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クロマチンリモデリングの異常と腫瘍発生

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クロマチンリモデリングの異常と腫瘍発生
京府医大誌
124
(12),825~838,2015
クロマチンリモデリングと腫瘍発生
.
825
<特集「腫瘍の生化学と分子生物学:最新の理解」
>
クロマチンリモデリングの異常と腫瘍発生
桒原 康通*1,細井
創2,奥田
司1
京都府立医科大学大学院医学研究科分子生化学
1
京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学
2
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抄
録
クロマチン構造は,DNAを核内に収納するための機構であるが,遺伝子の転写,複製,修復などを
行うためには,クロマチン構造の動的変動を行い,転写因子などが DNAにアクセスできるように調節
する必要がある.そのメカニズムの一つがクロマチンリモデリングと呼ばれる現象である.SWI
/
SNF
複合体はクロマチンリモデリング因子の一つであり,ATP加水分解のエネルギーを利用してヌクレオ
ソームを移動や除去することによって,クロマチン構造を変換する因子として同定された.近年,この
SWI
/
SNF複合体のサブユニットの遺伝子の異常がヒトのがんで発見され,腫瘍発生やその進展への関
与が注目されている.
難治性小児がんの一つである MRTは,ゲノム上たった一つの SWI
/
SNF複合体のサブユニットである
SNF5遺伝子変異によって発症する腫瘍である.MRTは腫瘍発生メカニズムを理解するうえで貴重な
モデルであり,SNF5の機能の詳細を明らかにすることによって,SWI
/
SNF複合体と腫瘍発生との関わ
りを解明すること期待できる.本総説では,腫瘍発生,進展における SWI
/
SNF複合体とそのサブユニッ
トの異常の役割について概説する.
キーワード:SWI
/
SNF複合体,SNF5
,ラブドイド腫瘍.
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平成27年12月 4日受付
*連絡先 桒原康通 〒6
02
‐8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465番地
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826
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は
じ
め
に
生命体のゲノム情報は,ミトコンドリア遺伝
子などの一部を除くと,染色体 DNAの一次配
列にすべて盛り込まれている.それぞれの細胞
で状況に応じた生命反応が遂行されるためには
特定の遺伝子群が,時間的・空間的に「正しく」
発現制御を受けなくてはならない.ここで多様
な遺伝子の転写を制御するためには,転写因
子,メディエーターや RNAポリメラーゼなど
が,DNAの特定の領域に結合する必要がある1).
染色体 DNAはヒストン八量体に巻きついたか
たちでいわゆるクロマチン構造を形成しており
(後述)
,このクロマチン構造は,細胞分裂など
の場合に DNAを細胞の核内にコンパクトに収
納するための精妙な仕組みではあるが,逆に,
コンパクトに収納された DNAは転写,複製,修
復などに対して阻害的であるといえる2).すな
わち全ての細胞はクロマチン構造をコンパクト
にしたり,あるいは緩めたり,といった構造の
変換を能動的に繰り返す必要がある.生物には
このクロマチンの動的変動を行い,DNAに転写
因子などがアクセスしやすいような条件に調節
する機構が存在しており,その一つがクロマチ
ンリモデリングと呼ばれる現象である.
クロマチンリモデリング因子のなかで重要な
ものの一つが SWI
/
SNF複合体である.この複
合体は,ATP加水分解のエネルギーを利用して
ヌクレオソームを移動や除去することによっ
て,クロマチン構造を変換する因子であり,ヒ
ストンの修飾酵素とともに遺伝子の発現・制御
に重要な働きをしている3)4).これらの複合体は
12~15個のサブユニットで構成され,2MDa近
い分子量の大きなものとなっている5).近年,
これらサブユニットの遺伝子の異常が多くのヒ
トがんで観察されることが報告され,腫瘍発生
や進展への関与が注目されている6‐8).本総説で
は,クロマチンリモデリング複合体の例として
SWI
/
SNF複合体をとりあげ,その腫瘍発生,進
展における役割について概説したい.
