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てんかんをもつ人の航空機利用:現状の問題点

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てんかんをもつ人の航空機利用:現状の問題点
てんかん研究
200
0;18:1
53160
1
53
記 事
日本てんかん学会法的問題検討委員会報告
てんかんをもつ人の航空機利用:現状の問題点
Ai
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raf
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hEpi
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ms
井上有
大沼悌一
三宅捷太
八木和一
小島卓也
鈴木勇二
伊藤正利
要旨:てんかんをもつ人の航空機利用の際の問題点を明らかにするために、国内航空
会社 1
2社、てんかん協会会員 7
,0
74名、国立療養所静岡東病院初診者 1
1
8名にアン
ケートを行った。航空会社 9社、てんかん協会会員 10
5人、初診患者 3
8人より回答を
得た。航空会社(9社)は年間約 7
0件の発作に機内で遭遇しており、3
0
∼4
0件の告知
を受けていた。搭乗経験のある 1
43人の患者中 2
6人が機内で発作を起こしたことがあ
るが、14人しか告知していなかった。6社では乗務員の教育およびマニュアルの整備
を行っているが、発作の対応に苦慮している様子があり、患者側からの医療情報提供、
医療機関からのアドバイスを望んでいた。多くの患者は飛行中の発作の不安を抱えて
いるが、少なからず告知を躊躇していた。医師の診断書の発行や携帯緊急カードの作
成の希望があった。航空機利用に関して患者側と航空会社側の相互理解、およびその
コミュニケーションを適切に仲介する医療者の役割の重要性が明らかにされた。
てんかん研究
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yWords: ai
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まえがき
がおこったときの救急的な対処や他の乗客への影
航空機は移動の手段としてますます利用度が高
響などが凝縮した形で問題となりうる。ことに長
まっており、てんかんを持つ人が利用する機会は
時間の飛行の場合はそうである。さらに概日リズ
今後増大すると思われる。
ムに影響する飛行スケジュールでは、てんかん発
飛行機に搭乗することの身体への物理的影響と
しては、乾燥した空気、減圧による酸素濃度の減
少、長 期 間 の 椅 子 へ の 拘 束 な ど が
が
作の増悪も えられる。
これまで、てんかんをもつ人の飛行機搭乗に関
えられる
して我が国で論じられることはほとんどなかっ
、これらが直接的にてんかん発作を誘発する
た。そこで、
実際に飛行中に発作がどの程度起こっ
ことは えにくい。しかし、飛行機内は容易に移
ているのか、航空会社はその場合どのように対処
動を中断できない狭い空間であり、バスや電車の
しているのか、てんかんをもつ人の意識はどうで
ように乗降が問題になることは少ない反面、発作
あるか、彼らと航空会社および乗務員とのコミュ
1
)国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)
〔〒 42
0-8
688静岡市漆山 88
6〕
Yus
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noue、Kazui
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3)TakuyaKoj
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yake、横浜市保土ヶ谷区保 所
i
ma、日本大学医学部精神科
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o、滋
賀県立小児保 医療センター
5
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6)Yuj
、(
社)
日本てんかん協会
i
c
hiOnuma、国立療養所犀潟病院
iSuzuki
1
54
てんかん研究
18巻2号 200
0年6月
