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地域の周産期医療を守る“最後の砦”

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地域の周産期医療を守る“最後の砦”
地域 周産期医療 守 最後 砦
妊婦
求
産 両立
人口263万人の京都府。南北に広
早朝でも叩き起こされる
がるその地形のほぼ南端に位置する
わけです。
『こんな救急
宇治市は人口19万人。年齢別人口分
を受けていいですか?』の
布によれば、0∼4歳、5∼9歳のどち
プロセスはなく、常に『受
らも人口9000人前後となっており、そ
けたからよろしく』なんで
こから類推すると毎年1800人ほどの
す
(笑)
」
新しい命が誕生していることになる。
宇治徳洲会病院産婦人科が扱う
田 秀 一・産 婦 人 科 部 長。
分娩は、年間約500件。単純計算で
丸い眼鏡とヒゲがトレード
は、市内の全分娩数の27%というこ
マークだ。
とになるが、これは正確ではない。
丸山立憲院長(中央)
も会議に参加
「今、当院の産婦人科にいる常勤医
です。施設認定の関係上、ここには
産婦人科医が24時間常駐していなけ
なぜなら、同院には市内はおろか府
は、私と河邊公志先生の2人だけ。
ればなりません。今は2人で毎日交代
内全域、もしくは隣接する大阪府や奈
それで毎年約500件の分娩を扱って
するだけで精いっぱいなのが正直な
良県からもハイリスクの妊婦さんが集
いますから、それなり以上に忙しい環
ところです」
中するからだ。
境にあるのは確かでしょう。でも、週
「京都市内には市立病院や国立医療
センターなど、大きな病院がいくつか
あるんですが、そちらでは妊娠30週未
12
と語るのは、同 院の高
産婦人科や小児科の医師不足は
に2日ですが太田靖之先生
(p17参照)
京都府でも進み、医療圏内でも開業
が来てくれて当直もしてくれるので、
医の閉院などが続く。同様に、総合
たいへんに助かっています。そういう
病院内にあった産科の閉鎖もあると
先生がもう一人いてくれると、かなり
いう。
楽になるんですが……」
高田部長は、
1983年に徳洲会入職。
「とにかく産婦人科が減っているの
で、救急を含めハイリスクの妊婦さん
満とか、胎児の体重が1500g未満と
当 時 から実 施 されていたスーパー
はもちろんのこと、通常分娩の方もた
いった産科救急を受け入れてくれない
ローテート研修を受け、産婦人科医
くさん来られます。今のお母さんたち
んです。当然、NICUのある当院へ
となってからも、徳之島や種子島など
は情報通ですから、インターネットで
の母体搬送が増えますし、産婦人科
数々のグループ施設に応援に出た経
調べたり口コミで知ったりして当院に
的な訴えのある患者さんがいると、
験をもつ。宇治のような都市部の病院
たどり着くようですね」
救急隊員は当院に連絡してきます。
と、離島・僻地での周産期医療との違
その電話を受ける役目の研修医は徳
いを実体験として熟知してもいる。
とは、同院産婦人科の方針のこと。
洲会の教えにしたがって何でも断りま
「当時は、宇治病院に何人もの産婦
あまり医療介入はせず、できるかぎり
せん。というわけで、私は深夜でも
人科医がいたから応援にも行けたん
自然な形での分娩を心がけ、妊婦さ
DOCTOR'S NETWORK
お母さんたちに口コミで伝わるもの
んの希望をなるべくかなえようとして
のだから、そちらへの対
いることが知れ渡っているのである。
応もあります。でも、そ
「今の趨勢では、VBAC(帝王切開経
れは N I C U チームの 存
験後の経膣出産)
は行わず、ほぼ自
在 が あるか らこそ。赤
動的に帝王切開が選択されます。も
ちゃんを任せられる安
ちろん、それには一理あるのですが、
心感は、ものすごく大き
全てのVBACが不可能かといえばそ
いんです」
うではありません。希望する妊婦さん
