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対談集(PDF:2130KB)
対談 ❶
●
佐藤 純通
先生
Juntsu Satoh
日本司法書士会連合会名誉会長/司法書士
1947年北海道生まれ。1981年司法書士登録。1997∼2001年神奈川県司法書
士会会長、2001∼2005年日本司法書士会連合会副会長として、司法書士法
改正・不動産登記法改正・電子認証局構築等を担当。2005∼2007年司法書
士総合研究所所長、日司連電子認証局局長、法務省登記識別情報制度研究会
委員、オンライン申請利用促進プロジェクト委員等を歴任。2007∼2009年
日本司法書士会連合会会長。現在、日本司法書士会連合会名誉会長、横浜国
立大学法科大学院非常勤講師、司法アクセス学会理事、一般社団法人商業登
記倶楽部理事、一般社団法人日本財産管理協会副理事長、総務省電子政府推
進員等。
市民に身近な
「支援型法律家」として
法曹人口の増加もあいまって、司法書士は弁護士との棲み分けのよりいっそうの明確化が
必要となっています。従前より司法書士の独自性を打ち出す取り組みにあたられてきた前
日本司法書士会連合会会長の佐藤純通先生に、司法書士の存在意義をより確固たるものと
するために必要なこと、現状の実務の動向についてお話を伺いました。
― 近年、司法制度改革により、司法試験の合格
現在、法科大学院制度の見直し論議が活発になっ
者が増加し、弁護士の人口が増えてきています。
ています。法科大学院の統廃合も始まり、当初は
2012年に入ってからの統計を見ると、弁護士人
毎年3,000名を超す司法試験合格者を予定してお
口は3万2,000人やや超、司法書士人口は2万
りましたが、現状では2,000名程度になっています。
1,000人弱となっています。既に、弁護士のほう
この数でもまだ多いと言われています。
が1万1000人以上多い状況にあります。毎年司法
試験は2,000人程度、司法書士は1,000人弱の合
― 大都市を中心に就職できない弁護士が増え
格者を輩出していますので、今後も毎年司法書士
てきたということをよく耳にするようになりまし
の倍以上に弁護士が新たに増加することが確実視
た。また、仕事を求めて弁護士が登記業務に参入
されます。
してくるというケースも聞きます。
佐藤純通先生(以下、敬称略)
司法書士1
佐藤 おっしゃるとおりです。これは実践の法律
に対して弁護士2の時代に突入するのは時間の問
実務を修得する場所がないことを意味し、実務経
題となってきました。
験ないということは法律実務家になることができ
ただ、2~3年前には弁護士増加に対してブレー
ないということになります。資格制度の信頼が根
キをかけないということを政府筋も言っていまし
底から揺らぎつつある又は揺らぐのではないかと
たが、ここにきてそのブレーキがかかってきてい
いうことで、弁護士会自身もこの弁護士人口の増
ます。
加を、弁護士制度の危機であると捉えはじめてい
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❶
ます。
とは確実視されていますが、これは日本全体を見
また弁護士人口増加の背景として、企業内弁護士
たときの数字であって、現に東京を見ると司法書
の増加という狙いがありましたが、法律の基礎的
士が約3,500名に対して弁護士は約1万5,000名と
な知識を持っていることを認められたにすぎない
なっており、全国で1万1000名以上多いという弁
試験に受かっただけの方を企業も求めていませ
護士数のすべてが東京に現れており、弁護士人口
ん。企業に入ってから訓練しないことには役に立
の首都圏を中心とした大都市への集中が明らかで
たず、企業の実態がわかってはじめて知識・技能
す。地方においてはまだまだ弁護士人口が足りず、
を活かせて役に立つわけです。社内で一人前に育
この状況は今後も続くと見られます。この点、司
成するには大変な教育費用もかかりますから、実
法制度改革の狙い通りにはいきませんでした。
務を知らない者を企業は高給で採用することはあ
日本独自の法律家制度を無視してアメリカ流の考
りえず、企業と合格者の間に溝がありましたので、
え方を偏重した結果、弁護士人口の急激な増員と
企業への採用数も伸びていなかったのが現状で
いう面については、司法制度改革は悪い面が先に
す。
出たと言えるでしょう。日弁連も言及しています
これらの影響で仕事がない新人の弁護士が、従来
が、司法試験の合格者枠の減少については立法も
