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絵本の読み聞かせを自然体験活動に

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絵本の読み聞かせを自然体験活動に
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 9
7
【報告】
絵本の読み聞かせを自然体験活動に
―自然体験活動のプログラムの一環としての
「絵本の読み聞かせ」の活用と効果の一考察―
藤
修
「A Picture―Book Reads and it is the Sake of Natural Experience Activities」
1Consideration of Practical Use of Reading of the Picture―Book as Part
of Natural Experience Activities, and an Effect
FUJI Osamu
【要旨】
昼プログラムの野外での活動と夜プログラムの絵本の読み聞かせを組み合わせることによっ
て,子どもたちの感性を高めることに有効であると考え,絵本の読み聞かせを自然体験活動のプ
ログラムの一環として導入を試みた。その結果,子ども達の昼間の活動のふりかえりや静かな集
中による精神の安定などいくつかの効果が観察された。
さらに,昼間の活動と関連する絵本の選択によって,体験にもとづく精神世界に広がりが見ら
れ,子ども達の感性を高めることに有効であることが確かめられた。
【キーワード】
絵本,読み聞かせ,ふりかえり,感性,文化的活動
¿
はじめに
本研究における事業実践を行った国立諫早少
年自然の家は,長崎・佐賀両県境の多良山系・
五家原岳中腹の諫早市白木峰町に位置してい
自然の家での自然体験活動を心身の全面発達と
いう観点から捉えたときに,五感をフルに活用
した静的で,より文化的な情操面を育むような
活動を企画できないかと考えたことである。
今回,主催事業
学校週五日制対応「沢ガニ
る。一帯は針葉樹林に囲まれ,東に有明海,西
さんと水遊び」の担当として,それを具体化す
に大村湾,南に橘湾,諫早干拓,雲仙岳が眺望
る場を与えられた。子どもたちは,昼間に野外
できる景観の地であり,年間平均気温1
4℃で降
での活動的なプログラム―沢あそび―を体験す
水量も少ないことから,多様な野外活動が日々
る。そのため夜のプログラムでは,昼間とは対
展開されている。
照的に,それらの活動を静かにふりかえらせ,
本研究の主題設定における着眼点は,このよ
うな野外での動的な活動ばかりではなく,少年
国立諫早少年自然の家(National Isahaya Childern ’
s Center)
夜の就寝前の静的な活動としての「絵本の読み
聞かせ」も有効ではないかと考えた。
9
8 国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第4号,2
0
0
4年
政府は,平成1
2年度を「子ども読書年」と位
の一環として絵本の読み聞かせをプログラムの
置づけ,
「政府は,読書の持つ計り知れない価
重要な取り組みとして位置づけ,それらの成果
値を認め,国立の国際子ども図書館が開館する
が広く青少年教育施設で取り組まれるための一
平成1
2年(西暦2
0
0
0年)を「子ども読書年」と
資料とすることである。
し,国を挙げて,子どもたちの読書活動を支援
そのため,次のような2つの課題を設定し,
する施策を集中的かつ総合的に講ずるべきであ
アンケートや活動の記録を元に分析・考察を
る。
」 (衆議院・子ども読書年に関する決議案
行った。
¸
2
0
0
0)とした。
さらに,平成1
3年1
2月に議員立法により成立
〈課題¿〉
した「子どもの読書活動の推進に関する法律」
昼プログラムの野外での活動と夜プログ
(平成1
3年法律第1
5
4号)¹第8条の規定に基づ
ラムの絵本の読み聞かせを組み合わせるこ
き,
「子どもの読書活動の推進に関する基本的
とによって,子どもたちの感性を高めるこ
な計画」 が策定され,施策の総合的かつ計画
とができるか検証する。
º
的な推進が図られてきた。
そのなかでも,少年自然の家として深く関連
のある「子どもの読書活動の推進に関する法律」
〈課題À〉
第七条の条文は以下のとおりである。
自然の家での読み聞かせの活動がきっか
けとなって,読書活動に興味を持つ子ども
(関係機関等との連携強化)
第七条
たちが増えるか検証する。
国及び地方公共団体は,子どもの
読書活動の推進に関する施策が円滑に実施
À
調査方法及び結果
関及び民間団体との連携の強化その他必要
1
参
な体制の整備に努めるものとする。
¸
参加した子どもの生活実態
されるよう,学校,図書館その他の関係機
さらに,
「子どもの読書活動の推進に関する
基本的な計画」には,読書活動の必要性につい
て次のように明記されている。
加
者
表1
参加児童数
表2
夜寝るのは何時ごろですか?
