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閲覧・ダウンロード - 日本マーケティング学会
ブランド価値評価に基づ
く 広告投下水準の決定に
関する考察
ブランド価値評価に基づく
下水準の決定に関する考察
Vol.1 No.2
春山 稔
ドゥーリン・ドルトン
日本マーケティング学会ワーキングペーパー Vol.1 No.2
発行: 2015年01月17日 更新: 2015年01月19日 https://www.j-mac.or.jp/wp/dtl.php?wp_id=2
広告投
ブランド価値評価に基づく
広告投下水準の決定に関する考察
春山
稔
日本マーケティング学会ワーキングペーパー Vol.1 No.2
https://www.j-mac.or.jp/wp/dtl.php?wp_id=2
目次
序論 ブランド・マネジメントと広告の果たす役割 ..................................................................... 3
第 1 章 ブランド及びブランド・エクイティとは何か ..................................................................... 4
第1節 ブランドとは何か ...................................................................................................... 4
第2節
ブランド・エクイティとは何か .................................................................................. 5
第3節
ブランド・ロイヤルティとカスタマー・エクイティ ........................................................ 7
なぜ広告投資を行うのか ......................................................................................... 10
第2章
第1節
広告の長期的効果 .............................................................................................. 10
第 2 節 インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション(IMC).................................. 13
第3節
IMC から IBC へ .................................................................................................. 15
第 3 章 ブランド評価に関する考察 ........................................................................................ 18
第 1 節 ブランドの価値を測定する ..................................................................................... 18
第 2 節 経済産業省のブランド価値評価モデル .................................................................. 21
第 3 節 インターブランド社のブランド評価モデル ............................................................... 22
終章:まとめと今後の課題 ...................................................................................................... 34
謝辞 ................................................................................................................................... 34
補論-2 日本型ブランド‐コーポレート・ブランドに関する考察 .................................................. 37
参考文献 ............................................................................................................................... 42
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日本マーケティング学会ワーキングペーパー Vol.1 No.2
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序論
ブランド・マネジメントと広告の果たす役割
マーケティングにおいて 4Ps を考える以上に、ブランド・エクイティ(あるいはブランド価値)向上
を考えることが年々重要になってきている。無形資産としてのブランドが、企業にとって財務上大き
な影響をもたらすからである。そのことはドラッカーがマーケティングの役割を定義したこと、つまり、
「マーケティングの理想は販売を不用にすることである」と言う提言に相反するものでもなく、まして、
セグメンテーション(S)、ターゲティング(T)、ポジショニング(P)といった考え方を否定するものでも
ない。
コトラーはブランドを「企業の商品を規定するまたは競合(品)と差別化する、名称あるいは、表
現(Term)、サイン、シンボル、デザイン」と定義した。このことは上記の STP と完全に符合する。
ブランド(あるいはブランディング)は企業戦略上なくてはならないものになっていることは周知
の事実である。
筆者は日々進化するブランド(ブランディング)論に着目し、ブランドなるものを可視化する責務
を痛感する。なぜならば、後述するがブランドと広告は不可分なものであり、米国百貨店王のジョ
ン・ワナメーカーが指摘した「広告の半分が無駄なことはわかっている。問題はどの半分が、無駄か
がわからないことだ」と言わしめた命題に対する答えを出す絶好の機会であると考えたからである。
筆者はマーケティング及びマーケティング・コミュニケーションが成功する絶対的な方法論はな
いことは十分承知しているが、成功する確率を上げる方法論は存在すると信じる。そしてその答え
はブランドをどうマネジメントするかである。ブランドをマネジメントすることは企業をマネジメントする
ことと同義語ではないだろうか。
企業はすべてのステークホルダー(投資家、株主、従業員、地域住民など)に応えなければなら
ないし、永続性が追求されるものである。ブランドも同じである。ブランドがあるからこそ企業は存在
するのである。その意味においても筆者の研究は無駄ではないと確信する。
「マーケティング予算、とりわけコミュニケーション予算策定の際には、増額予算法、売上高比率
法、競争者対抗法、目標基準法などが広く用いられている。しかし、これらいずれの方法も、さまざ
まな水準のコミュニケーション活動が、売り上げとキャッシュフローにどのような影響を及ぼすかと言
う根本的な問題を考慮していない。」(Doyle (2000) 邦訳書 pp489-490)
今日の企業は企業の最終受託者である株主を重視する傾向にある。マーケティングが ROI や株
価にどのような影響をもたらしたかを考えることは必然的なものであろう。
では、どういった方法でブランド価値を創造・維持していくのか。その為の予算の策定はどのよう
に行うのか。本研究では、先行研究におけるブランド論、ケーススタディを研究し、ブランド価値を
創造・維持するためのコミュニケーション予算の策定を研究する。
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第 1 章 ブランド及びブランド・エクイティとは何か
第1節 ブランドとは何か
では無形資産におけるブランドとは何か。ブランドとはどのように生まれてくるのか。ブランドは何
によって構成されているのであろうか。
アメリカマーケティング協会は「個別の売り手もしくは売り手集団ノ商品やサービスから差別化す
るための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」といってい
る。(Kotler, Keller (2006) 邦訳書 p340)
また、ケロッグ経営大学院ブランド実践講座によれば三つの語源があるということである。「一
つ目は火をおこしたり、家庭の炉辺に火をくべたりすることを意味する“Burning”(燃える)。二つ目
は所有や消去不可能性を意味する“Marking”(印をつける)、そして三つ目は、危険を与えること、
もしくは危険から救出することだ。ブランドは変化をもたらす情熱の炎、ブランドは獲得するものであ
り、一族の形成を外に示すものだという。さらに、ブランドとは、差異化するものが有形化されたもの
だ。ブランドは授けられるもの、獲得するものであり、約束でありプレミアム価格を課すための免許
である。ブランドとは人の心理に働きかけて合理的な思考を妨げる手っ取り早い方法であり、作り手
の精神を吹き込むことであり、この本質を胎内に宿らせる行為である。また、パフォーマンスであり、
集積であり、インスピレーションである。さらにブランドは記号論的アプローチであり、仲間意識であ
り、企業の姿を立体的に映し出すものだ。ブランドは契約であり、関係性であり、保証である。」
(Tybout, Calkins, (2005) 邦訳書 p49)といっている。
ジャン・ノエル・.カップフェレは「ブランドというものは、一見簡単そうに見えて、実は捕らえがた