ニケーションは適切に行われているか、医療従事
回答した。ただし重積の場合は 慮せざるを得な
者が関与すべき事項はあるのかなどについて え
いと回答した会社が 2社あり、5社では診断書
(規
るために、航空会社とてんかんをもつ患者・家族
定の診断書ではなくても可)
の提出を求め、1社は
にアンケートを行ったので、その結果を報告し、
付添の同乗を依頼し、1社は誓約書の提出を求め
今後の課題を 察した。
ると回答した。このような対応でこれまで問題は
なかったと 6社が回答した。
対象と方法
飛行中の発作の有無
3つの対象に 2つのアンケートを行った。
7社で飛行中に発作に遭遇した経験があり、合
(
1
)旅客輸送を行っている国内航空会社 1
2社
計で年間約 7
0件であった。ある会社では年に 55
にアンケートを送付して回答を求めた。時期は
件あった。内訳は国内線 3社、国際線 5社で、国
1
99
9年 9月である。アンケートは、告知する乗客
際線の方が件数も多い(最多は年に 4
2件)
。これ
の有無、その際の対応、飛行中の発作の有無、そ
らの発作をおこした人があらかじめ告知していた
の場合の対処の仕方、対応マニュアルの有無、乗
かどうかについては、6社では告知を受けておら
務員の医学教育、常備薬物、救急連絡体制、医師
ず、1社では把握困難であったと回答した。飛行中
あるいは患者団体への要望の各項目について、有
ではないが、待合室や搭乗中に発作をおこした
無のチェックと自由記載を求めた(資料 1
)
。
ケースがいくつか報告されている。
(
2
)日本てんかん協会の機関誌「波」1
9
99年 7
月 号 の 挟 み 込 み と し て、て ん か ん 協 会 の 全 員
発作があった場合の対処
7社では基本的に乗務員がマニュアルに
って
(7,
0
7
4人)にアンケートを送付し、Faxあるいは
対応し、場合によって乗客に応援を求めるとして
郵送での回答を求めた。アンケートでは、飛行機
いる。1社では最初から乗客に応援を求めるとし
による旅行で困った経験の有無、告知の有無、そ
た。発作があった場合の 2
/
3のケースで、機内に
の際の問題の有無、
飛行中の発作の有無、乗務員の
乗り合わせた医師が対応してくれたと報告した会
対応、
他の人へのアドバイス、航空会社や医師への
社があった。乗り合わせた看護婦が対応したケー
要望の各項目について、有無のチェックおよび自
スの報告も 1件あった。機内でのけいれんや意識
由記載を求めた。無記名であるが、患者の年齢と
障害のため緊急着陸になったケースが複数回あっ
発作の頻度および種類の記載は求めた(資料 2
)
。
たという。
(
3
)国立療養所静岡東病院に 19
9
9年 1
2月中旬
から 20
0
0年 2月末までの間に初診したてんかん
患者 11
8人(平
2
0
.6歳、0∼7
4歳;男性 65人、
対応マニュアルの有無
5社がてんかんないしけいれんの項目のある医
学救急対応マニュアルを備えており(添付資料の
女性 53人)に対して、上記(2
)と同じ内容のア
項参照)
、
他の 4社では一般的な救急マニュアルし
ンケートを無記名で行った。
かなく、てんかん発作の記載も少ない。
乗務員の医学教育
結 果
6社では救急医療教育の一環としててんかん発
()航空会社へのアンケート
作の社内教育をしている。3社は教育が困難であ
1
2社のうち 9社より回答を得た。チェック項目
るとし、1社は研修の場の必要性を記載していた。
及び自由記載をまとめた結果は以下の通りである。
1社では看護婦資格のある乗務員が職員を指導し
告知した乗客の有無
搭乗前にてんかんの告知をうけたのは 6社であ
り、合計で年に 3
0∼40件であった。ある会社では
ていた。
常備薬物
6社が常備済みあるいは常備する予定であると
年に 29件の告知があった。
回答した。なお、19
9
9年 9月 3
0日より機内に向精
告知があった場合の対応
神薬の常備が許可され、Di
az
e
pam 注、リドカイン
注の常備が可能になった。
各社とも原則的に搭乗を拒否することはないと
てんかん研究
資料
18巻2号 200
0年6月
1
55
航空会社へのアンケート
各項目の該当する□にチェックをお願いします。重複し
て解答していただいて結構です。各項目の下に自由にご記
入いただく欄を設けております(ここでは割愛)
。チェック
項目にこだわらずどうぞご自由にご記入ください。
1 搭乗前にてんかんあるいはてんかん発作を告知する旅
客はいますか?
□ いる。(
)年に(
)人くらい。□ ない。
2 上記の場合に、搭乗を断ったことはありますか?
