Comments
Description
Transcript
学び合い,学力を育むTT・少人数指導の研究
個人(グループ)研究の部 研究主題 算数科 「学び合い,学力を育むTT・少人数指導の研究」 ~新学習指導要領に対応した算数的活動「学び合い」を取り入れた授業の工夫~ 佐賀市立若楠小学校 1 教諭 倉﨑恵美子 主題設定の理由 新学習指導要領では,「生きる力」の育成という理念を具現化するため,「算数的活動」を一層充実させ ることを明示した。算数科の「確かな学力」は,この「算数的活動」を通して身に付くとされている。 今回の改訂における「算数的活動」とは,「児童が目的意識を持って主体的に取り組む算数にかかわり のある様々な活動を意味している」とされている。「確かな学力」に結び付くための基礎的・基本的な知 識・技能の習得や,思考力・判断力・表現力の育成を学校全体でどのように取り組むか,また,先行実施 期間において児童の学力の実態をどのように捉え,「確かな学力」を確立させるための有効な授業方法の 改善とは何かを探ることは,平成23年度の完全実施へ向けて大きな足掛かりとなるだろう。 本校理数教育部では,平成18年度より「よむ力」「とく力」「伝える力」を鍛え,算数科の学習力を高め たいと考え,問題をつかみ・見通す段階と自力解決後の「学び合い」に研究の視点を置いて研究に取り組 んだ。このような学び合いを「ひびきタイム」と呼び,子ども同士が教え合ったり,学び合ったりする活 動の場で,目的意識を共有した上で共に学習内容の習得に向かうことで,個々の学ぶ意欲を高め,学習集 団としての熟成を目指すものである。平成20・21年度は,学習課題について自力解決したことを1対1や グループ及び全体の話し合いの中で伝え合いながら,よりよい解決の仕方を考える「友だちと学び会う活 動」に重点を置いて取り組んでいる。 本校では,1~6年の全クラスでTT・少人数指導を行っている。年間の授業時間数から考えてもTT ・少人数指導が「確かな学力」を身に付ける大きな役割を果たしていると考えても過言ではない。これま では,TT・少人数指導の利点であるとされる,個に応じた多様な学習指導に重点を置いてきた。しかし, そのためのT1やT2の役割分担や少人数指導のスタイルを工夫しただけでは,児童の「学び合い」を生 かした学習にはつながらないのではないかと考えた。平成21年4月に実施した学習状況調査では,調査A, 調査Bともに全国平均を上回っていた。しかし,得点分布を見るとばらつきがあり,低得点と高得点に偏 る傾向があった。平成21年2月に実施したCRT(到達度学習調査)でも同じ傾向が見られた。低得点の 児童の学力向上が課題である。 昨今,都道府県ごとの学習状況調査結果を見ても,TT・少人数学習の生かし方が,「確かな学力」に 反映しているのではないか,という仮説も出てきている。これまでの,TT・少人数指導という個に応じ た多様な教育の展開を生かしながら,「学び合い」を主軸とした学習指導を取り入れることによって,主 体的に問題解決に取り組む児童を育てることができるのではないかと考えた。 そこで,本校の「ひびきタイム」を友だちと学び合う活動と位置付け, ① 前年度のCRTや学習状況調査等の分析結果から,本年度の指導重点項目を打ち出す。 ② 「学び合い」の手立てを工夫する。 ③ TT・少人数指導を生かしながら「ひびきタイム」を工夫し,主体的に学ぼうとする学習形態及び学 習指導方法の工夫をする。特に算数司会を立てた授業について実践する。 これら3つの視点を設け,研究実践に取り組むことによって,TT・少人数指導の在り方を再認識し, 「確かな学力」に結び付く指導方法を獲得することができるのではないかと考える。児童の主体的に学ぼ うとする意欲を喚起し,自分の考えを他者に伝え合う「学び合い」の学習が,TT・少人数指導の中で生 かされることにより,児童の「確かな学力」が身に付くと考え,この主題を設定した。 -1 - 2 研究の目標 TT・少人数指導を通して,児童が主体的に課題解決に取り組む活動を工夫し,自分の考えをお互いに 伝え合うことのできる児童集団の育成を目指す。 3 研究の仮説 次のような手立てをとれば,「確かな学力」の身に付いた児童を育成することができるだろう。 ○ 実態に沿ったTT・少人数指導の年間計画の作成。 ○ TT・少人数指導を通した学び合い「ひびきタイム」の指導方法改善。 ○ TT・少人数指導における児童の主体的な取り組みの手立ての工夫。 4 研究の内容と方法 (1) 研究の内容 ア 前年度CRT分析結果から見える算数指導における課題や手立てを考察する。 イ TT・少人数指導における「ひびきタイム」の在り方を探る。 ウ 学び合いによる主体的な児童の取り組みについて,手立てを取り入れ検証授業を行う。 エ 研究の成果をまとめる。 (2) 5 (1) 研究の方法 ア 学習指導要領の改訂のポイントを整理し,単元計画を作成し授業実践をする。 イ TT・少人数指導を通した「ひびきタイム」における学び合いの手立てを研究する。 ウ TT・少人数指導を通した,児童の主体的な学習について授業実践をする。(算数司会を立てる) エ 児童の変容を基に,研究の成果と課題を明らかにする。 研 究 の 実 際 - 1 (理論研究) 研究の構想 基礎的・基本的な知識・技能 主 体 的な学 び 思考力・ 表現力 情意 (関心・意欲・ 態度など) 学び合い 図1 思考力・ 表現力 スパイラルによる教育課程の編成 TT・少人数指導 (個に応じたきめ細かな指導) 確かな学力 研究の構想図 本研究を構造化すると図1のようになる。私は,学力を支える思考力・表現力増進は,情意面,すな -2 - わち「友だちと楽しく学習したい」,「分かるようになりたい」などの学習意欲や,友だち同士や教師との 望ましい関係に支えられていると考えた。図のように,TT・少人数指導を通した主体的な学び合いの工 夫を研究・実践で証明することで,児童の思考力・表現力が高まり,確かな学力が育まれるのではないか と考えた。 (2) 「ひびきタイム」における学び合い 確かな学力は,基礎的基本的な知識・技能を身に付け,数学的な思考力・表現力を育て,学ぶ意欲を高 めることにより確立する。本校でも,数学的な思考力・表現力を育てるために,学習過程に「ひびきタイ ム」を設け,学び合いを重視した活動を取り入れている。(図1参照) 本校の校内研究では児童の学び合いの場を「ひびきタイム」と位置付け,1単位時間の学習過程の中に 取り入れている。子ども同士が教え合ったり,学び合ったりする活動の場で,目的意識を共有した上で共 に学習内容の習得に向かうことで,個々の学ぶ意欲を高め,学習集団としての熟成を目指すものである。 「ひびきタイム」は,1対1あるいはグループや全体の話し合いの中で,お互いが考えを出し合いなが ら主体的に問題解決をするための学習の場であると考える。 (3) TT・少人数指導を通した学び合い <説明する時> ・順序よく話す力 ・筋道を立てて話す力 ・比べて話す力 ・類推して話す力 ・演繹的に話す力 ・帰納的に話す力 ・根拠を話す力 ・解釈する力 過程 つ か む 見通す ● 学び合いに必要な力 学 習 活 動 ◎TT指導の役割・留意点 ・学習問題の把握 ・結果・方法の見通し ・めあて設定 探る ・自力解決 自分の考え (式・答え・図・説明) 学び合う <非言語> ・相手を見る ・うなずく ・指し示す ・届ける声の大きさ ・最後まで聞く態度 確かめる まとめる 図2 ・児童の自主的活動を促す ・スローラーナーへの支援 ・学習時分からない児童への きめ細かな手立てと支援 ・思考を深める助言 ・ノート指導 ・臨機応変な指導体制 ・学習全体のコーディネート ひびきタイム 