い概念である。誰もが典型的なブランドというものをすぐに思い浮かべることができるが、満足のい
く定義づけのできる人は非常に少ない。また、どの定義も完全でないように見える。
すべての定義はある意味正しく、ブランドというものはこれらすべてのことである。ある人は製品
の名称について語り、またある人は付加価値、イメージ、期待について語る。一方で製品を差別化
するロゴや製品特性について言及する人もいる。実際、製品、ロゴ、そしてイメージなしにブランド
は存在し得ない。ブランドは部分と全体の両方である。それは製品やサービスのマークであると同
時に、有形・無形の満足を約束する包括的な価値でもある。」また、「ブランドの第 1 の機能は認識
された機能を軽減することである。消費者は購買時にリスクがある場合、当然ながらリスクを減らそう
とする。そのひとつは金銭的リスクであり、物理的リスク、食品業界においてはブランドが安心を付
与することが求められている。ブランドは心理的なリスクにも反応する。ブランドの第 2 の機能は、消
費者の生活をより容易にすることである。ブランドは、消費者が求める最終便益を明確に位置づけ
ることで選択行動を単純化するのだ。また、ロイヤルティも購買行動を単純化し、身近にある物がも
はや日々の生活から切り離せない一部として感じさせ、やがて親しみと信頼を作り出す」(Kapferer,
(2000) 邦訳書 p14, pp44-45)とも語っている。
また、ピーター・ドイルによれば、ブランドは当然製品から生まれるものであるとする。即ち、成
功するブランドは優れた製品(P)、明確なアイデンティティ(D)、付加価値(AV)からなる。即ち、
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下記のように表される。
B=P×D×AV
・
ブランド育成の第一歩は優れた製品を所有することにある。
・
次に、明確なブランド・アイデンティティを与え、顧客の指名買いを喚起させる。
・
成功するブランドは類似の競合商品よりも“付加価値”が必要である。
・
単なるラベルは識別には役立つが、「L=P×D」であるので、顧客の選好を得るには不十
分であり、付加価値を伝えてはいない。選好の獲得に最後の要素、即ち、「自社製品が
同じ価格で他社製品にない品質、ステイタス、連想を提供していると顧客に信じさせる付
加価値にかかっているのである。
・
ブランド構築のプロセスは一連の層としてとらえられている。基点となるのは、顧客ニーズ
を満たす製品またはサービスである。但し、それが持続的優位性に繋がることはめったに
無い。
・
それは第一に簡単に競業他社に模倣されるからである。第二の理由としては、消費者は、
製品を購入するのではなく、問題に対するソリューションを求めているのである。換言す
れば、所有することへの満足、信頼、知覚されるステイタス、個人的な達成感といった情
緒的価値が大きな影響を及ぼしているのである。(Doyle (2000) 邦訳書 pp369-371)
・
下図はブランド構築のプロセスを表している。
ブランド構築のプロセス
第2節
ブランド・エクイティとは何か
では、ブランド・エクイティとは何か。デービット・アーカーによると以下のように定義している。
「ブランド・エクイティとはブランド、その名前やシンボルと結びついたブランドの資産と負債の集
合である。そしてエクイティは、企業かつまたは企業の顧客への製品やサービスの価値を増やすか、
または減少させる。資産または負債がブランド・エクイティの基盤になるためには、製品やサービス
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がブランドの名前かつまたはシンボルに関連していなければならない。ブランド・ネームまたはシン
ボルが変化するとすれば、いくつかの資産や負債は新しい名前やシンボルにシフトするけれども、
そのいくつか、またはすべてが影響を受けるか、また消えることすらある。ブランド・エクイティの基
礎になっている資産や負債は状況によって異なるであろう。しかし、それらは通常、次のようなカテ
ゴリーにグループ化できる。
・
ブランド・ロイヤルティ
・
名前の認知
・
知覚品質
・
知覚品質に加えてブランドの連想
・
他の所有権のあるブランド資産―パテント、トレードマーク、チャネル関係など」(Aaker,
(1991) 邦訳書 pp20-21)
「ブランド・エクイティ」
コトラーやケラーによれば、ブランド・エクイティを次のように定義している。「製品やサービスに
与えられた付加価値である。この価値は消費者があるブランドに関して、どう思い、感じ、行動する
かに反映されるであろう。またそのブランドが企業にもたらす価格、市場シェア、収益性にも反映さ
れるであろう。ブランド・エクイティは、企業にとって心理的価値と財務的価値を持つ重要な無形資
産である。」(Kotler, Keller (2006) 邦訳 p343)
また、カップフェレによれば「ブランドとその価値から生じる組織や行為の重要性を説明するも
の」あるいは「ブランドの資産価値」とも述べている。(Kapferer (2000) 邦訳 pp273-274)
和田によれば、アーカーらのブランド・エクイティを誤読しているような部分が見える。
「疑問に思うのは、このような付加価値になぜ「エクイティ」という言葉を使ったのかということで
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ある。「エクイティ(Equity)とは本来会計上の用語であり、貸借対照表に見られる資産から負債を引
いた正味資産であり、株式持ち分ないしは資本を指している。したがって、ブランド・エクイティとい
う用語は会計管理上はやや概念がずれており、企業の資産と考えるならば、会計管理上は「のれ
ん代」(Goodwill)である。単純に「製品やサービスそのものを越えた付加価値」つまり「ブランド価
値」と呼べばすむことである。」 (和田充夫 (2002) p44)
和田の言う「エクイティ」という概念は、明らかに間違っている。エクイティとは会計管理上、「のれ
ん代」ではない。純資産(資本)であり、ブランド価値そのものであり、アーカーらが言うように、“ブラ
ンド、その名前やシンボルと結びついたブランドの資産と負債の集合である。そしてエクイティは、
企業かつまたは企業の顧客への製品やサービスの価値を増やすか、または減少させる”ところに
意義を見出す。
また、和田は「(和田の言う)ブランド価値論とブランド・エクイティ論の最大の違いは、消費者とブ
ランドの関係である。前者は関係性マーケティングのフレームを基盤として、企業と消費者とのあい
だの関係は双方向であり、相互支援関係であるのに対して、後者はブランド・ロイヤルティという消
費者の企業に対する一方向的な関係を前提としている。つまり、アーカーのブランド・エクイティ論
は企業への消費者の一方向的な忠誠に基づいた、マネジリアル・マーケティングのフレームを一歩
も出ていないのである。」(和田充夫 (2002) p48)と述べているが、ブランドに関する情報(それが
広告であれ、パッケージであれ)が、企業から発信され、消費者にブランドが認知・形成されたもの
である限りにおいては、確かに一方向的と言わざるをえないであろう。但し、ブランド・ロイヤルティ
はあくまで企業と消費者間の問題である。ブランド・ロイヤルティはあくまで消費者が有するもので
あり、企業がコントロールできるものではないからである。
第3節
ブランド・ロイヤルティとカスタマー・エクイティ
ローランド・T・ラストらによると、顧客の生涯価値(Customer Life Time Value)の維持・獲得と
いう観点から“カスタマー・エクイティ”という概念を提唱している。
彼らは、
“カスタマー・エクイティ”は 3 つのドライバーでその概念を構成している。即
ち 1.バリュー・エクイティ、2.ブランド・エクイティ、3.リテンション・エクイティである。
それら 3 つのドライバーは個々に非常に重要であるが、各製品クラス(産業別)によっ
て、それぞれ経営戦略的に重要性が異なっていると指摘している。その背景として先進国
がサービス経済に入り、マーケティングにおける強調点が取引(トランザクション)から
関係性(リレーションシップ)へ移行したことを挙げている。
また、IT 技術の発展により、顧客を従来のデモグラフィックな顧客グループなものから、
顧客の購買行動を追跡し、価値観、趣味、嗜好、また、顧客の企業にもたらす収益などか
らグルーピングが可能になり顧客へのサービスのアプローチと従来のブランド・マネジャ
ー制などの組織をカスタマー・エクイティ重視の組織(財務、研究開発、マーケティング、
販売など横断的な組織、あるいは、カスタマー・エクイティの 3 つのドライバー担当エグ
ゼクティブと情報担当エクゼクティブを据えた組織)へ変えるべきであることを提唱して
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いる。
1. バリュー・エクイティとは顧客の価値認識から生じるその製品の品質、価格、利便性
である。
2. ブランド・エクイティは、前述したアーカーやドイルが述べているものとは、少し趣
が異なるのであるが、客観的な属性とは異なる、商品についての主観的な評価であり、認
知から生まれる商品との感情の絆のような付加価値であるとしている。
3.リテンション・エクイティとは、顧客維持プログラムや、リレーションシップから生ま
れるその企業のカスタマー・エクイティをその企業のリテンション・エクイティと呼んで
いる。
それら 3 つのドライバーはそれぞれサブドライバーを持っており、バリュードライバー
のサブドライバーは①クオリティ、②価格、③利便性であり、また、ブランド・エクイテ
ィのサブドライバーは①顧客のブランド認知、②顧客のブランドへの態度、③ブランド倫
理に対する顧客の認識である。リテンション・エクイティのサブドライバーは、①ロイヤ
ルティ・プログラム、②(顧客の)特別な認知と処遇のプログラム、③アフィニティ・プ
ログラム、④コミュニティ形成プログラム、⑤(顧客の)知識蓄積プログラムである。
カスタマー・エクイティの定義
(Rust, Zeithaml, Lemon, p.117.)
