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平成14年12月 北海道農政部

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平成14年12月 北海道農政部
く
に
ーようこそ緑の田園・北海道へー
平成14年12月
北海道農政部
目
次
旨
1
Ⅰ
趣
Ⅱ
農業・農村の現状と都市における新たな動き
3
Ⅲ
グリーン・ツーリズムの意義と役割
4
Ⅳ
グリーン・ツーリズムの取組みの現状と推進上の課題
7
Ⅴ
グリーン・ツーリズム推進の基本的方向と取組みの内容
12
Ⅵ
グリーン・ツーリズム推進に向けた関係者の役割
17
Ⅰ
趣
旨
北海道の農業は、これまで大規模な専業的経営を主体に本道の基幹産業とし
て発展し、北海道の発展に貢献してきましたが、輸入農畜産物の増大や農業就
業者の高齢化の進行など、農業・
農村を取り巻く環境の変化により
大きな変革期を迎えるとともに、
農村においては、過疎化による地
域社会の縮小や農村固有の文化の
衰退などにより、これまで集落が
持ち続けてきた様々な機能の維持
が困難になってきています。
一方、週休2日制の定着による
自然と調和した美しい農村景観
余暇時間の増大や、経済の高度成
長から安定成長への移行により、国民の価値観は「ものの豊かさ」から「心の
豊かさ」へと変化するとともに、食の安全や環境への関心の高まり、さらには、
ライフスタイルの多様化などを背景としてグリーン・ツーリズムが注目を集め
てきており、農村を訪れる人々は年々増加する傾向にあります。グリーン・ツ
ーリズムは、都市住民などが農村の有する自然や文化、人々の暮らしなどとふ
れあう自然志向型の余暇活動とされていますが、受け入れる農村においては、
農業・農村を活性化するための地域戦略の一つの方策として位置づけ、交流を
通じて農業や農村に対する理解の促進や農業を核とした新たなビジネスおこし
につなげるなど、地域全体の活力を高める運動へと発展させていくことが重要
です。
しかしながら、北海道におけるグリーン・ツーリズムは、その受入れの取組
みを始めてまだ日が浅いこともあって、グリーン・ツーリズムに対する理解が
十分に得られていない現状にあ
ります。
このため、グリーン・ツーリ
ズムの意義や取組みに当たって
の基本的な方向などを明らかに
するとともに、農業者や地域住
民の主体的な活動を基本としな
がら、関係団体、市町村、道な
どがそれぞれの役割を認識し、
農村で楽しむ乗馬体験
- 1 -
地域が一体となって、北海道の自然が育んだ農業・農村の特性を十分生かした
グリーン・ツーリズムに持続的に取り組んでいくことを目的に本指針を策定し
ました。
グリーン・ツーリズムとは
緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しみながら、
ゆとりある休暇を過ごす滞在型の余暇活動のことで、農業生産活動や農畜産物を
なかだちとした人的な交流を主体としたものを指します。
具体的な取組みとしては、農家民宿、農家レストラン、農産加工・直売所、観
光農園、市民農園などの取組みがあげられます。
ヨーロッパでは長期休暇制度を利用して農村へ出かけ、自然や地域の人々との
交流などを通じてリフレッシュするバカンスの過ごし方がライフスタイルとして
定着しており、「農村空間における観光」を意味する用語としてグリーン・ツー
リズムが使われています。
我が国では、平成4年に、農林水産省が都市と農村の交流が農政上の施策とし
て重要であるとして「農村で楽しむゆとりある休暇」を提唱し、これをグリーン・
ツーリズムと呼んだことを契機として全国的な広がりを見せてきています。
フランスの農家民宿
フランスにおける民宿形式の農村滞在は、南フランス出身の国会議員の提唱に
より1951年から開始されています。その後、1955年に農業省と観光担当省の支援
により、農村地域の不動産資産の改修に対する援助や農村地域の人々と都市住民
との交流促進を目的として、ジットウ・ドゥ・フランス全国連盟(ジットウとは
宿の意味)が結成されました。
連盟は、非営利の全国的なネットワーク組織として、加盟者に対する支援サポ
ート体制を築いており、農業が困難であり過疎化が進んでいる中山間地域において、
