪化防止に関する政令 No.4
2001 年危険物質、毒性物質に関する政令 No.74
2001 年水質保全および汚染水管理に関する政令 No.82
2002 年放射性廃棄物の管理に関する政令 No.27
2002 年市街地植生に関する政令 No.63
2008 年国土利用計画に関する政令 No.26
2008 年水資源保護に関する政令 No.42
2008 年地下水に関する政令 No.43
2008 年森林リハビリ、森林化推進に関する政令 No.76
2009 年工業地域に関する政令 No.24
2009 年特殊地域におけるプランテーション生産活動に伴う地勢変化防止に関する政令 No.31
2009 年市街地域の保全ガイドに関する政令 No.34
2009 年省エネルギーに関する政令 No.70
2010 年放棄地の使用と管理に関する政令 No.11
2010 年土地管理に関する政令 No.15
2010 年植物品種改良業務に関する政令 No.18
2010 年沿岸域環境保護に関する政令 No.21
2010 年鉱山地域に関する政令 No.22
2010 年森林域の利用に関する政令 No.24
2010 年動物保護地、国立公園、森林公園、自然観光園等における観光業に関する政令 No.36
2010 年ダムに関する政令 No.37
2010 年鉱物および石炭採掘業運営の正規化のための法律遵守および監査に関する政令 No.55
2010 年国境近隣小諸島の有益化に関する政令 No.62
2010 年海浜および小諸島地域における災害減災化に関する政令 No.64
2010 年土地所有に対する社会的伝統手法、システムに関する政令 No.68
2010 年干拓地および採掘跡地に関する政令 No.78
2011 年自然保養地、自然保護地に関する政令 No.28
2011 年河川に関する政令 No.38
我が国の水質汚濁防止法に相当するものがこの水質保全及び汚染水管理に関する政令であり、
水質の環境基準が設定されている。水域の環境基準として陸水は利水用途に応じて 4 類型設定さ
れ、異なる基準値となっている。環境基準の項目は①物理的性状(温度、浮遊物質、蒸発残留物)
、
②無機化学物質(BOD、アンモニア等)
、③微生物(大腸菌群数等)
、④放射性物質、⑤有機化合
物からなる。また、地方分権化により水質汚濁管理を以下のように規定している。
・水質汚濁管理は責任を中央政府から州若しくは県・市町村に移管
・環境省は、水質汚濁管理に係る国の基本方針を策定
・州境や国境を越えた水に関する問題は中央政府が対処
さらに、本政令には水質モニタリング(13 条)
、排水課徴金制度(24 条)
、排水許可証(40 条)
などの事業者の義務事項も規定されている。
本調査に関連する排水基準は産業廃水基準に関する環境大臣令(1995 年第 51 号)に明記され
ている。インドネシアのゴム産業は「ゴム産業排水基準
Ⅳ-12
A-IV」および「ゴム産業排水基準
B-IV」
の2つを遵守する必要があるが、本工場の適用基準は B-IV のなめし工程の基準である。同基準値
は BOD560mg/l、CODcr200mg/l、TSS100mg/l、NH3-N 5mg/l、T-N 5mg/l と厳しい基準となって
いる。
さらにインドネシアの排水基準はこれに加えて最大排水量が設定されており、ゴム製造業では
ゴム生産量(乾燥重量)当り 40m3 以内でなければならず、さらに水質と排水量の積である汚濁
負荷量も設定されている。すなわち CODcr であれば最大負荷量は 8kg/ゴム生産量 ton(200×40
÷1000)となる。
表 2.7
ゴム産業の排水基準
許容限度*1
(mg/L)
項目
(A-IV)
最大汚濁負荷量*2
(kg/ton)
BOD5
150
6.0
CODcr
300
12.0
TSS
150
6.0
アンモニア態窒素(NH3-N)
10
0.4
pH
6.0 - 9.0
最大排水量
ゴム生産量 1 トンあたり 40 ㎥
出典)産業排水基準に関する環境大臣令(1995 年環境大臣令第 51 号)
*1:許容限度は排水 1 リットル中に含まれる汚濁物質量(㎎)
*2:最大汚濁負荷量は乾燥状態のゴム生産量 1 トンあたりの量(㎏)
表 2.8
ゴム産業の排水基準 (B-IV)
濃縮ラテックス
なめし工程(樹葉使用)
(Concentrated latex)
Tanning (tree leaf used)
項目
許容限度*3
許容限度*3
最大負荷量*4
最大負荷量*4
(mg/L)
(kg/ton)
(mg/L)
(kg/ton)
60
BOD5
100
4.0
2.4
200
CODcr
250
10.0
8
100
TSS
100
4.0
4
5
NH3-N
15
0.6
0.2
10
T-N
25
1.0
0.4
6.0 - 9.0
pH
6.0 - 9.0
最大排水量
40 m3/日・ゴム生産量 ton
40 m3/日・ゴム生産量 ton
*3: 許容限度は排水 1 リットル中に含まれる汚濁物質量(㎎)
*4: 最大汚濁負荷量は乾燥状態のゴムもしくは濃縮ラテックスの生産量 1 トンあたりの量(㎏)
*5: 全窒素(T-N)は有機態窒素(kj-N)+アンモニア態窒素(NH3-N)+硝酸態窒素(NO3-N)
+亜硝酸態窒素(NO2-N)
一方、省エネルギーに関する政令(2009 年政令第 70 号)は、文字通り省エネルギーを促進す
るための政令である。省エネルギーは政府、州政府、県/市政府、事業者及び国民の責任であると
し、5 年に 1 度マスタープランを大臣が策定し、省エネの目標、政策のポイント、プログラム等
を記載するものとされている。事業者の責任として、事業実施の各段階における省エネルギーの
実施、エネルギー効率の良い技術の利用、省エネ製品の生産、サービスの提供を求めている。
Ⅳ-13
2)環境管理制度(PROPER)
インドネシアでは PROPER(Performance Level Evaluation Program)という環境管理制度を
実施している。PROPER 制度とは環境に関する法令の遵守を促進するために制度化されたもので、
1995 年から実施されている。上場企業、輸出企業は参加を強く要請されており、各企業の環境対
策を評価指標にのっとって、
「金 GOLD」、
「緑 GREEN」
、
「青 BLUE」、
「赤 RED」
、「黒 BLACK」
ランクに評価する。各ランクの内容は以下の通り。
● PROPER の各ランクの評価指標
 「金」
「緑」ランクの評価指標は下記の項目で構成され、点数制で評価される
a.
環境管理システム(100 点)
b.
資源利用(各 100 点)
1.
エネルギー効率
2.
危険・有害廃棄物の削減及び利用
3.
危険・有害でない廃棄物の 3R(Reduce, Reuse, Recycle)
4. 大気汚染の減少

