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神経変性疾患の MR画像診断

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神経変性疾患の MR画像診断
京府医大誌
121
(12),641~648,2012.
医用画像の過剰使用問題
641
<特集「認知症の臨床 最近の話題」
>
神経変性疾患の MR画像診断
山
田
惠*
京都府立医科大学大学院医学研究科放射線診断治療学
MRi
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抄
録
認知症患者の診断を行うにあたって脳画像,特に MRIは比較的重要な役割を果たす.この領域は放
射線科医にとっても,ウエートの大きい分野であるが,その技術の習得は必ずしも簡単なものとは言え
ず,熟練を要する領域の一つである.本稿においては MRIを含む断層画像を用いた画像診断手法を述
べる.特にその手順や隠されたコツを中心として述べ,研究領域に関する記載に関しては最小限にとど
めた.
キーワード:MRI
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イマー病,正常圧水頭症.
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,NPH.
緒
言
認知症は後天的な脳の器質的変化により,いっ
たん正常に発達した知能が低下した状態を指
し,その有病率は人口の高齢化に伴って増加し
ている.中でもアルツハイマー病は最も多いタ
イプの一つとされ,年間発症率は 90歳までに加
速度的に増加するとされる.
認知症の評価における画像診断の重要度は近
年増しており,疾患によっては診断ガイドライ
平成24年9月29日受付
*連絡先
山田 惠 〒602
‐8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465番地
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開示すべき潜在的利益相反状態はない.
山
642
田
ン中の重要な一角を占めるものもある.加えて
NI
H主導で始まったアルツハイマー病のプロ
ジェクトである ADNI
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)等の大規模共同研究に
より以前にもまして注目度が高くなった様にも
見える.このような研究は疾病の自然史や創薬
の領域での活用が期待されており,日本を含め
世界中で類似の共同研究が始まっている.さて
本稿においては今回の特集のテーマである「臨
床」に主眼をおいた論説とした.従って研究に
関する記載は最小限にして,前半では画像の読
影手順を述べ,後半で疾患特異性のある画像所
見について言及する.
ファーストステップ;全体像をみる
惠
縮の程度や分布を判定するのには若干の危険を
伴うと言う点である.その理由は T2強調画像
では脳脊髄液(c
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;CSF)の信号
が強い高信号となるため,実際よりも開大して
見えることに起因する.例えば自身の施設にお
ける同じ撮像断面での T1と T2強調画像を並べ
て配置し,脳室の大きさを比較して頂きたい
(図1
)
.そうすると決まってT2強調画像で脳室
が大きく見えることに気づくであろう.これは
撮像シーケンス依存性の特有のアーチファクト
であり,従って萎縮評価には脳脊髄液の影響が
少ない T1強調画像ないし FLAI
Rを用いるべき
であろう.仮に T2強調画像を使っている場合
は常時これを用いるように自分なりのルールづ
くりをしなければ判断を誤ることとなる.
脳画像を見る時には,まず全体像の把握が大
切である.第一印象として感じ取られる脳のボ
リュームの評価は多くの医師が本能的に行って
いる作業の一つと思われる.ただ萎縮の評価は
かなりの部分が主観的なものである.軽度,中
等度,高度の三つに分類したとしても,そのグ
レーディングに定量性は期待できない.実際に
複数の放射線科医に萎縮の程度を独立して評価
させた場合,必ずしも一致率は高くないという
ことを示した論文が存在する1).恐らく萎縮の
グレーディングは個々の医師が診療において経
験する平均的な脳の大きさに依存しているのだ
ろう.例えば健常人の脳ドックを担当する医師
と認知症を専らとする医師では,同一患者を見
た場合でも萎縮の程度に対する判断が異なって
くることが想定される.脳ドック医師にとって
高度萎縮と感じられる症例でも,認知症を専門
とする医師には軽度萎縮に映るかもしれない.
