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新規な細菌由来変異型PRPPシンターゼを提供し

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新規な細菌由来変異型PRPPシンターゼを提供し
JP 2005-160474 A 2005.6.23
(57)【 要 約 】 ( 修 正 有 )
【課題】
新規な細菌由来変異型PRPPシンターゼを提供し、L−ヒスチジン生産性の向上し
たL−ヒスチジン生産菌を開発するとともに、当該菌株を用いたL−ヒスチジンの製造法
を開発する。
【解決手段】
プリンヌクレオチドによるフィードバック阻害に耐性の細菌変異型PRPPシンセター
ゼ、及び変異型prsA遺伝子によってコードされるプリンヌクレオチドによるフィード
バック阻害に耐性のPRPPシンセターゼを用いることによってL−ヒスチジン生産能が
高められた腸内細菌科の細菌を用いたL−ヒスチジンの製造法を提供する。
【選択図】なし
10
(2)
JP 2005-160474 A 2005.6.23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エシェリヒア・コリの野生型ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼにおいて、115位
に相当するL−アミノ酸残基が他のL−アミノ酸残基に置換され、プリンヌクレオチドに
よるフィードバック阻害が脱感作された、細菌変異型ホスホリボシルピロリン酸シンセタ
ーゼ(PRPPシンセターゼ)。
【請求項2】
野生型PRPPシンセターゼにおいて、115位に相当するアスパラギン酸残基がセリン
残基に置換された、請求項1に記載の変異型PRPPシンセターゼ。
【請求項3】
10
野生型PRPPシンセターゼがエシェリヒア・コリの野生型PRPPシンセターゼである
、請求項1又は2に記載の変異型PRPPシンセターゼ。
【請求項4】
115位以外の1又は複数の位置において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又
は付加を含み、プリンヌクレオチドによるフィードバック阻害が脱感作された、請求項3
に記載の変異型PRPPシンセターゼ。
【請求項5】
請求項1∼4のいずれか一項に記載の変異型PRPPシンセターゼをコードするDNA。
【請求項6】
請求項5に記載のDNAを保持し、L−ヒスチジン生産能を有する腸内細菌科の細菌。
20
【請求項7】
変異型PRPPシンセターゼの活性が上昇した、請求項6に記載の細菌。
【請求項8】
エシェリヒア属に属する、請求項7に記載の細菌。
【請求項9】
変異型PRPPシンセターゼ遺伝子の発現量を増加させることによって変異型PRPPシ
ンセターゼの活性が上昇した、請求項7に記載の細菌。
【請求項10】
変異型PRPPシンセターゼ遺伝子のコピー数を増加させること、又は該遺伝子の発現が
上昇するように該遺伝子の発現調節配列を改変することによって、変異型PRPPシンセ
30
ターゼの活性が上昇した、請求項9に記載の細菌。
【請求項11】
変異型PRPPシンセターゼ遺伝子の付加的なコピーを該細菌の染色体に組み込むことに
よって、コピー数を増加させる、請求項10に記載の細菌。
【請求項12】
請求項6∼11のいずれか一項に記載の細菌を培地で培養して該培地中にL−ヒスチジン
を生成蓄積させ、L−ヒスチジンを該培地から採取する、L−ヒスチジンの製造方法。
【請求項13】
前記細菌がヒスチジン生合成遺伝子の発現が上昇した細菌である、請求項12に記載の方
法。
40
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本 発 明 は バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー に 関 し 、 具 体 的 に は L -ヒ ス チ ジ ン な ど の L− ア ミ ノ 酸 の 製
造法に関する。より具体的には、本発明はプリン及びL−ヒスチジンの生合成に関わる新
規なフィードバック耐性酵素の使用に関する。より具体的には、本発明はエシェリヒア・
コ リ 由 来 の 新 規 な フ ィ ー ド バ ッ ク 耐 性 変 異 型 ホ ス ホ リ ボ シ ル ピ ロ リ ン 酸 シ ン セ タ ー ゼ ( PR
PPシ ン セ タ ー ゼ ) 、 該 酵 素 を 保 持 す る 腸 内 細 菌 科 の 細 菌 、 及 び 該 細 菌 の 菌 株 を 使 用 し た 発
酵法によるL−ヒスチジンの製造法に関する。
【背景技術】
50
(3)
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【0002】
従 来 、 L-ア ミ ノ 酸 は 天 然 よ り 得 ら れ た 細 菌 株 又 は L − ア ミ ノ 酸 生 産 能 が 向 上 す る よ う に
特異的に改変された該細菌の変異株を用いた発酵法により製造されてきた。
【0003】
例 え ば 、 組 換 え DNAに よ る 微 生 物 の 形 質 転 換 ( 例 え ば 、 米 国 特 許 明 細 書 第 4,278,765号 )
など、L−アミノ酸生産能を向上させるための多くの方法が開示されている。これらの方
法は、アミノ酸生合成に関与する酵素の活性を増強させること、及び/又は生成したL−
アミノ酸によるフィードバック阻害に対して標的酵素を脱感作させることに基づいている
(例えば、特開昭56−18596号公報(1981年)、国際公開第95/16042
号パンフレット、又は米国特許第5,661,012号及び6,040,160号明細書
10
)。
【0004】
5−ホスホリボシル−α−1−ピロリン酸(ホスホリボシルピロリン酸;PRPP)及
びアデノシン−5’−3リン酸(ATP)はヒスチジン生合成の開始基質である。PRP
Pは、ヒスチジン生合成経路と、ピリミジンヌクレオチド、プリンヌクレオチド、ピリジ
ンヌクレオチド及びトリプトファンの生合成へ分岐する経路をつなぐ(エシェリヒア・コ
リ と サ ル モ ネ ラ 、 第 2版 、 F.C. Neidhardt主 編 、 ASM Press、 Washington D.C.、 1996) 。
【0005】
多 く の ヌ ク レ オ チ ド が ATPと 競 合 し て PRPPシ ン セ タ ー ゼ の 活 性 を 阻 害 す る 。 し か し な が
ら 、 ア デ ノ シ ン − 5 ’ − 2 リ ン 酸 ( ADP) が 唯 一 の 強 力 な ヌ ク レ オ チ ド 阻 害 剤 で あ り 、 そ
20
れ は ATPと 競 合 し 、 活 性 部 位 と は 別 の 部 位 に 結 合 す る ア ロ ス テ リ ッ ク な 阻 害 剤 で あ る ( Hov
e-Jensen, B.ら 、 J. Biol. Chem. 261:6765-6771 (1986)) 。