学び合い(対話活動) ・自分の考えを発表 ・交流 <話し合う時(聞く力)> ・論点を落とさず聞く力 ・自分の考えと比べる力 ・論点の批判的思考 ・論点の共感的思考 ・まとめる力 ・進める力 TT指導の手立て ・ポイント ・練習問題 ・算数日記(自己評価) ◆ひびきタイムでの役割 ・T1 発表者への助言 算数司会への助言 グループへの助言 全体指導 進行助言 等 ・T2 フロアへの助言 聞き手への助言 ノート指導 個別指導 グループへの助言 等 学習過程におけるTT・少人数指導の位置付け 「ひびきタイム」は児童の考えを伝え合う場である。図2のように学び合いに必要な力を分析し,その 力を付けさせるためのTT指導の手立てを考えた。TTでは,個別指導にかかわる時間が一人の指導より 多く確保できる。そこで,自分の考えを伝え合う際に,どのように説明するのか,また,相手の説明の論 点はどこか,交流を続けながら問題解決に向かうにはどのような助言をするのかなどの手立てを個別に対 -3 - 応しながら具体的に立てる必要がある。学び合いの対話活動では,対話力(受けて答える力)が必要であ る。相手の話を聞きその内容に沿って相手に伝える力は,コミュケーション能力とも言われている。長崎 栄三氏・滝井章氏も,このような能力を「考え合う力」と呼び,「①算数で説明する力,②算数で解釈す 力,③算数で話し合う力」(1) の3つからなるとしている。 る (4) 算数司会を立てた主体的な授業とTT指導 算数司会を立てた授業は,児童の主体的な活動を促進し,進んで問題解決に取り組む児童を育てると考 える。小学校指導要領解説,算数編では,算数的活動を取り入れることによって,「算数の授業を児童の 活動を中心とした主体的なものとする。」(2)としている。このように,算数司会を立てる授業は児童が目 的意識を持って取り組む算数的活動であり,児童の思考力・表現力を高めることができるのではないか。 本研究では,TT・少人数指導に算数司会形式の授業を取り入れた。TTの役割を明確化し,個に対応 したきめ細かな指導をすることにより,より一層の学習定着が望めるだろう。長崎栄三氏・滝井章氏は, 算数・数学教育における話し合いについて「……数学的な考え方の育成には,子どもが自由に考えること が前提とされ,さらに,個々の子どもたちの多様な考え方を互いに評価し合うことで数学的な考え方がさ らにしっかりと身に付くと考えられ……」(3)としている。このことからも,学び合いの場でTTの役割を 明確化し,児童の話し合いを活性化できるような助言に重点を置いた。 留意事項 ◎ 多 様な 考 えを 出 し合 う 算 数司 会 に適 し た単 元 を選ぶこと。 ◎ 算 数司 会 の単 元 計画 を 立てること。 算数司会マニュアルに ついて ○ マ ニ ュ アル は , 事 前 に 全 児童 に 配 っ て おく。 ○ 3 人 組 で司 会 団 を 作 り , 輪 番制 で , 全 て の 児 童 が司 会 の 経 験 をする。 ○ 司 会 団 は事 前 に 学 習 問 題 と めあ て を 考 え て お き ,黒 板 に 書 い ておく。 図3 事前学習 算数司会マニュアル つかむ TT指導の手立て T 事 前 学 習 T1「先生の 話」でめ の助言 あての確 算数司会 認・学習 の確認 への意欲 を喚起。 T2フロアへ の支援 図4 見通す さぐる T1司会者への助言 全体への助言 T2フロアへの助言 ノート指導 考えのヒント 個別指導 学び合う 確かめる T1発表者への話し T1ポイント 方の助言 を書く 司会団への助言 練 習問 題 聞き方の助言 への支援 考え方の助言 T2個別指導 T2フロアへの助言 聞き方の助言 個別指導 算数司会を立てた授業におけるTT指導の手立て -4 - まとめる T1算数日記 への助言 T2フロアへ の支援ノ ート指導 (5) TT・少人数の重点項目と年間計画 平成20年度CRT調査及び学習状況調査の結果よ り指導の重点単元を取り出した。