...

正倉院所蔵の組紐の組成技法について

by user

on
Category: Documents
63

views

Report

Comments

Transcript

正倉院所蔵の組紐の組成技法について
正倉院所蔵の組紐の組成技法について
附 クテ打組紐技法による古代角組の組成実技再現の試み
木
下
雅
子
1.はじめに(注1)
正倉院の宝物は法隆寺の宝物などと共に、古代日本が大陸文明を積極的に受け入れていた時
期の貴重な文物である。これらの宝物を観賞する度に、それらを実現させた技術に思いが及ぶ。
洋の東西を問わず技術が記録に残されるようになったのは比較的に最近のことで、永久に失わ
れてしまったものも少なくないであろう。中には現代の知識と現行の技術に照らして理解され
ていたところが、研究が進むことにより新たな見解に展開する場合も少なくない。古代組紐の
組成に、組み台と錘糸巻を用いる「自由端操作組紐技法」
(台組み技法)が使われたと考えられ
てきたこともその1例といってよいであろう。
組紐が単に付属品として扱われ、美術品の解説や図録の中でもとり挙げられることの少なか
った昭和4
0年代の環境の中で、正倉院宝物の組紐が詳しく調査され、宮内庁正倉院事務所編集
(注2)
の『正倉院の組紐』
として出版されているのは、その宝物の価値のみならず古代染織資料と
しての価値が認識されていたからであろう。これらの組紐が本稿の主題である「クテ打組紐技
法」
(以下「クテ打技法」と略称)によって組成されたとする結論に到達した研究には、同書に
記載された組紐の構造分析、構成要素、色彩、近接撮影などの調査結果によるところが多い(注3)。
「クテ(組手)打」とは、古来日本で組紐を製作するのに用いられてきたと考えられる技法
挿図1−1 『糸組圖』表紙
挿図1−2
平組紐の組み方
(1)
組み糸端にクテがついている
(注4)
に、著者不明の江戸時代の手写本『糸組圖』
から筆者が借りてつけた名称である(挿図1)
。
その基本は、世界の組紐技法史に知られている組紐組成技法のなかで「ループ操作組紐技法」
(ループ組紐技法)と総称されるものに属している。クテ打技法は正倉院宝物を含む日本の古
代組紐、ならびに現存する平安期以降の多数の優れた組紐を生み出した徒手組紐技法であり、
また古来甲冑の威毛その他に用いられた組紐の膨大な需要を支えた生産技術でもあった。技法
としては古代に大陸から伝来したと考えられるループを指に掛けて操作する比較的に単純な指
操作法と、これを基に平安時代後期頃に日本で発達したと考えられるループを手に掛けて操作
する手操作法に大別できる(注5)。今日日本で民間伝承されているクテ打技法は指操作法である。
近年、古組紐の復元模造には、現行「伝統組紐」技法(注6)の製作具の中の丸台か高台が用いら
れてきた。しかし例えば丸台による正倉院宝物中の角組の復元には台組み技法で現行している
手順とは異なる手順を使わねばならず、古代に用いられた組成技法がどのようなものであった
かは判らないといわれてきた(注7)。しかし正倉院の組紐にみられる組織の特徴や丸台での組み
方に当て嵌らないなどの技法の特質については追求されないままであった。
正倉院宝物の組紐はその構造から、主として角組、4畝綾織組織平組紐、平織組織平組紐、
じょうれん
2越綾織組織平組紐、斜行縄連組織平紐などの限られた種類に類別できる。それらはほぼ一貫
してクテ打で組成されたと考えられる特徴を持っている。中でも最多数の角組を例にあげると、
要素数が奇数の2倍の例が全体の6
7%を占める(注8)。それは角組をクテ打で組成するには、要
素数を奇数の2倍とするのが慣例であることに合致する。角組を台組み技法で組成するには奇
数の2倍では組成できないとされており、通常4の倍数(偶数の2倍)の要素を使う。しかし
要素数が偶数の2倍の例は残りの3
3%である。これは要素が4の倍数の角組をクテ打では組成
することが少ないという慣例に合致する。
また原資料角組の断面の形状は台組み技法組成の角組に見られる正四角形ではなく、ループ
操作技法で組成した角組に必ず見られる歪みをみせる。
以上の事実は正倉院の組紐中の角組の組成法がクテ打技法であったと考えれば納得できる。
更に、角組以外の組紐も同技法で組成したと考えられる特徴があり、理論的分析及び試作実験
の結果、紐の形状、組織形態、色柄の様相などの特徴も一致することが示された。
正倉院宝物中の組紐の組成法がクテ打技法であったと考えられることに関する研究は拙著
『日本組紐古技法の研究』に詳解したが、本稿ではその後の新知見を加えて検討を重ねる。あ
(注9)で研鑽を重ねた、正倉院の角組組成に用い
わせて筆者が主宰する「クテ打組紐技法研究会」
られたクテ打技法の実技の再現をめざす研究の結果を試覧に供する。
2.クテ打組紐技法の特徴
ここではループを指に掛けて組むクテ打の指操作法のみについて説明する。
まず所要の丈に切った組み糸(要素)の束の一端をまとめて組み頭とし支柱に固定する。組み
糸の他端を所定の順に従って2条ひと組を連繋させて輪状(ループ)に整える。組み手は要素
(2)
に張りをかけられる位置に座を占め、ループ
を所定の配置(初期配置)に従って1本ずつ
指に掛け、掌をほぼ上向きにして胸の前に構
え、全てのループに張りをかける。糸の張り
を保ちながら指でループを1本ずつ左右交互
に処方に従って移動して交錯させ、操作が1
回終わる毎に要素を組み口に向かって打ち込
む。全てのループが規定処方(手順)に従う
挿図2
繰り返しによって斜行組織(組紐)が組成さ
インドネシア・スラウェシ島トラジャのループ組紐
穀倉の縁に腰かけて紐を組む祖母を、支柱兼打ち
手になって孫娘が手伝う。
れていく(挿図2)
。打ち込みには、紐丈が長
くない場合は、両腕を左右に広げて引っ張る、あるいは両手に分け持った要素束の叉を足で押
すなどして組み込んだ要素を組み口に打ち込む。長い紐の場合は刀状の打ち具で助手が組み口
を打つ(注10)。クテ打では指に掛けたループをそのそれぞれに均等な張りがかけられるような長
さに保つ必要がある。それに従って操作毎に組み込み量を統御する機構が働く結果、ムラの少
ない組紐が組成できる。そのためにクテ打技法ではこの
機構が消化できる以上に組み糸の組み込み量が不均等な
組織(例えば唐組)の組成では、望むような結果を得ら
れない場合がある。他方台組み技法では、一般には組み
糸の組み込み量は紐の構造に対して錘玉と対抗錘の釣り
合いで定まり、組み手の技量に関わらず組み目、紐幅な
どにムラのない組紐が組成できる。クテ打も台組みも共
にムラの少ない組紐が組める技法であるが、それぞれの
機構が生み出す風合いは独自である。
3.日本の古代組紐の種類
日本の古代組紐はおおむね法隆寺の宝物および正倉院
宝物中の組紐に代表され、角組、4畝綾織組織平組紐、
一間組(平織組織平組紐)および二間組(2越綾織組織
平組紐)、斜行縄連組織平組紐に大別できる(注11)。他に
少数例として一間丸組と4条組の2種類がある。
(注1
2)
角組(4畝綾織組織筒状組紐)
断面が正四角形の整綾織組織筒状組紐に限らず、不整
綾織組織、すなわち断面が梯形、不等辺四辺形のものも
含む名称である(挿図3)
。
角組は正倉院の組紐中で最多数を占める。大多数は幅
(3)
挿図3
角組例 中倉目録外紐類3ノ
(4)
(解説番号1
7
2:表5)
角組、要素数1
6。画面に見える2本の組紐の
太さが異なるのは、同一の角組の異なる側
面に見られる組織差を示す。要素数が偶数
×2であるこの紐は、4畝での越数が(3
‐
4
‐
5
‐4)になるので、角組の面によって紐幅に
差異がある。これによって1
6要素のこの角
組が不整組織角組であることがわかる。
3!以下の細い紐で、太いものでも8!程度である。図版から調べた組織は、紐の綾織組織の
畝の越数をa、b、cで表記すれば、綾織組織の4畝の越数を全て(aabb)または(abcb)で
表示できる不整綾織組織であった。
前者では
要素数÷2=ループ数=a+b(奇数)
但しb=a+1
後者では
要素数÷2=ループ数=a+c=2b(偶数)
但しc=a+2
これはクテ打技法で組める角組と同構造である。
4畝綾織組織平組紐
『正倉院の組紐』では、三間組、四間組と呼ばれている。鏡の
紐、褥の縁取り、鎧の威毛などに使われている(挿図4)。次項目
の一間組、二間組が整組織平組紐であるのに対して、正倉院の三
間組、四間組は共に4畝不整綾織組織平組紐で、クテ打で組める
しげうち
しげうち
組紐の一つである。台組み技法には、重打または繁打その他の名
)注1
4)
称を持つ4畝整・不整綾織組織平組紐例がある(注13(
。
クテ打技法で組成した4畝綾織組織平組紐の組織は、一般に
(aaba)または(abca)で表示できる。
前者では
要素数÷2=ループ数=a+b(奇数)
但しb=a+1
後者では
要素数÷2=ループ数=a+c=2b(偶数)
但しc=b+1
正倉院所蔵の4畝綾織組織平組紐では、要素数奇数×2が9例、
偶数×2が8例とほぼ同数なのは、この2種の間に角組の場合の
ような目立つ外形の相違がないからであろう。図版の例は全て要
素数奇数×2で、上記前者の構造に一致する。ループ数=9で畝
の越数(4
45
4)が紐の半ばで(3
653)に変わる例は、ループ組紐
技法で起りやすい組み間違いの結果として、この紐の組成技法を
挿図4
重打の例 南倉1
4
7
帯緒類第2
2号の鏡紐
(1)
(解説番号2
47:表5)
縹地朱・緑混色四間組。途中で
組み方を間違えて、組織が変わ
ってしまっている紐。要素数1
8。
支える根拠になる(注15)。
一間組、二間組
幡の垂飾・縁取りなどに使われている。両者は共に整組織であることが、三間組、四間組が
いずれも不整組織であることに対照される(挿図5)。正倉院の一間組は正確には2本の要素を
並べて組み込んだ「2/2平織(ななこ織)組織平組紐」である(注16)。二間組も同様に2本の要素
を並べて組み込んだ網代綾織組織平組紐であるが、無撚の練糸を使っているので網代であるこ
とは一見ではわからない。
一間組は『正倉院の組紐』の「箇別解説」に4
6例が記載され、計測不可の2例(注17)以外の要素
数は4
0例が偶数で、4例(注18)が奇数となっている。平織組織平組紐の要素数は偶奇両者が可能
であるが、紐の両耳で要素が同じ面に返る組織の紐の要素数は必ず奇数である。要素数偶数の
(4)
一間組は要素が紐の一方の耳では表向きに、他
方の耳では裏向きに返る、すなわち左右非対称
である。記載の数値によれば、左右非対称の一
間組が大多数であることになるので疑義を抱か
ざるを得ない。図版にある1
2例(注19)を調べた結
果では、奇数例が6例(注20)あり、記載の奇数4
例に齟齬する。
二間組は1
2例あり、要素数は全て偶数と報告
されている(挿図6)。しかし、整2越綾織組織
平組紐の要素数は必ず奇数であるから、この記
載は資料が全て整組織ではないのか、記載計測
値が間違っているかのいずれかであることを示
唆する。図版にある3例(注21)を調べた結果は、
3例とも整組織で要素数は奇数であった。図版
に見るこの3例と白無地二間組2例(注22)はいず
れも両耳の要素が同じ面に返っているので要素
数は偶数×2+1すなわち奇数のはずである。
他の資料も同組織である可能性が高い。
縄連平組紐(斜行縄連組織平組紐)
『正倉院の組紐』では「二条軸一間組」とさ
挿図5
一間組の例 中倉9
3 雑帯第7号(左上)
(解説番号2
0:年次報告 表8)
両耳で要素が共に裏側に返っているから要素
数は奇数3
7である。4条組の房がついている。
挿図6 二間組の例 中倉9
3 雑帯第6号(右上)
(解説番号1
9:年次報告 表8)
整組織二間組の要素数は奇数である。2本の組
み糸が一つの組み目に組み込まれていて、二間
組も一間組と同原理の1本のループを1要素
とする組み方で組んだものと考えられる。挿図
2
1参照。
れている、帯類、幡の吊り緒、その
他に使われている紐である(挿図
7)
。資料の組紐は表面要素を1対
ずつ捻った斜行縄連組織を対向する
軸要素で拘束した組成である。2条
軸一間組という名称は字義的には2
条の要素を軸にした一間組すなわち
斜行畦織(注23)組織組紐を意味する。
縄連組織と一間組織との相違を明確
にするという意味で、本稿では「斜
行縄連組織平組紐」
(縄連平組紐と
略称)を用いる。縄連平組織の斜行
の向きが紐幅の中央を境に反転する
ものを「2方向斜行縄連組織平組
紐」と す る が、正 倉 院 資 料 で は1
挿図7
縄連組紐の例
(5)
中倉9
3 雑帯第1
9号
(解説番号3
2:年次報告 表8)
例(注24)をのぞいてこれが標準的な形態なので
必要がなければ「2方向」を省略する。
正倉院の2方向斜行縄連組織平組紐にはS
撚り単糸を2合してZ撚りにした糸を要素に
使い、全幅にかけて要素対をZ向きに捻って
組成した例と、無撚練糸の要素対を紐の左半
と右半で逆向きに捻った例がある。
少数例
一間丸組と4条組
筆者は、クテ打を正倉院の組紐の組成技法
挿図8
4条組の房 中倉9
3 雑帯第7号
(解説番号2
0:年次報告 表8)
房部分
と考える立場から、これら2種の組紐が宝物
中に少ないのは、この技法で組めない紐を組むことは少なかったのであろうとしてきた。しか
しその後の研究によって、いずれもループを使う組紐技法で組んだ可能性が考えられることが
わかった。
一間丸組
一間丸組として記載されている要素数8の2例(注25)は2合S撚り糸を合わせて4合Z撚りに
した撚り紐である。すなわち8要素一間丸組は宝物中にはない。要素数が14の一間丸組2
例(注26)には1
4畝整筒状一間組と2ヶ所に2越の不整がある12畝不整筒状一間組のいずれかの可
能性が考えられる。しかし要素数が1
4であることはクテ打組成の後者である可能性を思わせる。
4条組(注27)
正倉院の4条組には記載例以外に角組を要素として組んだ1例(注28)、更に一間組組帯の房に
)
数例が認められる(注29(挿図8)
。
4条組は蛇腹組の次に基礎的な組紐で、世界に共通する徒手の組み方がある。現行「伝統組
紐技法」では丸四つと呼ばれ角台または丸台で組むが、20世紀末にコロンビアで発行されたコ
ロンビアの原住民ワヒラインディアンのテキスタイル技法の採録記録に、ループ操作技法によ
る組み方が初見され(注30)、古代においてこのような方法が使用されたことを一概に否定はでき
ない。
宝物中に例品がない蛇腹組
正倉院の組紐には、最も単純な構造を持ちかつクテ打で組める組紐である蛇腹組は見られな
い。
4.日本で採録された民間伝承のクテ打組紐技法
日本で現在(平成2
0年=2
0
0
8年)までに採録された民間伝承者5名のクテ打技法は、全て掌
を上向きやや向かい合せに構えて小指または薬指で操作する、ループ操作技法中で第2法と呼
ばれる組み方である。使用ループ数は5が多く、1件だけ7を使う例があった。
(6)
挿図9
手順1、ループ5本を使って要素数5の蛇腹組を2本同時に組む
手順。
ループ初期配置:組み始めのループ配置
左手:中、薬、小
右手:中、薬 (中指先頭、小指が操作指)
【操作1】右手の小指を左手の小指、薬指のループに挿入し、左
手中指のループの上糸を下から掬うようにして取り、
!!!!!!!!!!!!!
