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腫瘍に対する細胞遺伝子治療の進歩

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腫瘍に対する細胞遺伝子治療の進歩
京府医大誌
124
(12),849~859,20
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849
<特集「腫瘍の生化学と分子生物学:最新の理解」
>
腫瘍に対する細胞遺伝子治療の進歩
柳生 茂希*,細井
創
京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学
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抄
録
腫瘍に対する細胞免疫治療や遺伝子治療は,従来の医療では治癒し得なかった難治性がん患者に対し
ても有効な新規治療法として期待されている.本稿では,腫瘍細胞に対する遺伝子導入,T細胞遺伝子
改変による細胞免疫療法,細胞治療の安全性を改善する遺伝子治療に焦点を当て,現在の腫瘍に対する
細胞遺伝子治療の現状と可能性について概説する.
キーワード:細胞遺伝子治療,自殺遺伝子,腫瘍溶解性ウイルス,キメラ T細胞受容体.
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め
に
細胞遺伝子治療は従来の治療では治癒し得な
かった進行がんに対する新規治療法として大い
に期待されている.腫瘍を細胞遺伝子治療の標
的とする方法として,①腫瘍細胞に対して直接
的に遺伝子導入し治療の標的とする②腫瘍細胞
を選択的に標的とするように宿主の免疫担当細
胞を遺伝子改変する③宿主の造血幹細胞に遺伝
子改変を加え,薬剤耐性を向上や安全性を改善
して移植治療に応用する,など種々の方法が研
究され,それぞれ臨床試験として応用されてい
る.本稿では,腫瘍に対する細胞遺伝子治療の
現状と最近の進歩について概説する.
平成27年10月29日受付
*連絡先 柳生茂希 〒6
02
‐8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465番地
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p
850
柳
生
腫瘍細胞を標的とした細胞遺伝子治療
腫瘍細胞を直接的に遺伝子治療の標的とする
ために,高い遺伝子導入効率を持つベクターを
用いて選択的に腫瘍細胞にのみ遺伝子を導入
し,腫瘍だけを特異的に傷害できるシステムが
開発されてきた.その一部はすでに臨床試験と
して応用され始めてきているが,その中でも自
殺遺伝子を用いた細胞遺伝子治療と腫瘍溶解性
ウイルスを用いた遺伝子治療について述べる.
自殺遺伝子を用いた
腫瘍細胞に対する細胞遺伝子治療
自殺遺伝子とは,その遺伝子産物によって細
胞死を誘導することが出来る遺伝子を指す.中
でも,ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ
遺伝子(HSVt
k
)とガンシクロビル(GCV)を
用いた遺伝子治療システムが最も詳細に研究さ
茂
希
ほか
れている.GCVはヘルペスウイルス属感染症
の治療薬として開発され,広く臨床現場で使用
されているが,その抗ウイルス薬としての作用
機序は,がんの遺伝子治療にも応用されてき
た.ヘルペスウイルス属のゲノム中にコードさ
れるチミジンキナーゼ遺伝子(HSVt
k
)は,GCV
を GCVt
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eに 代 謝 す る.こ の GCVt
r
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eが標的細胞の DNAに取り込まれ,
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na
t
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rとして DNAの伸長を阻害する
ことで,HSV感染細胞の細胞死が誘導される1).
この機構を応用し,HSVt
kを腫瘍細胞に遺伝子
導入し,GCVを投与することによって,HSVt
k
遺伝子を持つ腫瘍細胞を選択的に死滅させるこ
)
.HSVt
kシステムはそ
とが可能となる2)(図 1
の作用機序から主に分裂細胞に作用するため,
適切なベクターを用いて腫瘍細胞に遺伝子導入
することにより,増殖活性の高い腫瘍細胞にの
み選択的に抗腫瘍効果を発揮させることができ
図 1 HSVt
kシステムによる細胞死誘導機構
遺伝子導入された HSVt
kは,GCVを GCVmo
no
pho
s
pha
s
e
(GCVP)にリン酸化し,さらに c
e
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rpho
s
pha
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eによっ
て GCVt
r
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e(GCVPPP)に代謝される. GCVt
r
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rとして DNA合成を阻害す
る.
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る.さらには,GCVt
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eが細胞間結合
を介して隣接する細胞に伝播されることによ
り,隣接細胞に対しても殺細胞効果を発揮する
t
k遺伝子が遺伝
(b
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e
r効果)ため3),HSV子導入されなかった周辺組織や腫瘍微小環境に
対しても効果が期待される.