カスタマー・エクイティの戦略フレームワークは、あくまで顧客中心主義であり、マー
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ケティング活動にかかる予算をコストと見ずに、あくまで投資としているところが特徴的
で、スリバスタバ、シェルバーニ、ファヘイ(1998)のアイディア「市場を基盤とする資
産(market-based asset)
」を用いて、カスタマー・リレーションシップや流通パートナーと
の関係が市場での実績にリンクされ、究極的には株主価値にリンクされると考えるところ
は本研究と通じるものがある。
然しながら、マーケティング戦術論的(特にカスタマー・リレーションシップ・マーケ
ティング)にはカスタマー・エクイティを論じることは有意義なことであるのだが、概し
て言うと、戦術論と戦略論が混在している感が否めない。また、ここでいうところの「バ
リュー・エクイティ」と「ブランド・エクイティ」はアーカーが言うところのブランド・
エクイティと比較すると重複しているところがある。つまり、顧客の「ブランド・エクイティ」に「リテン
ション・エクイティ」の概念を結びつけ、顧客の生涯価値(Customer Life Time Value)を最大化させ、
企業の成長につなげるような論調になっていることは否定できないのではないだろうか。
等論文ではあくまでブランド・エクイティと広告投資の関係を見るため、あくまで戦略
論としてのブランド・エクイティ(株主価値)の測定と広告投資の関係性を考えていきた
い。
財務的思考性と顧客関係への志向性の対応
(Rust, Zeithaml, Lemon (2000)邦訳書 p141 をもとに筆者作成)
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第2章
第1節
なぜ広告投資を行うのか
広告の長期的効果
今、企業がゴーング・コンサーン、即ち永続的に続くものとして、広告の残存効果に関して考え
る。
当期の広告投下はフローである。結果何らかの形で、その大きさには広告投資の成否によって
異なるが、ブランド・エクイティが創出されていると見る。即ち、ストックが生じることになる。当然、負
(マイナス)のストックもあれば、正(プラス)のストックもある。この観点からする広告投下モデルの主
たる代表例は Koyck 型モデルという計量経済学的な回帰モデルである。以下にモデルを示す。
Y=αYt-1+βXt+C
但し、X は当期広告投資、αは前期効果の繰越係数、βは当期広告費の有効変換係数、C は
定数項である。
この式は前期の広告効果の残存部分と、当期の広告有変換部分が加算されることを表現したモ
デルである。
即ち、広告の追加的投資により、ブランド・エクイティが増減しストックされることを示しているもの
である。
(Doyle (2000)邦訳書 p478 から引用。一部筆者加筆)
第2節
広告投資に関して
短期的な収益を望むならば、広告に頼る必要はないかもしれない。チャネルにおける販売促進
費を増やすか、価格を下げたほうが短期的な収益を得られる。製品カテゴリーにもよるが、価格弾
力性は広告弾力性よりも大きいことが知られている。通常、広告予算を 1%増加させても販売量は
0.2%しか伸びないことが言われている。(Sethuraman, Tellis (1991) pp 168-176)
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では企業はなぜ広告投資を行うのか。それは、繰り返すが、長期的には広告がブランドをマネ
ジメントする 1 つの大きなドライバーであるからである。
(Rust, Zeithaml, Lemon (2000)邦訳書 p141 から引用、一部筆者改訂)
ブランド・マネジメントとは、ブランドが有する付加価値を顧客に知覚してもらうために行うもので
ある。マネジャーはブランド・アイデンティティの育成によりこれを遂行する。ブランド・イメージとは顧
客が知覚するものであり、ブランド・アイデンティティとはマーケターが顧客に受け取ってほしいと考
えているメッセージのことである。
従って、マネジャーはブランド・マネジメントに当たって、広告を適切にマネジメントする必要が
ある。
下図はブランド・イメージ構築のプロセスである。
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送り手
受け手
ブランド・アイデン
テンティティ
記号化
メッセージ
ブランド・イメージ
解読
メディア
他のシグナル
ノイズ
結果
反応
(Dyle(2000)邦訳書 p372 から引用)
当然、送り手(この場合広告主)が意図せざるノイズが発生する。それは主に 6 つの点である。
・
「競合メッセージ:顧客は 1 日に何千ものメッセージにさらされている。このうち、顧客が気
づくのはわずか 5%、何らかの反応を誘発できるのは 1%未満といわれる。巨額の資金を
投じるか、よほどの幸運に恵まれていないかぎり、自社ブランドに関するメッセージを顧客
に理解してもらえることはめったにない。
・
無効なブランド・アイデンティティ:ブランドのポジショニングが「自分のニーズに合ってい
ない」とターゲット顧客にみなされることもある。こうなると、顧客は広告の訴求内容を信じ
ることもなければ、訴求されている属性をほしいとも思わない。メッセージに対して否定的
な態度を取る顧客は、メッセージを自分なりに解釈するか、あるいは拒絶してしまう。一般
に、ブランド・アイデンティティがブランドに対する現在の知覚に近いほど、効果は高くな
る。
・
他のブランドのシグナル:ブランドに関して発信される情報を企業がすべて管理すること
は不可能である。顧客は、過去の経験、製品を使用している第三者、企業のほかの活動
などからも情報を得ている。
・
無効なメッセージ:メッセージのクリエイティビティは、ブランド・アイデンティティの伝達効
果に大きく影響している。メッセージの内容、訴求の性質、表現方法、コミュニケーション
のフォーマットなどあらゆる要素が、メッセージに気づいて反応する人の数を左右する。
・
不適切なメディア:メッセージは、人的メディア(セールス・フォースなど)や非人的メディア
(テレビ、新聞、インターネットなど)を通じて伝達される。メディアの選択は、メッセージの
到達と顧客が抱く信頼性に重要な影響を与える。
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・
その他の制約:ブランド・イメージが顧客から望ましい反応や結果につながっているかどう
かは、価格、主要流通チャネルの利用可能性といったその他のマーケティング・ミックス
要素からも影響を受ける。」(Doyle (2000) 邦訳書 pp372-373)
但し、上記のようなノイズはコントロール可能なものもあれば、コントロール不可能なものもある。
また、後述するが、広告投資は株主価値創造にもつながる。株主価値形成するものとは、企業
が所有する無形資産の中におけるブランド・エクイティである。
第 2 節 インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション(IMC)
インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション(以下、IMC)は、マーケテ
ィング・コミュニケーションを最適化するために開発された考え方である。ブランド・エ
クイティを維持・創出させるためには必須のものである。
アーカーは前述したように、ブランド・ロイヤルティの構成要素は①名前の認知②知覚品質
③知覚品質に加えてブランドの連想④他の所有権のあるブランド資産―パテント、トレードマーク、
チャネル関係などを挙げている。IMC はこれら全てに影響を与える。
①名前の認知、③ブランドの連想は言うに及ばず、IMC がもたらす、そのメッセージによって、消
費者インサイトに影響を及ぼすため②知覚品質でさえも影響を及ぼすのである。
シュルツ(2004)によれば IMC の発展段階を次のように説明している。
「統合マーケティングがもともと勢いを得たのは、1980 年代のアメリカでマーケティン
グ企業、小売などのチャネル、広告会社間の整理・統合が進んだことによる。従来のマー
ケティング・コミュニケーション構造が合理化されると、当然の結果として、マーケティ
ング・プログラムの効率化を図ろうとする動きが組織の中に現れた。当時(1980 年代後半
から 1990 年初頭)にあってはこうした整理・統合は理にかなったものだった。
マーケティング・プログラムの効率をさらに高める必要があったために、統合マーケテ
ィングが推進されることになったのである。
効率以外にもアバーブ・ザ・ライン(マスメディア広告)
、ビロー・ザ・ライン(マスメ
ディア広告以外のプロモーション手法)への投資の組み合わせ、調整をする必要があり、
マーケターも広告会社もその方法を探していた。
1990 年代半ば(つまりインターネットの出現・普及)になると予想もしなかったことが
いくつか起こった。そうした変化によって、マーケティング、マーケティング・コミュニ
ケーション、さらにはプロモーション全体を新たに見直す必要が生まれた。
最も大きく変わったのはコミュニケーションの見方が広がったことである。これまでは
マーケターから消費者に一方的に送っていたものから、消費者とマーケターの双方向の対
話型へと移行した。
今日、統合を行うのはマーケターだけではない。それは消費者、顧客の側でも行われて
いる。現在市場の根底にあるのは、消費者・顧客との「価値の共有」である。市場での相
