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46.末期悪性腫瘍患者の在宅ケア推進にあたり 介護保険利用の有用性
46.末期悪性腫瘍患者の在宅ケア推進にあたり 介護保険利用の有用性についての調査検討 ○森菊子1) 吉田美由紀 1) 松原史子 1) 戸田桂子 1) 山下絵里 1) 河井宇史 2) 1)ベテル在宅診療部 2)松山ベテル病院 【目的】 末期悪性腫瘍患者(以下 末期がん患者)が住み慣れた自宅で安心して在宅療養生活を行う上 で、地域の医療・介護・福祉が連携して支援する体制は重要不可欠である。がん対策基本法制定 により、地域の緩和医療・地域連携の研修は盛んに行われるようになってきているが、一方で、 地域の介護体制の対策が遅れているように思われる。 研究者らは在宅ケアの実践を通して、末期がん患者の在宅療養生活に、介護保険が大きな役割 を果たしていると感じている。しかし、現場のケアマネジャーからは末期がん患者のケアプラン 作成に困難と戸惑いを感じることがあるという声を多く聞く。末期がん患者の介護保険利用に関 して課題がどこにあるかを探り、穏やかな在宅看取りが行えるための介護保険の有効利用を調査 し、解決策の示唆を得る。 【研究方法】 Ⅰ.地域の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーにアンケートを送り、末期がん患者 の介護保険利用が困難であった点や有効と判断した点、要望したいことなどの調査を行った。 Ⅱ.研究者の所属する法人における、過去4年間の末期がん在宅療養者を対象に、在宅療養期 間、介護保険利用状況、死亡場所などを調査した。またそのうち、当法人のケアマネジャー が担当した末期がん患者の介護度、利用した介護保険のサービスを調査した。 Ⅲ.上記の結果をもとに、末期がん患者が介護保険をどう有効利用しているのか、ケアマネジ ャーが困難と感じている点などを明らかにし、よりよい在宅療養支援のための解決方法を考 察した。 【結果及び考察】 Ⅰ.地域のケアマネジャーへのアンケート結果 松山市圏域(松山市・伊予市・東温市・松前町・久万町・砥部町)の居宅介護支援事業所 150ヶ所487名にアンケートを送付した。そのうち110ヶ所の事業所(73.3%)に所 属するケアマネジャー318名(65.3%)から返答があった。 ケアマネジャーの構成は、男性42名(13%)女性276名(87%)で、職種は、ヘルパ ー・介護福祉士159名(50%)、看護師109名(34%) 、社会福祉士25名(8%)、歯科 衛生士7名(2%)、栄養士1名、作業療法士1名、その他16名(5%)であった。ケアマ ネジャーとしての経験年数は、5年以上が一番多く154名(48%)、3~5年82名(26%)、 ― 222 ― 1~2年57名(18%) 、1年未満25名(8%)であった。また、末期がんのケース担当経 験件数は、2~5件133名(42%)、1件74名(23%)、6~10 件26名(8%)、11 件以上17名(5%)で、1 件も担当したことがない者は、68名(21%)であった。250 名(79%)のケアマネジャーは末期がんの担当経験があるが、そのうち73名(29%)のケ アマネジャーは在宅看取りの経験が 1 件もない。2 件以上の在宅看取りの経験があるケアマ ネジャーは103名(41%)であった。 1)末期がんのケースをマネジメントする時に困難と感じていることとして、1:当てはま る 2:当てはまることもある 3:全く当てはまらない の数字で返答してもらったと ころ、 職種に関わらず(1:当てはまる)の回答が高かったのは ① 急速に病状が進むため認定結果が実状にそぐわず低く出る(57%) ② 申請してから認定調査までに時間がかかる(55%) ③ 在宅療養継続の可能性の判断が難しい(38%) の順であった。 反対に(1:当てはまる)の回答が低かったのは ① 訪問診療・訪問看護の導入の方法がわからない(8%) ② 本人・家族に医療(医師・看護師)の介入の必要性の説明が難しい(17%) であった。 