【0006】
改 変 さ れ た PRPPシ ン セ タ ー ゼ を 保 持 す る 変 異 体 が エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ 及 び サ ル モ ネ ラ ・
ティフィムリウムの両方において得られている。エシェリヒア・コリの変異体の一つは、
ATPに 対 す る Km値 が 2 7 倍 増 加 し た PRPPシ ン セ タ ー ゼ を 生 成 し 、 該 酵 素 は AMPに よ っ て は 阻
害されない。この変異は128位のアスパラギン酸のアラニンによる置換(prsDA変
異)によって生じる。サルモネラ・ティフィムリウムのprs変異体は温度感受性で、野
生型PRPPシンセターゼの約20%の活性しかない。この変異型酵素はATPとリボー
ス5−リン酸に対するKm値が上昇しており、ADPによる阻害への感受性が低下してい
30
る。この変異は78位のアルギニンのシステインによる置換によるものである(エシェリ
ヒ ア ・ コ リ と サ ル モ ネ ラ 、 第 2版 、 F.C. Neidhardt主 編 、 ASM Press、 Washington D.C.、 1
996) 。
【0007】
ヒトにおいてはPRPPシンセターゼの異常な活性化及びプリンヌクレオチド耐性が、
高 尿 酸 血 症 、 痛 風 及 び 神 経 発 生 異 常 に 関 与 し て い る こ と が よ く 知 ら れ て い る ( Becker M.A
. ら 、 Arthritis Rheum, 18:6 Suppl: 687-94 (1975); Zoref E.ら 、 J. Clin. Invest.
, 56(5): 1093-9 (1975)) 。 異 常 活 性 化 さ れ た P R P P シ ン セ タ ー ゼ を 持 つ ヒ ト に お け る
尿 酸 の 過 剰 生 産 は 、 PRPP生 成 の 増 加 、 及 び そ れ に 伴 う プ リ ン ヌ ク レ オ チ ド の de novo合 成
の増加によって起こる。これは、成熟酵素の113位のアミノ酸残基におけるアスパラギ
40
ン か ら セ リ ン へ の 置 換 に 相 当 す る 、 変 異 型 遺 伝 子 の 3 4 1 位 の 塩 基 に お け る Aか ら Gへ の 置
換 に よ っ て 起 こ る 。 そ の よ う な 変 異 型 シ ン セ タ ー ゼ は 、 ATPに 対 し て 非 競 争 的 な メ カ ニ ズ
ム で 通 常 の 酵 素 を 阻 害 す る プ リ ン ヌ ク レ オ チ ド に 耐 性 で あ る ( Roessler, B.J.ら 、 J. Bio
l. Chem., v. 268, No 35, 26476-26481 (1993); Becker, M.A.ら 、 J. Clin. Invest.,
96(5): 2133-41 (1995)) 。
【0008】
プ リ ン ヌ ク レ オ シ ド 生 産 能 を 有 し 、 prsDA変 異 を 保 持 す る エ シ ェ リ ヒ ア 属 細 菌 を 用 い た
発酵によるプリンヌクレオシドの製造法が開示されている(欧州特許出願EP10046
63A1)。しかしながら、プリンヌクレオチドによるフィードバックに耐性である細菌
の P R P P シ ン セ タ ー ゼ 、 及 び L -ヒ ス チ ジ ン 生 産 菌 を 用 い た L -ヒ ス チ ジ ン 生 産 を 向 上 さ
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せるためにそのような変異型PRPPシンセターゼを利用することは、現在のところ報告
されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規な細菌由来変異型PRPPシンセターゼを提供すること、L−ヒ
スチジン生産能の向上したL−ヒスチジン生産菌を開発すること、及び該細菌を用いたL
−ヒスチジンの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
10
上記課題は、エシェリヒア・コリ由来の新規変異型PRPPシンセターゼを構築するこ
と に よ り 達 成 さ れ た 。 す な わ ち 、 p r s A 遺 伝 子 の 高 い 保 存 性 ( Taira M.ら 、 J. Biol. C
hem., v. 262, No 31, pp.14867-14870 (1987)) に 基 づ き 、 ヒ ト の ア ス パ ラ ギ ン − 1 1 3
変異に相当する変異を有するエシェリヒア・コリの変異型PRPPシンセターゼを構築し
た。L−ヒスチジン生産菌の細胞にその付加的なコピーを導入し、該変異型PRPPシン
セターゼを用いることによりL−ヒスチジン生産が向上することを見出した。このように
して本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1)エシェリヒア・コリの野生型ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼにおいて、1
20
15位に相当するL−アミノ酸残基が他のL−アミノ酸残基に置換され、プリンヌクレオ
チドによるフィードバック阻害が脱感作された、細菌変異型ホスホリボシルピロリン酸シ
ンセターゼ(PRPPシンセターゼ)。
2)野生型PRPPシンセターゼにおいて、115位に相当するアスパラギン酸残基が
セリン残基に置換された、1)の変異型PRPPシンセターゼ。
3)野生型PRPPシンセターゼがエシェリヒア・コリのものである、1)又は2)の
変異型PRPPシンセターゼ。
4)115位以外の1又は複数の位置において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、
挿入又は付加を含み、プリンヌクレオチドによるフィードバック阻害が脱感作された、3
)の変異型PRPPシンセターゼ。
30
5)1)∼4)のいずれかの変異型PRPPシンセターゼをコードするDNA。
6)5)のDNAを保持し、L−ヒスチジン生産能を有する腸内細菌科の細菌。
7)変異型PRPPシンセターゼの活性が上昇した、6)の細菌。
8)エシェリヒア属に属する、7)の細菌。
9)変異型PRPPシンセターゼ遺伝子の発現量を増加させることによって変異型PR
PPシンセターゼの活性が上昇した、7)の細菌。
10)変異型PRPPシンセターゼ遺伝子のコピー数を増加させること、又は該遺伝子
の発現が上昇するように該遺伝子の発現調節配列を改変することによって、変異型PRP
Pシンセターゼの活性が上昇した、9)の細菌。
11)変異型PRPPシンセターゼ遺伝子の付加的なコピーを該細菌の染色体に組み込
40
むことによって、前記コピー数を増加させる、10)の細菌。