ヌクレオソームの構造と
クロマチンリモデリング複合体
ヌクレオソームは,4種類のヒストン分子
(H2A,H2B,H3
,そして H4
)によって形成さ
れたヒストン八量体のまわりに 147b
p
(146147
)の DNAが約 1.
7周巻き付いた構造体であ
る.そのヌクレオソームが10b
pから90b
pの間
隔で数珠状につながり,さらに様々なタンパク
質や RNAと結合し,高度に折り畳まれ,幅が約
30nmのクロマチン(クロマチンファイバー)
を形成している9)10).
遺伝子の転写の際には,クロマチンから DNA
が解離し,転写関連因子が結合しなくてはなら
ないが,そのためにはクロマチン構造を変化さ
せ,ヌクレオソームを動かしてやる必要があ
る.このクロマチンの動的変動を行う中心は,
(1
)
ヒストンバリアントやヒストン修飾による
ヌクレオソーム構造の変化や(2
)
ATP依存的な
SWI
/
SNF複合体などによるクロマチンリモデ
リング・マシナリーが担っている10).ヒストン
は,ヌクレオソームからとびだしているヒスト
ン“t
a
i
l
”がリン酸化やメチル化,アセチル化と
いった修飾を受けることによってクロマチンの
動的変動をコントロールするが,このとき,ク
ロマチンリモデリング因子は,いわば糸巻きか
ら糸をほどくかのようにヌクレオソームから
DNAをスライドさせるのである.クロマチン
リモデリングのメカニズムについての現時点で
の 理解 を Fi
g
.
1aに 模式 的 に 示す.こ こで は
クロマチンリモデリングと腫瘍発生
ATPa
s
eドメインを持つサブユニットによって
産生される ATP加水分解エネルギーを利用して,
ヌクレオソーム周囲の DNAに対し,1)DNAの
ループを形成する方法(unwr
a
ppi
ng
)
,2)DNA
をヌクレオソーム上でスライドさせてスペース
を作る方法,3)ヌクレオソームを除去する方
法,そして 4)ヒストンを H2A.
Zといったヒス
トンバリアントへ置換する方法といったいくつ
かのメカニズムによって,ヌクレオソームに格
納されている DNAを解離すると考えられてい
4)
11)
.
る(Fi
g
.
1a
)
クロマチンリモデリング複合体としては,
出芽酵母の接合型変形に関与する遺伝子やショ
糖の代謝にかかわる遺伝子の研究を通じて
Sw(
is
wi
t
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ngd
e
f
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e
)遺伝子群や Sn
(
fs
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no
nf
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me
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i
ng
)遺伝子群がまず同定され,次い
でこれらが相互作用し複合体として機能する
y
e
a
s
tの SWI
/
SNF複合体が報告された経緯があ
る12‐14).多くのクロマチンリモデリング複合体
は 12~15個のサブユニットで構成されており,
827
ATPを加水分解する触媒サブユニットにくわ
え,DNAやヒストン修飾を認識するドメインを
持つサブユニットなども含まれている.触媒サ
ブユニットの ATPa
s
eドメインは真核生物でよ
く保存された DEXXa
ndHELI
CC領域を持ち,
その構造から少なくとも 4種に分類されるが,
それぞれの触媒サブユニットの違いに基づい
て,SWI
/
SNF,I
SWI
,CHD,そして I
NO80の
4)
15)
4つのファミリーに大別される(Fi
g
.
2a
)
.
SWI
/
SNF複合体の
構成成分とその機能
真核生物の SWI
/
SNFファミリーには大きく 2
つの複合体が存在している.酵母では SWI
/
SNF
と RSC,ショウジョウバエでは BAPと PBAP,
そしてヒトでは BAF
(BRG1As
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dFa
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)
と PBAF(Po
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dBAF)である
(表 1
)
.これら BAFまたは PBAFは ATPa
s
eド
メイン保有サブユニットとして,BAFでは
Br
a
hmaho
mo
l
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g
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(BRM)または BRMr
e
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Fi
g
.1. クロマチンリモデリングのメカニズムと SWI
/
SNF複合体の構成
a.SWI
/
SNF複合体によるクロマチンリモデリングのメカニズム.DBP:DNAb
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ngpr
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t
e
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n
.b.SWI
/
SNF複
合体における BAFと PBAFの構成を図示した.