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互作用を通じて、消費者・顧客とマーケターがいかに互いに影響を与えながら(ブランド)
価値、ブランド・エクイティを創造・共有していくのかが重要なのである。」(括弧内筆者
加筆)
(Schultz (2004) 邦訳書 ppⅰ-ⅱ)
IMC の基本は“One Sight ,One Voice”であるが、それはメディア特性に合わせて適応化さ
れるべきである。それにより、コミュニケーション活動全体がより活性化されたものにな
る。
以下の図は、
IMC におけるそれぞれのメディアなどがどのような役割を果たしているか、
受け手(消費者・顧客)の観点から評価したものである。
IMCにおけるメディア特性
メディア
ビークル
地域(カ
伝達速度
バレッジ)
コスト
(CPM)
ブランド・
メッセージ メッセージ エクイティ
の深さ の信頼性 への寄与
度
○
△
○
○
△
○
◎
○
○
○
○
○
テレビ
ラジオ
新聞
雑誌(全国)
雑誌(フリーペー
パーなど)
オフ・ライ
ン
OOH(屋外看板
など)
◎
◎
◎
◎
◎
○
◎
○
◎
◎
△
◎
◎
△
△
○
○
○
○
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△
△
△
△
POP
チラシ
DM
PR
IR (自社サイト
内)
インターネット自
社サイト
バナー広告
リスティング広告
オン・ライ
ブログ
ン
電子メール
バーチャルコミュ
ニティ(mix等)
CRMプログラム
電話
Fax
その他(アフェリ
エイトなど)
人的メディ 販売員(小売店)
ア
従業員
卸(流通)
コミュニティ
○
○
◎
-
△
○
○
△
◎
△
×
△
◎
○
○
△
◎
◎
○
○
△
◎
◎
○
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△
◎
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○
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○
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◎
◎
◎
◎
◎
-
△
△
○
○
△
△
-
△
△
○
△
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
△
◎
◎
○
△
◎
○
△
◎
○
△
○
-
-
◎
-
○
×
×
×
◎
×
×
×
×
×
×
×
◎
◎
◎
×
◎
◎
○
○
◎
◎
×
◎
◎
◎
◎
口コミ
(友人・知人・家
族など)
◎:非常に有効(安い) ○:有効 △:普通(限定的) ×:あまり有効でない(高い、遅い、限定的など) -:判断不能
*口コミはブランド(商品)に接触した際、使用者が考えるか、IMC から影響を受け、口
コミという行動をとる場合があるため、別の扱いをしている。
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メガエージェンシー(広告代理店)における IMC の例-マッキャンエリクソン
第3節
IMC から IBC へ
1980 年代からンテグレテド・マーケティングコミュニケーション(IMC)に着目されてきた。IMC は
理論的には正しいが、実行段階になると過大宣伝と言わざるを得ないだろう。
下記に示すように IMC に関する 2 つの問題点が指摘される。
・
広告代理店はメディアからのバイアスを受けている。
IMC ではやはり広告が中心となってしまう。それは最もコミッションやフィーを得られるのが広告
であるからである。
・
クライアント側の問題
往々にして、クライアント側は、個々のメディア(予算)を個々のマネジャーが担当している。これ
では、クライアント内部でも IMC を実行することは困難である。IMC は効果的なバリューチェーンか
ら大きく外れている。
多くのクライアントは IMC をアクションや戦術と捉えがちである。本来初めに戦略ありきなのであ
る。結果として前述したように、クライアントは個々にメディアをハンドルしてしまう。
一方で IBC の場合はそうはいかない。株主価値を上げるためのすべてのアクティビティが要求
されるからである。それは広告も含んだ、PR、インターネット、クライアント全社員に対するコミュニケ
ーション(社報、イントラネットなどによるブランド価値を上げるための施策)といったいわゆる“ホリス
15
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ティック・コミュニケーション”である。
全社員および広告代理店は、ブランドは現在どのような価値を持ち、それに基づいた、統制さ
れたコミュニケーション・アクティビティがおこなわれなければならない。
IBC は非常に高度なマネジメントを要求している。それはマーケティング・コミュニケーションの
みならず、財務までの領域を含んだものだからである。そしてクライアント側は、組織の壁を打ち破
る必要があるであろう。
以下に、IBC の実際を示す。
1.
現状のビジネスにおけるブランドの役割を理解する。
2.
ブランドは将来のキャシュ・フローを生み出す源泉である。それは、顧客のロイヤルティを
創造するからである。ブランドのあるべき姿あるいは戦略を精査した上で、顧客、従業員、
主要株主に理解を求めなければならない。
3.
何がブランド価値に影響するファクターかを見つける。
4.
確かに、戦略に基づき、また、組織横断的な IMC は非常に重要である。ただし、ブランド
価値に貢献したドライバーが何なのか、くり返し、くり返しチェックする必要がある。
5.
誰をターゲットにするのか。
6.
今一度、ブランド価値に貢献しているターゲットを規定しなければならない。
7.
ビッグ・アイディアを生み出す。
8.
メッセージが陳腐なものであれば、それは金の無駄遣いである。市場調査、消費者調査
によって顧客やマーケットを明確に理解しなければならない。
9.
ビッグ・アイディアには基本的な判断基準がある。即ちそれは、顧客とのレレバンシー、競
合の差別化がなされているか、すべてのステークホルダーに信頼をもたらすものか、そし
て最後に、ビジネスを進化させるものであるかという点である。ビッグ・アイディアは広告の
投資水準を軽減させる。
10. ビッグ・アイディア開発のために、消費者のパーセプションとブランドの“ずれ“を把握する
11. メディアのそれぞれの役割を理解する
12. メディアの最適化を図る
実はこれが一番難題なのだが、限られた予算の中でチャレンジする。メッセージのビッグ・アイデ
ィアをもってしてこれを成し遂げなければならない。特に初年度は重要で、次年度からの投資費用
対効果に影響する。
13. 結果を測定する
ファクトに基づき財務部に IBC がワークしたかどうか説得しなければならない。ビッグ・アイディア
(メッセージ)とメディアの有効性を精査し、次年度につなげる。
14. 13 における結果から 5 から8へ戻る。
IBC は根気のいる作業である。“ブランドは1日にして成らず”である。徐々に生まれてくるもの
であり、常にブランドを育てるために何かを補給し、組織をあげて育てなければならない。時には、
16
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メッセージに関して見直し、時には、メディアの選択・効率性を見直し、もしかしたら、ブランド測定
方法まで遡る必要があるかもしれない。常に株主価値を創造しているか PDCA サイクルを回し続け
なければならないのである。
(以上、インターブランド ホームページ(2004)「Integrated Brand Communication」を基に筆者が加
筆)
17
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第 3 章 ブランド評価に関する考察
第 1 節 ブランドの価値を測定する
現在のブランドの価値(エクイティ)がわからなければ、広告の投資水準が適正なものであるかど
うかはわからない。広告投下水準とブランド価値(エクイティ)を対比することによって、PDCA サイク
ルをまわし、広告投下水準の精度を上げることが可能になる。つまり以下のように考えることができ
る。
・
現在のブランド価値(エクイティ)と広告投下水準のチェック
・
当期広告投下水準の策定(Plan)
・
広告投資(Do)
・
広告投資後のブランド価値(エクイティ)の査定(Check)
・
次期広告投資水準の策定及び実施(Act)
といった流れになる。
ブランド価値評価に関しては、大きくは、(1)消費者調査からの、ブランド認知、ブランド・ロイヤ
ルティなどを評価する、マーケティングからみたアプローチと、(2)ブランドを財務的資産としてみた
アプローチが存在する。
ブランド・マネジメントの観点からすると、両方とも重要であるのだが、本論はブランド・エクイティ
を創出・維持する広告予算設定の導出を考えているため、(2)の財務的アプローチを考察する。
ブランドをはじめ無形資産の評価アプローチとしては、大きく(1)残差アプローチ(2)独立評価
アプローチに区分される。
・
残差アプローチでは株価時価総額などをもって企業価値とみなし、そこから金融資産や
固定資産などのオン・バランス資産(サリバンのいう汎用資産)を差し引いたものを無形の
価値とする。この残差の全部または一部をブランド価値とするのである。このアプローチ
の問題点には、企業価値概念が公表された情報でしかその価値を持たない(非対称の
