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英国における付加価値税の評価

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英国における付加価値税の評価
Kobe University Repository : Kernel
Title
英国における付加価値税の評価(Pros and Cons of Value
Added Tax in the United Kingdom)
Author(s)
中村, 一雄
Citation
国民経済雑誌,145(4):47-60
Issue date
1982-04
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00172699
Create Date: 2017-04-01
英 国 にお け る付加 価値税 の評価
中
村
雄
Ⅰ
英国においては1
9
7
3年 4月 1日に, それ まで3
3年間にわた って課税 され てき
た仕入税 と僅か 7年間の課税に終 った選別雇用税 とを同時に代置す る新税 とし
て付加価値税が導入 された。その後早や 9年 の歳月が経過 したが, その間に同
税は税率構造の変更や税務行政 の簡素化な どに よって定着 し,1
9
8
0年度には国
0%を越え次第に重要な位置を占め るようになってきた。他面1
9
7
9年
痕収入の2
6月のサ ッチ ャー政権の誕生 と共に所得税の最高税率が83%か ら6
0%へ引下げ
られた代償 として付加価値税率が 8%か ら1
5%へ大幅に引上げ られ るとい う高
所得者優遇政策が とられて以来, 同税の物価への悪影響が顕著 となってきてい
る。
わが国では昭和5
4年に大平内閣が一般消費税の導入に よって歳入欠陥を一挙
に打開 しようと試みたが, 同年 の総選挙 の敗北に より歳 出削減 と公平税制の実
現 の道を選択せ ざるを得な くな った。 しか し,予算編成の過程において見 られ
るt
よ うに歳出 と歳入の帳尻を合わせ るための調整工作は年 々困難を極め るよ う
になってきた。歳出増の要求は さすがに少な くなっているが,所得減税 の声は
次第に高 ま りつつあるので,そのための財源手当を何に求め るかが今 日的な課
題 である。人 口の老齢化が急速に進行す るわが国においては,将来更に歳 出増
の要求が当然に待ち構えてい る。 この ような情況の中で多額の歳入を長期にわ
た って安定的に確保 してゆ くには,多収性のある税 目を選んでその特徴を十分
慎重に検討 してお く必要がある。その有力な候補の 1つ として最近再び一般消
費税を推す動 きがある。幸い同税はその性質上今 日ヨーロッパ諸国において行
48
第 145 巻
第
4 号
なわれている付加価値税 と全 く同 じもの と考えて よいか ら, これ ら諸国の長年
にわたる経験か ら多 くを学ぶ ことができるはずである。
昨年バース大学のサ ン ドフォー ド教授等に よって出版 された 「付加価値税の
費用 と利益」の中に,英 国において付加価値税が どの ような評価を受けてい る
9
7
8年に 「直接税の
かを判断 しうるような調査結果が示 されている。同教授は1
構造 と改革に関す る報告」を発表 したいわゆる ミー ド委員会 の メンバーの一人
である。彼はバース大学 の財政研究セ ンターの他の メンバーと共にセ ンタ-長
として付加価値税に関す るアンケー ト調査を企業に対 して行 った。公式に明記
された調査 目的は, 同税の徴税に一役買 う立場にある各企業に対 して どれほ ど
の負担をかけ ることになっているか, どの種の企業が最 も大 きな負担を蒙 るか,
何か企業に見返 りとして利益を与えるであろ うか, な どを実態に即 して明 らか
に し,同税の改善に役立 てることとされている。 しか し,最終 目標は これ らの
点についての調査結果か ら一般的な傾 向を読み取 り,それ らの事実関係が同税
に対す る各企業の賛否 の立場 と結びつけ られ るか どうかを探 ろ うとす る点にお
かれている。
Ⅰ
Ⅰ
サ ソ ドフォー ド教授等に よる全国調査の概要は次の通 りである。
1
9
7
8年 3月31日現在 の登録業者1
2
7万 4千の中か ら年間売上高1
0
0万 ポ ン ド以
上の企業の 3% とそれ未満の企業の0
.