(図5)重点単元は 基本的にTTで授業を行う。本校では得点分布にば らつきがあり,特にスローラーナーへの学力向上が 課題である。平成21年度は学習指導要領の移行措置 期間であるので新しく追加された単元毎に従来の内 容に追加された単元も指導の重点単元とした。 年間指導計画作成上の留意点 ・1学期に2~4単元をTT重点指導単元と する。 ・多様な考えが出され,話し合いの中で課題 解決に向かうことが可能な学習内容に, 「学 習司会」を立てた授業を計画する。 ・習熟度学習等の少人数指導も児童の実態に 合わせて計画する。 図5 6 TT・少人数指導年間計画 研究の実際-1(実践研究) (1) TT・少人数指導を通した学び合い「ひびきタイム」の指導方法改善 ア 単元名 小数のわり算を考えよう(5年) イ 指導計画(本時1/8時) 1小数のわり算 6 1本時 2小数の倍とわり 2 算 ウ ・小数でわることの意味,整数÷小数(10分の1の位まで) TT 2 ・小数÷小数(10分の1の位まで) TT 1 ・小数の大きさ(商が被除数より大きくなる) TT 1 ・あまりの位取り TT 1 ・小数の除法の概数処理 TT 1 ・小数の時も倍は除数で求められること 少人数 1 ・倍を表す数が小数の時の基準量であること 少人数 本時の目標 ○小数でわることの意味と,整数÷小数( 10分の1の位まで)の計算の仕方を理解する。 エ ひびきタイムにおけるTT指導のポイント 学習課題 リボンを2.5m買ったら,代金は200円でした。このリボン1mの値段はいくらですか。 ひびきタイム TT指導の ポイント 自分の考えを説明する 交流する ・順序よく説明しているか ・なぜそうなるのか根拠を説明しているか ・式や図の提示の仕方は適切か -5 - ・どこが分かりやすかったか明確に言えたか ・自分の考えを伝えたか ・自分の考えと比べ,違いを伝えたか オ 指導の実際 <めあて> 図や絵を使って小数のわり算を考えよう ひびきタイム T1・T2の支援・助言 児童の活動の様子 T1…説明者・全体への助言・支援 波線 T2…聞き手(フロア)への助言・指導 二重線 Aの発表 ①200÷2.5を筆算ですると,はじめに2.5を10倍 するので,200も10倍して,2000÷25をします。 T1:では,Aさんの考えを聞いて下さい。 聞きながら,自分の考えと似た所や違 すると80になります。 う所がないか,気を付けて聞いて下さ つまり い。よく分からない所があったら,質 200÷2.5と2000÷25の答えは同じで80です。 問をして下さい。 式 Aさんは,フロアの人たちの方を向い 200÷2.5=80 80円 (板書で説明) て,式や図を指さしながら発表して下 交流の様子 さい。 B:なぜ,2.5を10倍したのに,200も10倍するの ですか。 A:それはわり算だから,わり算の時はわる数が10 倍になったらわられる数も10倍しないといけ ないからです。 C:10倍の所がよく分かりません。 A:式で説明します。 例えば 6 ÷ 2 = 3 ですね。 この式にそれぞれ10倍しても 60÷ 20 = 3 です。 だから,わる数を10倍したらわられる数も10 倍しなくてはいけません。 D:Aさんの考えは,例えばを使って分かりやすく 言ってくれたので,よく分かりました。 A:ありがとうございます。 E:Aさんは,簡単な数字で説明したので分かりや すかったです。 F:最初よく分からなかったけど,今の説明でよく 分かりました。 T2:Bと同じ考えの人,手を挙げて下さい。 同じ考えの人がいますね。Aさんの考 えを聞かせて下さい。 T1:いい質問ですね。Aさん,図や式で説 明ができますか。 T1:Aさんの説明の分かりやすい点はどこ だと思いますか。 