「憲章」に基づき、個性的な対応や快適性などに関して質の高い宿泊施設とする
ことを加盟者に義務づけています。
現在、連盟の加盟民宿については55,000、総売上は10億フラン以上となってい
ます。
参考文献:「グリーン・ツーリズムの潮流」(多方一成、田淵幸親、成沢広幸著)
「フランスにおけるグリーン・ツーリズムの振興と農村における民宿制度」
(財団法人 都市農山漁村交流活性化機構)
- 2 -
Ⅱ 農業・農村の現状と都市における新たな動き
本道の農村では、国際化の進展による農畜産物価格の低迷や農業就業者の高
齢化、過疎化の進行などにより、これまで維持してきた生活や生産に関わる集
落機能の低下や耕作放棄地の増加が懸念されています。
しかしながら、このように厳しい状況においても、農業者自らによる農産物
の産地直送や直売をはじめ、身近な農業・農村との交流拠点である「ふれあい
ファーム」への登録などの取組みが活発に行われるとともに、最近の農産物等
の産地偽装や無登録農薬の使用、BSEの発生などを契機とした「食」の安全
に対する意識の高まりから、生産過程に関わる情報を消費者に積極的に提供す
るなど、消費者・生産者相互の顔の見える関係づくりにより、消費者に信頼や
安心感を与える取組みが盛んになってきています。
また、女性グループなどを中心に、
自ら生産した農畜産物を加工し付加価
値を付けて地域の特産品として販売し
たり、農家民宿を核として地域全体で
修学旅行生を受け入れて農業体験の学
習の場とするなど、先駆的な実践者に
よる農村の活性化に向けた取組みが進
められています。
農家民宿(ファームイン)
一方、都市においては 、「心の豊か
さ」や「ゆとり」を大切にするライフスタイルの定着化、自然・ふるさと志向
や環境保全に対する意識の高まりを背景として、豊かな自然、美しい景観、お
いしい水、きれいな空気など、都市では得ることのできないものを求め、農村
を訪れる人や定年後に農村で暮らす人が増加してきており、農村は、都市の住
民にとって、様々なストレスから自らを解放する「いやしの空間」となってい
ます。また、農村を訪れ、直売所で新鮮な農畜産物を購入したり、地元の食材
を使った郷土料理を味わうことなどを
楽しむ都市の人々も増加しています。
学校教育の面では、平成14年度から
実施された「総合的な学習の時間」に
おいて、自然体験やものづくり、生産
活動などの体験的な学習を積極的に取
り入れることとされたことから、今後、
野外での体験の場として農業や農村の
役割が高まることが期待されます。
- 3 -
農村女性グループの活動
Ⅲ
グリーン・ツーリズムの意義と役割
グリーン・ツーリズムは、都市と農村が補完しあう共生関係にあることを実
感させてくれる大切な取組みですが、受け入れる農村側が、このことを単なる
副業としてとらえてしまっては、地域全体の発展につなげることが難しくなっ
てしまいます。グリーン・ツーリズムは、農業・農村を活性化する一つの方策
であり、その取組みによって、食料生産はもとより自然や景観の保全など農業
・農村の果たす役割についての理解を促進するとともに、地域農産物の販売拠
点づくりや関連する産業との連携を図りながら、農村地域全体の振興につなげ
ていくことが必要です。
また、グリーン・ツーリズムは、農村地域における女性や高齢者の活動の場
の提供のみならず、新鮮な農畜産物の対面販売による「食」に対する信頼感の
醸成、さらには消費者ニーズの把握に基づく販路の拡大や農業を核とした新た
なビジネスおこしなどへと発展していくことが期待されます。
平成14年5月に、道が農産物直売所や農家民宿、レストランなどに取り組
む農業者の方々を対象として行った「アグリビジネスに関するアンケート調査」
によりますと、取り組んで良かったと思うことととして 、「消費者との交流の
機会ができた」が66.4%と最も多く、次いで「やりがいができた」33.5%など
となっており、アグリビジネスの取組みによる消費者との交流に手応えを感じ
ていることがうかがえます。今後、こうしたアグリビジネスを含むグリーン・
ツーリズムの取組みが、地域や農業に対する誇りや自信、生きがいをもたらす
など、地域の活性化に大きく貢献していくことが期待されます。
図1 アグリビジネスに取り組んで良かったと思うこと(複数回答)
消費者との交流の機会ができた
やりがいができた