夜寝る時刻は,1年生では男女ともに9時ご
ろであるが,2年生になると男子で9時と1
0時
が半数,女子では1
0時就寝が8
3%と変化してい
読書活動は,子どもが,言葉を学び,感
る。すなわち,1年生から2年生にかけて就寝
性を磨き,表現力を高め,想像力を豊かな
時間に変化が見られ,3年生以降1
0時前後に就
ものにし,人生をより深く生きる力を身に
寝が主体となると考えられる。
つけていくうえで欠くことができないもの
表3
であり,社会全体でその推進を図っていく
ことはきわめて重要である。
一日に見るテレビの時間数は?
TVを見る時間は,最長3時間から1年平均
1
1
0分 2年平均12
0分 男子平均105分 女子
平均1
0
5分
そこで本研究の目的は,諫早市立図書館との
連携の上に,青少年教育施設での自然体験活動
全体平均1
0
5分と学年・性別に大差
は見られない。よく見る番組を列挙すると,次
のようになる。
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 9
9
表4
天 才 テ レ ビ く ん・名 探 偵 コ ナ ン・星 の カ ー
子どもを寝かしつけるときに何かやるこ
とはありますか?(自由記述)
ビィ・ヒカルの碁・犬夜叉・アトム・クレヨン
低学年では,半数以上が自分ひとりで寝てい
しんちゃん
東京フレンドパーク・ワンピース・ポケモン・
るだが,添い寝をして眠りにつく児童も半数近
ドラエモン・明日のナージャ・めざましテレビ
くいる。
あたしんち・ぴちぴちピッチ
表1
1年男子
1年女子
2年男子
参加児童数
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
参 加 数
4
1
1
1
4
1
1
1
5
2
5
1
8
2
2
4
0
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
回 答 率
5
0%
4
5%
3
6%
6
4%
表2
4
8%
夜寝るのは何時ごろですか?
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
9:0
0
2
4
3
0
6
3
5
4
9
9:3
0
0
1
0
1
1
1
0
2
2
1
0:0
0
0
0
2
6
0
8
2
6
8
1
0:3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
表3
全
体
一日に見るテレビの時間数は?
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
1 時 間
0
2
2
2
2
4
2
4
6
1時間半
0
0
1
2
0
3
1
2
3
2 時 間
2
1
1
2
3
3
3
3
6
2時間半
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3 時 間
0
1
1
1
1
2
1
2
3
3時間半
0
0
0
0
0
0
0
0
0
表4
子どもを寝かしつけるときに何かやることはありますか?(自由記述)
添い寝
6
本の読み聞かせ
2
学校での出来事などをお話しながら寝る
2
スキンシップ
2
姉とおしゃべりしながら寝る
1
特になし
8(幼稚園までは絵本を読んでいたが 1)
全
体
1
0
0 国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第4号,2
0
0
4年
に読み聞かせをしてもらうことよりも,自分で
絵本に関するアンケート
¹
表5
保護者の方が読み聞かせをすることがあ
本を読むようになる。その傾向は2年女子では
特に強く見られ,学校の図書館から借りてくる
りますか?
1年生では,読み聞かせを「することがある」
が8
0%を超えるが,2年生では,「あまりない」
が5
0%となり,学年がすすむにつれて読み聞か
などの補足記述もあった。
表7
子どもは本(絵本)が好きですか?
本に対する興味は,男子については学年がす
せをしなくなっていく傾向が見られる。
すむにつれて弱まり,女子については逆に興味
表6
が強くなっている。このことは,前の設問と同
子どもさんは自分からすすんで本(絵本)
じ傾向にある。
を読むことがありますか?
自分から本を読む傾向は,男子については学
表8
保護者の方は本(絵本)が好きですか?