T2:「例えば」という言葉を使って感想を 言ってくれたのがよかったね。 他にも感想や意見はありませんか。 T2:Aさんの具体的な説明で「なるほど」 と思った人,挙手して下さい。 他に意見はありませんか。 Gの発表 ②200÷2.5をひっ算でしました はじめ,2.5を10倍して25にしました。 すると,答えは8になりました。 10倍したから÷10で戻して0.8になりました。 でも,答えが0.8になるのはどうしてもおかし いので,ここまでで,途中ですが分からなくな りました。 だからHさんに説明をバトンタッチします。 (板書で説明) T2:Gさんは,一生懸命今まで習ったこと を生かしながら考えてくれました。し かし途中で自分の考えにおかしい所が あると気付きました。 その時,Hさんは自分の意見がGさん と似ている,と気付きました。Hさん は後から,自分の意見を修正し,答え を出すことができたので,前半をGさ んに,後半をHさんに説明してもらい たいと思います。 -6 - Hの発表 ③200÷2.5=0.8 は 200÷2 =100なので,近い数字にならないと いけないから,おかしい。 80 2.5 ×10=25 2000 T1:Hさんは,Gさんの考え方で解いてい ました。その後,考え方を変えて答え を出しました。どんな所に気を付けて, 修正をしたのか,板書や説明をよく聞 いて下さい。 ×10 200 0 そこで,200を10倍して2000にしてみまし た。そしたら,答えは80になりました。 だから,わる数を10倍にしたらわられる数も10 倍にしなくてはいけないということが分かりまし た。 200 ÷ 2.5 = 80 ↓×10 ↓×10 2000 ÷ 25 = 80 だと思います。 交流の様子 I:私も,はじめGさんのように筆算をしていまし た。だからよく分かりました。 J:わり算の時は,わる数が10倍になるとわられる 数も10倍になることが分かりました。 わる数だから,わり算の時はわる数が10倍にな ったらわられる数も10倍しないといけないから です。 H:はじめ,なぜ,0.8になるのか分からなかったけ ど,200を10倍したら2000でわられる数も10倍な んだなあと思いました。 J:わる数とわられる数を同じ数だけかけると,答 えは同じになります。 H:はい,私もそう思います。 G:なぜ,どちらも10倍にしなければならないか分か りました。 写真1 児童Hのノート T2:Gさんのような,筆算の仕方で問題を 解いた人手を挙げて下さい。(挙手) T2:「よく分かりました」を詳しく言える 人がいますか。(フロアーの)Jさん, ノートに書いていることを説明して下 さい。 T2:Jさんの説明でなぜなのかがよく分か りますね。 T1:そうですねHさん。ということは,ど んなことが言えるのかな。 T1:これでどんなポイントにするか,がわ かりましたね。 T2:黒板に書いてくれた友だちの考えをノ ートに書き写しましょう。 T1:今日のポイントを考えよう。 今日のポイント 小数のわり算では,わる数を整数にすると,わられる数も同じ数だけ倍にして計 算する。 カ 考察 200÷2.5は,今までのかけ算の仕方のように10倍して10でわって戻 す考え方ではなく,わる数,わられる数にどちらも同じ数をかけるこ と求められることを,学び合いの中で習得することができた。 T1,T2それぞれが,数学的な思考力をのばすための助言を即時 的に行うことによって,その場で表現活動が改善された。特に,根拠 を示すこと,具体例を使うことによって,分かりやすい説明になった 写真2 のではないか,と考える。 -7 - 自分の考えを説明する 7 研究の実際-2(実践研究) (1) TT・少人数指導における児童の主体的な取り組み ◎ 算数司会を立てた授業を通して ア 単元名 イ 本時の目標 ウ 三角形のなかまを調べよう(4年) ○ いろいろな三角形の中から,辺の長さに注目して三角形を弁別することができる。 ○ 二等辺三角形と正三角形の定義を理解し,これらを弁別することができる。 本時の学習(1/8) < 算数司会を立てた学習形態> 児童の活動 T1・T2の助言・支援 (◎は,司会団の活動) つ T1 司会団・説明者への助言・支援 T2 フロアの児童への助言・支援 ◎司会団による学習のめあてを設定する。 か む / <めあて> どのようになかま分けをしたか,はっ きりわかるように説明しよう ◎なかま分けした三角形をグループの代表者が さ 発表するように司会進行する。 ぐ ◎発表に際しての,注意点を話す。 る ◎ノートになかま分けの観点を書かせる。 / 司会団の役割の確認 フロアの児童のノート 確認 今日のめあては○○ ですね。今日は自分 の考えを理由を付け てしっかりと伝える 学習です。 ノート確認をしながら 個別指導 ひびきタイム 代表者の確認 3班 学 び 合 う A:ぼくたちは,三角形を2種類に分けま した。1つは全部の辺が同じ長さにな っていてもう1つは辺がばらばらにな っている三角形です。【黒板提示】 <交流> B:みんなばらばらの三角形なら,普通の 三角形だと思います。 A:ばらばらだから名前はありません。 C:ぼくは,ばらばらの中にはいろんな三 角形があると思います。辺でも分けら れると思います。 (略) 三角形のなかまは1種類 個別指導をしながら, 自分の考えを持つ児童 に意見するように促す ずつ持ってきます。どの ように分けたかをはっき りと言います。 3班は辺の長さに注目 したんですね。 ◎発表者の交流が終わったら簡単な感想を述べ 司会者へ進行の確認 て次のグループを紹介する。 C君,ばらばらの 三角形には分けら れるものもある, という考えだね。 辺でも分けられる とはいい考えです ね。 4班 D: 私たちの班は,辺の長さで分けました。 1つは全部同じ長さ,2つ目は2つ同じ 辺の長さで分けました。3つ目は全部 違う長さです。【電子黒板】 <交流> E:Gさんは習っていない言葉を使わず, 分かりやすく話していたのでよく分 かりました。 F:辺の長さで分けたのは,ぼくたちと 同じ考えです。習っていない言葉を 使わないで,分かりやすかったです。 Dさんの班は,辺の長 さで分けましたね。 色の違いは,辺の長 さの違いなんですね。 写真3 -8 - 個別指導 不思議な三角形は, 他のどの三角形のな かまでしょうか。 G:私たちの班は正三角形と直角三角形 と二等辺三角形と不思議な三角形に 分けました。【黒板提示】 <交流> H:二等辺三角形とは何ですか。 G:分かりません。 I:不思議な三角形とは何ですか。 G:色がばらばら,つまりストローの長さ がばらばらな三角形のことです。 J:ストローの長さが同じと言うという ことは辺の長さも同じと言うことで すね。 (略) フロアの児童のノート 確認 辺の長さで分けた班 が多いね。みんなど うですか。 写真4 司会団と発表者 次に進むように助言す る 6班 た し ◎これまでの学び合いから,分かったことをポ か イントを考える。 ポイントはなるべく児童の言葉か ら考えさせる め ポイント 2つの辺の長さが同じ三角形を二等辺三角形,3つの辺の長さが同じ三角形を正三角形という る / ま と め 写真5 算数日記 算数日記(例) ・まだ習ってい ない三角形の形 が,いろいろな 話し合いをしな がら分かりまし た。 算数日記の内容に触 れ,よいところをほめ る 司会団のよかった点を 評価する フロアの児童のノート 確認 フロアの児童の聞き方 ・発表の仕方を評価す る る ◎学び合いのよかった点を伝える。 ◎算数日記を書くように伝える。 ◎司会者は算数日記(振り返り)を読む。 