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畳1枚でHOを愉しむ - 畑川 治の車・鉄道そして旅

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畳1枚でHOを愉しむ - 畑川 治の車・鉄道そして旅
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畑川 治
■定尺のボードレイアウト
定尺という言葉は使われることも少なくなったが、今も日本の多くの家屋の基準であり、また
ホームセンター等で売っている木材や発泡スチロールなど、多くの材料の寸法基準となっている。
一方、鉄道模型では、HOゲージを愉しむには広いスペースと大きな出費が伴う、というイメ
ージがある為に、自分の家の狭さと、そして今の収入では無理、と諦めている人も少なくないの
ではなかろうか。
私はその定尺、つまり「たった畳1枚の大きさで」そして「さほどお金もかけずに」充分にH
Oを愉しんでいる。
決して定尺サイズにこだわっている訳では無いのだが、前述のようにホームセンターで定尺の
発泡スチロールを入手したことから始まってしまったものであり、結果的には屋内での配置でレ
イアウトが窓にかからない等、日本家屋の基準寸法だけに、無理なく置けるスペースである。
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■走らせる車両は20m級!!
狭いからといっても、車両はナローなど小さなものではなく、日本型では20m級3~4連、
ヨーロッパ型では近年の長い車両ではなく、私の好むところの50~60年代の短めの客車3連
を機関車が牽引し、駅での列車交換も可能である。
無論、カーブの半径は小さく、最小356Rを使用するが、ヨーロッパのモデルは当然ながら、
KATOの日本型車両も何の手も加えずに通過する車両が殆どであり、あるいは多少、手を加え
ただけで快調に走り回っている。
このレイアウトは50mm 厚の発砲スチロールの上に緑の絨毯を貼ったものであり、その上にフ
ライシュマンの組立て式線路 Profi-Track を敷いている。そして、駅や信号所など、いくつかの
ストラクチャーを上に置いただけのものである。レイアウトと呼ぶにはあまりにお粗末なもので
あり、本来、あまり人にお見せする程のものではないのだが、しかし実際に走らせて愉しむには、
このレベルでも充分に雰囲気がある。
一方、この構成での大きなメリットは、ストラクチャーや木々など、ボード上に置いてあるも
のを外すと、掃除機をかけることも出来るし、また、例え耐久性の高いフライシュマンの線路を
使っていても、ポイントの接触不良や線路(道床)のそりが発生する場合があるが、組立て式線
路ゆえ、その部分の線路を新品に交換すれば簡単に対応できる。
ストラクチャーを固
定していないので、別の
ストラクチャーとの取
替えも簡単に出来る訳
で、実は、駅と信号所を
和洋それぞれに置き換
えることで、日本型、ド
イツ型の2種類のレイ
アウトを愉しんでいる。
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レイアウトボードの下の台はホームセンターで売っている3段ボックスである。4ヶ所を足の
ように使うため、同じものを購入して使用しているが、高さは90cm で、その上にボードを載せ
ると程良い高さとなる。ボックスは本棚としたり、扉のある部分はパーツ保存に使っているが、
手前の上側の一箇所は扉を下向きに開いてテーブルとなるように加工して運転台としている。因
みに、運転に使う椅子は事務用のものだが、上下に調整が出来るので目線の高さを
変えることが出来る。車両を中心に見る時には目線を低くする方が実感的で良いし、運転が中心
の時には少し高めにして、奥を走る車両を見やすくする必要があり、都合がよい。
■運転を楽しむための線路配置
線路配置は写真のように大変欲張ったものである。初めて見に来られた人は、よくもこのスペ
ースにHOの線路をここまで引き回せたものだと関心される。
線路は前述のように、フライシュマンを使っているが、その理由はスタートセットの安さから
購入したことに始まる。エンドレスの線路に蒸気機関車と客車3両を入れても2万数千円と破格
の設定で、つい衝動買いしてしまった。言わばメーカーの思うツボで、安く誘い込み、後から儲
けようという算段と知りつつも購入したものだが、しかし後日、そのフライシュマンに大変感謝