情報の中で)投資家が市場評価した株価に依拠していること、さらに無形資産の価値が
加減によって算出できると見る点などが挙げられる。
・
独立評価アプローチはブランドを独立に抽出し、評価するアプローチであり、
A コスト・アプローチ
B マーケット。アプローチ
C インカム・アプローチ
に分類される。
A コスト・アプローチ
コスト・アプローチは歴史的原価アプローチと取替原価アプローチに分類される。前者は、これ
18
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までに広告宣伝支出などブランド確立・維持管理費のために要した費用で評価しようとする伝統的
な会計アプローチである。取替原価アプローチは現時点で同じブランドを構築する場合の費用を
算出しようとするものである。このアプローチは、広告宣伝費などと企業評価との関連性立証するマ
ーケティング・アプローチに整合的であり、客観性には比較的確保される。しかし、多額のコストを
かけてもブランドが形成できない場合もあれば、あまりコストをかけなくてもブランドが形成できる場
合もあるという、ブランドとコストの関係が明確でない部分に関してその妥当性を問われるものであ
る。
B マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、売買事例批准法と呼ばれ、実際に市場で取引されている類似ブラン
ド価格に比較から算定する方式である。しかし類似ブランドの取引の存在などデータからの制約が
大きく、実際のブランド取引があったにしてもその価格に関して客観性の問題が付随する。実際購
買価格は取引場面における複雑な交渉や意思決定の影響を受けており、消費者の知覚する価値
を反映しているとは限らない。
C インカム・アプローチ
インカム・アプローチは、経済価値アプローチとも呼ばれ、ブランドによって発生する将来利益
の割引現在価値(DCF:割引キャッシュフロー価値)を測定する。多くの場合ブランド価値は、この
将来利益の割引現在価値(企業全体の場合企業価値)の一定割合もしくはブランドによる超過利
益部分(ブランド資産価値)として算出される。この企業価値を求める部分は、通常何らかの形で財
務情報が利用されるので財務・会計アプローチとも呼ばれ、この一定割合は、キャッシュフローに
対するブランドの寄与率であり。金額換算(資産化)する際の倍率(レバレッジ)になる。
超過利益の測定の仕方に関して①免除ロイヤルティ法、②価格プレミアム法、③その他のイン
カム・モデルに区分される。
①の免除ロイヤルティ法では、そのブランドが保有していない場合にそれを支払わなければなら
ない金額をブランドによる超過利益とみなす。しかし実際にブランド授受が市場で行われにくいと
いう、前記マーケット・アプローチと同じ問題を含んでいる。
②の価格プレミアム法はノン・ブランド商品などを上回って当該ブランド商品がもたらす現在及び
将来のプレミアム超過利益を測定する方法で、伝統的なブランド概念の価格優位性をそのまま表
現するアプローチである。
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ブランド貨幣評価の類型
分類-1
分類-2
分類-3
残差アプローチ:
(株式時価総額-金融資産
-固定資産) の全部あるい
は一部をブランド価値とする
独立評価アプローチ:
コスト・アプローチ:
これまでに投資した広告宣
伝費などブランド維持管理に
要した費用で評価
マーケット・アプローチ:
実際に取引された類似ブラ
ンド価格からの比較から算定
インカム・アプローチ:
ブランドによって発生する将
来利益の割引現在価値を測
定
歴史的原価アプローチ:
これまでに投資した広告宣
伝費などブランド維持管理に
要した費用で評価
取替原価アプローチ:
現在時点で同じブランドを構
築する場合の費用を産出
免除ロイヤリティ法:
そのブランドを所有していな
い場合にそれを利用するた
めに支払わなければならな
い金額を超過利益とみなす
価格プレミアム法:
ノンブランドを上回って当該
ブランド商品がもたらす現在
及び将来の価格プレミアム
で超過利益を測定
その他インカム・モデル:
残差アプローチに関しては、ブランド評価の仕方がわかりやすい。しかしながら、ブランドの価値
が無形資産におけるブランドがどの程度の割合を占めているか特定することは難しい。企業の戦
術上の問題でもあるのであるが、残差アプローチを採用し、その一定基準をブランド・エクティとす
るのもひとつの方法論であるかもしれない。
但し、そうした場合、産業区分によっては広告投資水準とブランド・エクイティの関係が曖昧に
なってしまう。特に広告投資が活発でない B to B 企業においては、無形資産貸借における、広告
投資の占める割合が、製品開発費(R&D 費用)や販売管理費等と比較して少ないので、残差アプ
ローチは精度のないものとなってしまう可能性がある。
従って、当論文では独立評価アプローチにおけるインカム・アプローチを用いて考察を加えるこ
とにする。
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第 2 節 経済産業省のブランド価値評価モデル
経済産業省のブランド価値評価モデル(以下、 経産省モデル)はブランドを評価する際、ブラ
ンドの資産計上を可能にするため、2002 年に発表された。貸借対照表に基づいて、恣意性を排除
し誰でもがブランド価値評価できるものである。
当モデルではインカム・アプローチの「価格プレミアム法」を採用している。インカム・アプローチ
では企業価値評価に関して、将来のキャッシュフローの推計が必要となる。この点に関しては、過
去の会計利益の平均が将来永続的に続くものと仮定し、割引率の計算ではリスクフリー・レートとし
て国債利回りを用いる。したがって、キャッシュフローの存続期間は永続である。
また、当モデルでは、ブランド価値(BV)をその要素(ドライバー)の関数としてつぎのようにみる。
ここで PD はプレステージ(価格の優位性)、LD はロイヤルティ、ED はエクスパンション(拡張)の各
ドライバー、r は割引率である。

PD
 LD  ED
r
=
 1 0  Si S * i  A1 

  OEI   C 0 
   

 5 i 4  Ci C * i 

r

 

cc
c
1  1 0  SO  SOi  1i  1 0  SX  SXi  1i 
  
 1   
 1
2  2 i 1 SOi  1
 2 i 1 sxI  1

S: 当社売上高 S*:基準企業売上高
C: 当社売上原価
C*: 基準企業売上原価
A:広告宣伝費
μc: 売上原価 5 期平均
σc:売り上げ標準偏差
SO: 海外売上高
OE: 営業費用
SX: 非本業セグメント売上高
問題点として次の点をあげられよう。
・
連結ベースでの価値評価の問題がある。事業区分と本業の区分は必ずしも明確でない。
ソニーがその例である。
・
コーポレート・ブランドとプロダクト・ブランドの区分の問題が依然として残る。
・
企業の同一業種内における価格優位性を算定することが狙いであるため、業種区分の
問題がつきまとう。実際の分析では NOMURA400 をベースに修正している。
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但し、筆者の意見としては①に関しては、事業間シナジーがあるため、敢えて問題視する必要
がないのではないだろうか。結局、(株式)市場がその企業のブランド価値を評価するという前提に
立てば、逆に事業間を分離して考える必要性は感じない。
また、同様に②においても、その企業の“プロダクト・ブランドの束” (前述したように CB=
コーポレート・ブランドの価値を決定するとすれば、コーポレート・ブランド価値測定
にしか有用性がないとしても十分である。
③についても、業種区分の問題も、市場評価があくまでブランド評価に繋がっているとする立場
を取れば、それも問題にならないのではないだろうか。あくまで、ブランド価値というものを、オン・バ
ランスにするという初期の目的は果たしていると考える。
しかしながら、広告の投資水準の適正化を考える場合、ブランド寄与率が「営業費用に対する広
告宣伝費用」としている点で、矛盾を起こす。当モデルを使えば、広告投資水準を上げれば上げる
ほど、ブランド価値は高まってしまう。
従って、当研究においては他のインカム・アプローチを用いて、その広告投下水準とブランド・
エクイティの関係を考察する。
第 3 節 インターブランド社のブランド評価モデル
英国のブランド・コンサルタント会社であるインターブランド社は、世界で最初にブランド価値の
算定に取り組んだ会社として知られている。インターブランド社のブランド価値評価法( Brand
ValuationTM 以下 Brand Valuation と略す)は現存するブランド価値の金額算定法の中で最も多く
利用されているモデルであろう。
広告代理店各社、あるいは日経‐伊藤モデル(CB バリュエーター)のように、それぞれがブラン
ド評価手法を有しているが、マーケティング・アプローチと財務的アプローチが混在しているため、
敢えて当研究では取り上げない。確かに、インターブランドの手法、Brand Valuation を筆者は完全
なものとして扱うつもりはない。もちろん課題は認識している。(Brand Valuation における課題は後
述する)
インターブランドのブランド価値算定プロセスは以下のとおりである。
インターブランドの現行モデルではブランドの算定を「将来にわたってそのブランドがもたらす経
済的利益(economic earning)を予測することであるという考え方に立ち、DCF(割引キャッシュフロ