12)6)∼11)のいずれかの細菌を培地で培養して該培地中にL−ヒスチジンを生
成蓄積させ、L−ヒスチジンを該培地から採取する、L−ヒスチジンの製造法。
13)前記細菌がヒスチジン生合成遺伝子の発現が上昇した細菌である、12)の方法
。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
野生型PRPPシンセターゼの115位に相当するアスパラギン酸残基における置換を
有するPRPPシンセターゼを「変異型PRPPシンセターゼ」、該変異型PRPPシン
セターゼをコードするDNAを「変異型prsA遺伝子」または「変異型PRPPシンセ
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ターゼ遺伝子」と呼ぶことがある。また、置換を有さないPRPPシンセターゼを「野生
型PRPPシンセターゼ」と呼ぶことがある。
以下、本願発明を詳細に説明する。
【0013】
<1>変異型PRPPシンセターゼ及び変異型prsA遺伝子
ヒトPRPPシンセターゼのプリンヌクレオチド耐性に伴う異常活性化は、遺伝学的、
機 能 的 に は 、 p r s A 遺 伝 子 に お け る 一 塩 基 置 換 に よ っ て 生 じ る こ と が 知 ら れ て い る ( Ro
essler, B.J. ら 、 J. Biol. Chem., v. 268, No 35, 26476-26481 (1993)) 。 p r s A 遺
伝 子 の 高 い 保 存 性 ( Taira M. ら 、 J. Biol. Chem., v. 262, No 31, pp.14867-14870 (19
87)) に 基 づ き 、 ヒ ト の ア ス パ ラ ギ ン − 1 1 3 変 異 に 相 当 す る 変 異 を 有 す る エ シ ェ リ ヒ ア
10
・コリの変異型PRPPシンセターゼが構築された。そのような変異はどの細菌由来のP
RPPシンセターゼにおいても知られていない。「細菌由来のPRPPシンセターゼ」と
言う語句は、腸内細菌科の細菌、コリネ型細菌、バチルス属細菌などにおいて存在するP
R P P シ ン セ タ ー ゼ を 意 味 す る 。 腸 内 細 菌 科 の 細 菌 は エ シ ェ リ ヒ ア 属 、 エ ル ビ ニ ア ( Erwi
nia) 属 、 プ ロ ヴ ィ デ ン シ ア ( Providencia) 属 及 び セ ラ チ ア 属 に 属 す る 細 菌 を 含 み 、 エ シ
ェリヒア属が好ましい。
【0014】
エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ の 野 生 型 P R P P シ ン セ タ ー ゼ ( EC 2.7.6.1) の ア ミ ノ 酸 配 列 に お
け る 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ の P R P P シ ン セ タ ー ゼ の 115位 の ア ス パ ラ ギ ン 酸 に 相 当 す る
アミノ酸残基の置換はどのアミノ酸でも良いが、セリンが好ましく、これにより、主にグ
20
ア ノ シ ン -5'-二 リ ン 酸 ( GDP) 、 ア デ ノ シ ン -5'-二 リ ン 酸 ( ADP) 、 ア デ ノ シ ン -5'‐ 一 リ
ン 酸 ( AMP) な ど の プ リ ン 二 及 び 一 リ ン 酸 ヌ ク レ オ チ ド の よ う な プ リ ン ヌ ク レ オ チ ド に 耐
性の変異型PRPPシンセターゼが生じる。
【0015】
変異型PRPPシンセターゼは該配列に基づき、通常の方法によって野生型prsA遺
伝 子 に 変 異 を 導 入 す る こ と に よ っ て 得 る こ と が で き る 。 野 生 型 prsA遺 伝 子 と し て は 、 エ シ
ェ リ ヒ ア ・ コ リ の p r s A 遺 伝 子 が 挙 げ ら れ る ( GenBank Accession NC_000913の 塩 基 番
号 1260151∼ 1261098, gi:16129170、 配 列 番 号 1 ) 。 p r s A 遺 伝 子 は エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ
リ K-12株 染 色 体 上 の ychMと ychBの ORFの 間 に 位 置 す る 。 し た が っ て 、 p r s A 遺 伝 子 は 該
遺 伝 子 の 塩 基 配 列 に 基 づ い て 調 製 さ れ た プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR( polymerase chain reac
30
tion; White, T.J. ら 、 Trends Genet., 5, 185 (1989)) に よ っ て 得 る こ と が で き る 。 他
の微生物のPRPPシンセターゼをコードする遺伝子も同様にして得ることができる。
【0016】
変異型PRPPシンセターゼは、PRPPシンセターゼ活性が低下しない限り115位
以外の1または複数の位置において1または数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入、または
付加を含んでいてもよい。「PRPPシンセターゼ活性」という語句は、リボース−5−
リ ン 酸 及 び ATPか ら 、 AMPを 放 出 し て 5 − ホ ス ホ リ ボ シ ル − α − 1 − ピ ロ リ ン 酸 ( PRPP) を
生 成 す る 反 応 を 触 媒 す る 活 性 を 意 味 す る 。 抽 出 物 の P R P P シ ン セ タ ー ゼ 活 性 及 び ADPに
よ る 阻 害 の 程 度 は 、 K. F. Jensenら の 方 法 ( Analytical Biochemistry, 98, 254-263 (19
79)) を 部 分 的 に 改 良 し た 方 法 を 用 い て 測 定 す る こ と が で き る 。 具 体 的 に は 、 [ α −
]ATPを基質として用い、反応によって生成する[
3 2
3 2
P
40
P]AMPを測定する。
【0017】
「数個」というアミノ酸の数はタンパク質の3次元構造におけるアミノ酸残基の位置や
種類によって異なる。これは以下の理由による。すなわち、いくつかのアミノ酸は互いに
高い相同性を有しており、そのようなアミノ酸における違いはタンパク質の3次元構造に
あまり影響を与えない。したがって、本発明の変異型PRPPシンセターゼは、PRPP
シンセターゼを構成する全アミノ酸残基に対し、30∼50%以上、好ましくは50∼7
0%以上の相同性を有し、PRPPシンセターゼ活性を有するものであってもよい。
【0018】
本発明において、「115位に相当するL−アミノ酸残基」とは、配列番号2のアミノ