自分で加工・販売まで通してできた
所得が増加した
消費者の農業への理解が深まった
地域の活性化につながった
農業に誇りを持てるようになった
ビジネスに対する関心が高まった
年間を通して仕事を確保できた
後継者ができた
特になし
その他
無回答
単位:%
66.4
33.5
29.0
25.9
24.1
19.9
17.8
14.7
7.3
5.2
2.4
4.5
4.2
0
20
40
60
80
資料:北海道農政部「アグリビジネスに関するアンケート調査」(平成14年5月実施)
注)アグリビジネス:農業者や農業法人が行う加工(漬物、味噌、アイスクリームなど)・販
売(産直、直売所による販売)・サービス(農家民宿、農家レストランなど)の取組み
- 4 -
一方、都市住民にとって農村は、豊かな自然や美しい景観を有する「やすら
ぎ」や「うるおい」を提供する空間であり、日常のストレスや疲れをいやす場
のみならず、繰り返し訪れ、地域の文化や人々との交流を深めることで、農村
が「心のふるさと」となり、定住者や新規就農者となるケースも出てきていま
す。また、国土の保全や水源のかん養など農村が有する多面的な機能の保全活
動に自ら関わることで、精神的な充足感を得られることもグリーン・ツーリズ
ムの意義の一つとしてあげられます。
平成12年10月に農林水産省が行った「農林水産情報交流ネットワーク事
業全国アンケート」によりますと、農村を訪れて行いたいこととして、「地域
特産品や新鮮な野菜の購入」76.4% 、「郷土食や地域の食材を用いた料理を味
わうこと」65.0%、「ぶどう、いちご狩りなどの観光農園、観光牧場の利用」6
4.6%、「野外観察や自然散策」56.1%、「そば打ち、ジャム作りなどの農産物
加工体験」48.0%などとなっており、そこでしか入手できない新鮮な農産物や
地元食材を使った料理など、
「食」に対するニーズが高いことがうかがえます。
図2 農村に訪れて行いたいこと(消費者、複数回答)
単位:%
地域特産品や新鮮な野菜の購入
76.4
郷土食や地域の食材を用いた料理を味わうこと
65.0
ぶどう、いちご狩りなどの観光農園、観光牧場の利用
64.6
野外観察や自然散策
56.1
そば打ち、ジャム作りなどの農産物加工体験
48.0
観光、スポーツなどのレジャー
36.9
祭りやイベントなどへの参加
36.0
田植え、稲刈りなどの農林漁業体験
23.2
援農(農作業の手伝い)や景観保全等のためのボランティア活動
14.9
特にない
2.0
その他
1.9
0
20
40
60
80
100
資料:農林水産省「平成12年度農林水産情報交流ネットワーク事業全国アンケート」(平成12年10月実施)
農村は、子供たちへの情操や
食と農に関する教育の場として
も重要な役割を担っています。
農林水産省が平成13年11月
に実施した「都市住民に対する
アンケート調査」によりますと、
教育面における農業体験や農村
での生活の意義についての設問
動物とのふれあい(搾乳体験)
- 5 -
で 、「生き物に触れる機会が得
られる」72.3%、「広大な自然に接することができる」68.0%、「食物の生産過
程を知ることができる」66.0%などが主な回答となっており、子供たちの農業
体験は、情操を育むことはもとより、農業に対する理解や職業観の形成といっ
た観点からも大切な意味を持っていると考えられます。
図3 都市住民が考える子ども達の教育面における農業体験や農村生活の意義(複数回答)
単位:%
72.3
生き物を観察・採集するなど生き物に触れる機会が得られる
広大な自然に接することができる
68.0
食物の生産過程を知ることができる
66.0
学校や家庭では得られない貴重な体験ができる
65.2
広い場所でのびのびと遊ぶことができる
45.5
採れたての食べ物を食べることにより食べ物や農業への興味がわく
44.7
0
20
40
60
80
資料:農林水産省「都市と農村の共生・対流等に関する都市住民及び農業者意向調査」(平成13年11月実施)
緑 豊 か な ヨ ー ロ ッ パ
山間の集落
遠くの山々を背景に、白壁が
緑の中に際立つ(スイス)
農家民宿の客層は家族づれ
草 地で遊 ぶ子供 たちを 眺め
ながら、親たちは何もせずに
リラックス(ドイツ)
- 6 -
Ⅳ
□
グリーン・ツーリズムの取組みの現状と推進上の課題
取組みの現状