年がすすむにつれて減少しているが,女子につ
保護者の本に関する興味は子どもに比べると
いては逆に増加している。特に文字を学び文章
低下している。さらに,前の設問なかで本があ
を読み取ることができるようになると,保護者
まり好きでないと答えた2名の児童に関して,
表5
保護者の方が読み聞かせをすることがありますか
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
よくある
0
0
0
1
0
1
0
1
1
あ
る
2
4
2
2
6
4
4
6
1
0
あまりない
0
1
3
3
1
5
3
4
7
な
0
0
0
1
0
1
0
1
1
い
表6
子どもさんは自分からすすんで本(絵本)を読むことがありますか。
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
よくある
1
2
1
5
3
6
2
7
9
あ
る
1
3
2
2
4
4
3
5
8
あまりない
0
0
2
0
0
2
2
0
2
な
0
0
0
0
0
0
0
0
0
い
表7
子どもは本(絵本)が好きですか
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
大変好き
2
2
1
5
3
6
2
7
9
好
き
0
2
3
2
2
5
3
4
7
あまり好き
ではない
0
1
1
0
1
1
1
1
2
好きではない
0
0
0
0
0
0
0
0
0
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 1
0
1
表8
保護者の方は本(絵本)が好きですか。
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
大変好き
0
1
2
2
1
3
2
3
5
好
2
3
1
5
5
6
3
8
1
1
あまり好き
ではない
1
2
0
1
2
2
1
3
好きではない
0
0
0
0
0
き
表9
その保護者も本があまり好きではないと答えて
いる。親が本に興味を関心が低いと,子どもに
ご家庭に絵本は何冊ほどありますか
1
0
0冊ほど
5
3
0冊ほど
3
も影響を与えるようである。
6
0冊ほど
8
2
0冊ほど
8
表9
5
0冊ほど
1
1
0冊ほど
1
2
ご家庭に絵本は何冊ほどありますか?
日
程
いコースで実施した。しかし,それでもかなり
表
の水量があり,低学年の児童にはチャレンジ性
表1
0 日程表
なお,絵本の読み聞かせについては,諫早市
の高いものとなった。本館に帰着後更衣をし,
立図書館の協力を得て6月2
9日(日)に事前研
夕 食・入 浴 を す ま せ,ナ イ ト ハ イ ク を 中 止
修を実施した。
し,3・4年 生 は 環 境 教 育 プ ロ グ ラ ム を 実
施,1・2年生は絵本の読み聞かせを実施し
3
た。
活動の実際
7月5日は,数日の雨天続きのために,水量
7月6日も,雨天のために牛乳パックで船を
も多く危険性も高いため学年別にコースを分け
つくるクラフトを実施した。その後,そりみね
ずにそりみね川Aコースの比較的取り組みやす
川終点で,作成した船と事前に準備した水鉄砲
表1
0 日程表
7月5日(土)
「沢ガニさんと水あそび¿」
1・2年生 沢遊び
3・4年生 沢の生き物観察
「環境カルタ」大会
1
7:0
0
夕 食
着がえ
雨天時
弁 当
晴天時 受 付
仲良しゲーム
1
0:0
0 1
1:0
0 1
4:0
0
1・2年生
ナイトハイク・絵本の読み聞かせ
3・4年生
「水のお話」ナイトハイク
水のお話
7月6日(日)
雨天時 同上 クラフト(水鉄砲・竹とんぼ)
自 由
+ 舟
1
3:0
0
着がえ
「沢ガニさんと水あそび¿」
(長田川)
) 沢での生物探し *水鉄砲あそび
昼 食
朝 食
晴天時
1
0:0
0
1
5:0
0
ふりかえりとまとめ
(∼1
5:2
0解散)
1
0
2 国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第4号,2
0
0
4年
写真1
沢でのチャレンジ
写真2
牛乳パックでの船つくり
・
「絵本を読んだのはどれくらい前ですか」
で遊んだ。
1
0年ぶりくらい(2名) 半年振り(1名)
4
読み聞かせに関する意識調査(対象:参加