司法書士が行なっていた登記業務等に参入し、競
検討を始めたようです。司法書士合格者数も昨年
業状態となっている状況もでてきています。ただ
減少に転じましたが、これは政策判断があったも
し、資格があるというだけで実務経験やノウハウ
のと思われます。当分司法書士を急激に増加する
がありませんから、その業務に携わる危険性が発
ということはないでしょう。司法書士人口は、弁
生するという問題もでてきます。
護士制度と密接に相互関連しています。
高度な専門性によって細分化された資格制度を持
― そういった意味でも弁護士人口の増加が司
つ日本においては、弁護士人口の数が増加したと
法書士に影響を与えていますね。
いう面では多少の影響を受けていますが、一方で
佐藤 隣接士業ではありますが、広い意味にお
は不動産取引における立会業務が典型ですが、司
ける法律家制度というところから見ると、傍観は
法書士の専門領域の部分には全く影響がないとい
できません。弁護士制度の危機は「司法制度の危
えます。
機」であるという認識を司法書士である我々も共
通に持っています。日本の司法制度を分担分掌し
― 不動産取引部分では全く影響がないという
てきた弁護士と司法書士にとって、司法制度全体
のは驚きです。
という観点から見て弁護士制度の危機というのは
佐藤 不動産取引に関して言えば、多数当事者
好ましくない状況です。140年間続いていたこの
の権利関係が複雑に絡み合う取引なので、弁護士
2つの法律家制度のバランスが崩れてしまうこと
で、国民にとって法的サービス全体の信頼が揺ら
ぐことを懸念しています。
司法制度改革10年間の検証をしてみると、司法書
士にとっては簡裁代理権付与などがありました
が、弁護士を増員しようとした結果、司法過疎問
題の解消や日弁連の公設事務所、法テラスの地域
進出などいい面もありました。一方で大都市集中
傾向に対して何ら法的手当てがなく、政策的配慮
が必要かと思います。これは司法書士にとっても、
同様の問題があり決して他人事ではありません。
近い将来、司法書士1に対して弁護士2になるこ
2012 士業最前線レポート 司法書士編
53
司法書士
が全ての関係当事者から委任を受けて手続きする
現在、簡裁において代理している事件も控訴され
ということは、ノウハウの問題ではなく、弁護士
ると司法書士は地裁では引き続き代理人とはなれ
という資格制度の特質からいって不可能だという
ませんが、少なくても控訴審の法廷に同席して、
ことです。これは伝統的に140年来そのように扱
当事者への助言・補佐ができるという上訴した場
われてきました。弁護士は当事者の代理人として、
合の関与ができるように主張しています。国民の
いかに依頼者の権利を守るかということで動きま
選択の元に分担分掌し専門分野に細分化された日
す。法制度上では明確になっていませんが、合意
本の資格制度における司法書士としての役割は、
が出来た後に行う手続きに関しては、中立公正的
今ある権能を真に国民のために利用できるように
な役割を果たす必要があります。司法書士はその
充実させるという面において重要なことであり改
中立公正な第三者としての機関的な役割を担って
正を求めておりますが、今持っていない権能を職
きました。そこが司法書士の独自性となります。
域拡大の目的だけにはすべきではないと思ってい
権限の大小から言うと、司法書士ができて弁護士
ます。それこそ全過程において訴訟代理人として
ができないというのは何一つありません。しかし、
活躍したいのであれば、司法試験に受かり弁護士
実際に法律事務の中でもこのような立会取引は特
になればいいのですから。
殊です。この立会取引に伴う法律事務に関して、
私はそうではなくて、不動産取引分野を中核とし
弁護士が当事者双方の代理人として関与すること
た司法書士にしかできない高度に専門的な分野
は職業倫理上、公正さに疑いがあるということで
を、今以上に深めていく必要があると考えていま
立会業務を行ないません。司法書士の場合も双方
す。同時に、不動産を中心とした財産管理業務の
代理ができるという司法書士法上の根拠はありま
専門家となるべきだと思っています。
せんが、140年の実務慣習が今や金融機関・不動
産会社・一般の国民にまで商慣習として認知され
― 確かに資格試験が細分化された日本におい
ているところです。先輩たちが積み上げてきたこ
て、司法書士の独自性といった面からいえば、専
の慣習を、きちんと法制度として高めるべきだと
門性を深めていくことは重要なことだと思いま
予ねてから主張しています。
す。