ループの中を通して引きだす。左手の中指のループが
右手の小指に移動する。
左手のループを差し替えて、左小指を空き指にする。
【操作2】操作1の左右を入れ替えた操作。操作1と同じように
して、左手小指で右手中指のループの上糸を下から掬
!!!!!!!!
うようにして取り、引きだす。右手の中指のループが
!!!!!
左手の小指に移動する。
右手のループを差し替え右小指を空き指にする。操作
1と2を繰り返す。
手順1のループ移動では「上糸を下から掬うように」取る。移動
!!!!!!!!!!!!!
の前後で上糸と下糸の位置が変わらない移動を「開」移動と呼ぶ。
第2法 操作1
2畝綾織組織平組紐
2本の紐が上下2層に重なって組成される
挿図1
0 手順2、角組(1
0要素4畝綾織組織筒状組紐)
。
角組の手順は、移動ループの上糸を上から引っかけて取る以外は
!!!!!!!!!!!!!
手順1と同じ。
手順2のループ移動では「上糸を上から引っかけて」取る。移動
!!!!!!!!!!!!!
の前後で上糸と下糸が入れ変わる移動を「閉」移動と呼ぶ。
第2法 操作1
角組
操作1
第2法
操作2
4畝綾織組織平組紐
挿図11 手順3、重打(1
0要素4畝綾織組織平組紐)
。
【操作1】手順1の操作1と同じ。上糸を下から掬うように
!!!!!!!!!!!!!
して取る。
【操作2】手順2の操作2と同じ。上糸を上から引っかけて
!!!!!!!!!!!!!
取る。
手順3では一方のループ移動を「開」
、他方を「閉」で行う。
組織が紐の一方の端では離れ、他方では繋がって、重打がコ
の字形に折れて組成される。
(7)
日本で採録された民間伝承の組み方の種類(注31)
1.蛇腹組(注32)(2畝綾織組織平組紐)2本同時組
2.角組(4畝綾織組織筒状組紐)
3.重打(4畝綾織組織平組紐)
ループ数5本のクテ打技法の3基本手順(挿図9∼11)
上記の3種はループ操作技法があるところでは必ずといえるほど組まれている、最も基本的
な構造を持つ組紐で、3基本組紐とされる。
この方法の手の構え方では指に掛けたループの2本の足が上下の関係を保つことになる。こ
れらを上糸、下糸と呼ぶことにする。
ループ数5本の場合、左手に3本、右手に2本を配置する。中指を先頭にするループの掛け
方と人差し指を先頭にする掛け方があるが、両者はループ配置が1本ずれているに過ぎないの
で、手順も指が1本分ずれるだけである(注33)。ここでは小指で操作する場合のみを解説する。
操作指で移動したループの上糸と下糸がそれぞれ上下鏡像の2層の中に組み込まれ、5本の
ループで要素数1
0条の組織が組成される経過を径路図(注34)に図示した。挿図9、挿図10には左
手から右手に移動する操作のみを示し、右手から左手への同じ動きである操作2の図は省略し
た。左右の動きが異なる4畝綾織組織平組紐の手順(挿図11)のみに操作1、2を入れた。こ
れら3種の基本組紐が移動ループの取り方の相違に基づいて構成される関係が理解できる。
径路図では、径路上の矢印の向きによって要素の移動方向が時計回りか反時計回りかを指定
する。例えば図示の角組の径路図の楕円径路は、螺線状に下降しながら時計回りに移動する要
素と、同じく反時計回りに移動する要素の動きを表示する。ループ数10の角組では5条の要素
のそれぞれが時計回りする楕円径路を描きながら下降し、同じく反時計回りする5条の楕円径
路で移動する要素と交錯して、筒状の斜向2/3/3/2綾織組織を形成する。
ループ数6、7本の場合も組み方は、ループを両手に折半し、半端は左手に与えて両手共に
人差し指から順に掛け、小指で操作する。手順はいずれも小指で他の手の移動ループ以外の全
てのループの中を通って外端のループを移動する。径路図上では、要素を表示する丸を描き加
えるだけで、要素数が変わっても構造の基本には変化がないことがわかる。ループ数8、9、
10本の場合は空き指がなくなるが、人差し指に2本のループを掛ける、親指も動員するなりし
て小指を空き指にする、また小指も操作指専用とせず、ループを掛けた上に操作指としても使
うなど、工夫すれば作業能率を下げることなくループ数10本(要素数20)までは角組を組むこ
とができる。
5.古来より世界各地にみられるループ操作組紐技法
正倉院宝物中の組紐が、組み台に頼らず、2条の組み糸端を連繋してできるループを指に掛
けて操作して紐を組む徒手の技法で組成されたのではないかと筆者が考えるようになったのは、
1
9
7
8年末にデンマークのシュレングルと呼ばれるループ組紐技法のことを知って間もなくであ
(8)
)注3
6)
った(注35(
。
『正倉院の組紐』には宝物中の角組は要素数が奇数の2倍のものが全体の2/3を占めており、
通常4の倍数(偶数の2倍)の要素数で組む台組み技法で組成したものとは構成的に異なるこ
とが記載されている。これに対してシュレングル技法では奇数のループを使って奇数の2倍の
要素数を持つ角組を組む。また正倉院資料の角組の断面の形状はこの技法で組成した角組と同
じように歪んでおり、台組み技法の角組断面にみられる整四角形ではない。すなわち、シュレ
ングルのような組紐技法が正倉院の組紐の組成に用いられたとすればこれらの統計的事実は当
然の帰結となる。
日本に古来あったのかもしれないこのような技法が見られる現存最古の資料は16世紀初頭の
(注3
7)
作品とされる『七十一番職人歌合絵巻』
の第五十一番、「ぬいものし」と「くみし」である。
江戸時代の写本によれば、組糸を指に掛けて足を前方に投げ出して床にすわり、
「へしき」とい
う打ち具を使う「くみし」が描かれている(挿図1
2)。現在、日本で打ち具は使わないが、同様
)
の技法を民間伝承している人がいることを知り(注38(挿図
13)、同様な組紐技法をタイ国の山岳
)
少数民族ポー・カレンが用いていることもわかった(注39(挿図
14)。更にアイスランド(注40)、ア
ルジェリア(注41)、ロシア(注42)、南米の諸国(注43)にも存在することから、この技法が世界中に散
挿図1
3 日本のクテ打技法(伝承者、佐倉正江さん)
挿図12 『七十一番職人歌合絵巻』の第五十一番
「ぬいものし」と「くみし」
挿図14 タイ国の山岳少数民族ポー・カレンのループ操
作組紐技法
挿図1
5 ループ操作組紐をする2人
中国雲南省李家山前漢代古墓出土青銅紡織貯貝器
高さ約1
0!の鋳造の組み手の指にループがかかっ
ているのが見える。
中国雲南省江川 李家山青銅器博物館蔵
(9)
在することを確認した。それらの事実の分析を基に、日本とタイで共通して用いられている
「掌を上向きにして内側指で操作する」技法すなわち「ループ指操作技法第2法」の類が正倉
院の組紐の組成に用いられた技法であったと仮説を立て、立証を究めた。その研究をまとめた
著書を出版した1
9
9
4年から2
0
0
8年の1
4年間に、第2法に限れば日本で更に3名が、また中国の
彝、コロンビアのワヒラ・インディアン、フィンランド、インド、インドネシアのトラジャ、
モロッコ、タイのヤオ、アカ、ミャオなどの多数の民族の間で用いられていることがわかっ
た(注44)。中国雲南省李家山の前漢代古墓から出土した青銅紡織貯貝器(注45)の蓋にみられる鋳像
の2人の組み手が行っているのも同様な技法に違いなく、この技法が既に紀元前1世紀に存在
したことがわかる(挿図15)
。以上の事実はクテ打技法が正倉院の組紐の組成に使われたものと
する説の正当性を裏付ける。東洋で用いられている技法が全て「掌を上向きにして内側指で操
作する」第2法であることが注目される。
他方、ループ指操作法の中で人差し指で操作する第1法は、過去14年間にイギリス15世紀の
家政書(注46)中の組紐技法の解読(注47)をはじめとするヨーロッパ全土に散在する中世・近世の資
料と記録(注48)、考古出土品(注49)などの精力的な調査結果として、それまで歴史的には白紙の状
態であったこの技法が古くから広く社会に根付いていたことが明らかになった。
ループ操作技法は現在もなお世界に広範な分布を保ちつつ生き続け、情報が広まるにつれて
新情報が集まり、分布範囲が広がり、技法史が遡る。現在のイスラエルの南部砂漠地帯に遺る
西暦紀元前1
3世紀の古代銅精錬所の発掘で出土した組紐片(注50)、中国楚墓出土の組帯(注51)や、
し
中国漢墓出土の纓の残欠(注52)に見られる!組み布などはループ操作技法組成であるとする仮説
がほぼ確立されている例で、その長い歴史に驚かされる(注53)。
社会の近代化に伴って忘れられ、かつて存在したことさえ記録から欠落していたクテ打組紐
技法を含むループ操作組紐技法が、古代からの主流組紐技法として認識されはじめたのは過去
3
0年に満たないのである。
6.日本で用いられたクテ打組紐技法は古来、内側指で操作する「第2法」であった
日本で採録された技法を伝承する5名の人々は揃って第2法を用いている。家伝として祖母
から教えられた1名以外は祖母、母、姉、学友などから、小・中学生の頃に習ったと思うとい
う典型的な民間伝承である。タイ、インドネシアの現地で採録された民間伝承技法も第2法で
(注5
4)
ある。また「インドの金糸組紐工房の組み師」
に見られる組み師の姿と、中国漢代のループ
組紐青銅鋳像から、筆者は第2法を用いていると推断したが、その後インドの手法については
確証を得た(注55)。東洋では第2法を用いる伝統が広く分布しているといってよいであろう。ま
た平安時代後期に開発されたと考えられる手操作技法では指操作第2法と同原理のループ移動
を行う。古代の指操作技法の手法を継承したものに相違あるまい。このように日本の古代技法
が第2法であったことには数多の傍証例があるが、確証できる例は見出されていない。
(1
0)
7.正倉院の角組がクテ打技法で組成されたものとする3つの根拠
その1
『正倉院の組紐』掲載の角組例数統計には、計測不可能の2例をのぞく角組2
38例中に現行
「伝統組紐」技法で典型とされる要素数が12、16、20など4の倍数の角組が78例(33%)であ
るのに対して、それから見れば例外的な要素数が10、14、18の例が160例(6
7%)もある。
クテ打技法で要素数が5×2または7×2の角組を組むには、通常5本または7本のループ
を使う。鏡像対称の組成法であるから、ループ数が奇数ならば両手に左右交替に(3−2)、
(3−4)などの鏡像対称配置で組成し、紐の断面も鏡像対称すなわち梯形の角組が組める。
表1
正倉院の角組の要素数に対する紐の本数の統計
組糸数
偶数×2
(1
2,1
6,2
0)
奇数×2
(1
0,1
4,1
8)
奇数
(1
3,1
5等)
計測不可能
計測不可能を
除く合計
例数
7
8
1
6
0
0
(2)
2
3
8
%
3
3
6
7
0
(1)
1
0
0
局
移動前および移動中
移動前および移動中
移動後
移動後
挿図16 角組における現行の伝統組紐技法の組法(左)と絶滅した組法(右) 『正倉院の組紐』p.