828
桒
原
康
通
ほか
Fi
g
.
2. クロマチンリモデリング複合体の分類と SNF5の構造
a.クロマチンリモデリング複合体の分類とそれぞれに見られる ATPa
s
eサブユニットの構造.
b.SNF5の構造.
g
e
ne1
(BRG1
)を,そ し て PBAFで は BRG1
をもつ.また,コアサブユニットとして SNF5
(I
NI
1
,BAF47
)
,BAF155
,そして BAF170を共
有する.SWI
/
SNF複合体にはヴァリアントが
存在するが,それを規定するのが,標的遺伝
子における機能や細胞系列特異性に関与してい
ると考えられるアクセサリーサブユニットであ
る.BAFと PBAFにはアクセサリーサブユニッ
ト に 特 徴 が あ り,ATr
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n 1A(ARI
D1A,BAF250A)
と ARI
D1Bは BAFに,BAF180
,BAF200と
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ng
7
(BRD7
)は PBAFに,
4)
7)
8)
11)
.
それぞれ特徴的に存在している(Fi
g
.
1b
)
SWI
/
SNF複合体はヌクレオソームに格納さ
れている DNAを解離させるだけではなく,お
のおのの転写因子やコアクチベーター,ヒスト
ン脱アセチル化酵素といったヒストンの修飾因
子と相互作用して,これらの転写調節因子をヌ
クレオソームから解離した DNAへ呼び込むこ
とで遺伝子の発現調節に関与するものと考えら
れている.p
16INK4A遺伝子のプロモーターを例
に挙げると,ここでは SWI
/
SNF複合体の発現
によってヒストン H3K4のメチル化酵素である
MLL1がリクルートされ,これによってヒスト
ン H3K4のトリメチル化が増加し,さらにその
結果 RNAポリメラーゼ I
Iが誘導されて転写活
性が上昇する,といった具合である16).
SWI
/
SNF複合体によって制御される遺伝子
の発現は各組織の発生や細胞系列特異性をもっ
ていることが知られており,T細胞17)や体性幹
細胞の自己複製18)や神経細胞,そして乏突起膠
19)
などの発生に関与して
細胞(o
l
i
g
o
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r
o
c
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t
e
)
いる.重要なことに,細胞の発生・分化の過程
で厳密に制御されている遺伝子を規定する SWI
/
SNF複合体の特異性は,複合体におけるアクセ
サリーサブユニットに依存していることが明ら
クロマチンリモデリングと腫瘍発生
829
表 1 SWI
/
SNF複合体のコンポーネント
かになってきた.たとえば,BAF60cのノック
アウトマウスでは心筋や骨格筋の発生に異常を
きたすことから,BAF60cが心筋や骨格筋の正
常な発生に必要であることが示されている20)21).
同様に神経幹細胞では BAF45aと BAF53aが発
現しているが,その分化過程で神経前駆細胞
に移行する際に,これらの分子にかわって
BAF45b
,BAF45cと BAF53bの発現へとスイッ
チする22).このようなアクセサリーサブユニッ
トのスイッチによって特異的な転写因子と
SWI
/
SNF複合体は相互作用し,遺伝子発現のパ
ターンを規定し,正常の発生・分化の過程を制
御していると考えられている.
SWI
/
SNF複合体における変異と
がん発生のメカニズムの解析
1.腫瘍における SWI
/
SNF複合体の異常
上述のようにクロマチンリモデリングは細胞
の正常な発生分化にとって重要な役割を果たす
のであるが,予想されてきたようにこのメカニ
ズムは「がん」の発生においても重要な役割を
担っていることが次第に明らかにされてきた.