この HSVt
kシステムを用いたがん遺伝子治
療は実際に脳腫瘍や卵巣がんで臨床試験として
応用されている4‐9).膠芽腫を対象とした第 3相
臨床試験では,HSVt
kシステムが組み込まれた
アデノウイルスベクターを腫瘍内に直接投与す
ることで遺伝子導入を行い,GCVの全身投与に
より HSVt
kシステムを活性化させることで抗
腫瘍効果が期待された.しかしながら,HSVt
k
アデノウイルスベクターの高い安全性が報告さ
れたものの,生存期間の延長は認められなかっ
た9).その大きな理由として,アデノウイルス
ベクターの感染効率は極めて高いものの,導入
された遺伝子発現が一時的であること,また,
中和抗体の産生により,ウイルスベクター自身
が宿主から排除されてしまうことが考えられて
いる10).さらには,宿主の免疫学的機構による
ベクター排除を回避するためには腫瘍内局所投
与が必須となり,転移性腫瘍に対しては効果を
発揮させることが出来ない.そのため,腫瘍に
対する遺伝子治療をより有効にするためには,
全身投与が可能な,標的組織への安全,かつ確
実な遺伝子デリバリーシステムの確立が必要で
ある.
このような問題点を回避するために,神経幹細
胞,間葉系幹細胞など,細胞を用いたベクターデ
リバリーシステムが開発されてきた11‐16).間葉系
幹細胞(MSC)は,骨髄や脂肪組織から単離さ
れ,それ自身高い増殖活性を持ち,a
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tへの分化能を持つ.興
味深いことに,MSCは炎症部位や腫瘍組織に特
異的に遊走する性質を持つため12),腫瘍組織へ
のc
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としてMSCを用いる研究が進
められている.マウス肺がんモデルの研究で
は,自殺遺伝子が導入されたアデノウイルスベ
クターを MSCに搭載し,MSCをマウスに全身
投与することで,MSCが肺がん組織に特異的に
851
集積すること,MSCからアデノウイルスベク
ターが周囲組織に放出され,腫瘍組織に感染す
ること17)18),また,自殺遺伝子の活性化により肺
がんの縮小効果が見られ,マウス生存期間が延
長することが報告され15)16),新規の腫瘍に対す
る細胞遺伝子治療として注目を浴びている.
腫瘍溶解性ウイルスを
用いた遺伝子治療
腫瘍溶解性ウイルスとは,選択的に腫瘍細胞
内でのみウイルスが複製されるように遺伝子改
変されたウイルスを指す.感染した腫瘍細胞は
変性・融解するため,複製されたウイルス粒子
は周囲に放出されて他の腫瘍細胞に感染し,さ
らに複製されることで抗腫瘍効果が増幅され
る.さらには,感染細胞の直接的な細胞死誘導
のみではなく,宿主の免疫活性を増強させるこ
とでの抗腫瘍効果も期待される19).
20世紀初頭に,ウイルス感染後の腫瘍縮小効
果が報告されて以来,種々の腫瘍溶解性をもつ
ウイルスが単離され,腫瘍細胞のみで選択的に
感染,複製する様にウイルスゲノムが改変され
てきた.現在では,アデノウイルス,単純ヘル
ペスウイルス,レオウイルス,ムンプスウイル
ス,ワクシニアウイルスなどが用いられてい
る.選択的に腫瘍細胞のみでウイルス複製が行
われるように,ウイルス複製に必須の遺伝子の
欠失やプロモーターの改変など,特異性を高め
る工夫が行われている.例として,腫瘍溶解性
アデノウイルス d
l
1520
(Ony
x
015
)は,そのウ
イルスゲノム中からウイルス複製に必須の蛋白
をコードする E1B遺伝子が欠失しており,p53
が欠損した腫瘍細胞内でのみウイルス複製が行
われるように改変されているため,選択的に抗
腫瘍効果を発揮することが出来る20).欧米では
すでに頭頚部腫瘍患者を対象として Ony
x
015
の腫瘍内投与と全身化学療法の併用を行う臨床
試験が施行され,高い奏効率を示したと報告さ
x
015は頭頚部腫瘍患
れている21).しかし,Ony
者を対象として,中国でその使用が承認された
にもかかわらず22),その持続性奏効率の低さか
ら米国をはじめその他の国々では,治療薬とし
852
柳
生
茂
ての承認には至っていない.