佐藤 これは紛争が起こったときにどう解決する
― 確かに慣習でとどまることと、法的根拠を持
かという「紛争解決型」ではなく、紛争が起こら
つとでは全然違いますね。法的根拠といえば、司
ないためにどうするかという「予防司法型」の法
法書士法改正で一躍注目を集めた簡裁代理権の付
律家ですね。司法書士として最も重要な役割はこ
与から約10年が経ち、司法書士の中にも代理人と
れだと思っています。
いう意識もあるかと思いますが。
佐藤 司法書士を公証人型法律家ではなく、弁
護士型法律家としていくことを主張する方もい
らっしゃいますが、簡裁代理権を獲得したことに
より、簡裁のレベルで線を引かれることで上下の
関係が構築され、今まで業務として行ってきた裁
判書類作成援助に制限がかかるということを招き
ます。つまり、自分たちは簡裁弁護士・準弁護士
という意識が内在してきているということです。
そのような考えを突き詰めていくと、弁護士人口
が増加していくと、限定した権限しかない簡裁弁
護士の司法書士は不要だということになりかねま
せん。
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❶
も2DKくらいまでのマンションが多く、子供が
産まれてくる頃だと郊外のファミリータイプの物
件など、層によって購入する物件は異なります。
これから暫くは、我々の子供である団塊ジュニア
の層に需要が出て、上昇気運に転じることが見込
まれます。しかし、また10年くらい経ってくると
減少するでしょう。既に始まっていますが、少子
高齢化社会ですから、相続件数は増加し、同時に
今度は中古住宅の流通が増加していきます。間違
いなく大きな中古住宅市場があり、大手企業が
続々と住宅産業市場・不動産流通産業市場に参入
してきています。
― 資格制度に対する独自性・優位性もそうです
時代の流れを中・長期的に予測すれば当たり前の
が、個人として他の同業者に対する独自性・優位
流れなんです。それを早く読み取って行動した者
性も今後必要かと思います。
が市場では優位になります。市場動向を把握した
佐藤 まさにその通りだと思います。例えば、海
上で、何が必要なのかということをきっちり対応
外企業が日本に進出する際、営業所を設けるとか
していく力です。司法書士は、この読み取る力が
不動産を購入するとかがあれば当然司法書士が手
他の専門職と比べて低く、できている方はごく少
続きをすることができますが、依頼者とのコミュ
数だと思います。
二ケーションを取るためには語学力が必要になっ
我々が「一般社団法人日本財産管理協会」を設立
てきます。このように英語ももちろんですが、中
したのも、今後の確実な需要を読み取ったものを
国語・韓国語などに堪能な司法書士は、他の司法
普及・推進したいという思いから始まりました。
書士に対する優位性を築くことができます。
第2期の認定研修を終わったところですが、募集
司法書士という資格制度自体に内在した専門性を
時からもの凄い反響で、みなさんに関心を持って
備えた上で、さらに司法書士間において他の司法
いただき、現在各地の司法書士会等から続々と研
書士にない専門性を備えることができれば、独自
修依頼がきているという状況です。
性・優位性を持つことができます。これからの司
法書士はそういったことにも目を向けていくこと
― 司法書士法規則31条の附帯業務の中で、い
が重要になってくると思います。間違いなくその
ち早く組織的に取り組んだのは「成年後見」でし
ようなスキルを身につけた者が勝ち残っていくで
たね。
「財産管理」も今実務では多くの司法書士
しょう。
が注目し、組織的な活動がはじまっています。
佐藤 法3条業務(司法書士法3条に規定され
― 近年では不景気もあって、不動産登記の件数
た業務)である登記・裁判という仕事は、自分の
が減少傾向にあります。これから司法書士になる
ほうから積極的にアプローチするのではなく、ど
にあたって、この登記件数の減少を危惧している
ちらかというと待ちの仕事なんですね。しかし、
方も多くいらっしゃいますが、佐藤先生のご見解
附帯業務としての「財産管理業務」については、
はいかがでしょうか。
司法書士の方からも積極的にアプローチできる分
佐藤 単に登記件数だけを見ていてはいけませ
野で、すべての業務について連動します。日本財
ん。不動産の新築建物着工件数が減少しています
産管理協会でも、相続財産管理・不動産の任意売
が、これは人口構成を見れば当然の結果です。不
却などを、その登記だけではなく、その前段階か