□ ある。(
)年に(
)人くらいの旅客に搭乗
をお断りした。□ ない。
(
具体例のご記入をお願いします)
3 搭乗の可否についてはどのように判断されています
か?
□ 特別な判断基準はなく、すべて搭乗を認めている。
□ 原則として、てんかんをもつ人は乗機を断ってい
る。
□ 服用量ないし服用薬を変 するようお願いしてい
る。
□ 乗務員が対処方法を心得ているので問題ない。
□ 発作があった場合に処置できる人が随行するよう
お願いしている。
□ てんかん発作の軽重あるいは重症度により対応を
変えている。
□ 担当医師に任意の診断書を提出してもらい、その
判断に従う。
□ 担当医師に規定の診断書を提出してもらい、その
判断に従う。
□ 最終的に会社の専任医師に判断をまかせている。
□ 飛行先ないし飛行距離(時間)によって判断を変
えている。
□ その他。
4 その判断は妥当でしたか?
□ 今まで判断に間違いがあったことはない。
□ 思わぬ事態に遭遇したことがある。
□ 判断が不適切であったことが少なくないので、要
項の見直しを えている。
□ どちらともいえない。
(
具体例のご記入をお願いします)
5 飛行中にてんかん発作(けいれんする大発作、小発作、
もうろう状態など。
てんかん発作か否か判然としない場
合も含めて構いません)を起こした旅客を経験されたこ
とがありますか?
□ ある。(
)年に(
)件くらい経験している。
(国内路線:国際路線=
:
)
□ 対処に苦労したことがある。
□ 特に対処に困ることはなかった。
□ ない。
(
その状況について具体的にご記入をお願いします)
6 上記の旅客は事前に告知していましたか?
□ 発作をおこした旅客のうち(
)
%くらいの人が
搭乗前に告知していた。
7 飛行機内でてんかん発作が起きた場合、
どのように対処
されていますか?
□ 乗務員が必要な処置を行うようにしている。
□ 乗客に対処可能な人がいれば応援を求める。
□ 対処しようがない。
□ 対処する必要がないと えている。
□ その他。
8 飛行中のてんかん発作に対処するためにマニュアルを
作成されていますか?
□ 作成しており、それに準じて行っている。
(一部添
付を依頼)
□ 一般的な救急マニュアルはあるが、てんかん発作
の項はない。
□ 作成しておらず、その場で対応するようにしてい
る。
9 乗務員はてんかんについて知識がありますか?
□ 社内でてんかんについて教育している。
(教育内容
の資料を依頼)
□ 医学についての教育はしているが、てんかんの項
目はない。
□ 研修する場がないので困っている。
□ 医学的対処についての知識は必要ないと えてい
る。
□ 知識はあっても、実際に処置を行うことは困難で
ある。
□ その他
10てんかん発作を処置するための薬剤を機内に常備され
ていますか?
□ 常備している。種類は(
)
□ 常備していない。
11救急の場合に、地上と連絡をとり、医師の指示をうける
体制はありますか?
□ 会社専属の医師と連絡をとる体制をつくってい
る。
□ 個別の主治医と連絡をとることも可能である。
□ 地上の医師と連絡をとる体制はない。
12その他、てんかん発作をもつ人の搭乗に際して、心配な
こと、困ること、善処してほしいこと、あるいは今後の
計画等がありましたら、ご記入をお願いします。
13日本てんかん学会(専門医の学会)に対してご要望があ
りましたら、ご記入をお願いします。
1
56
てんかん研究
資料
18巻2号 200
0年6月
てんかんをもつ人へのアンケート
飛行機による旅行をしたことのある方のみお答えくださ
い。各項目の該当する□にチェック(重複可)をお願いし
ます。また自由にご意見をご記入ください(ここでは欄を
割愛)。
飛行機による旅行で、困ったこと、不自由に感じたこと
がありますか? □ ある。□ ない。
(具体的にご記入く
ださい)
搭乗前に、てんかんあるいは発作を告知していますか?