7
5%が任意抽 出に よって選ばれ る。その
9
7
7年 7月31日以降の
中か ら移転や破産や登録取消手続中のものを除 き,更に1
比較的新 しい登録業者を除いて最終的に 9
,
0
9
4の業者が調査の対象 とされた。
ア ソケー トはサ ウスエ ン ドにある付加価値税統合本部か ら同年 9月2
0日に直接
に業者に送付された。その後 2回にわた って督促状 も発送 された。1
1月2
2日ま
で電話での問い合せに も応 じられ る態勢が とられた。その結果 2
,
8
5
7通が回収
され, 3
1
.
4%の回収率に留 まった。その うち2
,
7
9
9通が調査 日的に耐 える程度
の回答を示 した。
英国における付加価値税の評価
49
その後追跡調査が4
4
5の業者に対 して行なわれ,その うち3
8
7は電話に よる聞
8は面接方式で回答が補完 された。更に疑問 とされ る点は同税の専
き取 りで,5
門税理士,会計士,同業組合などと協議 して明らかに してゆ く方法が とられた。
調査項 目は, 業種,取扱品 目とその適用税率,納税額,年間売上高,従業員
数,取 引1
件当 りの平均取引高,イ ンボイスの年間発行枚数,売上金 と支払金
の決済期間,記帳形態,税務処理に要する経費,税務相談や委託の状況,税務
処理上困難を感 じる点, 同税に対する賛否の立場,税務知識の入手先,税務係
官の立入検査回数 と時間,副次的利益の存否,な ど3
6項 目にわたっているO こ
れ らの回答を華礎に して付加価値税の税務処理に伴 う納税者の経費負担の実態
を業種別 ・売上規模別に把握 しようとす るのが調査の直接の 目的である。
一般に納税協力費 とい うのは納税額そのもの とは別に税制上の要件を充足す
るために納税者又は第三者の負担 となる費用のことであって,その課税の結果
生ず る生産又は消費における超過負担 とも区別され る。税務行政費は徴税過程
で税務当局の負担 となる費用であって狭義の徴税費である。納税協力費 と税務
行政費 との合計が広義の徴税費 と考え られ る。申告納税制度が徹底 している国
では前者の費用が比較的大き く,賦課税制度を とる国では後者の費用が相対的
に大 きいのであるが,広義の徴税費を最小にすることが政策 目標の一つでなけ
ればならない。
この全国調査では税務行政費について政府の公式統計を若干手直 しした もの
を用いて業種別 ・規模別の資料を作成 し,納税協力費 と比較可能な次元に揃え
る方法を とってい る。
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
まず納税協力費についての調査結果か ら見てみ よう。
1
9
7
7年度の英国の付加価値税の納税協力費総額は3
9
,
2
0
0万ポン ドと推定 され
ている。 この金額は同税の納税事務に要す る使用者及び従業員の延労働時間を
報酬で換算 した もので,精神的苦痛や社会的費用など計測不可能なものは除か
5
0
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第
4 号
れ てい る。税 務相談 のた めの電話料や旅費, 同業組合や経営者協会か ら受 け る
助言に対 す る共益 費 の分担金 な ど計測可能 な もので も算入 され ていない もの も
ある。精 神的苦痛 は, 直接税 の場合 の よ うに会計士 に よって帳簿上 の記入が完
備 しておれば殆 ど問題が ない の と異 な り, 税 務係官が営業 の現場に立 入検査を
行 うことが許 され てい る点 に あ る。 この場合 には会計士 の果たす役割がない。
また, ゼ p税 率 の適用品 目を取扱 う業者 につ いては, 無納税者 であ りなが ら多
額 の納税協 力費を 負担 しなけれ ばな らない こ とに対 す る憤 りが強 く, 反税感情
を誘発 する。 また非課税 品 日を扱 ってい る業者が更に課税 品 目に も積極的に手
を広げ よ うと決断す るか, 複数税 率にわた る品 目の営業をや めて税務処 理 の簡
単な単一税率 の品 目に限定 しよ うと消極 的な態度を とるかほ, 納税協 力費 のあ
り方に よって大 き く左右 され る ことにな る。
新規 に事 業を始 めた り, 事業を拡 大す る場合 に, そ の税務処理 に必要 な知識
を習得す る時 間 と費用が一時的納税協 力費 とな るO また,新税が導 入 された り
税制改正が あ る場合 に も, 同様 の費用が関係業界に発生す る。新 しい税制 が定
着す る とそ の後 は経常的 な税 務処理に必要 な一定水準 の納税協 力費だけが毎期
第 1表 部門別 ・売上高別平均納税協力費 (
ポンド)
一 次
亨
\
- 産
萱
卜
。業
製
造
業
建
設
業
運 輸 通 信 業
小
業
卸
売
業
金 融 保 険 業
自
由
業
売
その他サ-ビス業
(
公務を含む)
49
2
1
0
.
