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JARI Research Journal 20140903 【技術資料】 電動車両の開発動向 Developing Trend of Electrically Propelled Vehicles 森田 賢治 *1 Kenji MORITA 2. BEV 2. 1 BEV の歴史 BEVの歴史は古く,1830年代にスコットランド JARI Research Journal 雅敏 *1 Masatoshi KUWADA 1. はじめに 20世紀におけるグローバルな産業・技術および 経済の発展と人口増加に伴い,自動車の使用台数 も爆発的に増加し,それに伴い自動車からの排出 ガスが大気汚染をもたらした.自動車の排出ガス は,1960年の米国加州を皮切りに米欧日で規制が 始まり,近年は2004年米国のTier 2,2009年欧州 のEURO 5,2009年日本のポスト新長期規制など, 規制開始当初の1/100前後のレベルまで強化され た.結果,これら規制が行われた多くの国々や地 域において,大気環境の劇的な改善が見られつつ ある1). 一方,自動車の燃費については,1973年と1979 年の2度のオイルショックを経て,化石燃料枯渇 防止やエネルギーセキュリティの観点から規制が 導入された.さらに,化石燃料の消費に伴う二酸 化炭素(CO2)の生成が地球温暖化の主要因とみ なされ,1997年の地球温暖化防止会議(COP3) では京都議定書が採択されるなど,自動車のエネ ルギー効率向上あるいは脱化石エネルギーが大き な課題となっている. 自動車メーカ各社は,自動車を21世紀に生き残 らせるために,ここに挙げた大気汚染防止,エネ ルギーセキュリティ確保およびCO2低減の課題 に対応していくことが必要と考え,電気自動車 (BEV) ,ハイブリッド電気自動車(HEV)およ び両者の中間的な特性を有するプラグインハイブ リッド電気自動車(PHEV)を精力的に開発して いる2).本稿は,これら電動車両の歴史と開発動 向について述べる. *1 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部 桑田 のロバート・アンダーソンが世界で初めて充電不 可能な一次電池を搭載したBEVを発明した.販売 された最初のBEVは1986年に英国で登場してお り,ガソリンエンジン車(GV)の発明よりも5年 早い.BEVはGVのような振動,音,臭いがなく, 当時GVの運転でもっとも難しかった変速操作の 必要がなかった.さらにエンジン始動のために人 力でクランクシャフトを回す必要もないなど,取 扱が簡単なことから,自動車の黎明期には蒸気機 関・内燃機関と動力源の覇権を争っていた3).1900 年のパリ万博には,当時ローナー社在籍のフェル ディナント・ポルシェが,インホイールモータを 搭載した四輪駆動のBEVを出展している4).しか し,ヘンリー・フォードによる1908年からのフォ ードT型の成功により自動車市場は完全にGVに 支配され,BEVは市場から姿を消した. その後,1970年になって制定された米国の大気 浄化法改正法(マスキー法)と1973年に発生した オイルショックが引き金となり,排出ガスを出さ ず火力以外にも自然エネルギーなど多様なエネル ギー源から電気を製造可能なBEVが再び注目さ れたが,当時はまだ鉛電池の時代で電池性能が自 動車の要求レベルを満足せず,ブームは一旦下火 となった.その中,1990年になると米国でZero Emission Vehicle(ZEV)法が制定され,市場投 入が不可欠な車両と位置付けられ,現在に至って いる5).1997年のCOP3以降は,地球温暖化防止 の観点から自動車の燃費についても厳しい目が向 けられるようになり,各国で燃費規制の強化が進 んだ.また,石油価格が高騰しエネルギーセキュ リティ確保の観点から自動車の脱石油が強く求め られるようになった. ZEV法と燃費規制に対応し脱石油を進めるには 自動車の電動化がひとつの有効な手段であり, BEVの開発が活発化している. - 1 - (2014.9) 20 Range / Battery energy [km/kWh] 18 16 JC08 14 10・15 12 10 8 6 4 2 0 1 9 85 1 9 90 1 9 95 2 0 00 2 0 05 2 0 10 2 0 15 Year Fig. 2 Transition of range-to-battery-energy ratio 6)~12) 600 500 LIB Range [km] 2. 2 BEV の開発動向 2. 2. 