□ 必ずする。□ したことがある。□ したことはない。
(自由にご記入ください)
告知して何か問題が生じたことがありますか? □ 搭
乗を断わられた。□ 診断書の提出を求められた。□ そ
の他。(具体的にご記入ください)
飛行中に発作を起こしたことがありますか?
□ ない。□ ある。(
)回くらいある。(国内路線:
国際路線=
:
)
飛行区間、航空会社(例:大阪札幌・○×航空)を教え
てください(
)
(
どのような発作でしたか、またその状況について具体的
に記入してください)
救急連絡体制
待機医師との 2
4時間の連絡体制があるのは 2
社であり、さらに 1社が検討中であった。5社では
飛行中に発作をおこしたとき、乗務員ならびに航空会社
の対応はどうでしたか? □ 発作は気づかれなかった。
□ 適切に対処してくれた。□ 適切に対処してくれな
かった。□ 乗り合わせた医療関係者が対応してくれた。
(自由にご記入ください)
飛行機に搭乗する場合、このようにすれば良いという、
てんかんをもつ他の人へのアドバイスがありますか?
航空会社、
乗務員等に対して、ご意見などがありますか?
また、協会や学会(専門医の学会)に対してご要望があ
りますか?(自由にご記入ください)
ご記入者の年齢(
)歳(男、女)
てんかん発作を持っている方(
歳)との続柄:本人、
その他(
)
発作の種類:(
)発作の頻度:(
)
3)看護婦資格のある客室乗務員の意見などを
もとに作成され、医療への情報の還元をも 慮し
た記載。
社内での医師の連絡体制はなかったが、地上と連
ただし、いずれもけいれん発作についてしか記
絡をとり救急車の手配は可能であった。地上との
載はない。記載内容を抽出してみると、
「てんかん
連絡により場合によって主治医と連絡をとること
とは、全身のけいれんや意識消失を発作的に繰り
は可能である。
返して起こす病気。発作は 1
∼2 で、けいれん中
要望
に呼吸の異常や失禁することがある。発作予防の
患者側への要望として、告知の推奨、救急カー
ため出来るだけ音や光刺激を避ける必要がある」
ドの携帯、薬物の服用量や服用のタイミングにつ
と書かれている。
「けいれん」
には、
すぐにドクター
いて主治医から指導を受けてほしいという意見が
コールし、医療搭載品を準備し、外傷の有無を確
あり、
医師への要望としては、患者団体への専門医
認、衣服を緩め、床に横にさせ、周囲の危険物を
からのアドバイス、マニュアルに対する専門医の
取り除き、頭を毛布や枕で保護する。けいれん中
アドバイス、アンケート結果の還元および専門医
は無理に押さえることはせず、けいれんがおさま
の意見を知りたいという要望があげられていた。
るのを待ってから処置する。
さらに気道を確保し、
添付資料
異常ある場合には下顎挙上や液体吸引機を 用す
6社より資料が添付されていたが、資料には次
る。けいれんが長く続く場合には酸素吸入が望ま
の 3種があった。
しい。また、無理に刺激したり押さえつけたりし
1)乗務員教育用に作成されてかなり流布して
ない、口内に異物を入れたりしない、発作がおさ
いるもの(I
nf
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r
s
tAi
d)で、けいれんへの
まるまで症状を観察するという注意書きのある場
対処の詳しい記載がある。
合があり、さらに、けいれんの原因の診断には正
2)客室乗務員業務要領のなかにけいれんへの
対処の短い記載のあるもの。
確な情報が唯一の手がかりとなるので、けいれん