これに対し,腫瘍細胞への選択的な導入効
率の改善と,宿主の免疫反応を惹起すること
による持続的な抗腫瘍効果を目的として,新規
腫瘍溶解性ウイルス治療薬である Ta
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mo
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pv
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(Tv
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)が開発された23).Tv
e
c
は腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスに,免疫賦
活作用を期待して GMSCFを分泌させるよう
にゲノム改変することで作成されており,転移
性悪性黒色腫に対して高い持続的奏効率を示す
v
e
c
ことが報告された24).この結果を受けて,Tは新規の免疫調整薬として米国 FDAの承認が
推奨されており,早期の承認と臨床への応用が
期待されている.
T細胞に対する遺伝子改変
遺伝子改変キメラ受容体 T細胞療法
がん患者では,腫瘍細胞に対する免疫機構の
破綻により,腫瘍細胞が宿主の免疫機構によっ
て排除できない状態となっている.がん患者の
腫瘍免疫機構を回復させるために,細胞傷害性
T細胞(CTL)がもつ T細胞受容体(TCR)に
対して遺伝子改変を加え,直接的かつ選択的に
腫瘍細胞を CTLに認識させ,抗腫瘍効果を発揮
するという遺伝子改変キメラ受容体 T細胞
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;CART)治療
2
5)
Tは,腫瘍抗原
が近年開発されてきた .CARに特異的なモノクローナル抗体の可変領域軽
鎖(VL)と重鎖(VH)を直列に結合させた抗体
(s
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ng
l
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ha
i
nFv
;s
c
Fv
)を N末端側に,TCR複
合体 CD3細胞内ドメインであるζ鎖(CD3
ζ)
を C末端側に,一本鎖の状態で配列させたキメ
ラ蛋白である(図 2
)
.CART細胞は,腫瘍細胞
の主要組織適合遺伝子複合体 c
l
a
s
sI
の発現とは
無関係に,s
c
Fvで腫瘍抗原を認識するとそのシ
グナルは CD3ζを介して T細胞内に伝達され,
T細胞が活性化する.さらに,キメラ受容体と
T細胞の共刺激分子である CD28や CD137
(4,T細胞
1BB)の共発現や26)27)(第 2世代 CAR)
増殖因子 I
L15の同時発現28)などの改変が加え
られ,CART細胞の抗腫瘍効果がより改善され
ている.
希
ほか
図 2 キメラ T細胞受容体(第 2世代 CAR)
CART細胞を用いたがん治療はすでに臨床
試験として応用されている.CD19陽性 Bリン
パ球系腫瘍を対象とした第 3相臨床試験では,
再発急性リンパ性白血病患者に対して,患者よ
りあらかじめ T細胞を採取した上で CD19特異
的 CARを遺伝子導入し,培養,増殖させた上で
患者体内に輸注され,投与を受けた 5例全例で
骨髄での分子生物学的寛解が得られたと報告さ
T細胞療法では,細胞
れている29).また,CAR膜表面たんぱくのみならず,がん糖鎖抗原を標
的とすることも可能であるため,様々ながん腫
に対して CART細胞療法を提案することがで
きる.実際に,小児悪性固形腫瘍の代表であ
る神経芽腫患者を対象に,神経芽腫細胞が特
異的に発現する糖脂質である d
i
s
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l
o
g
a
ng
l
i
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s
i
d
e
2
(GD2
)を標的とした GD2CART細胞療法が
臨床応用されている.治療不応性あるいは再発
性神経芽腫患者を対象とした臨床試験では,患
者 T細胞より作成された GD2CART細胞が輸
注され,活動性病変を有する腫瘍残存例 11例の
うち 3例に完全寛解が得られたと報告されて
(HER2/
ne
u
)特
いる30).これ以外にも,ERBB2
異的 CART細胞(大腸がん,膠芽腫など)
,CD20
特異的 CART細胞(B細胞性リンパ腫)など,
種々の標的に対して CART細胞が作成,臨床
試験に応用されており31)32),その結果が待たれ
ている.