する結果となった。驚くほどスムーズに走る車両、カーブレールは356Rなので、僅かなスペ
ースで楽しめるHO、よく出来た線路。
大きなHOの質感と共に、私の模型感を変えてくれたと言っても過言ではない。それまで、N
ケージ、BEMO(HO-e)と、この定尺ボード上で愉しんできたのだが、HOモデルが走らせら
れるとは、目から鱗が落ちる思いがしたものである。
そのフライシュマンの線路を買い足しつつ路線は延びていった。エンドレスは356Rと42
0Rを使用し、カーブポイントと直線をつなげたもので、交換駅を手前に配しても定尺内で収ま
った。
当初はエンドレスに交換駅ひとつで満足していたが、まてよ、ひょっとしてカーブポイントを
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上手く使えばリバースまで可能では、と試したところ、何と、この狭い中にリバースまで入れる
ことが出来たのである。しかも、そのリバース上にはもうひとつの交換駅が設置できた。
ふたつの交換駅とリバースは運転を楽しむ上で大きなポイントになった。2駅4線の内、1線
を空けて3列車を配置し、空いた1線に向けた走行パターンで、3列車の運転を交互に愉しめる
のである。
また、リバースは列車の進行方向が変わることで運転に変化を与えられ、再び同じエンドレス
上にある駅を通過する時も、逆から入ってくると違う駅に感じられた。そして運転の方法として、
エンドレスの駅を始発/終着駅と想定し、そこから出発し、エンドレスを周回してリバースに入
る。逆転して再びエンドレスを回り、最初の駅に終着する。次に機廻し線を使い、機関車を反対
方に接続して再び出発する、という実感味のある運転が可能となったのである。
また、ヤードも4線が設置出来、そこに機関庫も置けた。運転では貨物を2編成置き、それを
入換機が入換え、その後に主機が引っ張る、といった想定で、狭いスペースの中でも、運転を愉
しめる要素が増えたのである。
欲張りついでに山も作った。製法は50mm 厚の発泡スチロールを何段も重ね、形に合わせ削っ
たもので、表面にマットを張り、プラスターを塗った一般的な製法だが、木もろくに植えないの
で、ご覧のとおりの不出来だが、怠け者の私にとっては大仕事であった。
苦労の結果生まれた山はそれなりの価値を生んだ。隣接しているリバースとヤードをパーテー
ションのように仕切る役目をし、それぞれの場所が個別に見える感じを与えた。そして、トンネ
ルを通過させることで走行に距離感が出ることも発見出来た。試しに山を取って走らせてみると、
その辺をグルグル回っているように思えるから不思議である。
■割り切り
確かに定尺は狭い、でも所詮、鉄道模型のスペースは狭いものではなかろうか。おそらく、殆
どのレイアウトは原寸大に拡大したとすれば、東京駅の構内よりも狭く、その中に山や川を設け
ているに過ぎないのではないだろうか。
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逆に、縮尺どおりに線路を敷こうものなら、いくらスペースがあっても足りない。実物のひと
駅間でも縮尺どおりに作るとなると大変なことになる。何より、そのことにどんな意味があるの
だろう。つまり、あくまでも模型は模型として楽しんでいるのであり、全てを縮小すれば良いと
いうものでもないはずだ。要するに、どこで割り切るか、ということであろう。
話がややこしくなったが、スペースあるいは曲線の半径という感覚に関して、私の場合はかな
り狭くても割り切れていることになる。実際に20m級車両の連結部の折れ曲がり具合など、苦
しいものがあるのは事実である。
それにしてもHOのメインラインの車両を1畳の大きさで走らせられるとは最初は想像もし
ていなかった。それも3~4両編成の車両まで列車交換しつつ走れるのである。
一般的に普通の家庭ではレイアウトに大きなスペースを割くことは不可能だろう。HOゲージ
に限れば、国産の場合、線路も車両も最小半径が大きいものが多く、当然それなりのスペースが
必要となり、結果的にHO模型やレイアウトの普及につながっていないのではと思う。
最小半径、そのことへの割り切りで鉄道模型の愉しみ方が変わる。加えて、運転を楽しむこと
で急カーブへの意識も半減するのである。
私のレイアウトは6畳の部屋に置いているが、部屋の6分の1を占有しているに過ぎない。こ
のサイズであれば3畳の部屋でも充分だし、理論上、押し入れですら出来ることになる、そう、
HOのレイアウトが!
