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IFRIC 第 15 号 「不動産の建設に関する契約」
第 10 号 2008 年 7 月 IFRS outlook 増刊号 IFRIC 第 15 号 「不動産の建設に関する契約」 背景 建設を開始するかなり以前から開発物件の営業活動を行うことは、不動産開 発業者によく見られる慣行であり、こうした活動は建設期間全体にわたって継 続される。 典型的な「オフプランの」(すなわち、工事が完成する前の)販売取決めにおい ては、買主が開発業者との間で完工時に特定のユニットを購入する売買契約 を締結している。通常、買主は預託金の支払いを要求されるが、この預託金 は開発業者が契約どおりにユニットを引き渡しできなかった場合に限り返金請 求が可能となる。 こうした取決めに関する会計処理は、これまで一貫性がなかった。すなわち、 開発の進捗度を参照し、建設工事の進行に応じてこれらの取決めから生じる 収益を認識する不動産開発業者がいれば、完成したユニットが買主に引き渡 されたときにはじめて収益を認識する不動産開発業者もいた。 IFRIC 第 15 号では、このような会計処理の多様性の問題に取り組んだ結果、 不動産の建設が完工する前に開発業者と買主との間で合意に達している場 合、不動産ユニットの販売による収益及び関連費用をいつどのように認識す べきかについて明確化されている。さらに、本解釈指針は、契約が IAS 第 11 号又は IAS 第 18 号のいずれの適用対象となるかについての決定方法に関す る指針も示している。 本解釈指針の発効により、IAS 第 18 号付録の現行の不動産に関する指針 (例 9)は廃止される。本解釈指針は、2009 年 1 月 1 日以降に開始する会計 年度から適用され、遡及的に適用される。 る。これが当てはまらない場合には工事契約の定 義は満たされず、このような取決めは IAS 第 18 号 に基づき会計処理されることになる。 本解釈指針の要約 本解釈指針の適用範囲 契約が IAS 第 11 号又は IAS 第 18 号のいずれの 適用対象となるかに関する主要論点が、建設活動 を含む契約のみから生じることから、IFRIC は、本 解釈指針を「不動産の建設に関する契約」と名付 けた。本解釈指針は不動産業界以外に適用される ことを意図していないが、IAS 第 8 号のヒエラルキ ーに従い、不動産以外の業界に対しても類推適用 可能である。 契約が IAS 第 11 号又は IAS 第 18 号のいず れの適用対象となるかについての決定 不動産の建設に関する契約が IAS 第 11 号又は IAS 第 18 号のいずれの適用対象となるかの判定 は、契約の条件及びそれらを取り巻くすべての事 実や状況により決まる。このような判定には、各契 約についての判断が必要となる。IAS 第 11 号は、 工事契約の定義が満たされたときに適用される。 ある企業がオフィスビルの建設のために一区画の 土地を購入するケースを想定する。この企業は見 込み買主に対してオフィスビルの営業活動を行い、 そのうちの1社とオフィスビルの販売及び建設に関 する契約を締結する。この結果、買主は土地や未 完成のオフィスビルを企業に返還することはできな くなる。さらに、開発における主要な構造上の意思 決定はすべて企業が下し、買主は設計に対する影 響力をほとんど又はまったく有していないものとす る。 この取決めは 2 つの構成部分に区分しなければな らない。 • 土地の販売に関する部分 • 開発物件の建設に関する部分 土地の販売に関する部分は、IAS 第 18 号の適用 対象となり、IAS 第 18 号第 14 項の要件が満たさ れたときに収益が認識される。これに対して、建設 に関する部分はそれほど単純明快ではない。ここ では、取決めが IAS 第 11 号に従って工事契約の 定義を満たすかどうかが主な問題となる。これは、 契約の条件及びそれを取り巻くすべての事実及び 状況によって決まり、各契約についての判断が必 要となる。契約内容を特徴付けるものの中で最も 重要なことは、買主が不動産の構造設計の主要な 要素を実際に具体的に指定しているかどうかであ 2 本解釈指針ではさらに、取決めが工事契約ではな くサービスの提供に関する契約であるときには、工 事進行基準を採用し取引の進捗度を参照して収益 を認識できると述べている。つまり、企業がこのよ うなサービスを履行する際に、建設用資材を購入 及び供給しないことになる。結果として、ここでも IAS 第 11 号の規定が収益認識において適用され ることを意味する。 契約上、建設用資材とともにサービスを提供するこ とが求められている場合、これは「物品の販売」と みなされる。このような場合、所有に伴うリスク及 び経済価値が継続的に買主に移転するのであれ ば、開発業者が進捗度を参照して収益を認識する ことが可能である。たとえば、建設が完成する前に 契約が解除され、買主が仕掛工事を留保し、かつ 企業が履行済みの作業に対する支払いを受ける 権利を有する場合には、それは支配が所有権とと もに移転されていることを示すかもしれない。この 場合もやはり、IAS 第 11 号の進捗度の原則が適 用されると考えられる。 残念ながら本解釈指針は、連続的な移転という概 念が実務上どのように運用されるべきかについて は詳述していない。企業は、通常は所有と関連づ けられるほどの継続的な管理上の関与、又は建設 された不動産に対する有効な支配を留保しないこ とを立証する必要がある。これは非常に主観的で ある。たとえば、企業が一定期間について買主の 投資に対する利回りを保証する場合、これは管理 上の関与が企業に留保する場合の典型的な例に なりうる。このような場合、収益認識が遅れる可能 性がある。 最後に企業が、不動産に対する支配とその所有に 関する重要なリスク及び経済価値を全体として完 成時にだけ移転する場合には、IAS 第 18 号第 14 項の要件のすべてが満たされたときにのみ収益が 認識される。 開示 IFRIC 第 15 号では、企業が「継続的な移転」テスト を満たしたために、工事進行基準を適用する場合、 IAS 第 11 号第 39 項及び第 40 項の開示規定が 適用されることを定めている。