動産の購買層というのは大体30代から始まって50
ら積極的に取り組もうということで、その普及・
代のところまでで山があり、若い方々は大きくて
推進活動をしていると、同じ条文の中で企業法務
2012 士業最前線レポート 司法書士編
55
司法書士
の問題もあり、ここについても関心を持たれます。
限押さえ、もっともっと周辺のことを含めて勉強
しなければダメですね。企業法務も司法書士が法
― 420万社といわれる企業がある中で、弁護士
的根拠を持ってできる、紛争性のない業務分野で
が関与しているのは約1%程度と言われていま
の法的コンサルタントであり、この部分を積極的
す。まだまだ活躍できるフィールドですね。
に取り組むことによって、本当の意味で市民をは
佐藤 はい。残りの約99%である中小・零細企
じめ企業の身近な生活に関する法律問題を支援す
業を中心としたそれ以外の企業の法務支援を誰が
る『街の法律家』になれると思います。
していくのか・・・これは会社法・商法を専門に
弁護士とも競合するこの分野で、どのような市場
は勉強していない税理士だけではできないところ
を開拓するかですが、現状、弁護士だとまだまだ
です。弁護士に頼むほどの経済的余裕はないけど、
敬遠される中小・零細企業に対して、いち早く目
やはり経営者としては心配でしょう。ここは規則
を向けていくべきだと思います。
31条に「他人の事業の経営・・・を代理し、若し
くは補助する業務」とありますが、契約書チェッ
― これから司法書士実務に入られる方、司法書
クというような補助レベルから、敷居の高くない
士を目指す方へのメッセージをお願いします。
司法書士が法務顧問として登場する場面がたくさ
佐藤 司法書士試験は、実務法律家になるため
ん出てきます。また、上場企業でも司法書士の専
に特別の受験資格がない開かれた試験制度です。
門性に注目して社外取締役就任を依頼し始めてお
また、実務に入っても学歴は全く関係ありません。
ります。成年後見もそうですが、企業法務と財産
試験に合格して、自身が司法書士の資格を取得し
管理は税理士と組んだ業務になりやすいところで
たことで法律専門職としての最低限の基礎知識が
す。はやくやればやるほど顧問契約もできるでしょ
あることを認められますが、実際に実務で活躍す
うし、そうなれば事務所経営の安定にもつながり
るには、実践の経験を積むことと、新たな分野を
ます。従業員自身の法律相談なども含めたアドバ
研鑽しスキルを磨く必要がありますが、自身が司
イザーとしてであれば、なお需要があるところだ
法書士としての独自性・優位性をどう持っていく
と思います。法3条業務というのは商業登記のみ
かが大事です。色々な分野での専門性を持った司
だと思われがちですが、登記というのは最終的な
法書士の方々が多く出てきてくれることを期待し
手続きであって、その前提や登記後にも法律事務
ています。
はありますので、そこまで含めてフォローすると
いうことを当たり前にやっていけるようにならな
― 貴重なお話を聴かせていただき、本日は誠に
ければなりません。経営者と取引するためには、
有難うございました。
経営の基礎・マーケティングの入口ぐらいは最低
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ❷
●
鯨井 康夫
先生
Yasuo Kujirai
一般社団法人日本財産管理協会理事/司法書士
1983年横浜市で司法書士事務所開設、神奈川県司法書士会会長、日本司法
書士会連合会中央研修所副所長、日本司法書士会連合会常務理事を歴任。現
在、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート監事、一般社団法人
日本財産管理協会理事。
財産管理業務から
導かれる
契約関与型法律家へ
今、司法書士業界で最もホットなワードである『財産管理業務』。平成14年司法書士法の
改正により、司法書士法施行規則31条1項に附帯業務として明記されたのですが、改正直
後は簡裁代理権・成年後見業務の陰に隠れて余り注目されてこなかった業務です。しかし、
昨年「一般社団法人日本財産管理協会」が設立され、積極的に司法書士が関われる業務で
あることが一気に認知されてきています。財産管理業務について、同法人の理事を務める
鯨井康夫先生にお話しを伺いました。
― 昨今の司法制度改革によって、司法書士の不
士は不動産物権変動の原因事実まで確認する必要
動産取引への関与のあり方について、どのような
が出てきました。
変化がありましたでしょうか。
個人の住宅購入に係る取引の場合は、売買残代金