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腫瘍免疫回避機構を
標的とした遺伝子改変
上記のように T細胞を用いた細胞遺伝子治療
は次世代のがん治療を担う治療として大きく期
待されているものの,多くの腫瘍細胞が有する
腫瘍免疫回避機構により,その抗腫瘍効果は低
減される可能性を有している.そのため,次な
る工夫として腫瘍免疫回避機構に対抗するため
のさらなる遺伝子改変が試みられるようになっ
てきた.
腫瘍免疫機構回避の一例として,腫瘍細胞か
らの TGFβ分泌による免疫制御があげられる.
腫瘍細胞は,組織中に TGFβを分泌し,腫瘍組
織へと遊走してきた CTLの増殖や活性化を阻害
し,制御性 T細胞(r
e
g
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r
yTc
e
l
l
;Tr
e
g
)を
活性化させる.TGFβは,T細胞上に発現する
TGFβ受容体に結合し,これによって TGFβ受
容体が四量体化することで抑制性シグナルが T
細胞内に伝達される.興味深いことに,TGFβ
受容体の細胞内ドメインを欠失させた遺伝子改
変型 TGFβ受容体(d
o
mi
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g
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v
eTGFβ
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rI
I
;d
nTGF
β RI
I
)を T細胞に遺伝子導
入し,腫瘍由来の TGFβシグナル伝達を遮断す
ることで,腫瘍免疫回避機構を低減させ,CTL
による抗腫瘍効果が増強することが明らかと
t
a
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nBa
r
rv
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r
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(EBV)
な っ た33).実 際 に,Eps
抗原陽性 Ho
d
g
ki
nリンパ腫,非 Ho
d
g
ki
nリンパ
腫患者を対象とした臨床試験では,EBV特異的
CTL治療に反応しなかった患者に対しても,
d
nTGFβ RI
I導入 EBV特異的 CTLでは抗腫瘍
効果を認めたと報告されている34).d
nTGF
β RI
I
以外にも,遺伝子改変による PDL1PD1経路や
CTLA4経路遮断による腫瘍免疫の増強など,
腫瘍免疫機構回避を標的とした遺伝子治療の報
告が相次いでおり35),さらなる進歩が望まれる.
細胞治療の安全性を
高めるための遺伝子改変
腫瘍細胞を標的とする細胞免疫治療や遺伝子
治療では,常に予想しない有害事象が発生する
危険性を伴う.例えば,最も古典的な細胞免疫
853
治療である同種造血幹細胞移植では,有害事象
として宿主細胞に対する過剰な免疫反応による
c
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ki
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(CRS
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(Gv
HD)が大きな問題となる.薬
剤による有害事象とは異なり,細胞治療や遺伝
子治療に伴う有害事象は,導入遺伝子の残存や
輸注細胞の体内での増殖のために,その有害事
象が持続,増幅しやすい.そのため,細胞遺伝
子治療を安全に臨床応用するためには,予期せ
ぬ有害事象を軽減し,安全性を高める工夫が不
可欠となる.
この問題に対して,自殺遺伝子による細胞死
誘導機構を細胞治療のセーフティ・スイッチと
して応用する試みがなされている.つまり,先
述した HSVt
kシステムをあらかじめ T細胞に
遺伝子導入し,造血幹細胞移植後感染症や再発
の際に HSVt
k導入ドナー T細胞を患者に輸注
することで,抗ウイルス効果,抗腫瘍効果を期
待する反面,重症 Gv
HDが惹起された際には,
GCVを投与して HSVt
k導入 T細胞に細胞死を
t
k導入ドナー T細胞を用いた
誘導する36).HSV移植後感染症治療はすでに第 3相臨床試験でそ
の効果が実証され,極めて有効かつ安全に治療
を行うことが出来ることが報告されている37)38).
一方で,HSVt
kシステムは宿主細胞の DNA合
成システムに干渉することで細胞死を誘導する
ため,その効果が発現するまでには数日程度要
し,かつ細胞分裂能の高くない細胞には効果が
弱い.また,HSVt
k遺伝子産物はウイルス由来
であり免疫原性を持つため,宿主の免疫細胞の
標的となり,遺伝子導入細胞は宿主免疫機構に
よって排除される.そのため,HSVt
k導入ド
ナー T細胞は宿主免疫機能によって排除される
こと,また,症状出現から症状消失までに数日
以上かかってしまうという問題点も明らかと
なった.