2
6、挿図2
0・
2
1より
(11)
しかしループ数が偶数(例えば6)の場合は、操作1では(3−3)のループ配置に対して、
操作2では(2−4)のループ配置となり、紐の断面が不等辺四辺形の角組になる。従ってク
テ打で組んだ角組では、梯形断面となる要素数10、14、18等、奇数×2の例が、不等辺四辺形
断面となる要素数1
2、1
6等、偶数×2の例より多いのは当然ということになる。
正倉院の角組が台組み技法で組成されたならば、このような要素数統計の偏向は起り得ず、
要素数は4の倍数(偶数の2倍)のものばかりになるに違いないのである。奇数の2倍の要素
数をもつ角組が存在すること、ならびに奇数の2倍の要素数をもつ角組が偶数の2倍の例より
も多数ある事実を示すこの統計は、正倉院の角組がクテ打で組成されたものであることの第1
の最も強力な根拠である。
その2
正倉院の角組の断面形状は、要素
数が偶数の2倍の場合でも、正四角
形ではなく不等辺四辺形である。こ
の事実に関して『正倉院の組紐』で
は触れることはなく、偶数の2倍の
要素数を持つ角組の断面の形を調べ
た様子はない。図版にある2
5例から、
角組の構造の分析に必要である少な
くとも角組の3面が見え、矢羽柄な
挿図1
7−1
要素数偶数×2
回転対称手順を使った場合
どの要素の繰り返し点の目印がある
もので要素数が偶数×2(1
6)の2
例を調べ、そのいずれの例もクテ打
で組んだ要素数1
6の角組と同じ歪み
方をしていることがわかった(注56)
(挿図3)
。これは正倉院の角組は
要素数が偶数×2の例もクテ打で組
んだ可能性が高いことを意味する。
この2例から他の要素数が4の倍数
(ループ数が偶数×2)の角組も同
様に歪んだ構造であると想定してよ
挿図1
7−2
同 鏡像対称手順を使った場合
いであろう。もし正四角形断面の紐
が組める、例えば台組み技法を使っ
て組んでいたら、敢えて歪んだ組紐
を組むことはなかったと考えられる
からである。
挿図1
7 角組の色柄配置の対称性
(12)
その3
シュレングル技法を知った直後、その組成機構を理解するためにシュレングルで角組を組む
場合の要素の動きを丸台上に置き直してみた。すると台上に『正倉院の組紐』に記載されてい
)
る鏡像対称手順が現れた(注57(挿図
1
6右)。挿図1
6は現行の回転対称手順(左図)と、要素数が奇
数×2の角組を台組み技法で組成する場合に用いられたと考えられる、断絶したとされる鏡像
対称の組み方(右図)を比較した図である。この2手順は実は要素を移動する順序が一手ずれ
ているに過ぎず、台組み技法を使えばいずれの手順でも同じ構造の角組が組める。要素端に錘
を付ける台組み技法では各手順の始点で均衡のとれた要素配置が選ばれるために忌避されたの
に過ぎない。すなわち要素数によって異なる手順がとられたとする説自体は意味がない。
それではなぜ要素数が奇数×2の角組が鏡像対称手順で組まれたとする説が出てきたのかを
考えてみると、組成される組織の対称性は手順の対称性に従い、視覚的には色配置の対称性と
して現れるということに気付く(注58)。例えば矢羽柄の角組を回転対称手順で組めば矢羽の配置
が回転対称に(挿図1
7−1)
、鏡像対称手順で組めば鏡像対称になる(注59)(挿図17−2)。すな
わち要素数が偶数×2の場合にこの資料のような鏡像対称の色柄を組成するには、鏡像対称の
手順を使わなければ組めないのである。奇数×2の場合は慣習的な初期色糸配置を用いた場合
に限る(注60)。すなわち正倉院の角組の矢羽色柄はこれらが鏡像対称手順で組まれたことを証明
する、上記と同様に強力な根拠である。
8.正倉院の4畝綾織組織平組紐がクテ打技法で組成されたものとする根拠
『正倉院の組紐』の「箇別解説」には、三間組9例、四間組8例、計17例の4畝綾織組織平
組紐が記載されており、要素数偶数×2のものが8例、奇数×2のものが9例ある。図版にあ
る色柄のある4例から中2畝の一方に1越の不整が認められる(注61)。
4畝綾織組織平組紐を組むクテ打手順は江戸後期の組紐技法の手写本(注62)に記録されており、
採録民間伝承技法にも含まれている。かつ広く他文化にも見られるループ指操作技法の基本3
手順の一つである。採録民間技法の指操作クテ打が古代から伝承されたものとすれば、4畝綾
織組織平組紐もその中に含まれていたに違いない。
図版にある7例中、組織判定が可能な4例は全て要素数が奇数×2で、組織は(aaba)但し
b=a+1である。これはクテ打技法で組んだループ数奇数の4畝綾織組織平組紐の組織に一
致する。中畝の一方が1越多いのは、2層構造で組成される2枚の平組紐の一方の耳でループ
を捻って上下層を連繋し、双幅の平組紐を組成するループ操作法の特徴的手法の結果である。
台組み技法では、整平組を組むために奇数要素を使うことが多いが、色柄の対称性を望む場合
は偶数要素を使うこともできる。正倉院の例で要素数が全て偶数であることは、クテ打組成で
ある可能性が高いことを示す。
また紐の途中から越数が変わっている例(注63)(挿図4)、および組織不整例(注64)などはクテ
打技法に起りやすい間違いであり、これらがクテ打技法による組成であることの裏付けになる。
(13)
挿図18 中倉9
3 雑帯第1
2号
全姿
(解説番号2
6:年次報告 表8)この組帯は紐の中央部から組み始められている
9.正倉院の角組以外の組紐もクテ打組紐技法で組成された可能性について
正倉院の角組と4畝綾織組織平組紐以外の組紐のクテ打による組成法は1980年代初葉に筆者
がその特徴の考察から構想したものであるが、その後見出された日本以外の古記録あるいは採
集資料の類例にも共通点を見た。現在判明している他文化中に見られる組成法の類例の年代は
1
4世紀以降のものであり、それらの相互間の影響は不明であるが、同様技法を用いる時に同様
構想が生まれてくる経過には、筆者の構想も含めて方法論的な可能性が認められる。その組成
機構と資料の特徴との関連性を分析し、それらが日本古代にも実際に使用された技法である可
能性を裏付けることができる。
1
0.正倉院の一間組(ななこ織組織平組)および二間組(2越綾織組織平組)が
クテ打組紐技法で組成されたものとする2つの根拠
その1
一間組の中に山道柄の縞が弓なりに丈の中央に向けて反っていて、帯を丈の中央から端に向
)
けて組んだことを示唆する例が『正倉院の組紐』中に指摘されている(注65(挿図
18)。これは道
具を使わない技法で長尺のものを組む時に作業能率をあげるために用いられる常套手段である
から、クテ打技法でも用いられた可能性が高い。組み糸を糸巻きに巻いて操作する台組み技法
では片端から他端に向けて組む方が能率がよく、その必要がない。
その2
宝物中の一間組では並行して組み込まれている2本の組糸にSとZの逆撚り2合糸が用いら
れている。
1本の糸の両端を一緒にして支柱に固定し、ループになった端を左腕の前膊に掛けて張り、
右の掌で腕に沿って転がすとループの2本の足の一方にS、他方にZの逆撚りが同時にかかる。
一間組に用いられている逆撚り2合糸を2本対にした要素は、このようなループ操作の環境か
ら生まれた発想ではないだろうか。
一間組組紐が1越組織を構成する要素として2本の組糸を並行に組み込む「ななこ織組織」
であることはこの紐がクテ打技法で組まれた可能性を示唆する。ななこ組織を組成するには通
常2本の要素が無理なく平行して組み込まれる手法を用いる。現行「伝統組紐」技法でもこの
ような組紐を組むには、2本の組み糸を1条ずつ別の糸巻きに巻いて、同じ要素移動を2回ず
つ後追いして組むという手間をかけ、1箇の玉に組糸を2条一緒に巻いて同時に組み込むよう
(14)
最外側の人差し指のループを親指
に差し替える方法(例・左端)
差し替え前
人差し指
ループの取り方
一間組の左側耳での要素の反転の仕方
左側糸
差し替え後
親指
左糸
右糸
右側糸
左手人差し指
}の上にある間
左糸 右糸 左糸 右糸
自分の右手小指のループ
を左手小指に差し替える
移動前
右手小指
左側糸 右側糸
移動後
左手小指
左側糸 右側糸
2合撚り糸2本が
ソの字配列
右側糸
親指
左耳端のループの右糸を
操作指(右手小指)で下
から掬うように取る。
{ 左側糸
2合撚り糸2本が
ハの字配列
左手親指に差
し替えた後
手を握るようにして親指を人差
し指のループに指先の方から差
し込み左糸を掬うように引っ掛
けて抜き取る。移動後左糸が右
糸になる。
A
右側糸
左側糸
B
右手小指
に移動後
}
C
左手小指
左手小指で右手小指
のループを下から掬
い取る。
D
挿図19 整組織平組紐の組み方図解
挿図19−1 一間組・二間組の組み方図解 ループの取り方
資料の一間組を組むにはS2合、Z2合の撚り糸を繋いでループを作る。要素の配列に決まった規則はない。
A
左外端(耳)でのループの差し替え方(右端では左右を入れ替えた操作)
一間組の組み方(挿図1
9−2)および2間組の組み方(挿図1
9−3)で、最初の操作(第1列)が始まる
前に、前回の操作で空き指になった親指に人差し指のループを差し替える。人差し指の上で左側にあった
ループの足(青糸)が、差し替え後には親指の右側に来る。
B 一間組(挿図1
9−2)および2間組(挿図1
9−3)の組み方の最初の操作では、左手親指のループを右
手(中手)の小指で下から掬うように取る。組手1の親指にあったループが、操作1で同組み手の右手小
指に移動する。移動前に右側にあった足(青糸)は移動後も右側。
C 「ソの字」配置要素が移動後には「ハの字」配置(あるいはその逆)になる。
D 「ソ(ハ)の字」の要素の配置が変わらぬように右手小指のループを左手小指に差し替える。
挿図1
9−1は、正倉院一間組に見られる2合撚り糸要素の様相を観測して、組成時のループの取り方を推
定したものである。2合撚り糸を使っていない二間組からこの詳細を見出すのは難しいが、一間組と同じル
ープの取り方をしたものとしてよいだろう。
なことをしない(注66)。それにもかかわらず法隆寺献納宝物中の同組織の玉帯にはビーズを通し
た2本の組糸が1つの組目に組み込まれていて、この2本が1要素として組み込まれたことを
示している(注67)。
一間組と二間組のクテ打による組み方
このような台組み技法の常識に矛盾する条件を満たす方法として指に掛けたループを1要素
とするクテ打技法の組み方を構想した。この組み方については後にその原初形と認められる2
畝綾織組織組紐の組成法が後にイギリスの古記録に見出され、更に同じ組み方を使ったと見ら
れる特徴を持つアンデス地方の製品を見出した。いつの時代にでも誰かが思いついた可能性が
ある方法として筆者が構想した組み方は、この2畝の基本型が多数畝の平織ならびに綾織組織
に発展したものと見做すことができる。原資料は1人では扱いかねる多数の要素を使っている
ので、複数の組み手が協力して組んだものと考える(挿図19)。
ループ操作法で、親指にもループを掛ける例は記録にはほとんど見られないが、例示した方
法は扱えるループ数を増やして技法の可能性を広げる目的で案出された(注68)。ループ操作法を
使う人達に共通する親指を使って手持ちループ数を増やせないかという希求を要領よく解決し
ている。いつの時代にも使用された可能性が考えられる方法として、案出者が使った手順とは
(15)
一間組の組み方例 紫褐・縹地白茶・黄斜格子一間組#2
7
要素数 2
7=7×2+7+6 組み手4人
左組み手1ループ7本
左組み手2ループ7本
左組み手2
左組み手1
左組み手1
挿図19−2
左組み手2
右組み手2ループ6本
右組み手1ループ7本
右組み手2
右組み手1
右組み手2
右組み手1
一間組の組み方図解:要素数2
7(一間組)の例
二間組の組み方例 縹地緑・黄暈!斜格子二間組
要素数 5
7=9×2+8×4+7 組み手7人
左組み手#1ループ9本
左組み手#1
左組み手#2,#3
ループ8本
左組み手#2
左組み手#1 左組み手#2
挿図19−3
中央組み手
ループ7本
右組み手#3,#2
ループ8本
右組み手#1ループ9本
左組み手#3 中央組み手 右組み手#3 右組み手#2
左組み手#3
中央組み手
右組み手#1
右組み手#3 右組み手#2 右組み手#1
二間組の組み方図解:要素数5
7(二間組)の例
組み方
複数の組み手がループを図示の
配分のように両手の指に掛けて掌
を上に構えて並ぶ。
ループの2本の足を1要素とし
て1越または2越の綾を小指操作
で取る。両耳端のループを順送り
に中央まで移動する。
ループ配分として、最外端の組