本道におけるグリーン・ツーリズムは、黄色に色づいた小麦と真っ白な
ジャガイモの花が波状に広がるヨーロッパ的風景や格子状に配置された防
風林とパッチワークのような畑、広大な牧草地でのんびり草をはむ牛の姿
や一面に水をたたえたどこまでも続く水田など、雄大な自然と特色ある地
域農業が織りなす美しい農村景観や、冷涼な気候のもとで豊かな大地が育
んだクリーンで新鮮な農畜産物などの地域資源を活用した取組みが進めら
れています。道が平成10年度から実施している「グリーン・ツーリズム関
連地域資源調査」によりますと、直売所や農業体験施設などの受入施設等
は、平成14年1月現在の総数で1,390件となっており、平成10年度との比較
で約1.4倍に増加しています。
地域的に見ると、石狩、後志、
空知、上川、十勝、網走支庁
管内において特に取組みが活
発化しており、都市近郊にお
いては直売や観光農園が、ま
た、そのほかの地域では農業
や農畜産物加工などの体験が
雄大な牧場景観
主な取組みとなっています。
また、北海道らしさを満喫することができる乗馬体験も日高支庁管内な
どで活発に行われています。
表1
グリーン・ツーリズムに関する受入施設等の件数
農 家
農 家
農 業
観 光
加 工
民 宿
レストラン
体 験
農 園
体 験
39
57
249
231
143
直 売
乗 馬
市 民
農 村
体 験
農 園
公 園
49
53
119
801
その他
251
資料:北海道農政部「グリーン・ツーリズム関連地域資源調査」(平成14年1月実施)
注:延べ件数のため合計とは一致しない。
図4 グリーン・ツーリズムに関する受入施設等の推移
平成11年(1999年)
単位:件
974
平成12年(2000年)
1062
平成13年(2001年)
1219
平成14年(2002年)
1390
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
資料:北海道農政部「グリーン・ツーリズム関連地域資源調査」
- 7 -
1600
合
計
1,390
また、平成13年4月には、NPO法人として「北海道ツーリズム協会」
が設立されるとともに、同年7月には、当協会が母体となって北海道の農業
と自然を教材に、ツーリズムと地域づくりの担い手の育成を目的として、
「北
海道ツーリズム大学」が鹿追町に開校されるなど、地域での活動の核となる
人材育成に向けた取組みが活発に進められています。
北海道ツーリズム大学
都市と農村の互恵的交流を図るツーリズム・地域づくりの担い手の育成、地域
資源を活かした起業家の育成、都市と農村のネットワークづくりなどを目的とし
て開設されました。学科は、地域資源の発掘、活かし方のノウハウや人的交流を
通じて地域間の交流にまで発展させる
ことを目指す「地域づくり・ツーリズ
ム学科」、農作業や食品加工体験を通
じて農業・農村に興味と理解を深める
ための「農と食学科」、農家民宿やレ
ストランなどの取組みを学び、起業家
を育成し、地域活性化を目指す「アグ
リビジネス学科」の3つがあり、今後
のグリーン・ツーリズムの推進に果た
ワークショップ
す役割が期待されています。
九州ツーリズム大学
九州ツーリズム大学は、平成9年度に我が国で初めてのツーリズムの学校とし
て開設され、現在までに約150名が卒業生・修了生として旅立ち、九州のみな
らず全国各地で活躍しています。開講期間は毎年9月から翌年3月までの7ヶ月
間で、学科は景観、地域経営などを学ぶ「地域づくり学科」、農家民宿、農家レ
ストランなどを学ぶ「ツーリズム学科」に加え、本年からは農業実習、林業実習、
畜産・酪農実習などを行う「習農学科」が増設されました。メイン・キャンパスは、
郷土が生んだ世界的な細菌学者である「北里柴三郎博士」が提唱した「学習と交流」
を設立理念とする財団法人「学びやの里・木魂館」(熊本県小国町)です。
(九州ツーリズム大学のホームページを要約)
- 8 -
□推進上の課題
本道におけるグリーン・ツーリズムの取組みの多くは、農村への移住者や
地域の先導的な実践者により始められたこともあって、地域全体としてまと
まりを持った取組みとなっているものは少なく、グリーン・ツーリズムの意
義や役割についての理解も十分とはいえない現状にあります。
また、取組みを進めてまだ間もないこともあって、地域が有する資源の発