95⊆ 9
5
9
,
0
.
1
9
41 91
9
9
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I
3
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8
9
.
1
1
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上
以
,
4
0001 加
辛
義
均
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86
1
1
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1
07
272
1
96
2
79
2
7
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4
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92
51
7
51
3
1,
22
0
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9
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0
80
1
6
5
7
4
1
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1
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1
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0
21
1
3
02
23
5
23
7
35
3
35
4
305
31
8
31
7
665
7
63
53
5
61
9
43
7
1,
923
4,
71
4
87
7
3,
786
3
09
291
43
0
47
5
1
2
3
266
47
4
3
63
1
,1
5
6
1
,
71
4
380
1
21
2
03
31
4
607
5
8
4
1
,
75
6
3
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,p.5
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.
英国における付加価値税の評価
51
発生す る。 バース大学の調査は税制改正の時期を避けて行われてい るか ら,氏
較的納税協力費は過少に評価 されてい ると考え られ る。
第 1表か らわか るように,納税協力費は農林水産業及び鉱業を含む一次産業
において極めて低い水準を示 してい る。売上高の規模別に見てもすべての段階
において平均水準を下回 っているが,規模 の上昇 と共に平均水準に近 くな って
いる。 これは農業生産物には広範囲にゼ ロ税率が適用 されてお り,仕送 り状の
発行枚数 も少な く,簡易記帳が認め られてい ることに よるものである。逆に金
融保険業 (
不動産,広告, コンサルタソ ト,電算機サービス等を含む) では平
均納税協力費をかな り上回 ってお り,売上高当 りの経費負担率でも高い水準を
示 している。小売業についても大規模経営になるほ ど税務処理が煩雑化す るた
め人件費や機械化に伴 う経費が増大 してい る。一般的には最終消費者 との取引
関係が多 くなる業種ほ ど納税協力費が高 まる傾 向にあると言えそ うである。 し
か し,売上高当 りの経費負担率で見 る限 りは殆 どの業種において売上高の伸び
とは逆進的に小規模経営ほ ど負担率が高 くなっているのが特徴である。
Ⅰ
Ⅴ
これに対 して1
9
7
7
年度の付加価値税 の税務行政費は 8
,
5
5
0万ポ ン ドと発表 さ
れてい る。 同税 の税収総額は 4
2
3
,
5
0
0万 ポ ン ドであったか ら,約 2%に相当す
る。 バース大学財政研究 セ ンタ-の調査期間が仮に これに対応す るもの と考え
.
2
5
%に相当 し,総徴税費は
ることが許 され るとす ると,納税協力費は税収の9
l
l
.
2
7%に達す ることになる。 しか し, この税収に占める徴税費の割合が直ち
に税務行政の効率を反映す るもの と速断す ることはできない。税率が年度途中
で大幅に引上げ られた1
9
7
9
年度においてほ税収総額に占める納税協力費 の割合
は5
.
9
2% まで激減 し,税務行政費 も 1
.
3% まで下 っている。 これは決 して技術
的な徴税効率の上昇を意味す るものではな くて,税率改正に よる付加価値税収
の伸長に よるものに過 ぎない。
また,徴税効率に関す る国際比較を行 う場合に,英国の ように EC諸国の中
5
2
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第
4 号
で も特にゼ ロ税率の適用品 目が多い国では税収に比 して総徴税費が大 き くなる
ことは避け られないか ら,単に税収総額に占める徴税費の割合の大小のみで判
断す ることは片手落ちになることに注意 しなければな らない. この ような場合
には,む しろ税務行政費 と対比 しての納税協力費 の割合を尺度 とす る方がベメ
ーであると考え られ る。 同一国の異時点間の比較 では, この比率が低下 してゆ
く傾 向は納税者に とって貯 ま・
しい ものであ り,度 々の税制改正は この傾 向に逆
行す るであろ う。 しか し,国際間の比較では この比率の低い国が必ず しも徴税
効率が良い とは限 らない。分母,分子共に本来絶対額が大 き くて も比率は小さ
い ことがあ りうるか らである。比較 の対象 となる国 々の制度上 の相違を よく吟
味 した上で比較可能な尺度を 目的に応 じて用い る以外に方法はない。
業種別 ・規模別の税務行政費 の比較に関 しては,全国調査の資料の中か ら税
務係官が付加価値税 の課税 目的を もって立入検査を行 うに要 した平均時間数を
利用 して推定 しよ うとしている。
「最近の立入検査において係官は延べ何時問ほ ど滞在 しましたか」 とい う企
業に対す るア ンケー トの回答結果を用 いて業種別 ・売上高別に分類 した ものが
第 2表 税務署員の平均立入検査時間 (
単位一時間)
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3
.