2)福祉系のケアマネジャー(介護福祉士・社会福祉士)が看護師のケアマネジャーに比べ て、より困難と感じていることとして(1:当てはまる)と回答した者の割合で比較して みると ① 医療的判断が苦手でアセスメントが難しい(福祉系 36% 看護師 7%) ② 在宅療養継続の可能性の判断が難しい(福祉系 43% 看護師 24%) ③ 未告知のためケアマネジメントが困難(福祉系 32% 看護師 16%) ④ ターミナル期の家族支援の方法がわからない(福祉系 27% 看護師 15%) であった。 3)末期がんケースが有効利用できた医療・介護サービスは(複数回答) ① 福祉用具貸与・・・特殊寝台(80%)床ずれ予防マット(69%) ② 訪問看護(76%)③訪問診療(73%)④訪問介護(61%)⑤福祉用具購入(52%) ⑥訪問入浴(48%) 4)末期がんケースのケアマネジメント作成に関して、要望したいことの質問には、1:当 てはまる 2:当てはまることもある 3:全く当てはまらない ったところ、 職種に関わらず(1:当てはまる)の回答が多かった順に ① 申請してから認定結果がでるまでの時間の短縮(88%) ― 223 ― の数字で返答してもら ② 介護度に関わらずベッドレンタルを可能にしてもらいたい(82%) ③ 緊急入院先の確保(81%) ④ 退院前の細かい情報提供(告知・病状・余命・今後の治療方針・本人や家族の思い など)(81%) ⑤ 緩和医療ができる在宅医・訪問看護ステーションの情報(73%) 5)自由記載には以下のような意見の記載があった(カッコ内はほぼ同意見の人数) ① 介護認定に対する意見 ・ 末期がんの利用者は自動的に要介護2以上の認定をしてもらいたい(8) ・ サービスの制限の解除をしてもらいたい(3) ・・・ベッドの貸与、同居家族が居 る場合の家事援助など ・ 病状の進行が早く、区分変更の時期の判断が難しい ② 退院時の連携に対する意見 ・ 本人・家族の意向や理解が無いままに急な退院となり、在宅生活の調整が困難で あった(4) ・ いきなりの退院で戸惑うことがある。入院中に在宅医の連携、介護保険申請、退 院前カンファレンスをしてもらいたい ・ 病院のワーカーやナースにも介護保険の概要を知ってもらいたい ③ 在宅医療との連携に対する意見 ・ 在宅医や訪問看護師は忙しそうで声をかけにくい ・ 医療者側からの情報がほとんどない、連携が密にとれる体制が欲しい(4) ・ 連携・調整は訪問看護に行ってもらうほうがスムーズに行く ・ 末期がんの訪問看護は医療保険での提供になるので、連携が取りにくい(3) ・ 自分に医療の知識が少なく、気軽に相談しにくい(3) ④ 地域格差 ・ サービスの必要性があっても、訪問診療・訪問看護をしてくれる事業所が近くにな いので導入が難しく不安(3) ⑤ 訪問看護についての意見 ・ 若年の末期がんの場合、訪問看護の利用料が 3 割で高額なため思うように導入し にくいことがある ⑥ ケアマネジャーに対するターミナル加算 ・ 病状が変化しやすく、訪問が頻回になるので加算してもらいたい ・ プランの変更やケアカンファレンスなど、頻回必要になるので加算が必要 ⑦ その他 ・ 住宅改修している時間があるのか(病状が)、改修してそれが有効に使えるのか、 などの判断が難しい(2) ― 224 ― ・ 担当ケアマネジャーの精神的負担が大きいので、フォローの体制が欲しい Ⅱ.当法人の関わった末期がん患者の在宅療養者の調査結果 ・対象:2006年 4 月から2010年3月まで(4年間)に、当法人の訪問診療・訪問看 護を利用した、末期がん患者 総数:459名 ・在宅療養期間(在宅医療開始からの期間)の平均:49.9日 ・死亡場所の比較:在宅271名(63%)ベテル病院(ホスピス病棟)141名(33%)他 の病院16名(4%)療養中31名(2010年4月1日 現在) ・介護保険利用者:320名(69.7%) <当法人のケアマネジャーが担当した末期がん患者の調査結果> ・対象:上記介護保険認定者の内、当法人のケアマネジャーの担当した200名 ・介護度別人数と割合:要支援1(0) 要支援2(5名・3%) 要介護1(47名・19%) 要介護2(44名・16%) 要介護3(43名・13%) 要介護4(33名・11%) 要介護5(28名・8%) ・利用した介護保険サービス ① 特殊寝台 150名/200名(75%) うち、要支援2、要介護1の利用者27名/52名(52%) ②床ずれ防止マット 95名/200名(47.5%) うち、要支援2、要介護1の利用者14名/52名(27%) ③車椅子 49名/200名(24.5%) うち、要支援2、要介護1の利用者10名/52名(19%) ④訪問介護 45名/200名(22.5%) ⑤手すり、スロープの設置 ⑥歩行器、杖 30名/200名(15%) 21名/200名(7%) の順であった。 また、全認定者の中で、介護保険サービスを利用しなかった人は17名(8.5%)であった。 「特殊寝台」「床ずれ防止用具」「車椅子」などの福祉用具貸与は、要介護1以下の認定 者には原則として算定できず、医師の理由書及び担当者会議による判断が求められてい るため、貸与されるまでに時間がかかる。 【まとめ及び提言】 地域のケアマネジャーのほぼ8割は末期がん患者を担当した経験があり、そのうち7割の者は 在宅看取りに関わった経験があった。末期がん患者のケアマネジメントで困難と感じていたこと については、自由記載を含めて ①認定結果が実状にそぐわずサービスの利用がタイムリーにで きない。ことに軽度認定者の場合は、特殊寝台、床ずれ予防マットなどの貸与は手続きに時間が ― 225 ― かかるため必要時に迅速に利用しにくい。また、急速な病状進行に伴いADLも急に低下するが、 認定更新が間に合わない ②認定調査までに時間がかかり、暫定でプランを立てるため、必要な サービス導入が充分導入できない という意見が多数であった。 一方、大多数の末期がん患者に有効であった介護保険サービスとして、特殊寝台、床ずれ予防 マットの福祉用具貸与が挙げられており、病状の進行に伴い、訪問介護、訪問入浴などの導入が タイムリーに行われることも求められると回答された。末期がん患者の介護認定が一律に「要介 護2」以上であれば、迅速なサービス導入が可能となる。 また、福祉系職種のケアマネジャーは、医療系職種のケアマネジャーにくらべ、医療的な判断 が難しいこと、在宅医療との連携が取りにくいことなどの意見が多くあった。末期がん患者の在 宅療養支援には、訪問看護ステーションと密に連携が求められる。そのため、訪問看護は医療保 険での利用になるが、ケアマネジャーに対する情報提供を必須のものとする必要がある。更に、 ケアマネジャーが、医療者と頻回に情報交換して、連携を取る体制を構築する必要がある。 また、地域の中で、24時間体制で緩和ケアを行なうことのできる診療所、訪問看護ステーシ ョンの情報の一覧が整い、ケアマネジャーが把握できるような体制が求められる。 <提言>本研究をまとめた結果、末期がん患者が介護保険をスムーズに利用でき、安心して在宅 療養ができるために以下の提言をする。 ① 末期がん患者の介護認定は、病状の進行も予測して、一律に「要介護2」以上とする ② 末期がん患者のケアマネジメントに対して、医療者と密に情報交換を行うこと、病状の 進行に伴いタイムリーにプランの見直しを行うことのために、ターミナル加算をつける ③ 末期がん患者に関しては、訪問看護がケアマネジャーに対して情報提供することを必須 とし、それに対して介護報酬を設定する ④ 市町村単位で、24時間体制で緩和ケアを行なうことができる医療機関・訪問看護ステ ーションの情報を整備する 【経費使途明細】 アンケート材料購入費 郵送費 (アンケート・報告書の発送 200円×150ヶ所×2) 会議開催費(アンケート調査結果分析・検討・報告書作成) アンケート集計、データ調査、解析のアルバイト料 (2時間5000円 74,908 円 (封筒、A4用紙、コピー) 7名 10回 60,000 円 50,000 円 385,000 円 11日間) 569,908 円 合計 ― 226 ―