見や活用が不十分であったり、都市住民のニーズの把握や情報発信力の不足、
さらには生活環境基盤の整備の立ち後れなども見受けられます。
このようなことから、グリーン・ツーリズムを、今後、持続性のある取組
みとして定着・発展させていくためには 、「一部の人たちが取り組む特別な
もの」、「本来の農業とは関係のないもの」、「時間的な余裕がないため、取り
組むのは難しい」といった意識を取り除くとともに、農業・農村に対する理
解の促進や農村地域の活性化などの視点に立って、グリーン・ツーリズムの
意義や役割についての理解を深めていくことが必要です。このため、グリー
ン・ツーリズムに取り組むメリットなどを明らかにしながら、農業者や地域
住民への普及啓発活動を進めるとともに、地域の自主的な話し合いを主導す
る指導的な人材の育成や地域資源の掘り起こしを手助けする助言者の有効活
用などが課題となっています。
また、繰り返し農村を訪れてもらう
ためには、地域の貴重な資源である自
然環境や長年にわたって地域の人々が
育んだ農村景観を保全していくことが
必要となります。しかし、訪れる人々
が求める景観が、そこで営農を続ける
農業者にとっては、非効率な生産の要
因となっているものも少なくありませ
ん。このように、景観の維持が農業生
産に影響を及ぼす場合にあっては、経
済的な不利益を補完する新たな仕組み
づくりなどについて検討を進めていく
ことが必要です。
さらに、都市住民等のニーズを踏ま
え、マリン・ツーリズムやエコ・ツー
輪作作物や花々がつくる美しい丘陵景観
リズムとの連携による多様な体験・交流メニューの提供や情報受発信機能の
- 9 -
強化、受入施設の質的向上、環
境に配慮した生活環境の整備な
どが課題となっているほか、施
設開設に当たっての各種規制や
手続きの周知、地域が求める規
制緩和に係る環境づくりなどを
進めていくことが必要となって
います。
地元食材を使った加工体験(そば打ち)
グリーン・ツーリズムの政策上の位置付け
○北海道農業・農村振興条例(平成9年4月制定)
◇第17条(活力のある農村の構築)
道は、活力のある農村の構築に資するため、農業者の自発的な活動及び
都市と農村との交流の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。
○第二期北海道農業・農村振興推進計画(平成13∼17年度)
◇活力ある農村の構築
──グリーン・ツーリズムの推進による都市との交流の促進
・ 地域における実践計画の策定と活動支援、子供を対象とした自然・農業体験の
定着化に向けた情報の提供等、グリーン・ツーリズムの取組を促進します。
・ 農業体験施設、交流促進施設、ふれあいファームやファームイン、観光農園等
の整備を支援し、自然とのふれあい、農作業や乗馬など農村ならではの体験がで
きるグリーン・ツーリズムなどによる都市と農村の交流を促進します。
○第3次北海道長期総合計画(平成10∼19年度)
◇活力ある農村づくり
──グリーン・ツーリズムの推進など都市と農村の交流の促進
◇多様で魅力ある農業経営の展開
──農産加工やファームインの取組みなど経営の多角化の促進
- 10 -
イギリスの田園景観保全政策
○田園地域の守り役事業(Countryside Stewardship)
田園地域の土地利用者と農家などを対象に、田園地域の自然環境や景観の保全、
都市住民へのやすらぎ機会の提供などを目的として、環境省や農林水産食料省に
よって開始された事業で、実施は環境省の外郭団体で、イングランドの田園地域
における自然景観とアメニティの増進を目的に設立された田園委員会が担当して
います。
石灰石などを地盤とした草地、低位部の荒れ地、水辺の景観、海岸線、歴史的
な景観、古い牧場などの土地所有者が、田園委員会が適切と認める方法で10年
間管理することを申し出ることで、毎年助成金を受け取ることができる制度です。
学校と連携して生徒を受け入れる長期の契約を行った場合には、付加的な助成
金が交付されます。
○生け垣保全奨励事業(Hedgerow Incentive Scheme)
イギリス独特の田園地域の景観となっているヘッジロウと呼ばれる生け垣を保
存することを目的として田園委員会が開始した事業で土地所有者との契約により、
生け垣の保存と改良に対し助成金が交付されます。対象となる生け垣は、歴史的