み手は一間組の場合は7本か9本、
二間組では9本を持つ。配分ルー
プ数にかかわらず外側の手は5本
のループを持ち、親指にもループ
を掛ける。中間の組み手はループ
数によって0∼8人でそれぞれ8
本のループを持つ。残りの半端ル
ープを中央の1人か2人が受け持
つ。この配分で要素数に関係なく
一貫した繰り返し作業の公式を設
定できる。
異なるクテ打の古代技法に筆者が適用し、使用ループ数に関わらない手順の公式を設立してみ
た。一間組では要素数2
7、二間組では要素数57の組み方を例示した(注69)。実際に用いられた方
法が推定できるような資料は見出されていないが、この案は原理的には要素を拾って組織を組
成する方法であるから、公式は一つの可能性として提示した。
一間組を組むにはS2合とZ2合の撚り糸を連繋したループを用いる(注70)。原資料ではこの
2本の撚り糸が並んで形成する「ハ」または「ソ」の字柄の要素の配列は不整で文様をなして
いないが、両耳で要素が反転する度に「ハ」は「ソ」に、
「ソ」は「ハ」に字柄が逆転する(挿
図2
0)
。図解の方法ではこの事実を反映するようにしてある(挿図19)。
ループを指に掛けて張ることによってループの2本の足が並行して組み込まれ、組目と紐幅
が揃った一間組を組むことができる。二間組も一間組と同原理の組み方で組成したことは、2
)
本の糸が同じ組目に組み込まれていることが見える原資料から確認できる(注71(挿図
21)。
(16)
挿図20 中倉9
3 雑帯残欠 第7号
(解説番号2
0:年次報告 表8)
Z傾斜で移動してきた要素の「ソ」または「ハ」
字形配列がS傾斜に向かった時には、前者は
「ハ」字形に、後者は「ソ」字形配列になる。
挿図2
1 中倉93 雑帯残欠 第6号 細部拡大写真
(解説番号1
9:年次報告 表8)
提示した組み方ではソの字形組口になるが、
これは原資料の紐端の形にあわせたためで、
原理的にはソの字形である必要はない。ソの
字形組み口の組み方は、台組み技法を使う場
合は組織を平衡に保つのが難しいが、ループ
挿図2
2 19
99年第2回研究会での5人組実習
最終部分
操作法ではこの問題は起らない。
この組み方では要素数はループ数と同数であるから奇数偶数いずれの資料にも適用できる。
図版の観察からは原資料一間組の要素数は偶奇両者の例が見られるが、二間組の5例は全て奇
数(偶数×2+1)である。これが他の二間組資料をも代表するとすれば偶数例はないことに
なる。本稿では要素数偶数の組成手順については論及しない。
原資料の要素数を公式に適用すると、大多数が必要組み手数に対して無駄が少ないという結
(注7
2)
果を得た。原資料の最多要素数は1
0
3
であるからこの公式に従って組んだとすると1
3人の
組み手の協働作業になる。1
9
99年に行った研究会実習では、親指を使わない方法であったが、
5人組みが成り立ち、楽しい作業であるという肯定的な成績を上げた。それ以上の多人数の協
働作業はまだ実験していない(挿図2
2)。
実際の一間組の組成には、原資料の組み目の様相を持つ一間組織が組めるような2合撚り糸
を作ることが主要課題になるであろう。
1
1.正倉院の2方向斜行縄連組織組紐がクテ打技法で組成されたものとする根拠
縄連組織組紐のクテ打技法による組み方
縄連組織組紐のループ指操作技法による組み方は、丸台の笹波組(2方向斜行縄連組織組
紐)の組み方を参照して筆者が1
9
8
0年代に構想したものである。後にイギリス15世紀の記録中
に筆者の構想と同原理の縄連組織組紐の組み方が多数見出され歴史的使用例の存在が判明した。
(17)
原資料中には矢羽柄で要素数が奇数×2(ループ数が奇数)のものがただ1例であるが報告
されていて、クテ打技法組成であることを示唆する(注73)。左右から後追い操作を行うクテ打で
はループ数を奇数にした方が、左右の対称性がよくなるが、丸台技法では左右、上下の操作を
両手を使って同時に行うので、要素数は偶数×2に限られる。
クテ打による2方向斜行縄連組織組紐組成の原理
1.操作1と2(挿図2
3−!・$)で、軸要素を組み込む。
2本の移動したループがその間にあるループを拘束する。
2.操作3(図解省略)では、表面の縄連組織が形成される。
とうじょ
ループの中に手または刀杼を差し込んで上下糸の入れ替えでできた交差目を組み口まで打ち
込むと、前段で組み込まれた軸要素を軸芯にして表面要素が緊迫される。
表面要素を形成するループの上下糸が手順毎に軸要素を隔てて同方向に交差し、その繰り返
しで縄連組織が形成される。
正倉院の縄連組織組紐の要素数は最低3
6から120に及ぶので、複数組み手の協働作業による
組成と考える。原資料は1例(注74)をのぞいてすべて2方向斜行縄連組紐で、1単位の組織の要
素数は図解例の1
6(ループ数8)より多い。このような縄連組織を組成するには、図解例の単
位組織のループ数を増加すればよい。
例えば、3
2要素すなわち2倍幅の2方向斜行縄連平組紐を組成するには、2人の組み手が並
んで、それぞれが8本のループを使って挿図23の手順の左右の半分にあたる単方向縄連組織部
分(挿図2
3の前半および後半)を組み、段毎に2人の隣接端のループを交換して連結する(注75)。
挿図2
3 ループ数8(要素数1
6)
2方向斜行縄連平組紐の組み方
左右の手の親指を除く4本の指にループを1本ずつ掛
けて、掌をほぼ向かい合わせにして作業するので、ルー
プの2本の足が上下に並び、上糸、下糸の関係になる。
小指のループは便宜上指の根本近くに寄せておく。左
!
"
手の小指に掛かるループをa、右手の小指に掛かるルー
プをbとする。
【操作1】右の小指を左の小指、薬指、中指ループの中
に通し、ループaの上糸を下から掬うように取って引き
出す(
「開」移動)
。aが右小指に移る。右小指には2本
のループが掛かっている(!)。移動後ループの足の上下
が変わらない。ループ差し替え。左手のループを人差し
#
$
指の方向に差し替え、右小指に掛かるaを左小指に移し、
指の根本近くに寄せておく。aが左小指に移動("・#)
。
【操作2】操作1の左右を入れ替えた操作を行う。ルー
プbが左小指に移る。左小指には2本のループが掛かっ
ている($)
。ループ差し替え 左小指のループaを右小
指に移す時に今取ったループbを越してaの上糸を掬う
ように取る(
「開」移動)
。bがaの中を通って交差する。
%
&
操作1−2では移動ループの足の上下が移動後にも変わ
らない(%・&)
。
【操作3】左手の全てのループを一本ずつ右向きに半回転して上下糸を入れ替える。同様に右手のループを左向きに捻
る。この操作でループの上・下糸が入れ替わる。
組織を緊迫する。ループの中に掌(または打ち箆)を差し込み、ループの足の交差点を組口にしっかりと押しやる。
操作1から繰り返す。この手順の繰り返しで縄連組織ができる。
(18)
古代の組紐の中で指操作ではなく、手操作で組まれた可能性が考えられるのはこの組紐であ
る。縄連組織組紐の組成原理は手操作でも指操作と全く同じであるが、ループを手に掛ける方
法ではループ数の増減に指の数にこだわる必要がなく、組み手間の連結操作も容易である。
2方向斜行縄連組織平組紐のクテ打組成法と台組み組成法の比較
現行「伝統組紐」で笹波組と呼ばれる斜行縄連平組紐の軸要素の組み込み操作では、まず、
丸台の右端の2要素を1本ずつ両手でとって先ず右から左側中央に、次いで左端の2要素を左
から右中央へと移動する(挿図2
4−1)
。次いで今移動した4本の要素を台の向こう側(上)と
此方側(下)中央に移動する(挿図2
4−2)。これらの移動はクテ打の操作1と2(挿図23)お
よび操作3で中央の2本のループ(a、b)をそれぞれ半回転捻る(上下糸を入れ替える)部
分に相当する。台組み技法の次の操作は、要素上下交換(挿図24−4)で、丸台の上と下に配
置した要素を1本ずつ左右の手で外端から順に入れ替える。クテ打の操作3でaとb以外のル
ープを捻る操作に相当する。挿図2
4−3は挿図24−1、挿図24−2の操作後の軸要素の交錯の
状態を示す。これはクテ打技法で軸要素を組み込む操作を行ったときと同じ要素交錯の状態を
示しており、両技法によって組成される縄連組織が同一であることがわかる。
縄連組織組紐では表面組織を形成する要素の組み込み量は手順毎に軸要素2本分の太さ程で
あるのに対して軸要素は紐幅分が組み込まれるので、2者間の組み込み量には大きな差がある。
クテ打の場合は組み口から手元までのループの長さが2本だけ短くなるという差異が生じる
が、これが紐幅を引き締めるという積極的な効用になる。しかもこの現象は操作毎に循環して
起るので手順の全体として平衡がとれる。すなわちクテ打技法の縄連組織組紐の手順には紐幅
を制御する機構が内蔵されているのである。これは打ち込みさえ均一に保てば紐幅が自然に揃
う結果を生む。逆に打ちが弱まり組目が緩めば、紐幅が広がる。またループ数が増加して軸ル
ープの組み込み量が増加した場合にはこの機構によって表面組織の組み込み量も増加し、その
ために同種要素を使った場合、ループ数が多い紐は少ない紐よりも表面組織の組目が粗くなる。
1
6要素笹浪組の丸台による組み方
挿図2
4−1∼4
丸台による縄連組織平組紐の組み方
まず赤線の操作をしてから青線の操作をする。
【操作1】右最外側の上下2要素を一つずつ左右の手
に取り左側に移動する。左最外側の上下2要素を一つ
ずつ左右の手に取り右側に移動する。今移動した左側
の要素2本を左手に、右側の要素を右手に取り、外向
きに引いて、紐幅を決める。
【操作2】操作1で移動した左上の要素を左手、右下
の要素を右手に取り、矢印の先の位置まで移動する。
操作1で移動した左下の要素を左手、右上の要素を右
手に取り矢印の先の位置まで移動する。
【操作3】台の左端の下要素を左手で、右端の下要素
を右手で取り、上の外端に移動する。その手で中隣の
要素を取り、下の空席に移動する。順に上下位置に対
峙する要素の位置を赤・青の順に交換する。
操作1−3を繰り返す。
(19)
このような、クテ打技法の縄連組織組紐の手順の機構に対して、自由端技法の台組みでは組
み込み量の差異は残り糸の長さの差異になり、組成される本体には影響しない。組目は錘の働
きで軸要素の太さに従って決まるが、自然に広がる傾向がある紐幅は組み手が手順毎に締めて
整えなければならない。そこに組み手の技量が問われる。すなわち、台組組成の縄連組織組紐
では要素数や紐幅の増加が表面組織の組目の疎密に影響しない。以上の理由によって両者で組
成された組紐の出来上がりには根本的な相違が現れる。
クテ打技法で組成された2方向斜行縄連組織組紐の上に記した組成機構の特徴として、以下
の観測可能な現象がある。
1.表面の組織(組目)と紐幅間の連動的関係により、同一の紐で組目が粗くなると紐幅が広
がる。例えば組成中に組み手が変わるなどの原因で打込み方が変って丈方向の組目に粗密ム
ラが生じると紐幅にもムラが現れる。
2.要素数が増加して紐幅が広くなると、軸要素の組み込み量が増加する。その結果、表面組
織が連動的に粗くなる。しかしこれによって全体的には均衡がとれ、矢羽柄の矢羽の開き角
度(口角)にはほとんど変化は見られない。他方、要素数が多い紐と少ない紐の丈方向の組
目と紐幅の増加率を比べると、広幅の紐は狭幅の紐よりも紐幅の増加率が減少する傾向を見
る。これは要素数の増加に基づく紐幅と組目の増加率が幅方向に低いことを意味し、連動の
機構が働いているものと解釈できる。
3.斜行縄連組紐の斜行の角度は各技法の機構の最適の条件によって定まり、組み手が自在に
決められるものではない。クテ打技法組成では上記の連動機構によって組目の粗密と紐幅の
関係が定まり、矢羽柄ならば口角約3
0度近辺の組紐になる。丸台では玉と対抗錘の重量の比
率が組織の傾斜度を統御する機構として働く。しかしその最適条件に合わせて紐幅を自動的
にきめる機能がないために、組み手が紐幅を調節しなければならない。丸台技法では玉と対
抗錘の重量比の機構を変えて口角の大きさを変えることができるが、クテ打技法では機構を
変えることができない。
以下に上記3項目について資料に基づき該当事項を計測して分析解釈した結果を報告する。
計測には、正倉院宝物の組紐実資料のデジタル近影写真、および『正倉院の組紐』の図版、
異なる技法で組成した縄連組織組紐の実物ならびに手に入る写真資料のスキャナー映像を印刷
した画像を用いた。資料の画面が小さ過ぎるものは明確な像が確認できる範囲内で拡大した。
表2
正倉院の縄連組紐に見る矢羽柄の口角と組織緊密度との関係
H平均値(!)
