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海外紀行「ブータンの旅」

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海外紀行「ブータンの旅」
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土木学会前専務理事の河野宏氏が JICA のシニアボ
ランティアとしてブータンに滞在している。氏から
している。北上するにつれて標高が急増し、直線距離
A@@km足らずで標高は5∼F,@@@mとなり、樹木は見
「ブータンでは温暖化に伴って氷河湖が突然融け出し、
下流に甚大な被害が発生している。地すべりも手つか
られなくなる。チベットと境する最高峰クーラカリン
山の標高はG,EEDmである。首都テンプー市の標高も
B,C
E@mある高山国である。
ずの状態だ。一度見に来ないか」というお誘いがあり、
東京農工大の中村浩之教授、国土技術センターの桑原
啓三顧問と3人で出かけた。ブータンへの入国は昨年
AA月AF日、出国は同BF日である。
ブータンでは例年AA月に入ると乾季となり、氷河湖
中国やインドの圧迫に耐え、長らく鎖国を国是とし
II
@年代中頃から徐々に開国し、海外の援
てきたが、A
助や観光客を受け入れるようになった。特に観光産業
へのアクセスができるようになるそうだが、今年は乾
に力を入れ、ホテルの建設と道路や電気、水道、通信、
下水道等のインフラ整備を進めている。写真−1は5
季になっても降雨が止まず、途中の道路事情が悪く、
時間がかかるだけでなく大変危険だということで、今
階建てのホテルの建設現場である。
都市部の清掃も行き届いており、大変きれいだ。建
回は現地を見ることができなかった。
物の佇まいや道路の清潔さは、外国人の見たという江
戸期の日本を髣髴させるところがある。写真−2はパ
1.ブータンという国
世界に類のない山岳国家で、
西をインド領シッキム、
ロ町のメインストリートである。自動車は英国式の左
側通行で、写真は左車線だ。交通量はまだまだ少ない
南と東をインド領アッサム、北を中国領チベットに囲
まれた小国である。国土の面積は4万GGkm2(資料に
よ っ て は 3 万 8 千 k m2 )、 総 人 口 はGC万 人 と い う
(B@@C年 EH万人とも)。面積は北東北3県(青森・
が、路肩を広く取ってあり、整然と駐車している。歩
道も広く、よく整備されているのが印象的だ。
秋田・岩手)より少し大きく、人口は仙台市の三分の
二ぐらいである。
と自然環境を大切にしながら、急ぎ過ぎない開発と改
革」を目指している。日本の明治維新を高く評価し、
@@
F)中に
それに見習いたいとも言う。なお、本年(B
緯度的には、沖縄から奄美諸島に相当し、南部の低
地(最も低いところで標高A@Gm)には椰子やが繁茂
写真−1
B
ホテルの建設現場(首都テンプー市
竹製足場)
現在の国王ジグメ・シンゲ・ワンチック(ワンチッ
ク家第4代)は開明的な政治家で、「自国の伝統文化
は立憲君主国に移行する予定である。
写真−2
パロ町のメインストリート(自動車は左側通行)
COIs
2.宗教と社会
ほとんどの旅行案内書は、ブータンを「ヒマラヤの
密教王国」と記している。各地に、その地域に似合わ
ないほど、大形で、壮麗な建造物「ゾン」が存在する
からであろう(写真−3)
。
ブータンは大乗仏教が主体だが、
チベットのラマ教、
インドのバラモン教やヒンズー教、イスラム教等の様
々な宗教や宗派が入り乱れて、
複雑に絡み合っている。
さらに、部族の英雄や犠牲者なども神格化されて祭ら
れており、典型的な「政教一致」の国家である。
ゾンは国分寺と国府を兼ね備えた城塞僧院である。
かって、僧侶の力が強く、ゾンは城塞そのものであっ
たが、現在では学校、病院、養老院等の機能も果たし
ているようだ。中でも学校の機能が大きく、男子の
E@%がゾンに入って勉強し、将来その内のE@%、つま
り同年代の男子のBE%がそのままゾンに永住し、妻帯
しないという。大きな都市には尼寺もあるが、広大な
ゾンに比べて規模が小さく、数も少ないという。
写真−4
パロ・ゾンの奇矯(パロ町)
外国人の持込には制限がない。
F@米ドルで、
ブータンの一人当たり国内総生産は約F
世界最貧国の1つであり、なかなか改善する気配がな
い(日本CE,IBBドル B@@D)。そういう経済状態のと