■カーブポイントの有
効性
最近ではパソコンの
ソフト(Win Track)な
どで線路配置を簡単に
レイアウト出来るが、一
方では、レールを買い足
すに従い、ああ出来るの
ではないか、もっとこう
すれば運転が面白いの
ではと思い描きつつ延
長していけたのも愉し
いことではあった。
そうした中で可能性を広げてくれたもののひとつにカーブポイントがある。なにせベースボー
ドは定尺である。当初のNゲージの時でさえ、駅を設置するとかなりの長さをポイントで食われ
てしまい、ホームの有効長がどれほど減ってしまったことか。それがカーブの途中から分岐する
ことで、これほどにもスペースが有効になるとは、まさに驚きであった。駅のホーム長、そして、
線路配置全体がカーブポイントを使うことで、スペースを誠に有効に使えるのである。
日本ではカーブポイントは実物でもあまり使われておらず、馴染みにくい性質のものであるが、
この有り難さを知れば、そんなものは吹っ飛んでしまうはずだ。
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■HO車両は高くない
無論、ブラスモデルを使わないからである。まずは私の収入では真鍮製は無理である。
そして何より356Rを通過する本線用車両は日本ではKATOを始めとしたプラスティック
モデルを中心にするしかあるまい。
また、運転を重視する私の場合、動力性能は重要であり、総じてプラ製モデルは良好である。
スムーズな発進から安定した走行、超スローでの停止まで、多くの車両がスムーズに走る。
私はダイヤを作り、時刻運転を楽しんでいるが、発進、停止など走行性能の低い車両では走り
出しや停止にムラがあり、時刻運転は不可能である。
レールクリーニングや車輪の手入れも面倒なので滅多にしないが、それでも全軸集電の多い、
これらの車両は何事も無いようにスムーズに走ってしまう。このあたりは同じプラ製モデルでも
Nゲージとは大きく違うところで、車両重量の大きさによる集電性能の高さはHOの有難い部分
である。加えて言うなら、プラ製品はディテールの割に強度が高く、不器用な私の扱いにも痛む
ことはない。
一方、プラ製品の質感はどうみてもプラスティックに見える。しかし、前述のように走行性能
や価格を含めた工業製品としての出来の良さの方が、私のプライオリティとしては上にある。
程良いディテールと良好な動力性能、それらが比較的安価に手に入るのであるから真に有難い。
むしろ困るのは、ついつい車両ばかりが増えてしまうことではある。
■HO車両の356R通過
ヨーロッパの製品では356Rを通過す
るのが標準であり、通過出来ない車両には
大体カタログに通過最小曲線の記載がある。
しかし、日本の模型のカタログには通過最
小半径の記載が無い。店員の方に聞くと当
然ながら「弊社のレールは走ります」と答
える。仕方がないので車両を見せてもらい、
下回りを見ながら最小通過半径を想像する。
そして、最後は度胸で購入を決めることに
なる。
ある時など、国産のヨーロッパ型モデルを購入しようと最小通過半径を聞いたが、やはり同様
に「弊社の最小半径レールは走ります」と、この時はかなり腹立たしかった。「ヨーロッパ型を
購入するということはヨーロッパ製の線路上を走らせるのが通常であり、向こうの標準の小さな
カーブを回れるかを知りたいはずだろう」と言いたかったのであるが・・・
購入した模型は(それでも買ってしまうのだが)非常に良く出来ていて、ちゃんと356Rは
走るし、フランジの高さもヨーロッパモデルに合わせてあった。つまり、販売の店員が知らなか
っただけである。
それというのも、どうも日本では最小通過半径に対してタブー視している感があり、あまり触
れられないが、356Rに限らず、顧客の手持ちの線路を走らせられるかどうかは重要なことで
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あり、本来、商品を販売するのであれば、カタログデータとして最小半径は謳うべきだと思うの
だが。
なにか悪口ばかり言っているようだが、とんでもない、KATOの製品は海外の諸メーカーの
製品と比較しても立派なものである。
何と言っても素晴らしい出来栄えの外観は無論のこと、動力性能が素晴らしいことは周知のと
おりだ。そして、あまり知られていないだろうが、殆どの車両が356Rを通過してしまうので
ある。
そう、165系も、キハ58も、DD51も、C56も。そしてF級電機のEF65に、何と
EF58までも356Rを回ってしまうのである。さすがに先台車が内側に寄ってしまい異様な
感じで薦められるものでは無いが、それにしても通過出来ることは凄い。(因みにD51は43
0Rが限界である)
いずれにしてもKATOの線路の最少半径430R(490Rではなく430Rがあるのをご