1 普通自動車~軽自動車 車両質量に占める電池質量の割合は,Fig. 1に 各年の推移を示すとおり減少傾向である.1990年 の鉛電池の時代は車両質量の50%ほども占め「電 池運搬車」の様相であったが,1999年以降では 20%以下まで減少していることがわかる.これは, エ ネ ル ギ ー密 度 に 優れる リ チ ウ ムイ オ ン 電池 (LIB)の実用化によるものである. 搭載する電池エネルギー当たり航続距離の推移 をFig. 2に示す.車両サイズや用途がそれぞれ異 なるので単純比較はできないが,試験サイクルが 温間スタートで台形の10・15モードから冷間スタ ートで複雑な加減速を伴うJC08モードに変更と なり,車両が暖機されるまでのタイヤや各回転部 の損失や試験サイクル自体の負荷が増大している にも関わらず,一部の大型高級車を除き同レベル を維持している.これは,モータや電池あるいは 回生ブレーキ制御等各要素の改良によって,車両 の総合的な効率が高まっているためと思われる. 航続距離の推移をFig. 3に示す.LIBを搭載した 近年のBEVは,概ね100 kmから200 kmのものが 多いが,用途によっては500 km近い航続距離のも のも登場している11). 400 鉛/Ni-Cd/NiMH 300 200 100 0 1 9 85 1 9 90 1 9 95 2 0 00 2 0 05 2 0 10 2 0 15 Year Fig. 3 Transition of range 6)~12) Battery mass / Vehicle mass [%] 60 Lead-acid 50 40 Ni-Cd 30 NiMH Lead-acid LiB 20 10 0 1985 1990 Fig. 1 1995 2000 Year 2005 2010 Transition of battery-mass-to vehicle-mass ratio JARI Research Journal 6)~10) 2015 2. 2. 2 超小型モビリティ 近年,軽自動車よりも小さい二人乗り程度の「超 小型モビリティ」の開発が活発化している.主に 近距離の移動に使われることからBEV化に適し たカテゴリであり,発表される超小型モビリティ のほとんどがBEVである.まちづくりと連携した 導入を図ることで,低炭素社会の実現に資すると ともに,都市や地域の新たな交通手段,観光・地 域振興,高齢者や子育て世代の移動支援等,生活・ 移動の質の向上をもたらす新たなカテゴリのモビ リティとして期待されている.既に政府や自動車 メーカも動き出し,自治体と一緒になって導入に 向けた実証実験を進めている13). 具体的には,2010年11月に日産自動車が「ニュ ーモビリティコンセプト」を公開し,ヨーロッパ では2012年にルノー・トゥイージーの名前で発売 した.国内でも横浜市でカーシェアリングを実施 する等様々な実証実験を展開している.2012年7 - 2 - (2014.9) 月にはトヨタ車体がミニカー規格の新型 「コムス」 を販売開始し,セブン-イレブン・ジャパンが配 達サービス用車両として採用する等新サービスを 導入している.2013年11月には本田技研工業が 「MC-β」を第43回東京モーターショーで公開 し,熊本県,さいたま市等で社会実験に順次導入 しており,宮古島市では太陽光発電を用いて超小 型モビリティに給電する仕組みを構築する等離島 におけるエネルギーの地産地消を目指した取り組 みを始めている. このように,従来のような既存車両の代替では なく,新たなカテゴリから電動化が始まる可能性 も否定できず,自動車メーカ各社やベンチャー企 業がそれぞれの立場でBEVの裾野拡大に向け知 恵を絞り,新たな提案,取り組みを始めている. Table 1にこれらの主要な超小型モビリティの諸 元を示す. 一方で,国土交通省では,地域の手軽な移動の 足として主に近距離輸送に利活用される超小型モ ビリティについて,安全確保を優先に考え, 「道路 運送車両の保安基準」に基づく基準緩和制度を活 用し,高速道路等は走行しないこと,交通の安全 と円滑を図るための措置を講じた場所において運 行すること等を条件に,大きさ,性能等に関して 一定の条件を付すことで,安全・環境性能が低下 しない範囲で一部の基準を緩和し,公道走行を可 能とする制度を2013年1月に創設した. 上述のとおり,BEVに適した特性を有した超小 型モビリティといった省エネ・少子高齢化時代の 新たなカテゴリの乗り物への展開により,新たな 市場の創出が期待される. Table 1 Specifications of micro BEVs JARI Research Journal 7), 8), 12) 3. HEV 3. 