絵本の読み聞かせについて,8名中4名が初
ボランティア)
低学年担当ボランティア
1ケ月ぶり(1名)
9名
うち記録提出
めて知ったと答え,3名が少し知っていた程度
8名
だった。ほとんどのボランティアリーダーが読
・
「読み聞かせに関して」
み聞かせについての初心者であったと考えら
初めて知った(4名) 少し知っていた(3
れ,このことは大変予想外であった。その意味
名) 講義で習った(0名) 実習で行った
(0
でも事前に研修を行ったことは意義のあること
名) 学校で習った(1名)
であった。
・
「絵本に関して」
大変好き(1名) 好き(7名) あまり好き
ではない(0名) 好きではない(0名)
表1
1 事前研修で役立ったこと
いくら下手でも,心を込めて読むことが大切だということ。私は文を読むのが苦手で不安だったけれど,先生が
そうおっしゃったので少し自信がもてた。子ども(人間)にとって,言葉の力はものすごくて,命にかかわると
いうことが印象に残った。
読み聞かせによい本や読み聞かせの方法などを知った。
読み聞かせについてはほとんど知識がなかったので,とても役に立った。読み聞かせの意味や絵本がもたらす子
どもへの効果を学んでから読み聞かせを行ったので,ただ絵本を読むという活動に終わらずにすんだと思う。心
を込めて読む,いい本を選ぶ,集中できる静かな場所を選ぶ,ということが知識としてあり,声色を使う必要が
ないということを念頭において読み聞かせを進めることができたのも,すべて研修のおかげだと思う。
絵本のすばらしさ。読み聞かせをするときの「場作り」の大切さ。テレビが与える影響。
事前研修でいくつか絵本を読んでいたということで,どのくらいのペースで呼んだらいいのかということを,自
分なりに体験し,考えることができていたのでよかった。最初は,淡々と文字を目で負って読むだけだったけれ
ど,
「読み聞かせ」は聞いてもらうのだから,
「ゆっくり,じっくり」読んでいいのだと,研修日から本番までに
気づくことができました。文字を読むだけではなく,
「絵」や「聞いている人たちの顔(様子)
」をじっくり見る
ことも大切!!そうすることで,
「読む側」も楽しむことができた。
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 1
0
3
2
課題¿に対する考察
課題¿
昼プログラムの野外での活動とよ
るプログラムの絵本の読み聞かせを
組み合わせることによって,子ども
たちの感性を高めることができるか
検証する。
本活動の展開は
写真3
読み聞かせ
沢登り → 夕食・入浴 → 絵本の読み聞かせ → 就寝
図1
Á
考
察
1
参加者及びボランティアの実態
本事業は,学校週五日制対応事業の一環で行
われたものであった。
活動と読み聞かせの流れ
図に示す通り,読み聞かせの活動は昼間の沢登
りとセットになった活動として企画をした。
従来,受け入れ事業などでは,昼間の活動の
後,キャンプファイアやキャンドルファイア,
参加した子ども達の絵本に対する興味・関心
ナイトハイクや星空の観察などが夜のプログラ
は非常に高く,低学年ほどその傾向が強い。保
ムとして実施されてきた。しかし,対象が低学
護者による読み聞かせの活動も生活の一部とし
年であることや宿泊体験が乏しいことなどを考
て定着しつつある。しかし,中学年∼高学年に
え以下の点に配慮した。
かけて,絵本に対する興味関心は薄れ,テレビ
)家庭での生活に近い状態で興奮を鎮める活動
を見る時間が長くなってくる。
*昼間の活動のふりかえりとなるような活動
これらのことから,学年が進むにつれて,文
字を覚えることで読み聞かせから一人読みに移
以上の点に着目し,絵本の読み聞かせを実施
した。
行し,テレビやゲーム等の影響もあり,読み聞
班は全体で9班。5人から6人編成で,それ
かせの活動が少なくなっていく現状が読み取る
に学生ボランティアリーダー1名が担当した。
ことができる。
表1
2 絵本の読み聞かせの効果に関する気づき
さらに,教育学部所属の大学生を中心とした
(学生ボランティアの記録より)
ボランティアについても,
「読み聞かせ」につ
絵本の読み聞かせには,読み聞かせによる直
いての活動の意義などについての認識が低く,
接的な効果,すなわち場所を問わず,一般的な
日常的に絵本に接する機会も少ない。しかし,