いずれにせよ,自分なりに主観的でもよいので
「全体像」を最初に把握することは重要である.
医用画像の電子化が進み,モニター上で画像
を観察することが,この数年で世のスタンダー
ドとなってきたが,その過程で 1枚の画像を画
面に大きく表示してスクロールをしながら頭尾
方向を追跡する(水平断画像の場合)という読
影手法が一般化してきた.この手法自体の利点
は大きく,解剖学的構造の連続性をとらえやす
いことから,初学者の間ではこの方法が好まれ
て使用されている.しかし図 1に示したような
タイル表示(この図では 4×5
)による読影とい
うものも捨てがたい魅力を秘めており,筆者は
これを愛用している.その理由は「一覧性」に
ある.特に全体像を観察したり,萎縮の経時変
化を評価するにあたって大きな利点がある.逆
に言えば 1枚の画像をスクロールするようにし
て読影することで全体像がかえって捉えにくく
なることが多い.このような現象に関して読影
する医師は意識しておく必要がある.
萎縮の分布を評価
下角は必ず見る
萎 縮 の 分 布 は 診 断 に 大 い に 参 考 と な る.
チェックポイントとしては萎縮が対象性である
か否か,前方優位なのか,それとも後方優位で
あるか,といった事柄を評価していく.ここで
一つ注意点を挙げるとすれば T2強調画像で萎
全体としての萎縮の有無や,その分布を見る
のと同時に脳室のサイズ評価がなされることと
なるが,この時に必ず確認しなければいけない
のが下角の大きさである.図 1の最上列にも示
されているように健常人では水平断画像で側脳
タイル表示の重要性
医用画像の過剰使用問題
643
図 1 60代後半の健常な男性の頭部 MRIを示す.T2強調画像(左)では脳表の CSFや脳室の大きさが T1強調画像
(右)と比べて広く見える.T2強調画像単独で評価すると「萎縮あり」と判断されるかもしれないが,T1強調画像
を見ると年齢相応ないし s
uc
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ngの範疇であることがわかる.
室下角は,かぎ型の線状構造物としてのみ検知
される.これが面として見えた場合は開大があ
ると考える必要がある.ただし下角開大自体は
非特異的所見であり,側頭葉萎縮においてのみ
見られるものではなく,水頭症でもやはり開大
する.従って次項で述べるように冠状断画像を
常に参照しながら判断を下す必要がある.
海 馬 の 評 価
海馬の評価は冠状断画像で行うのが最も効果
的である(図 2
)
.評価に際しては,その左右径
と高さの両者を個別に確認して観察しておく必
要がある.アルツハイマー病の初期において
は,そのどちらか一方のみが減じていることが
多いが,進行例ではその両者が減少し全体的な
萎縮となる.また海馬内部におけるロールケー
キ状の構造が観察できるかどうかも重要なポイ
ントであり,これが見えにくくなっている場合
も海馬の変性を考える必要がある.
図 2 健常成人の海馬.海馬の長軸に直行する方向で撮
影された STI
R画像である.白黒反転してあるため
剖検脳と類似のコントラストを呈している.海馬
の内部にはロールケーキ状の層構造が観察可能で
ある.下角(i
nf
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r
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o
rho
r
n
)は海馬の上縁から外側
縁を取り巻く様にして存在する.健常人においては
スリット状の構造物であるため水平断画像上は部
分容積効果(pa
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)で線として
のみ認知可能である(図 1最上段参照)
.
山
644
田
高位円蓋部を観察する
画像を観察するにあたって必ず高位円蓋部の
脳溝の状態に関して評価を加える必要がある
(図 3
)
.高齢者では多くの場合,脳萎縮に伴い
脳溝が開大している訳だが,一定の割合で高位
円蓋部における脳溝が狭小化して見える症例が
存在する.これは脳が全体に頭側(上方)へ向
かって押し上げられた状態を反映しているとさ
れ,このような場合は水頭症の可能性を考慮す
る必要がある.高位円蓋部の観察は水平断・冠
状断のいずれでも可能であるが,ルーチンの
CTスキャンで用いられる水平断にも慣れてお
く必要もあると思われる.