ー)法によるインカム・アプローチを採用して将来可能性評価の角度からブランド価値を算定してい
る。その算定方法は、ブランドという無形資産から生じる利益から営業費用、税金、および資本コス
トなどを差し引いたブランドの経済的利益を特定し、将来にわたってもたらされる経済的利益の総
和を現在価値に割り戻すという方法である。
まず、評価対象となるブランドの市場を、商品またはサービス、流通チャネル、消費・購買パター
ン、地域などによってセグメント化する。セグメントごとに評価したブランド価値を合計したものを全
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体のブランド価値とする。
(インターブランド・ジャパンより提供)
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財務分析により、「無形資産からの利益」(経済利益)を算定する。
(インターブランド・ジャパンより提供)
ブランド役割分析により、「ブランドの役割指数」(RBI: Role of Branding Index)を割り出す
顧客の購入選択要因の中でのブランドの重要度を、ブランド以外の要因と比較考察する。また、
そのブランドがなくなってしまったら、どのくらい収益が損なわれるかを査定する。
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ブランドの役割指数
選択要因ごとに「ブランドの役割」を百分比で評価する。
選択要因ごとに「ブランドの役割」を指数化したものを合計して「ブランドの役割指数」とする。
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(インターブランド・ジャパンより提供)
以下に具体的にその計算方法を示す。
●イギリスのガソリンスタンド小売市場
戦略的バリュードライバー
立地
ブランディ
相対的重要 ブランドへの
ングの役
度(%)
依存度(%)
割(%)
100
31%
0
0%
加重値
ネットワーク
40
12%
80
10%
価格
80
25%
0
0%
店舗のデザイン
10
3%
60
2%
店舗の清潔さ
10
3%
40
1%
自動車関連サービス
10
3%
20
1%
その他のサービス
20
6%
20
1%
プロモーション
20
6%
20
1%
広告
15
5%
100
5%
製品品質
10
3%
100
3%
クレジットカード利用可能性
5
2%
40
1%
高級なガソリン
5
2%
40
1%
325
100%
ブランドの役割指数
25%
(Doyle (2000)邦訳書 p405 から引用。一部筆者改訂)
上記で求めた、ブランドの役割指数を用いてブランド価値を算出する。即ち、以下のようなステッ
プでブランドを評価する。
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(インターブランド・ジャパンより提供)
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(インターブランド・ジャパンより提供)
割引率の決定
(インターブランド・ジャパンより提供)
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NOPAT と広告費の関係
具体的な計算方法に入る前に、企業の損益計算書における、NOPAT(税引後利益、 以
下 NOPAT と略す)と広告費の関係を整理しておく。
以下は単純化した損益計算書である。
損益計算書
売上高
売上原価
売上総利益
販売および一般管理費
3,000
2,500
500
200
販売手数料
10
販売促進費
100
広告費
50
その他
40
営業利益
300
営業外損益
-100
経常利益
200
特別損益
0
税引き前利益
200
NOPAT(税引後利益)
90
*但し、実行税率:30%と仮定 またNOPATに
調整項目は含まないと仮定
(あずさビジネススクール(2006) p25 を参考に筆者作成)
Brand Valuation の実際の計算
・
売り上げは毎年 5%成長すると仮定する。
・
営業利益は基準年から 15%とし、継続的であるとする。
・
有形資産は貸借対照表および推定で 5%増加すると仮定する。
・
資本費用(WACC 以下、WACC と略す)はこの場合負債(簿価)と株主資本(時価)の加
重平均でこの場合 0.05 としている。
・
また、WACC の計算における株主資本コストの計算では通常のファイナンスで用いる
CAPM で計算される。CAPM を導出する際のβ値はそのブランドが属する産業分類の過
去 60 か月平均である。
・
経済付加価値(EVA)は税引き後営業利益(NOPAT)-投下資本×WACC である。
・
この場合のブランディング指数は前述したとおり、0.25(25%)である。
・
税率は実行税率。この場合仮に 30%としている。
・
割引率は 15%と仮定する。(インターブランド・ジャパン社によれば、割引率は S カーブか
ら割り出しているとしている。)
・
見積もり残存価額の現在価値は以下の式で求められる
29
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プランニング最終年度 のキャッシュフロー
割引率 (1  割引率)t
但し t=プランニング最終年度
以下に具体的にその計算方法を示す。
率
売り上げ
営業利益
有形資産
資本費用
税金(率)
税引き後利益(NOPAT)
経済付加価値(EVA)
ブランドの役割指数
割引率
割引キャッシュフロー
0.15
0.05
0.3
0.25
0.15
基準年
250.0
37.5
125.0
6.3
11.3
26.3
20.0
5.0
1.0
5.0
(単位:10億円)
3
4
5
289.4 303.9 319.1
43.4
45.6
47.9
144.7 151.9 159.5
7.2
7.6
8.0
13.0
13.7
14.4
30.4
31.9
33.5
23.2
24.3
25.5
5.8
6.1
6.4
0.7
0.6
0.5
3.8
3.5
3.2
累積現在価値
19.2
見積もり残存価額の現在価値
63.7
ブランド価値
83.0
1
262.5
39.4
131.3
6.6
11.8
27.6
21.0
5.3
0.9
4.6
2
275.6
41.3
137.8
6.9
12.4
28.9
22.1
5.5
0.8
4.2
(以上の例は Doyle (2000)邦訳書 p404 から引用。筆者一部修正)
広告投資水準のプランニング
前述した計算方法によって、5 期間における企業活動からのブランド価値が推定された。
プランニングされた1期目において、推定された営業利益が確保できたとすれば、その広告投資
水準は適正なものとなる。
あるいは、推定された営業利益が確保できなかったとすれば広告投資水準の見直しを行う必要
がある。
つまりこのようにして、PDCA サイクルをまわすことにより広告投資水準の精度を上げて
いくことが可能になる。
Brand Valuation に関する課題
Brand Valuation を用いる場合、問題となるのは以下の点である。
・
将来売上高が一定の割合の割合で成長するものとし、営業利益率もそれに乗じて計算
していること。
これは、経済産業省のモデルと比較すると、経産省モデルのそれは、キャッシュフローは一定
のものとせず、過去 5 期平均を用いており、割引率を長期国債の金利で割り戻す方法を取って
いる。即ち期待キャッシュフロー・アプローチである。一方、Brand Valuation はキャッシュフロー
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予測を毎年一定の割合で成長するものとし、割引率で調整をおこなう伝統的アプローチである。
Brand Valuation はその分、経済成長性などの外的要因によって評価が大きく異なってくる場
合がある。
・
「ブランドの役割指数」の算定:ブランドの役割指数はその企業が属する産業によって大
きく異なる。
前述したように、「ブランドの役割指数」はブランドリスク分析、①主導性(高シェアか?):25%、
②展開性(国際的か?):25%、③安定性(歴史があるか):15%、④市場性(参入障壁は高い
か?):10%、⑤方向性(売上高は伸びているか?):10%、⑥サポート性(ブランドの育成レベル
は?):10%、⑦保護性(法的保護の有無は?):5%、となっており、例えば、成熟産業において、
高シェアの場合、広告費や販促費、研究開発費をかけない場合のブランド、あるいは新規参入
のブランド、ローカルブランドは過小評価されるおそれがある。
・
「「ブランドの役割指数」、「ブランド力スコア」の測定は消費者調査データ、市場データを
参考にはしているものの、最終的なスコアはアナリストの判断に委ねられている。即ち客
観性の問題が残る。」(刈屋ら(2005)p64)
・
ブランドの強度(ブランド力)を評価する際の要因としては、リーダーシップ、安定性、市
場、国際性、動向、支援、法的な保護があげられる。ブランド力と利益倍数の関係は下記
のような、インターブランドの経験と実績から S カーブが用いられている。しかしながら、ジ
ャン・ノエル・カップフェレは「顧客や小売店に対するブランドの強さは階段状に発展す
る」(Jean-Noel Kapferer (1997) pp420-421)としている。即ちブランド強度に関する疑
問。
・
・
(Oliver (1993) p66、一部筆者取材により加筆)
Brand Valuation によれば割引率を導出する際に、ブランド強度が一種のβ値として利用
31