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第 2蓑である。 これに よると平均滞在時間は一次産業が特に短 く,卸売業が最
も長 くなってい る。売上規模 の増大 と共に滞在時問 も長 くなる傾 向にあるが,
特に1
0万 ポ ン ド以上の売上規模 の企業に対 してほ立入検査が厳 しい ように思わ
れ る。小売業については小規模 の場合に も比較的長い時間がかか るようである。
更に税務行政費 の よ り正確な分布状態を明 らかにす るためには,立入検査の
頻度が問題 とされ なければな らない。 この点の調査結果では大規模企業ほ どよ
り頻繁に検査が行 なわれてい る。公式の発表では,売上高 1
0
0万 ポ ン ド以上の
0
0万未満2
5
万 ポ ン ド以上は 2年毎,2
5
万未満 2万
企業に対 してほ毎年 1回,1
5千 ポ ン ド以上は 3年毎, 2万 5千 ポ ン ド未満は 4年毎の税務調査 となってい
るo 勿論税務職員の中には一般管理事務や窓 口業務に従事 してい る者があ り,
これを業種別 ・売上規模別に割振 ることは困難であるが,その 2分の 1を単純
に登録企業数に比例 して配分 し,残 りの 2分の 1を前 述の係官 と同様に年 間の
延調査時間数に応 じて按分す る方法を とっている。
その結果は,比較的登録企業数の多い小売業
礼) とその他サ ー ビス業
(
1
,
2
7
4
,
2
0
0社 の うち 2
8
0
,
2
0
0
(
2
6
2
,
9
0
0
社) の税務行政費が4
0
%以上を占めること
8
1
,
1
0
0社 もある売上 5万ポ ン ド未満の小規模企業の税務
にな り,規模別で も 8
行政費が5
5
%を占め るのに対 し,1
0
0万 ポ ン ド以上の大企業 (
約 3万社) のそ
1
%に も満たない。 また,還付額の大 きい一次産業 と建設業において税務
れは1
0
%がつ ぎ込 まれているのに対 して,税収に5
0
%以上の貢献をす る
行政費の約2
製造業については僅か1
2
%で足 りている。規模の小 さい方か ら8
0
%を占め る売
0
万ポ ン ド未満 の企業では, 付加価値税の納付税額 と徴税費 とがほぼ釣合 っ
上1
ている状態にあ り税収の純増に貢献 しない とい う結果が示 されている。
先に述べた ように税務行政費の売上規模別配分の基準が窓意的であるか ら,
この結論が必ず しも正 しい とは思われない。 しか し,その点を別 として も,秤
加価値税の税務執行 を全 うす るためには全取引段階におけ る遺漏のない取引把
握が不可欠であるか ら,特定の段階におけ る収税力の低 さを理 由に してその部
分をカ ッ トすれば直ちに他の段階の取引把握に も影響が及びい っそ うの収税力
5
4
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第
4 号
の低下を招 くことになる。 この点が所得税の税務執行 と趣を異にす るところで
ある。従 って付加価値税 の税務行政費については,仮に妥当な基準に基づいて
徴税費の分布についての分析がな された としても,その結果は同税 の税務執行
の全体 としての効率な り公正な りを保持す る上で必要な一騎 であるとい う観点
を抜 きに して評価す ることはできない し,直ちに税務行政費の節減に利用す る
こともできないであろ う。
む しろ問題は小規模企業に比較的重い負担 となる納税協力費をいかに して軽
減できるかである。その負担が税務執行上重要不可欠な法定の要件を整えるた
めのものであれば, これを回避 させ ることはできない。 しか しその負担の中で
いかなる意味においても当該企業の利益に結びつかない部分は純粋の徴税費 と