冠状断画像の撮影方法
海馬・下角・高位円蓋部の評価にあたっては
冠状断画像が有用であるのは前出の通りである
が,これは可能な限り薄いスライスで施行する
べきであろう.本学の 1.
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(STI
R)を標準として用いている(図 2~3
)
.冠
状断のスライス面の角度を決定するにあたって
は常に同一の断面が得られるように撮影上の院
内規則を作っておく必要がある.前交連と後交
連を結ぶ線(ACPCl
i
ne
)が水平断の撮影断面
を規定するわけだが,通常の冠状断画像はこれ
に対して直行する角度で撮影される(図4A;
c
o
r
o
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)
.しかしこの角度では画像が海馬長軸
に対して斜めに設定されることとなり,最適と
は言え無い.そこで通常は海馬長軸に垂直な断
面を選択すべく,冠状断面を前方へ傾けた角度
とすることが常である(図 4A;o
b
l
i
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r
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na
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)
.
角度の違いにより海馬の見え方が異なるのは当
然であるが,加えて脳室や脳梁の形状も大きく
異なることを付記したい(図 4B)
.
EvansI
ndexは非特異的
側脳室前角部分が最も大きく観察されるスラ
イスにて,その左右の長さを,頭蓋内腔の左右
径で除したのがこの Ev
a
nsi
nd
e
xである
(図 5
)
.
正常圧水頭症のガイドラインでは,これが 0.
3
を越えることを脳室拡大の基準の一つとして
いる.脳室の大きさを客観的に評価するのに
は,ある程度有用ではあるが,疾患特異性は
なく水頭症でも脳萎縮でも Ev
a
nsi
nd
e
xの増大
を伴いえる.日々遭遇する患者において,この
Ev
a
nsi
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e
xを逐一計測し記録する意味はほと
んどない.これはちょうど胸部単純写真におけ
るc
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(CTR)を測定するのと
ほぼ同じ程度の意味しかないと考えてよく,あ
くまでも参考値と認識すべきであろう.
経
図 3 正常圧水頭症の冠状断画像.認知症を有する65歳
女性の頭部 MRIであるが本例において着目すべき
部位としては高位円蓋部における脳溝が挙がる(黒
矢印)
.この領域における脳脊髄液腔(CSFs
pa
c
e
)
が狭小化しており,水頭症の可能性を考慮させる所
見である.大脳縦裂における CSFs
pa
c
eの狭小化も
観察可能である(白矢印)
.下角は開大しているが,
海馬の大きさは比較的保持されている.
時
変
化
脳体積の経時変化はアルツハイマー病を含む
変性疾患に限った現象では無い.健常人でも経
年的に脳萎縮が起きることが知られており,そ
の程度は 70~80歳で年間に 0.
3~0.
5%程度と
2)
される .これは,ごくわずかな変化ではある
ものの,例えば 10年の期間をあけて撮像された
画像を左右に並べて比較した場合,経年変化が
瞬時に視認できることは十分にありえるだろう.
しかし画像を 1~3年の期間で比較した場合,そ
医用画像の過剰使用問題
図 4 冠状断画像の角度.
A,点線で示す ACPCl
i
neに対して直行する角度
で冠状断を設定することが一般的だが,海馬の評価
にあたっては,これを前方に傾けて海馬長軸と直交
するように設置するのが良い(o
b
l
i
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uec
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r
o
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)
.設
定時には傍矢状部で下角が入る断面を用いると良
い(図中には示していない)
.
B,同一患者における冠状断画像で撮影断面の相
違に伴って側脳室体部の形状や脳梁角(c
a
l
l
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ng
l
e
)が極度に異なることに注目をいただきたい.
