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死に至たる主要原因である肥満を外科的に治療する

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死に至たる主要原因である肥満を外科的に治療する
p3-31特集 10.2.16 16:55 ページ26
死 至 主要原因
肥満 外科的
治療
鎌ケ谷総合病院/日本肥満外科・代謝外科センター長
川村功
川村センター長(右)
とオレアリーさん
2008年4月1日、千葉県鎌ケ谷市の
川村センター長は81年に帰国。千
だ国内の肥満は多くなく、治療も一般
鎌ケ谷総合病院に日本肥満外科・代
葉大学医学部第2外科に戻り、肥満
化していませんでした。それが、90年
謝外科センターがスタートした。セン
外科を開設する。82年には本邦初
代に入って肥満の人が急速に増え始
ター長は、元千葉大学大学院医学研
の胃バイパス術を実施。このときの
めました。これは日本だけでなく他の
究院の川村功臨床教授(下都賀総合
患者さんは、手術後1カ月半で16kg
アジア諸国でも同様で、欧米並みに
病院院長)
。開設に至る経緯につい
も痩せたという。
重症肥満の人が増えていったのです」
て、次のように語る。
日本では胃がんの発生率が高い
ため術式が再検討された。その頃か
術が急増。しかも内科の診療では、
院 名 誉 院 長 に 紹 介され 、徳 田 虎 雄
ら「肥満外科の父」
と称されるアイオ
治療後5年以内のリバウンド率が97%
理事長と面談。鎌ケ谷総合病院の
ワ大学のエドワード・メイソン教授が
と悲観的なものであることから、外
名誉院長に就任するとともに、日本
提唱した、Vertical Banded Gastroplasty
科治療への依存が高まっていくように
肥満外科・代謝外科センターでの診
(VBG:垂直遮断胃形成術)が急速
なった。さらに腹腔鏡下肥満手術の
に広まる。川村センター長はメイソン
普及により、手術希望者が急増。そ
教授の指導を受け、84年からこの術
れに伴い肥満外科医の数も増えた。
療をスタートさせました」
同センター長は、国際肥満外科学
会日本支部代表、アジア・パシフィッ
ク肥満外科学会会長などを務める
式を採用した。
86年には、
「重症肥満の外科手術」
肥満に合併しやすい疾患としては、
高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸
肥満外科の第一人者。1968年に千
の項目で高度先進医療として厚生省
血症(通風)
、動脈硬化、心肥大、脳
葉大学医学部卒業後、同医学部第2
(現・厚生労働省)
に認可され、千葉
血管疾患、腎障害、睡眠時無呼吸症
外科(中山外科)
に入り、79年には
大学附属病院が施設認定を受けた。
候群(SAS)
、脂肪肝、胆石症、不妊
ハーバード大学に留学して、肥満外
88年に入ると、VBGをはじめとする
症などがあげられる。
科を学んだ。
「私が学んだジョージ・ブラックバー
「胃縮小術」が保険診療対象疾患と
して認められ、現在に至っている。
ン教授は外科栄養法の第一人者で
した。しかしその仕事の多くは肥満患
者さんに対する診療で、中心は肥満
Bypass(胃バイパス術)が主流でし
た」
DOCTOR'S NETWORK
またメタボリック・シンドロームは、シ
ンドロームX、死の四重奏などと呼ば
れてきた複合生活習慣病で、死に至
内科の診療では治療後5年
以内のリバウンド率が97%
外科手術。当時の米国ではGastric
26
その結果、世界各国で肥満外科手
「同級生の堀川義文・中部徳洲会病
る主要な原因になる。では、外科手術
によってどれほどの効果がもたらされ
るのか。米国誌「Annals of Surgery」
川村センター長によると、
「私が最
によれば、重症肥満患者さんの5年後
初に肥満外科手術を行った当時はま
の 死 亡 率 は、手 術をしない場 合 が
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メタボリック・シンドロームは複合生活習慣病