1 HEV の定義と歴史 HEVとは,広義では,電気と燃料など異なる2 種類のエネルギーを消費して駆動する車両全てを 指しており,外部充電有りと無しの両方を含む. しかし,外部充電有りのHEVを特にPHEVと呼ぶ のが一般的になったことから,単にHEVと呼ぶ場 合は外部充電なしのタイプを指す場合が多くなっ た.本稿でもHEVとは外部充電無しのタイプを指 すこととする. HEVの歴史は古く,1900年代の初めには,フィ ッシャーコンビネーションエンジン(米国)やロ ーナー・ポルシェ(オーストリア)などが,BEV にエンジン発電機を搭載しモータのみで車輪を駆 動するいわゆるシリーズHEVを開発している4). 当時は,エンジンの操作性や変速機の信頼性の低 さを解消する目的でHEV化を選択したようであ るが,1991年に日野自動車が世界で初めて市販化 したHIMRや1997年にトヨタ自動車が初めて量 産化したプリウス以降,HEVは燃費向上と排出ガ ス低減を同時に実現するためのシステムとして使 われている. HEVの駆動システムは,Fig. 4に示すとおり大 きく分けて3種類が存在する. シリーズ式:前述 パラレル式:エンジンとモータでそれぞれ 機械的に車輪を駆動するシステム シリーズ/パラレル式:走行負荷に応じて シリーズ運転とパラレル運転を切り替える システム シリーズ式は,エンジンの駆動力を全て電気に 変換することから変換ロスが大きく,高速・高負 荷走行になる程パラレルHEVやシリーズ/パラ レルHEVに比べ燃費が不利になる傾向があり,ま た大型で重くなり易い.そのため,都市バス等の 低速走行が多い車両において実用化例があるもの の乗用車ではほとんど採用例がない.そこで,こ こではパラレルHEVとシリーズ/パラレルHEV を対象に開発動向を述べる. - 3 - (2014.9) MG TM MG ICE MG ICE GE RESS RESS Fuel Tank Fuel Tank RESS Fuel Tank ICE GE (a) Series (b) Parallel (c) Series/Parallel MG: Motor generator GE: Generator RESS: Rechargeable energy storage system TM : Transmission ICE: Internal Combustion Engine Fig. 4 Configuration of Three HEVs 3. 2 パラレル HEV の開発動向 ホンダでは,1999年発売のインサイト以降,一 貫してパラレルHEVの開発・販売を続けている. そこで,ホンダHEVの歴史を見ていくことで,パ ラレルHEVの開発動向を分析する.Table 2に諸 元の推移を示すとおり,トヨタ・プリウスのよう に単一車種とは行かないが,インサイト,シビッ クおよびフィットの3車種においてそれぞれ2世 代に渡ってHEVシステムの改良を進めている. 機構面では,エンジンにモータが直結されたタ イプのパラレルHEVは構造がシンプルであるも のの,エンジンとモータが常に共回りするため制 動時にエンジンブレーキ分の回生エネルギーが減 少する,エンジンを止めてのモータ走行が出来な い,といった欠点がある.その欠点をカバーする ために,ホンダHEVでは気筒休止システムを導入 し,エンジンのポンピングロスを削減する努力を してきた.最新モデル(2代目フィット)におい ては,デュアル・クラッチ・トランスミッション (DCT)を採用し,初めてモータとエンジンの間 にクラッチを設けた点が特筆される.これによっ て,素早い変速と高効率回生を実現している. Table 2から作成したFig. 5に示すホンダHEV の諸元の推移より,次の傾向が読み取れる. エンジンとモータの最大出力:それぞれ初 期の約1.6倍(51 kW→81 kW)および2倍 以上(9.2 kW→22 kW)まで向上 電池:総電圧はニッケル水素(NiMH)電 池採用時は減少傾向であったが,LIB採用 の最新モデルでは170 V以上まで増加.容 JARI Research Journal 量は低下傾向(6.5 Ah→5.0 Ah) .電池エネ ルギーは低下傾向だったが最新モデルで増 加に転じ0.8 kWh以上確保されている.計 算最大電流(モータ最大出力を電池総電圧 で除した値)および計算最大放電率(Cレ ート)は増加傾向を示し,最新モデルでは それぞれ120 Aおよび25 C以上となってい る. 