7∼8
8∼9
9∼1
0
1
0∼1
1
1
1∼1
2.
5
1
9
4
4
2
4
2
7
1
8
W平均値(!)
4.
1弱
4.
1強
4.
5弱
5.
1弱
4.
8強
W/H
0.
5
4
0.
4
8
0.
4
7
0.
4
8
0.
4
1
H集積点数
(20)
1の例
同一の矢羽柄縄連組紐に見られる紐幅と表面要素の緊密度の関係
中倉9
3 雑帯第1
9号の例
『正倉院の組紐』に掲載されている全長148"の長尺を保つ紐幅10.
5!の縄連組織平組の縮尺
1/2の図版(注76)に基づき、その組み目と紐幅の関係を調べた(挿図7・25)。この資料は保存状
態が良好で、かつ表面要素の組目と紐幅の不整が見える。
表面組織の緊迫度の尺度として紐丈方向の組目の長さがある
が、それを1目毎に計るのは誤差が多いので、そのメドとして
矢羽柄1郭の長さを取った。紐の全長にわたって、1郭毎に両
耳と中央の3箇所で計測した平均値をH、紐幅はその1郭のな
かで2箇所計測して平均値をWとした。
計測結果は、矢羽柄の各1郭の丈が長くなれば紐幅が広くな
り、丈方向の密度と紐幅に連動関係があることを示す(表2)。
これはクテ打技法によって縄連組紐を組成する場合の特徴であ
り、正倉院の斜行縄連組織平組紐がこの技法によって組成され
たことを示唆する。W/H値は紐幅と矢羽柄の長さの変化の割
合のメドとして取ってみた値で、結果は幅が広がる率が、矢羽
が長くなる率よりも低いことを示している。すなわち幅方向へ
の緊迫力が、矢羽柄が長くなるにつれて強くなることを示し、
挿図2
5 中倉93 雑帯第1
9号
(解説番号3
2:年次報告 表8)
縹・緑・黄矢羽暈繝二条軸一間組
全姿 幅:1.
0
5" 丈:1
4
8"
ここにも紐幅と組織緊密度の連動関係が示唆される。
2の例
異なる矢羽柄縄連組紐間に見られる紐幅と表面要素の
緊密度の関係
クテ打技法組成および正倉院の縄連組織組紐の例
クテ打技法組成および正倉院蔵の要素数の異なる矢羽柄縄連
組紐について、紐幅が広がる量と要素表面の緊密度が変化する
量を比較するためのメドとして、矢羽の口角の半角のタンジェ
ントを計測した(挿図26)。図は組み頭が上になるように描いた
ので、感覚的に倒立するが、図中の半口角を頂点とする直角三
角形の対辺を紐幅の変化のメドに、底辺を要素表面の緊密度の
変化のメドとすると、
半口角のタンジェント=対辺/底辺
は紐幅の変化と組目の丈の変化の比率を表す。タンジェントの
増加は組目丈の増加に対して紐幅が広がる割合が高くなること
をあらわす。これは視覚的には、矢羽の口角が広がる結果とし
て表れる。
要素数4
2、9
2、
12
0の原資料近接写真映像およびループ操作法
(21)
挿図2
6 矢羽柄の半口角のタン
ジェントの計測
半口角を頂点とする直角三角形
の底辺と対辺を測定、対辺/底
辺を計算する。底辺は表面組織
の組み目の長さ、対辺は紐幅の
尺度である。
挿図27 中倉2
0
2 玻璃装古裂2
5
6 雑色組帯残片
(解説番号3
3
2:表5)
挿図2
8 中倉20
2 玻璃装古裂1
0
2 古裂残欠2片のう
ち1(解説番号3
2
6)
表3
矢羽柄2方向斜行縄連平組紐の中心線に対する矢羽の交
角のタンジェントの計測値
資料番号
要素数
対辺値/底辺値
資料1
4
2
0.
3−
資料1
資料2
4
2
0.
3+
資料2
資料3
9
2
0.
3+
資料4
9
2
0.
4−
資料3
資料4
資料5
資料5
1
0
2
0.
3+
要素数4
2 中倉93 雑帯残欠第1
9号(解説番号#3
2、
図版2
0より)
要素数4
2 クテ打技法組成資料要素は木綿6本取り刺
繍糸1本(挿図2
9左)
要素数9
2 クテ打技法補助組み枠を使用して組成した
資料要素は木綿6本取り刺繍糸1本(挿図2
9中)
要素数9
2 中倉20
2 玻璃装古裂2
56 雑 色 組 帯 残 片
(解説番号#3
3
2)
(挿図2
7)
要素数12
0 中倉202 玻璃装古裂102 古裂残欠2片
のうち1(解説番号#3
2
6)
(挿図2
8)
資料2,3は木下雅子作製
組成の要素数4
2、9
2の矢羽柄組紐の作例のスキャナー映像の傾斜度の計測値比較を行い、表3
)
の結果を得た(注77(表3)
(挿図2
7・2
8)。
結果はクテ打技法組成の組紐および正倉院資料は、両者の素材の差異にもかかわらず共に測
定の誤差の範囲内では同値の0.
3になる。誤差の幅を考慮に入れて矢羽の口角は3
4度∼40度以
内で、ほぼ定常という結果である。この範囲内で要素数が多い例は少ない例よりも口角増加の
傾向を示し、これらの組紐にもクテ打技法の縄連組織平組紐手順が備えるループの連動機構が
働いていることが示唆される。
原資料の測定は残欠片2例の近接デジタル写真および図版1枚に基づき、紐のごく一部分を
計測したもので、同紐の全長の他の部分、また写真記録がない他の正倉院の縄連組紐の矢羽の
口角との比較ができないが、クテ打技法組成の試作資料と原資料の測定値の一致には注目すべ
きものがある。
表2および表3から、ループ操作法の表面要素と軸要素の組み込み量が連動する機構が、古
資料番号
要素数
対辺値/底辺値
資料6
4
2
0.
4−
資料7
2
8
0.
6−
表4
台組み組成の縄連組織平組紐の矢羽の口角
資料6
資料8
9
2
0.
5+
#3
2の復元模作品として傾斜角度が鋭くなるように組
んだ丸台組成組紐
資料7 笹浪組 丸台組成
資料8 #3
32をモデルとする唐組台組成(挿図2
9右)
資料6:第九回道明の組紐作品展
表紙
正倉院の組紐復元(中倉
9
3雑帯第1
9号)より
資 料7:山 岡 一 清『道 明 の 組 紐・丸 台・四 つ 打 ち 台(手 工 芸 入
門)
』主婦の友社、1
9
7
6より
資料8:故木下和子氏作製
(22)
代縄連組紐にも働いていることが強く示唆される。
3の例
台組み組成の縄連組織平組紐の矢羽柄の口
角の測定
一般に古代縄連組紐の矢羽柄例では矢羽の口角の
角度が狭く、台組み技法で組んだ縄連組紐の矢羽口
角の開きがこれに比して広いことが対比される。そ
れに対してクテ打技法で組成した縄連平組紐は素材
にかかわらず矢羽の口角が狭く、古代縄連組紐に似
た表情を見せる。
丸台および唐組台(台組み技法)で組成した矢羽
柄組紐の半口角のタンジェント測定値は口角が共に
約6
0度という結果がでて、古代縄連組紐例よりも大
幅に大きい(挿図2
9右)。また資料6は正倉院の組
紐の丸台による復元模造として矢羽の口角が狭くな
るように組んだ例であるが、それでも古代組紐の口
角の誤差範囲より大きい値になっている。
組み目に見る間違い
挿図2
9 ループ操作技法及び唐組台で組成した縄
連組織組紐
左:要素数4
2 中:要素数9
2
ループ操作法組成
(木下雅子作製)
右:要素数9
2 唐組台組成(故木下和子氏作製)
染織資料の中に見える組織不整に基づいて使用された技法を探ることができる。挿図28の縄
連組紐の残欠の中ほどに見える隣接2対の要素が入れ変わっている色柄不整は、ループを使っ
て組むクテ打技法では起る可能性があるが、要素を1本ずつ上下交換する丸台技法では起りに
くい事故である。
クテ打技法以外の技法が正倉院の縄連組紐の組成法であった可能性について
現行「伝統組紐技法」の製作用具の丸台
丸台では古代の資料に見られるような緩い組織の斜行縄連組紐を組むことは機構的にむずか
しいことを既に論じた。
現行「伝統組紐技法」の製作用具の高台
丸台で組成された2方向斜行縄連組紐「笹波組」に類似する同名の組紐が高台(台組み技
法)を用いて組成されているが、これは「三条軸一間組」すなわち軸要素3条の畦織組織であ
る。すなわち高台は斜行交差組織を組成する用具であって、縄連組織組紐の組成には用いな
い(注78)。
プライスプリット(PS)組紐技法
PS組紐技法は縄連組織組成の主要技法の一つである。
PS組紐技法とは、2合ないし4合の撚り糸を要素に使い、その個々の撚り目に同じく撚り糸
の対向要素を通して経および斜行縄連組織その他を組成する組紐技法である(注79)。
丸台やクテ打技法で縄連組織組紐を組成するには、1段毎に要素またはループを操作して並
(23)
列する撚り組織を作って軸要素を組み込んでいくの
に対して、PS技法では既製の撚り糸の撚り目に軸要
!!!