5.
水質保全、汚濁負荷の削減
6.
生物多様性の保全
c.
コミュニティ開発(100 点、「緑」ランクでは質的に評価)
d.
環境管理対策をまとめた文書の編纂
「青」
「赤」
「黒」ランクの評価指標は下記の項目で構成される。
a.
環境記録文書/環境許可
b.
水質汚濁管理
c.
大気汚染管理
d.
危険・有害廃棄物処理
表 2.9
ランク
金
GOLD
緑
GREEN
青
BLUE
赤
RED
黒
BLACK
PROPER 制度の評価内容
評
価
内
容
既に、生産過程・サービスにおいて一貫して卓越した環境対策を行っている。規範を守
ったビジネスを行い、地域社会への責任も果たしている。
※2 回以上続けて「緑」を獲得しており、各セクター内で上位 25%に入る評価点を獲得
法律で定められた規定以上に環境管理対策を行っており、環境管理システムの実施、資
源の効率的利用、コミュニティ開発を行っている。
※各セクター内で上位 25%未満下位 25%以上の評価点を獲得。下位 25%になると「青」
ランクに転落
法律で定められた規定にそって環境管理対策を行っている。
法律で定められた規定にそって環境管理対策を行っていない。
意図的に環境汚染/破壊の原因となる行動をとっている、もしくは環境汚染/破壊を
無視している。法律で定められた規定に違反している、または管理上の措置を怠っ
ている。
Ⅳ-14
2012 年の参加企業数 1317 社のうち、ゴム産業からの参加企業数は 52 社(全体の約 4%)であ
り、その評価結果は「金」0 社、
「緑」5 社、「青」37 社、「赤」10 社、
「黒」0 社である。なお、
2011 年参加企業数 1,002 社のうち、ゴム産業からの参加企業数は 39 社(全体の約 4%)で、ゴ
ム産業は「緑」2 社、「青」24 社、
「赤」10 社、
「黒」3 社であったので、評価結果は改善してい
るといえる。
図 2.5
インドネシアの PROPER 参加企業の内訳(2011 年)
業種ごとの遵守率は、図 2.6 に示す通りであり、鉱業(Mining)、石炭・石油業、パーム油製造
業などは企業数も多く、法律の遵守率も高い。
図 2.6
業種別 PROPER 企業の法律遵守率
Ⅳ-15
ゴム産業の遵守率は約 67%(PROPER 参加企業数 39 社のうち、
「青」
「緑」ランク獲得企業数
26 社)であり、法律の遵守率では中間的な業種と位置づけられている。
なお、本調査の対象企業である BSRE では PROPER 制度における GREEN 評価を目指し、排
水の目標処理水質を排水基準の 50%値以下と設定している。
2) その他の法規制
① 大気汚染防止
インドネシアでは他の開発途上国と同様、大気汚染問題が顕在化している。汚染源としては、
排出負荷の大きい工場の周辺などで発生した局地的なものがほとんどで、都市部を中心に急増し
ている自動車による大気汚染の方が深刻とされている。
大気汚染の防止のため、1999 年の政令第41号で全国一律の大気環境基準が定められている。
環境基準は二酸化硫黄、窒素酸化物、紛じんなど13項目について測定条件と基準値が示されてい
る。環境基準については汚染防止技術の進展などに伴って5 年に一度見直しされることとなって
いる(環境省資料、2010年3月時点での調査結果)。
排出基準については、固定発生源について1995 年の環境大臣令第13 号によって製鉄業、紙・
パルプ製造業、セメントプラント、石炭火力発電所の4 業種とそれ以外の全ての産業を対象とし
た基準の5 種類の排出基準が設定されている(4業種以外の業種の排出基準は表2.10)。
表 2.10
インドネシアの大気環境基準(その他の産業)
3
上限値(mg/m )
項
非金属
金属
目
現在の基準(1995~)
2000年以降
1.アンモニア
1
0.5
2.塩素ガス
15
10
3.塩化水素
10
5
4.フッ化水素
20
10
5.窒素酸化物
1700
1000
6.不透過光線率
40%
35%
7.ばいじん
400
350
8.二酸化硫黄
1500
800
9.還元性硫黄
70
35
10.水銀
10
5
11.砒素
25
8
12.アンチモン
25
8
13.カドミウム
15
8
14.亜鉛
100
50
15.鉛
25
12
出典)環境省資料、2010年3月時点での調査結果
Ⅳ-16
② 騒音防止、振動防止
騒音の環境基準は騒音基準に関する環境大臣令(1996年第48号)、振動の環境基準は振動基準
に関する環境大臣令(1996年第49号)に規定されている。
表 2.11
土地利用/活動環境
インドネシアの騒音基準
騒音レベル
dB(A)
a 土地利用
1.住居
2.商業及びサービス
3.事務所及び商業
4.緑地
5.工業
6.官庁及び公共施設
7.レクリエーション施設
8.特定施設
空港
駅
港
文化財
土地利用/活動環境
b 活動環境
1.病院又は同等の活動
2.学校又は同等の活動
3.お祈り所又は同等の活動
55
70
65
50
70
60
70
騒音レベル
dB(A)
55
55
55
※
※
70
60
注)※:運輸通信省の関係規制を適用、出典)環境省資料、2010年3月時点での調査結果
表 2.12
インドネシアの振動基準(快適性及び健康に関する振動基準)
振動レベル(×10-6m)
やや影響あり
不快である
周波数
(Hz)
影響なし
4
<100
100-500
>500-1000
>1000
5
<80
80-350
>350-1000
>1000
6.3
<70
70-275
>275-1000
>1000
8
<50
50-160
>160-500
>500
10
<37
37-120
>120-300
>300
12.5
<32
32-90
>90-220
>220
16
<25
25-60
>60-120
>120
20
<20
20-40
>40-85
>85
25
<17
17-30
>30-50
>50
31.5
<12
12-20
>20-30
>30
40
<9
9-15
>15-20
>20
50
<8
8-12
>12-15
>15
63
<6
6-9
>9-12
>12
出典)環境省資料、2010年3月時点での調査結果
Ⅳ-17
弊害がある
2.3.3. ホスト国対象分野における当該プロジェクトのニーズ
ホスト国であるインドネシアの本プロジェクトに対する以下のニーズについて整理する。
① 工場排水の適正な処理に対するニーズ
② 省エネルギーに対するニーズ
③ 地球温暖化防止に対するニーズ
1) 工場排水の適正な処理に対するニーズ
インドネシアでは、産業系等の排水による公共用水域の水質保全に取り組んでおり、環境基準、
排水基準の制定やその効果的な運用を測る PROPER 制度をもとに企業に対して法律の遵守を強
力に求めている。しかし、インドネネシア政府の統計によると、排水処理を行っておらず地表水
及び地下水を汚染する可能性のある大規模・中規模の企業が 約 13,000 社、中小企業では 94,000
社存在しており、排水処理対策を進める必要がある(インドネシア統計局、statistic of Indonesia
2009)。
同国では有機性排水を多く排出するゴム製造業や食品加工業等の工場は大小含めて相当数に上
っており、今後の人口増加と産業活動の拡大を想定すると、有機性排水が今後も増加していくこ
とが想定される。このため、日本の環境保全技術である栗田工業が開発したバイオセーバーTK の
導入は非常に効果的である。
さらに言えば、同国では産業排水を排出する事業者のうち、排水処理施設を有する工場でも生
物処理が十分機能を発揮していないものが多い。生物処理は有機性の排水処理に効果的な処理法
であるが、活性汚泥法を始めとして物理化学的な処理法に比べて、その運転が比較的難しい。そ
のため、活性汚泥法を採用している工場でも、その排水水質は排水基準を満足していない場合も
多い。日本製の技術を導入する際に、排水処理装置を導入するだけでなく維持管理を含めた技術
移転を進めることが、施設の導入以上に重要なことである。日本製の技術(装置)の導入に加え
て、維持管理も含めたトータルエンジニアリングを行う日本型技術サービスが同国の環境管理に
極めて効果的と想定される。
2) 省エネルギーに対するニーズ
インドネシアでは電力の普及が進んで入るものの、未だに未電化の地域があり、また電気が普
及している地域でも安定な供給ができずに停電が頻発するという地域もある。すなわち、同国に
おいて電気は依然として貴重なものであり、今後インドネシアの産業の発達においては電気の安
定的な供給は不可欠である。このような電力事情にあるため、第 2 章にも示したようにインドネ
シア政府は省エネルギーを積極的に進めている。
今後の経済的な発展に伴ってゴム製造業や食品工場が増加し、上記のように排水基準を遵守す
るように排水処理を行う場合、活性汚泥法に代表される好気性処理が採用されることとなり、曝
気による多大なエネルギー消費が予想される。このため、有機性排水処理においてエネルギー消
費の少ない排水処理法の導入が望まれる。
Ⅳ-18
嫌気性処理は酸素のない環境で生息する微生物を用いた処理法でメタン回収が可能であり、こ
れを好気性処理法の前段に用いることでエネルギー使用量を大幅に低減させることができる。た
だし嫌気性処理は代表的な処理法である UASB 法のように、低濃度ではその微生物の流出を防ぐ
ことができず、処理が困難であるとされてきた。本事業で導入する嫌気性処理法であるバイオセ
ーバーTK は、担体に微生物を付着させて微生物の流出を防ぐことから、低濃度有機性排水にも適
用が可能となっている。
インドネシア政府は環境保全を目的として厳しい排水基準を設定しているものの、排水処理施
設の普及が進まないのは既存の排水処理技術がエネルギー多消費型であることにも原因があると
考えられる。従って本事業のような省エネルギー型の排水処理法はこのニーズに極めてマッチす
る。
3) 地球温暖化防止に対するニーズ
インドネシアは温室効果ガス排出削減の目標として 2020 年までに独自の努力で 26%、国際的
な支援を得ることで 41%の削減を図るとしており、積極的な低炭素化の取組を進めている。
また、温室効果ガスの将来推計にも見たように(第2章)
、同国の電源構成が火力を中心とした
ものであることから(石油、石炭、天然ガスを用いた火力発電が全体の 94%を占める、2011 年)
、
今後の電気使用量の増大が温室効果ガス排出量に大きな影響を与える。さらに本事業の対象地域
のように、未電化の地域においては工場内で軽油を使った自家発電により電気を調達しており、
その排出係数はグリッドの電気よりも大きなものとなる。本技術のように省エネルギー型の排水
処理法は同国の地球温暖化防止のニーズにも大きく貢献することができる。
このようなことから、ホスト国の排水管理、省エネルギー対策、地球温暖化防止(温室効果ガ
ス削減)のための目標を達成するために、本技術は極めて整合している。さらに言えば、このこ
とは同国の今後の経済成長とその成長を支える環境保全、低炭素化といった理想的な技術的要件
を満たしている。今後同国の NAMAS の施策実施においても、本技術の導入が有効と考えられる。
Ⅳ-19
2.4. プロジェクトの普及
プロジェクトの普及の段階を以下の 3 段階で想定する。
①インドネシアの天然ゴム製造工場(企業)、特に電力調達コストの大きな工場
②インドネシアの低濃度有機性排水を排出する工場(企業)
③東南アジアの天然ゴムを含む低濃度有機性排水を排出する工場(企業)
1) インドネシアの天然ゴム製造工場(企業)
本プロジェクトはインドネシアの天然ゴム製造工場のうち、好気性処理システム(活性汚泥法)
を導入している工場の排水処理システムを対象としており、まずインドネシア国内における大規
模天然ゴム製造工場における普及を目指す。
PROPER 制度の適用対象となっている工場は 52 箇所あり、その中の 15 工場について本調査
でアンケート、ヒアリングを行った(第 6 章参照)
。この 15 工場のうち好気性処理を行っている
工場は 14 工場(93%)であった。PROPER 対象企業は大・中規模企業であるため、活性汚泥法
を採用している企業が多かったと考えられるが、比較的生産量が少ない工場(5000t/年程度)で
も活性汚泥法を採用しており、インドネシア全体では活性汚泥法を採用している天然ゴム製造工
場は数十箇所に上ると想定される。
工場にとっては、電気使用量を低減して温室効果ガスが削減できるといっても、嫌気性処理シ
ステムの導入においては経済効果が重要である。すなわち、電気使用量の削減コストと嫌気性処
理の導入コストの比較によって、電気使用量の削減コストが大きい場合に採用されることになる。
そのため、嫌気性処理導入コストが地域的に同じであると仮定すると電気調達コストが大きいほ
うが導入しやすいと考えられる。
本プロジェクトの対象工場である BSRE では電気は軽油を燃料とした自家発電により調達され
ており、電気調達コストは比較的高かった(約 2780IDR/kWh)
。インドネシアの一般的な電力供
給単価は 1000IDR/kWh 以下と想定されるが、本事業のように電力の調達コストの高い地域でそ
の効果が高いと考えられる。アンケートを行った 15 工場のうち、電力調達先の回答を得たのは 8
工場で、その内訳はグリッドのみが 4 箇所、自家発電のみが 2 箇所、グリッドと自家発電の両方
が 2 箇所であった。天然ゴムの農園はスマトラ島(北スマトラ州、リアウ州、ジャンビ州、南ス
マトラ州)とカリマンタン島(西カリマンタン州、中カリマンタン州)に多く、そこでの電化率
は他の地域に比較して低いものとなっている(表 2.13)。
表 2.13
島
スマトラ島
カリマンタン島
インドネシアゴム農園の多い州での電化率
州
北スマトラ州
リアウ州
ジャンビ州
南スマトラ州
西カリマンタン州
中カリマンタン州
出典)インドネシア最近の電力事情、矢野友三郎、2013 年 12 月
Ⅳ-20
電化率(%)
87.01
79.09
78.18
74.83
67.87
69.20
このように天然ゴム製造工場での自家発電の導入工場が多いことから、その工場を中心に普及
を図ることが有効である。
2) インドネシアの低濃度有機性排水を排出する工場(企業)
一方、本プロジェクトは天然ゴム製造工場のみを対象としているが、インドネシアにおいては
有機性排水を排出する食品工場なども多く立地しており、そこで活性汚泥処理を採用し電力調達
コストの高い地域では同様の考え方で本システムが導入されることが期待される。現に、本プロ
ジェクトの共同提案者である栗田工業では、我が国において活性汚泥法の前段に嫌気性処理を導
入したシステムを食品工場を中心として 50 件以上導入している。
本調査ではインドネシアの排水処理等のデータを収集するための時間的な制約から天然ゴム工
場に限定したが、同様の方法論(パラメータは異なる)で他業種での導入検討を行うことにより、
同システムの幅広い普及を図ることが期待される。
3) 東南アジアの天然ゴムを含む低濃度有機性排水を排出する工場(企業)
さらに、インドネシア以外の東南アジア諸国においても同様のシステムの導入が考えられる。
天然ゴムの生産については 2.2 に示したように、
タイがインドネシアと同規模の生産をしており、
マレーシアやベトナムでも生産量が多いことからこれらの地域での普及も想定される。排水処理
も活性汚泥法を用いている可能性が高く、図 2.7 に示すように電気料金が比較的高い国では、本
システムの導入がより効果的である。
このように、本技術の普及は本調査で構築した方法論を用いてまずインドネシア国内における
大中規模の天然ゴム工場を対象に普及を進める。また、方法論の拡張を行って同国での低濃度有
機性排水を排出する他業種への普及を図る。続いて、他の東南アジアを中心とした国への同様の
方法論を構築して、本プロジェクトを普及させることが可能である。
出典)東南アジアにおける発電・送電事情と将来計画研究会
―東南アジアの電力需要に関する研究(2012)-
図 2.7
東南アジアの電力料金
Ⅳ-21
3. 調査の方法
3.1. 調査実施体制
本調査の実施体制は以下のとおりである。
ブリヂストン関連会社の現地法人 BSRE(Bridgestone Sumatra Rubber Estate)は現在の排水
処理に関する各種データの提供、事業収益性の評価、投資決定の判断を行う。また、排水処理プ
ラントの提供メーカーである栗田工業は本調査の協力企業として、排水処理設備、工事計画、設
備の維持管理方法の検討を分担する。さらに、MRV 方法論の構築においては、CDM 方法論の構
築等において経験が豊富な日本テピアの協力のもと、適正な方法論の構築を行う。
日水コンは事業実施フレームを構築し、MRV 方法論の構築、現行の排水処理システムの評価と
新処理プロセスの検討、温室効果ガスの削減効果の算定、事業収益性の検討を行う。
(株)日水コン
(株)ブリヂストン 系列企業
PT. Bridgestone Sumatra
Rubber Estate
外注
(株)日本テピア
【外注】
MRV方法論の作成
支援
(株)栗田工業
・排水処理技術の検討支援
・排水処理工事の検討支援
図 3.1
表 3.1
国
日本
ホスト国関係者
中央政府(環境省:KLH)
地方政府(州、地方自治体)
調査実施体制図
調査実施体制とその役割
調査実施に関与した団体名
株式会社 日水コン
役
割
・本調査の実施主体
・MRV 方法論の開発、PDD 案の作成
・事業実施方法の検討、全体取りまとめ
<外注>
・排水処理技術の検討支援
栗田工業 株式会社
・排水処理工事費算出
(本事業で導入予定の嫌気性処理の提供メーカー)
<外注>
・方法論の作成支援等
日本テピア 株式会社
(インドネシア国内同種業務の工場調査によるリファ
レンスシナリオの設定、法規制等の調査など)
ホスト国
Bridgestone Sumatra Rubber
Estate (BSRE)
・現地の天然ゴム製造工場
・事業主体となる現地法人
Ⅳ-22
3.2. 調査課題
BSRE はインドネシアで、自社が保有する農園からの天然ゴムを原料として、ゴム製品原料を
製造している。工場内で利用される電力は、軽油による発電でまかなっており、軽油の年間使用
量が多くその消費量の低減が課題である。
当該工場の生産過程で発生する排水は活性汚泥法(好気性処理)で処理されており、多大な曝
気エネルギーを必要とする。このため、本事業では現在の好気性処理に嫌気性処理(メタン回収)
を付加し、活性汚泥法の曝気動力を軽減させるとともに、嫌気性処理の特徴である汚泥発生量の
低減、さらに回収したメタンを燃料として利用することで、温室効果ガスの削減を図る。
本 FS 調査での課題は以下の通りである。
① 嫌気性処理の対象とする排水及び有機物の特定
本事業で導入を予定している栗田工業のバイオセーバーTK は、低濃度の有機性排水でもメタン
ガスの回収が可能ではあるが、低濃度排水からのメタンガスは少量とならざるを得ない。また、
排水中の有機物は固形性と溶解性のものがあり、溶解性有機物は分解が早く容易にメタン発酵す
るのに対し、固形性有機物は分解が遅く一般には排水処理後の汚泥を再度分解するための嫌気性
処理槽(下水道施設で多く見られる消化槽と同じもの)を設置して処理を行うため、この処理施
設の規模が大きくならざるを得ない。温室効果ガス削減の観点からは低濃度の排水も固形性有機
物もメタン発酵の対象とするべきであるが、その結果施設規模が大きくなりその投資効果は低減
する。
BSRE は、投資回収年数を施設導入の判断基準としており、本 FS 調査ではその条件を満たす
施設改良方法を提案することが主要な課題である。当該工場の排水系統は数系統あり、その排水
量と水質が異なっている。そのため、効率的に嫌気性処理を行う排水系統を決定し、経済的な施
設規模を決定することが重要である。
② 嫌気性処理によるガス発生量の把握
一般的に、嫌気性処理でのメタンガス発生量は排水の水質(溶解性 CODcr と固形性 CODcr)
からその分解率を設定することで推計することができる。ただし、BSRE としては実際の排水か
らのガス発生実験を通して施設規模を決定することを要望しており、本 FS 調査の工期からは、
実験室レベルでのガス発生実験を行って、施設規模を決定することとした。なお、BSRE は慎重
を期すために小規模のプラントを設置して連続実験を行うことを予定しているが、FS 調査にはそ
の結果が間に合わないため、その結果は次年度の補助事業の応募時点で反映させることとした。
③ コジェネ利用のための熱需要調査
回収したメタンガスのエネルギーを最大限に利用するためには、発電による電力の回収とその
発電廃熱からの熱利用が効果的である。そのため、同工場ではゴムの乾燥工程に軽油を熱源とし
て使用しており、この乾燥工程で熱を利用することが最も効果的である。そのため、工場内での
温水利用、乾燥工程での熱利用の可能性についても調査する。
④ インドネシアのゴム製造工場に関する調査
方法論におけるリファレンスシナリオ設定のために、インドネシアのゴム製造工場に対してア
Ⅳ-23
ンケート並びにヒアリング調査を行う。PROPER 制度の対象となっている 52 の工場のうちで協
力がお願いできる 15 工場を対象に、ゴム生産量、排水量、排水処理法、エネルギー使用量、適用
される排水基準などの調査を行い、リファレンスシナリオを設定する。
3.3. 調査内容
3.3.1. 調査項目
調査課題を解決するために行った全体の調査内容を箇条書きすると以下の通りである。
① 生産工程別の排水量、排水水質の把握
② 排水からのメタンガス発生実験
③ 排水処理に要しているエネルギー使用量の把握
④ 効果的な嫌気性処理を付加した排水処理改善案の提示(6.1 プロジェクト開発状況で記述)
⑤ 排水処理改善案の評価(6.1 プロジェクト開発状況で記述)
⑥ 方法論設定のための天然ゴム工場の実態調査
⑦ 本プロジェクトの方法論案の提示(4.JCM 方法論に関する調査結果に記述)
⑧ 利害関係者のコメントの収集(5.7 利害関係者のコメントに記述)
⑨ 最適な排水処理改善案における資金計画(6.1 プロジェクト開発状況に記述)
プロジェクトの事業効果をあげるため、異なる排水系統のどの排水を対象として嫌気性処理を
行い、どのような処理プロセスとするかを明らかにするために現地調査を行う。また、メタンガ
ス阻害物質の存在を確認するための詳細な排水水質分析、並びにガス発生実験を行う。さらに、
既存排水処理施設の電気使用量、軽油使用量の実態の把握をもとに、嫌気性処理を付加した排水
処理施設の改善案の提示とその評価を行う。そして、方法論作成におけるリファレンスシナリを
作成するためのインドネシア国内における天然ゴム製造工場の実態調査とそれに基づく方法論の
構築を行う。さらに、利害関係者として周辺住民の本事業へのコメントを収集する。最後に、排
水処理施設の最適な改善案の事業費を算定して、その資金計画を作成することとした。
なお、本章では上記の調査内容のうち、①、②、③、⑥について記述し、他の調査内容は 4 章、
5 章、6 章の関連するところで記述する。
3.3.2. 現地調査結果
現地での調査として、4 回の調査を実施した。
① 第 1 回現地調査:排水処理工程のサイト確認、各種データの収集
② 第 2 回現地調査:ガス発生実験のための現地確認、追加データの収集
③ 第 3 回現地調査:熱需要調査、利害関係者のコメント収集(周辺住民、地方政府)
④ 第 4 回現地調査:ホスト国会合
現地調査の結果の概要を以下に示す。
1) 第 1 回現地調査
① 調査時期:2013 年 7 月 22 日~25 日
Ⅳ-24
② 調査箇所:ゴム農園、ゴム生産工程、排水処理施設
③ 応対者:BSRE 職員
④ 調査結果
・ 工程排水別の水量実測値(2013 年 1 月~6 月の日平均値)を収集し、排水処理施設の改良
案として、複数の嫌気処導入案を選定した。
・ 工場内施設配置図の収集と新規プラント設置用地の概略面積を確認した。
・ 沈殿汚泥からのメタンガス回収も含めた排水処理方式案の検討のため、ラボスケールでの
汚泥沈降実験と、追加で水質調査が必要な地点を選定し、採水・水質分析を BSRE に依頼
した。
・ バイオガス発生実験の実施方針(実験は栗田工業試験所で実施)
、並びに次年度の設備設置
工事を含む今後の作業工程を確認した。
・本調査の提案書で検討予定であった 2 箇所の工場(スマトラ、カリマンタン)のうち、カ
リマンタン工場の排水規模が当初想定より小さく、その導入効果に課題があることが判明し
た。 BSRE としては、先にスマトラ工場の排水処理施設の検討を優先させることを希望し
ており、本調査の対象としてはスマトラ工場のみとした。
BSRE 工場事務所
BSRE 工場全景
排水処理施設(曝気槽)
排水処理施設(沈殿池)
写真 3.1
BSRE 工場内の概要
Ⅳ-25
2) 第 2 回現地調査
① 調査時期:2013 年 9 月 24 日~27 日
② 調査箇所:排水処理施設、自家発設備、ゴム乾燥機
③ 応対者:BSRE 職員
④ 調査結果
・ メタンガス発生実験(ラボスケールのバッチ試験)の結果、水質濃度は低いものの、溶解
性 CODcr の分解率は 80%と良好な結果となっており、嫌気性処理による既設活性汚泥処理
施設への汚濁負荷削減効果とメタン回収によるエネルギー利用の効果については共通認識
に達した。
・ 本実験結果を用いて、嫌気性処理導入によるエネルギーの削減効果を算出した結果、排水
処理施設改善案のうち第2案が費用効果面で有効と考えられ、以降の検討ではこの第2案
を中心に検討を行っていくこととした。
・ プラントの建設費、薬品費について今後精査する必要があるが、BSRE が基準とする投資回
収年の基準はかなり高いレベルと想定されるため、省エネルギー対策及び発電廃熱の熱利
用についてもあわせて検討することとした。
・ BSRE においてゴム乾燥設備の改良計画が進んでいることから、メタンガスの利用は発電及
び温水利用として考えることとした。
・ 環境影響評価の必要性、利害関係者のヒアリング調査については、BSRE において調整し、
次回の現地調査時点で資料提供あるいはヒアリング調査できるように準備する。
3) 第 3 回現地調査
① 調査時期:2014 年 1 月 8 日~11 日
② 調査箇所:排水処理施設、水質分析試験所、電力計測設備
③ 応対者:周辺住民、地方政府関係者、BSRE 職員
④ 調査結果
・ 利害関係者のコメントの収集のため、周辺住民へのヒアリングを行った。工場内に住む世
帯のうちから 19 世帯の代表者にアンケート形式で質問を行ったところ、
以下の結果を得た。
まず本事業の実施に対して 6 割が賛成し、どちらでもないを含めると 9 割程度であり、反
対は少なかった。また日本の技術を導入することについても 7 割程度の人が賛成であった。
・ 地方政府へのヒアリングを行い、地域長(Simalungun 地域)から本事業の貢献度と安全性
について質問を受け、軽油削減の大きな効果と地域への安全性に全く問題ないことを説明
した。その結果、地域長から本プロジェクトを歓迎すること、他の関連する行政機関に連
絡すること、汚泥有効利用についても協力することのコメントを得た。
・ 水質分析機器については、COD、NH3 ともに滴定法による分析を行っており、校正を必要
とする分析機器を用いていないことが分かった。この水質分析方法についての準拠法(イ
ンドネシア国家基準)とその方法に準じた標準作業手順書を作成し実施していることを確
認した。また、本工場の全ての作業が ISO9001 及び 14001 の対象となっており、内部監査、
Ⅳ-26
外部監査も適切に行われていることを確認した。さらに、PROPER 制度の対象となってい
ることから、月に 1 度水質分析を含めた環境管理の審査を受けており、これも「緑」また
は「青」の高い評価を受けていることを確認した。
・ 電力計については、機器校正の内容を確認できなかったため、今後プロジェクト開始まで
に校正の内容などをメーカー等と確認しておくことが必要であることを確認した。ただし、
発電に用いている軽油の量から算定された発電効率は、発電機のスペックである 30%前後
の数値を得ており、十分な精度で計測できていることがうかがえた。
・ 熱需要については、温水需要と乾燥機に関する熱需要を調査した。温水需要として大口は
クラブハウスや宿舎の入浴施設などわずかな施設であり、需要は多くないことを確認した。
また、乾燥過程での予備熱源としての利用可能性について調査したところ、現在乾燥機の
改良を進めており、本プロジェクトでの排熱利用の可能性を確認することはできなかった。
・ 仮報告書の協議において、工場の稼働日数について年間 20 日程度しか休まないことが判明
し、その稼働日数の修正が必要であることが判明した。また、プロジェクトの事業効果(投
資回収年数)についても BSRE の基準に満たないことから、工事費の見直しが必要との指
摘を受け、装置メーカーの協力を得て見直すこととした。
地方政府へのヒアリングの様子
地域住民へのヒアリングの様子
写真 3.2 利害関係者のヒアリング状況
水質分析機器
ブロアの電力計
写真 3.3
モニタリング機器
Ⅳ-27
4) 第 4 回現地調査(ホスト国会合)
① 実施時期:2014 年 2 月 20 日
② 実施場所:ジャカルタ、グランドハイアット・ホテル会議室
③ 当セッションへの参加者:インドネシア政府、日本大使館等の担当者
等
(当プロジェクトを聴講し意見交換をした参加者)
④ 実施結果
・インドネシアを対象として、日本国の低炭素化に取り組むモデルプロジェクト等(環境省、
経済産業省)の紹介があり、また JCM 実現可能性調査の調査結果が発表された。
・本プロジェクトについても、調査結果を取りまとめその成果を発表した。インドネシア政府
からは排出権取引メカニズム室(Carbon Trade Mechanis Division)の担当者等から質問を受
け、成果発表後のヒアリングで有益なコメントを得た。
・排出権取引メカニズム室担当者からは、当プロジェクトへの強い関心があると説明を受けた
後、本排水処理技術が他の工場、産業でも適用できるかどうかの質問があり、排水水質と水
量規模などを調査して適用性を検討すべきであることを説明した。
・また、排出権取引メカニズム室担当者より、本プロジェクトで導入を想定する嫌気処理技術
(バイオセーバーTK)の導入事例や、メタンガス発電電力の排水処理施設外(工場内部及び
工場外部)への供給可能性について質問があり、国内での導入事例や本プロジェクトにおけ
るメタンガス発電電力と嫌気処理施設での電力消費量の量的なバランスについて説明した。
写真 3.4
ホスト国会合(当社発表セッションの様子)