存じですか?)よりも小さなカーブなのに殆ど車両が356Rを通過してしまう。設計上の安全
率というか、余裕を持たせた設計によるものだろう。
客車や電車等、20m級
車両では連結間隔が苦しく、
カーブで連結面が接触する
場合もある。僅かな接触が
殆どなので何もしないで走
らせているが、キハ58等、
中には車体を押し合うよう
に揺らす場合があり、そう
した車両では妻板を少し削
り、塗装して対処している。
意外と苦しいのがDE10
で、下回りのあちこちを削
って通過するようになった。
スハ43系やオハ35系
客車では台車とカプラーポケットが当たるので削る必要があった。ブルトレの20系は問題なく
走るが妻板がほんの僅か接触する。
また、165系やキハ58ではジョイントが首振りの限界のようで、ゴワーと音がしながらで
はあるが、それでも356Rを走り切る。
というように、あくまでもメーカーの設定値を越えた無理を承知での運転性能ではあることは
承知頂きたい。
因みに、TOMIXのDF50は問題なく356Rを通過する。ただ、中間台車には輪重を上
げる為に台車内に小さなウエイトを積んだ。というのもフライシュマンのポイントではフランジ
高さの設定が違うのでフログ部で、KATOも含め、日本の模型はガタンと車輪が落ち込み、つ
まり反対側車輪は浮き加減となり脱線しやすく、特に軽い台車、あるいは横動の大きな台車はウ
エイト等を積む必要がある。
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■プラスティック製HOゲージ普及への期待
ヨーロッパではHOゲージが主流だが、日本ではNゲージが主流となっている。そのNゲージ
を批判するつもりは全く無い、Nゲージは日本の鉄道模型の普及に大きく貢献した立役者とさえ
言えよう。廉価で良く出来た車両、レイアウトを作りやすくした様々なストラクチャー、そして、
日本の住宅事情に見合った小さな模型、など、私は今も長編成物はNゲージで所持しているし、
机の上で遊べる 600×900mm の小レイアウトも持っている。
一方、ヨーロッパでは何故HOが普及しているのか、決してヨーロッパの一般的な家が特別、
広い訳では無いし、収入が日本人より特に多い訳でも無い。それは、急カーブを標準レールとす
ることで、それこそベッドサイズのレイアウトが出来るのであり、プラスティック製の模型によ
り安い価格で買える。というあたりが大きく貢献している模様で、何のことは無い、理由は日本
のNゲージと同じだが、違うのはゲージが大きなHOということだ。
手に入れてみると解るが、やはりHOゲージは良い。
大きな質感、スローからスムーズに走る走行性能、少々放っておいても集電する車両。
やはりNゲージとは明らかに別次元の模型とさえ言える。
HOゲージは以前は真鍮モデルしかなくて高価なものだったし、小さなカーブを走ることなど、
意識もされなかった。
しかし、KATOやTOMIXがHOゲージに参入してからはプラスティック製品による新た
な、というよりも、ヨーロッパのように、普通にHOが楽しめるようになってきている。
そして、もうひとつのキーワードである省スペースについて、ここで定尺レイアウトの紹介を
させて頂いた。
完
8
■PS
本原稿はRMモデルス2004年8月号に掲載したものをベースに制作した。
RSモデルスに掲載したものでは、最後のタイトルを
430R
■プラHO普及の鍵は370Rせめて
として、外国製の線路ではなく(フランジ高さの違い等による問題)、国産で小さな
カーブ線路の必要性を謳い、また、車両も小カーブへの対応をすることで、定尺のHOレイア
ウトが出来ることになり、それは多くの人にHOの可能性を広げるだろう。
としたものだったが、実は最近(2012 年 5 月 1 日時点)の情報で、KATOから、370Rの
曲線線路が作られる予定であること、そして360R対応のEF510が廉価な設定(予価
13,440 円)で発売されることを知った。流石はKATO、世界を知っている。
ということで本稿では内容を変更したのだが、まさに望んでいたものが実現することになる。
また、KATOやTOMIXだけでなく、近年、いくつかのメーカーがプラHOに参入し始め、
とても楽しみな状況になってきた。
そこで、せっかくのプラ製品のアイデンティティーがブラスモデルに感化されることが無いよ
うに、最後の文章はRM原稿と同じにしたい。
ブラスモデルとは一線を画したプラスティック製HOモデルの世界が日本でもヨーロッパ同
様に広がることを期待したい。
畑川
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治
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