図 4Bの向かって右側の T2* 強調画像は ACPCl
i
ne
に対して直行するようにして撮影面を規定してあ
る.これに比べ向かって左側の STI
R画像は海馬の
長軸に直行する o
b
l
i
q
uec
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r
o
na
l
で施行されている
(STI
R画像は白黒反転を行わない状態で表示)
.脳
梁の左右部分が形成する角度が二者で異なること
に着目されたい.
の差異の視認がほぼ不可能なレベルの変化であ
る.従って仮に数年程度の短期間のフォロー
アップで萎縮が進行していると画像上,思われ
た場合はアルツハイマー病を含む変性疾患を強
645
図 5 52歳女性で歩行時ふらつきを主訴として来院.臨
床的には内耳性めまいが疑われている患者である
が,頭蓋内病変除外のために施行された CTs
c
a
nで
中等度の萎縮を認める.本例における Ev
a
nsi
nd
e
x
は 0.
3である.水頭症は画像上も臨床的にも認めら
れない症例であるが,それでも Ev
a
nsi
nd
e
xはボー
ダーラインのレベルまで拡大していることから,こ
の指標が非特異的なものであることがわかる.
く疑うべきである.図 6にはそのような症例を
示した.本症例において海馬の萎縮は著明とは
言えず,仮に 2011年の MRIだけを単独で観察
した場合はアルツハイマー病の確診に至ること
は困難と思われる.しかし前回 2008年と比較
すること顕著な脳室拡大の進行があることが判
り,アルツハイマー病の診断が可能となる.
アルツハイマー病と DLB
アルツハイマー病における画像の最も大きな
特長は側頭葉内側面の萎縮であるのは前出の通
りである.随伴して下角開大が冠状断画像では
しばしば観察され,外方へ向かってえぐれたよ
うな形状を呈することが多い.これは側頭葉内
側面の萎縮という単一因子による現象ではなく
側頭葉全体としての白質の容積低下も強く影
山
646
田
惠
図 6 75歳男性で認知症を有する患者である.白矢印に示した下角の開大が 3年
の経過で増悪していることがわかる.海馬の大きさ自体は正常範囲内であ
り,かつ有意ととれる変化は指摘できない.同様に側脳室の体部を観察する
と前回と比して著明に拡大が進行していることがわかる(黒矢印)
.
響して生じていることが多い.即ち複合因子
による下角開大である.一方で d
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(DLB)の場合のアルツハイマー病
と比して萎縮が軽微なのが画像上の特徴であ
る.逆に言えば画像上あまり特徴的な萎縮がな
いのが特徴である.例えば側頭葉内側面の萎縮
は存在したとしても,ごくわずかであるのが通
常である.核医学検査の方がより特異的な所見
を呈することは,しばしば経験される.
脳血管性認知症
Va
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aは脳卒中に引き続いて生じ
る後遺症としての認知機能障害であるが,典型
的には卒中のエピソードがあり,それに引き続
く認知症が生じるため,特に臨床診断上の問題
となることは少ない.はっきりとした卒中のエ
ピソードがない症例においては画像診断の重要
性が増す訳だが,微小梗塞が幾つか見つかる程
度では通常はこの診断はくだされない.広範囲
の白質病変がある場合や大きな区域性梗塞が存
在する場合には疑われることとなる.また
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cl
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o
nと呼ばれる記名力に関わる領
域に梗塞が生じた場合は,たとえ病変が小さく
ても認知機能障害を合併することがあるため診
断にあたって解剖学的知識は重要となる.
正常圧水頭症
No
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pha
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(NPH)は近
年注目を浴びている「治療法のある」数少ない
認知症である.認知症と診断された患者の 5%
に相当するとも言われ,日本では特定疾患の認
定を受けている.原因は不明であるが,何らか
の要因により脳脊髄液の産生・循環・吸収のバ
ランスが崩れ,急激な脳圧亢進症状を来たすこ
となく慢性的に軽度の脳圧亢進状態が持続し,
脳の機能が次第に障害されるとされる.三主徴
は認知機能障害,歩行障害,尿失禁であるが,
これら三者がすべてそろう症例は終末期に近
く,治療対象とはならない場合が多い.三主徴
が揃ってしまうまでに診断することが必要であ
るため患者の絞り込みにあたって画像診断の果
たす役割は大きい.
