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要旨 - 知的財産高等裁判所

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要旨 - 知的財産高等裁判所
判決年月日
事 件 番 号
○
平 成 24年 12月 5日
平 成 24年 ( 行 ケ ) 第 10134号
担
当
部
知的財産高等裁判所
第4部
あ る 課 題 解 決 を 目 的 と し た 技 術 的 思 想 の 創 作 が ,い か に ,具 体 的 で あ り 有 益 か つ
有 用 な も の で あ っ た と し て も ,そ の 課 題 解 決 に 当 た っ て ,専 ら ,人 間 の 精 神 的 活 動 を 介
在 さ せ た 原 理 や 法 則 ,社 会 科 学 上 の 原 理 や 法 則 ,人 為 的 な 取 り 決 め や ,数 学 上 の 公 式 等
を 利 用 し た も の で あ り ,自 然 法 則 を 利 用 し た 部 分 が 全 く 含 ま れ な い 場 合 に は ,そ の よ う
な技術的思想の創作は,特許法2条1項所定の「発明」には該当しない
○
「 省 エ ネ 行 動 シ ー ト 」に 係 る 特 許 出 願 に つ い て ,心 理 学 的 な 法 則( 認 知 の メ カ ニ
ズム)を利用し,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,
専 ら 人 間 の 精 神 活 動 に 基 づ く も の で あ っ て ,自 然 法 則 を 利 用 し た も の と は い え な い と さ
れた事例
(関連条文)特許法2条1項,29条1項柱書
本件は,原告が,発明の名称を「省エネ行動シート」とする特許出願に対する拒絶査定
不服審判の請求について,特許庁が請求不成立とした審決の取消しを求める事案である。
本件審決の理由は,本願発明は,①産業上利用することができる発明であるとは認めら
れ な い か ら ,特 許 法 2 9 条 1 項 柱 書 に 該 当 せ ず ,② 仮 に ,特 許 法 上 の 発 明 で あ る と し て も ,
当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。
取 消 事 由 は ,① 発 明 該 当 性 に 係 る 判 断 の 誤 り 及 び ② 容 易 想 到 性 に 係 る 判 断 の 誤 り で あ る 。
本判決は,①につき,以下のとおり判示して,原告の請求を棄却した。
特 許 法 2 条 1 項 は ,発 明 に つ い て ,「 自 然 法 則 を 利 用 し た 技 術 的 思 想 の 創 作 の う ち 高 度 の
もの」をいうと規定するところ,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在で
ある以上,人の特定の精神活動,意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められ
る場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには
自然法則の利用とはいえない。
したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有
益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動
を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式
等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのよう
な技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない。
本 願 発 明 の 構 成 は ,「 省 エ ネ 行 動 シ ー ト 」 と い う 図 表 の レ イ ア ウ ト に つ い て ,「 軸 」 及 び
「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。そし
て,図表の「軸」及び「領域」に名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には
自 然 法 則 を 利 用 す る も の で は な く ,本 願 発 明 の「 省 エ ネ 行 動 シ ー ト 」を 提 示 さ れ た 人 間 が ,
領 域 の 大 き さ を 認 識・把 握 し ,そ の 大 き さ の 意 味 を 理 解 す る こ と を 可 能 と す る も の で あ り ,
一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。
本 願 発 明 の 作 用 効 果 は ,一 方 の 軸 と ,他 方 の 軸 の 両 方 向 へ の 広 が り( 面 積 )を 有 す る「 領
域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができ
ること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味
を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するもので
ある。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意
味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したも
のとはいえない。
以上のとおり,本願発明の「省エネ行動シート」の構成及びそれを提示(記録・表示)
する手段は,専ら,人間の精神活動そのものを対象とする創作であり,自然法則を利用し
た技術的思想の創作とはいえない。また,本願発明の奏する作用効果も,自然法則を利用
した効果とはいえないから,本願発明に係る「省エネ行動シート」は,特許法2条1項に
いう「発明」に該当しないものである。
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