素の撚り糸を通して組む。しかし図版観察では正倉
!!!!!!!!!!!!!
院の縄連組織平組紐の軸要素には撚り糸は使われて
)
いないことが認められる(注80(挿図
3
0)。従って正倉
院の縄連組紐がPS技法で組成された可能性は否定
される。
以上、正倉院の2方向斜行縄連組織組紐がクテ打
技法で組成されたものであることの根拠を記した。
1
2.正倉院の組紐中の少数例の組成法について
正倉院の組紐中に2例(注81)が見られる要素数1
4の
一間丸組の組成方法として、2種の技法例が考えら
れる。1例は台を使うとされているが台なしでも行
える8条一間丸組の自由端組成法で、これを14条一
間丸組組成に応用できる。典拠の記述からはその起
(注8
3)
源は不明である(注82)。他は『糸組圖』
のクテ打手
挿図3
0 中倉20
2 玻璃装古裂2
5
6 雑色組帯残片
(解説番号3
32)
縹・白茶・緑・葡萄・朱・緑混色矢羽柄
二条軸一間組、表面要素が脱落した部分
に残る軸要素が見える。
操作技法の2層綾織組織平組紐の組み方で、これを
一間丸組の組成に応用すれば2箇所に2越の不整がある以外は1越組織の12畝丸紐ができる。
以上2法は、少数例の組紐が素朴な方法で組める可能性を記したまでで、この組み方で組成
された組紐が原資料と同組織であったとしても、それらが実際に用いられたかどうかが確定で
きるわけではない。
4条組の組成法にはコロンビアのワヒラインディアンが使っているループ指操作法と日本で
現在も数珠製作の工程で使われている四つ打台の技法が考えられる。
ワヒラインディアンのループ指操作「丸四つ組」の組み方
この組み方では、1本のループを1本の要素として用いる。
4本のループをまとめて、組頭を支柱に取り付ける。
左右の中指と小指にループを1本ずつ掛ける。
操作1
右人差し指で左小指のループを取る。
操作2
左小指で右中指のループを取る。
右人差し指のループを隣の中指に差し替える。組み目の緊迫。
操作3
左人差し指で右小指のループを取る。
操作4
右小指で左中指のループを取る。
左人差し指のループを隣の中指に差し替える。組み目の緊迫。
以上の操作を繰り返す。
(24)
『正倉院の組紐』の図版には、4条組の房がついている一間組が2例ある。一間組を組むの
に用いたループ2本ずつを4本の要素に分けて4条組に組んだことが、要素数36(実は37)と
される例(注84)では房数が1
8本、2
4とされる例(注85)では房数が12本(推定)であることから確か
められる。紐の本体を組むのに使ったループの結び目をほどき、その2本の足の2合撚り糸の
結び端を2本の指に掛ける。左小指と右中指にはZ撚り、右小指と左中指にはS撚り糸を掛け
て組めばよい。一間組を組んだループ2本のそれぞれをZ撚りとS撚りの2合糸(合計4本)
(注8
6)
に分けて4条組の要素に使ってあるので「双(ならび)四つ」
のように見え、装飾的な効果
がある。
四つ打台の技法とは、世界でも広く用いられている台を使わない徒手の4条組と基本的には
同法で、古代から用いられていたとすることに無理はないが、撚り糸を用いて組む発想にはあ
まり続かない。
ループ技法の組み方は、現行例であり、これまで1件しか見出されていない方法ではあるが、
単純で能率がよく、古くから広く用いられていたと考えても無理がないように思われる。更に、
指に掛けたループを1本の要素とする組み方である点、撚り糸を要素に使っている点でも、既
述した正倉院の一間組の組成法として統一が取れているように思われる。
古代に用いられた技法の多くは中国あるいは朝鮮から伝来したと考えられるが、大陸におけ
るループ操作技法の存在を確定できる事実は、筆者が知る限りでは、!文化に属する西暦紀元
前1世紀の青銅の小鋳像に見られる以外は見出されていない。同時代の漢代およびそれより数
世紀遡る楚代の出土品に見られる斜行組織はループ操作の原理で組成された可能性が高いが、
本稿に含まれるループ操作技法との直接の関連は不明である。
1
3.古代組紐の組成にクテ打の手操作法が用いられた可能性
クテ打組紐技法はループを指に掛けて組む指操作法と、手に掛けて組む手操作法に大別され
る。後者は単に使用可能なループ数を増加したものではなく、独自の操作法を見出して大きく
発展した(注87)。
ループを手に掛けて組む手操作法が単にループを増加するという目的で古代にも用いられた
可能性には根拠となる資料は見出されていないが考察してみる余地がある(注88)。
例えば正倉院の角組ではループ数が8、9、10の例が相当数を占める。また縄連平組紐には
最低でも1
8本のループを必要とする。複数の組み手で組む方法や手操作の可能性を導入するこ
とは容易だが、種々の条件からそれが必ずしも有利であったとは限らない。手操作で組成され
た技法的な可能性と、歴史的な問題点を合わせて考察し、以下の理由から少なくとも正倉院の
角組の組成には手操作法は用いられていなかったと判断した。
・ループ数8の指操作法の使用例(第1法)が外国の記録にあり、第2法でもループ数7以上
の指操作法が使われた可能性が考えられる。
・角組の組成には指操作の方が手操作よりも能率がよいから可能な限りは指操作で組む方法を
(25)
使ったと考えられる。
・原資料にはループ数1
0以上の例がないが、ループ数10が指操作で無理なく組める上限である
ことに合致する。
・要素数1
4(ループ数7)の角組が1
0
5例あり、次に例数が多い要素数16の60例を大きく上回っ
ていることは、指操作法が優先していたことを示す。
・手操作ではループ数1
0以上でも無理なく組めるのであるから、手操作法が使われていたとし
たらその例があってもよいはずだが存在しない。
縄連組紐に関しては使用ループ数が多数であり、指操作から手操作に技法的な問題なしに移
行できるので、手操作であった可能性がある。しかし、手操作技法が古代から用いられていた
とすると、その技法的展開が何故1
2世紀まで起らなかったのかという疑問が残ることに筆者と
してはこだわりがある。仮に手操作が使われていたとしても、ループ操作技法が用いられたと
する基本に支障を与えるものではない。
以上で『正倉院の組紐』に掲載されている正倉院の組紐の構造例について、各資料のクテ打
技法による組成方法ならびにクテ打組紐技法が正倉院の組紐組成に用いられたものであるとす
る仮説の理論的根拠を記述した。本稿により、クテ打組紐技法が正倉院の組紐の構造的特徴を
再現できる機構を内蔵する技法であることを理解して頂ければ幸いである。
附 クテ打組紐技法による古代角組の組成実技再現の試み
クテ打組紐技法で古代の組紐を参照資料とする組紐の組成を実際に試みることによってその
実技の再現をめざす「クテ打組紐技法研究会」は2006年に発足した。研究会として手に届く範
囲内にある情報源をもとに、組んでみない限りわからない材質的、技法的な未知の問題点を探
り古代の組紐組成技法の再現を目指して研鑽している。研究会の最初の課題として、
『正倉院
の組紐』の図版中の角組の組成を技法探索の目標にした。ここに、これまでの結果を試覧に供
する。
正倉院の角組は紐幅が1ないし2!、太いものでも8!ほどの細い組紐である。これは、仮
に市販の2
7中1
0本取りの絹練り糸を使用すれば1条の要素に数本から一番太いもので30数本を
使う程度の細さである。従って、用いる絹糸1本ずつにある本来の太さのムラがその数本を束
にした要素の太さのムラになり、それが更に要素の撚りムラに表われることは避け難い。正倉
院角組に見られる、時に「おおらか」と形容される組み目のムラはこのような絹糸本来のムラ
に起因することが理解できる。
図版から、原資料には組み目がZ傾斜する畝にはS撚りの要素が、S傾斜する畝にはZ撚り
の要素が用いられていて、角組の要素に撚りをかけて組む効果が認識されていたことが推定で
(26)
きる。しかし紐の全長にわたって撚りが定常にかかっていないのは、糸の太さのムラに基づく
撚りムラの他に、用いた組成技法では撚りを一定に保つことが難しかった可能性が考えられる。
クテ打技法では組み込まれていない部分の要素の全長を延ばしたままで作業を行うので、片撚
り糸を用いれば作業中に撚りが片寄ったり、弛んできたりすることを避けられない。すなわち、
クテ打で組んだとすれば原資料に見える組み目や撚りのムラは用糸ならびに用いられた組み技
法に起因するものであることが理解できる。撚りを保つことが難しい技法を使って撚りがかか
っている紐を組むために、撚りムラを減少するような何らかの手だてが取られなかったであろ
うか。
現行の「伝統組紐」技法では角組には組糸に適量かつ定常な撚りが掛かっていることが要求
され、それは組目に見える撚りの定常さによって判断される。台組みはそれが可能な技法であ
り、組み手はそれを目指して修練する。従って台組み技法で正倉院の角組の様な組目にムラが
ある組紐を組むとすれば、故意にムラを組み入れることになるが、そんなことが行われたとは
考え難い。
研究会ではクテを用いて組むことで、少なくともこの問題の多くが解決できることを見出し
!!!!!!!!!!!!
た。
クテ(組手)は組成中に手中に持ったループの順序を保つためにループ手操作法で使われる
補助具である。江戸期の記録から復元した技法を基にする日本古来の組紐技法「クテ打」の名
称はこれに由来する。従ってクテの目的は手操作技法において手中のループ部分を絹糸の代わ
りに太い硬めの紐を橋渡しにして用いることにより、ループの順を保ちその操作を助けること
と考えてきた(注89)。特に多数の細い絹糸の束を順に手中に並べて持つ手操作技法では、クテは
技法が実用になるための必須の用具である。
指操作では必要はないと思っていたクテがモロッコのフェズで使われているのは、絹糸が指
に食い込むのを防ぐためであろうと理由づけていた。他方、経験を積むうちにクテには便宜上
の効用の外に糸の撚りに影響を与える種々の機能があり、クテと要素の間で撚りが細い方に移
行するという現象を利用してループ操作に付随して起る特殊な撚りの問題を回避する、あるい
は利用することができることに気付いた。クテを使えば組成中の組糸の動きで撚りが戻ってし
まうことを防ぐことができる。
クテを使用した効果は明らかで、要素に初めにかけた撚りを有効に保てることがわかった
(挿図3
1)。
クテについては『組!備考』に、2合に撚り合せて漆を掛けた紙撚りで作る例、および『糸
組圖』の針金を使う例を挿図に見るが、種々の可能性を考えることができる。クテに関するこ
れ以外の文献は存在せず、クテのこのような機能が歴史的にどのように理解され、利用されて
いたかについてはわかっていない。日本以外でのクテ使用の記録は現行のモロッコの例以外は
これまでにはない。研究会の実験では、古代の組紐技能者達が片撚り糸の撚りを保つためのク
テの効用を利用していたと思われる結果を得た。
(27)
挿図31 クテ使用の効果
糸:無撚日本刺繍糸(2
7中1
0本取り) 糸数:6本/要素 要素数:1
4 撚り:約2
5
0回転/m
紐でき上がり丈:約2
0
0! 紐幅平均:1.
7!
左列:組み始め 右列:約2
0"組んだ組み終り
上段:クテなし 中段:クテ使用撚り足しなし 下段:クテ使用撚り足し1回(クテ打組紐技法研究会提供)
要素の撚り数については、原資料の観察、試作の結果、紐幅が1∼3!の紐では300回転/#
を、6∼8!の紐には2
0
0回転/#をメドにした。実際には、要素には太さムラに基づく撚りム
ラがあり、更に組んでいる途中で必要に応じて目測で撚り足すこともあるのでこの数値は概算
値である。
現段階では糸材、色などは試作した角組の組織を原資料の写真と比較する時に目障りになら
ないことを目標とし、糸質、製糸方法、染色材料、染法などを含めて模すことを意図していな
い。
正倉院の組紐は現代の組紐の標準よりも緊密度が低いと従来いわれている(注90)。組織の緊密
(28)
挿図32 クテ打技法組成 例1 縹暈!角組
組成中左側に来る面
糸:日本種の蚕品種(繊度1.