このような場合、企 業は以下の事項を開示する。 IFRIC 第 15 号 不動産の建設に関する契約 • 工事が進捗する中で、契約が IAS 第 18 号第 14 項のすべての要件を継続的に満たしてい るか否かをどのように判断しているか • 当期に当該契約から生じる収益の金額 • 進行中の契約の進捗度を決定するために用 いられる方法 影響 不動産開発業者の多くは、開発物件に関する収益 認識を見直す必要がある。 IFRIC 第 15 号では工事進行基準が採用できる場 合を明確化しているが、ほとんどの国において、そ のために必要な要件を満たしている取決めはあま りないものと思われる。要件を満たしていない取決 めについては、工事が完成するまで収益(よって、 利益)の認識が繰り延べられることになる。■ IFRIC 第 15 号 不動産の建設に関する契約 3 図:不動産の建設に関する単一契約の分析* 不動産の建設以外の構成部分を契約の範囲内で 識別できるか(例:土地販売又は不動産管理サー ビスの提供)? A 契約を個別に識別可能な構成部分に分離する 各構成部分に対して受領した又は受領できる対価 の公正価値を配分する 他の商品又はサービ スの引渡しに係る部 分 不動産の建設及び直 接関連するサービス に係る部分 A IAS 第 18 号を適用す る 4 IFRIC 第 15 号 不動産の建設に関する契約 A 契約又は構成部分は 建設契約の定義を満 たしているか? はい 契約又は構成部分は IAS 第 11 号の適用 範囲内の建設契約で ある 収益及び費用は進捗 度を参考にして認識 される 契約又は構成部分は IAS 第 18 号の適用 範囲内のサービスの 提供を対象とするも のである 収益及び費用は進捗 度を参考にして認識 される 商品の販売による収 益認識の基準は継続 的に満た さ れている か? 収益及び費用は進捗 度を参考にして認識 される いいえ この契約又は構成部 分はサービスの提供 のみを対象とするも のか? はい いいえ 契約又は構成部分は IAS 第 18 号の適用 範囲内の商品の販売 を対象とするもので ある はい いいえ IAS 第 18 号第 14 項 のすべての条件が満 たされたときに収益 は認識される *出典:IASCF:IFRIC 解釈指針第 15 号「不動産の建設に関する契約」 IFRIC 第 15 号 不動産の建設に関する契約 5 Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト・アンド・ヤングについて アーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、税務、トランザクショ ン・アドバイザリー・サービスなどの分野における世界的なリーダ ーです。全世界の14万4千人の構成員は、共通のバリュー(価値 観)に基づいて、品質において徹底した責任を果します。私ども は、クライアント、構成員、そして社会の可能性の実現に向けて、 プラスの変化をもたらすよう支援します。 詳しくは、www.ey.com にて紹介しています。 「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リ ミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル・ネットワークを指し、各 メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グ ローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは 提供していません。 新日本有限責任監査法人について 新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ヤングのメンバ ーファームです。全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁す る監査法人業界のリーダーです。品質を最優先に、監査および保 証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提 供しています。アーンスト・アンド・ヤングのグローバル・ネットワー クを通じて、日本を取り巻く世界経済、社会における資本市場へ の信任を確保し、その機能を向上するため、可能性の実現を追求 します。 詳しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介しています。 アーンスト・アンド・ヤングの国際財務報告基準 (IFRS) グルー プについて 国際財務報告基準(IFRS)への移行は、財務報告における唯一 最も重要な取り組みであり、その影響は会計をはるかに超え、財 務報告の方法だけでなく、企業が下すすべての重要な判断にも及 びます。私たちは、クライアントによりよいサービスを提供するた め、世界的なリソースであるアーンスト・アンド・ヤングの構成員と ナレッジの精錬に尽力しています。さらに、さまざまな業種別セクタ ーでの経験、関連する主題に精通したナレッジ、そして世界中で 培った最先端の知見から得られる利点を提供するよう努めていま す。アーンスト・アンド・ヤングはこのようにしてプラスの変化をもた らすよう支援します。 © 2010 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は、一定の編集を経た要約形式の情報を掲 載するものです。したがって、本書又は本書に含まれる資料のご利用は一 般的な参考目的の利用に限られるものとし、特定の目的を前提とした利 用、詳細な調査への代用、専門的な判断の材料としてのご利用等はしない でください。本書又は本書に含まれる資料について、新日本有限責任監査 法人を含むアーンスト・アンド・ヤングの他のいかなるグローバル・ネットワ ークのメンバーも、その内容の正確性、完全性、目的適合性その他いかな る点についてもこれを保証するものではなく、本書又は本書に含まれる資料 に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害につい ても一切の責任を負いません。 6 IFRIC 第 15 号 不動産の建設に関する契約