Ⅳ-28
3.3.3. 排水量、排水水質の把握
1) 排水量
まず、工程別の排水量を把握すると図 3.2 の通りである。工程排水は大きく分けると3系統に
分けられる。工程排水 1 は水量が少なく(82 m3/日)
、工程排水 2 は約 5600m3/日、工程排水 3 は
約 1900m3/日となっている。
工程排水 1 と工程排水 2 は予備沈殿池に流入した後調整槽に流入し、工程排水 3 は調整槽に直
接流入している。活性汚泥処理施設は 2 系列となっており、それぞれ反応タンク(曝気槽)
、脱窒
槽、沈殿槽が直列に配置され、計量槽に流入後、河川に放流されている。
①工程排水1
活性汚泥処理系列1
81.5m3/日
反応タン
ク(曝気
槽)
脱窒槽
沈 殿槽
5,668.5m3/日
予備沈殿池
7,564.5m3/日
③沈殿池
流出水
⑤反応
タンク流
入水
5,587m3/日
1,896m3/日
②工程排水2
計量槽
活性汚泥処理系列2
反応タン
ク(曝気
槽)
脱窒槽
2,269.35m3/日
河川
沈 殿槽
5,295.15m3/日
④工程排水3
( Recycle )
注)排水量は調査時点の水量
図 3.2
生産工程排水と排水処理フロー
また、月別排水量の推移を見ると以下のとおりであり、変動は大きいものの近年では 20 万m3/
月程度で推移している。
500,000
Inlet flow rate(m3/month)
450,000
400,000
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
08/1 08/5 08/9 09/1 09/5 09/9 10/1 10/5 10/9 11/1 11/5 11/9 12/1 12/5 12/9 13/1 13/5
図 3.3
月別排水量の推移
Ⅳ-29
2) 排水水質
BSRE で通常行っている水質分析の採水地点は排水処理装置への流入と流出部分のみであり、
個別の工程排水毎の水質分析は行っていない。また、嫌気性処理による分解速度を考慮すると、
溶解性 CODcr と固形性 CODcr の内訳を調べることが重要であるとともに、メタンガス発生量に
影響を及ぼす重金属等の物質についても測定することが必要である。これらのことから、生産工
程別の排水をサンプリングし分析を行った。
工程別の排水水質を測定した結果を以下に示す。まず、S-CODcr(溶解性)と T-CODcr(溶解
性、固形性の合計)の濃度は溶解性 CODcr の割合が少ないこと、また工程によってその傾向が異
なることが分かる。
さらに、メタン発酵に影響を与える物質として硫酸イオン(SO4-)や金属があげられるが、系
統によって硫酸イオン濃度が高いものがあり、影響が懸念される。
表 3.2
工程排水別の水質分析結果
Unit
①
工程排水
1
②
工程排水
2
T-CODcr
mg/L
960
672
S-CODcr(VFM-Filter)
mg/L
S-CODcr
mg/L
406
T-BOD
mg/L
560
250
S-BOD
mg/L
260
115
NH3-N
mg/L
79
26
SO4 ion
mg/L
36
27
PO4-P
mg/L
49.5
44.8
水質項目
③
沈殿池
流出水
④
工程排水
3
⑤
反応タンク
流入水
519
228
479
464
333
170
350
253
287
79
247
注)排水種別の番号は図 3.2 の番号と対応している。
表 3.3
項目
単位
メタン発酵に影響を与える物質の排水水質分析結果
工程排水2
工程排水1
反応タンク
流入水系列1
反応タンク
流入水系列2
SO4 ion
mg/L
15
36.0
25
27.0
Ca
mg/L
23.7
12.1
19.3
18.3
Mg
mg/L
21.7
30.3
14.4
16.5
Fe
mg/L
1.73
0.205
0.743
1.39
K
mg/L
119
68.3
90.7
120
Ni
mg/L
<0.044
<0.044
<0.044
<0.044
Cr
mg/L
<0.020
<0.020
<0.020
<0.020
Zn
mg/L
0.098
<0.050
0.082
0.091
Sn
mg/L
<0.076
<0.076
<0.076
<0.076
Ⅳ-30
次に、活性汚泥処理施設の流入水と処理水の水質(CODcr、BOD、NH3-N)とその除去率を表
に示す。全ての水質項目が除去率 90%以上であり、CODcr はほぼ 50mg/l 以下と排水基準を大幅
に下回っており、排水処理施設は良好に処理されている。
表 3.4
既存活性汚泥処理施設の 流入水と処理水の水質、除去率
CODcr(mg/L)
BOD(mg/L)
NH3-N(mg/L)
流入水
処理水
除去率
流入水
処理水
除去率
流入水
処理水
除去率
2008
725
43
94.1%
363
23
93.7%
31.4
1.2
96.3%
2009
597
37
93.8%
284
19
93.4%
25.8
1.3
94.9%
2010
722
71
90.2%
336
33
90.2%
39.7
3.0
92.3%
2011
770
38
95.0%
371
19
95.0%
43.5
1.4
96.8%
2012
454
29
93.6%
225
15
93.5%
18.4
1.2
93.7%
2013
368
26
93.1%
200
14
92.8%
17.0
0.6
96.3%
平 均
93.3%
93.1%
95.1%
注)2013 年は 1 月から 8 月までの実績
表 3.5
既存活性汚泥処理施設の曝気槽の MLSS、DO 濃度
系列 1(mg/L)
系列 2(mg/L)
MLSS
MLDO
MLSS
MLDO
2008
2,147
1.6
-
-
2009
1,873
1.6
-
-
2010
2,373
2.0
-
-
2011
2,207
1.6
2,032
1.6
2012
1,833
1.6
1,847
1.6
2013
1,590
1.5
1,650
1.5
平 均
2,004
1.7
1,843
1.6
注)2013 年は 1 月から 8 月までの実績、系列 2 は 2011 年からの稼働である。
Ⅳ-31
3.3.4. メタンガス発生実験
溶解性 CODcr の割合が少ないことや、若干の発酵阻害物質を含むことを踏まえ、メタンガス発
生実験を実施した。
1) 実験原水
実験原水の試料と水質は以下のとおりである。試料は TSS ろ過後と VFA ろ過後の 2 種類とし
ている。TSS ろ過後はろ紙の目が細かいためほとんどの固形性 CODcr は含まれず、VFA ろ過後
はろ過の目が粗いため細かな固形性 CODcr が含まれている。このようにろ過後の試料を使ってい
るのは、嫌気性処理の前段で沈殿処理を行うことを想定していることによる。
表 3.6
実験原水の水質
項目
TSS ろ過後
VFA ろ過後
試料
試料
pH
-
7.2
7.0
導電率
mS/m
73.4
88.6
T
mg/L
283
405
S
mg/L
272
179
TOC
mg/L
103
74
T-N
mg/L
47.0
31.0
T-P
mg/L
38.5
41.2
CODCr
2) 実験条件
実験条件は以下のとおり。嫌気性処理のもととなるバイオマス(微生物)を投入してガス発生
実験を行った。
表 3.7
分類
①試験原水
②試験サンプル組成
③その他
実験条件
項目
実験条件
ブランク
-
排水(TSS ろ過試料、VFA ろ過試料)
-
グラニュール汚泥(ビール工場より採取)
10%
排水または標準液(純水)
80%
りん酸 Buffer
10%
試験時水温
35℃前後
汚泥からの溶出を防ぐ目的で、振とう方式にて実施
Ⅳ-32
3) メタンガスの発生状況
VFA、TSS ともにメタンガス発生量に大きな差は見られなかった。
なお、20 時間後まではブランクとの差がないが、この期間は実験系内での馴致期間と判断でき、
連続処理系施設での反応時間は、本実験結果よりも 20 時間程度、短縮されると判断できる。
Gas
gen
era
tion
(ml
/L)
Time (hr)
図 3.4
メタンガス発生量の推移
4) 有機物分解率
(1)溶解性有機物(S-CODcr)の分解率
嫌気性処理実験開始前、開始後の S-CODcr の値を次表に示す。
実験期間中の S-CODcr 除去量から、嫌気性処理による S-CODcr の分解率は約 80%と算出され
る。
表 3.8
項目
ブランク
T-CODcr 開始
実験結果
排水
排水(ブランク考慮)
TSS
VFA
50.8
485
249
S-CODcr 開始
13.9
219
S-CODcr 終了
38
S-CODcr
分解量
S-CODcr
分解率
TSS
VFA
143
205
129
75
62
37
24
-
-
-
168
105
-
-
-
82%
81%
Ⅳ-33
(2)固形性 CODcr(SS-CODcr)の分解率
図 3.4 に示すとおり、VFA ろ過試料と TSS ろ過試料でのメタンガス発生量はほぼ同量であった
が 、 表 3.8 の と お り メ タ ン の 原 料 と な る S-CODcr の 分 解 量 は VFA ろ 過 試 料 の 方 が
168mg/L-105mg/L=63mg/L 少ないため、この差分の 63mg/L 分は VFA ろ過試料に含まれる微小
な*固形性 CODcr(SS-COD)が分解されて補充されていると想定される。
なお、実際の嫌気性処理実験はリン酸 Buffer 等を添加して実験原水を希釈しているため、微小
な*固形性 CODcr(SS-COD)の分解量 63mg/L を実験原水に換算すると、63mg/L×(179mg/L÷
129mg/L)=87mg/L となる。
以上の結果から、嫌気性処理による固形性 CODcr(SS-CODcr)分解率を算定すると、以下の
とおり 21.8%となった。
表 3.9
固形性 CODcr(SS-CODcr)の分解率
項目
実験原水の濃度
T-CODcr
672mg/L
VFA フィルター残留物
SS-CODcr
672mg/L-
嫌気性処理実験
嫌気性処理
での分解量
での分解率
87mg/L+218mg/L
305mg/L÷672mg/L
=305mg/L
=45.4%
0mg/L と想定
87mg/L÷400mg/L
87mg/L
=21.8%
272mg/L
微小な*固形性有機物
S-CODcr
=400mg/L
272mg/L
272mg/L×82%
=223mg/L
82.0%
*:本検討では VFA フィルターを通過する固形物(TSS フィルターは通過不可能な物質)を「微
小な」固形物として定義する。
5) 実機における処理効果の設定
嫌気性処理実験では工程排水そのものを対象としたが、実機においては嫌気性処理施設に送水
される前に沈殿池において SS-CODcr の一部が沈殿・除去される。この場合、沈殿池での
SS-CODcr 除去に伴い、SS-CODcr の組成(微小な固形物の占める割合)が変化することから、
嫌気性処理における SS-CODcr 分解率もそれを反映して補正する必要がある。
(1)沈殿池での SS-CODcr 除去率の設定
沈殿池では重力の作用によって固液分離が行われるため、除去対象となるのは重量の大きい固
形性有機物である。このため、VFA フィルターを通過するような微小な固形性有機物や溶解性有
機物は除去されず、VFA フィルターに残留する大きな有機物のみが除去される。
沈殿池での有機物除去率は、日本の下水道における一般的な固形性有機物の除去率(67%)を
参考に、安全率を見込んで 40%と設定した。なお、BSRE が 7/25、7/26 に実施した排水 B の沈
降実験では、排水の沈降性は比較的良好であったことから、設定した SS-CODcr 除去率は過大な
Ⅳ-34
設定ではないと見込まれる。
排水 B 沈降試験(7/25 実施時) 試験前試料
図 3.5
排水 B 沈降試験(7/25 実施時) 6 時間静置後
BSRE による排水 B の沈降試験結果(抜粋)
(2)嫌気性処理施設での有機物除去率の設定
溶解性有機物(S-CODcr)は沈殿池では除去されないため、嫌気性処理実験結果(82%)をそ
のまま採用する。一方、固形性有機物(SS-CODcr)のうち、VFA フィルターに残留する大きな
有機物は沈殿池において一部が除去されるが、VFA フィルターを通過する微小な有機物は沈殿で
も除去されないと想定するため、嫌気性処理による SS-CODcr の除去率は 36.3%となる。
表 3.10
項目
実機における固形性 CODcr(SS-CODcr)の除去率
実験原水
SS-CODcr
400mg/L
S-CODcr
272mg/L
嫌気性処理で
嫌気性処理で
の
の
分解可能量
除去率
240mg/L
87mg/L
36.3%
272mg/L
223mg/L
82.0%
沈殿池での
嫌気性処理
除去濃度
流入水質
400mg/L×40%
=160mg/L
0mg/L
Ⅳ-35
3.3.5. エネルギー使用量の調査
排水処理で使用されたエネルギー量を表 3.11 に示す。排水処理での年間電力使用量は 5 年間平
均で 2,367MWh/年、その発電のために用いられた軽油は 751kL/年と推計されている。
また、工場内での発電電力量と軽油使用量から 5 年平均の発電効率は 30.2%、発電電力量 1kWh
当りの軽油使用量は 0.317L/kWh であった(表 3.12)。さらに、2012 年度の軽油購入額が 358.7
万 US$であることから、軽油単価は 0.8760US$/L である(1US$=10,000IDR と設定)
。
表 3.11
排水処理で使用されたエネルギー量
電力使用量 (kWh/y)
系列 1
系列2
軽油使用量推計値(L/y)
合計
系列1
系列2
合計
2008
2,265,611
-
2,265,611
738,739
-
738,739
2009
1,700,101
-
1,700,101
548,814
-
548,814
2010
2,941,840
-
2,941,840
950,264
-
950,264
2011
1,753,540
1,177,160
2,930,700
547,708
368,079
915,787
2012
1,132,120
864,040
1,996,160
342,274
261,074
603,348
314,576
751,390
平 均
1,958,642
1,020,600
2,366,882
625,560
注)軽油使用量は全体の使用量から電力使用量比で推計したもの
表 3.12
発電電力量
(kWh/y)
工場内での発電電力量、軽油使用量
軽油使用量
(L/y)
発電効率
(%)
電力量当り軽油
使用量(L/kWh)
2008
16,852,613
5,496,515
29.3%
0.326
2009
12,926,430
4,152,430
29.7%
0.321
2010
17,790,774
5,744,905
29.6%
0.323
2011
17,356,861
5,408,650
30.6%
0.312
2012
13,577,472
4,094,565
31.7%
0.302
平 均
15,700,830
4,979,413
30.2%
0.317
注)軽油発熱量 37.7MJ/L、1kWh=3.6MJ、
2012 年の軽油購入費用は 358.7 万 US$より、軽油単価は 0.8760US$/L
Ⅳ-36
3.3.6. 天然ゴム製造業の実態調査
インドネシアの天然ゴム製造工場に対して以下の実態調査を行った。調査項目は以下のとおり
である。
① ゴム製品名(種別)
② ゴム生産量
③ PROPER ランク
④ 燃料使用量
⑤ 電力使用量
⑥ 自家発燃料
⑦ 自家発電量
⑧ 排水処理法
⑨ 排水水質
⑩ 排水基準及びその根拠法規制
⑪ 排水処理に要するエネルギー
調査はまずアンケートの配布による記入をお願いし、その後電話による聞き取り調査を行った。
その結果を表 3.13 に示す。回答を得られた工場は 15 箇所であり、ゴム製品種別はほとんどが技
術的格付けゴム(Technically Specified Rubber)と呼ばれる種類であり、製品名は SIR(TSR の
インドネシア生産の製品名)20、10(ゴムに含まれる不純物と灰分の量により格付け)といわれ
るものである。
ゴム生産量は最大でも 5 万 t/年未満であり、BSRE の 7 万t/年超は相当多いことが見て取れる。
生産工程で用いている燃料は軽油がほとんどであり、軽油で自家発電を行っている工場は 11 箇所
と全体の 3/4 を占めている。
また、PROPER 制度の評価ランクは青「BLUE」が 10 箇所、対象外が 5 箇所であり、工場で
の環境管理が基準を満たしていると評価されている工場が多くなっている。
工場が採用している排水処理法は、14 工場で活性汚泥法が採用されている。また、その工場に
適用されている排水基準については、第 2 章に示した環境大臣令 1995 年第 51 号が多かったが、
各州の知事令を挙げた工場も幾つかあり、特に南カリマンタン州知事令の排水基準値は大臣令よ
り厳しい排水基準となっていた(BOD20mg/L、CODcr40mg/L、SS50mg/L)。
1 日平均排水量は、非常にばらつきが大きく、1000m3/日未満が 4 箇所、1000m3/日から 2000m3/
日が 3 箇所、2000m3/日から 3000m3/日が 3 箇所、3000m3/日以上が 3 箇所となっていた。
排水水質は CODcr の 500mg/L 以上が 6 箇所、それ以下が 6 箇所となっていた。また処理水の
CODcr は全て 200mg/L 未満であり環境大臣令を全ての工場が満たしていた。さらに、環境大臣
令より厳しい各州の知事令についても CODcr については全ての工場で満足していた。
Ⅳ-37
表 3.13(1)
インドネシアにおける天然ゴム工場の調査結果(1)
製 造 製 品
No
製 品 種 別
生産工程用エ ネルギ ー
生 産 量
(t/年)
燃 料 使 用 量
軽 油
(L/年)
石 炭
(t/年)
PR OPER
自 家 発 電 量
そ の 他
(卵や貝の殻)
13,341.5
石 炭
(t/年)
そ の 他
電 力
(kwh/年)
5,603,000
評価
ランク
1
技術的格付けゴム(SIR20)
34,209
83,673
2
技術的格付けゴム(SIR20)
遠心分離ラテックス
技術的格付けゴム
(SIR10/10VK/20/20VK)
技術的格付けゴム(SIR
3CV/3L)
スキムブロック
25,773
765,826
12,243
266,175
4
クラムラバー
36,000
5
技術的格付けゴム(SIR10)
技術的格付けゴム(SIR20)
30,758
868,050
6
技術的格付けゴム(SIR20)
42,659
248,000
46,133
421,938
8
技術的格付けゴム(SIR10)
技術的格付けゴム(SIR20)
技術的格付けゴム(SIR20 コン
パウンド)
24,000
1,985,000
9
技術的格付けゴム(SIR20)
20,000
480,000
220,000
青
10
クラムラバー
22,500
599,154
902,761
青
11
技術的格付けゴム(SIR20)
41,366
1,480,404
30,624
12
技術的格付けゴム(SIR 3CV)
技術的格付けゴム(SIR10)
7,072
27,100
13
技術的格付けゴム(SIR10/20)
24,000
360,000
14
技術的格付けゴム(SIR20)
35,000
814,252
15
クラムラバー
15,000
11,541
3
2,114.670
軽 油
(L/年)
グリット購入
自家発電電
力量
電 力
(kwh/年)
1,393,974
651 (t/年)
340,000 (kg/年)
Ⅳ-38
3,038
2×810
青
4,639,014
青
11,085
1,865,600
1,680,000
青
110,000
2,424,000
3,538,080
青
931.325
3,119,600
4,219,500
青
248,000
10,088,000
10,088,000
青
11,111
青
技術的格付けゴム(SIR20)
7
技術的格付けゴム(SIR10)
2,816,856 (kg/年)
2,577,917
3,000
青
12,360,000
109,371
対
象
外
1,000,320
1,110
124,696
1,682
5,004,000
3,154,801
750,600
表 3.13(2)
インドネシアにおける天然ゴム工場の調査結果(2)
排 水 処 理 No
基 準 値
排水処理法
1
活性汚泥法
2
活性汚泥法
3
活性汚泥法
嫌気性ラグーン法
4
排 水 基 準
1995年環境大臣令第51号および2012年
南スマトラ州知事令第8号
1995年環境大臣令第51号
BOD
(mg/L)
COD
(mg/L)
SS
(mg/L)
排 水 量
T-N
(mg/L)
NH3N
(mg/L)
排水量
(㎥/年)
pH
排水量
(㎥/日)
年間稼働
日数(日)
Ⅳ-39
60
200
100
10
5
6-9
429,812
1,335
322
60
200
100
10
5
6-9
513,592
1,753
293
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6-9
6,397
18
348
活性汚泥法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6‐9
527,965
1,720
307
5
活性汚泥法
2007年南カリマンタン州知事令第4号
20
40
50
10
5
6-9
737,081
2,441
302
6
活性汚泥法
1997年西ジャワ州知事令第614号
60
200
100
10
5
6-9
151,163
504
300前後
7
活性汚泥法
嫌気性ラグーン法
産業、ホテル、病院、家庭、石炭鉱業に
おける廃液基準に関する2012年南スマト
ラ州知事令第8号(※「1995年環境大臣
令第51号」と同じ基準値)
60
200
100
10
5
6‐9
1,190,232
3,306
360
8
活性汚泥法
オキシデーション
ディッチ法
2008年南カリマンタン州知事令第36号
20
40
50
10
5
6‐9
42,000
140
300
9
活性汚泥法
ミョウバンと石灰によ 1995年環境大臣令第51号
る物理化学的処理
60
200
100
10
5
6‐9
569,669
2,035
280
10
活性汚泥法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6-9
1,402,754
4,397
319
11
活性汚泥法
嫌気性ラグーン法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6‐9
805,594
2,685
300
12
嫌気性ラグーン法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6‐9
-
-
-
13
活性汚泥法
2008年南カリマンタン州知事令第36号
20
40
50
10
5
6‐9
-
-
-
14
活性汚泥法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6‐9
1,006,654
3,356
300
15
活性汚泥法
1995年環境大臣令第51号
60
200
100
10
5
6‐9
97,607
335
291
表 3.13(3)
インドネシアにおける天然ゴム工場の調査結果(3)
排 水 処 理 流 入 水 質
No
BOD
(mg/L)
COD
(mg/L)
SS
(mg/L)
T-N
(mg/L)
1
129
295
255
25.51
2
331
823
754
3
643
1,136
4
46
5
50
処 理 水 質
T-P
(mg/L)
NH3N
(mg/L)
BOD
(mg/L)
pH
25.46
COD
(mg/L)
SS
(mg/L)
T-N
(mg/L)
T-P
(mg/L)
NH3-N
(mg/L)
pH
Ⅳ-40
22.53
77
21.40
5.88
19.08
16.35
49
28.58
6.76
356
98.5
49
89
76
6.4
83
30
4.72
25.8
47
28
3.18
125
224
8.3051
13.4
34
6
6.535
7.00
12
10.50
1,058.00
0.80
7.73
24.5
64
10.3
2.9
1.05
6.8
7
19
6
5
1.12
6.3
今のところ計測していない
6
7.3
127
262
138
10.8
8
34
503
5.655
555.00
9
218
454
534.1
7.9
3.48
15.6
31
33.6
1.6
0.86
10
58
135
159.67
6.15
2.54
15.00
33
18.25
2.33
0.98
11
496
515
441
13.56
12.8
15.7
114
5
2.03
0.88
12
286
580
58
71
92
13
11.85
32
25.5
2.1
14
27.08
62
34.33
1.61
9.5
19
34.3
5.0
882
1,203
6.5
1.08
7
15
6.4
2.28
6.45
160
14
1
4
1.02
7.96
6.66
3.3.7. BSRE における熱需要調査
BSRE における発電廃熱の熱利用については、①事務所や宿舎などでの給湯の熱源としての利
用と②ゴムの乾燥工程での利用の 2 種類が考えられる。
まず、給湯については事務所や宿舎などの需要が点在している上、インドネシアではシャワー
なども水を使うため湯としての利用用途が少なく、その利用量はわずかである。
一方、ゴムの乾燥工程は現状では軽油焚きの乾燥機を用いているが、現在これを変更する計画
が進んでおり、この変更の機会を利用して発電廃熱を利用した乾燥機の導入が考えられる。ただ
し、既存の乾燥機の全てを代替できないことから、変更される乾燥機との併用になる。今後、変
更される乾燥機と本熱利用施設との経済性や運転性能などとの比較検討が必要であるが、本調査
では乾燥機の補完的な役割を持った乾燥機として発電廃熱の利用を行うケースを想定する。
発電廃熱の利用可能熱量と代替可能な軽油量について以下に試算した結果を示す。下図に示す
ように発電廃熱を温水にて回収し、さらにこれを熱交換器により乾燥空気として回収することに
よって、ゴム乾燥の熱源とするものである。
表 3.14
発電廃熱利用量の計算条件(熱交換器 1 ユニット当たり)
数
値
備考
温水流量
100L/min
25.8m3/hr÷60÷4 ユニット
温水温度
乾燥空気風量
85℃
V 143m3/min
還り 71℃(設定した熱交換器の諸元)
温度 28℃でのファン定格風量
熱交換前空気温度
T1
28℃
熱交換後空気温度
空気密度
T2
ρ
62℃
1.173kg/m3
空気定圧比熱
cp
1.006kJ/kg・K
28℃における密度
乾燥空気
温度:28℃
風量:143.8m3/min
コージェネレーション
図 3.6
温水回収
385kW
71℃
85℃
熱交換器
ユニット
温度:62℃
96.2kW
熱交換器
ユニット
温度:62℃
96.2kW
熱交換器
ユニット
温度:62℃
96.2kW
熱交換器
ユニット
温度:62℃
96.2kW
発電廃熱をゴム乾燥熱源として利用する熱交換器の条件
Ⅳ-41
表 3.14 の計算条件に基づき発電廃熱の利用量と軽油軽減量を算定した結果を下表に示す。
同表に示すように、熱交換器 1 ユニット当りの発熱量は 5,700kJ/min であり、これに年間稼働
時間を乗じて年間発熱量 3.78×106MJ/年を得る。この熱量を一般的な乾燥機の燃焼効率 88%と設
定して軽油使用量に換算すると 114kL と算定される。
表 3.15
数
発電廃熱の熱供給量及び軽油削減量
値
1 ユニット
5,700kJ/min・
当り発熱量
ユニット
計算根拠
Q= V×ρ×cp×(T2-T1)
=143m3/min×1.173kg/m3×1.006kJ/kg・K×(62℃-
28℃)
総発熱量
22.8MJ/min
6
年間発熱量
3.78×10 MJ/年
軽油削減量
114kL/年
5,700KJ/min・ユニット×4 ユニット/1000
22.8MJ/min×60min/hr×3,450hr/年×0.8
(年間稼動時間=10 時間/日×345 日/年×稼働率 80%)
3.78×106MJ/年÷37.7MJ/L÷0.88
軽油の発熱量 37.7MJ/L、乾燥機の燃焼効率 88%と仮定
Ⅳ-42
4. JCM 方法論に関する調査結果
4.1. JCM 方法論の概要
本方法論は UNFCCC 承認済小規模 CDM 方法論 AMS-Ⅲ.H.を参考とし、嫌気性処理導入による
天然ゴム製造工場の排水処理改善の結果としての GHG 削減量を評価するものである。
4.1.1. リファレンスシナリオとプロジェクトシナリオの設定
1) リファレンスシナリオ
天然ゴム製造工場からの排水を、目標処理水質まで既存の活性汚泥処理施設によって処理した
後、公共用水域に放流することをリファレンスシナリオとして設定する。
Energy from
fossil fuel
Natural rubber production plant
図 4.1
Waste water treatment plant (aerobic)
リファレンスシナリオのイメージ
2) プロジェクトシナリオ
天然ゴム製造工場からの排水を、嫌気的に処理した後、既存の活性汚泥処理施設で目標処理水
質まで処理するとともに、嫌気性処理プロセスから回収されるメタンガスをエネルギー利用する
ことをプロジェクトシナリオとして設定する。
Biogas generator
Renewable energy
Energy from
fossil fuel
CH4
Natural rubber production plant
図 4.2
BiosaverTM TK
Waste water treatment plant (aerobic)
プロジェクトシナリオのイメージ
Ⅳ-43
4.1.2. 本方法論で評価する GHG 削減効果
天然ゴム製造工場における既存の好気性排水処理施設(活性汚泥処理施設)の前段に嫌気性処
理を導入することで得られる以下の GHG 削減要因についてその効果を評価する。
【削減要因①】嫌気性処理プロセスから回収されるメタンガスを用いた発電電力の利用