6.17%、手術後の患者さんは0.68%
よる合併症を起こしやすい。太る度
(手術死亡率 0.4%を含む)。つまり、
合いこそ小さくても、日本の糖尿病患
手術を受けた方の死亡率改善効果は
者さんの数は欧米諸国並み。それだ
89%にも及ぶという。一方、
「Journal
けに肥満外科手術は合併症の治療、
of ACS」の04年10月号では、手術を
軽快に有効です」
受けた重症肥満患者さんの1年後の
表1は、
「肥満合併症とその消長」
を
死亡率改善効果は33.0%、15年後の
表したもので、治療効果は明らかだ。
手術なしの死亡率は16.3%で、同手
「この手術によって、糖尿病などのメ
術あり死亡率は11.8%。また外科手
タボリック・シンドロームの病態が効果
術によって肥満に伴う糖尿病や高血
的に治癒するため、最近では欧米諸
咀嚼して食べるようになります。バン
圧、高脂血症、SASのほとんどが治
国を中心に肥満外科手術を“メタボ
ドの締めつけ具合は、術後にも変更
癒または軽快している。米国の公的
リック・サージェリー(メタボ手術)
”
と位
可能。さらに、バンドの内側に埋め込
保険制度メディケアは、重症肥満への
置づけています」
んだバルーン
(風船)
に生理食塩水を
外科治療が安全で有効であると結論
同センターで最初の手術が行われ
づけ、04年には
“肥満は病気ではな
たのは08年4月21日。川村センター長
これらの結果、少量の食事でも満腹
い”
としていた項目をマニュアルから削
が執刀した。その患者さんは、米軍
感を得られて減量につながるのです」
除している。
座 間 キャンプ内に ある幼 稚 園 のヘ
ザー・オレアリー園長
(39歳)
だった。
日本人は欧米人に比べて肥満
による合併症を起こしやすい
注入・吸引してサイズ調整を行います。
オレアリーさんは、手術3日後の24
日に無事退院。1週間後には東京八
オレアリーさんは身長158cm、体重
重洲口にある
「BMS八重洲ゲート」で
116kgで、BMIは46.5。BMIは体重
のコンサルティングを受けた。BMSと
(kg)
を身長
(m)
の2乗で割って算出さ
は、肥 満・代 謝 外 科( Bariatric &
図1はBMI65.4の男性患者さん
(33
れるが、25を超えると危険信号。糖
歳)
で、身長171cm、体重191.2kg。そ
尿病や高血圧、高脂血症などの生活
れが拡大胃バイパス術(腹腔鏡下)
を
習慣病にかかりやすくなる。
Metabolic Surgery)
の略称だ。
その後は3∼6カ月の間隔を置き、
減量の状態を見ながら何回かのバ
受けた6カ月後には93.4kgになり、術
オレアリーさんが手術を受けたの
ルーン調整を行う。フォローアップの
後6年たっても減量後の体重が維持
は、
「糖尿病と高血圧が理由。これま
期間は一生なので、帰国した場合に
されている。
で何度もダイエットに挑戦してきました
は、川村センター長がコネクションを
「日本人は、欧米人に比べて肥満に
がそのたびに失敗、それで手術を決
もつアメリカの医師にフォローを依頼
意しました。目標は、80ポンド
(約36kg)
の減量です」
するという。今、彼女はとても元気で、
園長を続けているそうだ。
川村センター長は当初、胃バイ
なお現在では、ラップバンドに代わ
パス術を予定していたが、最終
り腹腔鏡下スリーブ型胃切除術が主
的に胃バンディング術を選択。ア
流になっている。高度先進医療に認
メリカでは03年にFDA(米食品
可されたので、近いうちに保険適用に
医薬品局)
の認可を受け、現在、
なる予定だ。
欧米の肥満外科・代謝外科手術
同センターの09年度の手術件数は
で増えている術式だ。
28例。
「もっと増やしたいのですが、
「この手術は、食事摂取制限だ
スタッフの少ない点がネックです。研
けで減量を図ることができます。
修医の方たちに見学してもらって、セ
具体的には、腹腔鏡下で胃の上
ンターを手伝っていただければと思っ
部にバンドを巻きつけると大き
ています」
と川村センター長は語って
な食べ物が通りにくくなって、よく
いる。
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