鯨井康夫先生(以下、敬称略)
司法書士は
の支払い・受領と同時に所有権が移転するという
司法書士法(以下「法」
)3条に基づいて、登記
のが一般的です。これは従来通りの、定型の売買
の代理を本来業務として行ってきました。ただ、
契約書を元に登記原因証明情報を作成するという
法3条には「登記に関する手続について代理する
法3条業務で対応できます。しかし、法人仕入取
こと」としか規定されていなかったため、司法書
引や法人間取引、関係人間取引の場合は、物権変
士としての業務にも限界がありました。しかし、
動意思はさまざまです。例えば、マンション分譲
不動産登記法の改正によって、平成17年3月以降
に係る等価交換取引 では、土地売買に関しては
は登記原因証明情報の提供が必要とされ、司法書
内金支払い時に土地所有権が移転し、売買残代金
⑴
⑴ 土地の所有者が土地を出資し、デベロッパー(不動産会社や建設会社)が建築資金などを出資し、両者の共同事業と
してマンションやビルなどを建設し、出資比率に応じて分け合う方法。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
はマンション代金と相殺することが多いのですが、
土地売買契約書は従来通りの定型のままというこ
とがあります。このような売買契約の不備(契約
書と事実との相違)は、司法書士が売買契約書を
受領する時に登記原因事実を確認することで発覚
します。このような場合には、覚書を締結するこ
とを促すこともあります。法人間取引や関係人間
取引では、従来から、契約締結前に売買契約書作
成の相談を受けることがありましたが、不動産登
記法の改正によってそれが一般化したといえま
す。このように、司法書士の役割が登記原因事実
である実体関係のチェックにまで広がったという
ことが、最も大きな変化といえます。
にも、司法書士の業務は①までとの認識があった
ためです。したがって、司法書士も②について掘
― 昨今、成年後見等で注目される財産管理業
り起こしをして来ませんでした。しかし、②の手
務についても、平成14年の司法書士法改正によっ
続は金融機関等の本人確認事務の厳格化にともな
て附帯業務として法令で明文化されたものです
い非常に厳格・煩雑になってきており、一般の方
⑵
⑶
。財産管理業務
(司法書士法29条 、規則31条 )
には荷が重くて困っている方もたくさんいます。
が法的根拠を持ったことにより、司法書士の業務
そこで規則31条によって、
「②についても司法書
のあり方はどのように変わる可能性があるので
士ができますよ」と提案できるようになり、依頼
しょうか。
者からも非常に喜ばれています。相続登記という
鯨井 まず前提として、「附帯」という名称から
のは、一連の相続手続全体の中ではほんの一部に
誤解されることが多いのですが、
「附帯」業務は「付
過ぎません。もちろん、登記は不動産という非常
随」業務と異なります。附帯業務も法定化された
に重要な財産についての大切な業務ですが、財産
ことで司法書士の法定業務となったわけですが、
管理業務として相続手続全体に関わることができ
これ自体独立した業務です。本来業務を前提とし
るようになったということは、司法書士の業務に
て存在する付随業務とは異なるわけです。登記の
量的な意味で大きな膨らみを持たせましたし、業
ような従来の本来業務との違いは、業務独占があ
務内容の質も大きく変化させたと思います。
るかないかという点だけです。
司法書士の財産管理業務への係わりについてです
― 遺産分割についても、司法書士に対する依頼
が、①相続登記の依頼→②預貯金・証券類等の相
は増えてきていると聞きます。
続承継手続の必要性→③相続人確定→④遺産分割
鯨井 遺産承継の業務は、基本的に相続人全員
協議という流れがあります。司法書士は従来、①
からの依頼があって行うものです。この場合、相
にしか関わって来ませんでした。需要としては従
続人間に対立関係はないので(対立があれば利益
来から②もあったのでしょうが、引き受けてきま
相反になってしまう)
、法定相続分を前提に特別
せんでした。これは依頼者の側にも司法書士の側
受益等を加味した上で、具体的な遺産分割の方法
⑵ 司法書士法第二十九条 ①司法書士法人は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うほか、定款で
定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。