NPHの診断に際しては先に述べたように高
位円蓋部の脳溝がタイトであるか否かがチェッ
クポイントの一つになる.NPH疑い症例では
脳全体の萎縮も観察すべき項目の一つであり,
経験的にはほぼ全例において中等度以上の萎縮
が存在する.他に NPHに特徴的とされるサイ
ンがいくつか報告されている.例えば CSFポ
ケットと呼ばれる所見があり,局所的に拡張し
た脳脊髄液腔が高位円蓋部に出現することがあ
医用画像の過剰使用問題
る3).しかしながら所見として欠落する症例も
比較的多く感度は必ずしも高くない.脳梁角
(c
a
l
l
o
s
a
la
ng
l
e
)が 90度以下である場合,水頭
症の可能性が高いという報告もある4).この時
に冠状断画像は ACPCl
i
neに対して直行した
スライスを選択する必要がある(図 5
)
.
最近の研究について
MRIの様々な技術の中で現在活発な研究の
なされている領域を三つ挙げるとすれば
①s
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ng
(SWI
)
,②拡
散強調画像,③灌流画像
が代表として挙がる.SWIは磁化率を強調した
画像であり脳内の微小出血の検出に役立つとさ
れる.この手法を応用してアルツハイマー病の
皮質に沈着した老人斑の検知が可能であるとい
う報告も存在するが,未だ実験レベルの研究で
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ある5).拡散強調画像に関しては d
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(DTI
)と呼ばれる手法が研究的に用い
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1994;36:179.
647
られており,変性疾患における白質の状態の評
価に使われている6).さらにこれを発展させた
手法で qs
pa
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gi
ngや di
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os
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ma
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ngといった新手法が存在するが,これに
よる白質の評価が従来法よりも更に精度が高い
ことが示唆されている7).灌流画像に関しては
造影剤のボーラス注入を用いた手法(d
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;DSC)と造影剤を用いな
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(ASL)が存在する.ア
ルツハイマー病を含む変性疾患では特徴的な血
流低下が観察されるわけだが,これら手法を用
いても評価が可能とされている.中でも ASL
は造影剤を用いずに施行可能であり,その非侵
襲性から変性疾患の評価に有用である可能性が
示唆されている8).新しい診療機器として話題
となっているのが PETMRIであるが,我が国
においては薬事認可がおりたばかりであり,海
外における検証も過少であり真の評価はこれか
らの研究にゆだねられる.
献
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2011;26Suppl3:9195.
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著者プロフィール
山田
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所属・職:京都府立医科大学放射線医学教室 教授
略
歴:1989年 京都府立医科大学医学部卒業
1989年 京都府立医科大学病院研修医,放射線科勤務
1991年 聖マリアンナ医科大学病院研修医,放射線科勤務
1994年 アメリカ合衆国メリーランド大学リサーチ・フェロー
1995年 アメリカ合衆国ロチェスター大学クリニカル・フェロー
1997年 アメリカ合衆国マサチューセッツ総合病院クリニカル・フェロー
1998年 京都府立医科大学病院修練医,放射線科勤務
1999年 京都府立医科大学病院助手,放射線科勤務
2003年 京都府立医科大学病院講師,放射線科勤務
2012年 京都府立医科大学病院教授,放射線科勤務
現在に至る
専門分野:画像診断学(特に中枢神経)
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日本磁気共鳴医学会:
理事,国際交流委員,将来計画委員
日本放射線科専門医会(J
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:理事
日本医学放射線学会:
代議員,国際交流委員
おもな業績: 1.Ya
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