ころにもテレビや車が入り込んでいる。日本の中古車
が人気のようだ。最近の若者の興味(憧れ)は携帯電
話の入手という。店の前に多くの人達が集まっている
が、実際に買える人は少ないようだ。
3.自然とインフラストラクチャー
RD
Pn¨EÍìÖW
n¨ ブータン南部のインド国境付近の標高は
A@@m程度であるのに対して、北部の中国国境付近の
標高はG,@@@mを超えている。その間の地図上の距離
D@kmしかない。大部分の河川は急流河川で、
はAC@∼A
北から南に流れ、谷は深く侵食されている。
n¿ 北側過半には古生代から中生代の海の堆積物
写真−3
華麗なプナカ・ゾン(プナカ町)
写真−4はパロ・ゾンに架かる奇矯である。両岸か
らせり出した3層のはね木によって支える橋で、構造
が甲斐の猿橋によく似ている。橋の長さは約C@m、幅
が存在し、テーチス海(古地中海)と呼ばれている。
また、中生代の終わり頃から、北側のユーラシア・プ
レート(チベット)と南側のゴンドワナ・プレート
(インド亜大陸)が衝突し(北側ブロックが南側ブロ
2m程度である。なお、一旦緩急あれば、橋を切って
ックの下に潜り込む)、ヒマラヤ山脈が形成された。
標高H,@@@m付近で海棲の魚や貝化石が発見されると
落とせるようになっているそうだ。やはりゾンは城塞
ということであろう。
いう。アイソトープを用いた年代同定によると、過去
@@m以上上昇したことになる。
1千万年にH,@
戒律の厳しいブータンでは嗜好品の摂取が抑制され
@D年AB月からはタバコの国内販売が全面的
ている。B@
に禁止されている。外国人はB@@%の関税を払えば1
日本の中央構造線に相当するような大規な断層が2
本、東西方向に走っている。この構造線は傾斜の緩い
カートンの持込ができるが、ゾンなど公的なところで
の喫煙は禁止されている。
酒類の販売店がなく、ホテル以外では酒類の購入が
できないことになっている。特に、毎週火曜日はドラ
イデーと称し、ホテルでも販売中止となる。ただし、
衝上断層群からなるので、地質が著しく破砕されてい
る。地形が急峻なだけでなく、地質の破砕が地すべり
や山地崩壊の素因となっている。
nk この地殻変動はヒマラヤ山脈周辺の地震活動
からも理解できる。昨年A@月、死者・行方不明者H万
G,@@
@名以上でたパキスタン北部地震(MG.F)が発生
C
COIs
したが、同様な地質条件のブータン国内とその周辺で
も、過去A@@年間にM7以上の地震がAD個発生してい
E@年の直下型地震は極めて大規模なも
る。なかでもAI
M
H
G
ので、 . と推定されている。
るが、堤防の高さはせいぜい1m程度である。なお、
写真中央部の橋は仮橋のような構造で、その下流の古
い集落部分には堤防がない。
CÛ
残念ながら、信頼に足る気象資料はない。旅
行案内書などには気温がのっているが信頼性が低いと
いう。WMO(世界気象機構)は、同じような気象条
件としてカトマンズ空港(ネパール)に気象観測を要
請しているが、気象データは発表されていない(理科
年表 B@@C)。一般に、ブータンはモンスーン地帯に
属し、雨量が多いといわれているが、出水の痕跡、渓
流や谷の幅、ウォッシュアウト(渓流堆積物)のガリー
侵食、
植相(サボテンの群生や松など乾性植物が多い)
、
山地崩壊などを観察すると、年間降水量はそれほど大
きくはないのではないかと思われる。
インドの資料では年降水量がE,@@@mm を越えると
ころもあり、B@@@年8月の災害では3日間の雨量が
II
Hmmに達したという。
n·×èEöó ヒマラヤの造山運動に伴って、地
写真−6
­d
ニュータウンの建設と築堤
E%弱と推定されている。国
電気の普及率はC
形が険しいだけでなく、地質も破砕されているところ
内では水力開発の余地は十分あるが、資本不足で発電
所の建設が進んでいない。首都でもしばしば停電する
が多い。したがって、いたるところに地すべり地形や
山地崩壊地形が見られる。多雨期に流出した土砂が谷
ので、ホテルの各部屋にはローソクとマッチが用意さ
れている。予告なしにローソク送電や停電を繰り返す
を埋め、沖積錐や小規模な扇状地を形成している。写
真−5は沖積錐上に発達した集落である。沖積錐は過
からである。電力はこの国の最大の輸出品目であり、
貴重な外貨の収入源だからだそうだ。ホテルのエアコ
去(沖積時代)に上部山地の崩壊によってつくられた
緩傾斜地であるので、これからも同じような現象(大
