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COP21 と日本の気候変動対策

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COP21 と日本の気候変動対策
USJI Voice Vol.10(日本語版)
2015.11.24
USJI では日米関係を中心に様々なトピックを専門家がコメントする USJI Voice の発信を行って
います。今後は年に 9 回ほどの頻度で発信する予定です。
USJI 連携大学の研究者によるオピニオンをどうぞお楽しみください。
なお、USJI 連携大学の研究者に対して、USJI Voice で発信してほしいトピックなどご要望がござ
いましたら [email protected] までご連絡ください。
COP21 と日本の気候変動対策
大塚
直
早稲田大学
Ⅰ
教授
国際交渉において日本が目指すもの
11 月末からパリで開催される気候変動枠組条約 21 回締約国会議(COP21)に向けて日本が目指すものは
次の 4 点に集約されるであろう。
第 1 に、すべての主要国が参加する公平かつ実効的な枠組みとすることである。この点が最も重視されて
いる。特に米中が参加することが必須であると考えられる。もっとも、各国が提出した INDC(約束草案)が実
施されても 2.7℃上昇することが見込まれており、2 度目標の達成は難しいとされている。
第 2 に、先進国と途上国の二分論は必ずしも採用せず、各国が能力・事情に応じて貢献することが期待さ
れている。途上国にもさまざまな国があることから、資金供与についても二分論で決められることについては
反対している。
第 3 に、各国の目標の実施が有効に担保され、継続的に削減に向けた野心を向上させる仕組みの構築が
必要である。長期目標をたて、各国の目標の明確性を図り,報告レビューの仕組みをつくり、定期的に見直し
をすることが必要であるとする。
第 4 に、各国が共同で実施する市場メカニズムを通じて国際協力を実現することが必要であるとする。二国
間クレジット(JCM)もこの一種であり、市場メカニズムの導入を目指す他の国とも連携することを考えている。
もっとも、第 1 点については、2℃目標の実現と、全ての主要国の参加の両立は相当に困難である点が懸
念される。2℃目標の達成のためには、①各国の目標の引き上げを要請すること、及び②パリでの合意の結
果として作成される文書を法的拘束力の高いものとすることが、一般的には必要であると考えられるが、他方
で、このような要請をすることがすべての主要国の参加を妨げる可能性が高いからである。
Ⅱ 日本の約束草案
日本の約束草案は 2015 年 7 月 17 日に地球温暖化対策推進本部で決定され、国連に提出された。その内
容は以下のとおりである。
2020 年以降の温室効果ガス(GHG)削減に向けた日本の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なもの
となるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによ
1
る実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2013 年度比 26.0%削減(2005 年度
比 25.4%削減)を目標とした。
政府は、GDP あたりの排出量を 4 割以上改善(エネルギー効率は 35%改善)し、一人当たりの排出量を約
2 割改善することで、世界最高水準を維持しようとしており、日本の置かれた状況において野心的な目標を示
したものであると自己評価している。また、日本が掲げる「2050 年で世界で GHG 半減、先進国全体で 80%削
減」との目標に整合的であると評価している。
二国間クレジットについては、GHG 削減目標の基礎とはしていないが、日本として取得した排出削減・吸収
量を日本の削減として適切にカウントすることを考えている。
Ⅲ 今後の日本の取組
(1)すでに日本では様々な温暖化対策が推進されており、関連する法律も多い。
今後は、COP21 における国際枠組みに関する合意の状況を踏まえ、地球温暖化対策推進法(8 条)に基づ
き、2016 年 3 月、4 月を目途として、できるだけ速やかに地球温暖化対策計画を策定(閣議決定)する予定で
ある。計画の内容としては、計画期間、基本的方向性、GHG の排出抑制・吸収量の目標、目標達成のための
対策・施策、特に排出量の多い事業者に期待される事項などが含まれる予定である。その後、同計画を進捗
管理するためフォローアップを行っていく。
(2) INDC の中にも含まれているが、2030 年に向けた日本の温暖化対策の特徴としては次の諸点をあげる
ことができる。なお、2013 年度の GHG 総排出量は CO2 換算で 14.08 億 t であり、前年度比 1.2%増、2005
年度比 0.8%増であった。前年度に比べて増加した要因としては、火力発電における石炭の消費量の増加等
があげられる(もっとも、2014 年度のエネルギー起源 CO2 は前年度よりも 4.6%減少の見込みである(速報