の様子、どんなときに、どんなところで、どうし
てんかん研究
18巻2号 200
0年6月
て、どんなふうに起こったかを要領よくまとめて
医師に報告するとよいという記載もあった。
()日本てんかん協会へのアンケート
1
57
項目に 類して以下に記した。
飛行中の不安
発作がおきるのではないかという不安がもっと
1
1
0人より回答があった。このうち航空機を利
も多く
(1
5人)、発作そのもので騒がれたり、迷惑
用したことがある人は 1
06人で、施設で 2
6人が団
をかけたり、失禁したり、いびきをかいたりする
体で旅行して問題がなかったという記載を除いた
ことへの不安が述べられた。長い飛行時間が特に
1
05人の回答を
心配であり(2人)、睡眠不足や疲労が引きがねに
析した。
患者年齢は 2
8
.3歳(4
∼7
0歳)
、発作頻度(n=
なったりするのではないかという不安(4人)の一
8
6)は日単位 1
8人、月単位 3
2人、週単位 10人、
方、入眠時に限られた発作なので眠るのではない
年単位 1
0人、年単位未満 3人、2年以上なしが 13
かという不安もあった。これらの不安は単独での
人であった。飛行中に困った経験があるかという
搭乗の場合に多く(2人)
、一方介助者にも座席の
質問には、ありが 2
2人、なしが 7
8人。告知は必
狭さによる介助の不安があった(2人)
。多動など
ずするという回答が 4人、海外への飛行のみ告知
の合併障害による飛行の不安もあった(3人)
。し
するという回答が 1人、したことがあるという回
かし、発作が軽いので周囲に気づかれる心配がな
答が 8人、しないという回答が 92人であった。告
いという意見もあった(4人)。飛行中にかぎらず、
知して特に問題になることはなかったという回答
大量の薬の持ち運びあるいはその 失の不安も訴
は 3人、搭乗を拒否されたのが 1人、診断書の提
えられた。
出を求められたのが 1人、座席を移動させられた
という回答が 1人あった。
飛行中の発作については 54人が回答しており、
実際に飛行中に発作があって困ったこととし
て、離陸直前滑走中に発作で離陸中断の経験、
トイ
レの中で発作を起こし医者がいて助かった、着陸
ありが 2
4人、なしが 3
0人であった。その発作回
前に重積をおこしたことがある、気づいたら隣の
数は 1回が 1
2人、2回が 6人、3回が 2人、4回が
人が移動し自 が 2座席を占め横になっていたと
1人、5回が 1人で、国内線では 1回が 9人、2回
いう記載があった。また海外で搭乗前に発作がお
が 3人、3回が 1人、国際線では 1回が 5人、2回
き、帰国
が 2人、3回が 2人、5回が 1人であった。発作が
の搭乗を断られたという記載もあった。
告知について
あっても乗務員に気づかれなかったのが 2
0人、
乗
8人が絶対的に告知すべきだとし、告知してお
務員の対応が適切であったと回答したのは 5人、
くと気が楽で安心だからという理由であった。ま
乗り合わせた医療従事者が対処してくれたという
た同行者にも事情を話しておくという人もあっ
回答が 2人あった。
た。実際に告知して親切な対応を受けたという記
()国立療養所静岡東病院におけるアンケート
載が 3人あった。一方、条件つき告知の推奨は 10
てんかん発病後に航空機を利用したことがある
人あり、軽い発作では告知しなくてよいとするも
という回答は 3
9人(33
%)であった。このうち有
の(2人)
、国際線のみ告知する(3人)
、同乗者が
効解答 3
8人を 析した。平 年齢は 2
4.