たとえば,SWI
/
SNF複合体のサブユニットにお
ける変異が様々ながんで発見され,SWI
/
SNF複
830
桒
原
康
合体とがん発生が注目されている6‐8)11).最初に
報告されたのは 1998年のことで,悪性ラブドイ
ド腫瘍(ma
l
i
g
na
ntr
ha
b
d
o
i
dt
umo
r
:以下 MRT)
において,SMARCB1
(SNF5
)遺伝子に変異が
/
SNF複
発見された23).以降,現在までに,SWI
合体のサブユニットをコードしている遺伝子の
中で,9つの遺伝子について変異が報告されて
おり8),総計するとヒトのがんの 20%近くに
SWI
/
SNF複合体のサブユニットに関連した変
異があるものとみなされている7).たとえば,
ARI
D1Aは卵巣明細胞腺癌の約 45%24),胃がん
の約 19%25),そして膀胱がんの 19%26)と幅広い
がん種で報告例がある.くわえて SMARCA4
(BRG1
)については髄芽腫27)や膵がん28),卵巣
2
9)
に変異が
の小細胞がんの hy
pe
r
c
a
r
c
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mi
ct
y
pe
3
見られ,PRBM1
(BAF180
)は腎がん 0)に,そ
3
1)
して ARI
D2は悪性黒色腫 や肝細胞がん32)に
それぞれ変異が見られている(表 2
)
.この中か
ら,筆者らのグループが解析を行ってきた
SNF5について以下に概説したい.
2.SNF5の同定とその構造
SWI
/
SNF複合体のサブユニットとがん発生
の関係が初めて示された SNF5はもともと,
HI
V1ウイルスにおけるインテグラーゼ(I
N)
と結合する因子として,酵母において Two
hy
b
r
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dスクリーニングによって I
NI
1
(i
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g
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通
ほか
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r
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t
o
r1
)として同定された.その後,y
e
a
s
t
のクロマチンリモデリング因子 SNF5と同じ構
造であることが分かったという経緯があるた
め,I
NI
1とも呼ばれることが多い33).
SNF5は 385個 のアミノ酸残基から構成され,
Sac
c
har
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my
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r
v
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eにおける SFH1
,Dr
o
s
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p
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aにおける SNR1
,Ce
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,Sa
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r
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i
s
i
a
eや y
e
a
s
t
の SNF5において保存された 3
つの領域が確認されている.そのうちの 2つは
不完全ではあるが繰り返しのアミノ酸配列が見
られており(r
e
pe
a
t
1:186~245位のアミノ酸,
r
e
pe
a
t2:259~319位のアミノ酸)
,r
e
pe
a
t
1は
HI
V1の I
N,c
MYC,そして HPVE1との相互
e
pe
a
t
2では
作用が確認されている34)35).また,r
266LNI
HVGNI
SL
V276が nuc
l
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re
x
po
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g
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36)
mo
l
o
g
yr
e
g
i
o
n3
を 含んでいる .3つ目の Ho
(HR3
)は SNR1と Sa
c
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r
v
i
s
i
a
eの
SNF5との 3種間で特に高い相同性が示され,
c
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ld
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ma
i
nを含む.また,N末端のアミ
ノ残基 36~64は l
e
uc
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nez
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ppe
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ma
i
nであり,
アミノ酸位の 106~183は 140d
i
hi
s
ut
i
d
i
neモ
チーフと 160KKRモチーフを含み,DNA結合
,MLL,
に重要であるとされる37).そのほか,p53
EBNA2
,そして RUNX1との相互作用が報告さ
38
‐
41)
.
れ,その機能協調が想定されている(Fi
g
.
2b
)
表 2 SWI
/
SNF複合体のサブユニットの変異とがん
クロマチンリモデリングと腫瘍発生
3.SNF5の異常により発生する悪性ラブドイ
ド腫瘍(MRT)
わが国における5歳から14歳までの死因の第
1位は悪性新生物である.近年の医学の進歩と
医療技術のめざましい発展を背景として,小児
がんはまず第一に取りくむべき疾患のひとつと
いえる.