景観の維持や野生動物保護に寄与するもの、遊歩道や水路などに沿ってアメニティ
を提供するものなどとなっています。
○景観保全助成金(Landscape Conservation Grants)
田園地域の景観の魅力を高める事業に対して交付される助成金で、田園委員会
が実施しています。助成金の交付を受けるためには、地方公共団体(通常は県)が、
地域の景観の改良計画を策定し、これに対し田園委員会が助成金を支出します。
個々の農業者や土地所有者は、計画に基づいたアメニティ向上のための植樹や
農地を区切る石積みなどの景観改良事業に応募することで助成金を受け取ること
ができます。
参考文献:「英国の田園地域」(財団法人 自治体国際化協会)
- 11 -
Ⅴ
□
グリーン・ツーリズム推進の基本的方向と取組み内容
推進に当たっての基本的方向
都市にとって農村は、ともすれば消費地と生産地という関係でとらえがち
であり、農村で何が行われ、何が起こっているのかということには、あまり
関心を持たれていないというのが実情です。しかしながら、農業や農村は、
食料の生産のみならず、国土の保全や美しい農村景観の形成、水源のかん養
など、生活に欠くことができない多様な機能を有しており、農業が健全に営
まれることは、とりもなおさず、豊かな心を育む自然や美しい景観がしっか
りと保全されていることにほかなりません。
都市では既に失われつつある「人と人」、「人と自然」という関係を再生で
きる場としての農業・農村の役割をもっと多くの人々に知ってもらうこと
は、都市と農村の双方にとって大変重要なことです。
本道における農業・農村は、多様な自然環境のもとでそれぞれの地域に適
応しながら発展し、営農を通じて地域文化の創造や生活の維持に貢献してき
ましたが、これからも農村の持つ地域のつながりや自然・景観などをしっか
りと守りながら、多くの人たちに開かれた、多様性を受け入れる空間として
あり続けることが大切です。このような基本認識に立って、都市と農村との
つながりをより身近で緊密なものとしていくため、次の内容を北海道におけ
るグリーン・ツーリズム推進の基本的方向とします。
ふるさとを大切にしようとする熱意を持つ多くの人々の参加を求め
ながら、 地域の自主的な取組みを推進します。
本道の農村地域が有する雄大で美しい自然や特色ある景観の保全を
図りながら、地域が長年にわたって育んだ文化やそこに暮らす人々と
の交流を基本に、普段着のままの心温まる取組みを進めます。
農業・農村に対する理解の促進や農産物に対する信頼感の醸成など
を通じて、地域の農業生産の持続性を支えるとともに、都市と農村の
共生をめざします。
- 12 -
□
取組み内容
道が平成14年7月に市町村を対象に実施したアンケートによりますと、
農業者や地域住民のグリーン・ツーリズムに対する意識は、「全体的に好意
的」と「一部の人たちは好意的」を合わせ58.9%と、おおむね好意的に受
け止められており、また、グリーン・ツーリズムを推進するために重点を
置くべき施策としては、「取組みの核となる人材や組織の育成」が67.6%と
一番多く、次いで「農業者や地域住民への啓発活動」35.7%、「都市住民の
体験活動受入れ」31.4%、「地域の観光業、食品加工業、商業など他産業と
の連携」28.6%などとなっています。
このようなアンケート調査の結果や支庁で開催したグリーン・ツーリズ
ム実践者等との意見交換会での提案などを参考にするとともに、地域の自
主的な取組みを助長していくことを主眼に次の取組みを進めます。
なお、取組みに当たっては、本指針に沿って「北海道グリーン・ツーリ
ズム推進計画」を策定し、施策の総合的・計画的な推進を図ります。
図5 グリーン・ツーリズムを推進するために重点を置くべき施策
単位:%
67.6
取組みの核となる人材や組織の育成
35.7
農業者や地域住民への啓発活動
31.4
都市住民の体験活動受入れ
28.6
地域の観光業、食品加工業、商業など他産業との連携
20.5
実践のための情報提供や技術指導
都市側への情報発信
17.8
農村景観や環境の保全・形成
17.8
交流の拠点となる施設の整備
14.6
直売、農家民宿など実践者への助成
14.1
農村生活環境の基盤整備
12.4
女性や高齢者の実践活動への支援
11.9
都市側と農村側の自治体や関係団体との連携