して国費で還付す ることもできない ことではない。事実 ア ンケ- トの回答の中
で 「
納税なき税務協力費の支 出」に基づ (憤 りが付加価値税に対す る強い反対
の根拠 となっている。
Ⅴ
これに対 して,付加価値税制は一定の条件の下において特定の業者に副次的
利益を与えることがある。 この点についての調査結果は大略次の通 りである。
付加価値税制は納税義務者に納税協力費を負担 させ ることに よって不利益を
与える反面,徴税過程において一時的に納税資金が手元に滞留す るために資金
繰 りの上で予期 しない利益を与えると言われ ている。一都の還付を請求す る業
者については, この点で もむ しろ還付期 日の遅滞 のために不利益を受ける可能
性がある。
英国では 3カ月毎の納税期間の経過後 1カ月以内に納税義務者が税務当局に
納付すれば よい ことになっているか ら,仮に最終期 日に納付す るもの とすれば,
徴税額の 2分 の 1が平均 して 3カ月間手元に滞留 し更に 1カ月分の徴税額が年
間を通 じて利用可能 となる計算が成 り立つ。つ ま り年間の付加価値税額をTと
すれば,基T・去T-嘉Tが平均 して納税義務者 である企業の手元資金 として
英国における付加価値税の評価
5
5
利用可能 となる。逆に同税の還付請求を必要 とす る企業の場合には, 1カ月毎
の還付期間の経過後 1カ月以内に還付 され るか ら,最悪の場合には年間還付額
になる。
そ こで, この点の有利不利を評価す るために最低貸付利率を適用 して推定受
取利息 と推定支払利息の額を算定 し,納税義務者に与える純利益を評価 してい
る。1
9
7
7年度では年利子率を 7% として受取利息相当分 9
,
2
0
0万ポ ン ドに対 し
,
9
0
0万 ポ ン ドとな り差 し引 き7
,
3
0
0万 ポ ン ドの受取超過 と見積
支払利息相 当分1
られ てい る。
商品取引に伴 う手形 の支払猶予期間を考慮す ると,取引額が付加価値税額だ
け嵩上げされ るために資金繰 りに及ぼす影響を無視す ることができない。支払
手形 と受取手形 の期限が同 じであると仮定 しても,手形 の額面は通常の営業活
動では受取手形 の総額の方が大 きいはずであるか ら,それに見合 う付加価値税
の納税期間が より短い場合にはむ しろ立替納税に伴 う利子負担が発生 し不利益
を蒙 る結果 となる。 中小企業において仕入代金の支払期限が比較的短 くて売上
代金 の受取期限が長い ような場合には, この種の不利益が発生す る可能性が高
い。 また賃金や利息の支払分は遅滞が許 されない ことを考慮す ると, これ らに
対す る課税を含む付加価値税は受取手形 の期限が長ければ長いほ ど追加的な金
利負担を企業に課す結果 となることに注意 しなければな らない。
他方で付加価値税の申告納税に必要な帳簿組織の整備や電算機の導入が経営
管理 の上での利益につなが ることも考慮 して納税協力費 の一部を割引 くのが妥
当である。
以上を総合 して付加価値税の実施に伴 って生ず る納税協力費の純額を推定 し,
これを業種別 ・売上高別に整理 して売上高当 りの比率で表わ した ものが第 3表
の ようになっている。 明白な傾 向は売上高の大 きい企業ほ ど納税協力費 の負担
率が急速に低下 していることであるO-件当 りの取引高や一 日当 りの取 引件数
が大 き くて も納税協力費に殆 ど影響を及ぼ しそ うにない ことは容易に想像 され
5
6
第 145 巻
第 、
4 号
第 3表 売上高に占める納税協力費純額の割合 (
%)
So
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,p.9
9.