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(6)
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酸配列の115位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。エシェリヒア・コ
リのPRPPシンセターゼにおいては、115位のアミノ酸はアスパラギン酸である。ア
ミノ酸の位置は変化しうる。例えば、N末端に一アミノ酸挿入されると、もともと115
位に位置していたアミノ酸残基は116位となる。そのような場合、もとの115位に相
当するアミノ酸残基が本発明の115位のアミノ酸残基として定義される。
【0019】
エシェリヒア・コリのPRPPシンセターゼの115位に相当するL−アミノ酸残基を
決定するためには、エシェリヒア・コリのPRPPシンセターゼのアミノ酸配列(配列番
号2)と目的の細菌のPRPPシンセターゼのアミノ酸配列のアラインメントを行い、目
的の細菌のPRPPシンセターゼにおいて115番によって定義されるL−アミノ酸を決
10
定することが必要である。
【0020】
上記変異型PRPPシンセターゼと実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、例
えば、塩基配列を改変することによって、例えば、特定の位置の1またはそれ以上のアミ
ノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加を含むように部位特異的変異導入法を行うことに
よって得ることができる。上記のようにして改変されたDNAは、従来知られた変異処理
によって得ることができる。変異処理は、変異型prsA遺伝子を含むDNAをインビト
ロにおいて、例えば、ヒドロキシルアミンで処理する方法、変異型prsA遺伝子を保持
する微生物、例えば、エシェリヒア属細菌を紫外線照射やN−メチル−N−ニトロ−N’
−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸などの通常用いられる変異剤で処理する方法を
20
含む。
【0021】
上記のような塩基の欠失、置換、挿入または付加は、天然に生じる変異(ミュータント
またはバリアント)、例えば、個体やPRPPシンセターゼを保持する細菌の種や属の違
いによる変異を含む。
【0022】
変異型PRPPシンセターゼと実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、変異処
理された変異型PRPPシンセターゼを保持する細胞から、公知のprsA遺伝子配列を
有するDNAまたはその一部のプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし
、かつPRPPシンセターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離すること
30
によって得ることができる。
【0023】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成さ
れ、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。この条件を明確に数値化す
ることは困難であるが、例えば、ストリンジェントな条件は、相同性の高いDNA、例え
ば互いに50%以上の相同性を有するDNAがハイブリダイズし、それより相同性の低い
DNAがハイブリダイズしない条件を含む。
【0024】
タンパク質またはDNAの相同性の程度を評価するためには、BLASTサーチ、FA
STAサーチおよびCrustalWなどの計算法が使用できる。
40
【0025】
B L A S T ( Basic Local Alignment Search Tool) は 、 b l a s t p 、 b l a s t n
、blastx、megablast、tblastn、tblastxなどのプログラ
ムによって採用されている帰納的なサーチアルゴリズムである。これらのプログラムは、
Karlin, Samuel and Stephen F. Altschulの 統 計 学 的 方 法 ( 「 一 般 的 な ス コ ア 手 法 を 用 い
て 分 子 配 列 の 特 徴 の 統 計 学 的 有 意 性 を 決 定 す る 方 法 “ Methods for assessing the statis
tical significance of molecular sequence features by using general scoring schem
es” 」 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:2264-68; 「 分 子 配 列 に お け る 複 数 の ハ
イ ス コ ア セ グ メ ン ト の た め の ア プ リ ケ ー シ ョ ン 及 び 統 計 解 析 “ Applications and statist
ics for multiple high-scoring segments in molecular sequences” 」 Proc. Natl. Aca
50
(7)
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d. Sci. USA, 1993, 90:5873-7) を 用 い て 有 意 性 を 結 果 に 帰 す る 。
F A S T A サ ー チ 法 は 、 W. R. Pearsonに よ っ て 記 載 さ れ た 方 法 (「 FASTP と FASTAを 用
い た 迅 速 か つ 高 感 度 の 配 列 比 較 “ Rapid and Sensitive Sequence Comparison with FAST
P and FASTA” 」 Methods in Enzymology, 1990 183:63- 98)で あ る 。
C r u s t a l W は 、 Thompson J.D., Higgins D.G. and Gibson T.J. に よ っ て 記 載 さ
れ た 方 法 で あ る (「 配 列 重 み 付 け 、 部 位 特 異 的 ギ ャ ッ プ ペ ナ ル テ ィ 及 び 重 み マ ト リ ク ス 選
択 に よ る 進 歩 的 な 複 数 配 列 ア ラ イ ン メ ン ト の 感 度 の 向 上 “ CLUSTAL W: improving the sen
sitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting,
position-specific gap penalties and weight matrix choice” 」 Nucleic Acids Res. 1
994, 22:4673-4680)。
10