排水中の有機物を好気性処理して二酸化炭素まで分解する代わりに、嫌気的に有機物を
分解することでメタンが生成される。

生成されたメタンをそのまま大気中に放出するのではなく、メタンガス発電を行い電力
として排水処理施設等でエネルギー利用することで、従来用いられていた化石燃料由来
の電力が削減され GHG 削減効果が得られる。
【削減要因②】好気性処理施設への流入有機物負荷低減による水処理エネルギー削減

活性汚泥処理施設の前段に嫌気性処理を導入して前処理を実施することで、活性汚泥処
理施設への流入有機物濃度(有機物負荷)が、嫌気性処理導入前に比べて低減する。

活性汚泥処理施設でのエネルギー消費量の大部分は送風機による酸素供給によるもので
あり、供給された酸素の一部は活性汚泥による有機物の分解に利用される。

このため、活性汚泥処理施設への有機物負荷が低減すると、有機物分解のための必要酸
素量も減少する。

有機物分解のための必要酸素量が減少した分、送風機の出力(もしくは運転時間)を低
下させることが可能となり、エネルギー消費量の削減、すなわち GHG 排出量の削減効
果が得られる。
【削減要因③】コジェネレーションシステムから回収される熱の利用

コジェネレーションシステムを用いることで、電力だけではなく熱エネルギーも回収可
能となる。

回収された熱を給湯や天然ゴム製造プロセスにおいて利用することで、従来用いられて
いた化石燃料が削減され GHG 削減効果が得られる。
Ⅳ-44
4.1.3. GHG 排出量の評価方法の概要
1) GHG 排出量の評価対象
(1) GHG 排出量の評価対象項目
本方法論では、モニタリング項目及び算定プロセスの簡素化のため、GHG 排出量の評価対象は
以下の 4 項目とした。
【評価対象①】活性汚泥処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費による GHG 排出量
【評価対象②】嫌気性処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費による GHG 排出量
【評価対象③】排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で代替される化石燃料由来のエネ
ルギー消費による GHG 排出量
【評価対象④】コジェネレーションシステムから供給される熱エネルギー生成のために本来使用される化
石燃料由来のエネルギー消費による GHG 排出量
(2) GHG 排出量の評価対象外項目
モニタリング項目及び算定プロセスの簡素化のため、以下の 6 項目については GHG 排出量の
評価対象外とした。
【対象外①】メタン回収を行わない排水処理システムからの CH4 排出量
【対象外②】放流される処理水中の分解性有機物に起因する CH4 排出量
【対象外③】汚泥処理システム、最終汚泥の腐敗からの CH4 排出量
【対象外④】補足システムの非効率性に起因する CH4 排出量
【対象外⑤】不完全なフレア処理を原因とする CH4 排出量
【対象外⑥】ベースライン状況では発生しない嫌気的条件下に保持されるバイオマスからの CH4 排出量
2) 収集が必要なデータ・情報
本方法論で収集する必要のあるデータ及び情報は以下のとおり。
なお、プロジェクト実施前のモニタリングデータの蓄積状況から、リファレンス排出量の算定
方法には 2 種類のオプションを検討しており、それぞれモニタリング項目が異なる内容となって
いる。
Option-A:実施前に 4 年以上の月毎の水量・水質データが蓄積されている場合
⇒過年度の活性汚泥処理施設の運転実績から、リファレンス排出量を算定
Option-B:上記データが蓄積されていない場合
⇒活性汚泥処理施設の設計条件から、リファレンス排出量を算定
Ⅳ-45
表 4.1
分類
収集が必要なデータ・情報(Option-A)
種別
モニタリング項目
プロジェクト
水量
排水発生量※4 年間分以上の月合計値
実施前
水質
・排水水質(CODcr)
※4 年間分以上の月平均値
・処理水水質(CODcr)※4 年間分以上の月平均値
エネルギー
活性汚泥処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費量
消費量
※4 年間分以上の月合計値
温水製造
既存の温水製造設備の効率
設備の能力
プロジェクト
水量
排水発生量(月合計値)
実施後
水質
・排水水質(CODcr)
エネルギー
・排水処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費量
消費量
・排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で代替
される化石燃料由来のエネルギー消費量
熱供給量
表 4.2
分類
・水量、水温(加温前、加温後)
収集が必要なデータ・情報(Option-B)
種別
モニタリング項目
プロジェクト
活性汚泥法
・設計総エネルギー使用量
実施前
処理施設の
・送風機での設計エネルギー消費量
設計条件
・ポンプ設備での設計エネルギー消費量
・設計必要酸素量、内訳
・散気装置の酸素溶解効率
温水製造
既存の温水製造設備の効率
設備の能力
プロジェクト
水量
排水発生量(月合計値)
実施後
水質
・排水水質(BOD、NH3-N)
エネルギー
・排水処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費量
消費量
・排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で代替
される化石燃料由来のエネルギー消費量
熱供給量
・水量、水温(加温前、加温後)
4.2. 用語の定義
本方法論で設定する用語とその定義は表 4.3 のとおり。
「目標処理水質」については、天然ゴム製造工場における排水処理施設の処理レベルを規定す
Ⅳ-46
るものである。インドネシアの天然ゴム製造工場では、PROPER 制度において緑評価されている
工場が 5 箇所あり、そこでは BSRE のように排水基準値を大きく下回る水質を目標処理水質とし
て設定し、自主的な環境改善努力を行っている。
このため、処理水質のレベルを法律で定められる排水基準で一律に取り扱った場合、上述した
BSRE のような環境意識の高い工場の取組努力(よりコスト(エネルギー)をかけて、水質を良
くする)がネガティブに評価されることとなる。
このため、
「目標処理水質」という概念を導入し、排水基準値以下の範囲内で工場が排水処理施
設による処理レベルを柔軟に設定できるようにすることで、排水基準値に比べてより良好な目標
を目指す工場でも GHG 削減量の評価対象となるようにした。
表 4.3
用語
排水
用語の定義
定義
設定理由と効果
プロジェクトの対象とする天然ゴム製
排水処理プロセスへの流入水、流
造工場から発生する、目標処理水質を超
出水を明確に区分するため。
過する排水処理の対象となる水のこと。
処理水
排水処理により、目標処理水質以下まで
水質が低下した排水のこと。
活性汚泥処理
好気的な環境で、浮遊性の微生物(活性
流動床法等の非浮遊性の微生物を
汚泥)を用いて排水を処理すること。
用いた好気性処理と明確に区分す
るため。
目標処理水質
プロジェクト実施前の排水処理施設の
排水基準 50%値等を目標とする工
水質管理において目標としている処理
場の自主的な環境順守活動を適切
水 CODcr のことで、法律で定められた
に評価するため。
排水基準値以下であることが必須。
4.3. 適格性要件
天然ゴム製造工場から排出される有機性排水の処理技術としては、活性汚泥法が一般的に用い
られているが、活性汚泥法は好気性環境下でその能力を発揮することから、酸素を供給するため
の曝気のために多量のエネルギーを消費し、化石燃料由来の CO2 排出量及び処理コストの増加が
課題として挙げられる。
上記課題への対応策として、酸素を必要とせずに有機物を分解できる嫌気性微生物を用いた嫌
気性処理を前処理として導入し、活性汚泥処理での曝気エネルギーを低減するとともに、回収さ
れるメタンをエネルギー利用することで、処理エネルギー・処理コストを削減する排水処理シス
テムの実用化が進行している。
Ⅳ-47
ただし、嫌気性処理で有機物分解を担う微生物(メタン生成細菌)は好気性微生物に比べて増
殖速度が遅いため、処理にかかるトータルコストの面から菌体を反応タンク内に高濃度に保持で
きる UASB 法とその類似法の適用が主である。しかし、菌体を高密度に保持するために中・高濃
度(CODcr:2,000~10,000mg/L)の有機性排水が処理対象とされている*。
*:珠坪一晃,「省エネルギー型水・炭素循環処理システムの開発」,国立環境研究所特別研究報告,SR-86-2009
本方法論は、UASB 法が適用対象外とする低濃度有機性排水(CODcr:500~2,000mg/L)を処
理対象とし、このような低濃度の排水でも生物付着担体を用いることで反応タンク内に菌体を高
濃度を保持することのできる新技術(バイオセーバーTK)の導入を想定するものである。本技術
が対象とする低濃度有機性排水はホスト国でも天然ゴム製造排水や食品製造排水等を中心に多く
発生していると見込まれ、JCM プロジェクトの下で本技術の導入が進むことで、日本製排水処理
技術の普及拡大とホスト国の持続可能な発展に寄与するものと考えられる。
このような背景を踏まえ、本方法論で設定する適格性要件は表 4.4 に示すとおりとする。
表 4.4
項目
適格性要件
内
容
既存の活性汚泥処理施設の前段に嫌気性処理を導入し、天然ゴム製造排水(CODcr の
要件 1
設計水質*が 2,000mg/L 以下)中の生物起源有機物から、メタンガスを回収・利用する
事業であること。
要件 2
要件 3
要件 4
要件 5
設定された目標処理水質が嫌気性処理導入前でも達成されており、嫌気性処理導入後
も引き続き、同じ目標処理水質が適用される計画であること。
80%以上の溶解性 CODcr 除去率が得られることが、カタログ或いは技術資料に記載さ
れている嫌気性処理技術を導入する事業であること。
回収したメタンガスは全量発電及び/或いは熱生成に利用し、自社内で消費するかグリ
ッドへ供給すること。
既存の活性汚泥処理施設が、流入負荷の変動に応じて水処理エネルギー(ブロワ電力
消費量等)の制御が可能となる施設であること。
*:既存の活性汚泥処理施設の設計時に計画された排水水質のこと。
また、各要件の設定理由は以下のとおりである。
(1) 要件 1 の設定理由
嫌気性処理導入による既存の活性汚泥処理施設の改善(エネルギー削減、GHG 削減)事業のス
キームを示すとともに、CODcr 計画排水水質:2,000mg/L 以下の低濃度有機性排水からメタンガ
スを回収・利用する事業と限定することで、方法論で導入を想定する「バイオセーバーTK」に嫌
気性処理技術を限定する意図に基づき設定。
Ⅳ-48
(2) 要件 2 の設定理由
JCM 制度に基づくプロジェクト実施後の MRV の遂行能力を有す工場への導入に限定するため、
PROPER 制度でブルーランク以上相当の工場が対象となるよう設定。
また、自主的に排水基準値よりも低い目標水質を設定している工場に対しても、嫌気性処理導
入による GHG 削減量が適切に評価されるよう設定。
(3) 要件 3 の設定理由
粗悪な嫌気性処理技術を排除するため、溶解性 CODcr 除去率:80%以上が事前にカタログ・技
術資料において事前に保証されている嫌気性処理技術に限定する意図に基づき設定。
(4) 要件 4 の設定理由
嫌気性処理プロセスから回収したメタンを漏洩なく全てエネルギー利用し、余剰メタンの大気
放出・フレア処理は実施しないよう事業スキームを定義するために設定。
(5) 要件 5 の設定理由
嫌気性処理を導入しても、活性汚泥処理施設において水処理エネルギーの制御が不可能な場合、
プロジェクト実施後の排出量(エネルギー消費量)が増加するリスクがあるため、そのような工
場を事前に排除する意図に基づき設定。
Ⅳ-49
4.4. 対象 GHG 及びその排出源
4.4.1. 対象とする GHG 排出源
本方法論では、以下の条件を満たす GHG 排出源からの GHG 排出量を算定対象とする。
■リファレンスシナリオ、プロジェクトシナリオにおいて実際に排出される GHG
■プロジェクト実施による GHG 削減量に影響を及ぼす GHG
■プロジェクト排出量の算定において保守的に省略することができない GHG
上記条件に基づく具体的な GHG 排出源は表 4.5 に示すとおり。
表 4.5
分類
算定対象とする GHG 排出源
GHG 排出源
リファレンス
活性汚泥処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費による
排出量
GHG 排出量
プロジェクト
活性汚泥処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費による
排出量
GHG 排出量
GHG 種類
CO2
CO2
嫌気性処理施設での化石燃料由来のエネルギー消費による
CO2
GHG 排出量
排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で代替さ
れる化石燃料由来のエネルギー消費による GHG 排出量
CO2
コジェネレーションシステムから供給される熱エネルギー生
成のために本来使用される化石燃料由来のエネルギー消費に
よる GHG 排出量
Ⅳ-50
CO2
4.4.2. 算定対象外とする GHG 排出源
本方法論で算定対象外とする GHG 排出源とその理由は以下のとおり。
【対象外①】メタン回収を行わない排水処理システムからの CH4 排出量

本方法論では活性汚泥処理施設が該当するシステムとなる。

活性汚泥処理施設は好気条件に維持されており CH4 は排出されないため、評価対象外と
する。
【対象外②】放流される処理水中の分解性有機物に起因する CH4 排出量

本方法論ではプロジェクト前後で目標処理水質が同じであることを前提とする。

このため、本排出量は GHG 削減量には影響しないことから、評価対象外とする。
【対象外③】汚泥処理システム、最終汚泥の腐敗からの CH4 排出量

プロジェクト後の汚泥発生量はプロジェクト前に比べて減少するため、本排出量はリフ
ァレンスシナリオに比べてプロジェクトシナリオの方が少なくなる。

ただし、汚泥発生量のモニタリングには労力を要するため、保守的に評価対象外とする。
【対象外④】補足システムの非効率性に起因する CH4 排出量

嫌気性処理で発生したバイオガスは、漏洩なく全てエネルギー利用するシステムである
ため、評価対象外とする。
【対象外⑤】不完全なフレア処理を原因とする CH4 排出量

発生したバイオガスは全てエネルギー利用し、フレア処理は実施しないシステムである
ため、評価対象外とする。
【対象外⑥】ベースライン状況では発生しない嫌気的条件下に保持されるバイオマスからの CH4 排出量