8歳(3
∼
いる場合は不要だが単独の場合は告知する(6人)
5
2歳)、発作頻度を回答したのは 1
7人であるが、
という意見があった。単独の場合には介助法のメ
年単位 3人、
週単位 4人、月単位 3人、日単位 2人、
モを乗務員に渡しておくという意見もあった。付
年単位未満 3人であった。困ったことがあると回
添者でなくても、知人ならばその人に発作の特徴
答したのは 3人。
告知したことがあるのは 1人で、
と対処法を伝えておき、周囲が知らない人だけで
搭乗を断られたという。飛行中に発作を起こした
あれば乗務員に伝えるという意見もあった。しか
ことがあるのは 2人で、国内線、国際線各 1件ず
し告知すべきか悩む人もすくなくなく、実際に告
つであった。1件は乗務員に気づかれなかった。
知して問題がなかった一方、搭乗手続の段になっ
()自由記載
て診断書提出と言われて困った、家族同伴で旅行
アンケート(2
)と(3)の自由記載をまとめ、
社に断られたという記載もあった。
1
58
てんかん研究
18巻2号 200
0年6月
同伴について
ではない。国立療養所静岡東病院を初診した患者
同伴の是非についても同様であり、同伴以外は
1
1
8人のうち 39人、つまり約 1
/
3がかつて航空機
えられない(6人)一方、発作頻度や症状によっ
を利用していたことがわかった。国立療養所静岡
て同伴の必要性を えるべきとする意見が少なく
東病院の診療圏が広域である、受診者には比較的
なかった(1
1人)。
難治例が多いなどのバイアスがあるため、その数
アドバイス
値がてんかんをもつ人の実際の航空機利用率を反
他の患者さんへのアドバイスとしては、旅行社
映しているとは
えにくいが、少なくとも航空機
に座席が離れないよう依頼するとか前の席を依頼
を利用するてんかん患者が決して低率でないこと
するなどの座席についての示唆(6人)
、服薬につ
がわかる。
いての示唆(8人:このうち
したのは 5人)
、充
服薬の利用を推奨
な睡眠についての助言(2
このような状況で、乗務員からは機内の発作が
年に約 7
0件報告されており、本調査での患者側の
人)
、発作の対処を書いたカードの携帯
(2人)
、発
確実な記載だけでも 14
3人中 2
6人が発作を起こ
作がおこった場合を えての準備の工夫(1人)な
したことがあった。しかし告知の件数は少なく、
どの意見があった。
航空会社で年間 30
∼40件、患者側では 1
4人の回
要望
答しかなかった。
航空会社への要望として多かったのは、発作が
実際に発作がおきた場合には、乗務員はマニュ
おこったときに安静にできる場所の確保(3人)
、
アルに って対応しつつも結局は乗客に応援を求
障害者を
慮した座席(4人)などのハードの問
めるのが現実である。患者の発作を周知している
題、緊張している患者に対する配慮や乗降時の手
同乗者がいれば対応は早いが、そうでなければ医
助けなどのソフト面(3人)
、また診断書提出など
療関係者を探すことになる。この状況は街中で発
の事前チェックが必要ならば各社統一にして欲し
作を起こした場合と同様である。しかし救急車を
いという意見、国際線では乗せてもらえないと聞
求めることはできず、対応は機内で完結しなけれ
いたという意見、さらに発作が起きたときに適切
ばならない。付添者も医療関係者も不在の場合、
に対処できるように乗務員の教育をのぞむ声も
乗務員に救急対応の知識があるか否か、マニュア
あった(4人)。
ルが適切であるかどうかは極めて重要である 。
医療関係者への要望としては、医師の(英文を
このような場合、患者があらかじめ告知していた
含む)診断書や対処法の説明書の発行を望む声が
り、緊急のカードを用意していたりすれば、対応
多かった(7人)
。また、てんかんの手帳、緊急の
はより適切になると思われる。地上との連絡は可
共通英語表現のリストをつくってほしい、一般へ
能であり、場合によっては主治医との直接の連絡
の啓蒙を望む声もてんかん協会や医療関係者への
をとることもできる。Di
az
epam 注などの機内配
要望として挙げられていた(5人)
。なお医師から
備が許可されるようになったが、それを扱えるの
搭乗を禁止されているという記載が 2件あった。
は医師だけであり、また実際に 用する場面は極
めて少ないであろう。坐薬は注射に代わる有力な
察
手段であるが、あらかじめ
用法を知らされてい
飛行機旅行そのものがてんかん発作に強い影響
る必要がある。複数回の緊急着陸が報告されてい
を与えることはなく、また一律にてんかん患者が
るが、対応が適切であれば不必要であった可能性
飛行機利用から排除されることは現状ではまずな
があると思われる。
