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石炭灰を原料とした人工ゼオライトの排水浄化機能に関する研究
研究レポート 石炭灰を原料とした人工ゼオライトの 排水浄化機能に関する研究 エネルギア総合研究所 環境技術担当 小畠 正至 同 バイオマス利用技術推進担当 尾山 圭二 1 まえがき 当社の発電電力量の構成比をみると,石炭火力によ るものが全体の半分以上を占めており,また,今後も その比率は高く推移することが予想される。そのため, 副産物として発生する石炭灰も増加が見込まれるが, 現在,石炭灰の多くはセメント原料や地盤改良材など に利用されているものの,今後更なるセメント原料と しての需要拡大は困難が予想される。 大芦ビオガーデンに4試験区を設け,それぞれの試 験区に硝化を目的とした硝化槽,脱窒による窒素除去 および植栽を目的としたガーデニング槽を設置した (図1参照) 。 各試験区の硝化槽とガーデニング槽の基材と充填量 を表1に示す。実験に使用した試験排水は隣接する農 業集落排水処理施設から各試験区へ1日約1.1m3導水 し,人工ゼオライトの機能について天然ゼオライトと 比較した。 そこで,護岸工事用海砂代替材として開発され,環 境修復材として利用が進む石炭灰を原料としたHiビー ズの新たな活用方法について検討した。 本研究では,アルカリ処理によりゼオライト化した Hiビーズを,排水中の窒素分除去用のろ過材として使 用する排水処理試験を島根大学と共同研究を行った結 果,主目的である窒素分以外にも優れた浄化機能を有 することが明らかとなったので,その概要について報 告する。 2 硝化槽:アンモニアを硝化する。 N2 N3 N1 ガーデニング槽: 脱窒による窒素除去および植栽。 概 要 図1 大芦ビオガーデンの試験区の平面図 (1)ゼオライト水耕実験施設 a.実験施設および供試排水 実験施設は島根県松江市島根町の大芦地区にゼオラ イト水耕植生浄化実験施設(以下,大芦ビオガーデン と称する)を設置した(写真1参照) 。 写真1 大芦ビオガーデン Page 2 N4 表1 各試験区に使用した基材と充填量 試験区 硝化槽(200kg) ガーデニング槽(2,000kg) N1 天然ゼオライト 天然ゼオライト N2 Ca型人工ゼオライト Ca型人工ゼオライト N3 天然ゼオライト クリンカアッシュ N4 Na型人工ゼオライト Na型人工ゼオライト b.硝化槽およびガーデニング槽のはたらき [硝化槽] ゼオライトに吸着したNH4+がアンモニア酸化細 菌の働きによりNO2に酸化され,亜硝酸酸化細菌の 働きによりNO3−へと硝化する。 [ガーデニング槽] 基材自体の脱窒および植栽植物の窒素吸収により 窒素を除去する。 エネルギア総研レビュー No.26 石炭灰を原料とした人工ゼオライトの排水浄化機能に関する研究 (2)排水処理試験結果(各ゼオライトの浄化機能) アンモニア態窒素,有機物およびリンの除去能につ c.リン除去 天然ゼオライトにおいてはリンを除去する効果は見 いて2004年10月∼2005年11月までの13カ月間処理 試験を実施した。 a.アンモニア態窒素吸着除去 られないが,人工ゼオライトはCa型,Na型とも効率 的な除去が行われている。特にCa型のリンを除去す る能力が高い(図3参照) 。 N1:天然ゼオライト PO4 P (mg/l) Ca型およびNa型の人工ゼオライトは天然ゼオライ トと同様陽イオン交換機能により,アンモニア態窒素 の効率的な除去が行われている(図2参照) 。 NH4 N (mg/l) N1:天然ゼオライト PO4 P (mg/l) N2:Ca型人工ゼオライト NH4 N (mg/l) N2:Ca型人工ゼオライト PO4 P (mg/l) N4:Na型人工ゼオライト N4:Na型人工ゼオライト NH4 N (mg/l) (●)流入水, (▲)ガーデニング槽出口 図3 ガーデニング槽出口のPO4-P濃度変化 (●)流入水,(▲)ガーデニング槽出口 図2 ガーデニング槽出口のアンモニア態窒素濃度変化 ウムの関与について仮説をたて,実験により仮説の適 合性を確認した。 b.有機物除去(COD) 大芦ビオガーデンは,栄養塩除去を目的としたもの であるが,Ca型およびNa型の人工ゼオライトは天然 ゼオライトと同様有機物除去に関しても有効であった (表2参照) 。 表2 各ゼオライトのCOD除去率(全期間平均) COD 除去率 (3)人工ゼオライトによるリン除去機構の解析 人工ゼオライトに特有のリンの除去は,カルシウム アパタイト等の生成によるものであると推測された。 そこで,Ca型およびNa型のリン除去におけるカルシ N1:天然 ゼオライト N2:Ca型 人工ゼオライト N4:Na型 人工ゼオライト 54.9% 54.2% 65.5% a.Ca型人工ゼオライト Ca型人工ゼオライトのリン除去反応は,2つの反応 形態が考えられる。 [仮説1] イオン交換反応により溶液中に移行したCa2+ とPO4-Pとが反応(図4参照) Ca2+ 反応 PO43− PO43− Ca2+ PO43− イオン交換 Ca2+ ゼオライト NH4+ NH4+ ゼオライト NH4+ NH4+ ゼオライト 図4 Ca型人工ゼオライトのリン除去反応(仮説1) エネルギア総研レビュー No.26 Page 3 研究レポート PO43− 反応 PO43− Ca2+ NH4+ ゼオライト NH4+ ゼオライト 図5 Ca型人工ゼオライトのリン除去反応(仮説2) 6 12 5 10 4 8 3 6 2 4 1 2 0 0 300 600 900 1200 pH Ca濃度 (mg/l) 仮説1を検証するため,NH4+を添加しCa2+が溶 出するか確認した。 [実験1]NH4+濃度とCa2+溶出量との関係 実験条件 ① 初期NH4-N濃度=0,30,60mg/l ② PO4-P無添加,Ca2+無添加 ③ 24h振盪* [結果1] NH4+濃度の増加に伴い,Ca2+濃度が上昇してお りイオン交換により,Ca2+が溶液側へ移行してい ることが確認された(図6参照) 。 0 時間 (分) 60mgNH4 N/l 0mgNH4 N/l 30mgNH4 N/l pH 図6 NH4+濃度とCa2+溶出量との関係 仮説2を検証するためCa2+とイオン交換能力のあ るNH4+の濃度とPO4-Pの吸着量の相関を確認した。 [実験2]NH4+濃度とPO4-P除去量との関係 実験条件 ① 初期NH4-N濃度=0,30,60mg/l ② PO4-P添加,Ca2+無添加 ③ 24h振盪* Page 4 12 3.4 PO4 P濃度 (mg/l) Ca2+ [結果2] NH4+を添加しない(= Ca2+のイオン交換がない 状態)場合においてもある程度PO4-Pの除去が見 られる。しかしながらNH4+濃度の増加(= Ca2+量 (図 増加)に伴いPO4-Pの除去量も増加している。 7参照) 。 3.2 10 3.0 8 2.8 6 2.6 4 2.4 2 2.2 2.0 pH [仮説2] ゼオライト表面のCa2+に直接PO4-Pが吸着する 吸着反応(図5参照) 0 300 600 900 0 1200 時間 (分) 60mgNH4 N/l 0mgNH4 N/l 30mgNH4 N/l pH 図7 NH4+濃度とPO4-P除去との関係 [考察] 結果1,2よりCa型人工ゼオライトのリンの除去 は,Ca2+の関わりが大きく,反応形態に関しては イオン交換反応を介した除去と吸着反応による除去 の2つの形態により行われていると推察される。 b.Na型人工ゼオライト Na型人工ゼオライトのリン除去反応についても, Ca型人工ゼオライトと同じようにCa2+が関与する反 応機構となっているか検討した。 [仮説3] ゼオライトの製造時に加えられるセメント (10%)に含まれるCa2+ が溶液中へ溶出し,その Ca2+とPO4-Pとが反応(図8参照) Na+ ゼオライト Ca2+ イオン交換 Na+ NH4+ ゼオライト PO43− NH4+ 溶出 NH4+ Ca2+ 反応 NH4+ ゼオライト PO43− Ca2+ PO43− 図8 Na型人工ゼオライトのリン除去反応(仮説3) *振盪(しんとう)とは、激しく振り動かすこと。 エネルギア総研レビュー No.26 石炭灰を原料とした人工ゼオライトの排水浄化機能に関する研究 仮説3のCa2+溶出性および溶出したCa2+とPO4-P の吸着量との相関を確認した。 [実験1]NH4+添加によるCa2+溶出量の経時変化 実験条件 ① NH4+350mg/l添加 ② PO4-P無添加,Ca2+無添加 ③ 5h振盪 [結果1] NH4+添加(350mg/l)した時のゼオライトから 溶出するCa2+はわずかに認められる程度である(図 9参照) 。 Ca濃度 (mg/l) 0.6 0.5 0.4 0.3 Ca濃度 (mg/l) 0.2 0.1 0 100 0 200 300 時間 (分) 図9 Ca2+溶出量の経時変化 [実験2]Ca2+添加によるPO4-P濃度の変化 実験条件 ① 初期PO4-P濃度=6mg/l ② Ca2+濃度=0,25mg/l ③ NH4+無添加 ④ 24h振盪 [結果2] Ca2+ を添加(25mg/l)した方は,Ca2+ 無添加 に比べるとPO4-Pの濃度は低く抑えられているが, 初期の濃度(6mg/l)より増加している(基材から [考察] Na型人工ゼオライトはCa型人工ゼオライトと異 なり,リンの除去にCa2+は関わっていないことが わかった。また,今回の試験結果では,試験初期 においてpHが高くPO4-Pの除去反応は確認できな かった。しかし,長期の排水処理試験では,PO4-P は除去されていることから,これは既存の知見から Hiビーズ由来のアルミニウムが関与していると推察 される。 3 あとがき 石炭灰を原料とした人工ゼオライトが排水処理材と して適用可能であることを確認できた。特にリン除去 機能は,天然ゼオライトにはない有用な機能を保持し ていることが明らかになった。また,Ca型人工ゼオ ライトの,リンの除去反応にはCa2+が大きく関わっ ていることが分かった。 人工ゼオライトのリンを除去する機能については未 解明な部分が残されているが,今後もHiビーズの環境 修復資材としての利用について検討していく予定であ る。 最後に今回の試験に協力をいただきました共同研究 先の島根大学に対し謝意を申し上げます。 PO4 P濃度 (mg/l) の溶出と考えられる) (図10参照) 。 8.5 8.0 7.5 7.0 PO4 P (Ca無添加) 6.5 6.0 PO4 P (Ca添加) 0 500 1000 時間 (分) 図10 Ca2+添加とPO4-P濃度との関係 エネルギア総研レビュー No.26 Page 5