MRTは小児腎腫瘍の中でも特に予後の悪い
タイプとして認知されるようになり 1978年に
初めて報告された42).1歳未満の乳幼児の脳や
腎臓を中心としてあらゆる部位に発生し,その
予後は,腎原発の進行例の 4年生存率は 15.
9%,
特に 6ヶ月未満の発症例では 8.
8%ときわめて
不良である43).化学療法,外科治療や放射線治
療といった集学的治療を用いてもこの 30年間
予後の改善が得られていない.MRTでは,ほ
ぼすべての症例で,SNF5をコードしている遺
伝子において欠失,ナンセンス変異やフレーム
シフトによって両アレルで変異を認める44).ま
た,MRTの30%にSNF5遺伝子の生殖細胞系列
での片アレルの異常を認めることが報告されて
e
r
ml
i
neでの変異を持つ家系で
いる45).さらに g
発症する家族性 MRTも報告されたことから,
SNF5の生殖細胞系における変異を持つ場合
は MRTの発症のリスクが高くなるとして,
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6)
(RTPS)と呼ばれるようになっている .マウ
スを用いた実験系として Snf
5ノックアウトマ
ウスが作製され解析されているが,Snf
5-/- マ
ウスは胎生期に死滅し生まれてこない一方で,
Snf
5+/- マウスでは 8~10か月のマウスにラブ
ドイド腫瘍が約 15%程度に発生する47).さら
に,MRTと中枢神経発症の MRT(非定型奇形
腫,a
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umo
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:以下 AT/
RT)の患者検体で全エクソームシークエンスが
行われた結果,これらの症例に共通してみられ
る異常は SNF5遺伝子の異常のみであった48).
したがって,SNF5遺伝子は MRT発症における
i
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nであるとともに唯一のドライ
バー遺伝子であり,単独でがん抑制遺伝子とし
て働くものとされている.他方,SNF5の欠損
は MRTに特異的ではなく,メラノーマ49),悪性
831
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pi
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o
i
d腫瘍50)や腎髄質癌51)でも認めること
が報告され,まとめて SNF5欠損腫瘍として議
論されるようになってきている.このように,
SNF5遺伝子の異常が腫瘍発生やその進展に関
与していることは確かであり,SNF5の機能解
析とその標的遺伝子の解析は MRTの病態解明
や有効な治療法の確立のみならず,SNF欠損腫
瘍に共通した腫瘍の病態解明にも重要である.
4.MRTにおける SNF5の機能解析による病
態解明と新規治療への展望
MRTにおける SNF5の機能解析は細胞株を
用いた系で行われ,その結果は様々な角度から
報告されている.主に SNF5の欠損している
MRTの細胞株に SNF5遺伝子を強制発現させ
る系と,線維芽細胞など正常細胞において SNF5
遺伝子の機能を喪失させる系で検討されてい
る.要約すると,SNF5遺伝子の機能喪失は,
① p16INK4A の発現抑制,サイクリン Dの増加を
介して細胞周期進行を促進52)53),② Rho
Aを介し
54)
i
1の増加を介して
て細胞の転移に関与 ,③ Gl
So
ni
che
d
g
e
ho
g
(SHH)pa
t
hwa
yの活性化に関
55)
与 ,④ポリコーム複合体の中で EZH2を増加
させてポリコーム標的遺伝子の発現を抑制56),
そして⑤ Aur
o
r
a
Aの過剰発現によって腫瘍の増
殖に関与する,といった報告が見られる(Fi
g
.