【0026】
それとは別に、ストリンジェントな条件は、サザンハイブリダイゼーションの通常の洗
いの条件、すなわち、60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SS
C、0.1%SDSに相当する塩濃度においてDNAが互いにハイブリダイズする条件が
例示される。バリアントをコードし、prsA遺伝子とハイブリダイズするDNAのため
のプローブとしては、配列番号1の塩基配列の部分配列を用いることもできる。そのよう
なプローブは、配列番号1の塩基配列に基づいて作製されたオリゴヌクレオチドをプライ
マーに、配列番号1の塩基配列を含むDNAフラグメントを鋳型に用いたPCRによって
調製される。約300bpの長さのDNAフラグメントをプローブとして用いた場合、ハ
イブリダイゼーションの洗いの条件は、例えば、50℃、2XSSC、0.1%SDSの
20
条件が挙げられる。洗いの時間はブロッティングに用いるメンブレンの種類によるが、一
般に、製造者によって推奨されている。例えば、Hybond
T M
+
N ナイロンメンブレン
(アマシャム)に推奨されている、ストリンジェントな条件での洗いの時間は15分であ
る。
【0027】
上記条件下でハイブリダイズするDNAは遺伝子のコード領域にストップコドンが生じ
たもの、活性中心への変異により活性を失ったものも含む。しかしながら、そのような不
適当なものは該遺伝子を、商品として入手可能な発現ベクターに連結し、PRPPシンセ
ターゼ活性を調べることにより容易に除かれる。
【0028】
30
<2>本発明の細菌
本発明の細菌は、L−ヒスチジン生産能を有し、本発明の変異型PRPPシンセターゼ
をコードする遺伝子を保持する腸内細菌科の細菌である。さらに、本発明の細菌は、L−
ヒスチジン生産能を有し、本発明の変異型PRPPシンセターゼの活性が上昇した腸内細
菌科の細菌である。具体的には、本発明の細菌は、L−ヒスチジン生産能を有する腸内細
菌科の細菌であって、細菌の細胞内で本発明のタンパク質の活性を高めることによって該
細菌によるL−ヒスチジン生産能が高められた細菌である。具体的には、本発明の細菌は
、L−ヒスチジン生産能を有するエシェリヒア属菌であって、細菌の細胞内で本発明のタ
ンパク質、すなわち、変異型PRPPシンセターゼの活性を高めることによって該細菌に
よるL−ヒスチジン生産能が高められた細菌である。より具体的には、本発明の細菌は、
40
染色体上又はプラスミド上に過剰発現された変異型prsA遺伝子を含むDNAを保持し
、L−ヒスチジン生産能が高められた細菌である。
【0029】
「L−ヒスチジン生産能を有する細菌」とは、本発明の細菌を培地で培養したときに培
地中にL−ヒスチジンを蓄積する能力を有する細菌を意味する。L−ヒスチジン生産能は
育種によって付与されたり、高められたりしてもよい。ここでいう「L−ヒスチジン生産
能を有する細菌」はまた、野生株又は親株に比べて多い量のL−ヒスチジンを培地中に生
成・蓄積できる細菌を意味する。好ましくは、0.5g/L以上、より好ましくは1.0
g/L以上のL−ヒスチジンを、培地中に生成・蓄積できる細菌を意味する。
【0030】
50
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腸内細菌科の細菌は、エシェリヒア属細菌、エルビニア属細菌、プロビデンシア属細菌
及びセラチア属細菌を含む。
「エシェリヒア属細菌」とは、微生物学の分野の当業者に知られた分類によってエシェ
リヒア属に分類される細菌を意味する。本発明において用いられるエシェリヒア属細菌の
例としては、エシェリヒア・コリ(E.coli)が挙げられる。
【0031】
「変異型PRPPシンセターゼの活性が上昇した」とは、細胞あたりの該活性が非改変
株、例えば、野生株よりも高くなったことを意味する。例えば、細胞あたりの変異型PR
PPシンセターゼ分子の数が増加する場合、及び変異型PRPPシンセターゼあたりの非
活性が増加する場合などが挙げられる。さらに、比較対象として用いる野生株としてはエ
10
シェリヒア・コリK−12株が挙げられる。変異型PRPPシンセターゼの細胞内活性の
上昇の結果、培地中のL−ヒスチジン蓄積量の増加が観察される。
【0032】
細菌細胞内の変異型PRPPシンセターゼの活性増強は、変異型PRPPシンセターゼ
をコードする遺伝子の発現を高めることによって達成される。変異型PRPPシンセター
ゼ遺伝子としては、腸内細菌科の細菌に由来する変異型PRPPシンセターゼをコードす
る遺伝子、コリネ型細菌などの他の細菌由来の遺伝子のいずれを使用することもできる。
これらの中では、エシェリヒア属細菌に由来する遺伝子が好ましい。
【0033】
タンパク質をコードするDNAで形質転換するとは、該DNAを例えば、通常の方法に
20
よって細菌の細胞内へ導入し、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現を増強し、
細菌の細胞内におけるタンパク質の活性を高めることを意味する。
遺伝子発現を増強する方法は、遺伝子のコピー数を増加させる方法を含む。遺伝子をエ
シェリヒア属細菌内で機能しうるベクターへ導入することにより、遺伝子のコピー数を増
加させることができる。そのような目的のためには、マルチコピーベクターが好ましく用
+
い ら れ る 。 マ ル チ コ ピ ー ベ ク タ ー と し て は 、 pBR322, pUC19, pBluescript KS , pACYC177
, pACYC184, pAYC32, pMW119, pET22bな ど が 例 示 で き る 。 さ ら に 、 遺 伝 子 発 現 の 増 加 は 、
例えば、相同組換えなどの方法により細菌の染色体に遺伝子を多コピーで導入することに
よっても達成される。
【0034】
30
一方、遺伝子発現の増強は、本発明のDNAを、本来のプロモーターの代わりに、より
強力なプロモーターの制御下に配置することによっても達成される。プロモーターの強さ
は、RNA合成を開始する活動の頻度によって定義される。プロモーターの強度を評価す
る 方 法 、 強 力 な プ ロ モ ー タ ー の 例 は 、 Deuschle, U., Kammerer, W., Gentz, R., Bujard,
H.に よ っ て 記 載 さ れ て い る ( エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ の プ ロ モ ー タ ー : イ ン ビ ボ で の 強 さ に
よ り 別 の 構 造 を 示 す 。 “ Promoters in Escherichia coli: a hierarchy of in vivo stre
ngth indicates alternate structures.” EMBO J. 1986, 5, 2987-2994) 。 例 え ば 、 P R