8
0デニール)1
5粒を座繰器で
ひいたもの
色:藍染濃淡4色 糸数:4
0本/要素 要素数:1
4
撚り:250回転/# 途中撚り足しあり
出来上がり紐幅:狭幅側約1.
5! 広幅側約1.
7!
紐丈:36" 組み残し分:1
0"
(クテ打組紐技法研究会提供)
挿図3
3 クテ打技法組成 例2 緑筋緑暈!角組
組成中上に来る面
参考資料:中倉9
3 雑帯残欠のうち第2
4号の1(解説番号
42:年次報告 表8) 緑筋緑暈繝 紐幅:4.
5!
糸:市販練り糸(2
7中1
0及び2
7中1
2) 色:藍染縹濃淡3
色に黄檗をかけたものと他の1色は黄檗先染で藍をかけた
もの 糸数:2
0中1
0は2
0本/要素 2
7中1
2は1
8本/要素
要素数:1
4 撚り:約2
3
0回転/#
出来上がり紐幅:狭幅側3! 広幅側4.
5!
紐丈:3
7" 組み残し分:約8"
(クテ打組紐技法研究会提供)
性は外観からは組目の傾斜角度をメドとし、2畝が形成する杉綾の角度が広いほど緊密である。
実際に組んでみて従来の説から受けた印象よりも緊密であることがわかった。
組織を緊迫するための打ち込み法には幾通りかあるが、どの方法を使っても、熟練した組技
と一貫した打ち込みが要求される。その上で、打ち込みの方法は結果の大勢には影響はないも
のと考える。筆者の場合は1人で組む必要上、モロッコで現行されている垂直固定打ち箆に組
口を打ち付ける方法を用いている(注91)。
挿図3
2および挿図3
3に研究会の調査を基に
製作した角組のクテ打による試作2点および
)
比較例(注92(挿図
3
4)の顕微鏡写真を提示す
る。クテ打技法で組成した角組には、組目の
ムラを含めた古代の角組の特徴が巧まずして
再現されることに意味がある。坐繰り藁灰練
りの糸を用いた例1(注93)と市販の練り糸を用
いた例2に見られるケバの様相の差異から、
用糸の練りの問題が提起される。
古代には、紐の作製に当たって糸や紐の法
挿図3
4 比較例 中倉9
3 雑帯残欠のうち第2
4号(6)
(解説番号4
7:年次報告 表8)
紫筋紫・朱暈! 要素数1
8 幅約4.
5!
(29)
(30)
凾装古装11−8
玻璃装古裂1
11
玻璃装古裂2
55
玻璃装古裂2
56
南倉148
中倉20
2
中倉202
中倉202
雑色組帯残片
雑色組帯残片
紫平打紐残片
紫錦剪裁飾
第2
2号鏡紐
雑第2
7号雑色組帯31条
帯緒類35点のうち
南倉147
第2
2号鏡紐
第2
2号細組緒
南倉185 12
6号櫃幡類残欠の内
帯緒類35点のうち
南倉147
雑第2
7号雑色組帯31条
帯緒類35点のうち
南倉147
呉公用具第4
1号の組紐
南倉185 126号櫃幡類残欠の内
呉楽85物のうち
南倉124
呉公用具第4
1号の組紐
雑第2
7号雑色組帯3
1条
呉楽8
5物のうち
南倉124
南倉1
85 126号櫃幡類残欠の内
円鏡第9号付属の緒
南倉 70
雑第2
7号雑色組帯31条
円鏡第9号付属の緒
南倉 70
3
3
1
第1
0号付属
紐類残欠第14号
紐類残欠第1
1号
紐類残欠第3号
第2号
南倉185 12
6号櫃幡類残欠の内
目録外組紐類
目録外組紐類
中倉
目録外組紐類
粉地彩絵几
中倉177
中倉
雑色!綬帯
中倉101
中倉
雑色!綬帯
雑色!綬帯
中倉101
雑色!綬帯
白組帯
中倉 96
中倉101
白組帯
中倉 96
中倉101
馬鞍10具のうち
正倉院宝物の目録号数
正倉院宝物の組紐表(中倉93号雑帯残欠以外)
中倉 12
表5
(20)
また2片の内
(19)
また2片の内
(18)
また2片の内
(13)
また2片の内
(2)
2種
(2)
(1)
(2)
(2)
(1)
(2)
(1)
(4)
(1)
平帯
褥鏡縁飾
(2)
(1)
鞍付属
一間組
一間組
一間組
一間組
二条軸一間組
一間組
一間組
三間組
撚り紐
四間組
角組
四間組
四間組
一間丸組
一間丸組
角組
角組
一間組
四間組
角組
四条組
二条軸一間組
一間組
二間組
二間組
撚り紐束組
紐種類
要素数
5
3
5
7
5
7
5
2
4
6
(9
2)
不明
不明
1
4
3条左撚り
1
8
1
4
1
6
1
6
1
4
1
4
1
6
(1
8)
K
1
4
(1
6)
K
6
0
14
1
4
4
5
4
6
8
3
2
(3
3)
6
8
(6
9)
9
6
(訂正値)
8.
9
0
2.
8
0
0.
3
5
2.
9
0
0.
5
0
1.
0
0
1.
0
0
0.
2
5
0.
7
5
0.
7
5
1.
0
0
1.
0
0
0.
1
0
0.
10
4.
5
0
0.
40
0.
1
8
0.
1
2
1.
30
5.
5
0
1.
70
4.
3
0
房7.
0
8.
9
0
1
0
6.
5、房3.
0 8.
40
1
05.
0、4
6.
0、
備
考
色斜格子
白茶地・錆朱・紫・黒紫・緑混
格子
白茶地・黒紫・紫・錆朱混色斜
格子
白茶地・黒紫・紫・錆朱混色斜
紫地錆朱暈繝斜格子
色
縹・白茶・緑・葡萄・朱・緑混
白茶地緑紫斜格子
紫無地
縹・朽葉・錆朱啄木
朱・茶・白各1条
縹地朱・緑混色
茶地朱暈繝
緑無地
紫無地
錆朱筋紫暈繝
白茶筋緑暈繝煙
紫地錆朱暈繝
紫地縹暈繝
錆朱地紫暈繝斜格子
紫地薄紫筋 右強撚糸
白無地 4条組に組んである
白無地
白茶地紫暈繝矢羽(片よせ)
様々な佩飾を下げる
緑・紫・朱・白茶暈繝斜格子、
房長0.
8 白無地
房長10.
0 白無地
約0.
3
0 紫無地二重菱
幅!
1
37.
2、房7.
0 9.
00
43.
0
2
2.
5
6
6.
3
39.
5
6
3.
5
9.
5
3
2.
5
3
2.
5
8
4.
0
6
2.
0
3
4.
0
2
3.
0
2
14.
0
2
08.
0
丈!
3
5
4
3
5
3
3
5
2
34
7
33
2
331
328
30
0
24
8
24
7
22
7
21
4
21
3
18
9
18
8
17
2
16
9
16
6
16
5
12
4
11
8
103
8
5
83
82
12
解説番号
2
2
5
3、86
2
5
8
8
8
8
4
1
3
8
6、58
52
44左
21、8
2
7、8、92
18、6
9
18、6
9
55
図版番号
『正倉院の組紐』『正倉院の組紐』
量に対して何らかの規格があったのか、組紐の作製にはどのような人が関わっていたのかなど
については、ほとんど何もわかっていない。組紐調達の経路、職業集団の存在の有無などにつ
いても記録を見ない。これらの疑問については今後の研究が待たれる。
謝
辞
本論考の執筆にあたり、正倉院事務所の協力を得て、宝物の実見観察、写真撮影を許可頂き、既版の図
書、論考に基づいて行ってきたこれまでの研究に新たな考察を加えることができた。米国ニューヨーク市
メトロポリタン美術館名誉館員梶谷宣子氏、
(財)元興寺文化財研究所員小村真理氏には論文を通読して
適切懇切な御忠言をいただき心から感謝する。更に、現地での採録写真を使わせて頂いた日下部啓子氏
(挿図2)
、高岡洋子氏(挿図1
3)
、カノミタカコ氏(挿図1
4)
、ループ組紐技法研究会(挿図3
1∼3
3)
、今
回の写真撮影をお願いした(財)元興寺文化財研究所員大久保治氏、顕微鏡撮影をお願いした同小村真理
氏の諸氏に感謝する。また元興寺文化財研究所には顕微鏡機具の貸与、2
0
0
8年には研究会例会の会合場所
を提供して頂いた。角組の試作は、研究会会員の参画の成果である。
本稿について、諸賢の御批判と御指導を願えれば幸甚である。
用語と凡例
*本稿では、古代とは主として飛鳥・奈良時代を指す。
*本稿で参照する「図版」と「図版番号」は『正倉院の組紐』掲載の正倉院収納資料の図版とその掲載番
号に従った。また、本稿にのぼる原資料組紐については、後注に『正倉院の組紐』掲載の箇別解説番号
(解説番号)で指定し、中倉9
3所属の組紐は本号年次報告「調査3 染織品」
1
2
4・1
2
5頁の表8に、それ
以外は本稿最後につけた表5に参照できるようにした。
*組み組織とは斜行組織で、1群の要素が基本的には「斜行交差」し、必要に応じ「捻り」および「絡み」
組織に換えて組成したものとする(挿図3
5)
。
「組む」とはそのような組織を組成する行為であり、
「組
紐」とは、そのような組織をもつものの中で、要素数に対して紐幅の組織目数が相対的に少なく、耳の
組織が体部の構造と一体になって形成されているものとする。
*平組紐には織り組織名を借り(例えば平織)
、それに「組織」の語を加えて斜行組織であることを表し
た。
*組紐構造を形成する基礎になる糸または糸束を「要素」とし「条」で数える。
*「ループ操作組紐技法」とは、組み糸が2本ずつループ状に連繋されていて、そのループを1単位とし
て移動させて組む組紐技法である。これに対し、要素の操作端が個々に切り離されていて他要素に関係
斜行織り組織
挿図35 「組み」の基本組織
斜行平織様撚り組織
木下雅子作製
(31)
絡み組織
なく移動することができる組紐技法を「自由端操作技法」とする。
*連繋されてループを形成する2本の組み糸のそれぞれをループの「足」と呼
ぶ。ループを指に掛けて構えた状態では、2本の足は上糸、下糸の位置を取
る。
*ループ操作技法による組紐の組成には、通常要素の組み始めの端をまとめ
た「組み頭」を支柱に固定する。丸台では組み頭に錘を装着して台の中央の
穴から下げた浮動端である。
*本稿では、原則として出来上がった組紐を、
「組み頭」を上に、
「組み操作
端」を下に位置して論ずる。
*要素が既に組み込まれた部分と、まだ組み込まれていない部分の境目を「組
み口」とする。
*知られているループ操作技法の大多数は「ループを指に掛け掌をほぼ向か
い合わせ(あるいは上向き)
」に構えて作業する方式である。この方式の技
法は、ループ移動を外側指(人差し指)で行う「第1法」
(またはハ字型組
み口法)と内側指(小指または薬指)で行う「第2法」
(またはソ字型組み
口法)に大別できる。
挿図3
6 三つ組には、S
傾斜畝とその逆向きのZ
傾斜畝の2畝が並ぶ。つ
まり一面が「ソ」ならば
他面は「ハ」字形組目の
畝を持つ2畝組紐である。
*ループを指で取り、移動する作業を「操作」
、移動を行う指を「操作指」と
する。
*一連の操作を行うと、以後はそれを繰り返して組紐が組成される。この一連の操作が「手順」である。
*組紐は手順を繰り返して組成されるので、同じ組織目が組紐の丈の向きに並ぶ。この1列に並んだ組み
目列を「畝」と呼ぶ。例えば組紐の中で最も単純な構造を持つ三つ組組紐では、左上から右下に向いて
走るS傾斜の組み目とその逆向きに走るZ傾斜の組み目が交わり「ソ」あるいは「ハ」の字を描いて並
んでいる(挿図3
6)
。つまり三つ組は要素数3条の2畝平組紐である。
*「ループ差し替え」とはループ移動によって空いた指に隣のループを移動し、次の操作指が空き指にな
るまで順送りに空いた指に隣のループを移動することで、操作毎に全てのループ技法で必ず行う。素早
い、確実な動きが効率を支える。1人組では組み手の片手内で行うことが多いが、複人数組では両手、
或は隣接する組み手間にわたって行われる場合がある。
*挿図9∼1
1・1
5・1
7・1
9・2
2∼2
4・2
6・2
9・3
5・3
6は木下雅子が撮影および作図を行った。
(きのした
まさこ
ループ組紐研究情報センター主宰、クテ打組紐技法研究会会長)
(32)
注
(1)用語と凡例は本稿の末尾に付記した。
(2)宮内庁正倉院事務所編集『正倉院の組紐』平凡社、1
9
7
3(再刊 2
0
0
0)
。
(3)木下雅子『日本組紐古技法の研究』京都書院、1
9
9
4。同「正倉院組紐の技法についてI」
『衣生活』
3
1 No.
1、同「正倉院組紐の技法についてⅡ」同誌3
1 No.
6、1
9
8
8。同
‘Braids on Early Japanese
Banners,’ Sacred and Ceremonial Textiles Proceedings of the Fifth Biennial Symposium of the Textile Society of America Inc, 1997.