ンや給湯施設も電力によるが、容量不足が多い。
一般の家庭のエネルギー源は樹木や草本であり、都
規模な崩壊)の発生が危惧される。
市近郊や集落の近くの山は大部分乱伐されて疎林とな
っている(写真−7)。日本の戦前や終戦直後のよう
な状態で、未だ「自然の維持」や「緑の維持」などを
云々する次元ではない。
写真−5
ÍìüC
沖積錐上の集落
ほとんど手つかずの状態である。平地が
極端に少ないので田圃や住宅地が河川に沿って拓けて
いるが、無堤で、一寸した出水でも容易に冠水してし
まう。最近人口の都市への集中でニュータウンが建設
されており、写真−6のように築堤をしている例があ
D
写真−7
疎林と化した里山
COIs
RD
Q¹H–î
国内の交通手段は自動車のみである。国際空港がA
時に警官が立ち、手信号で合図をしているが意味がよ
く分からなかった。ただしブータン人は自己管理や自
つの他、国内には空港がない。鉄道も舟運もない。地
形が険しいので、道路の線形が悪く、東西を結ぶ幹線
己抑制がよく効いているらしく、事故は滅多に起きな
いという。国内の他地域にはスタンドも信号機もない
道路(首都と東部の重要都市タシガン町)でも、直線
@kmを移動するのに3日もかかるという。
距離で約B@
幹線道路の幅は5∼6mで、中央部3m程度を簡易
という優雅な国である。
舗装しているに過ぎない。勾配や平面線形も悪く、交
通マナーは良いが、すれ違いや追越が大変怖い。のり
面保護やガードレールなどの安全施設は皆無だ。
@ 交通整理スタンドとその警察官
写真−A
RD
R_Ɩî
平地が少ない上に農業用の灌漑施設もなく、正に運
を天に任せた営農をしている。地形が少しでも緩いと
写真−8
幹線道路
(厳しい道幅や線形)
ころに棚田をつくり、「耕して天に到る」ような光景
A)
をなしている(写真−A
。少ない谷川の水を導水し、
道路の維持管理も大変難しい。道幅が狭く、十分な
幅の路肩が確保されていないので、のり面崩壊などの
てっぺんの田圃から潅水し、次々により下位の田圃に
導水するという、結果的に用水の有効利用をしている
災害が発生した場合、土砂を不用意に川側に捨てるだ
けである(写真−9)。その結果、川側斜面の崩壊が
わけでもある。
棚田へのアクセス道路がなく、かなりの距離を歩か
拡大したり、河川の荒廃が促進されてしまう。
なければならない。
耕運機など機械の導入はもとより、
大部分の田圃では馬など畜力を使うこともできない。
棚田の維持は、決して「自然保護のため」でも、「勤
勉の証」でもない。そうしないと生きてゆけないだけ
の話である。
写真−9
斜面の中腹を走る幹線道路(崩壊が多い)
ブータンも自動車時代に入ったといっても、車の数
はまだまだ少ない。写真−A@は首都テンプーの中心部
の交差点の交通整理スタンドである。朝夕のラッシュ
A 典型的な棚田
写真−A
(田圃の幅はせいぜい5m位)
E
COIs
近郊で収穫された農産物は、生産者によって直接市
場に運ばれ、消費者と相対で売られている。ものが豊
富に出回り、活気に沸いている(写真−AB)。穀物や
野菜、果物をはじめ、肉類や日用雑貨も売られている。
正規の屠殺場などはなく、鶏やウサギだけでなく、牛
や豚なども市場で処理されている。毛皮はもちろんの
こと、血のしたたる牛の頭なども売られている。
C 新築家屋や新婚家庭の外壁に描かれているポー
写真−A
クだった。その後急速に人口が減少したが、その原因
は戦争でも疫病でもなく、「繁栄の中で人々は結婚を
望まず、結婚しても子供を産まなくなった」からだと
いう(歴史家ポリビオス 歴史書)
。
AIGH年夏ニューヨークで突然ベビーブームが生じ
B 活気あるパロの市場
写真−A
4.ブータンで考えたこと
海外の旅に出ると、国内のいろいろな問題を彼の地
と比較してみたくなる。作家司馬遼太郎の伝で、少子
化問題と地球温暖化問題について論じてみたい。
SD
P­q»âè
た。6月のロングアイランド大学病院分娩室の利用率
@∼B
E%増という。他の病院も同じような傾
が前年比B
向があったので、市保健局と産婦人学会は疫学的な調
査・研究をしたが、原因はつかめなかったという。当
G年7月A
C∼A
D日にはニュー
然だろう。ただし、前年G
ヨーク大停電があった。
@@
A年末∼@
B年にカリフォルニア州で
同様な現象がB
発生した。州当局や学会が研究をしたかどうか不明だ
男子のBE%が妻帯しなければ「少子化問題」が生ず
るような気がするが、彼の地では対応策がうまくでき