57)
3
)
.これら SNF5遺伝子の変異によって影響
されている標的分子は MRTの新規の治療標的
になる可能性があり,種々の薬剤が細胞または
マウスの系での実験で検討され,有効となる可
能性が報告されている.その中で代表的なもの
は,Gl
i
1過剰発現に対して Gl
i
のシグナル伝達
系に阻害的に働く三酸化ヒ素(Ar
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,
ATO,亜ヒ酸)
,EZH2の過剰発現を標的にした
EZH2阻害剤,そして Aur
o
r
a
A阻害作用を持つ
a
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r
t
i
bといった薬剤であり,今後の臨床への
展開が期待されている58‐60).
以下に筆者らのアプローチとその知見につい
て紹介したい.我々はヒト MRT細胞株へ SNF5
遺伝子を強制発現させることによって,SNF5
の標的遺伝子を検索し,その機能解析を行って
きた.SNF5遺伝子が p
16INK4A遺伝子を活性化
することは既報のとおりであったが,我々の実
832
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康
通
ほか
Fi
g
.3. SWI
/
SNF複合体が制御する遺伝子群
矢印は機能の亢進,Tバーは機能の抑制を示す.
験系ではそれに先立って p
21遺伝子が活性化さ
れ,p21の増加によって MRT株細胞が G1 細胞
周期停止へ導かれることを見出した.さらに,
導入された SNF5は p
21プロモーターに直接結
合しており,p
21は SNF5によって直接その転
写を制御され,細胞周期制御機構においてその
初期段階で関与していることがクロマチン免疫
沈降法(ChI
P)によって明らかにされた61).続
いて,p53の標的遺伝子のうちでアポトーシス
に関連する遺伝子群(NOXA,PUMA,BAX)の
なかから,SNF5によって転写制御を受けるも
のを検索した.その結果,SNF5の標的遺伝子
の 候 補 と し て NOXA遺 伝 子 を 特 定 し,実 際
SNF5が発現していない MRTでは,NOXA遺伝
子が s
i
l
e
nc
eされていることを明らかにした62).
すなわち,MRTは SNF5遺伝子の異常によっ
て,遺伝子発現が変更されており,その成り立
ちを考慮するといわば“エピゲノム腫瘍”と看
做して良いかもしれない.重要なことに,NOXA
を強制発現させた MRT細胞株と,NOXA標的
分子である Mc
l
1をノックダウンした MRT細
胞株とを用いて,化学療法剤に対する感受性の
変化を検討したところ,NOXA/
Mc
l
1の経路は
薬剤感受性に関係することが明らかにされ,
MRTの薬剤耐性の機序の一端を解明すること
ができた 63).
このように,SWI
/
SNF複合体のサブユニット
が制御に関与している標的遺伝子群を検討する
ことによって,クロマチンリモデリング機能の
破綻が腫瘍の発生や病態,さらに薬剤感受性に
深く関与していることが明らかになった.
5.SWI
/
SNF複合体の異常と腫瘍発生におけ
る今後の展開
上述のように MRTは SNF5のみの遺伝子異
常に起因することが明らかにされたが,筆者ら
はさらに臨床検体の解析を進め,この腫瘍では
同時に SWI
/
SNF複合体のサブユニットである
BAF250A(ARI
D1A)
,BAF60B,そして BAF180
クロマチンリモデリングと腫瘍発生
の発現も低下していることを見出した.その原
因を追究したところ,これらのサブユニットを
コードする遺伝子群には異常を認めず,またそ
れぞれの mRNAも発現していたことから転写
レベルには異常がないものと判断した.一方,
この腫瘍では,SNF5が喪失することによって
安定な複合体を形成できず,複合体から解離し
たそれぞれのサブユニットがプロテアソームに
よって分解を受けることを見出した.すなわ
ち,半減期短縮によって蛋白レベルの維持に破
綻をきたしていることを明らかにした64).