電池エネルギー当りのモータ出力:2倍以上 (10 kW/kWh→25 kW/kWh以上)に増大 車両質量当りの燃料消費率:乗用車の燃費 は国内では燃料1リットル当りの走行距離 (単位:km/l)で評価するのが一般的であ るが,ここで比較する車両は2人乗りのスポ ーツカータイプ,4人乗りセダン,コンパク トハッチバックと車種が異なり単純な燃費 (km/l)の比較は難しい.そこで,ここで はできるだけ純粋にHEVシステムの効率 を見るために,車両質量当りの燃料消費率 (l/t・km)で比較する.最新モデルは,試 験サイクルが10・15モードよりも実際の走 行に近づけたJC08 モードに変更となって いるにも係わらず,約30%低減された. 以上,パラレルHEVにおいても,エンジンおよ びモータ出力の増強,モータ駆動/回生量の増大, 損失の低減等により,動力性能と燃費性能の両立 を狙った改良が加えられていることがわかる. Table 2 Specifications of Honda parallel HEVs 12) 発表年 1999 2001 2005 2009 2010 2013 車両 1sr イ ンサイト 1st シ ビック HEV 2nd シ ビック HEV 2nd イ ンサイト 1st フ ィット HEV 2nd フ ィット HEV 概観 不可 不可 可(全気筒休止) 可(全気筒休止) 可(全気筒休止) 可(クラッチ断) 排気量 (cc) 995 1,339 1,339 1,339 1,339 1,496 出力 (kW) 51 63 70 65 65 81 回生時状態 運転 3気筒休止 全気筒休止 全気筒休止 全気筒休止 停止 EV走行 エン ジン 種類 ニッケル水素 ニッケル水素 ニッケル水素 ニッケル水素 ニッケル水素 リチウムイオン 総電圧 (V) 144 144 158 100.8 100.8 172.8 容量 (Ah) 6.5 6.5 5.9 5.75 5.75 5.0 モータ 出力 (kW) 9.2 10 15 10 10 22 燃費 (km/L) 10・15モード 32.0 29.5 31.0 30.0 30.0 電池 - 4 - JC08モード 車両質量 (kg) - - - - 26.0 26.0 36.4 850 1,190 1,260 1,190 1,130 1,080 (2014.9) 車両質量当りの燃料消費率:10・15モード において初代より約30 %低減した.なお, プリウスαが3代目プリウスよりも若干増 加傾向なのはワゴンボディの採用による空 気抵抗の増大(全高と全幅がそれぞれ85 mmと30 mm拡大されている)によるもの と思われる. 以上のとおり,コストを抑えるため電池使用量 を減らしつつモータ出力を増強して,電気駆動領 域の拡大による燃費改善と加速力の向上を図って きたことが分かる. Max. power (kW) 100 80 60 エンジン出力は初期の約1.6倍まで増大 40 20 Batt. voltage (V) 0 200 モータ出力は初期の2倍以上まで増大 150 100 電圧は減少傾向から 増加に転じた. 50 Batt. energy (kWh) Batt. capacity (Ah) 0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 1.0 0.8 0.6 0.4 電池エネルギーは低下傾向 だったが増加に転じた. 0.2 Table 3 Calculated max. current (A) 0.0 150 Specifications of Toyota Prius 8) 120 90 計算最大電流は 120 A以上 60 30 Calculated max. C rate (C) 2009 2011 2代目 3代目 プリウスα 7人乗り 排気量 (cc) エン ジン 計算最大C rateは 25 C以上 無し 無し 有り 有り 有り 1,496 1,496 1,496 1,797 1,797 出力 (kW) 43 53 57 73 73 種類 ニッケル水素 ニッケル水素 ニッケル水素 ニッケル水素 リチウムイオン 総電圧 (V) 288 274 202 202 202 容量 (Ah) 6.5 6.5 6.5 6.5 5.0 モータ 出力 (kW) 30 33 50 60 60 燃費 (km/L) 10・ 15モード 28.0 29.0 35.5 38.0 31.0 電池 JC08モード 車両質量 (kg) - - - 32.6 26.2 1,240 1,220 1,260 1,310 1,480 10・15モ ード JC08モ ード 2 0 00 2 0 02 10・15モードよりも実際の走行に近づけた JC08モードであるにも関わらず車両質量当 り燃料消費率を30 %低減. 2 0 04 2 0 06 2 0 08 2 0 10 2 0 12 2 0 14 Year Transition of Honda HEV specifications - 5 - 80 60 40 エンジン出力は初期の約1.7倍まで増大 20 モータ出力は初期の2倍に増大 0 400 12) 3. 