値))。
第 1 に、INDC の基礎となるエネルギー基本計画では、2030 年のエネルギー構成は、原子力 20~22%、
再生可能エネルギー22~24%、石炭 26%、LNG27%、石油 3%が目標とされている。もっとも、この目標数
値については、再生可能エネルギーの数値が小さい(特に風力が 1.7%と極端に低い)こと、原子力発電の数
値が達成できるかに懸念があることなどが指摘されている。
第 2 に、2013 年度の部門別の CO2排出量は、1990 年度のそれと比して、産業では減少しているが(5.03
億 t から 4.29 億 t へ)、業務その他(1.34 億 t から 2.79 億 t へ)家庭(1.31 億 t から 2.01 億 t へ)で相当に増
加しているため、業務等、家庭に特に重点をおき(INDC でもそれぞれ 40,39%削減を目標としている)、
PDCA(Plan,Do,Check,Action)を回し、国民運動(クールチョイス)を進めることとしている。国民運動として
は、省エネ機器の買い替え、カーボンオフセットの普及促進、クールビズ・ウォームビズのような低炭素ライフ
スタイルの推進などがあげられている。
第 3 に、各部門における省エネ対策の積み上げにより、5030 万 KL 程度の省エネを実現する(2012 年度か
ら 2030 年度でエネルギー効率を 35%改善する)。この改善は石油危機並みの大幅なものである。産業部門
では鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプでの対炭素社会実行計画の推進、運輸部門では次世代自動車の普
及、燃費改善、交通流対策、業務部門では建築物の省エネ化、LED 照明・有機 EL の導入、家庭部門では住
宅の省エネ化等である。
第 4 に、2008ー2012 年の自主行動計画に続くものとして、産業界では低炭素社会実行計画が推進されて
おり、そのカバー率(2015 年 7 月 17 日現在)は、2020 年目標の低炭素社会実行計画については、産業・エネ
ルギー転換部門 76%、業務部門 13%、運輸部門 60%、2030 年目標の低炭素社会実行計画については、
産業・エネルギー転換部門 83%、業務部門 12%、運輸部門 56%である。今後、①フォローアップの強化によ
る実効性の向上、②計画未達成業種の策定促進や業界内の取組カバー率向上を通じた業者間の公平性の
確保、③目標水準を超過達成している業種の目標引き上げが検討される予定である。
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第 5 に、前述した二国間クレジットは、優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラの普及や緩和
活動の実施を加速化し、途上国の持続可能な発展に貢献することを目的としている。海外に環境技術を普及
し、資金メカニズムと技術メカニズムの有機的な連携を目指すものであり、現在 15 か国と協定を締結し、7 つ
のプロジェクトが登録されている。GHG の排出枠減・吸収へのわが国の貢献を定量的に評価するとともに、わ
が国の削減目標の達成に活用する予定である。気候変動枠組条約の究極的な目標の達成にも資するものと
考えられる。
Ⅳ 結びに代えて
日本は現在の世界の GHG の 3%程度の排出をしており、3%分の責任を将来世代に対して負っている。
GHG 排出量の多い中国、アメリカが中心となって世界の排出量の削減の仕組みの形成にリーダーシップを
発揮しなければならない。もっとも、日本は、主要排出国が参加しなければ取組の意味が乏しいことを理由に
京都議定書の第 2 約束期間に実質的に参加しなかった結果、COP21 において、主要排出国が参加するプレ
ッジ・アンド・レビューが新たに合意されつつあるともいえる。その意味では、現在の世界の状況に日本も相当
の責任を負っているといえよう。この問題について日米が手を携えて取り組むことを切に望むものである。
日米研究インスティテュート(U.S.-Japan Research Institute)
<ワシントン D.C.本部>
1901 Pennsylvania Avenue NW, Suite 801, Washington, DC
<日本オフィス>
東京都新宿区戸塚町 1-104 早稲田大学総長室経営企画課内
[email protected]
http://www.us-jpri.org/index.html
日米研究インスティテュート(USJI)は免税団体としての資格を取得した米国 NPO 法人です。九州大学、京都大学、慶應義塾大学、上
智大学、筑波大学、東京大学、同志社大学、立命館大学、早稲田大学が連携して活動しています。確かな学術基盤をもとに実践的研究結
果を産出し、戦略的に発信する最先端研究拠点をつくります。
なお USJI Voice は、執筆者である USJI 連携大学研究者の個人的見解に基づくものであり、USJI としての公式見解ではありません。
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