発生したバイオガスは全てエネルギー利用し、フレア処理は実施しないシステムである
ため、評価対象外とする。
Ⅳ-51
4.5. 算定のための情報・データ
4.5.1. GHG 排出量算定のために必要な情報・データ
算定対象とする GHG 排出源からの GHG 排出量算定に必要な情報・データは表 4.6 に示すと
おり。なお、リファレンス排出量については、算定方法(Option-A、B)によって、必要となる情
報・データが異なる。リファレンス排出量 Option の詳細は後述。
表 4.6
分類
GHG 排出量算定のために必要な情報・データ
GHG 排出源
必要な情報・データ
リファレンス
活性汚泥処理施設での化石燃料由来
■過去 4 年間分以上*の下記データ
排出量
のエネルギー消費による GHG 排出量
・月平均排水 CODcr
(Option-A)
・月平均処理水 CODcr
・月合計排水量
・月合計エネルギー消費量
■上記に基づき設定される活性汚泥処理
施設のエネルギー消費量推定式
リファレンス
活性汚泥処理施設での化石燃料由来
■下記に示す設計条件
排出量
のエネルギー消費による GHG 排出量
・送風機での設計電力消費量
(Option-B)
・ポンプ設備での設計電力消費量
・設計必要酸素量、内訳
・設計水質(BOD、NH3-N)
・散気装置の酸素溶解効率
プロジェクト
活性汚泥処理施設での化石燃料由来
排出量
のエネルギー消費による GHG 排出量
嫌気性処理施設での化石燃料由来の
■化石燃料由来の電力消費量
■化石燃料由来の電力消費量
エネルギー消費による GHG 排出量
排水処理施設以外に供給されたメタ
ンガス発電電力で代替される化石燃
■排水処理施設外に供給されたメタンガ
ス発電電力量
料由来のエネルギー消費による GHG
排出量
コジェネレーションシステムから供
■既存の熱供給設備の効率
給される熱エネルギー生成のために
■熱供給量
本来使用される化石燃料由来のエネ
ルギー消費による GHG 排出量
共通
算定対象とする全排出量
■使用される化石燃料由来のエネルギー
の排出係数
*:PROPER 制度では、緑評価以上の要件として、過去 4 年間の水量・水質データを報告することを求めており、
本方法論でもそれに準拠した。
Ⅳ-52
4.5.2. 必要な情報・データの入手方法
表 4.6 で挙げた各種データの事前設定可否及(設定可の場合は設定根拠)とプロジェクト実施
後のモニタリング要否を整理すると表 4.7 に示すとおり。
表 4.7
GHG 排出量算定に必要な情報・データの入手方法
事前設定
分類
必要な情報・データ
リファレンス
■過去 4 年間分以上の水量・水
排出量
(Option-A)
可否
質データ
■活性汚泥処理施設のエネルギ
ー消費量推定式
可
可
リファレンス
排出量
■各種設計条件
可
(Option-B)
プロジェクト
排出量
設定根拠
工場の維持管理記録
工場の維持管理記録を
用いた解析結果
活性汚泥処理施設の設
計資料
事業後のモニ
タリング要否
不要
不要
不要
■活性汚泥処理施設、嫌気性処理
施設での化石燃料由来の電力
否
-
必要
否
-
必要
■既存の熱供給設備の効率
可
熱供給設備のカタログ
不要
■熱供給量
否
-
必要
消費量
■排水処理施設外に供給された
メタンガス発電電力量
共通
■供給される化石燃料由来のエ
ネルギーの排出係数
・IPCC デフォルト値
可
・工場内での電力、温
水供給システム
Ⅳ-53
不要
4.6. デフォルト値の設定
4.6.1. 化石燃料(軽油)の排出係数(Option-A、Option-B)
本方法論では、化石燃料(軽油)の排出係数をデフォルト値として設定する。具体的な数値は、
IPCC が定めるデフォルト値(表 4.8 参照)を使用する。
表 4.8
化石燃料
軽油
軽油の排出係数
単位発熱量
排出係数
36.1 GJ/kL
74.1 t-CO2/TJ
出典)2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse
Gas Inventories Volume 2 Energy
4.6.2. 既存活性汚泥処理施設の運転安全率(Option-B のみ)
Option-B では、流入負荷の変動に完璧に追随してブロワ及びポンプ能力を随時調整する理想的
な状態(理想状態)を基本として想定するが、実際の排水処理の現場では、水質・水量の変動に
完璧に運転管理を追随させることは技術的に不可能であるため、現実的には、流入条件の変動に
対しても目標処理水質(排水基準)を安定的かつ確実に満足するために、一定の安全率を考慮し
た上で、可能な限りエネルギー削減に努めることとなる。
Option-B における設計条件に基づくリファレンス排出量の算定に当たっても、上記のような排
水処理施設の運転管理の実態を加味することで、リファレンス排出量を不適切に過小評価するこ
とを回避することとする。
このため、インドネシアの他ゴム製造工場に比べて排水処理効率の良い BSRE(後掲の図 4.7
参照)における運転安全率*の実績を整理した結果(図 4.3 参照)
、リファレンス排出量を保守的
に評価するため、その最小値(1.39)を運転安全率のデフォルト値として設定する。
*:エネルギー消費量実績値を理想状態でのエネルギー消費量で除した値
BSREにおける運転安全率(-)
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
11/4 11/6 11/8 11/1011/12 12/2 12/4 12/6 12/8 12/1012/12 13/2 13/4 13/6 13/8
図 4.3
BSRE における運転安全率の実績
Ⅳ-54
4.7. 事前設定値の設定方法
リファレンス排出量の算定オプションに応じて、排出量算定に必要な項目を以下のとおり事前
設定する。
4.7.1. 活性汚泥処理施設のエネルギー消費量推定式(Option-A)
過去の水量・水質・エネルギー消費量データを用いて、活性汚泥処理施設のエネルギー消費量
を保守的に評価するための推定式を作成する。
具体的には、横軸に CODcr 除去負荷量、縦軸にエネルギー消費量を設定し、過年度データをプ
ロットして、エネルギー消費量が下限となるプロットを抽出する(図 4.4 参照)
。
エネルギー消費量(千kWh/月)
350
全データ
下限データ
300
250
200
150
100
50
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
CODcr除去負荷量(t-CODcr/月)
図 4.4
CODcr 除去負荷量とエネルギー消費量の関係(全データ、下限データ)
CODcr 除去負荷量が少ない範囲では、除去負荷量に応じてエネルギー消費量は直線的に増加す
るが、ある程度除去負荷量が多くなると処理効率性が高くなることから、エネルギー消費増加量
は逓減傾向を示し、設計電力消費量で規定される上限値で頭打ちとなる。
このような傾向を示す近似式型として、以下に示す Monod 型曲線式を適用し、抽出された下限
データを用いて近似式を作成した結果を図 4.5 に示す。
【Monod 型曲線式を適用した近似式】
エネルギー消費量(千 kWh/月)
=μ×CODcr 除去負荷量(t-CODcr/月)÷(K+CODcr 除去負荷量(t-CODcr/月))
Ⅳ-55
全データ
エネルギー消費量(千kWh/月)
350
下限データ
300
推定結果
250
200
150
エネルギー消費量(推定値)
100
=(227×CODcr 除去負荷量)
50
÷(42+CODcr 除去負荷量)
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
CODcr除去負荷量(t-CODcr/月)
図 4.5
エネルギー消費量推定式の設定結果
4.7.2. 活性汚泥処理施設の各種設計条件(Option-B)
既存の活性汚泥処理施設の設計資料から、表 4.9 に示す数値を引用・整理する。
表 4.9
事前に引用・整理する活性汚泥処理施設設計条件
分類
設計電力消費量
項目
主ポンプ、汚泥返送ポンプ
送風機
送風機設計条件
BSRE での値
419 千 kWh/年
2,365 千 kWh/年
必要酸素量(総量)
7,117kgO2/日
必要酸素量(有機物分解)
3,196kgO2/日
必要酸素量(硝化)
2,535kgO2/日
散気装置の酸素溶解効率
設計水量
設計水量
設計水質
排水水質(BOD、NH3-N)
15%
9,167m3/日
BOD:621mg/L
NH3-N:64mg/L
処理水質(BOD、NH3-N)
BOD:40mg/L
NH3-N:3.5mg/L
*:BSRE 提供資料に基づく算定結果
4.7.3. 電気の排出係数(Option-A、Option-B 共通)
本プロジェクトの対象となる BSRE では、軽油を燃料とした自家発電設備によって排水処理施
設 で 消 費 さ れ る 電 力 の 全 て を 賄 っ て い る こ と か ら 、 表 4.10 に 示 す と お り 排 出 係 数 は
Ⅳ-56
0.848kg-CO2/kWh と設定される。
表 4.10
デフォルト値(電力の排出係数)の設定
項目
単位
値
根拠
①自家発の軽油消費量原単位
L/kWh
②軽油の熱量
GJ/kL
36.1 IPCCデフォルト値
t-CO2/TJ
74.1 IPCCデフォルト値
③軽油の排出係数
BSREでの電気の排出係数
表 4.11
0.317 2008~2012年の平均値(表4.9参照)
kg- C O2 / kWh
0 . 8 4 8 ③×②×①÷1 , 0 0 0
自家発電設備の発電量、軽油消費量、原単位の実績(2008~2012 年)
Ge n se t Ele c t r ic it y Ge n e r at e d (1 0 3 kW h / m o n t h )
Jan
Feb
Mar
Apr
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
2008
1,429
1,361
1,400
1,373
1,522
1,447
1,538
1,503
1,472
1,280
1,238
1,290
2009
1,237
463
474
464
533
997
1,388
1,490
1,377
1,422
1,522
1,559
2010
1,525
1,399
1,450
1,642
1,442
1,500
1,581
1,465
1,346
1,485
1,407
1,549
2011
1,482
1,375
1,516
1,452
1,494
1,530
1,521
1,395
1,351
1,371
1,402
1,468
2012
1,366
1,308
917
1,279
1,290
1,395
1,297
1,122
1,209
645
485
1,263
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Ge n se t Fu e l C o n su m pt io n (kL/ m o n t h )
Jan
Feb
Mar
Apr
Oct
Nov
Dec
2008
477
447
458
449
496
468
497
486
476
430
399
415
2009
399
149
153
149
171
319
445
460
404
492
501
510
2010
496
448
496
512
494
493
521
486
410
479
436
474
2011
471
432
482
440
479
490
479
441
419
433
412
429
2012
412
396
278
368
389
411
407
353
362
201
149
368
Fu e l C o n su m pt io n r at io (L/ kW h )
Jan
Feb
Mar
Apr
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
2008
0.334
0.328
0.327
0.327
0.326
0.323
0.323
0.323
0.323
0.336
0.322
0.321
2009
0.323
0.322
0.322
0.321
0.321
0.320
0.321
0.309
0.293
0.346
0.329
0.327
2010
0.325
0.320
0.342
0.312
0.343
0.329
0.329
0.331
0.305
0.323
0.310
0.306
2011
0.318
0.314
0.318
0.303
0.321
0.320
0.315
0.316
0.310
0.316
0.294
0.292
2012
0.301
0.303
0.304
0.288
0.302
0.295
0.314
0.314
0.299
0.312
0.308
0.291
Ave r age ( 2 0 0 8 - 2 0 1 2 )
0.317
4.7.4. 既存の熱利用設備の効率
給湯ボイラー、乾燥機等の既存の熱利用設備の熱変換効率をカタログ等から引用する。
4.7.5. 目標処理水質(Option-A、Option-B 共通)
本事業の排水処理レベルを規定する目標処理水質(CODcr、NH3-N)は、Option に関わらず、
プロジェクト実施前の数値を継続して利用する。BSRE では CODcr:50mg/L、NH3-N:3.5mg/L
を目標処理水質として設定する。
Ⅳ-57
4.8. リファレンス排出量の算定根拠
リファレンスシナリオとしては、インドネシアの天然ゴム製造工場のうち、排水を排水基準以
下まで実際に処理している工場において導入されている排水処理方法によって、排水を処理した
場合を想定する。
4.8.1. 天然ゴム製造工場へのヒアリング調査実施概要
リファレンスシナリオで想定する排水処理方法を特定するため、PROPER 制度において 2012
年度に青ランク以上の評価を獲得している天然ゴム製造工場を中心にヒアリングを実施し、以下
の情報を入手した。
【主なヒアリング調査項目】
①排水処理方法、②排水処理に要した電力消費量・電力供給源、③排水、処理水の水質
4.8.2. ヒアリング調査結果
ヒアリングによって上記情報を全て入手できたのは、5 工場(一部データのみ入手できた工場
を含めると 10 工場、更に PROPER 対象外の工場を含めると 15 工場)であり、その結果は表 4.12
に示すとおりである。
表 4.12
2012年
PROPER
Rank
青
生産量
工場No.
(t/年)
緑
排水処理
方式
排水量
(m3/日)
CODcr(mg/L)
工場内の電力供給源
排水
グリッド
自家発
処理水
1
34,209 活性汚泥法
1,335
295
77
○
○(軽油)
2
25,773 活性汚泥法
1,753
823
49
-
○(軽油)
3
12,243
18
1,136
89
○
○(軽油)
4
36,000 活性汚泥法
1,720
83
47
○
○(軽油)
5
30,758 活性汚泥法
2,441
125
34
○
○(軽油)
6
42,659 活性汚泥法
504
12
○
○(軽油)
7
46,133
8
9
20,000
嫌気ラグーン
活性汚泥法
嫌気ラグーン
活性汚泥法
-
3,306
262
64
-
○(軽油)
24,000 活性汚泥法
140
503
19
不明
不明
凝集沈殿
活性汚泥法
2,035
454
31
不明
不明
10
22,500 活性汚泥法
4,397
135
33
不明
不明
11
41,366
2,685
515
114
○
○(軽油)
580
71
○
-
-
32
○
-
-
62
○
○(軽油)
1,203
19
○
-
520
29
○
○(軽油)
12
対象外
天然ゴム製造工場へのヒアリング結果概要
嫌気ラグーン
活性汚泥法
7,072 嫌気ラグーン
-
13
24,000 活性汚泥法
14
35,000 活性汚泥法
3,356
15
15,000 活性汚泥法
335
-
71,271 活性汚泥法
-
8,104
*2
*1:BSRE で現状の排水処理形態となった 2011 年 4 月~2013 年 8 月の平均値
*2:365 日平均値
Ⅳ-58
ヒアリング結果の概要は以下のとおりである。
1) 採用されている処理方式
ヒアリングを実施した青ランク以上の工場の全てで活性汚泥法による排水処理方式が導入され
ていた。また、PROPER 対象外の工場も含めると、活性汚泥法により排水処理を実施している工
場は 15 工場中 14 工場であった。このことから、インドネシアの天然ゴム製造工場における一般
的な排水処理方式は活性汚泥法であると判断される。
なお、一部工場で嫌気ラグーンが導入されており、導入工場に追加ヒアリングを実施したとこ
ろ、沈殿池・流量調整池の代替機能が主目的であり、積極的な水処理効果を期待してのものでは
なかった。また、嫌気ラグーンから放出されるメタンガスについても、エネルギー利用はされて
おらず、大気放出されているのが実態であった。
2) 排水の CODcr 濃度
排水の CODcr は 83~1,203mg/L と濃度範囲が広いのが特徴であった。天然ゴムの加工工程で
使用される薬品の種類等によってそれぞれ異なるものと推察される。
本方法論で適用対象とする上限濃度(2,000mg/L)を超過している工場はなく、また、バイオ
セーバーTK の適用範囲下限値(おおよそ 500mg/L)以上の排水が発生している工場は 6 工場で
あり、排水水質データを入手できた工場(13 工場)の約 5 割に相当した。
3) 工場への電力供給源
PROPER 制度で青評価とされた工場では、グリッドからと軽油を用いた自家発電設備から必要
な電力を賄っている工場が多かった(回答のあった 7 工場中 5 工場)
。このような工場での供給源
による電力消費量の内訳をみると(図 4.6 参照)
、自家発電設備によって供給される電力量が総電
力量の 5~6 割を占めていた。
また、電力供給源が軽油を用いた自家発電設備のみの工場も 2 工場であった。
グリッド電力の供給が不安定で日常的に停電が発生していることから、グリッドに接続してい
る工場でも、軽油を燃料とする自家発電設備が主な電力供給源となっている実態が伺えた。
Ⅳ-59
供給源毎の電力消費量の内訳(%)
(2012年実績)
100%
90%
80%
47.4
70%
57.5
59.3
60%
自家発
50%
グリッド
40%
30%
52.6
20%
40.7
42.5
工場No.4
工場No.5
10%
0%
工場No.3
図 4.6
供給源毎の電力消費量の内訳(グリッド、自家発併用工場)
4) BSRE の特徴
BSRE とヒアリング対象工場を比較すると、BSRE の特徴として以下が挙げられる。
■導入されている活性汚泥法は天然ゴム製造工場での一般的な排水処理方式である。
■排水処理規模は約 8,000m3/日(365 日平均)であり、他の工場が 18~4,397m3/日であるの
に比べて、規模の大きい排水処理施設が導入されている。
■排水 CODcr は 520mg/L と、天然ゴム製造工場の概ね平均的な排水レベルである。
■排水処理施設の処理効率を評価する指標として、CODcr 除去負荷量当たりの電力消費量を
各工場で比較すると(図 4.7 参照)
、最も効率の良い排水処理施設が導入されていると評価
される。
CODcr除去負荷量当たりの電力消費量
(千kWh/t-CODcr)
50
43.4
45
40
35
30
25
20
16.3
15
10
5
1.8
2.1
3.3
3.5
BSRE
工場No.4
工場No.11
工場No.5
0
図 4.7
工場No.1
工場No.3
排水処理施設の処理効率(除去負荷量当たりの電力消費量)の比較
Ⅳ-60
4.8.3. リファレンスシナリオ、排出量の設定
以上を踏まえ、リファレンスシナリオとしては、BSRE のように、軽油を燃料とする自家発電
設備から供給された電力を消費して、活性汚泥処理施設のみで排水を処理するケースをリファレ
ンスシナリオと設定する。
また、活性汚泥処理施設のみで目標処理水質まで排水を処理した場合に排出される GHG をリ
ファレンス排出量とする。
4.9. リファレンス排出量の算定方法
4.9.1. オプションの設定
リファレンス排出量の算定に当たっては、図 4.5 に示すようなエネルギー消費量推定式の構築
が重要となるが、推定式算定のための事業実施前(4 年間以上)の運転・水質データの蓄積有無
や、蓄積されたデータの精度によっては推定式の作成が不可能となる場合が考えられる。
このため、本調査では、エネルギー消費量推定式の構築可否に応じて、リファレンス排出量の
算定方法が選択できるよう、2 通りのリファレンス排出量算定方法を検討した。
各 Option の選択フローは以下のとおりである。
START
事業実施前の
データ蓄積
有無
データ無
データ有
エネルギー消費量
推定式の
作成可否
作成不可
作成可
OptionA
図 4.8
OptionB
リファレンス排出量の Option 選択フロー
Ⅳ-61
4.9.2. リファレンス排出量の算定式
1) Option-A
Option-A のリファレンス排出量は、排水処理施設で必要とされる CODcr 除去負荷量から、図
4.5 に示す推定式を用いて活性汚泥処理施設のエネルギー(電力)消費量を推定し、これに排出係
数を乗じることで算定する。
算定式及び使用するパラメータは以下のとおりである。
REy = REtreatment,y = Σ { (
ここで、REy
𝜇×LCOD,r
K+LCOD,r
) × CFelectoricity }
:y 年のリファレンス排出量(tCO2e)
REtreatment,y :y 年の活性汚泥処理施設からの GHG 排出量
μ,K
:エネルギー消費量推定係数 (μ=227、K=42)
LCOD,r
:実績 CODcr 除去負荷量 (t-CODcr/月)
CFelectoricity
:電気の排出係数(0.848kg-CO2/kWh)
LCOD,r = Qm × ( CCOD,m,in - CCOD,m,st ) ÷ 1,000,000
Qm
:実績処理水量 (m3/月)
CCOD,m,in :実績排水 CODcr (mg/L)
CCOD,m,st :CODcr 目標処理水質 (50mg/L)
2) Option-B
Option-B のリファレンス排出量は、設計電力消費量から実際の排水流入状況(処理水量、必要
な CODcr 分解量及び硝化量)に応じた電力減少分を差し引いて、電力消費量を推定し、これに排
出係数を乗じることで算定する。
算定式及び使用するパラメータは以下のとおりである。
REy = REtreatment,y = Σ { ( EDesign - ΔE ) × Rsafety × CFelectoricity }
ここで、REy