3 シリーズ/パラレル HEV の開発動向 トヨタ・プリウスは,遊星ギヤを用いてシンプ ルなHEVシステムを実現しており,現行モデルで 3代目である.ここでは,Table 3に示す公表され た諸元データから,その開発動向を見ていくこと とする.Fig. 6に示すプリウスの諸元の推移より, 次の傾向が読み取れる. エンジンとモータの最大出力:それぞれ初 代の約1.7倍(43 kW→73 kW)および2倍 (30 kW→60 kW)まで向上 電池:総電圧は低下傾向の後安定(288 V →202 V) .容量はほぼ安定(NiMH:6.5 Ah, LIB:5.0 Ah) .総エネルギーは約1/2に減少 (1.87 kWh→1.01 kWh) 電池エネルギー当りのモータ出力:初代の 約3倍まで増大 JARI Research Journal Max. power (kW) 30 % Batt. voltage (V) Fig. 5 2003 初代MC 電池電圧は202 Vで 下げ止まり 300 200 100 Fuel consumption (l/t・km) Motor power/Batt. Batt. energy (kWh) Batt. capacity (Ah) energy (kW/kWh) Fuel consumption (l/t・km) Motor power/Batt. energy (kW/kWh) 0 1 9 98 2000 初代 昇圧回路 0.03 0.01 1997 車両 概観 0 30 25 20 15 10 5 0 30 25 20 15 10 5 0 0.04 0.02 発表年 0 8.0 6.0 電池容量はリチウムイオン 電池となり減少 4.0 2.0 0.0 2.0 1.5 1.0 0.5 電池エネルギーは減少傾向 0.0 80 60 40 20 0 0.04 0.03 30 % 10・15モ ード 0.02 JC08モ ード 0.01 10・15モードの車両質量当り 燃料消費率を30 %低減 0.00 1 9 96 Fig. 6 1 9 98 2 0 00 2 0 02 2 0 04 2 0 06 2 0 08 2 0 10 2 0 12 Year Transition of Toyota Prius specifications 8) (2014.9) 4. PHEV 4. 1 PHEV のコンセプトと歴史 PHEVとは,外部充電可能なHEVのことである. 構造的には,Fig. 7に示すとおり,求めるEV走行 距離に応じてHEVの電池搭載量を増加させ,普通 充電器を搭載した車両であり,BEVとHEVの両方 の特徴を有している. 満充電後の走行距離に対するPHEVパワートレ ーンの挙動の変化をFig. 8に示す.充電後,近距 離やパワートレーンへの負荷が小さいときは充電 さ れた 電気 エネ ルギーを 消費 してBEVと して (Charge depleting [CD] mode)走行するが,充 電されたエネルギーを使いきった後やパワートレ ーンへの負荷が大きい場合はエンジンを作動させ て外部充電無しHEVと同様に充電状態(SOC)を 維持して(Charge sustaining [CS] mode)走行 する. CDモードでのパワートレーン制御には2種類 の方式が存在する.負荷の大小に因らずモータの みで走行するAll electric(AE)タイプと低負荷で はモータのみで走行するが高負荷ではエンジンも 併用するBlendedタイプである. TM TM ICE MG MG ICE MG GE GE RESS RESS RESS Fuel Tank Fuel Tank Charger (a) HEV (b) PHEV Charger (c) BEV MG: Motor generator GE: Generator RESS: Rechargeable energy storage system TM: Transmission ICE: Internal Combustion Engine Fig. 7 Configuration of three EVs JARI Research Journal Engine start CD mode プラグイン走行 CS mode ハイブリッド走行 プラグインレンジ Fig. 8 Operating mode of PHEV 14) 1997年に市販されたトヨタ・コースター・ハイ ブリッドEVはBEVにエンジン発電機を搭載した PHEVであった.2000年代に入ると独,仏,米, 加 な ど に お い て PHEV の 実 証 試 験 が 行 わ れ , EDrive社やHymotion社等がトヨタ・プリウスを ベースにPHEV化する改造キットを開発した.