いと えられる。しかし本調査は、航空機利用に
航空会社の有する緊急マニュアルには、一部に
関して患者側と航空会社側の相互理解、およびそ
不適切な記述がある(発作予防のため音や光を回
のコミュニケーションを適切に仲介する医療者の
避すべきなど)ものの、けいれんの処置について
役割の重要性を浮き彫りにしている。
の記載に大きな医学的な誤りはない。また社内教
てんかん患者の飛行機利用は決して少ないもの
育でてんかんを取り上げている会社もある。しか
てんかん研究
18巻2号 200
0年6月
1
59
し会社によっては不完全なマニュアルしかなく、
線をもつ大手の 42社へのアンケートの結果から、
現実には適切な対応は難しいという自由記載がみ
機内での発作は少ないこと(最高で年に 1
0例、最
られた。またけいれん発作以外の項目はどのマ
高で年に 1∼2回の発作による緊急着陸)、航空会
ニュアルにもなく、自動症や発作後もうろう状態
社によっててんかん患者の取扱は種々であるこ
などへの対応の記載はない。研修の場の提供も含
と、稀に不適切な対応(薬用量の増量の推奨、危
め、医療機関が適切な情報提供を行う必要がある
険な発作処置など)があること、乗務員の医学訓
と思われる。
練が種々であること、機内救急常備薬品に発作の
発作は実際には乗務員にも気づかれない程度の
処置可能な薬品が含まれていない場合があるこ
ものが少なくなく、その程度の発作で事前に申告
と、などを指摘し、機内でてんかん発作が大きな
すべきかどうか、また発作がおこる確率がどの程
問題とはなっていない現状を報告しつつも、患者
度かという判断の迷いが告知の件数を減らしてい
が乗務員に適切な情報を与えておくこと、乗務員
る要因であろう。しかし告知することによる不利
の適切な教育、不適切な対応の是正、di
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益の判断も影響していると思われる。実際にはア
常備の必要性を説いている。われわれの調査では
ンケートからは不利益よりも親切な対応を受けた
機内での発作は Mumf
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dらの報告よりも多かっ
という意見が多いが、告知すれば断られる、診断
た。不適切な対応はみられなかったが、その他の
書の提出を求められる。煩わしい手続きを求めら
点では同様の結果であり、調査結果から導き出さ
れそうだ、などという心配が先行している可能性
がある。これらの多くは情報不足ないし相互のコ
れた結論も同様である。Nas
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arら は、通常服用
量を変 しないこと、緊急の薬を携帯すること、
ミュニケーションの不足に起因している。航空会
発作が起きうることを離陸前に乗務員に告知し対
社側は発作への対処法がわかれば安心であるが、
処法を記した書類を渡しておくことを推奨してい
患者側にとっては搭乗意欲を削ぐような煩雑な手
る。
続きは困るであろう。アンケートの記載からは、
最後に、患者と航空会社を仲介するものとして
患者が多くの不安を抱えながら搭乗していること
旅行会社の存在を無視することはできない。旅行
が窺える。この不安を除くためには、告知は不利
社に搭乗を辞めるようにいわれたという回答が
という発想を変える相互の努力が必要と思われ
あった。実態を把握し、適切な対策を講じること
る。ただし告知の中身も問題であり、発作の具体
は今後の課題として残されている。
とその対処法を明らかにするには、医療関係者の
援助が重要であろう。
患者側からの航空機会社への要望として、安静
謝辞:アンケートにご協力いただいた国内各航空
会社および患者さんに深謝いたします。
スペースの確保などのハード面の改善および障害
者に配慮したソフト面の充実が挙げられており、
適切な対処が望まれる。一方患者側としては、自
の状態を充 に自覚し、それに応じた適切なコ
ミュニケーションを航空会社とはかることが必要
であろう。さらに医療関係者は、専門的なアドバ
文
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乗務員なり他の乗客にわかりやすい医学処置を解
説し、また研修や啓蒙につとめることが肝要であ
ろう。
なお外国の文献では、Mumf
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てんかん研究
18巻2号 200
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