(4)『糸組圖』著者不明、年代不明。江戸時代の手写本。国立国会図書館所蔵。
(5)後者は江戸時代の記録『止戈枢要』から筆者が復元した技法で、本稿の主題に直接には関係しない。
(6)重要無形文化財に指定されている手組み組紐技法の名称。本稿でもそれに従うが、略して「台組み
技法」ともする。
(7)『正倉院の組紐』
、p.
2
6。
(8)『正倉院の組紐』
、p.
2
7。
(9)「クテ打による日本古組紐復元研究会」を改名。
(1
0)ほかに、足で刀箆を作動させて組み口を打つ足打台(日本)
、逆に固定直立する打ち箆に組み口を
打ち付ける打ち具(エジプト、モロッコ)
、など1人で長い紐を組むための用具もある。
(1
1)法隆寺献納宝物中に推古天皇の几帳の垂飾と伝えられる唐組があるが、正倉院宝物には含まれて
いないので、本稿では論及しない。
(1
2)通常現行「伝統組紐」では8要素(玉)の角組を角八つ、それより要素数が多いものは奈良組と呼
び慣わしている。
(1
3)下鳥正憲校注『止戈枢要抄』自家出版、1
9
4
0、序巻を含めて全7巻の第6巻、p.
5
9。
大関増業撰『止戈枢要』第1
4
2巻 『組!備考』第1巻。
山木薫著『くみひもの研究』綜合科学出版、1
9
7
8、p.
6
2。
土山弥太郎『組紐:東京の帯締め羽織紐』自家出版、1
9
8
0、p.
7
6。
(1
4)典拠によれば整組織とは限らないが要素数は1
1以下の奇数に限られ、外に別名で知られる同基本
構造で要素数が1
3のものがある。
(1
5)解説番号2
4
7(表5)
。
(1
6)1越1沈の平織組織であるが、経・緯糸共に2本以上の糸が並行して織り入れられている組織。バ
スケット織ともいう。ななこ織では同じ組目に組み込まれた2本の組み糸のそれぞれを独立の要
素として2本に数えるが、2本が共に働く本稿の技法では1本と数える。
(1
7)解説番号3
2
8、解説番号3
3
1(表5)
。
(1
8)解説番号3
4
7、解説番号3
5
2、解説番号3
5
3、解説番号3
5
4(表5)
。
(1
9)解説番号1
4、解説番号1
5、解説番号1
6、解説番号1
8、解説番号2
0、解説番号2
1、解説番号2
2、解説
番号2
4、解説番号2
6、解説番号2
7(年次報告 表8)
。解説番号8
5、解説番号1
6
6(表5)
。
(2
0)前注中のうち解説番号1
6、解説番号1
8、解説番号2
0、解説番号2
2、解説番号2
6、解説番号2
7
(年次
報告 表8)
。
(2
1)解説番号1
7、解説番号1
9、解説番号2
8(年次報告 表8)
。
(2
2)解説番号8
2、解説番号8
3(表5)
。
(2
3)平織の経糸と緯糸の平衡が一方に片寄って経糸あるいは緯糸の一方のみが表面を覆う織組織。経
畦織と緯畦織がある。
(33)
(2
4)解説番号1
0
3(表5)
。
(2
5)解説番号5
5、解説番号5
6(年次報告 表8)
。
(2
6)解説番号1
8
8、解説番号1
8
9(表5)
。
(2
7)解説番号1
1
8(表5)
。
(2
8)解説番号1
2
4(表5)
。
(2
9)解説番号2
0、解説番号2
4など(年次報告 表8)
。
(3
0)Zapata, Marta R., WARE’KERU , Carbones de Colombia, 1999.
(3
1)5人の技法伝承者の全てがこの3種の組み方を知っていた訳ではない。
(3
2)蛇腹組は角組の名称とされる場合もあるが、ここでは2畝平組紐を意味する。
(3
3)一緒にして内側指で操作することもある。
(3
4)ノエミ・シュパイザーによって導入された、組紐の立体的な構造、組成過程を平面上に表示する有
効な解析法である。
(3
5)当時、
「ループ操作組紐技法」という技法の名称はなかった。
(3
6)Bernel, Susan S., ‘Slentre Braiding’ Shuttle Spindle & Dyepot, v. 9 no. 2 Spring, 1987.
(3
7)新井白石筆写『七十一番職人歌合絵巻』
、1
6
7
5、宮内庁書陵部所蔵。原作は甘露路親長(1
4
2
4∼
1
5
0
0)歌、土佐光信(1
4
3
4∼1
5
2
5)画、東坊城和長(1
4
6
0∼1
5
2
7)詞書といわれている。
(3
8)北村訓子「道具を使わずに組む方法の記録」
、多摩美術大学大学院修了レポート、1
9
7
5。
(3
9)カノミタカコ「カレン族の衣装:タイの染織」
『染織と生活』第3
1号、1
9
8
0、p.
1
1
3。
(4
0)Gudjónsson, Elsa E., ‘Icelandic Loop-Braided Bands: Krílud Bönd,’ Bulletin de Liaison du Centre Internationale d’Étude des Textile Anciens, 49, 1979.
(4
1)Bel, A and Ricard, P., Le Travail de la Laine a Tlemcen, 1913.
(
(
(4
2)Lebedeva, N. I. ‘Priadenie i tkachestvo vostochnykh slavian v. XIX-nachel xx v.,’ Trudy Instituta Etnografii
(
im. N. N. Mikluho-Makalaia n. s., 31, 1956.
(4
3)Dussan de Reichel, Alicia, ‘La Mochila de Fique,’ Revista colombiana de folclor, v. 2, no. 4, 1960.
Roth, Walter, ‘An Introductory Study of Arts, Crafts and Customs of the Guiana Indians’, Report US bureau
of American Ethnology, no. 38, 1916.
(4
4)
ニュース第1号(1
9
9
8)
,第3号(2
0
0
0)
,第5号・第6号(2
0
0
2・2
0
0
3)
,第8号∼第
1
1号(2
0
0
5∼2
0
0
8)
。http://www.lmbric.net
(4
5)玉渓地区行政公署編『雲南李家山青銅器』雲南人民出版社、1
9
9
5。
(4
6)Speiser, Noémi, ‘Old English Pattern Books for Loop Braiding,’ Privately published, 2000.
(4
7)The Tollemache Book of Secrets: Treatise for Making of Laces, 1
5世紀、手稿。
(4
8)Speiser, N., ‘Seventeenth Century Pattern Books,’ Bulletin de Liaison du CIETA 50, 1979-Ⅱ.
(4
9)Crowfoot, E., and Pritchard, K. S., Textiles and Clothing c.1150-c.1450: Medieval finds from Excavations
in London, Museum of London, HMSO: 1992.
(5
0)Rothenberg, Beno., Egyptian Mining Temple at Timna, contributions; H.G. Bachmann ... [et al.], Institute
for Archaeo-Metallurgical Studies [and] Institute of Archaeology, University College London; Farnborough,
Hants.: Distributed for IAMS by Thames and Hudson, c 1988.
(5
1)小村真理「古典に見る組みの周辺と楚の組紐」
(財)元興寺文化財研究所編『元興寺文化財研究所創
立4
0周年記念論文集』元興寺文化財研究所民俗文化保存会、2
0
0
7。
(5
2)木下雅子「大葆台漢墓出土の八角目複合組み組織の纓の組成法について=On Construction Method
(34)
of a Lacy Silk Fabric Fragment from Tomb No.1at Ta-bou-tai(大葆台)Excavation Site(1974)」国際服
飾学会誌=Journal of International Association of Costume, no. 15, 1999.
(5
3)以上の研究結果がいずれも仮説のままでいるのは、これらを取り上げて検討する第3者研究者が
いないためである。
(5
4)American Fabrics, No. 10, 1949.
(5
5)Swales, L. & Williams, Z. K., Fingerloop Braids, The Compleat (sic.) Anachronist #108,: 2000.
(5
6)解説番号1
6
9は箇別解説には要素数1
4になっているが、実は1
6;解説番号1
7
2(表5)
。
(5
7)
『正倉院の組紐』
、p.
2
6、挿図2
0・2
1。
(5
8)無地であっても要素配置は同じであるが、色がある場合には違いが見える。
(5
9)
『日本組紐古技法の研究』
、p.
2
9
5∼2
9
7。
(6
0)慣習的な初期色糸配置とは作業しやすい色糸配置に置くことである。
(6
1)解説番号3
3、
(年次報告 表8)
、解説番号1
6
5、解説番号2
4
7、解説番号3
0
0(表5)
。
(6
2)著者不明『真野家傳故實糸組手付』
、手写本、江戸後期、道明組紐司所蔵。
(6
3)解説番号2
4
7(表5)
。
(6
4)解説番号2
1
3、解説番号2
1
4(表5)
。
(6
5)解説番号2
6(年次報告 表8)
。
(6
6)例として8玉の「双四つ(ならびよつ)
」などがある。
(6
7)松本包夫・今永清二郎『日本の美術 No.
3
0
8 組紐』至文堂、1
9
9
2、p.
2
2。
(6
8)Crickmore, Ingrid,
7本より多数のループを使う不正規組織組紐の組み方。イラストL-M組紐入門
シリーズ no. 11
ニュース
第1
1号、2
0
0
8.
(6
9)解説番号2
7、解説番号1
9(年次報告 表8)
。
(7
0)時には同じ向きの撚り糸が用いられている。
(7
1)解説番号1
9(年次報告 表8)
。
(7
2)解説番号2
6は書中の記載では要素数1
0
2になっているが、実測では1
0
3である(年次報告 表8)
。
(7
3)解説番号3
2(年次報告 表8)。ただし『正倉院の組紐』の縄連組織平組紐の要素計測値には間違い
と目されるものが数例あるので、実際にはループ数奇数の例がもっとあるかもしれない。
(7
4)解説番号1
0
3(表5)
。
(7
5)ループ数1
2(6×2)の2人組の例がイギリス1
5世紀の記録に見られる。
(7
6)解説番号3
2(年次報告 表8)
。
(7
7)要素数4
2の資料は中倉9
3雑帯残欠のうち第1
9号(解説番号3
2)
(年次報告 表8)
。
(7
8)前掲注(6
7)書。
(7
9)Collingwood, Peter., The Techniques of Ply-Split Braiding Unicorn Books and Crafts, 1998.
(8
0)解説番号3
3
2(表5)
。
(8
1)解説番号1
8
8、解説番号1
8
9(表5)
。
(8
2)木内菊次郎『実用花むすび』実業の日本社、1
9
0
9。
(8
3)前掲注(4)
。
(8
4)解説番号2
0、図版3(年次報告 表8)
。
(8
5)解説番号2
4、図版1
2(年次報告 表8)
。
(8
6)8要素ななこ織組織筒状組紐、各組み目に要素が2本ずつ組み込まれている丸四つ組。
(8
7)日本におけるその技法の開発は平安期のもので、本稿の主題から外れる。
(35)
(8
8)筆者の早期の著書、論文では「手操作技法」も古代から用いられたものとしている。
(8
9)同時に用糸の無駄量を減らすことも挙げられている。
(9
0)
『正倉院の組紐』
、p.
2
3。
(9
1)Sorber, Frieda.1
9
8
7、私信。
(9
2)解説番号4
7、紫筋紫、朱暈!角組(年次報告 表8)
。
(9
3)小村眞理代表「文化財の復元材料としての絹糸の調査−古代から近世のループ操作技法による組
紐を中心として」平成1
5∼1
8年度科学研究費補助金
番号1
5
5
2
0
4
2
2)
、
(財)元興寺文化財研究所、2
0
0
7。
(36)
基盤研究(C)
(2)研究成果報告書(研究課題
Fly UP