現象として見られる効果と,それに付随して,
研修などを通して,「読み聞かせ」
「語り聞かせ」
自然体験活動に取り込むことで副次的に見られ
などの教育的効果の高さを学習することができ
る効果があることがわかる。
た。また,それを実践にしたことで,認識を新
例えば,絵本「1
4匹のせんたく」を読んだと
たにし,そのことが,教育現場での読書活動の
きの子どもたちの反応は,自然体験活動と絵本
取り組みのきっかけ作りになると期待してい
の世界が子どもたちの心の中でうまくリンクし
る。
ている。子どもたちは「沢歩きをした後に,川
での洗濯の話だったので,子どもたちは自分た
1
0
4 国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第4号,2
0
0
4年
表1
2 絵本の読み聞かせの効果に関する気づき(学生ボランティアの記録より)
気
づ
き
自由記述の中
で回答した班
(8班中)
絵本の読み聞かせの直接的な効果
) 子どもたちが静かになり集中して話を聴くようになる。
4
* 絵本の内容に対して,自分の思ったことや自分の考えを自然に口にする子どもがいた。
5
+ 絵本の中に新しい発見をしていく。話の続きを予想するようになる。
4
, 読み手に興味を示し,
「自分も読んでみたい」と言い出した。
3
絵本の読み聞かせの間接的な(副次的な)効果
- 子どもたちの興奮を抑えることができる。
4
. 絵本を読むにつれて自然と眠りにつく子どもが増えてきた。
8
/ 読み聞かせを通して,昼間の活動で感じたことを自然な流れで問いかけることができた
3
子どもたちとのかかわりに関する効果
0
次の日も,暇な時間があると「絵本を読んで」といってくるようになった。
1
1
子どもたちとの関わる時間が増えた。
1
ちが体験したことを,次から次へと話し出し
添い寝やスキンシップをして安心感を持って眠
た。
」と反応をしている。そのことに関して,
りにつかせる配慮をしている家庭が多く,今回
ボランティアリーダーは「子どもたちは自分の
の宿泊体験に関しても読み聞かせを通して,ボ
体験や気持ちを,話したい・聞いてほしいと
ランティアリーダーや周囲の子どもたちとの静
思っているのだと感じた。沢を怖いといいなが
かな交流を通して,寂しさを感じさせない,家
らも,その中でかなり楽しい思いや体験もして
庭に近い安定した状態で眠りについたことが予
いた。
」と気づきを記録している。
想される。
このことは,体験学習法の中の「ふりかえり」
就寝時間については,家庭では9時から1
0時
のひとつのステップであり,読み手は昼間の活
の間に眠りについている(表2)
。今回,多く
動と絵本の世界を行き来しながらファシリテー
の子ども達は読み聞かせの間に眠ってしまうこ
ターとしての役割をこなしている。また,経験
とがあったが,1
2時過ぎまで眠れずにいた子ど
をみんなで共有する「わかちあい」の場として
もも2名ほどいた。そのうち,1名はホーム
も機能をしている。
シックのため夜中ボランティアに抱かれて泣き
また,自然体験活動と絵本の読み聞かせの相
続け,抱かれて眠るような状態であった。
乗効果によって,子どもの興奮が抑えられると
従来は,親元を離れた宿泊については,子ど
感じたボランティアリーダーが半数みられた。
もを眠りにつかせることに苦心してきた。しか
さらに,そのことですべての班で自然と眠りに
し,今回は,全体として,家庭とほぼ同じ時間
つくこともが増えたと感じている。このこと
に眠りにつく子ども達が多かった。
は,子どもの精神的な部分での安定と,翌日の
以上の考察より,課題¿「昼プログラムの野
活動への準備(睡眠時間の確保)など,大変有
外での活動と夜プログラムの絵本の読み聞かせ
効であると考えられる。
を組み合わせることによって,感性を高めるこ
また,家庭では表4にあるように,就寝時に
とができる。」について,一部妥当性が見られ
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 1
0
5
る。
たと考えられる。
保護者アンケートより
3
表13 「絵本の読み聞かせに関して子どもさん
課題Àに対する考察
はどのように話をしてくれましたか」
課題À
表14 「少年自然の家から帰って,絵本を読ん
自然の家での読み聞かせの活動が
でほしいと頼まれたことがありますか」