一 法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部
⑶ 司法書士法施行規則第三十一条 法第二十九条第一項第一号 の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとす
る。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業
の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❷
を提案することになります。これは専門的な法律
ついて検討してきました。そして翌23年4月に一
の知識がないとできない業務です。また、特定の
般社団法人日本財産管理協会を設立し、同年10月
相続人の依頼を受けて行うのではなく、相続人全
に設立記念シンポジウムを開催しました。ここで
員との信認関係に基づき行う業務であることから、
はまず、一般の方の前に、身内である司法書士に
高度な職能倫理が求められます。また、このよう
対する普及を図りました。
な利益相反のない状態での業務については、司法
書士は独自性を発揮できると思います。
― 平成23年11月以降、日本各地で認定研修を
実施されていますが、
「財産管理マスター」資格
― 昨年(平成23年)4月に貴協会が設立され
認定制度を設けていらっしゃいますね。
ましたが、設立のきっかけは財産管理業務の専門
鯨井 財産管理業務には、官公庁から委嘱があっ
家を組織的に養成する必要があったからでしょう
て行うものと、当事者である一般市民からの依頼
か。
によるものの2種類あります。前者については司
鯨井 平成14年の司法書士法改正から10年が経
法書士会でもさまざまに研修等をしているので、
ちます。法改正で大きく注目されたのは簡裁訴訟
我々が主眼とするのは後者についてです。財産管
代理権の獲得でした。代理権を取得するためには
理というのは依頼者の財産を丸ごとお預かりする
特別研修を受講し、認定を受けなければなりませ
ので、通常の業務を超える重い責任が伴います。
ん。この10年間、司法書士界全体が簡裁代理権業
したがって、知識技能の修得とともに、職能倫理
務に掛かりきりで、成年後見業務を除いて規則31
の涵養が重要になってきます。それを提供する場
条業務の啓蒙を怠ってきたと言わざるを得ませ
として、認定研修を実施しています。そして、認
ん。一方で、成年後見業務についてはリーガルサ
定研修を受講し20単位全ての単位を取得した者を
⑷
ポート が発足して、そちらで着実に行われてき
認定会員名簿に登載し、
「財産管理マスター」の
ました。ただし、成年後見についても、当初はこ
称号を付与することにしています。認定会員名簿
れを規則31条業務という観点から捉えていたわけ
については協会のホームページで公開し、市民の
ではなかったと思います。法制度上は、あくまで
利便に供することとしています。また、認定要件
も裁判所に選任された成年後見人として業務を
として損害賠償保険の任意加入部分への加入も課
行っていたわけであり、規則31条業務として財産
すことで、信頼性の確保にも努めています。一方
管理業務を行っているという意識は薄かったと思
で、業務は司法書士が職責として行うものなので、
います。
リーガルサポートのように会員の日常の業務を団
体として監督することまでは考えていません。成
― 確かに、規則31条1号の財産管理業務とい
年後見の場合は、本来裁判所が監督すべきところ
うのは、法改正当初は簡裁代理権や成年後見の陰
に隠れてしまっていたような気がします。
鯨井 財産管理は成年後見業務(身上監護と財
産管理)の一環としか捉えられていませんでした。
財産管理がそれ自体として前面に出てくるという
ことはありませんでした。このようなわけで、規
則31条1号業務について、その有用性も含めて普
及促進を図る必要性があり、平成22年4月に財産
管理業務推進機構設立準備会を立ち上げました。
ここで1年かけて普及促進の手段と方法、組織に
⑷ 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート
2012 士業最前線レポート 司法書士編
59
司法書士
はたまたま顕在化していないだけで、実は非常に
多くの問題を抱えていることが予想されます。
鯨井 そのような問題は、常日頃から企業とコ
ミュニケーションをとって信頼関係を築いていな
いと、それを発見し、指摘してあげることはでき
ません。このような業務に本格的に取り組むとな