プロモーターが強力な構成的プロモーターとして知られている。その他の公知の強力なプ
ロモーターは、ラムダファージ等のPLプロモーター、lacプロモーター、trpプロ
モーター、trcプロモーターなどである。
40
【0035】
翻訳を高めることは、本発明のDNAに、本来のシャイン−ダルガノ配列(SD配列)
の代わりに、より効率的なSD配列を導入することによって達成される。なお、SD配列
は、mRNAの開始コドンの上流の、リボソーム16SRNAと相互作用する領域である
( S h i n e J . a n d D a l g a r n o L . , P r o c . N a t l . A c a d . S c i . U S A , 1 9 7 4 , 7 1 , 4 , 1 3 4 2 - 6)
。
強力なプロモーターの使用は、遺伝子の多コピー化と組合わせてもよい。
【0036】
染色体DNAの調製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドDNAの調製、D
NAの消化及びライゲーション、形質転換、プライマーオリゴヌクレオチドの選択などの
50
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方 法 は 、 当 業 者 に 良 く 知 ら れ て い る 通 常 の 方 法 で よ い 。 こ れ ら の 方 法 は 、 Sambrook, J.,
and Russell D.の 「 モ レ キ ュ ラ ー ク ロ ー ニ ン グ 実 験 室 マ ニ ュ ア ル 第 3版 」 "Molecular Clo
ning A Laboratory Manual, Third Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press (2
001)な ど に 記 載 さ れ て い る 。
【0037】
本発明の細菌は、上記DNAをL−ヒスチジン生産能を本来的に有する細菌に導入する
ことによって得ることができる。あるいは、本発明の細菌は、上記DNAを保持する細菌
に、L−ヒスチジン生産能を付与することによって得ることができる。
【0038】
本発明のタンパク質の活性を高めるために用いる野生株としては、L−ヒスチジン生産
10
能を有するエシェリヒア属細菌、エシェリヒア属に属するL−ヒスチジン生産株、例えば
、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ 2 4 株 ( VKPM B-5945, ロ シ ア 特 許 2003677) 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ
8 0 株 ( VKPM B-7270, ロ シ ア 特 許 2119536) 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ N R R L B − 1 2 1
1 6 ∼ B 1 2 1 2 1 株 ( 米 国 特 許 4388405) 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ H − 9 3 4 2 ( FERM BP
-6675) 及 び H − 9 3 4 3 株 ( FERM BP-6676) ( 米 国 特 許 6344347) 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ
H − 9 3 4 1 株 ( FERM BP-6674) ( 欧 州 特 許 出 願 1085087A2) 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ A I
8 0 / p F M 2 0 1 株 ( 米 国 特 許 6258554) な ど が 挙 げ ら れ る 。
【0039】
L−ヒスチジン生産菌は、さらにL−ヒスチジン生合成酵素の発現が高められるように
改 変 さ れ る こ と が 好 ま し い 。 L − ヒ ス チ ジ ン 生 合 成 に 効 果 的 な 酵 素 は 、 hisG遺 伝 子 、 hisB
20
HAFIオ ペ ロ ン 、 好 ま し く は ヒ ス チ ジ ン に よ る フ ィ ー ド バ ッ ク 阻 害 が 脱 感 作 さ れ た ATPホ ス
ホ リ ボ シ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ を コ ー ド す る hisG遺 伝 子 を 含 む ( ロ シ ア 特 許 2003677及 び 2
119536) 。
【0040】
<3>本発明の方法
本発明の方法は、本発明の細菌を培地で培養し、該培地中にL−ヒスチジンを生産蓄積
させる工程、及び該培地からL−ヒスチジンを採取する工程を含む。
【0041】
本 発 明 の 方 法 に お い て 、 培 養 お よ び 培 養 液 か ら の L-ヒ ス チ ジ ン の 採 取 、 精 製 等 は 、 微 生
物を用いてアミノ酸を生産する従来の発酵法と同様にして行えばよい。培養に使用する培
30
地としては、炭素源、窒素源、無機物を含有し、必要があれば使用菌株が生育に要求する
栄養源を適当量含有するものであれば、合成培地でも天然培地でもよい。炭素源としては
、グルコースやシュークロースをはじめとする各種炭水化物、各種有機酸があげられる。
また使用する微生物の資化性によってはエタノールやグリセロール等のアルコールを用い
ることも出来る。窒素源としては、アンモニアや、硫酸アンモニウム等の各種のアンモニ
ウム塩類や、アミン類その他の窒素化合物や、ペプトン、大豆加水分解物、発酵菌体分解
物等の天然窒素源を用いることが出来る。無機物としては、燐酸一カリウム、硫酸マグネ
シウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化カルシウム等が用いられる。
必要に応じて付加的な栄養素を培地に添加することもできる。例えば、細菌がプロリンを
生育に必要とする場合(プロリン要求性)、十分量のプロリンを培地に培養用として添加
40
することができる。
【0042】
培養は、振盪培養、通気撹拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましく、培養温度は
通常には20∼42℃で、好ましくは37∼40℃の範囲で行う。培地のpHは通常には
5∼9の範囲であり、6.5∼7.2の範囲が好ましい。培地のpHは、アンモニア、炭
酸カルシウム、各種酸、各種塩基、緩衝液などによって調整することができる。通常、1
∼5日の培養によって、液体培地中に目的とするアミノ酸が蓄積する。
【0043】
培養終了後、培養液から菌体などの固形物を遠心分離や膜分離法で除去し、イオン交換
法、濃縮法、晶析法等によって目的とするアミノ酸を採取、精製することが出来る。