そ の後自動車メーカによる開発が加速し,2007年に なるとトヨタ自動車が開発したプリウスベースの PHEVが国土交通大臣の認定を取得し,公道での 実証試験や排出ガス・燃費試験などに供され, 2008年になると中国のBYD社からF3DMが量産 PHEVとして発売された.2009年以降は国内自動 車メーカからも量産PHEVが登場し,2014年7月 現在,国内の3社から発売されるに至っている. 4. 2 PHEV の開発動向 国内自動車メーカによるPHEVの諸元をTable 4に示す.まず2009年にトヨタ自動車からトヨタ pHVが500台程度リース販売され,2012年にはそ の改良型が一般に向けて販売を開始した.この2 台は,基本的にはベースとなるプリウスの電池を NiMHからLIBに載せ替えて大容量化し,外部か らの充電器を搭載し制御をPHEVのものに変えた だけであり,パワートレーン自体はプリウスのも のを流用したものとなっている.この2台を比べ ると,電池の総電圧が345.6 Vから207.2 Vへと低 くなり,総電力量も5.2 kWhから4.4 kWhへと約 15 %削減されている.その一方で,PHEVのBEV としての航続距離を表す等価EVレンジは,23.4 kmから26.4 kmへと約13 %向上している.また交 流 電 力 量 消 費 率 が 6.57 km/kWh か ら 8.74 km/kWhへと約33 %も改善されていることから, 車両の各構成要素の効率向上させたことによると 思われる. - 6 - (2014.9) Table 4 Specifications of PHEVs 8), 9), 12) 発表年 2009 2012 2013 2013 車両 トヨタpHV リース車両 トヨタpHV 市販車両 アウトランダー PHEV アコード PHEV 排気量 (cc) 1,797 1,797 1,998 1,993 出力 (kW) 73 73 87 105 種類 リチウムイオン リチウムイオン リチウムイオン リチウムイオン 320 概観 エンジン 電池 総電圧 (V) 345.6 207.2 300 総電力量 (kWh) 5.2 4.4 12 6.7 出力 (kW) 60 60 前:60 後 :60 124 モータ 燃費性能 (JC08 モード) 複合燃料消費率 (km/l) 57.0 61.0 67.0 70.4 ハイブリッド燃料消費率 (km/l) 30.6 31.6 18.6 29.0 プラグインレンジ (km) 23.4 26.4 60.2 37.6 等価EVレンジ (km) 23.4 26.4 60.2 37.6 交流電力量消費率 (km/kWh) 6.57 8.74 5.90 9.26 1490 1400 1780 1740 車両質量 (kg) 100 Plug-in hybrid fuel economy [km/l] 2013 年 に 発 売 さ れ た 三 菱 ア ウ ト ラ ン ダ ー PHEVは,前後モータ出力の合計値(120 kW)が エンジン出力(87 kW)の1.38倍あり,電池エネ ルギーも12 kWhと大きく,より電気駆動を重視 した設計となっている.等価EVレンジも60.2 km と長い. 同じく2013年に発売されたアコードPHEVは, トヨタpHVと同様に,ベースとなるHEVのモータ, エンジンおよび動力伝達系は変更せずに電池の大 容量化と外部充電プラグの増設によりPHEV化し ている. Table 4より,これら4台はすべてプラグインレ ンジと等価EVレンジが等しくなっている.これは, Blendedタイプであっても,JC08モード程度の走 行負荷であれば電気のみで走行可能であることを 示している.等価EVレンジは,Fig. 9に示すとお り,年次に新しくなるに従って拡大傾向であるこ とがわかる.また,Fig. 10に示すとおり,等価EV レンジによって大きく左右されるプラグインハイ ブリッド燃費15)も改善傾向である. 80 60 40 20 0 2 0 08 2 0 09 2 0 10 2 0 11 2 0 12 2 0 13 2 0 14 Year Fig. 10 Transition of plug-in hybrid fuel economy 8), 9), 12) 5. 各電動車両の総合比較と今後の展望 本稿で解説したHEV,PHEVおよびBEVに燃料 電池自動車(FCV)を加えた各電動車両について, ガソリン車およびディーゼル車も含めて総合比較 を行った.