この結果は,Che
ngらの 1999年の報告と一致
する.彼等は,I
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1の r
e
pe
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1と r
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pe
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2の一部
を含む S6クローン
(アミノ酸残基 183~294位)
を用いた i
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oでの免疫沈降実験を行い共沈
降分子の特定を行なっているが,ここで,SWI
/
SNF複合体の BAF170,BAF155,BAF110,
BAF60
,そして BAF53のいずれも沈降物内に
検出できず,こうしたサブユニットが複合体か
ら解離しているものと解釈された34).以上のよ
うに,SNF5は生理作用として SWI
/
SNF複合体
の安定性に関与していることが示唆され,一
方,この遺伝子を欠く MRTでは,残存する不完
全な SWI
/
SNF複合体が正常から逸脱した作用
を行なっていることが想定される.
Wi
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o
nらによる SMARCA4変異をともなう
肺がん細胞株での研究も興味深い.彼等は,
SWI
/
SNF複合体に含まれる ATPa
s
eサブユニッ
トである SMARCA2の機能解析を行ない,結果
として,SMARA4変異細胞では,SMARCA2を
ノックダウンさせると細胞増殖が落ちることを
見出した.すなわち,この変異細胞では残存す
る SMARCA2を含むリモデリング複合体が腫
瘍発症を推進させる働きを持つものと解釈でき
D1Aが変異している卵巣明細
る65).また,ARI
胞腺癌の細胞株では ARI
D1Bを含む SWI
/
SNF
複合体が存在するが,この ARI
D1Bをノックダ
文
833
ウンさせると,残存 SWI
/
SNF複合体は不安定
となって分解され,その結果,細胞の増殖能が
低下する66).
このように,SWI
/
SNF複合体の 1つのサブユ
ニットの変異は,かならずしも SWI
/
SNF複合
体の機能すべてを失わせることにはならない.
特定のサブユニットの異常の場合には,むし
ろ,不完全な SWI
/
SNF複合体を出現させたり,
あるいは異常なサブユニットの組み合わせを細
胞内に残存させることになる.そして,こうし
た異常複合体は,本来は制御すべきでない遺伝
子を制御し,細胞の悪性化を引き起こすことで
積極的に腫瘍発生に関与する,という分子機構
が示唆されるのである8).
ま
と
め
ヒトの腫瘍の発生には一般に複数のゲノム遺
伝子変異の蓄積を必要とするが,クロマチンリ
モデリングに関与する SWI
/
SNF複合体のサブ
ユニットの異常は,例外的に単一の異常によっ
て種々の腫瘍の発生に関与する場合がありう
る.中でも難治性小児がんの一つである MRT
は,GWAS解析が隆盛を極める現在において
も,ゲノム上たった一つの SWI
/
SNF複合体の
サブユニットである SNF5遺伝子変異によって
発症することが確実視されているユニークな腫
瘍である.MRTは腫瘍発生メカニズムを理解
するうえで貴重なモデルであり,SNF5の作用
の詳細を明らかにすることによって,SWI
/
SNF
複合体と腫瘍発生との関わり解明や新規治療法
開発が期待されるだけではなく,こうした研究
を通じて,エピゲノム異常による腫瘍発生メカ
ニズムの一般的理解の推進に大きく貢献するも
のと考えられる.
開示すべき潜在的利益相反状態はない.
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著者プロフィール
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所属・職:京都府立医科大学大学院医学研究科分子生化学・講師
略
歴:1996年 3月 京都府立医科大学医学部医学科 卒業
1996年 4月 京都府立医科大学小児科学教室
1996年 4月 福井愛育病院小児科医員
2000年 4月~ 2004年 3月 京都府立医科大学大学院医学研究科
2004年 4月 市立福知山市民病院小児科医長
2007年 9月~ 2010年 3月 米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校,ラ
インバーガー癌研究所博士研究員
2010年 4月 京都府立医科大学小児科学教室病院助教
2010年1
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月 京都府立医科大学小児科学教室助教
2011年 4月 京都府立与謝の海病院小児科医長
2013年 4月 京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学講師(学内)
2015年 8月 現職
専門分野:クロマチンダイナミズムの生化学・分子生物学,ラブドイド腫瘍,小児がん
主な業績: 1.Kuwa
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