11.9
開業に当たっての法的規制の緩和
11.4
0
20
40
60
80
資料:北海道農政部「グリーン・ツーリズムに関する市町村アンケート」(平成14年7月実施)
● グリーン・ツーリズム推進の担い手と環境づくり ●
・普及啓発活動の推進
農業者はもとより、地域住民などのグリーン・ツーリズムに対する意義
や役割などについての認識を深めるため、シンポジュウムや研修会の開催、
先進地域の視察等の普及啓発活動を推進します。
- 13 -
・地域におけるコンセンサスづくり
農業者や地域住民、観光・商工業者など様々な人々が自主的に話し合う
ことができる場づくりや外部の専門家を交えた検討会の開催などを通じ
て、グリーン・ツーリズムの推進に係る意識の醸成を図るとともに、推進
組織の立上げなどを進めます。
・地域活動の核となる人材の育成等
グリーン・ツーリズムを推進していくため、NPOと連携しながら地域
活動の核となる指導的人材の育成や地域おこしなどについての指導・助言
を行うアドバイザーの活用を図るとともに、地域の名人や達人、ボランテ
ィアガイド等の発掘を進めます。
● グリーン・ツーリズム推進に当たっての配慮 ●
・農業・農村のもつ多面的機能の増進
生活の豊かさや良好な自然環境に対する要求の高まりのなかで、農業・
農村のもつ「生態系の保全」や「やすらぎの提供」など、農業生産以外の
多面的機能に対する評価が定着化しつつあることから、今後の農業農村整
備に当たっては、市町村の理解を得ながら、自然環境の保全や特色ある農
村の景観形成に資するよう努めます。
・農村地域が有する自然や景観の保全
農村地域が有する豊かな自然や美しい農村景観を保全していくために
は、現行法令だけでは不十分な地域も見受けられることから、国の検討状
況を踏まえながら、耕地防風林の整備や自然の再生など地域合意に基づく
新たな土地利用や景観を保全するための仕組みづくりについて研究を進め
ます。
・子供や高齢者等への配慮
小中学校における完全学校週
5日制や「総合的な学習の時間」
の実施により、今後、農業体験
などの活動に対するニーズの増
加が予想されることから、教育
委員会などとの連携による子供
たちを対象とした交流事業の取
子供たちの農業体験
- 14 -
組みを促進するとともに、高齢者にも安心して楽しむことができる交流・
体験メニューづくりなどを進めます。また、地域の安全点検やバリアフリ
ー化に向けた取組みの推進に努めます。
● 北海道らしいグリーン・ツーリズムの魅力づくり ●
・魅力ある多様な交流・体験メニューづくり
農業者や地域住民が主体となって集落など身近な資源の点検や外部専門
家等の参加による地域資源の発見、地域の特色を生かした農業・農畜産物
加工体験や国内最大の馬産地である北海道ならではの馬との多様なふれあ
い体験などユニークなメニューの開発、さらにはアウトドア関連施設との
連携などにより、都市住民のニーズを踏まえた魅力ある多様な交流・体験
メニューの提供を進めます。
・「やすらぎ」や「うるおい」の提供
訪れる人々が、「やすらぎ」や「うるおい」を感じ、ゆったりとした時
間を過ごしてもらうためには、誰もが普段どおりの気さくで温かい心をも
って接することが大切です。このため、実践の主体である農業者はもとよ
り、地域住民も含め「もてなし」についての意識の統一を図るとともに、
わかりやすい案内板の設置などを進めます。
・地元農畜産物を使った「ほんものの味」の提供
スピードを追い求めるあまり忘れかけている「ほんものの味」や「ほ
んとうの豊かさ」を実感してもらうため、安全で安心できるクリーンな地
場農畜産物を使った素朴でおいしい味の提供を進めます。
・受入施設の質的な向上や環境に配慮した生活環境の整備
繰り返し農村を訪れてもらうためには、充実した時間を過ごしたという
満足感を持って帰っていただくことが大切です。このため、道の「ふれあ
いファーム」への登録を促進するとともに、農家民宿については財団法人
都市農山漁村交流活性化機構の「農林漁業体験民宿登録制度」の活用を進
めます。
また、地域住民や訪れる人々の双方が必要とする生活環境の整備を環境
との調和に配慮しながら進めます。
- 15 -
● グリーン・ツーリズム推進のためのネットワークづくり ●
・都市と農村を結ぶ情報ネットワークづくり