ると、司法書士の業務が根底から変化する可能性
があります。
― 企業活動にとっては、予防司法業務も重要で
す。
鯨井 予防司法を含め、企業法務の中には紛争
を監督しきれないため、リーガルが監督業務を
性のない業務がたくさんあります。その意味で、
担っているという側面があり、当協会とは制度へ
司法書士と弁護士とは業務の棲み分けができると
の関わり方が異なります。
思います。
― 今までお話を伺ってきて、近未来の司法書士
― これから司法書士になる方にメッセージをお
像としては、不動産を中心とする財産管理業務の
願いします。
専門家として、不動産取引の中核的存在になると
鯨井 司法書士業務を行うに当たって、常に「本
いうことが考えられますね。
職」
としての視点・意識を持って欲しいと思います。
鯨井 法3条の本来業務ばかりでなく、規則31
司法書士資格は単なるマネーライセンスではあり
条の附帯業務にどのように関わっていくかが重要
ません。司法書士業務は委任契約に基づく業務で
だと思います。つまり、登記業務を法3条の登記
すが、司法書士は依頼人との信認関係に基づいて
代理としてのみ捉えるのではなく、むしろ規則31
在る存在であるべきです。しかしその反面、信認
条の財産管理・処分業務の一環として捉えること
義務 という重い義務を受忍することを覚悟しな
が必要だと思います。そこでは当事者と信頼関係
ければなりません。
を築き、企業であればその経営の実体にも関わっ
今まで司法書士業務の変容について述べてきまし
ていくという意識をもつことが必要だと思います。
たが、その基礎となった平成14年司法書士法改正
これらを通して、市民の消費生活、中小企業や個
は、平成13年に発表された司法制度改革審議会意
人事業者の事業活動を支援する法律家として有用
見書 の実現に他なりません。ぜひ、同意見書を
な存在になるという認識を持つことが必要となる
一読されることをお奨めします。
⑸
⑹
のではないでしょうか。
― 有意義なお話を聴かせていただき、有難うご
― 多くの中小零細企業にとって、法の規定通り
ざいました。
に手続を行うというのは困難という実体がありま
す。とすると、これらの企業にとって法的な問題
⑸ 信認義務とは、他人の財産の管理運用を委託された受認者が、委託者または受益者の最大利益を図るために、合理的
かつ思慮ある行動を取らなければならないという義務のことで、主に信託契約を締結した場合に発生する。もっとも、そ
の場合に限らず、一方が他方に依存または他方を信頼し、他方が自己に依存している相手方の財産の管理運用に関する裁
量権を有する関係にある当事者間において、
広く認められるとされている。
(樋口範雄『アメリカ契約法』
(弘文堂、
1994年)
81頁)ほか)
⑹ http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/report/ikensyo/index.html
60
2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ❸
●
松井 秀樹
先生
Hideki Matsui
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事長/司法書士
1985年司法書士試験合格、翌年司法書士事務所を開設。
大学における一般公開講座「成年後見制度実務」の講師、日本成年後見法学
会・日本高齢者虐待防止学会の会員としての活発な学会活動に加え、成年後
見制度等に関する論文・著書も多く、講演会・セミナーの実績も数多くある。
成年後見の分野で幅広く活躍する第一人者。現在、公益社団法人 成年後見
センターリーガルサポート理事長。
10年経過した
成年後見制度の現状と
今後の課題
成年後見制度のスタートに先駆け、いち早く活動を開始し、今なお精力的に活動されてい
る公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事長の松井秀樹先生に、スタート
してから10年を経過した成年後見制度の現状と今後の課題についてお話いただきました。
― 平成12年に成年後見制度がスタートすると
ケースもありました。他にも、遺産分割など司法
同時に、成年後見センター・リーガルサポート(以
書士としての日常業務を行う際に、旧制度の使い
下「リーガルサポート」
)が設立されました。そ
勝手の悪さに苦しめられたということがありまし
もそも、司法書士が成年後見に積極的に関わるよ
た。このようなことが重なり、近い将来に超高齢