その結果をTable 5に示す.評価項目は, 脱化石燃料,CO2低減,排出ガス低減,航続距離, 充電時間,インフラ整備およびトータルコストで ある. HEV:ガソリンやディーゼルの従来車と比 較して大きな短所が無く普及期に入ってい る. PHEV:BEVの課題が無いことからポスト HEVとして種々の車両が登場し,今後の普 及が期待される. BEV:航続距離,充電時間,インフラ等の 課題がある.主に近距離用途の小型/超小 型車としての普及が期待される. FCV:インフラ整備とトータルコスト削減 の課題克服が必要だが,トヨタ自動車が 2014年度内に国内で車両価格700万円程度 での市販化を予定しているなど,1台1億円 と言われた頃に比べると現実的なコストに 近づき始めた. 80 Equivalent EV range [km] 70 60 50 40 30 20 10 0 2 0 08 2 0 09 2 0 10 2 0 11 2 0 12 2 0 13 2 0 14 Year Fig. 9 Transition of equivalent EV range JARI Research Journal 8), 9), 12) 以上より,短期的には今後もコストダウンが進 むであろうHEVが従来のGVを代替し,中期的に はHEVより燃費低減効果の大きいPHEVの普及 が進むものと思われる.BEVは航続距離などの制 約が多いが,複数台所有が一般的な郊外の家庭で 2台目以降として利用される場合や,業務用で走 行ルートが限定される場合など,現状の性能でも 十分に実用になる用途も多く,また超小型モビリ ティなどBEVの特性により適した車両の開発も 活発化している.ガソリン価格の動向やLIBの性 - 7 - (2014.9) 能向上によっては今後BEVを選択するユーザが 急激に増加する可能性がある.FCVの普及はイン フラの整備状況で大きく左右されるが,他の電動 車両よりも遅れるものと予想される. Table 5 評価項目 ディーゼル HEV PHEV BEV FCV 脱化石燃料 × × △ ○ ○ ○ 低CO2 ×~△ △~○ ○ ○~◎ ◎ ◎ 低排出ガス ○ ×→△ ○ ○~◎ ◎ ◎ 航続距離 ○ ○ ◎ ◎ × △~○ ○ ×~△ ◎(不要) 充電時間 ◎(不要) ◎(不要) ◎(不要) 森本雅之,稲森真美子:ポルシェ博士の電気自動車, http://www.ei.u-tokai.ac.jp/morimoto/download.ht m 5) 次 世 代 自 動 車 振 興 セ ン タ ー , http://www.cev-pc. or.jp/kiso/zev.html, (2014.9) 6) Comprehensive evaluation of EVs ガソリン 4) 国立環境研究所,http://www.nies.go.jp/, (2014.9) 7) 日産自動車,http://www.nissan.co.jp/, (2014.9) 8) トヨタ自動車,http://toyota.jp/, (2014.9) 9) 三 菱 自 動 車 , http://www.mitsubishi-motors.co.jp/ , (2014.9) インフラ ◎ ◎ ◎ △~○ × ×× トータルコスト ○ ○ ○ △ ×~△ ×× ◎ 非常によい,○ よい,△ やや悪い,× 悪い,×× 非常に悪い 10) 富士重工業,https://www.fhi.co.jp/, (2014.9) 11) テ ス ラ モ ー タ ー ズ , www.teslamotors.com/jp , (2014.9) 12) 本田技研工業,www.honda.co.jp/, (2014.9) 13) 例えばつくば市,http://www.city.tsukuba.ibaraki. jp/14215/14284/9593/016277.html, (2014.9) 参考文献 1) 石井素,自動車の排出ガス規制等の動向,Journal of the JIME Vol. 47, No.6(2012) 14) Duong, BES Workshop Apr. 2 2007を基に作成 15) 国土交通省,プラグインハイブリッド自動車排出ガ ス・燃費測定方法について, 2) 一般社団法人日本自動車工業会,環境レポート2013 3) 御堀直嗣,興味深い電気自動車の歴史とこれからの www.mlit.go.jp/common/000046352.pdf, 2009 EV,JAMAGAZINE 2011年8月号 JARI Research Journal - 8 - (2014.9)