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されている。しかしながら、アーカーが指摘するようにブランドの強度の評価にあたって、
評価者の主観が入り込む余地がある。即ち信頼性の問題。
但し、インターブランド・ジャパンにインタビューしたところ、恣意性を認めながら
も、それらを極力最小化するように以下のように「ブランドの役割指数」と「ブランド
力スコア」の評価を行っているようである。
・
グローバル統一の「採点表」の使用(非公開)
・
3 人のコンサルタントが評価(1 人の主観を極力排除する)
・
ロンドンオフィスの最終チェック
Brand Valuation をいかに使うか
前述したように、これまで筆者は広告投資水準を決定する際の PDCA サイクルを回すツールと
して Brand Valuation を紹介してきた。
一方で Brand Valuation はブランドを貨幣評価すると同時に以下のようなマネジメント(経営)ツー
ルとして用いられている。
即ち、企業が有する個々のブランドを横軸に価値創造力(情緒的価値)、縦軸にブランドの重要
性(経済的価値)を取り、それらの高低からなる 4 つの象限に「ブランドバリュー・ポートフォリオ」に
プロットする。そしてどの象限に位置するブランドにマーケティングのエフォートをかけ、企業価値
(あるいはブランド・エクイティ)の向上に働きかけるのかを戦略的に考えていくのである。
例えば、トヨタ自動車(以下 トヨタと略す)の例を考えると、環境対策のリーディング・ブランド“プ
リウス”にマーケティング・エフォート(特に広告投資)を掛けるとトヨタの CSR(企業の社会的責任)
への企業努力が消費者に訴求されるであろうし、最上級車のクラウンにマーケティング・エフォート
をかけると、企業のプレステージ性や高品質性がクローズアップされるであろう。また、カローラ・ブ
ランド(インターブランドは当ブランドをキャッシュ・カウとしているが、一般的にキャッシュ・カウには
投資を行わない)にマーケティング・エフォートをかけると、消費者に親近性を感じさせるかもしれな
い。
戦略はその時々の企業の置かれている環境に適応させなければならない。特に、ブランド戦略
は、ブランドを構築する際かかった時間やコストを考慮すると慎重になされなければならない。
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インターブランド・ジャパンより提供
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終章:まとめと今後の課題
まとめ
企業における現代の資産はヒト、モノ、カネ、ブランドといわれるように、その企業の有するブラン
ド価値は重要なものとなった。
ブランドを創造・維持する際、需要なドライバーの 1 つは広告である。従って、広告はコストでは無く
ブランド価値、翻っては株主価値を創造・維持するための重要な投資である。
確かにブランドの認知率やブランドロイヤリティ、知覚品質の程度など、マーケティング的アプロ
ーチでブランド価値(エクイティ)を測定することは必要である。ブランドは消費者の中に存在するも
のであり、それを取り出して貨幣価値換算することはかなりの難題である。
しかしながら一方で、広告投資が行われ、その費用対効果を測るためには Brand Valuation のよ
うな手法が必要になってくる。
繰り返すが、広告投資水準の適正水準を評価するための手段に絶対的なものはないが、ブラン
ド価値を金額的に測定することによってその広告投資の精度は上げられることができるということで
ある。
また、前述したように、各ブランドへの広告の投資水準は翻って、企業価値にも影響を及ぼすこ
とも考慮すべき点ではないだろうか。
今後の課題
当論文ではブランドの貨幣的価値を測定するために、インターブランド社の Brand
Valuation を利用した。この Brand Valuation は絶対的なものではない。特に「ブランドの役割
指数」、「割引率」はブラックボックスとなっている。
また、他の広告会社やコンサルティング会社が提案しているモデルも多数存在する。但し、
各企業において、それらのモデルの適合性を見ながら戦略的かつ継続的にブランド価値(あ
るいは株主価値)を考えることは非常に重要であろう。
謝辞
当課題研究を執筆するにあたって、主査を務めていただきました佐藤善信教授には、最
後まで粘り強くご指導賜り、完成にまで至ることができました。ここにあらためまして御
礼申し上げます。また、副査をして下さった甲斐良隆教授も、お忙しい中貴重なお時間を
頂戴しましてご指導を頂きました。併せまして御礼申し上げます。
そして、私のために業務のお時間をわざわざ快く割いて、ケースを通してブランド価値
評価の実際をお教え下さり、可能な限り資料をご提供いただきました株式会社インターブ
ランドの田中秀富様にも大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。
最後になりましたが関西学院大学専門職大学院佐藤ゼミの卒業生の方々や同じく同窓の
出野さんからは色々な貴重なご意見、アドバイス、激励を頂戴いたしました。本当に有難
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うございました。
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補論-1 情報の非対称性を解消する広告
広告に対して批判的な意見もある。
長島(2000)によると、広告に関して以下のような論を述べている。
・
「消費財製造業平均でみると、広告費の利益寄与効果は近年高まっている。ただ、これ
は必ずしも因果関係を意味するものではない。すなわち、①広告費の多い企業の業績
が良いのか、②業績の良い企業がより多くの広告費を支出するようになっているのか―
判別は不能である。
・
代表的な消費財製造業 63 社それぞれについて時系列分析を行うと、広告費から業績へ
の統計的な因果関係(グレンジャー因果性)が約 3 分の 1 の企業に、逆の因果関係も 3
分の 1 の企業において認められる。かつて 3K の 1 つと言われ、業績の後追い的な性格
が強いとされてきた広告費においてこのような結果が得られたことは、広告戦略が現在の
企業経営において重要な位置を占めていることを示唆するものである。
・
時系列分析の結果が示すもう 1 つの結果、業界全体の集計値で、広告費と売上高をみ
ると、「広告が売り上げのパイ全体を拡大する効果はない」ということである。すなわち、広
告は他社のシェアを奪う意味で、個々の企業にとっては有効だが、マクロ的にみた消費
需要創出効果は観察できない。個別企業にとって、広告戦略はますます重要になってき
ている反面、需要のパイが拡大しない以上、広告費が背比べのコストとして、企業の重し
になっている可能性がある。ライバル会社と同時に削減できるなら、その方がお互い望ま
しいかもしれない。つまり、広告による関心獲得競争は軍拡競争と同様の“囚人のジレン
マ”に陥っている可能性が高い。情報取得に消極的な消費者サイドからみると、イメージ
広告に操られて低位の効果水準に甘んじているとすれば、それは経済厚生上、一種の
“劣位均衡”であることを意味している。
・
現行では開発費・試験研究費(R&D)投資と広告支出が同様に費用計上されるが、企業
間シェアの変更に対してしか影響を及ぼさない広告費に対して、費用計上を制限するな
どの政策措置を検討することが社会厚生上、望ましいのではなかろうか。」
しかしながら、この意見は的を射ていない。企業はイノベーションによって市場を創造する。そ
れを普及させ、市場拡大を加速させるものは広告である。“囚人のジレンマ”に陥っているのでは無
いのである。
仮に、広告が無ければ企業は商品をどのようにして消費者に認知してもらえるのか。考えられる
のは、販売チャネルや自社販売員の直接的な消費者へのアプローチなどであろう。然しこれでは、
情報が流れるのに非常に時間がかかってしまうし、限定的になってしまう。また、コストもかかるであ
ろう。それに対して、広告は情報伝達の速度が速く、地理的広がりも大きい。そしてコストが人的な
情報伝達よりもはるかに安い。つまり広告は情報の非対称性を解消する重要な手段である。
広告とブランド・エクイティあるいは株主価値の問題から長島の論を捉えなおすなら、ブランド・
エクイティ(換言すればそれは株主価値)に帰属可能なマーケットシェアの部分は市場参入順位と
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競争企業と比較した広告支出に関連している。
Simon and Sullivan によればブランド・エクイティは次のように示される。
Vb:ブランド・エクイティの価値(即ち、株主価値)
Adv:現在および過去の広告費
age:企業の主要ブランドの年齢
Sb2:ブランド・エクイティに帰属可能なマーケットシェア
(Simon, Sullivan (1993))
ブランド・エクイティ(即ち、株主価値)の維持・向上のための広告投資を否定するのであれば企
業そのものも否定することになる。ここからわかることは“広告費に対して、費用計上を制限する”の
は言いすぎであろうし、荒唐無稽な論議である。
補論-2 日本型ブランド‐コーポレート・ブランドに関する考察
ここでは、“日本型ブランド”について考察を加える。敢えて、“日本型”とことわっているのは、プ
ロダクト・ブランドが主役の欧米のブランドと異なり、後述するが、歴史的に見ても現実の日本にお
けるブランドは「エンドース」としてコーポレート・ブランドがきわめて重要であるからである。