るが,資金 の滞留に よる金融上 の利益 は取 引高に比例 して発生す ることに注 目
しなけれ ばな らない。
この よ うな情況 の下 で同一商品の販売をめ ぐる価格競争が大企業 と中小企業
の問で行 なわれ るとすれば,付加価値税 の納税協力費だけについてみて も大企
業の競争条件は有利 であ り, その費用を製品価格に含めて消費者に転嫁す るこ
とがで きるのに対 して, 中小企業は価格競争 の結果消費者- の転嫁を断念せ ざ
るをえない ことになろ う。付加価値税の導入前 において競争上限界企業の位置
を占め ていた小企業 の中には, 同税 の導入 と共にその存立 の基盤が失われ るも
の も現われ る。
そ こで, 国家が不公正な競争条件を創 り出 した ことを理 由に して,企業 の側
で も租税を回避す るために様 々な脱法行為が工夫 され ることにな り,一般的に
納税道徳 の低下を招 くこともあ る。
Vl
3
6
項 目にわた る質問事項 の中で付加価値税制度に対す る賛否の態度が比較的
英国における付加価値税の評価
5
7
明瞭に読み とれ るのは次の ような質問に対す る納税者の回答である。
(
+1
) 付加価値税は簡単な徴税方法である。
(
-1
) 同税の作業は他の業務の妨げ とな る。
(
-1
) 多数 の他 の租税 の方が付加価値税 よ りも効率的である。
(十1
) 同税の作業はあま り気にかか らない。
(
-1
) 同税はあま りに も複雑であ る。
(
十1) 同税の会計処理は仕入や販売を効率的に管理す るのに役立 っている。
(
+1
) 同税はすべての関係者に満足に機能 してい る。
(
-1
) 同税の納税額を算出す るのに時間が とられ過 ぎる。
上記の質問に単純に 同意すれば文頭 の評点がつけ られ,強 く賛意を示せば評点
が 2倍にな る。逆に,反対 の意 向を示せば評点の符号が変わ る。 どち らとも言
えない場合は 0点をつけ る。 これ らの評点を合計 して業種別 ・規模別に示 した
ものが第 4表であ る。
当然の ことなが ら上記の質問において付加価値税に最 も強い賛意を示す場合
は総点が +1
6とな り,逆に最 も強 く反対の意向を示せば -1
6となる。結果 は僅
第 4表
付 加 価 値 税 の 平 均 評 点
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5
8
第 145 巻
第
4 号
かの例外はあるが全体 としてみれば同税に対 してやや反対 の態度が現われてい
る。その中でも建設業界 と小売業界,それに 自由業では反対の気持が強 く出て
いる。売上規模の小 さい段階で反対が特に強い懐 向にあるのは建設業, 自由業
と小売業であ り, 1
00万 ポ ン ド以上の売上規模の小売業では中立的な態度が示
されているのが特徴である。製造業は 5万ポ ン ド以上の規模ですべ て中立 とな
っている。 これは,特に手元資金繰 りの点で利益の大 きい大規模小売業 と製造
業において,納税 協力費の側面での不利益をカバーできていることを反映 して
い るもの と解釈 され る。一次産業では納税協力費が どの業種 よりも低か った こ
とか ら, ここで も反対 の意向が弱 く現われてい る。
建設業界において特に反対 の意向が強いのほ次の事情を反映 してい るもの と
思われ る。新築 ・改築な どの工事 の請負契約についてはゼ ロ税率が適用 され る
のに対 して,修繕や維持補修に関 しては標準税率で課税 され る。 この両者の工
事の線引きをめ ぐって トラブルが多いために,建設業界では付加価値税に対 し
て好意的でない ことは明らかである。 この ような複数税率の適用や一部免税が
ある業種については,付加価値税額を算定す るための特別の方式が準備 されて
いるために, この方式を理解 し算定業務を行 う上での煩雑 さに対す る不満 も聞
かれ る。小売業やその他サービス業において顕著であ る。
付加価値税制に対す るコメン トを 自由に記入 させ る項 目では, 1
,
539通の回
,7
33点の コメン トを得 てい るが,その うち1
,
096が同税に対 して批判的
答か ら1
2
4が好意的な内容であった。労力 と経費のかか り過 ぎ (
1
75),納税
であ り, 2
113), 税制の複雑 さ (
79), 廃止の
なき徴税協力者 とな ることに対す る不満 (
要求等 (
7
6)
,旧仕入税への復帰の希望 (
6
8),税務当局の手引書への批判 (
59)
な どだけで批判的見解の過半数を占めている。その他の意見 も,表現の相違は
あるが,上記 6つの見解のいずれかに近い ものが多い。 ゼ ロ税率や免税措置に
対す る批判,建設業界の特殊問題,小規模企業の処遇な ど個別問題に言及 して
い る反対論は比較的少数である。その中でも資金繰 りの悪化を訴えているもの
4もあるのが 目立 ってい る。賛成論の中では記帳組織 の改善を挙げているも
が4
英国におけ る付加価値税の評価
59
の2
7
を除けば多数についての論拠が不 明確である。中立的な コメン ト (
4
1
3
)の
中に分類 されてい る単一税率への移行
(
1
2
3
)
,納税協力費の公 費 負担 の 要 求