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【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。実施例中において、アミノ酸は特
に こ と わ ら な い 限 り L体 で あ る 。
【0045】
[ 実 施 例 1 ] エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ か ら の 野 生 型 p r s A遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ 及 び 変 異 型 p
rsDA及 び prsDS遺 伝 子 の 構 築
エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ K-12株 の 全 塩 基 配 列 は 既 に 決 定 さ れ て い る ( Science, 277, 1453-1
474, 1997) 。 報 告 さ れ た 塩 基 配 列 に 基 づ い て 、 配 列 番 号 3 ( プ ラ イ マ ー 1) 及 び 配 列 番 号
4 ( プ ラ イ マ ー 2 ) で 表 さ れ る プ ラ イ マ ー を 、 prsA遺 伝 子 の 増 幅 の た め に 合 成 し た 。 プ ラ
10
イ マ ー 1 に は BglII認 識 サ イ ト が 5 ’ 側 に 導 入 さ れ て お り 、 プ ラ イ マ ー 2 に は XbaI認 識 サ
イトが5’側に導入されている。
【0046】
エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ K-12株 の 染 色 体 DNAを PCRの 鋳 型 用 に 、 通 常 の 方 法 に て 調 製 し た 。 Ap
plied Biosystems GeneAmp PCR System 2400PCRを 用 い て 以 下 の 条 件 に よ り PCRを 行 っ た 。
最 初 に 95℃ 、 3分 の DNA熱 変 性 、 次 に 、 95℃ 、 30秒 の 熱 変 性 ; 60℃ 、 60秒 の ア ニ ー リ ン グ ;
72℃ 、 120秒 の 伸 長 を 30サ イ ク ル 、 最 後 に 72℃ 、 7分 の ポ リ マ ー 化 。 反 応 に は 、 Taqポ リ メ
ラ ー ゼ ( Fermentas, Lithuania) を 用 い た 。 得 ら れ た 、 プ ロ モ ー タ ー を 含 ま な い prsA遺 伝
子 を 含 む PCRフ ラ グ メ ン ト を BglIIと XbaIで 処 理 し 、 同 じ 制 限 酵 素 で 前 も っ て 処 理 さ れ た 染
色 体 導 入 用 ベ ク タ ー pMW119-PR の PR プ ロ モ ー タ ー の 制 御 下 に 挿 入 し た 。 ベ ク タ ー pMW119-PR
20
は 、 購 入 可 能 な ベ ク タ ー pMW119に 、 λ フ ァ ー ジ PR プ ロ モ ー タ ー 、 及 び さ ら な る Mu統 合 に 必
要 な attR及 び attLサ イ ト を 挿 入 す る こ と に よ っ て 構 築 し た 。 こ の よ う に し て 、 pMW119-PR prsAを 得 た 。
【0047】
変 異 型 prsDA遺 伝 子 ( 変 異 型 prsDA遺 伝 子 に よ っ て コ ー ド さ れ る PRPPシ ン セ タ ー ゼ に お い
て 128位 の ア ス パ ラ ギ ン 酸 を ア ラ ニ ン に 置 換 し た も の ) を 、 プ ラ イ マ ー 1 ( 配 列 番 号 3 )
及 び 2 ( 配 列 番 号 4 ) 、 及 び 鋳 型 に プ ラ ス ミ ド pUCprsDAを 用 い て 上 記 の よ う な PCRを 行 う
こ と に よ り 得 た 。 プ ラ ス ミ ド pUCprsDAは 、 欧 州 特 許 出 願 EP1004663A1に 詳 細 が 記 載 さ れ て
い る 。 得 ら れ た PCR産 物 を BglIIと XbaIで 処 理 し 、 同 じ 制 限 酵 素 で 前 も っ て 処 理 さ れ た 統 合
用 ベ ク タ ー pMW119-PR の PR プ ロ モ ー タ ー の 制 御 下 に 挿 入 し た 。 こ の よ う に し て pMW119-PR -p
30
rsDAを 得 た 。
【0048】
変 異 型 prsDS遺 伝 子 ( 変 異 型 prsDS遺 伝 子 に よ っ て コ ー ド さ れ る PRPPシ ン セ タ ー ゼ に お い
て 125位 の ア ス パ ラ ギ ン 酸 を セ リ ン に 置 換 し た も の ) を 2 つ の 連 続 し た PCRに よ り 構 築 し た
。 第 1段 階 で は 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ K12株 の 染 色 体 DNAを 鋳 型 と し て 、 第 1の フ ラ グ メ ン ト
用にプライマー1(配列番号3)及び3(配列番号5)を、第2のフラグメント用にプラ
イマー2(配列番号4)及び4(配列番号6)を用いて、2つのフラグメントを増幅した
。 次 に 、 得 ら れ た PCR産 物 を 電 気 泳 動 で 分 離 し 、 ゲ ル か ら 溶 出 し た 。 第 2 の PCRで は 、 2 つ
の DNAフ ラ グ メ ン ト を ア ニ ー ル さ せ 、 変 異 型 prsDS遺 伝 子 を 完 成 さ せ た 。 得 ら れ た 、 プ ロ モ
ー タ ー を 含 ま な い prsDS遺 伝 子 を 含 む PCRフ ラ グ メ ン ト を BglIIと XbaIで 処 理 し 、 同 じ 制 限
40
酵 素 で 前 も っ て 処 理 さ れ た 統 合 用 ベ ク タ ー pMW119-PR の PR プ ロ モ ー タ ー の 制 御 下 に 挿 入 し
た 。 こ の よ う に し て pMW119-PR -prsDSを 得 た 。
【0049】
[ 実 施 例 2 ] purH遺 伝 子 高 発 現 の ヒ ス チ ジ ン 生 産 に 対 す る 影 響
染 色 体 に 組 み 込 ま れ た prsA、 prsDA、 又 は prsDS遺 伝 子 の 付 加 的 な コ ピ ー を 含 む 3 種 類 の
L−ヒスチジン生産株を構築した。L−ヒスチジン生産株であるエシェリヒア・コリ80
株 を prsA、 prsDA、 又 は prsDS遺 伝 子 を 細 菌 染 色 体 上 に 組 み 込 む た め の 親 株 と し て 用 い た 。
8 0 株 は ロ シ ア 特 許 2119536号 に 記 載 さ れ て お り 、 ロ シ ア ン ・ ナ シ ョ ナ ル ・ コ レ ク シ ョ ン