NICUチームの中心と
も少なからずいらっしゃるわけですか
なっているの は、同 院
ら、条 件 がそろって い れば 当 院 は
小児科の田中慎一郎医
VBACをやります。それも、口コミで
長。NICUは6床だが、
伝わっていることの一つなんです」
常に満床状態だという。
高田秀一産婦人科部長
田中慎一郎医長
不足の代表みたいにいわれる産婦人
「当院には高規格救急車が3台あり、
科ですが、
私が医者になった頃は開
は産婦人科も同じだが、そこに一つ
現在は3台とも新生児搬送に対応で
業すれば儲かるといわれる花形で、
の危惧があるという。
きる仕様です。その出番の多くは、近
人気の診療科でした。それが、今や
「新しい方法や考え方が登場すると、
隣にある産婦人科の開業医さんから
絶滅危惧種です。他科の医師に対し
昔ながらの技が全否定されてしまい
の 新 生 児 搬 送ですね。生まれた赤
て自慢することではありませんが、産
がち。たとえば、骨盤位
(逆子)の経
ちゃんに異常があると連絡をくれる
婦人科は人間の“誕生”
を扱うところ。
膣分娩などがそうですが、これにして
のですが、それを私たちが救急車で
時には
“死”
にも向き合うものの、日常
もリスクの少ない症例で経験を積む
迎えに行きます。治療が必要な場合
的に死亡診断書と出生証明書の両
必要はあると思います。医療訴訟が
には、救急車内でも行いつつNICU
方を書いている産婦人科医って、神
増えた今、もめごとを避けたい医者
に連れてきます」
(田中医長)
医療は日進月歩で進化する。それ
様っぽくて面白いと思いませんか?
(笑)
」
が多いのは理解しますが、だからと
NICUで診る新生児の多くは、低
いって勇気や信念のない医者が多く
体重児。しかし、医療技術が進んだ
なるのはどうかと思います。それに、
現在では、
「ただ体重が軽いというだ
「一 度 N I C U に 預 かったら、その 赤
若い医師にそういうことを伝えていか
けで合併症が何もない赤ちゃんなら、
ちゃんが元気に退院していくまで、全
ないと、せっかくの技術がすたれてし
たいていの場合は元気に育ちます。
部を見届けたいという気持ちでやって
まうじゃないですか」
もちろん、心配な点はゼロではありま
います。NICUを担当する者の最大
これには田中医長も、
こうした努力の結果、年間500件の
せんが、症状の重い赤ちゃんも含め、
の喜びは、赤ちゃんが退院後も検診
分娩のうち帝王切開は100件程度。
全てのお子さんを元気にするのが私
などで来てくれること。その子が2歳3
数多いハイリスク出産を扱いながら
たちの義務だと思っています」
と語る。
歳と大きくなっていく姿を見るたび、
20%という数字は、驚くべきものだと
いう。
現在、同院には医療圏外の街から
関係する医師、看護師、助産師は
あんなに小さかった子がこんなに大
たびたび会合をもち、常に情報交換を
きく元気になって……と、すごくうれし
怠らない。カンガルーケアやタッチケア、
く感じられます。それが、NICUを
母児同室といったシステムは、こうした
やっていることの、一番大きなやりが
ことの積み重ねで完成されてきた。
いです」
と言う。
高田部長は言う。
高田部長は、
「今は常勤医2名体制
「産婦人科医がきついのは、母体と
で、残念ながらお産に注力しなけれ
科外来は毎日満員。1月平均900∼
赤ちゃんをダブルで診なければなら
ばならず、婦人科のほうの診療が十
950人が訪れるという。
ないこと。急な変化もありますから、
分にできません。その点は、早く改善
「通常の出産に加え、近隣の産科救
外科以上に迅速な決断を迫られるこ
できるようにしたいと思っています」
と
急では当院が“最後の砦”
みたいなも
ともあります。今、医療崩壊とか医師
語っている。
も多くの妊婦が訪れるため、産婦人
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