(
61
),直接税や小売売上税に よる代置 (
83) な どの意見はむ しろ反対論 とも
解釈 され るか ら,全体 として見れば コメン トは付加価値税制に対 して厳 しい評
価になってい ると考え られ よう。
最後に,個別の回答用紙に関す る事例研究がなされてい るが,その中の多 く
について付加価値税の費用 と利益の比較秤量を読み取 ることはできてち,その
事 と回答者が同税に対 して与えている評点 との関係を どの ように理解 した らよ
いのかが不分 明なままであるように思われ てな らない。例えば年間売上高 5億
5千万 ポ ン ドの大規模製造業者のケ-スで,納税協力費が61
,
75
0ポ ン ドである
のに対 して資金繰 りの上での利益が2
1
万 8千 ポ ン ドも発生 し,差引1
5万ポ ン ド
以上の利益が計上 され てい るに も拘 らず付加価値税に対 して -5の評点をつけ
てい る。逆に,1
0
万 ポ ン ド未満の小売業で差引僅か1
4ポ ン ドの利益を計上す る
に過 ぎない業者が +11の評点をつけてい る。
この よ うな不整合な回答が生 まれ るのは止むを得ない としても, ア ンケー ト
の結果が記入者の主観に よってあま り大 き く左右 されない ような工夫が必要で
あった ように思われ る。大企業の場合には記入者が給与所得者 としての従業員
の立場 で考 えるケ-スが どうしても多 くな り,副次的な利益の発生をあま り評
価 しない ことが予想 され る。
今回の付加価値税に対す る評価はあ くまでも経営体 としての企業の立場か ら
なされ ようとしてい るもの と解すべ きであ る。 しか し,客観的に付加価値税に
対す る社会的評価を明らかに しようとす るのであれば,最終の担税者である消
費者の立場か らの評価を抜 きに して考えることはできないOその意味ではバー
ス大学の調査は片手落ちであった と言えるか も知れない。折角の企業に対す る
大規模な調査であっただけに,各業界毎の市場の競争条件 と同税の帰着 の関係
を明らかに し うるような調査項 目を設定す ることができれば よか った と思われ
る。その面か らも同税の副次的利益 と損失が見込 まれ るか らである。納税協力
6
0
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第
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費の算定 です らかな り悪意的な仮説 の上 に成 り立 ってい るのであるか ら, 同程
度 の大胆 さを もって臨めば, まだ まだ経済的利益 と損失 の調査は幅広 く可能な
ように思われ る。
付加価値税は一度導入 され るとその多収性 の故に欠陥が指摘 され ても容易に
代 り財源を見つけ ることができな くな る税 目であ るo特 に近年 の英 国の よ うに
物価騰貴が激 しい時期には,税率が一定 の ままでも急速に しか も悪循環に よる
物価上 昇を招 ぐ怖れがあ る。 この よ うな視点か らの付加価値税に対す る見解を
も加 えてイギ リス国民の生活実感を反映 した総合的評価が待たれ るところであ
る。
参
考
賓
料
[1] C.T.Sandf
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[2] R.
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980.
[3] A.A.Tai
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2.
[4] NEDO, Val
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,London,HMSO,1
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.
[5] He
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[7] HMCE, No
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[8] HMCE, No
[9] Br
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『
付加価値税の分析視点』
,「神戸大学経済学研究」年報18,昭和46
年。
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1
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] 中村 一 雄 『
英国における付加価値税の実態』
,「国民経済雑誌」第 139巻第 5
号,昭和54年 5月。
[
1
2] 中 村 一 雄 『
小売段階における付加価値税』
,「国民経済雑誌」第141巻第 5号,
昭和55年 5月。
[
1
0] 中 村 一 雄
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