きっかけとなって,読書活動に興味
表15 自由記述 「自然の家での読み聞かせに
を持つ子どもたちが増えるか検証す
ついて,子どもさんはどのように話をして
る。
くれましたか」
本プログラムの企画の意図に,自然体験活動
満足度に関して,
「沢あそび」
「絵本の読み聞
と読み聞かせを組み合わせることで,より読書
かせ」
「ボランティアリーダーとの交流」
「新し
活動に興味を示すのではないか,読書をする
い友達作り」の4点で調査を行ったが,どれも
きっかけ作りになるのではないかと考えられ
満足度が高く,この主催事業の成果と考えられ
表1
3 「絵本の読み聞かせに関して子どもさんはどのように話をしてくれましたか」
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
大変満足
1
3
1
6
4
7
2
9
1
1
満
1
0
4
1
1
5
5
1
6
2
2
足
やや不満
不
2
2
満
表1
4 「少年自然の家から帰って,絵本を読んでほしいと頼まれたことがありますか」
1年男子
1年女子
2年男子
2年女子
1 年 計
2 年 計
男 子 計
女 子 計
全 体 計
回 答 数
2
5
5
7
7
1
2
7
1
2
1
9
あ
る
2
2
0
2
4
2
2
4
6
な
い
0
3
5
5
3
1
0
5
8
1
3
表1
5 自由記述 「自然の家での読み聞かせについて,子どもさんは
どのように話をしてくれましたか」
内
容
回答数
自分が選んだ本(好きな本)を読んでくれたと喜んでいました。
3
たくさん読んでもらい満足の様子でした。
5
大きいお兄さんやお姉さんに読んでもらう体験が初めてだったの喜んでいた。
1
落ち着いて眠りにつけたようです。
1
その時のお気に入りの一冊は図書館で借りるだけでなく,ついには購入させられ
るほどの思い出の一冊となっている。
1
面白かった・楽しかった
6
1
0
6 国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第4号,2
0
0
4年
及をしているが,青少年教育施設での活動の展
る。
一方,
「自然の家での読書活動がその後の家
開はまだ少ない。そこに着目して,自然体験活
庭での読書活動に影響を与えるか」
に関しては,
動と組み合わせる相乗効果によって,子どもの
今回は有意な効果が認められなかった。
心の中に深く刻み込まれるものがあるのではな
しかし,自由記述の中に「十数冊もの本を読
いかと感じていた。
んでくださったり,グループみんなのお気に入
本研究は「沢ガニさんと水遊び」という主催
りの1冊を繰り返し読み,笑わせてくださった
事業のなかで読書活動を検証したものである。
とのこと。お気に入りの一冊は公民館の図書館
この事業は,昨年まで日帰りの施設開放的な事
で借りるだけでなく,ついには購入させられる
業であったものが,
「低学年の宿泊体験」の一
ほどの思い出の一冊となっています。読み聞か
環として新しく企画を練りなおしたものであ
せは根気の要ることだと痛感しているので,繰
る。成果をまとめる中でいくつかの改善点と提
り返し何度も子どもたちの思いに応えてくだ
案をしたい。
さって,感謝いたします。
」とある。
)プログラムにあわせた絵本の選択を行う。
絵本のもつ世界はきっかけさえあれば,子ど
今回は事前研修を行う中で,諫早市立図書館
もたちの中に深く刻まれるものである。確実に
の協力を得て,研修後の短い時間で絵本を選択
一人の子どもの中に,思い出とともに大切な一
をした。
冊をプレゼントできたのは,大切な成果ではな
いだろうか。
自然の家から帰って,絵本を読んでほしいと
子どもたちは,ボランティアリーダーたちが
借りてきた絵本の中から読んでほしい本を各自
が選び,読み聞かせに用いた。
頼まれた5つの家庭は,日ごろも絵本を読むこ
それぞれのプログラムが目的を持って有機的
とがあり,読んでほしいと頼む動機が,自然の
に関連付けて展開がなされるには,子どもが選
家での活動の成果かどうかは検証できない。逆
ぶ絵本をどのような視点で,またどのような展
に,読み聞かせをすることの少なかった家庭
開(読む順番)を予想して読み聞かせるかとい
で,自然の家での活動後の「絵本を読んでほし
う視点で,絵本を用意する必要がある。たとえ
い」