が、はっきりしていることは、カリフォルニア州は電
@@
A年1月末から計画的な輪
力不足に対処するため、B
ているようだ。社会制度が一夫多妻(妻妾が4人まで
認められる)で、これは経済力や社会的地位とは無関
番停電を実施したことである。
先進国経済の成長率を決める要素として、労働力人
係のようだ。権力や経済力がある者が妻妾を養うので
はなく、経済観念があり、向上意欲のある者が実行し
口はあまり意味を持たない。日本の高度経済成長期は
A
IE
E∼G
@年頃だが、この間の年平均成長率はA
@%を越
ているようだ。
この国では女性や子供が働き手であり、
経済の拡大再生産の担い手なのだ。
えている。しかし、人口の増加率は1%そこそこであ
る。就業形態の違いとか個々人の資産蓄積レベルの問
バラモン教やヒンズー教の影響か、お寺の仏様も大
変人間的で、ポルノ的な彫像や絵画が多い。また、住
題があるかもしれないが、人口増加率のウエートが小
さいことは一目瞭然だ。経済成長は、働き手や消費者
宅の玄関や壁面には「繁栄のシンボル」や「繁栄を祈
願する絵」が描かれている。
の数ではなく、技術革新のスピードや資本ストックの
積み上げ(投資)で決まる。資本ストックはペーパー
この国では「貧乏人の子沢山」ではなく、「子沢山
は経済力の源泉」のようだ。
マネーだけでなく、施設や社会システムをも含む。も
ちろん公共資本は大きなウエートを占める。
SD
Qn…·g»âè
ブータンには信頼できる統計資料がないが、人口は
確実に増えているという。託児所や幼稚園がなく、優
氷河湖の決壊は地球温暖化の所為だという。そのと
生保護法や児童保護法、児童手当制度や育児休暇制度
おりであろう。しかし氷河湖の形成も地球温暖化に由
などもない。それでも人口が増えているのは、アフリ
カや南米諸国も皆同じだ。
来する。氷河の流動が活発化するためにはある程度気
温が高くなければならないし、川や谷を堰き止める土
ギリシャは紀元前2世紀半ばの最盛期に人口のピー
F
砂は、温暖化で氷河の後退期に形成されるものだ。
COIs
氷河に関する文献調査によると「南極の氷床の量は
年々増大している」
という(渡辺興亜 元極地研所長)
。
運動に従って拡散する。世上言われているように、上
部(地球の外側)に電離層のような特定の“幕”がで
南極観測は精度の高い“科学的な研究”をしているは
ずだから間違いないであろう。一方アラスカやグリー
きるだろうか。
地球上のエネルギーは大部分太陽から供給される。
ランドの研究者は、「確実に温度が上がり、氷河は後
退している」という。ひょっとしたら極がずれ、赤道
地球からの放射エネルギーを遮断するような顕著な幕
があるとすれば、それは同時に太陽からの照射エネル
が移動しているのかもしれない。地図上では北半球が
温暖化し、南半球が寒冷化しているだけに過ぎないの
ギーを遮断してしまうであろう。
地史(地球の歴史)学的に見れば地球は温暖・寒冷
ではなかろうか。気象データは、北半球のものが圧倒
的に多く、
かつ年々観測地点が増加しているのだから、
を何度も経験している。最近では、約2万年前(沖積
層の形成初期)に最後の氷河期がピークに達し、海岸
線が現在よりもA@km以上も後退したと考えられてい
る。その後徐々に温暖化し、E∼F@@@年前頃に温暖化
統計値もその影響がさけられないはずだ。
地球温暖化の主犯はCo2(二酸化炭素)と言われて
いる。しかし、空気の組成は窒素GH%、酸素BA%、ア
ルゴンその他が1%である(小数点以下四捨五入)。
問題のCo2の量はC@@∼D@@ppm(@.@@@C∼@.@@@D%)
に過ぎない。こんな微々たる比率では温暖化の主犯に
なりえないであろう。
Co2 によるシェルターの形成もその温室効果も怪し
い。空気層の最外側にCo2の膜ができ、それが温度の
のピークに達した。この時期に人間が自然の束縛から
開放され、世界の五大文明が一斉に芽生えた。日本で
も例外ではない。時期は少々遅れるかも知れないが、
あの火炎土器を製作した縄文文化である。縄文の海は
現在の海水準より5∼7m高く、暖かな海が宮城県北
部の大半と北上川の中流域まで覆っていた。縄文人は
放射を妨げているという。
空気も物理学の法則に従い、
多種多様な海産物を堪能していたに違いない。地球の
寒暖は太陽活動の如何によって決まる。全体としてみ
重い分子が下に沈み(地表近くに集まる)、ブラウン
れば、
地球の温暖化は人類に福祉をもたらすであろう。
G
Fly UP