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セシウム137吸着剤を用いた学生実験用教材の開発

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セシウム137吸着剤を用いた学生実験用教材の開発
○平成24年度奨励研究
137
Cs吸着剤を用いた学生実験用教材の開発
放射線技術学科 講師 鹿野 直人
1.研究目的
環境中の137Csなど,非密封放射性同位元素に対する関心が高まってきている。現在,社会的問題とな
っている放射能除染については,放射化学が学問領域として深くかかわる問題といえる。したがって,
放射線の専門家である診療放射線技師の養成校における当該科目の教育的重要度は増してきている。
図1137Csの壊変
137
Cs(親核種)は,ベーター崩壊により137mBa(娘核種)になるが,半減期が親核種は30.0年,娘核種
で2.55分であるため十分な時間の経過後に永続平衡に達する。セシウムを選択的に吸着する適当な「吸
着剤」を用いることにより137Cs除去カラムを作製することが原理的に可能である。ところが,近年本学
をはじめ大学教育で従来利用されていた隣酸ジルコニル(イオナイトC)という吸着剤が,生産時に出
る廃棄物処理の問題で生産が中止されて入手が困難となり,教材として満足のいく代替吸着剤も未だ報
告されてない。しかし,吸着剤自体は,放射能汚染という社会問題を反映して種々開発されるようにな
ってきていた。
そこで,新たに現時点で利用可能なセシウム吸着剤をスクリーニングし,実験・実習時に学生が自ら
吸着カラムを組み上げ,吸着操作を行い,放射能を測定し,あるいは放射能分布を画像として解析する
など,学習効果の上がる教材を本申請課題で開発し,放射線教育の一助とすることを目的とした。
2.研究方法
ウエルカウンターで自然計数値を5分間測定したのち,次の項目について実験した。吸着率の繊維装
填量依存性および137Cs溶出特性の測定では,セシウム吸着繊維(環境浄化研究所製)をカラムにそれぞれ
50, 100, 150, 200mg装填した。吸着繊維を詰めたカラムに137Cs水溶液1ml(100,000cpm程度)を入れ30
分間の吸着を行った。吸着時間が過ぎたら137Cs液をポリエチレンの試料管に溶出させ,さらに蒸留水1ml
をカラムに入れ同じポリエチレンの試料管に溶出させ,先ほどの液と合わせ,溶出から1時間後にカラ
ムと溶出液の30秒測定を3回行った。更に,溶出液を経時的に計測し計数率の変化を調べた。溶出液の測
定は,30秒間行い30秒間休み,ふたたび30秒間測定する操作を15回繰り返した。測定値から自然計数値
を差し引き,得られた値(cpm)と時刻を片対数グラフにプロットして崩壊曲線を作成した。娘核種生成
曲線については,溶出直後から1時間後までカラムの放射能を計測しプロットした。
3.研究結果
図2に吸着率の繊維装填量依存性を示すカラムに装填したセシウム吸着繊維が150mgを超えると9割を超える
吸着率を示した。図3に137Cs溶出特性を示す。カラムに装てんしたセシウム吸着繊維の重さ(吸着樹脂量)が200
mgを超えると放射能の溶出はかなり抑えられた。137Cs溶出直後の溶出液を経時的に計測すると娘核種の半減
期と一致する減衰が観測された。一方,溶出したカラムを経時的に測定することにより娘核種生成曲線を得るこ
とができた。
図2 吸着繊維のカラム装填量と吸着率の関係
図3 吸着カラムからのセシウム137溶出
4.考察
原子力発電所の事故以来,放射能に関する社会的関心が高まり,新聞やテレビなどでも報道されてい
るように教育現場でも小学校から高等学校まで放射線(放射能)教育が見直されてきている。現在社会
的問題となっている137Cs等の放射能汚染の除去に関して,専門家である診療放射線技師は,一般公衆に
比べてこれらのことに関してより詳しく知り,かつ指導的役割を果たすことが期待されている。
高等学校までの教育に比較した場合,大学教育における放射線教育の特色の大きなアドバンテージは,
2年次以降の学生が実際に放射性同位元素を扱うことが法的に可能な点にある。
これまで当該科目の学生実験で得た知見から,137mBaの半減期は学生実験の時間割の制限なども踏まえ
ると非常に適しているほか,親核種の半減期が長いため実験の準備にも適している。新しいセシウム吸
着剤とカラム設計による教材開発が成功すれば,137Csなどの取り扱いを学ぶのに非常に適した教材とな
ると考えられる。更に,本教材の開発成果は,学術雑誌等で公開することにより,国内外の医療系学部
のみならず,理学部,薬学部などでも教えられている放射能を用いた学生実験への波及効果が期待でき
ると考えられる。
今後,本セシウム吸着材とカラムを用いた教材を利用した学生実験を立ち上げ,放射線科学実験実習
書および教員用マニュアルを作成し本学の教育に生かしていく予定である。
5.成果の発表
茨城臨床核医学研究会 (予定)
6.参考文献
相良順一 他 放射化学実験テキスト 1996 茨城県立医療大学
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