と頼まれたというケースはみられなかった。
ば,沢登りなら,そのふりかえりとしての「1
4
以上からも,家庭での読み聞かせの習慣や生
匹のせんたく」が有効であったように,活動に
活習慣などにより左右されることもあり,今後
あわせた絵本の選択が必要である。
も日常的にさまざまな機会に読書活動が営まれ
*子どもたちのもつ集中力を活かす
ることを望む。
すべての班のリーダーたちは子どもたちの集
課題À「自然の家での読み聞かせの活動が
中力に驚きを見せている。その集中力を活か
きっかけとなって,読書活動に興味を持つ子ど
し,安定した状態で眠りにまで誘う工夫が必要
もたちが増えるか検証する」に関しては,事業
である。そのことが,睡眠時間の確保となり,
の前後で,十分な成果が認められなかった。
翌日の活動を保証することにつながる。
Â
ま と め
子どもの集中力を持続させるためには,場所
と時間の工夫が必要である。
「絵本の読み聞かせを自然体験活動に」が今
場所に関してボランティアリーダーのアン
回の研究テーマである。
「絵本の読み聞かせ」
ケートには,宿泊室の座敷やベッドなど読み聞
の活動自体は,低学年の読書活動として広く普
かせ場所を狭い空間に限定し,移動を少なくし
藤:絵本の読み聞かせを自然体験活動に 1
0
7
た班は成果を挙げている。一方大広間など広い
考えられる。さらに,有害なテレビなどの環境
空間や人の出入りの多い場所では子どもの集中
から子ども達を守るなど,全国の少年自然の家
が途切れる場面が多いようである。
が絵本の世界と出会う機会を提供できるような
さらに,読みはじめと読み終わりを設定した
班は,流れがスムーズである。とくに,
「これ
施設となることが望まれる。
* 夜のプログラムに絵本の読み聞かせの提案
が最後の一冊,これが終わったらみんな寝よう
を
ね」と約束を取り付けた班は比較的スムーズに
団体との事前打ち合わせなどの際に,
「絵本
子どもたちも納得をして眠りについた。子ども
の読み聞かせ」の教育的効果をもとに,夜のプ
たちは,次から次に読んでほしい本を際限なく
ログラムに提案をしてはどうだろうか。とくに
選んで持ってくる。しかし,それに応えること
幼稚園利用期間や小学校低学年の宿泊合宿・家
よりも,時間を設定したほうがよいようであ
族・グループの利用団体に最適である。
る。
+読書活動の積極的な研究を
+絵本を読みきる
公的機関(諫早市立図書館)との連携という
すべての班で,読み聞かせの途中子どもたち
意味でも今回の事業は,重要な意味がある。事
からさなざまな声がかかったり,あらすじを先
前研修の実施,絵本の貸し出しなど市立図書館
に話す子どもがいた。その一つ一つに応える姿
には大変援助をしていただいた。読書活動だけ
勢も大事であるが,そこで中断することなく,
で,事業を企画することは困難であるので,読
ゆっくりと絵本を読みきるほうが効果的であっ
書活動をどのように自然体験活動に位置づける
たという。さらに,読み聞かせをする絵本の数
か今後の研究が必要である。
についても,ある程度予告をし,
「何冊読んだ
ら,寝るようにしようね」と約束をし,一冊一
引用文献
冊を大切に読みきることも大切である。中に
¸ 子どもの読書年に関する決議案(衆議院・子ども
読書年に関する決議案2
0
0
0)
¹ 子どもの読書活動の推進に関する法律(平成1
3年
法律第1
5
4条)
º 子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画
(平
成1
4年8月)
は,際限なく読まされたボランティアもいた
し,就寝時間を考えるとあまりよいことではな
い。子ども達は,心に浮かんだことをダイレク
トに言葉にする。それは,人に聞いてほしい言
葉であったり,自分自身に言い聞かせる言葉で
あったり,さまざまである。子どもは絵本の世
界と対話をしている。ケースに応じて,読み手
が子どもの言葉に応えることがあってもよい
し,そのまま絵本を読み続けてもよいと考え
る。
また,青少年教育施設において,効果的に絵
本の読み聞かせを実施するために,以下の点を
提案する。
自然の家に絵本のコーナーを
)
良質な絵本,選別された絵本を提供すること
は,心身のバランスよい発達に影響を与えると
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