図6 エ 算数司会をしたいか 児童の変容 学習司会をしたいですか 学習前に,算数司会についての意識 調査を行った。未経験ということもあ り,算数司会 については,「どちらで はい 学習前 22% 22% 56% どちらでもない 0% 学習後 もない」が,一番多かったと考えられ 89% 0% 20% 40% 11% 60% 80% いいえ 100% る。学習後,同じ調査を行ったが,「学 図7 習したい」が22%から89%へ,大幅な意 算数の学習が好きか 識の向上が見られた。「算数の学習が楽 算数の学習が好きですか しいか」についても,「いいえ」が0% になり,「はい」が11%高くなった。 はい 学習前 74% 学習後 - 90% - 22% 85% 20% 40% 4% 15% 0% 60% 80% 100% どちらでもない いいえ これらの結果から,算数司会によるTT指導が児童の学習への意欲を高めていることが分かる。 オ 考察 算数司会を立てた授業形式に,TTの役割を明確化させ,考えを 深める助言や支援を与えることによって,児童が自覚を持って主体 的に学習に臨むことができた。算数司会を立てた学習は,アンケー トの結果からも分かるように,学習前と学習後では,関心・意欲と いう点において格段の意識の違いを見せている。 今回の検証授業では,学習の習得にやや困難な児童が算数司会者 をつとめた。算数司会の経験をすることによって,自ら授業を進め 写真6 る喜びを味わうことができた。さらにT1が発表児童の助言や司会 算数司会の形態 (フロア側) 者の支援に付くことで,よりきめ細かな支援が可能となった。 7 研究の成果と課題 (1) 実態に応じたTT年間指導計画作成について 児童の実態に応じたTT年間計画を作成し,重点単元として,移行措置期間で追加された単元も加え, 学年毎にTTの授業数を割り振った。その結果,学習習得率の低い単元に集中してTTに入ることがで きた。学年を通してばらつきのない計画のため,個別指導も,スムーズにできるようになった。 課題としては,今年に実施した年間計画をもとに,さらに学習効果の高い無理のない計画を来年度に 向けて完成させていくことにあると考える。 (2) TT・少人数指導を通した「ひびきタイム」における学び合いについて 学び合いに必要な力を分析し,その力を付けさせるためのTT指導の手立てを講じることによって, 説明する時に必要な言葉を使い,考えながら伝えることができるようになった。TTの役割を分担化し たり,時には共同で即時に指導したりすることによって,よりきめ細かな指導が可能となった。 課題としては,思考力の両輪とも言うべき表現力をもう少し付けさせたいと考える。考えや意見を伝 えるための図や式や具体物を適切に使いながら,説明することのできる児童を目指したい。 (3) 算数司会を立てた主体的な授業とTT指導について 算数司会を立てた授業を実践することにより,児童が学び合いの場を,主体的に自主的に感じ取るこ とができるようになった。目的意識を持ったTTの役割分担と,考えを深め,交流を促す適切な助言や 支援を行うことで,児童に自信が付き,安心して学習 に取り組むことができた。低位の学力の児童が,算数司会を立てた授業に大変意欲的に取り組む姿が 見られるのは,こうした所以であると考える。 児童自身が学習の方法を学ぶという視点に立って「学び合い」の場をどう仕組むか,「学び合い」に よって児童の思考がより深まり,ねらいへと迫ることができているか,このようなことを課題にして今 後は授業に臨みたい。 《引用文献》 (1)(3)長崎 栄三・滝井 章編著 『算数の力 数学的な考え方を乗り越えて』 2007年 東洋館出版 2008年 東洋館出版 2004年 明治図書 p152,p190 (2) 文部科学省 『小学校学習指導要領解説 算数編』 《参考文献》 ・ 片桐 重男著 『数学的な考え方とその指導』 - 10 -