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Attosecond optics

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Attosecond optics
Attosecondoptics
by
齋藤成之
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§1アト秒物理とは
1.1アト秒物理とは
物理現象と時間スケール
世の中にはいろいろな物理現象があるが、それぞれの現象には典型的な時間スケールとい
うものがある。
例えば、我々が普段目にする水の流れや物体の落下・衝突は、およそ1秒、1分といった時
間で起こる。しかし、とんでもなく短い時間、長い時間をかけて起こる現象もある。
以下は、短い順に、時間スケールと対応する現象をまとめた表である。(数値はWikipediaよ
り。一部加筆。)
時間
対応する現象
s
s(0.3ヨプト
秒)
s(8ゼプト秒)
s(150アト
秒)
プランク時間(物理で最も短い時間)
Wボソン・Zボソンの平均寿命
J/Ψ中間子の半減期
水素原子中の電子が原子核の周りを一周するのにかか
る時間
s(10フェムト
秒)
s(1ピコ秒)
s(0.3ナノ秒)
s(50マイクロ
水分子の典型的な分子振動の周期
固体の格子振動の典型的な周期
CPUの1クロック
聴くことのできる最も高い音(20kHz)の1周期
秒)
s(42ミリ秒)
映画のフィルム1コマ分の時間
人間の反応速度
0.1s(0.1秒)
s(86キロ秒)
地球の自転周期
s(180メガ秒)
地球の公転周期
s(2.6ギガ秒)
日本人の平均寿命
s(7.9ペタ秒)
s(0.4エクサ
秒)
太陽系の銀河系に対する公転周期
宇宙誕生からの時間
表を見ると、大雑把に言って、ミクロな現象は短い時間で起こり、マクロな現象は長い時
間をかけて起こることがわかる。
アト秒物理が対象とするのは、上掲の表の中でいうと上から4番目、文字通り「アト秒」の
領域の時間スケールの物理である。
アト秒で何が起こるか
1アト秒は
秒、すなわち百京分の1秒になる。これがどのくらい短いかのイメージ
は、1アト秒と1秒の比が、1秒と宇宙年齢の比に匹敵すると考えるとわかりやすい。つま
り、アト秒の世界から見ると、我々が感じる一秒が宇宙年齢ぐらいに見えてしまうという
ことである。
このような短い時間では、大抵のものは動かない。原子でさえもほとんど止まって見え
る。動くのは、原子よりも小さい、非常にミクロな粒子だけである。
特に、150アト秒が(古典的に考えた)水素分子を電子が一周する時間に相当することからも
分かるように、この時間スケールでは電子が中心的な役割を果たす。例えば、化学反応に
おいて電子が原子と原子の間を移動したり、あるいは光を浴びて電子が分子から飛び出た
り(イオン化)、といったことがアト秒の間に起きている。
このような過程は我々が直接見るには小さすぎて速すぎるが、実は日常的に起こる物理現
象の多くはこういった極小・超高速の電子の動きの積み重ねでできている。したがって、
アト秒物理を理解することは、多種多様な物理現象を基礎から理解することにつながる。
また、物理を理解するだけでなく、化学反応の制御や、超高速のエレクトロニクスへの応
用により、将来我々の生活にアト秒科学が活かされる可能性もある。
どうやってアト秒の世界を調べるか
通常、我々が速い動きを見たい時は、ハイスピードカメラなどで動画を撮影し、コマ送り
で見れば十分である。しかし、この方法ではせいぜいミリ秒(千分の1秒)が精一杯である。
もっと速いものを見たい時は、それを電気信号に変換し、オシロスコープで見ることもで
きる。しかし、現在の最新のCPUのクロックがせいぜい0.3ナノ秒のスケールであることか
らも分かるように、オシロスコープではナノ秒(10億分の1秒)程度が限界であり、アト秒に
は遠く及ばない。
実は、アト秒の世界にアクセスするためには、光、特にレーザーを用いるのが現時点では
唯一の方法である。その原理は、ストロボスコープに例えるとわかりやすい。
ストロボスコープとは、暗闇の中を高速で動く物体に対してフラッシュを何発も当て、そ
の間カメラを露光し続けて写真を撮る手法である。このようにすると、例えば飛び跳ねる
バスケットボールは以下の写真のように映る(画像はWikipediaより)。
フラッシュが焚かれた時だけバスケットボールの像が静止して浮かび上がり、写真に記録
されるため、ボールの動きが手に取るようにわかる。
これを物理に応用して、超高速で動く原子や分子に短いレーザーパルス(=フラッシュ)を当
て、その応答を測定器で測れば、高速の物理現象を調べることができる。
ここで、ストロボスコープで追うことができる速さの限界は、フラッシュの短さで決まっ
ている。なぜなら、物体の動きよりもフラッシュが長ければ、フラッシュが焚かれている
間の動きが全てカメラに記録され、ぼやけた写真になってしまうからである。逆に言え
ば、とてつもなく短いフラッシュを用意すれば、それだけ速い動きを捉えることができ
る。
同様に、物理を調べる際には、アト秒の間だけ光るレーザーパルスを用意すれば、アト秒
物理にアクセスできるのである。
このようなアト秒レーザーパルスは、「高次高調波発生」という方法で作ることができ
る。これについては後のセクションで扱う。
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