最近,c
a
s
pa
s
eによる内因性アポトーシス機
構を応用した新たな人為的細胞死誘導システム
が細胞治療のセーフティ・スイッチとして応用
s
pa
s
e9は,その酵素活性
され始めている39).Ca
が不活化された前駆体(pr
o
c
a
s
pa
s
e9
)として
合成される.細胞が傷害を受けると,ミトコン
854
柳
生
茂
ドリアから放出される c
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c
hr
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meCや Apa
f
1
が複合体を形成し,この複合体が pr
o
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(CARD)と会合し,
c
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pa
s
e
9は二量体化する.これによって pr
o
c
a
s
pa
s
e
9はプロテアーゼによる切断を受けて
活性化され,下流である c
a
s
pa
s
e
3をさらに活
性化させることでアポトーシスを誘導する
(図 3).この機構を応用したセーフティ・ス
イッチシステムとして,i
nd
uc
i
b
l
ec
a
s
pa
s
e9
C9は CARDをコード
(i
C9)が開発された40).i
す る 遺 伝 子 領 域 が FK b
i
nd
i
ngp
r
o
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e
i
n 12
(FKBP12
)遺伝子に置き換えられる事によっ
て,t
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i
mus誘導体である AP1903
(c
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i
nd
uc
e
ro
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i
z
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t
i
o
n;CI
D)存在下でのみ二量
)
3
)
.i
C9はヒト由来の
体化し,活性化す40)41(図
改変たんぱくであり免疫原性がないと考えられ
ること,CI
Dは生物学的に不活性であり,生体
に対しての毒性が報告されていないこと42),ア
ポトーシス経路を直接的に活性化させることか
希
ほか
ら効果発現が極めて早いこと39)から,細胞治療
に対して理想的なセーフティ・スイッチといえ
る.実際に,i
C9が導入された T細胞は,CI
D
投与で30分以内にアポトーシスが誘導され,24
時間後には 90%以上の i
C9導入 T細胞で細胞死
が誘導されたと報告されている39).さらに,造
血幹細胞移植後のウイルス感染症患者に対する
i
C9導入 T細胞(i
C9T)を用いた臨床試験では,
i
C9T輸注後に重症 Gv
HDを発症した患者に対
して CI
Dが投与され,投与後 30分でおよそ
90%以上の i
C9Tが体内から排除され,24時間
以内にGv
HDに伴う症状が消失したと報告され
C9を用いたセーフティ・スイッチ
ている43)44).i
システムは,造血幹細胞移植後のドナー T細胞
輸注のみならず,CART細胞療法28)や間葉系幹
細胞を用いた細胞治療45),さらに,i
PS細胞を用
いた再生医療46)47)にも応用することが可能であ
り,その発展が大いに期待されている.
図3 i
nd
uc
i
b
l
ec
a
s
pa
s
e9
(i
C9
)システムによる細胞死誘導機構
i
C9は,AP1903
(c
he
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c
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li
nd
uc
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ro
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れ始めている.しかしながら,多くの薬剤開発
とは異なり,大きな開発費用が生じること,さ
らには,細胞遺伝子治療の臨床応用が始まって
以降も,疾患や患者ごとに製剤が個別化される
ために治療に莫大な費用がかかることから,商
業面での制約が極めて大きく,臨床応用への大
きなハードルとなっている.また,本稿で概説
文
855
した細胞遺伝子治療の治療効果,安全性という
面でも,安全,確実な遺伝子デリバリーシステ
ムの確立,導入細胞・遺伝子の生体内での挙動,
腫瘍細胞への高い選択性をもったベクター開発
など,克服しなければいけない問題点も多い.
しかしながら,従来の治療では治癒し得なかっ
た難治性がんに対して極めて有効な新規治療法
である可能性を大いに秘めており,早期の実用
化に向けてさらなる進歩が待たれる.
開示すべき潜在的利益相反状態はない.
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著者プロフィール
柳生 茂希 Shi
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所属・職:京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学・助教
歴:2000年 3月 京都府立医科大学医学部 卒業
略
2000年 4月 京都府立医科大学小児科
2005年 4月 京都府立医科大学大学院医学研究科 入学
2009年 3月 京都府立医科大学大学院医学研究科 修了
博士(医学)
2009年 4月 京都府立与謝の海病院小児科
2011年 4月 京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学 助教
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2015年 8月~現職
専門分野:小児腫瘍学
主な業績: 1.Ho
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l2005;74:529532.
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