:y 年のリファレンス排出量(tCO2e)
REtreatment :y 年の活性汚泥処理施設からの GHG 排出量
EDesign
:設計電力消費量 (kWh/月)
ΔE
:設計電力消費量からの減少分 (kWh/月)
Rsafety
:運転安全率(1.39)
CFelectoricity:電気の排出係数(0.848kg-CO2/kWh)
ΔE = ΔEB + ΔEP
ここで、ΔEB : 送風機での電力消費量減少分(kWh/月)
ΔEP : ポンプでの電力消費量減少分(kWh/月)
Ⅳ-62
ΔEB = EB,Design ×
ΔAOR
AORtotal,Design
ここで、EB,Design
ηDesign
×
ηBSRE
:送風機の設計電力消費量 (kwh/月)
AORtotal,Design :設計必要酸素総量 (t-O2/月)
ΔAOR
:必要酸素量減少分 (t-O2/月)
ηDesign
:設計酸素溶解効率 (%)
ηBSRE
:基準となる酸素溶解効率 (15%)
※ ηDesign > ηBSRE の場合は、
ηDesign
ηBSRE
= 1 とする
ΔAOR = ΔAORBOD + ΔAORNH4
ここで、ΔAORBOD
:BOD 酸化分解による必要酸素量減少分 (t-O2/月)
ΔAORNH3-N: :NH3 - N の硝化による必要酸素量減少分 (t-O2/月)
ΔAORBOD = { QDesign × ( CBOD,in,Design – CBOD,out,Design )
- Qm × ( CBOD,in,m – CBOD,out,st ) } × A
ΔAORNH4 = { QDesign × ( CNH4,in,Design - CNH4,out,Design )
- Qm × ( CNH4,in,m - CNH4,out,st ) } × C
:設計処理水量 (m3/月)
ここで、QDesign
CBOD,in,Design
:設計排水 BOD (mg/L)
CBOD,out,Design :設計処理水 BOD (mg/L)
Qm
:実績処理水量 (m3/月)
CBOD,in,m
:実績排水 BOD (mg/L)
CBOD,out,st
:BOD 目標処理水質 (50mg/L)
CNH4,in,Design
:設計排水 NH3-N (mg/L)
CNH4,out,Design
:設計処理水 NH3-N (mg/L)
CNH4,in,m
:実績排水 NH3-N (mg/L)
CNH4,out,st
:NH3-N 目標処理水質 (3.5mg/L)
A
:BOD 酸化に必要な酸素量 (0.6t-O2/t-BOD)
C
:硝化に必要な酸素量 (4.57t-O2/t-N)
ΔEP = Σ ( EP,Design ×
QDesign - Qm
QDesign
)
ここで、EP,Design :ポンプ設備の設計電力消費量 (kWh/月)
QDesign
:設計処理水量 (m3/月)
Qm
:実績処理水量 (m3/月)
Ⅳ-63
4.9.3. 必要なデータのモニタリング手法
1) Option-A
リファレンス排出量算定に必要なデータ項目及びモニタリング手法は表 4.13 のとおり。
表 4.13 必要なデータ項目及びモニタリング手法(Option-A)
分類
水量
水質
データ項目
排水発生量
排水 CODcr
モニタリング手法
BSRE での現在の実施状況
①流量計による測定
越流堰での越流水深の測定
②越流堰での越流水深の測定
(2 回/日)
水質分析の実施(工場内分析室
工場内分析室で水質分析
或いは分析機関への委託)
(1 回/日)
2) Option-B
リファレンス排出量算定に必要なデータ項目及びモニタリング手法は表 4.14 のとおり。
表 4.14 必要なデータ項目及びモニタリング手法(Option-B)
分類
水量
水質
データ項目
排水発生量
モニタリング手法
BSRE での現在の実施状況
①流量計による測定
越流堰での越流水深の測定
②越流堰での越流水深の測定
(2 回/日)
排水 BOD
水質分析の実施(工場内分析室
工場内分析室で水質分析
排水 NH3-N
或いは分析機関への委託)
(1 回/日)
4.10. プロジェクト排出量の算定根拠
既存の活性汚泥処理施設の前段に嫌気性処理を導入し、メタン回収・エネルギー利用(電力、
熱として)を実施した場合をプロジェクトシナリオとし、嫌気性処理施設と活性汚泥処理施設で
目標処理水質まで排水を処理した場合に排出される GHG をプロジェクト排出量として設定する。
Ⅳ-64
4.11. プロジェクト排出量の算定方法
4.11.1. プロジェクト排出量の算定式
プロジェクト排出量は、排水処理施設(嫌気性処理、活性汚泥処理)で消費された化石燃料由
来のエネルギー消費量から、排水処理施設以外に供給されるメタンガス発電電力と熱エネルギー
で代替される化石燃料由来のエネルギー消費量を差し引くことで、実質の化石燃料由来のエネル
ギー消費量を算定し、これに排出係数を乗じることで算定する。
PEy = ( Etreatment,y
-
-
Egenerator,y ) × CFelectoricity ÷ 1,000
Ethermal,y ÷ ( ηtherma / 100 ) × CFDiesel
ここで、PEy
:y 年のプロジェクト活動排出量(tCO2e)
Etreatment,y
:y 年の嫌気性処理・活性汚泥処理施設におけるエネルギー消
費量 (kWh/年)
Egenerator,y
:y 年の排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で
代替される化石燃料由来のエネルギー消費量(kWh/年)
Ethermal,y
:y 年のコジェネレーションシステムから供給された熱エネル
ギー量(TJ/年)
ηthermal
:既存の熱供給設備の効率
CFelectoricity
:電気の排出係数(0.848kg-CO2/kWh)
CFDiesel
:軽油の排出係数(74.1t-CO2/TJ)
4.11.2. 必要なデータのモニタリング手法
プロジェクト排出量算定に必要なデータ項目及びモニタリング手法は表 4.15 のとおり。
表 4.15 必要なデータ項目及びモニタリング手法(プロジェクト排出量)
分類
エネルギー
データ項目
排水処理施設での電力消費量
排水処理施設以外に供給され
モニタリング
BSRE での
手法
現在の実施状況
電力計による記録
電力計による
記録
たメタンガス発電電力量
供給された熱エネルギー量
流量計、水温計
による記録
Ⅳ-65
(活性汚泥処理施設のみ)
現在は測定不要
現在は測定不要
4.12. モニタリング手法
4.12.1. モニタリング項目
GHG 削減量(リファレンス排出量及びプロジェクト排出量)算定に当たってモニタリングが必
要な項目を整理すると表 4.16 に示すとおり。
表 4.16 モニタリングが必要な項目
排出量
分類
項目
備考
リファレンス
水量
排水発生量
月合計値
(Option-A)
排水水質
CODcr
月平均値
リファレンス
水量
排水発生量
月合計値
(Option-B)
排水水質
BOD、NH3-N
月平均値
プロジェクト
エネルギー
排水処理施設での化石燃料由来
のエネルギー消費量
排水処理施設以外に供給される
メタンガス発電電力量
月合計値
月合計値
水量
供給される温水量
月合計値
水温
温水の加温前後の水温
月平均値
4.12.2. モニタリング方法
表 4.16 に示すモニタリング項目の具体的なモニタリング手法は表 4.17 に示すとおり。
表 4.17 モニタリング方法及び留意事項
分類
水量
項目
モニタリング手法
■排水発生量
適切な場所に流量計を設置し、流量を常時モニタ
■供給される温水量
リングする。或いは、流量調整槽を設置し、1 回
/日以上の頻度で越流水深を記録する。
排水水質
■CODcr
排水発生量が安定して日を対象に、月 1 回以上の
■BOD
頻度で排水の水質分析を実施する。
■NH3-N
エネルギー
■排水処理施設での化石燃料
由来のエネルギー消費量
適切な電力系統に電力計を設置し、電力量を常時
モニタリングする。
■排水処理施設以外に供給さ
れたメタンガス発電電力量
水温
■温水の加温前後の水温
加温前後に水温計を設置し、水温を常時モニタリ
ングする。
Ⅳ-66
4.12.3. モニタリングに当たっての留意事項
1) 流量計の検定、電力計・温度計の校正について
流量計、電力計、温度計を設置して常時モニタリングを実施する場合は、記録値の信頼性を確
保するため、設置する測定機器のカタログ等に求められる所定の検定(流量計)及び校正(電力
計、温度計)作業を定期的に実施し、精度を確保する必要がある。
流量は四角堰の水理公式に基づき水位を観測して算定されており、その採用された水理公式は
妥当なものであることを確認した。
電力計の校正管理については、現状では行われていないため、今後プロジェクト開始までに校正の
内容・精度などをメーカー等と確認しておくことが必要であることを確認した。ただし、発電に用いている
軽油の量から算定された発電効率からは、発電機のスペックである 30%前後の数値を得ており、十分な
精度で計測できていることがうかがえた。
2) 水質分析の精度について
リファレンス排出量を算定するために、排水水質(CODcr、BOD、NH3-N)の水質分析が必要
となるが、これら水質分析は専門的な知識、分析器具、精度確保のためのシステム等を整備し、
所定の分析精度を確保する必要がある。
水質分析機器については現地調査の結果、COD、NH3-N ともに滴定法による分析を行っており、校
正を必要とする分析機器を用いていないことが分かった。そこで、この水質分析方法についての準拠法
(インドネシア国家基準)を確認し、さらにその方法に準じた標準作業手順書(SOP)を作成し実施してい
ることを確認した。
また、本工場の作業が ISO9001 及び 14001 の対象となっており、内部監査、外部監査も適切に行わ
れていることを確認した。
さらに本工場が PROPER 制度の対象となっていることから、月に 1 度水質分析を含めた環境管理の
審査を受けており、これも「緑」または「青」の高い評価を受けていることを確認した。PROPER 制度に参
加している工場は、PROPER 制度のなかで以下のとおり水質分析結果の精度の検証を受けるため、
PROPER 制度報告値を使用することで精度確保は可能となる。
≪PROPER 制度における分析精度の検証方法≫
【金、緑評価の場合】
検証能力を有する外部団体よりデータの検証を受ける。
【青、赤、黒評価の場合】 PROPER チームによるサンプリング調査による検証を受ける。
なお、PROPER 制度に未参加の工場については、インドネシア国家認証委員会(KAN)により
認証を受けた分析機関に水質分析を委託することで対応している。
Ⅳ-67
4.13. GHG 排出量及び削減量
4.13.1. GHG 排出量の算定方針
BSRE では低濃度排水(1 種類)と高濃度排水(2 種類)が発生していることから、費用対効果
が最も有利となる、高濃度排水のみを嫌気性処理するケースについて(ケース選定の詳細は 6 章
参照)
、GHG 排出量及び削減量を算定する。また、想定する水量、水質は 2012 年平均値を採用
する。
4.13.2. GHG 排出量の算定(リファレンス排出量、プロジェクト排出量)
1) リファレンス排出量
(1) Option-A
Oprion-A に基づくリファレンス排出量は表 4.18 に示すとおり 1,436t-CO2/年となった。
2012 年の総電力消費量は 1,996,160kWh/年(1,693t-CO2/年)であるが、本方法論ではリファ
レンス排出量を保守的に評価するためのエネルギー消費量推定式を用いているため、実態に比べ
て電力消費量が 15%程度低く見積もられた算定結果(1,693,979kWh/年)となっている。
表 4.18 リファレンス排出量の算定結果(Option-A)
大分類
小分類
項目
単位
値
設定値
電力
排出係数
kgCO2/kWh
0.848
好気処理
推定式係数
μ
-
227
K
-
42
推定式
除去負荷量
沈殿処理
T-COD
t/年
314
(事業前)
好気処理
T-COD
t/年
829
好気処理
除去負荷量
年間負荷量
t/年
829
月間負荷量
t/月
69
月間消費量
千kWh/月
年間消費量
kWh/年
GHG排出量
t-CO2/年
GHG排出量
(事業前)
電力消費量
Option-A
141
1,693,979
1,436
(2) Option-B
Option-B に基づくリファレンス排出量は表 4.19 に示すとおり 1,278t-CO2/年となった。
必要酸素量や排水水量の減少による水処理エネルギー(電力消費量)の削減可能量に、最低限
の運転安全率を見込んだ状況を想定しているため、Option-A よりも更に排出量は保守的に評価さ
れており、GHG 排出量は Option-A に比べて 11%程度、2012 年の実績値に比べて 24%程度低く
見積もられた結果となっている。
Ⅳ-68
表 4.19 リファレンス排出量の算定結果(Option-B)
大分類
設計条件
小分類
項目
単位
値
年間電力 ポンプ電力
kWh/年
419,360
消費量
ブロワ電力
kWh/年
2,365,200
合計
kWh/年
2,784,560
設計水量
m3/日
9,167
kgO2/日
7,117
-
1.39
m3/日
7,565
kgO2/日
2,221
設計値
総AOR
設定条件
運転安全率
好気処理
運転値
GHG排出量
排水水量
総AOR
(事業前)
年間電力 ポンプ電力
kWh/年
481,011
Option-B
消費量
ブロワ電力
kWh/年
1,026,227
合計
kWh/年
1,507,238
電力
排出係数
kgCO2/kWh
0.848
t-CO2/年
1,278
GHG排出量
なお、Option-B で必要な事前設定値については、BSRE 以外の工場におけるデータ収集の可能
性に課題が残る。一方、Option-A の算定に必要なデータは、PROPER 制度に参加して青評価以上
のランクを取得している工場であれば、水量と水質についてはモニタリング・報告している類の
ものである。
本プロジェクトは、PROPER 制度に参加して青評価以上のランクを取得している環境意識の高
い工場への導入が当面は現実的であるため、リファレンス排出量の算定方法としては、Option-A
の方がより適用可能性の高い手法であると考えられる。
2) プロジェクト排出量
プロジェクト排出量は表 4.20 に示すとおり 595t-CO2/年となった。
嫌気性処理導入により、排水処理に必要な電力消費量は 1,632,114kWh/年となり、リファレン
スシナリオに比べて 5%程度しか削減されていないが、メタンガス発電電力を利用することで、
化石燃料由来の電力消費量は 1,076,635 kWh/年とリファレンス排出量から 36%削減される。
また、発生する熱を天然ゴム製造工程で利用することで軽油ボイラーの燃料消費量を低減でき、
318t-CO2/年の GHG を削減可能であると見込まれた。
4.13.3. GHG 削減量
リファレンス排出量、
プロジェクト排出量の算定結果より、
本事業での GHG 削減量は、Option-A
では 842t-CO2/年、Option-B では 683t-CO2/年と算定された(表 4.21 参照)
。
Ⅳ-69
表 4.20 プロジェクト排出量の算定結果
大分類
嫌気処理
小分類
電力原単位
項目
kWh/㎏COD
1.12
排出係数
kgCO2/kWh
0.848
メタン原単位
除去COD当たり
Nm3/kgCOD
0.35
発電量
メタンガス熱量
MJ/Nm3
35.6
設計値
ガス発電効率
%
32
換算係数
MJ/kWh
3.6
熱供給
熱供給量
TJ/年
3.78
設計値
ボイラー効率
%
88.0
軽油排出係数
推定式係数
推定式
除去負荷量
値
除去COD当たり
設計値
好気処理
単位
嫌気処理
(沈殿除く)
(事業後)
t-CO2/TJ
74.1
μ
-
227
K
-
42
T-COD
t/年
502
S-COD
t/年
349
SS-COD
t/年
153
好気処理
T-COD
t/年
327
嫌気処理
電力消費
電力消費量
kWh/年
GHG排出量
由来排出量
GHG排出量
t-CO2/年
(事業後)
メタンガス
メタン発生量
Nm3/年
由来削減量
メタン熱量
好気処理
474
175,538
MJ/年
6,249,141
ガス発電量
MJ/年
1,999,725
ガス発電量
kWh/年
555,479
GHG削減量
t-CO2/年
471
熱供給
熱供給量
TJ/年
3.78
由来削減量
軽油消費量
TJ/年
4.30
GHG削減量
t-CO2/年
318
年間負荷量
t/年
327
月間負荷量
t/月
27
月間消費量
千kWh/月
89
除去負荷量
GHG排出量
(事業後)
559,530
電力消費量
年間消費量
GHG排出量
GHG排出量(プロジェクトシナリオ)
kWh/年
1,072,585
t-CO2/年
910
t-CO2/年
595
表 4.21 GHG 削減量の算定結果
大分類
リファレンス
プロジェクト
GHG削減量
小分類
項目
単位
値
GHG排出量
Option-A
t-CO2/年
1,436
(電力消費)
Option-B
t-CO2/年
1,278
GHG排出量
嫌気処理
t-CO2/年
474
(電力消費)
好気処理
t-CO2/年
910
GHG排出量
メタンガス発電
t-CO2/年
471
(コジェネ代替分)
熱供給
t-CO2/年
318
GHG排出量
合計
t-CO2/年
595
Opt io n - A
t - C O2 / 年
842
Opt io n - B
t - C O2 / 年
683
Ⅳ-70
5. JCM PDD 作成に係る調査結果
5.1. プロジェクト実施体制及びプロジェクト参加者
プロジェクトの事業主体はブリヂストンの日本法人及び現地サイトのブリヂストン子会社
(BSRE)であり、共同事業者として国際コンソーシアムを構成する。
コンソーシアムは機械設備、担体を含む充填材等を栗田工業に発注し、栗田工業はそれらを納
入する。また、土木工事等については現地設計会社に発注し基礎工事等の設計行う。さらに機械
設備の据付工事は栗田工業(栗田工業現地支店)が実施するとともに、現地土木系企業が施工を
行って、BSRE に引き渡すものとする。
【 国際コンソーシアム 】
現地企業 BSRE 日本企業 ブリヂストン株式会社
(PT. Bridgestone Sumatra Rubber
Estate)
設計、施工
管理発注
機械設備発注
栗田工業 株式会社
現地設計業者
土木工事
施工監理
機械設備納入
現地施工会社(土木工事)
栗田工業(機械設備据付等)
現地企業へ引き渡し、運転開始
図 5.1
プロジェクト実施体制
5.2. プロジェクト開始時期及び実施期間
プロジェクトの詳細については、本調査と平行して実施しているメタンガス連続試験(オンサイト)の結果
をもとに決定される。連続試験の結果算定されたガス発生量を元に、施設諸元を整理し、事業収支、投
資回収年を算定した上で、投資回収年の条件をクリアするように設備計画を決定する。
Ⅳ-71
今後の予定は、メタンガス連続試験を 3 月中に終了し、4 月以降補助事業への応募、採択決定を待っ
て排水処理施設の詳細設計、資機材の調達を行う予定である(なお、メタンガス連続試験のプラント設置
が若干遅れており、補助事業への応募がづれ込む可能性があるが、本スケジュール表は 3 月終了を前
提に記載している)。
土木工事等の期間については、今後のガス発生実験、詳細設計等の結果より決まるが、概ねの詳細
設計及び工事の期間は補助事業契約後 1 年であり、プロジェクト開始時期は 2015 年 8 月を目指す。
プロジェクトの実施期間は本事業の MRV 結果を報告する期間である 2020 年までとする。
表 5.1
プロジェクトのスケジュール
2014年
業務内容
1
2015年
3月以前 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
GEC補助事業準備
補助事業決定、契約
メタンガス発生連続試
2 験(オンサイト)
結果取りまとめ
3
排水処理施設詳細設
計
4
資機材調達(輸出、国
内輸送)
5 土木工事
6
機械、電気設備設置工
事
7 試運転、引渡し
8 施設運用
Ⅳ-72
5.3. 方法論適格性要件との整合性確保
BSRE でのプロジェクトについて、作成した方法論の適格性要件(表 5.2 参照)に対する整合
性を整理すると以下のとおりであり、問題ないものと評価される。
表 5.2
項目
要件
1
作成した方法論の適格性要件
適格性確認項目
整合性の検討
既存の活性汚泥処理施設の前段に嫌気
BSRE では既存の活性汚泥処理施設を
性処理を導入する。
有しており整合している。
天然ゴム製造排水の CODcr の設計水
BSRE の 排水 CODcr の設 計水質 は
質が 2,000mg/L 以下である。
1,305mg/L であり整合している。
生物起源有機物から、メタンガスを回
コジェネレーションシステムを導入し
収・利用する事業である。
メタンガス発電を実施する事業であり
判定
OK
OK
OK
整合している。
要件
2
設定された目標処理水質が嫌気性処理
目標処理水質は CODcr:50mg/L であ
導入前でも達成されている。
るが、2012 年の平均処理水 CODcr は
OK
29mg/L であり整合している。
嫌気性処理導入後も引き続き、同じ目
事業実施後も目標処理水質は 50mg/L
標処理水質を適用する事業である。
と設定するため整合している。
80%以上の溶解性 CODcr 除去率が得
バ イ オ セ ー バ ー TK の カ タ ロ グ 中 に
要件
られることが、カタログ或いは技術資
CODcr 除去率:80%と記載されており
3
料に記載されている嫌気性処理技術を
整合している。
OK
OK
導入する事業である。
要件
4
回収したメタンガスは全量発電及び/或
コジェネレーションシステムを導入し
いは熱生成に利用し、自社内で消費す
メタンガス発電及び熱供給を行い、全
るかグリッドへ供給する。
て工場内で消費する事業であり整合し
OK
ている。
既存の活性汚泥処理施設が、流入
既存の活性汚泥処理施設は、MLDO に
要件
CODcr 負荷の変動に応じて水処理エネ
応じて送風量を調整しており整合して
5
ルギーの制御が可能となる施設である
いる。
こと。
Ⅳ-73
OK
5.4. プロジェクト排出源とモニタリングポイント
5.4.1. プロジェクト排出源
1) 事業実施後に評価する排出源(プロジェクト排出源)
事業実施後に GHG 排出源(プロジェクト排出源)として評価するのは、以下の 2 種類であり、
いずれも GHG の種類は CO2 である。