それは、「ブランドの梃子(ひとつにまとめることによることによる、個々の商品の魅力以上の魅力
が全体として生じる)」(片平 1997)からである。
田中(2002)によれば企業ブランドを次のように捉えている。
「企業ブランドと企業名
企業ブランドとは、その企業の階層における最高の地位にあるブランドと考えればよい。企業名
がすなわち企業ブランドではない。
たとえば IBM の正式企業名は「インターナショナル・ビジネス・マシーン」であるがそのような呼称
を知る人は限られているし、IBM にとっては「IBM」というブランドがすべてなのである。「カシオ」の
正式社名は現在も「カシオ計算機」であるが、カシオにとっての最高階層のブランドはやはり
「CASIO」である。企業名はブランドではなく、企業ブランドはその企業が独自で定めた差異性のあ
る名前やシンボルなのである。
ブランド階層において「最高のブランドである」ということは何を意味しているのであろうか。それ
はその企業と従業員にとって、もっとも大事にしなければならないブランド資産は企業ブランドであ
るということだ。
なぜ日本は企業ブランド社会なのか
ひとつの大きな理由は、日本では第二次大戦後、比較的短い期間で経済が復興したことであ
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る。たとえば、戦後の経済が戦前の水準に追いついたのは戦後わずか 7 年の間であった。その後、
60 年代に日本が見せた高度成長の時代に日本の主要な企業ブランドが有効であった。池尾恭一
(慶応大学教授)が指摘しているように、この時期の消費者は「未熟」でありながら、しかし消費に強
い興味や関心を抱く「関与度」の高い消費者であった。
つまりこの時期には、三菱が商社・重工業だけでなく、自動車に進出すれば「三菱自動車」と命
名することが取引関係の信用をつなぎとめておくためにも最適な選択であったし、消費者にとって
もそれは信用のもとであった。
日本で企業ブランドが盛んな第二の理由は、メーカーの流通への配慮である。日本の流通は
零細なことで知られている。日本のメーカーは資生堂や松下電器に見られるように、中小規模の商
店を組織化し、それぞれ「資生堂チェーン」「ナショナルチェーン」という強力な販売網を全国で構
築した。これらの化粧品や家電メーカーにとって、こうしたチェーンに依存したビジネスモデルが長
い間メーカーのマーケティング戦略を規定した。零細な商店にとっては消費者によく知られた「メー
カー品」を扱うことが成功する早道であった。こうした状況にあって、企業ブランドをつけない製品は
考えにくいことであった。
企業ブランドの本質
企業ブランドの本質的役割とは、消費者にその製品あるいは生産している企業に「提供能力が
ある」ことを推察させる点にある。つまり、企業ブランドは「その企業が、何ができる企業であるか」を
消費者に示していることになる。
このような企業ブランドは、たとえ製品ブランド名を消費者が知らないとしても、「保証マーク」とし
てはたらくことになる。仮にある若い主婦が「マギー」という調味料ブランドを知らないとしても、製品
にある生産販売企業名で「ネスレ」であることを知れば、そのマークだけで買う判断をするかもしれ
ない。
この意味では、企業ブランドのポジショニングは製品カテゴリーベースではなく、技術ベースあ
るいは生活者ベースであることが望ましい。
企業ブランドの三つのタイプと戦略課題
企業ブランドにはいくつかの種類があり①エンドーシング型、②サービスプロバイダー方、③コ
ンピタンス型の三つである。
エンドーシング型とは、製品個別ブランドのパッケージの裏に表示されてあるような、その製品
をそっと保証するような企業ブランドである。
このような場合、企業ブランドの役割は「保証マーク」であり、製品ブランドの選択に迷う消費者、
あるいは買った後でその製品への満足感を高めたりする役割を果たす。
エンドーシング型の企業ブランドの戦略的課題は二つある。一つは「広い、あるいは、深い企業
能力認知を得ることである。できるだけ広い、あるいは深い企業の提供能力をもたせることである。
もし「広い企業ブランド」を志向するならば、技術分野よりはむしろ広い生活スタイルに根ざした
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企業ブランドを選択すべきである。ネスレのような企業は数多くの食品関連ブランドをかかえ、食品
分野全般に通じた能力を持つ企業ブランドとみなされている。
サービスプロバイダー型の企業ブランドとはホテル、ファーストフード、流通のように、人手を介
してブランドが形成されるようなサービス型企業の企業ブランドのことである。こうした企業ブランド
の場合、従業員によるブランド理念が販売時点で欠かせないものになる。
サービスプロバイダー型企業ブランドの場合は、従業員がいかにしてその企業が実現しようとし
ているサービスの質を体現できるか、その仕組みづくりにかかっているといってもよいだろう。
コンピタンス型の企業ブランドとは、B to B あるいは産業財ブランドのように企業同士の取引で
活用されるようなブランドである。このような企業ブランドでは、専門家やエキスパートによる製品・サ
ービスの評価が行われ、また集団的な購買意思決定が行われるために、ブランドはさほど重要な
役割を果たさないと考えられがちである。
しかし実際は、このタイプの企業ブランドでは、専門家は企業ブランドを手がかりにして購買を
決めることができる。
企業ブランド同士の取引が盛んになると、取引にかかるコストを減らすために、名前の知れたブ
ランドを利用するケースが増えてくるからだと考えられる。」(田中洋 (2002) pp93-104)
また、企業戦略論から考慮しても、1990 年代からの「資源ベースの経営戦略論(Resource
Based View)」が注目されている。このことは、企業が持続的競争優位を獲得するために、無形資
産(技術力、人的資源、流通との関係性、そしてブランドなど)を重視する点で、マーケティングに
おけるブランドの再評価と共通性を持つ。
前述した田中(1986)は「企業ブランド・モデル」形成の企業側の要因として、頻繁な新製品開
発の導入を指摘している。
日本企業は競合企業とのシェア競争における戦略として、新製品に頼る傾向があり、個々のブ
ランドを市場に浸透させるために、企業ブランドを活用しなければ多大なコストがかかってしまう。
あるいは、小川(1997)は、日本企業のブランド管理を A 型(企業ブランドがピラミッドの頂点にあ
って、個別ブランドは企業ブランドに従属した形態)とし、欧米のそれは O 型(企業ブランドを中心
に、個別ブランドが独自の個性を持つ衛星のようになっている)と指摘している。
田中・岩村(1996)による調査は、日本において企業名をそのまま商品のブランド名としている
比率は 19%に留まっており、決して多いとは言えないことを指摘している。但し、広告、SP、PR の中
で企業ブランドを強調しているケースは 84%である。
従って、企業ブランドの使用をどのレベルに置いているか類型化した先行研究を参照すること
にする。
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企業ブランド使用のレベル
企業ブランドの単独使用、または企業ブランド+ジェネリック
レベル 4
企業ブランドがパッケージ、広告などで支配的な地位を占める。
例)「味の素マヨネーズ」
企業ブランドと商品ブランドとの併用
レベル 3
パッケージまたは広告などのマーケティング・ミックスによるブランド訴
求において、商品ブランドと比較して、企業ブランドの比重が小さい。
例)「味の素ほんだし」
企業ブランドと商品ブランドとの併用(企業ブランド=エンドーサー)
企業ブランドはパッケージの全面のマークとして小さく示される。
レベル 2
テレビ広告の最後に現れるなど、マーケティング・ミックスにおいて企
業ブランドが何らかの形で示されるが、その比重はレベル 3 よりさらに
小さい。
例)花王「アッタク」
商品ブランド重視
企業ブランドははっきりした形で現れない。
レベル 1
パッケージの全面には現れず、裏に(例えば、製造元として)示され
る。
例)P&G
商品ブランドの単独使用
レベル 0
企業ブランドが全く示されない。
例)「IPSA」(資生堂)
(安 賢貞 2003「日本企業における「企業ブランド重視のブランド体系」--その分析枠組みについて」『経
済論叢 Vol.171, No.3』p 290 より引用)
上記研究ではレベル 2 までを含むものとして「企業ブランド」を捉えることを提案している。その
根拠としては①日本企業における企業ブランド重視を象徴する事象として、テレビ広告のスポンサ
ークレジット(企業ロゴ)の提示、②日本企業のブランド体系においては、企業ブランドがエンドーサ
ーの役割を果たすとの認識が広く受け入れられている点を指摘している。
つまり、日本のブランド・マネジメントに置いては、やはり「企業ブランドが中心」でありプロダクト・
ブランドはその製品クラス(カテゴリー)を現すと考える。
そして企業ブランドとコーポレート・ブランドのシナジーを考えると以下のようなモデルの適合性
が高いと考える。
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CB   (CB,PB)
CB:コーポレート・ブランド PB:プロダクト・ブランド
従って、前述したように日本型ブランドはコーポレート・ブランド重視であるため、ブランド・マネジ
メントは一層、企業(株主)価値重視につながる。
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