都市と農村の交流を促進するためには、その基盤となる情報の共有化や
受発信機能の強化を進めていくことが大切です。このため、インターネッ
トを活用した双方向の情報ネットワークの構築を図るとともに、消費者団
体や観光団体などとの連携による都市側ニーズの把握やこれらに対応した
情報発信を進めます。
・地域組織の連携に向けた取組み
地域が抱える共通課題の把握や推進に必要な施設等についての意見交
換を行うなど、支庁や圏域を単位とした地域推進組織の広域的なネットワ
ーク化や全道レベルでの協議会の設置について検討を進めます。
・関連部門や他産業との連携
北海道の農村には、農山村や農山漁村といった形態のものも少なくな
いことから、それぞれの地域の特色を生かしながら、漁家に宿泊し、地引
き網などを体験するマリン・ツーリズムや、森林浴や自然観察、自然体験
などを行うエコ・ツーリズムなどと連携を図るなど、多様な取組みを進め
ます。また、地域の観光業者や商工業者など異業種との交流を通じて、具
体的な連携のあり方などについて検討を進めます。
・施設開設をスムーズに行うための情報提供等
施設の開設に当たって必要となる法律の許認可等の手続きについては、
関係機関が連携して、必要な情報の提供に努めるとともに、地域が求める
規制緩和に係る環境づくりなどを進めます。
- 16 -
Ⅵ
1
グリーン・ツーリズム推進に向けた関係者の役割
道の役割
市町村や関係部局等との連携を図りながら、グリーン・ツーリズム関連施
設や生活環境の整備など、都市と農村の交流を促進するための基盤づくりを
進めるとともに、市町村の計画づくりや推進組織の立上げに対する支援、施
設開設に当たっての手続き、各種助成制度などに関する助言のほか、都市と
農村の双方への普及啓発を進めます。
さらに、道のホームページなどを活用し、全道各地におけるグリーン・ツ
ーリズム取組事例の紹介など情報発信に積極的に取り組むとともに、NPO
との連携を図りながら地域の核となる人材の育成を進めます。また、これま
で設置が認められていなかった市街化調整区域内におけるグリーン・ツーリ
ズム関連施設について、「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進
に関する法律」の市町村計画に適合するなど一定の要件を満たしたものにあ
っては、許可案件の対象とするとともに 、「構造改革特区」の活用など規制
緩和への取組みを進め、農業を核とした新たなビジネスおこしなど地域の自
主的な取組みの支援に努めます。
2
市町村の役割
グリーン・ツーリズムの推進は、地域の自主的な取組みが基本となること
から、地域での活動の中心的役割を担う人材の育成や地域の合意形成を図る
ための場づくり、さらには推進組織立ち上げへの助言などを通じて、地域の
自主性を助長する方向へと誘導するとともに、市町村が策定する各種振興計
画との整合を図りながら、地域の特色を生かした取組みを進めることが期待
されます。
3
農業者や地域住民の役割
実践の中心となる農業者には、これまで地域が育んだ貴重な資源である自
然や景観の保全を図りながら、地域の特性を生かした多様で持続的な取組み
を期待します。また、地域が一体となってグリーン・ツーリズムを推進して
いくため、できるだけ多くの地域住民の参加や関連する他産業との連携など
が期待されます。
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4
関係団体の役割
農業協同組合には、グリーン・ツーリズムが農業・農村への関心や理解を
深め、地場の農畜産物の消費拡大や多様な農業経営を支えるとの認識に立っ
て、グリーン・ツーリズム関連施設の開設や農産物の加工・販売などに取り
組もうとする農業者への経営的な助言等が、また土地改良区には、用排水施
設の適切な保全・管理を通じた水辺空間の確保や地域を交えた親水施設の整
備などが期待されます。
観光や商工関係団体には、交流人口の増加がもたらす地域振興への寄与な
ど様々な波及効果を踏まえ、都市への情報発信や都市からの情報受信などへ
の協力が期待されます。
訪れる人への配慮(ヨーロッパでの取組み)
堆肥盤を花でカムフラージュ(ドイツ)
周辺と調和した道しるべ
(イギリス)
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