・ オ ブ ・ イ ン ダ ス ト リ ア ル ・ マ イ ク ロ オ ー ガ ニ ズ ム ( Russian National Collection of I
ndustrial Microorganisms (ロ シ ア 、 113545モ ス ク ワ 、 1
s t
ドロズニー プロエズド、1
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) に ア ク セ ス 番 号 VKPM B-7270の も と に 寄 託 さ れ て い る 。
【0050】
8 0 株 の 染 色 体 へ の 遺 伝 子 の 組 み 込 み は 2段 階 で 行 っ た 。 第 1段 階 で は 、 ヒ ス チ ジ ン 生 産
株 で あ る 8 0 株 を 、 レ プ リ コ ン rep(p15A)、 及 び ト ラ ン ス ポ ザ ー ゼ 遺 伝 子 ( フ ァ ー ジ Mu-ct
R
sの cts62、 ner、 A、 B遺 伝 子 ) を 含 み 、 Tet マ ー カ ー を 保 持 す る ヘ ル パ ー プ ラ ス ミ ド で 形
質 転 換 し た 。 得 ら れ た 株 を 、 第 2段 階 で は 、 pMW119-PR -prsA、 pMW119-PR -prsDA、 又 は pMW1
19-PR -prsDSで 形 質 転 換 し た 。 遺 伝 子 の 染 色 体 へ の 組 み 込 み の た め に 、 熱 シ ョ ッ ク を 与 え
た 細 胞 を 1 m l の L-培 地 に 移 し 、 44℃ で 20分 、 37℃ で 40分 イ ン キ ュ ベ ー ト し 、 次 い で 、 1
0 μ g/mlの テ ト ラ サ イ ク リ ン と 1 0 0 μ g/mlの ア ン ピ シ リ ン を 含 む L-寒 天 培 地 に 広 げ た 。
30℃ で 48時 間 以 内 に 生 育 し て き た コ ロ ニ ー を 1 m l の L-培 地 で イ ノ キ ュ レ ー ト し 、 試 験 管
10
内 に て 42℃ で 72時 間 イ ン キ ュ ベ ー ト し た 。 各 試 験 官 に つ き 、 約 10個 の コ ロ ニ ー を 、 ア ン ピ
シリン及びテトラサイクリン耐性について調べた。両方の抗生物質に感受性のコロニーに
つ い て 、 染 色 体 上 に prs遺 伝 子 の 付 加 的 な コ ピ ー が 存 在 す る か を 、 プ ラ イ マ ー 1 ( 配 列 番
号 3 ) 及 び プ ラ イ マ ー 5 ( 配 列 番 号 7 ) を 用 い た PCRに よ っ て 調 べ た 。 プ ラ イ マ ー 5 は Mu
フ ァ ー ジ の attRサ イ ト に 相 補 的 な 配 列 を 含 む 。 そ の 目 的 の た め に 、 新 し く 単 離 し た コ ロ ニ
ー を 5 0 μ l の 水 に 懸 濁 し 、 そ の う ち の 1 μ l を PCRに 用 い た 。 PCRの 条 件 は 以 下 の と お り
で あ る 。 最 初 に 95℃ 、 5 分 の DNA熱 変 性 、 次 に 、 95℃ 、 30秒 の 熱 変 性 ; 57℃ 、 60秒 の ア ニ
ー リ ン グ ; 72℃ 、 120秒 の 伸 長 を 30サ イ ク ル 、 最 後 に 72℃ 、 7分 の ポ リ マ ー 化 。 調 べ た う ち
の い く つ か の 抗 生 物 質 感 受 性 コ ロ ニ ー が 必 要 な 1515bpの フ ラ グ メ ン ト を 含 ん で い た 。 こ の
よ う に し て 、 80:: PR -prsA、 80:: PR -prsDA、 80:: PR -prsDS株 を 得 た 。
20
【0051】
ミ ニ ジ ャ ー の バ ッ チ 発 酵 の た め に 、 L-寒 天 培 地 で 生 育 さ せ た 各 株 の ひ と か き 分 を L-培 地
に 移 し 、 30℃ で 回 転 ( 140rpm) さ せ な が ら 培 地 の 吸 光 度 が OD5
4 0
約 2.0に な る ま で 培 養 し た
。 次 い で 、 種 培 養 の 25mlを 250mlの 発 酵 用 培 地 に 添 加 し 、 29℃ で 回 転 ( 1500rpm) さ せ な が
ら培養した。バッチ発酵はおよそ35∼40時間続けた。培養後、培地中に蓄積したヒス
チジンの量をペーパークロマトグラフィーによって決定した。ペーパーは移動相:n−ブ
タ ノ ー ル : 酢 酸 : 水 = 4 : 1 : 1 ( v/v) で 展 開 さ せ た 。 ニ ン ヒ ド リ ン ( 0.5%) の ア セ ト
ン溶液を可視化するための試薬として用いた。
【0052】
発 酵 培 地 の 組 成 は 以 下 の と お り ( p H6 . 0 ) ( g / l ) :
30
グルコース 100.0
豆 濃 全 窒 素 量 ( total nitrogen) と し て 0 . 2
( NH4 ) 2 SO4 8 . 0
KH2 PO4 1 . 0
MgSO4 ・ 7 H2 O
0.4
FeSO4 ・ 7 H2 O
0.02
MnSO4 0 . 0 2
チアミン 0.001
ベタイン 2.0
L-プ ロ リ ン 0 . 8
L-グ ル タ ミ ン 酸 3 . 0
L-ア ス パ ラ ギ ン 酸 1 . 0
アデノシン 0.1
【0053】
結 果 を 表 1に 示 す 。
【0054】
40
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【表1】
【0055】
表 1に 示 さ れ る よ う に 、 プ リ ン ヌ ク レ オ チ ド に よ る フ ィ ー ド バ ッ ク に 耐 性 の PRPPシ ン セ
タ ー ゼ を コ ー ド す る 変 異 型 prsA遺 伝 子 を 用 い る こ と に よ り 、 エ シ ェ リ ヒ ア ・ コ リ 8 0 株 の
ヒスチジン生産が向上した。
【配列表】
2005160474000001.app
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(72)発明者 ユーリー イヴァノヴィッチ コズロフ
ロシア連邦、117574 モスクワ市、ゴルビンスカヤ通り7番地、2号棟、178号室
Fターム(参考) 4B024 AA03 AA05 BA10 BA71 CA01 DA06 GA11 HA20
4B050 CC04 DD02 EE10 LL05
4B064 AE26 CA02 CA19 CC24 CE00 DA01 DA10
4B065 AA26X AA26Y AB01 AC14 BA02 CA17 CA29 CA41 CA44
(14)
【外国語明細書】
2005160474000001.pdf
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