排水処理施設(嫌気性処理、活性汚泥処理)での化石燃料由来のエネルギー消費による
GHG 排出量

コジェネレーションシステムから供給される熱エネルギー生成のために本来使用される
化石燃料由来のエネルギー消費による GHG 排出量
2) 評価対象外とする排出源
排水処理施設以外に供給されたメタンガス発電電力で代替される化石燃料由来のエネルギー消
費による GHG 排出量は、方法論では評価対象としているものの、メタンガス発電による電力量
で嫌気性処理に必要な電力量は概ね賄えることから、モニタリングの簡素化のためにも本事業で
は排水処理施設外へのメタンガス発電電力の供給は実施しないこととし、評価対象外とする。
5.4.2. モニタリングポイント
モニタリングポイントは図 5.2 に示すとおりであり、全て排水処理施設内でモニタリングを実
施する。このうち、M1、M2 については事業前でもモニタリングを実施している。
温水温度(℃)
冷水温度(℃)
コジェネ
レーション
メタン回収(Nm3)
メタンガス発電電力(kWh)(余剰時)
メタンガス発電電力(kWh)
排水処理施設
(好気処理)
嫌気処理
排水発生量(m3)
排水CODcr(mg/L)
排水BOD(mg/L) *
排水NH3-N(mg/L)*
*:Option-Bのときに
モニタリング実施
電力消費量(kWh)
発電機
軽油
図 5.2
モニタリングポイント
Ⅳ-74
5.5. モニタリング計画
5.5.1. モニタリング実施主体
モニタリングポイントが全て排水処理施設内に存在することから、モニタリングに関わる全て
の作業については、BSRE が主体となって実施する。
5.5.2. モニタリング項目及び測定方法等
1) モニタリング項目及び測定方法等
モニタリング項目及び測定方法等は表 5.3 に示すとおり。
表 5.3
モニタリング地点
モニタリング項目及び測定方法等
項目
測定方法及び測定頻度
排水処理施設
排水発生量
流量調整槽の越流水深の記録【2 回/日】
流入地点
CODcr、BOD、
インドネシア国内基準(SNI)に基づく工場内で
NH3-N
の水質分析【1 回/日】
電力消費量
電力計による常時測定【常時】
自家発電機
コジェネレーション
(冷水供給量)
加温前後の水温
水を熱供給媒体として循環させるため、循環水
量の設計値が使用でき、モニタリングは不要
水温計による常時記録【常時】
2) モニタリングデータの記録
測定機器(電力計、温度計)による常時モニタリングデータは自動的に電子データとして記録
するとともに、現在のモニタリングにおいて慣習的に行われている手書き記録(3 回/日の頻度で
測定機器指示値をチェックし野帳に記録)についても補完的に利用することとする。
Ⅳ-75
5.6. 環境影響評価
環境に重大な影響を及ぼす可能性のある事業は、旧環境管理法第 16 条に基づき環境影響評価を実
施しなければならないと規定されており、対象となる事業または活動の種類と規模については、「環境影
響評価を実施すべき事業または活動及び規模に関する環境大臣令(2001 年 17 号)」により定められて
いる。
環境への重大な影響項目としては、①影響人口の規模、②影響地域の規模、③影響の期間、④影響
の強度、⑤影響を受ける環境構成要素の数、⑥累計的な影響、⑦環境の可逆性あるいは不可逆性等で
ある。
当該排水処理施設は既に建設されており、工場の敷地内にある。本事業は既設の排水処理施設に嫌
気性処理施設を追加するものであり、環境への重大な影響項目には該当しないと考えられるため、新た
な環境影響評価を実施することの必要性は低い。
また、当該施設にはバイオガス発電施設を併設する計画であり、環境影響評価を実施すべき対象施設
と考えられるが、対象となる事業規模は 10MW 以上であり、本施設の規模(0.1MW 程度)では対象とはな
らない。
以上のことから、環境影響評価については本事業においては実施の必要性がないことがわかる。ただ
し、環境十全性については配慮して事業を進めることとする。
5.7. 利害関係者のコメント
5.7.1. ステークホルダーの特定
本事業のステークホルダーとしては、周辺住民、関連の政府機関(環境省、地方政府)である。なお、工
場自体が農園に囲まれた BSRE 敷地内に存在し、従業者もまたその敷地内で生活しているため、周辺
住民とは工場の勤務者及びその家族となる。
5.7.2. ステークホルダーへのヒアリング結果
1) 地域住民へのヒアリング
周辺住民のヒアリング項目については、次ページ以降に示す 20 項目である。ヒアリングの結果
は以下のとおりである。
(1) 回答者のプロフィール
今回のアンケート調査の対象年代は表 5.4 に示すとおりであり、40 代が最も多く 42.1%、次いで 30
代 31.6%であった。対象者はすべて女性であった。
家族構成は、5 人以上が 52.6%と半数を占め、次いで 4 人 26.3%、2 人は 5.3%と少なく、1 人は 0%
であった。家族人数は多い家庭が多かった。
職業は、主婦が 68.4%、看護士が 5.3%、未回答は 16.3%であり、ほとんどが主婦であった。
Ⅳ-76
表 5.4 アンケート対象者の属性
Q1
年齢
20 代
30 代
40 代
50 代
60 歳以
計
上
回答者数(人)
割合(%)
Q2
性別
2
6
8
2
1
19
10.5
31.6
42.1
10.5
5.3
100.0
男
女
回答者数(人)
割合(%)
Q3
家族人数
0
19
19
0.0
100.0
100.0
1人
回答者数(人)
割合(%)
Q4
職業
2人
割合(%)
3人
4人
5 人以上
計
0
1
3
5
10
19
0.0
5.3
15.8
26.3
52.6
100.0
主婦
回答者数(人)
計
看護士
無回答
計
13
1
5
19
68.4
5.3
26.3
100.0
(2) 地球温暖化防止についての認識
① 「地球温暖化」という言葉の認識
「地球温暖化」という言葉を聴いたことがある人は 100%であり、年齢にかかわらず、すべての年
代で認識されていた。
② 「地球温暖化」の影響の知識
「地球温暖化」の影響を知っている人は 100%であり、年齢にかかわらず、すべての年代で理解
されていた。
③ 「地球温暖化」への取り組みの必要性
「地球温暖化」への取り組みが必要と答えた人は 100%であり、年齢にかかわらず、すべての年
代で取組が必要であると考えられていた。
④ 「地球温暖化」への取り組みへの参加意欲
「地球温暖化」への取り組みに参加したいと答えた人は 100%であり、すべての年代で積極的に
取り組む考えがあることがわかった。
表 5.5
地球温暖化防止についての認識
設問項目
YES
NO
Q5
「地球温暖化」という言葉を聞いたことがありますか。
100%
0%
Q6
「地球温暖化」はどのような影響があるか知っていますか。
100%
0%
Q7
「地球温暖化」への取り組みが必要だと思いますか。
100%
0%
Q8
「地球温暖化」への取り組みに参加したいと思いますか。
100%
0%
Ⅳ-77
(3) 工場排水と環境について
① 工場排水の環境への影響
工場排水は環境への影響があると答えた人は 100%であり、すべての人が工場排水は環境に
影響を及ぼすことを認識していた。
② 工場排水処理の必要性
工場排水処理の必要性があると答えた人は 100%であり、すべての人が工場排水はきれいにし
てから排水すべきであると考えていた。
③ BSRE での排水処理の認識
BSRE でも排水を処理してから排出していることの認識は、知っている人は 78.9%、知らない人
は 15.8%、無回答は 5.3%であった。工場排水の処理の必要性は認識していても、身近な工場
でも実際に処理を行っていると認識していた人は約 8 割であった。
④ 工場の排水処理の電力使用の認識
工場の排水処理の多大な電力使用に関しては、認識している人は 47.4%、認識していない人
は 47.4%、無回答は 5.3%であった。
⑤
工場排水でのメタンガス発電の知識
工場排水処理においてメタンガス発電を行うことに関しては、知っていると答えた人は 52.6%、
知らない人は 42.1%、無回答 5.3%であった。
表 5.6 工場排水と環境について
設問項目
Q9
Q10
Q11
工場排水は環境に影響があると思いますか。
工場排水はきれいにして排水する必要があると思います
か。
BSRE では排水をきれいしてから放流していることを知っ
ていますか。
無回答
YES
NO
100.0%
0.0%
100.0%
0.0%
78.9%
15.8%
5.3%
47.4%
47.4%
5.3%
52.6%
42.1%
5.3%
工場の排水処理装置を動かすために多くの電力が使われ
Q12
Q13
ていることを知っていますか。
工場排水の処理方法を工夫してメタンガスを発生させ
て、発電できることを知っていますか。
Ⅳ-78
(4) 本事業について
① 本事業の地球温暖化防止へ貢献
本事業の地球温暖化防止へ役立つと思う人は 73.7%、思わない人は 10.5%、どちらでもない(わ
からない)は 15.8%であった。
② 本事業の周辺環境への影響に対する懸念
本事業によって、周辺環境への影響に懸念がある人は 26.3%、ない人は 5.3%、どちらでもない
(わからない)は 68.4%であった。
③ 周辺環境への影響を懸念する理由
メタンガスの利用において安全性に関する懸念事項をあげた人が多かった。メタンガスを用いた
発電については全く問題ないことを説明した。
④ 本事業対する賛成
工場排水からメタンガスを発生させて発電できるシステムを取り入れる本事業に賛成 の人は
57.9%、反対は 10.5%、どちらとも言えない(わからない)は 31.6%であり、賛成が約 6 割であり、半
数を超えていた。
⑤ 本事業に対する「賛成」又は、「反対」、「どちらでもない」の理由
賛成する人の理由は、「地球温暖化を緩やかにできる」、「環境が維持できる」が多く、次いで「燃
料油を節約できる」、「電気使用量を節約できる」という理由であった。
反対する人の理由は「事業内容がわからないから」という理由であり、積極的な反対意見はなか
った。
⑥ 日本の技術導入への意見
日本の技術を導入して、インドネシアの地球温暖化対策を推進することについて賛成の人は
68.4%、反対は 0%、どちらとも言えない(わからない)は 31.6%であり、賛成が約 7 割であった。
⑦ 日本の技術導入への「賛成」又は、「反対」、「どちらでもない」の理由
賛成する人の理由は、「日本の技術は優れているから」が多く、ほかに「地球温暖化を緩やかに
できるから」、「環境を維持したいから」などがあった。反対の意見はなかった。
Ⅳ-79
表 5.7
本事業について
設問項目
Q14
Q15
本事業が地球温暖化防止に役に立つプロジェク
トであると思いますか?
本事業によって、あなたの周辺環境への影響に
懸念がありますか。
YES
NO
どちらでもない
(わからない)
73.7%
10.5%
15.8%
26.3%
5.3%
68.4%
[YES]
・メタンガスによる爆発等の安全性に対する
Q16
周辺環境への影響を懸念する理由は何ですか。
不安がある。
・健康に支障をきたすから。
[どちらでもない]
・まだ理解できていないから。
Q17
工場排水からメタンガスを発生させて発電でき
るシステムを取り入れる本事業に賛成ですか。
57.9%
10.5%
31.6%
[YES]
・燃料油を節約できるから。
・電気使用量を削減できるから。
・地球温暖化を緩やかにできるから。
Q18
「賛成」又は、「反対」、「どちらでもない」
・環境が維持されるから。
の理由は何ですか。
[NO]
・よくわからないから。
[どちらでもない]
・明確でないから。
Q19
日本の技術を導入して、インドネシアの地球温
暖化対策を推進することについて賛成ですか。
68.4%
0.0%
31.6%
[YES]
・環境対策について日本は進んでいるから。
・日本の技術は優れているから。
・地球温暖化を緩やかにできる技術だから。
Q20
「賛成」又は、「反対」、「どちらでもない」
・現代技術を支持したい。
の理由は何ですか。
・インドネシアのますますの近代化につなが
るから。
[どちらでもない]
・まだ理解できていないから。
Ⅳ-80
BSRE が実施する地球温暖化防止事業に関するアンケート
1.本事業の目的と効果
BSRE では、ゴム製造過程で発生する排水の処理に取り組み、その放流水質の目標達成に高い
評価を受けています。排水処理には多くの電力を必要としますので、エネルギー消費の改善に取
り組んでいます。そこで、排水処理システムの前段にメタンガス回収装置を設置し、排水からメ
タンガスを回収し発電燃料とするほか、従来の排水処理装置で用いるエネルギーも削減する事業
を実施することを検討しています。電気使用量を削減することから、発電に用いている軽油の使
用量を削減することができ、その結果温室効果ガス※を削減することができます。
Biogas generator
Rnewable energy
Energy from
fossil fuel
CH4
Natural rubber production plant
BiosaverTM TK
Waste water treatment plant (aerobic)
※軽油は燃焼する際に二酸化炭素を発生しますが、二酸化炭素が大気中に放出されることで地球
の温暖化が進むといわれています。二酸化炭素などの地球温暖化を促進する物質(ガス)を温室
効果ガスと言います。
2.本アンケートの目的
本事業は地球温暖化防止のための日本のファンドを一部利用して実施されますが、地球温暖化
の目的に加えて環境の保全を図る必要があり、さらに住民の意識も含めた周辺環境に配慮して実
施するものとされています。そのため、本アンケートでは本事業の実施に当り、周辺住民の皆さ
んの環境保全面への期待や不安に関しての意見を収集するものです。
3.アンケート項目
(1)あなたの年齢、性別、家族数、職業をお答え下さい。
設問項目
回答欄
Q1
年齢
1.20 代
2.30 代
Q2
性別
1.男
2.女
Q3
家族数
1.1 人
2.2 人
Q4
職業
Ⅳ-81
3.40 代
4.50 代
5.60 歳以上
3.3 人
4.4 人
5.5 人以上
(2)地球温暖化防止について
設問項目
Q5
回答欄
「地球温暖化」という言葉を聞いたことがあり
1.YES
2.NO
1.YES
2.NO
1.YES
2.NO
ますか。
Q6
「地球温暖化」はどのような影響があるか知っ
ていますか。
Q7
「地球温暖化」への取り組みが必要だと思いま
すか。
Q8
3.どちらでもない
(わからない)
「地球温暖化」への取り組みに参加したいと思
1.YES
2.NO
いますか。
3.どちらでもない
(わからない)
(3)工場排水と環境について
設問項目
Q9
回答欄
工場排水は環境に影響があると思いますか。
1.YES
2.NO
3.どちらでもない
(わからない)
Q10
工場排水はきれいにして排水する必要があると
1.YES
2.NO
思いますか。
Q11
3.どちらでもない
(わからない)
BSRE では排水をきれいしてから放流しているこ
1.YES
2.NO
1.YES
2.NO
1.YES
2.NO
とを知っていますか。
Q12
工場の排水処理装置を動かすために多くの電力
が使われていることを知っていますか。
Q13
工場排水の処理方法を工夫してメタンガスを発
生させて、発電できることを知っていますか。
(4)本事業について
設問項目
Q14
回答欄
本事業が地球温暖化防止に役に立つプロジェク
1.YES
2.NO
トであると思いますか?
Q15
(わからない)
本事業によって、あなたの周辺環境への影響に
1.YES
2.NO
懸念がありますか。
3.どちらでもない
(わからない)
Q16
周辺環境への影響を懸念する理由は何ですか。
Q17
工場排水からメタンガスを発生させて発電でき
1.YES
2.NO
るシステムを取り入れる本事業に賛成ですか。
Q18
3.どちらでもない
3.どちらでもない
(わからない)
「賛成」又は、
「反対」
、
「どちらでもない」の理
由は何ですか。
Q19
日本の技術を導入して、インドネシアの地球温
暖化対策を推進することについて賛成ですか。
Q20
「賛成」又は、
「反対」
、
「どちらでもない」の理
由は何ですか。
Ⅳ-82
1.YES
2.NO
3.どちらでもない
(わからない)
2) 地方政府へのヒアリング
また、地域政府についても、1 月初旬、BSRE のクラブハウス内で本事業に対するヒアリングを行った。
ヒアリングの対象者は BSRE が属する Simalungun 地域の長とその 3 名のスタッフであり、ヒアリング結果
を以下に示す。
① 地域長は排水処理過程で発生するメタンを回収することが地球温暖化に役に立つというこ
とを理解したと述べた。
② 本プロジェクトがどの程度環境に貢献するか、また工場周辺の地域社会への安全性につい
て質問を受け、軽油の使用量の大幅な削減が可能であること及び地域の安全性には全く問
題ないことを説明した。
③ 地域長はこのプロジェクトに興味を持ち、これを歓迎すると述べた。またプロジェクトが
うまく進められるようにプロジェクトに関する政府機関にこの情報を伝えることを約束し
た。
④ さらに地域長は本プロジェクトが本地域において有益なものと想定されるとコメントした。
また、排水処理から生じる汚泥の肥料への活用についても BSRE に協力すると述べた。
Ⅳ-83
6. プロジェクト実現化に係る調査結果
6.1. プロジェクト開発状況
6.1.1. 排水処理改善案の検討
本プロジェクトは、CODcr:500mg/L 程度の低濃度有機性排水からもメタンを効率良く回収す
ることのできる排水処理技術「担体型嫌気性処理装置(バイオセーバーTK)」を既存の排水処理
施設の前段に導入することで、メタンガスとしてのエネルギー回収と既存排水処理施設の曝気エ
ネルギーの削減を実現し、排水処理に関する総合的なコスト及び GHG 排出量の削減を達成する
ものである。
調査課題にも示したように、本工場は幾つかの生産工程からなり、その水量、水質が異なるも
のである。排水処理施設の改善効果を最大限に発揮するためには、嫌気性処理の対象とする排水
を有機物濃度が高いものに限定することで、施設の効率と経済性を向上させることができる。
また、有機物には固形性のものと溶解性のものがあり、固形性の有機物は分解するのに時間が
かかり、その分大規模な処理設備とならざるを得ない。これも固形性の有機物分解を対象とせず
に溶解性有機物のみを対象とすればコンパクトな設備規模となり、処理の効率性、経済性を向上
させることができる。
従って、ここでは有機物の特性(固形性、溶解性)
、有機物濃度の異なる工程排水について、ど
れを処理対象とするかについて複数の代替案を作成した。
すなわち、排水処理の改善方法として下記 2 通りの方法が候補として挙げられる。
Case-1:固形性有機物、溶解性有機物ともに嫌気性処理・メタン回収するケース
Case-2:溶解性有機物のみを嫌気性処理・メタン回収するケース
また、現在 BSRE から発生している排水は、以下の 3 種類であり、全排水を対象として嫌気性
処理(メタン回収)を行うケース(a)と、比較的高濃度な排水(排水 A:生産工程 1、排水 B:
生産工程 2)のみを対象として嫌気性処理(メタン回収)を行うケース(b)に区分する。
各改善方法のイメージは図 6.1 のとおりである。
表 6.1
BSRE で発生する排水の性状
排水種類
発生箇所
排水 A
生産工程1
排水 B
生産工程2
排水 C
生産工程 3
Ⅳ-84
水量(m3/日)
S-CODcr(mg/L)
81.5
406
(Low)
(High)
5,587
253
(High)
(Middle)
1,896
79
(Middle)
(Low)
【Case-1-a】※赤線部分が新規追加施設
Anaerobic Reactor
Aeration tank(ASETS)
Settling tank
Settling tank (ASETS)
CH4
排水
A,B,C
CH4
Dry bed
Digestion tank
【Case-1-b】※赤線部分が新規追加施設
排水C
Aeration tank(ASETS)
Settling tank
Settling tank (ASETS)
CH4
排水
A,B
CH4
Dry bed
Digestion tank
図 6.1(1)
排水処理改善案(case1)
【Case-2-a】※赤線部分が新規追加施設
Settling tank
Anaerobic Reactor
Aeration tank(ASETS)
Settling tank (ASETS)
CH4
排水
A,B,C
Dry bed
【Case-2-b】※赤線部分が新規追加施設
排水C
Settling tank
排水
A,B
Anaerobic Reactor
Aeration tank(ASETS)
CH4
Settling tank (ASETS)
Dry bed
図 6.1(2)
排水処理改善案(case2)
Ⅳ-85
表 6.2
Case
排水 A
排水 B
排水 C
(高濃度)
(比較的高濃度)
(低濃度)
SS-CODcr
Case1-a
Case1-b
Case2-a
排水処理施設の改善案
S-CODcr
SS-CODcr
沈殿+
メタン回収+
沈殿+
メタン回収
活性汚泥法
メタン回収
沈殿+
メタン回収+
沈殿+
メタン回収
活性汚泥法
メタン回収
沈殿
メタン回収+
沈殿
活性汚泥法
沈殿
メタン回収+
活性汚泥法
SS-CODcr
沈殿+
S-CODcr
メタン回収+
メタン回収
活性汚泥法
-
-
メタン回収+
活性汚泥法
メタン回収+
沈殿
活性汚泥法
メタン回収
Case2-b
S-CODcr
メタン回収+
活性汚泥法
メタン回収+
沈殿
+活性汚泥法
-
-
活性汚泥法
注)SS-CODcr:固形性有機物、S-CODcr:溶解性有機物
6.1.2. 排水処理導入案の評価
1) 評価方法
各検討ケースの評価項目は以下の 4 項目である。
本プロジェクトの事業の効果は温室効果ガスの削減で判断されるため、これが第一の評価項目
である。他方、工場にとってはプロジェクト実施による経済性も重要な評価項目となる。排水処
理では活性汚泥法の曝気のためのブロアの電力が大きな割合を占める。そのため、電気使用量が
最も経済性を左右する。電気は BSRE では軽油を使った自家発電により調達されており、電気使
用量は軽油の使用量と直結することになる。
① 電気使用量
② 軽油使用量
③ 費用削減額(経済効果)
④ 温室効果ガス削減量(環境効果)
上記の評価項目の算定方法について示すと図 6.2 となる。
まず排水処理施設改善案毎の工程別の水質を算定する。水質は沈殿処理、嫌気性処理、活性汚
泥処理の除去率を仮定することで算定できる。次に排水処理に用いたエネルギー使用量を算定す
るが、ここでは CODcr の除去負荷量(水量×(排水水質-処理水質)
)が曝気量に比例するため、
これから使用エネルギー量を算定する。また、メタン発酵により回収したメタンガスはガス発電
機の燃料として使用するとともに、発電廃熱を工場内で使用する温水の熱源としても利用するた
め、それらで用いた熱量分の軽油削減量を算定し、費用削減額(経済効果)を把握する。また、
軽油削減量から温室効果ガスの削減量についても算定する。
なお、ここでの算定方法は水質、軽油使用実績をもとに積算された期待値であり、4 章で示し
Ⅳ-86
た方法論による保守的な GHG 削減量の算定結果とは異なることに留意する必要がある。
好気性処理
施設の電力
使用量
メタンガス
排水処理施設
改善案
排水処理電力
使用削減による
軽油削減量
嫌気+好気性
処理施設の
電力使用量
好気処理
施設
ガス発電機の
(KASSEIODEI
燃料として
)の電力消費量
利用
嫌気性処理、
好気処理過程
での水質
メタンガス
嫌気性処理に
より回収された
メタンガス
費用削減額
(経済効果)
電力供給
のための
軽油削減量
温室効果ガス
削減量
(環境効果)
熱利用
のための
軽油削減量
発電廃熱
発電廃熱の
熱利用
図 6.2
排水処理施設改善案の評価方法
2) 電力使用量の削減効果
既存の活性汚泥処理(好気性処理)と新たに導入した嫌気性処理での電気使用量を算定した結
果は以下のとおりである。嫌気性処理を導入して活性汚泥処理施設に流入する CODcr 負荷量を削
減することで、後段の活性汚泥処理施設の電力使用量の削減に繋がる。嫌気性処理プロセスでの
電力使用を加味しても、嫌気性処理を導入することで、電力使用量は 36~304 千 kWh/年削減さ
れる。
表 6.3
電気、軽油使用量の削減効果
電気消費量(kWh/y)
好気性
処理
嫌気性
処理
軽油削減量(L/y)
合計
排水
処理
ガス発電
乾燥
利用
合計1
合計2
現況
2,503,492
0 2,503,492
0
0
0
0
0
case1-a
1,600,617
867,350 2,467,967
11,261
288,143
299,404
114,000
413,404
case1-b
1,654,564
648,737 2,303,301
63,461
259,632
323,093
114,000
437,093
case2-a
1,600,617
727,787 2,328,404
55,503
239,125
294,628
114,000
408,628
case2-b
1,654,564
544,986 2,199,550
96,350
215,803
312,153
114,000
426,153
注)軽油削減量で合計1は乾燥利用を含まない場合、合計 2 は乾燥利用を含む場合を示す。
Ⅳ-87
3) 軽油使用量の削減効果
嫌気性処理を導入することで回収されたメタンガスを用い、ガス発電と発電廃熱を乾燥熱源に
利用した場合の、軽油使用量の削減効果は表 6.3 のとおりである。
この結果、嫌気性処理を導入することで、軽油使用量は約 409~437kL/年削減される。
600,000
乾燥利用
ガス発電
排水処理
軽油削減量(L/y)
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
case1-a
case1-b
図 6.3
case2-a
case2-b
軽油削減量の比較
4) 維持管理費用の削減効果
軽油使用量の削減に伴う維持管理費用の削減額は以下のとおりである。
なお、費用削減額の試算に当たっては、軽油単価は 2012 年実績値(0.876US$/L)を用いた。
また、軽油費用の削減額から嫌気性処理に用いる薬品費を減じたものを総費用削減額として評価
した。
この結果、嫌気性処理導入による維持管理費削減額は Case-1、Case-2 で大きな差異はなく、
230~253 千 US$/年であった。
その一方、Case-1 は Case-2 に比べて汚泥処理のための施設が追加で必要であり、その建設コ
ストは数百万 US$規模と見込まれるため、Case-2 に比べて Case-1 の費用対効果は著しく低い。
また、Case-2-a と Case-2-b を比較すると、新たに建設する必要のある嫌気性処理施設の規模
が小さくてすむ(すなわち、建設コストが低い)Case-2-b の方が、維持管理費用の削減額が大き
く費用対効果が大きいと考えられるため、本プロジェクトにおける嫌気性処理導入による排水処
理改善方法は Case-2-b とする。
Ⅳ-88
表 6.4
維持管理費用の削減効果
軽油費用
Case
嫌気性処
理
薬品費
103US$/y
軽油削減額
乾燥利用無
103US$/y
乾燥利用有
103US$/y
維持管理費削減額
乾燥利用無
103US$/y
乾燥利用有
103US$/y
乾燥利用無
103US$/y
乾燥利用有
103US$/y
現 況
695.2
695.2
case1-a
432.9
333.1
262.3
362.1
34.0
228.3
328.1
case1-b
412.2
312.3
283.0
382.9
30.7
252.3
352.2
case2-a
437.1
337.2
258.1
358.0
34.0
224.1
324.0
case2-b
421.8
321.9
273.4
373.3
30.7
242.7
342.6
0.0
0.0
500.000
維持管理費削減額(US$/年)
乾燥利用分
排水処理分
400.000
300.000
200.000
100.000
0.000
case1-a
case1-b
図 6.4
case2-a
case2-b
年間の維持管理費用の比較
5) 温室効果ガス排出量の削減効果
軽油使用量の削減に伴う、温室効果ガス排出量の削減効果は以下のとおりであり、Case-2-b の
温室効果ガス削減量は約 1,100t-CO2/年である。
表 6.5
GHG 排出量
現況
温室効果ガス削減量
GHG 削減量
GHG 削減率
乾燥利用無
乾燥利用有
乾燥利用無
乾燥利用有
乾燥利用無
乾燥利用有
(t-CO2/y)
(t-CO2/y)
(t-CO2/y)
(t-CO2/y)
(%)
(%)
2,051
2,051
0
case1-a
688
983
774
1,069
37.7
52.1
case1-b
627
922
835
1,130
40.7
55.1
case2-a
700
995
762
1,056
37.1
51.5
case2-b
655
950
807
1,102
39.3
53.7
注)軽油の排出係数=2.585t-CO2/kL
Ⅳ-89
6.2. 資金計画
6.2.1. 設備の概要
6.1 に示したように排水処理施設改善案のうち case2-b が最も効率的な施設であり経済性が高
いことから、ここではこの案について建設費を算定し、その事業収支と資金計画について検討す
る。
Case2-b の設備改善案を図示すると以下のとおりである(図 6.5 のうち赤字で示した施設)。
設 備 と し て は 既 設 の 活 性 汚 泥 処 理 施設の前段に 沈殿池( Settling tank ) と 嫌 気 性 処 理 槽
(Anaerobic Reactor)を設置する。また発生したメタンガスの処理、利活用のための施設として、
ガスフォルダー(Gas Folder)、バイオガスコジェネレーショシステム(Biogas Co-genaration
system)を設置するものである。
Biogas Cogenaration
System
Gas Folder
EffluentC
Aeration
tank(ASETS)
Settling tank
CH4
Effluent
A,B
Anaerobic
Reactor
図 6.5
Settling tank
(ASETS)
Dry bed
本事業の整備施設の概要
6.2.2. 事業性の検討
嫌気性処理を導入する Case-2-b について、必要な施設・設備の建設費を概算した結果を以下に
示す。建設費には嫌気性処理に利用する担体(充填材)やポンプ類、攪拌機などの機械類は海外
から調達するものとして、その輸送費についても積算している。また、土木工事費については今
後の測量等を行って詳細を検討する必要がある。
上記の概算建設費と 6.1 で算定した維持管理費削減額から投資回収年数を算定した結果、発電
利用のみの場合(乾燥利用なし)6.2 年であり、乾燥利用ありの場合は 4.9 年であり、後者は 5 年
以内の回収が可能であると見込まれた。
なお、本試算結果は JCM による 50%補助を受けることにより、実質負担金額が半分となるも
のとして算定した結果である。
Ⅳ-90
表 6.6
概算建設費及び投資回収年数(case2-b)
金額(US$)
内容
乾燥利用無し
乾燥利用有
1
塔槽類
440,000
440,000
2
回転機器
330,000
330,000
3
充填材及び特殊内部装置
580,000
580,000
4
配管材料
50,000
50,000
5
配管副資材
40,000
40,000
6
メタンガス発電・コジェネ設備
220,000
300,000
7
動力制御盤及び計測器
190,000
190,000
8
発電廃熱利用施設(熱交換機)
9
梱包及び輸送費
10
現地工事(配管・据付)
11
試運転立上げ費(SV 費)
12
250,000
50,000
50,000
200,000
200,000
70,000
70,000
土木建築費(コンクリート水槽など)
560,000
560,000
13
設計費
130,000
130,000
14
諸経費
140,000
140,000
3,000,000
3,330,000
補助率
50%
50%
負担額
1,500,000
1,665,000
242,700
342,600
6.2
4.9
合計
年間経費削減額
投資回収年(負担額/年間経費削減額)
注)本試算結果はバッチ試験によるメタンガス発生量を基に試算したものであり、今後連続
通水試験の結果より装置規模を決定して再計算する。
6.2.3. 資金調達
コンソーシアムを構成する事業実施者において資金調達を行うが、事業実施においては設備補
助を受けることを前提として計画する。資金の調達は自己資金、借入金等の方法が想定されるが、
基本的には自己資金内で調達が可能と判断している。
Ⅳ-91
6.3. MRV 体制
プロジェクトの事業主体は(株)ブリヂストンの日本法人と現地サイトのブリヂストン子会社
(BSRE)であり、両者が共同事業者として国際コンソーシアムを構成する。本調査の共同調査
者である栗田工業、日水コンは必要に応じて支援を行う。
モニタリング(Monitaring)については、5.5 で示した通り BSRE において、現状でも排水量測定、水質
分析、エネルギー使用量測定などを、高頻度で測定している。水質分析については BSRE 内の実験室
で専門の要員によって分析されている。分析方法はインドネシア国家基準の方法に準じた標準作業手順
書を作成し、手順書に従って実施されている。また、排水水質の結果については、月に1度、国に報告お
よび国から委託された機関の立ち入り検査を受けている。以上のことからモニタリング体制については
BSRE 内の現状の要員が十分精度良く測定することが可能である。
各種の測定結果を元に温室効果ガスの削減量を算定し、報告書を作成(Reporting)することについて
も、本調査で開発した方法論を理解したコンソーシアムを構成する現状のスタッフ(主として BSRE のスタ
ッフ)が報告書をまとめることは可能である。ただし、必要に応じて本調査の構成員である日水コン、栗田
工業が支援する。
栗田工業
日水コン
【 国際コンソーシアム 】
日本企業 ブリヂストン
現地企業 BSRE(PT. Bridge-
第三者
審査機関
stone Sumatera Rubber Estate)
合同委員会
日本
環境省
尼国
KLH
事業活動の実施
モニタリングの実施
(Monitoring)
報告書の作成
支援
報告書の作成
検証
(Verifying)
(Reporting)
報告書
の提出
クレジット
の発行
クレジッ
トの受
領
クレジットの
一部納入
図 6.6
MRV 実施体制
Ⅳ-92
さらに、検証(Verification)については、第 3 者機関が実施予定であり、合同委員会が選定した機関リ
ストを基に委託先を決定し、検証を受ける。
検証された MRV 報告書は合同委員会に提出され、クレジットの発行となる。JCM の補助事業について
はクレジットの一部を環境省に納入することとなっており、認定されたクレジットの一部を納入するものとす
る。
6.4. プロジェクトの許認可
6.4.1. 必要な許認可
本事業での設備工事は、工場内での排水処理設備、発電機の変更(改良)のみであるため、新たな用
地の使用許可は不要である。嫌気性処理設備の設置工事に関しても、本地域では環境に関する設備に
関する許認可の必要はなく、報告をするのみである。
また環境影響評価についても本事業の施設は対象とならないため、地方政府での事前に必要な許認
可手続きは不要といえる。
6.4.2. 日本からの設備の輸出
日本からの設備の輸出については、機械類(ポンプ、撹拌機)、嫌気性処理の担体が対象となり、施設
の躯体はインドネシア現地で調達する。これらの輸出品については一般的な機械類等であるため、通常
の通関手続きを行って現地に搬送する。
6.5. 日本製技術の導入
6.5.1. 導入が想定される技術のニーズ及び技術の比較
1) 対象国における排水処理改善のニーズ
対象国においては、排水規制に関する法律である環境管理法が 2009 年の改正によって罰則と
行政の権限が強化される等、事業所を対象とした排水規制に関する法整備が進められている。
法整備と併せて、企業の環境管理状況に経済的なインセンティブを付与する PROPER 制度等
の運用を実施することで、インドネシア政府として排水処理を含む環境管理活動を企業に積極的
に求めていく傾向があるものと見受けられる。
現在、PROPER 制度に参加している企業の内、ゴム産業からの参加企業は 52 社あり、排水処
理を適切に実施している場合等に付与される「青」以上の評価を受けている企業が 42 工場(「緑」
:
5 工場、
「青」
:37 工場)となっている。本調査において、42 工場に対するアンケート調査を実施
した結果、回答のあった企業では主に好気性処理(活性汚泥法)を行う排水処理施設が導入され
ていた。
Ⅳ-93
活性汚泥法により天然ゴム製造工場排水を処理する場合は、曝気に多量のエネルギーを要する
ことになるため、目標処理水質を満足しつつ、排水処理コストの削減が期待できる日本の低炭素
型の排水処理技術は対象国においてニーズがあるものと考えられる。
2) 排水処理改善のために導入が想定される技術
排水処理で活性汚泥法を導入しているゴム製造工場におけるエネルギーコスト削減方策の一つ
として、メタン回収が可能な嫌気性処理を活性汚泥法の前段に設置することにより排水に含まれ
る有機物を除去し、活性汚泥法(曝気槽)への流入負荷低減と回収メタンを利用した発電による
エネルギー消費量の削減が挙げられる。
また、活性汚泥法の前段に設置する処理方法としては、嫌気性処理の他にインドネシア国内で
も一般的に導入されている物理化学処理(凝集沈殿法、嫌気性ラグーン)が想定される。そこで、
以下の処理技術について、概要を整理した。
◆嫌気性処理
◆凝集沈殿法
◆嫌気性ラグーン
(1) 嫌気性処理(メタン回収)
排水に含まれる有機物を嫌気性微生物の働き(メタン発酵)によって分解し、メタンを生成、
回収する技術である。回収したメタンは発電機により電力に変換し、自社工場や排水処理過程で
使用する(またはグリッドへの供給)ことで、CO2 の削減が可能となる。
メタン回収技術としては、国内メーカーへのヒアリングや情報収集を行った結果、本プロジェ
クトで対象としている技術(バイオセーバーTK)以外に以下の技術が挙げられる。
◆バイオセーバーTK(本プロジェクト対象技術)
◆UASB 法の改良:B 法
◆UASB 法の改良:C 法
◆UASB 法の改良:D 法
◆膜型メタン発酵ユニット法
◆UASB 法
上記の技術で、膜型メタン発酵ユニット以外の技術は日本のメーカー各社が既存の UASB 技術
に倣って、独自の改良を加えて開発されたものが多い。
なお、各種技術は対象とする排水の性状や適用濃度範囲が異なることに留意する必要がある。
(2) 凝集沈殿法
薬品(凝集剤等)添加により、排水に含まれる懸濁成分を凝集、沈殿除去する技術である。通
常、懸濁成分の個々の粒子では沈降が不可能な大きさの粒子を互いに凝集し、フロックを形成す
ることで沈降性を良くして処理することが可能である。
Ⅳ-94
ただし、凝集剤添加により前処理段階から汚泥発生量が増加するため、汚泥処理に掛かるコス
トが増加することに留意する必要がある。
(3) 嫌気性ラグーン
排水に含まれる懸濁成分を沈殿除去する技術である。凝集剤を使用しないため、有機物の除去
率は凝集沈殿法よりも低下するが、簡単な土木工事で設置が可能であり、維持管理も容易である。
ただし、嫌気性ラグーンでは、処理過程において、沈殿した懸濁成分の腐敗が進行した場合に
メタンが生成され、大気に放出されるため、導入前よりも GHG 排出量が増加する可能性がある
ことに留意する必要がある。
各技術については、文献調査を行って技術情報を収集した結果を整理し、表 6.7 において低濃
度排水であるゴム製造工場排水への適用の可能性を比較した。
表 6.7
バイオセーバーTK 及びその他処理方式の比較
嫌気性処理(メタン回収)
技術名称
処理原理
特徴
技術保有者
適用水質範囲
ゴム製造工場排水
処理に対する
適用可能性
バイオセー
バーTK
B法
C法
D法
物理化学処理
UASB
膜型メタン
ユニット
凝集
沈殿法
嫌気性
ラグーン
嫌気性微生物槽内に排水を流入させ微生物(グラニュール汚泥等)の嫌気分 凝集剤を添 ラグーンに
解を利用して有機物を処理し、発生したメタンを回収して発電等の有効利用 加すること 排水を流入
により懸濁 させて、懸
を行う
成分を凝集 濁成分を沈
表面に嫌気
特殊生物担
嫌気性微生 させ、沈殿 殿除去する
性微生物を
体とグラ
物槽内に設 除去する
付着させた
ニュール汚
置した液中
沈降性の良 多様(種類、濃度)な排 泥の併用に
膜により、
い担体で有 水に対して適用可能で、 より、グラ
固形性有機
高負荷運転が可能
機物を分
ニュール維
廃棄物の高
解、低濃度
持性能を向
負荷運転が
排水にも適
上した処理
可能
用が可能
が可能
国内
(栗田工業
株式会社)
国内
(E社)
国内
(F社)
国内外
国内
(G社)
CODcr濃度 CODcr濃度 CODcr濃度 高濃度有機 CODcr濃度 高濃度の固
500mg/L 1,000mg/L 2,000mg/L 性排水に対 2,000 mg/L 形性有機物
以上
以上*
以上*
して有効
以上
に対応可能
○
△
▲
▲
▲
▲
国内外
国内外
広範囲で適用される
○
○
*:適用水質範囲がBODで表記されていたため、BSREのCODcr/BOD(≒2)に基づき換算した数値
△:低濃度有機性排水にも適用可能な範囲であるが、飲料工場排水以外への適用性を検討する必要がある
3) ゴム製造工場排水処理に適用可能な技術
天然ゴム製造工場排水は CODcr 濃度が 2,000 mg/L 未満と低濃度であるため、表 6.7 に整理し
た通り、2,000 mg/L 以上の高濃度有機性排水に適用が限られる嫌気性処理技術の導入は困難
(▲)
であると判断される。
Ⅳ-95
天然ゴム製造工場排水に適用可能な嫌気性処理技術としては、バイオセーバーTK と B 法が挙
げられるが、B 法は飲料工場排水(ビール工場排水)を中心に普及が進められているため、それ
以外の排水に適用する場合は適用可能性を検討する必要(△)がある。
このため、嫌気性処理技術は低濃度排水でも適用可能なバイオセーバーTK のみが導入可能な技
術であると考えられる。
一方で、インドネシアやその他の国でも一般的に普及している凝集沈殿法や嫌気性ラグーン等
の物理化学処理は GHG 排出量の削減を考慮しない場合に、嫌気性処理(バイオセーバーTK)に
対する競合技術になり得ると考えられる。
6.5.2. 競合技術との GHG 削減量、コストの比較
天然ゴム製造工場排水のような低濃度有機性排水を処理する活性汚泥処理施設のエネルギーコ
スト削減方策として、技術的に適用可能な前処理方策を検討した結果、メタンガス回収・エネル
ギー利用が可能な技術は本事業で導入を想定するバイオセーバーTK のみであった。ただし、GHG
削減を考慮せずエネルギーコスト削減のみに注目した場合は、インドネシアでも一般的な凝集沈
殿法、嫌気性ラグーンが競合技術になり得ると考えられた。
このため、BSRE への導入を想定し、バイオセーバーTK、凝集沈殿法、嫌気性ラグーンのコス
ト、GHG 削減量を比較した結果を以下に示す。
1) GHG 削減量
Option-A のリファレンス排出量算定方法に基づき各前処理技術導入による GHG 削減量を算定
した結果、技術導入によって GHG 削減が可能になるのは、バイオセーバーTK と凝集沈殿のみで
あり、嫌気性ラグーンは放出されるメタンの影響で、GHG 排出量は逆に増加すると見込まれた。
また、GHG 削減量を比較すると、バイオセーバーTK が 842t-CO2/年であるのに対し、凝集沈
殿は CODcr 除去率が嫌気性処理に比べて低い点と、メタンのエネルギー利用を行わない点で
GHG 削減量は 164t-CO2/年とバイオセーバーTK の 3 割程度となった。
表 6.8
分類
CODcr除去率
項目
競合技術との GHG 削減量の比較
単位
前処理+活性汚泥処理
バイオセーバーTK
凝集沈殿
嫌気性ラグーン
溶解性CODcr
%
82.0
0.0
0.0
懸濁性CODcr
%
36.3
80.0
40.0
GHG排出量
電力消費(前処理)
t-CO2/年
474
69
0
(プロジェクト)
電力消費(活性汚泥)
t-CO2/年
910
1,204
1,436
メタン大気放出
t-CO2/年
0
0
1,473
メタン利用(削減分)
t-CO2/年
789
0
0
t-CO2/年
595
1,272
2,910
GHG排出量(リファレンス)
t-CO2/年
1,436
1,436
1,436
GHG削減量
t-CO2/年
842
164
-1,473
合計
Ⅳ-96
2) コスト比較(表 6.9 参照)
(1) イニシャルコスト
高度な機械設備が必要となるバイオセーバーTK が最も高く、約 300 万 US$のイニシャルコス
トが必要となる。その一方、複雑な機械設備が必要ではない凝集沈殿や嫌気性ラグーンのイニシ
ャルコストはそれぞれ、100 万 US$程度と 50 万 US$弱と試算され、バイオセーバーTK との差が
大きい。
(2) ランニングコスト
3 技術とも大きな差異はないが、CODcr 除去率が最も高く、メタンのエネルギー利用を行うバ
イオセーバーTK のランニングコストが比較的低くなった。また、凝集沈殿は凝集剤のコスト(年
間約 20 万 US$)が必要となるため、ランニングコストが比較的高くなっている。
嫌気性ラグーンは動力、薬品は不要であり、前処理に関するランニングコストは発生しないが、
CODcr 除去率が他 2 技術と比べて低く、活性汚泥処理施設で消費する電力量が大きくなるため、
ランニングコストはバイオセーバーTK を上回った。
(3) 処理年価
バイオセーバーTK の処理年価は、JCM 補助非適用時で 64 万 US$、JCM 補助適用時で 50 万
US$となった。3 技術とも処理年価に大きな差異はないが、JCM 補助を適用することでバイオセ
ーバーTK の処理年価は嫌気性ラグーンと同程度となった。
表 6.9
分類
イニシャルコスト
項目
土木
合計
電力(軽油)コスト
薬品コスト
合計
*
処理年価
単位
前処理+活性汚泥処理
バイオセーバーTK
JCM補助非適用時
凝集沈殿
嫌気性ラグーン
4
61
50
48
4
272
50
0
4
10 US$
機械設備
ランニングコスト
競合技術とのコストの比較
10 US$
333
100
48
4
32
42
47
4
3
18
0
4
35
60
47
4
64
66
48
4
50
10 US$
10 US$/年
10 US$/年
10 US$/年
10 US$/年
JCM補助適用時
10 US$/年
*:耐用年数は土木:40 年、機械設備:10 年と想定
(補助適用不可)
(補助適用不可)
6.5.3. バイオセーバーTK の導入促進方策
競合技術と考えられる凝集沈殿、嫌気性ラグーンと GHG 削減量、コストを比較した結果、バ
イオセーバーTK の GHG 削減量は他 2 技術と比べて多く、処理年価も同等であるため、バイオセ
ーバーTK の優位性が認められた。
ただ、バイオセーバーTK は、担体型の嫌気性処理設備やコジェネレーションシステムといった、
Ⅳ-97
高度な機械設備が必要となるため、イニシャルコストが高くなり、初期投資の確保が困難な工場
には導入が困難な技術であるという側面も有する。
このため、JCM 補助制度のようなイニシャルコストによる負担を低減する制度が、導入促進の
ためには重要になると考えられる。
Ⅳ-98
6.6. ホスト国への貢献
6.6.1. 国家の経済開発における貢献
ホスト国であるインドネシアの経済開発基本計画(Master Plan-Acceleration and expansion of
Indonesia Economic Development 2011~2025)が 2011 年に策定されている。本基本計画は 20
年間の基本計画を定めた長期経済開発計画(2006~2025)の改訂版として位置づけられる。
これによれば、8 つの主要プログラムと 22 の経済活動が掲げられ、さらに 6 つの経済回廊
(Economic Corridors:連携した重点開発地域)を成長の中心にした経済開発を行う方針として
いる。8 つの主要プログラムとは図に示すように農業、鉱業、エネルギー、工業等の産業分野で
あり、その具体的な経済活動として 22 の産業が示されている。天然ゴム産業(Rubber)は主要
プログラムの農業、工業分野に含まれ、また 22 の主要産業分野の 1 つであり、今後の経済活動の
拡大が期待されている分野である。2 章にも示したように天然ゴムは世界の生産の 3 割程度を占
め、同国の輸出製品の中心的なものとなっている。
従って、本プロジェクトのように天然ゴム製造業の省エネルギー、環境分野での支援を行うプ
ロジェクトは、インドネシアの経済開発と成長に貢献するものと期待される。
22 Main Economic Activities
8 Main Program
Agriculture
ICT
Shipping
Textiles
Food-Beverages
Steel
Defence
Equipment
Palm Oil
Rubber
Cocoa
Animal husbandry
Mining
Energy
Industrial
Marine
Tourism
Telecommunication
Timber
Oil and Gas
Coal
Nickel
Copper
Bauxite
Fishery
Tourism
Food Agriculture
Jabodetabek Area
Sunda Straits Strategic Area
Transportation Equipment
The development of strategi
出典)インドネシアの長期経済開発計画
(Master Plan-Acceleration and expansion of Indonesia Economic Development 2011~2025)
図 6.7
インドネシア長期経済開発基本計画の主要分野
さらに、長期計画の年次計画として位置づけられる経済開発中期計画(2010~2014)によれば、
以下の経済開発の目標が定められている。2014 年までに GDP 成長率は 7%、
顕在失業率を 5~6%、
さらにエネルギー分野においては電力化を 80%まで向上させ、電力容量を 3000 メガワットとし
ている。前述したように電力の安定化はインドネシアにおける産業活動を支える最も重要なイン
フラ施設である。政府は電力容量の拡大とともに省エネルギーを積極的に進めており、本プロジ
ェクトのように電力供給の安定化を促進する事業は極めて価値のある事業ということができる。
Ⅳ-99
表 6.10
中期経済開発計画(2010~2014)における主要経済目標
分野
項目
一般指標
GDP成長率
年平均6.3~6.8%、2014年に7%
インフレ率
年平均4.0~6.0%
顕在失業率
2014年までに5~6%
貧困率
2014年までに8~10%
電力容量
年3000メガワット
電化率
2014年までに80%
原油生産
2014年までに日量101万バレル
地熱発電
2014年までに5000メガワット
エネルギー
目標
出典)インドネシア中期経済開発計画(2010~2014)
6.6.2. 地域の産業活動への貢献
前述の長期経済開発基本計画(2011~2025)では、6 つの経済回廊をその成長の中心としてい
るが、その1つを構成するスマトラ経済回廊においては、天然ゴム生産量がインドネシア全体の
65%を占めることを踏まえ、今後もアジア地域での自動車普及の拡大からゴム需要の拡大が続く
ことを背景にして、この地域の主要産業として開発を進めるものとしている。本事業の対象であ
る BSRE はこの経済回廊の中心であるメダンに位置し、その従業者数も多く地域の中心的な企業
であり、本企業への日本技術の導入及び支援は地域の経済活動に大きく貢献するものである。
表 6.11
項
スマトラ経済回廊の主要開発施策
目
内 容
開発テーマ
国家のエネルギー貯蔵基地としての天然資源の加工、生産拠点
経済拠点地域
バンダ・アチェ、メダン、プカンバル、ジャンビ、パレンバン、タンジュンピナン、
パンカル・ピナン、パダン、バンダル、ランプン、ブンクル、スラン
主要経済活動
パーム油、天然ゴム、石炭、運送、鉄鋼、スンダ海峡国家戦略エリア
他方、インドネシアにおけるインフレ率の上昇は地域の企業の経営状況にも影響しており、本
プロジェクトの経済的効果も地域の産業活動を支援することになる。表 6.10 にも示したインフレ
率の政府目標値は 4~6%となっており、それが人件費の高騰にもつながっている。企業としては
人件費の高騰を生産増や材料及びエネルギー調達コストを抑えることで対応せざるを得ない。本
プロジェクトのように維持管理費を削減するプロジェクトの実施が企業の活動を支えるものと想
定される。
さらに、インドネシアにおいてはグリッドの電力供給能力が需要に比べて余裕がなく、停電な
どが頻発するという状況を招いている。電力供給が進まない場合、地域の経済の発展は阻害され
るため、本プロジェクトのように省エネルギー型の技術が電力供給の安定化に貢献する性格も有
Ⅳ-100
している。表 2.13 にも示したように本地域においては電化率が比較的低く、電力自給を進める企
業は地域の電力供給の安定化を支援することにもつながると言える。
このように本事業は、エネルギー供給の安定化、雇用の安定化にも貢献し、地域の産業活動を
支援するものと期待される。
出典)インドネシアの長期経済開発計画
(Master Plan-Acceleration and expansion of Indonesia Economic Development 2011~2025)
図 6.8
スマトラ経済回廊における経済開発の概要
6.6.3. 環境保全活動への貢献
本プロジェクトは工場から排出される有機性排水の処理を進めるものであり、維持管理が困難
な生物処理に対する日本の技術支援も提供できる。現状における公共用水域の水質汚濁を改善す
るための排水処理技術の普及を進めるインドネシア政府の施策に整合するものであり、同国の環
境対策に大きく貢献できる。
また、有機性排水の一般的な排水処理技術である好気性生物処理プロセスに嫌気性処理を付加
Ⅳ-101
して省エネルギー化を達成することで、先に示したエネルギーの安定供給に貢献するだけでなく、
温室効果ガスの削減という重要な地球環境保全にも貢献できるものである。
6.7. 環境十全性の確保
環境面での影響項目は、以下の 3 点が想定される。
本技術の導入においては、排水処理技術そのものが公共用水域の水質汚濁の防止という目的を
有しており、排水処理後の処理水質の目標は従前と変わらないため、環境の十全性を満たすもの
である。
嫌気性処理によって回収されるメタンガスは硫化水素を含む可能性があり、メタンガスの燃焼
により大気中への硫黄酸化物の排出という可能性もあるため、脱硫装置の設置とメタンガス漏出
の防止を図ることで環境の十全性を保つことができる。
また、曝気のためのブロアや発電機の騒音対策についても、低騒音タイプの選択と工場建屋内
での設置などの環境対策を講じることで十全性を確保する。
表 6.12
環境項目
水質汚濁
環境十全性の確保対策
想定される環境影響
環境十全性の確保対策
排 水 に よ る 公 共用 水
既存の活性汚泥処理の前段に嫌気性処理施設を設置
域の水質汚濁
するだけであり、処理水質は従前と同様の目標で運転
することを仮定しているため、水質汚濁面での問題点
は生じない
大気汚染
騒音・振動
メ タ ン ガ ス 燃 焼に よ
メタンガス中の硫化水素を除去する脱硫装置の設置
る大気汚染
により対応する
発電機等の騒音
発電機を低騒音タイプの設備とすること、建屋内に設
置するなどで対応する
6.8. その他の間接影響
6.8.1. 嫌気性処理での薬品添加の影響
嫌気性処理に用いられる薬品は FeCl3,NaOH,HCl の 3 種の中和剤であり、汚泥中には Fe が
残存することとなる。汚泥を肥料として土壌に利用する場合、土壌中の Fe 濃度が高くなる可能性
はあるが、通常の土壌中にも存在する上、残存する Fe 濃度は微量のため大きな影響はない。
Ⅳ-102
6.9. 今後の見込み及び課題
本調査における今後の見込みは以下の通りである。
①
メタン発酵連続通水試験
BSRE ではプラント設備の効率的な整備を進めるため、本調査と平行してオンサイトでのメ
タン発酵連続通水試験を行うこととしている。本実験は 3 月以降に実施予定であり、本調査で
実施したバッチ試験に比べてより実態に近いメタンガス発生量を得るために実施するもので
ある。従って嫌気性処理槽の容量等はこの実験結果を用いて再度算定されることになり、その
経済性の見直しは補助事業の応募時点までに終了することを予定している。
なお、投資判断を行う経済性の基準として、BSRE は投資回収年数 5 年以内を目標としてお
り、本試験結果をもとにその基準に照らして、事業の実施を決定する予定である。
②
熱需要の利用方法の検討
本業務では、BSRE の乾燥機の改良等の計画が進行中であることに鑑み、熱利用に関する最
終的な結論を得ることはできなかった。そのため回収したメタンの熱利用については発電のみ
の利用と、それに加えて発電廃熱を乾燥熱源として利用する場合の2ケースについて検討した。
今後は、これらの計画の結果を受けて、経済性、初期投資の回収年数等を比較評価しながら最
終的に利用方法を決定していくことが必要である。
Ⅳ-103
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