うになったきっかけは何だったのでしょうか。
社会を迎えるに当たって同じような問題が多発す
松井秀樹先生(以下、敬称略)
司法書士と
ることが予想されたために、司法書士として制度
して登記業務をする際に、旧制度(禁治産制度)
の改善を強く望んでいました。
の使い勝手が良くなかったという経緯がありまし
た。旧制度では、禁治産宣告の申し立てをしてか
― 現在は、第三者後見人として司法書士の関与
ら、宣告がなされるまでに1年近くかかっており、
は最多となっています。
宣告までに本人が亡くなってしまうこともありま
松井 最高裁判所の統計発表によると、平成23
した。また、本人に判断能力がないため、やむを
年に司法書士が第三者後見人として選任されたの
得ず推定相続人全員の同意を取り、本人所有の土
は4,872件となっています。専門職の中では、司法
地の売却登記をした後で、本人の意識が回復し、
書士が平成15年度以降9年連続選任件数トップで
本人から訴えられて事件に発展してしまうという
す。これは、リーガルサポートを設立したという
2012 士業最前線レポート 司法書士編
61
司法書士
大きな要因となっています。他の士業(弁護士、
た場合にさまざまな問題が発生することが予想さ
社会福祉士)と比較しても、リーガルサポートの
れます。その場合、相談相手が必ず必要となりま
研修は充実しているし、報告を上げさせて指導・
す。司法書士としては、まず、相談員という形で
監督まで行っています。これらを通して司法書士
関わっていくことになると思います。
が裁判所の信頼を得たといえるのではないでしょ
うか。また、司法書士は弁護士と比べて全国に散
― 成年後見制度に対する関わり方によって、司
らばって業務を行っているが、成年後見は全国
法書士の世間的な認知度も大きく変わったのでは
津々浦々で問題となるものであり、このような点
ないでしょうか。
からも司法書士が選任されるケースが多くなって
松井 そもそも成年後見制度が発足するまでは、
いるのではないでしょうか。
司法書士が講演をするなどということはありませ
んでした。不動産登記も商業登記も一般の方達が
― リーガルサポートは市民後見人の養成にも取
関心を持つ問題ではありません。クレ・サラ問題
り組んでいますね。
も弁護士が先行していました。成年後見は全国
松井 平成17年にリーガルサポートが成年後見
津々浦々で起こる問題で、一般の方々が関心を持
制度の改善提言を行い、市民後見人の養成・支援
つ問題です。これに対して積極的に関わってきた
の必要性を訴えました。
「市民後見人」という言
ことで、司法書士は登記の専門家から真の意味で
葉自体、リーガルサポートの発案です。そして昨
の「街の法律家」として一般の方達からも認知さ
年(平成23年)の老人福祉法の改正で、市町村に
れるようになったと言えます。私自身、法律専門
市民後見人育成の努力義務の規定が新設されまし
職や一般の方達向けの講演を、年間50回程度行っ
⑴
。努力義務に止まりますが、法制
た(32条の2 )
ています。リーガルサポートの幹部は皆、同じく
化されたことは大きいし、この流れは当初の予想
らいの回数の講演を行っていると思います。それ
よりも速いです。リーガルサポートとしては市民
だけ、成年後見業務により司法書士の存在をみな
後見人の養成に積極的に関わっていくつもりで、
さまに知ってもらえたと思います。
研修用のテキストを現在作成中です。現場からの
報告の収集力はリーガルサポートの強みであり、
― 登記と異なり、成年後見は継続的な業務で
研修はかなり充実したものとなります。
す。司法書士の業務にどのような変化があったの
でしょうか。
― そうすると今後、市民後見人のサポートや指
松井 成年後見には福祉関係者や自治体関係者
導・監督が大きな問題となるのではないでしょう
など、多数の関係者が存在します。そのような関
か。
係者に司法書士の活動が評価されたことで、司法
松井 それは極めて大きな問題だと考えていま
書士は裁判所からも信頼を得ました。そこで裁判
す。法的に問題がある事案は司法書士や弁護士と
所から司法書士が遺言執行を任されることが多く
いった法律専門職が引き受け、市民後見人には比
なり、今では一般化しつつあります。また、任意
較的安定した事案や法的に問題がないような事案
後見においても契約を遺言とセットで行うことで、
を引き受けてもらうことになると思いますが、そ
遺言執行者として指定されることが多くなりまし
れでも本人が病気になられたり亡くなられたりし
た。さらに、裁判所の信頼を得たことで相続財産
⑴ 老人福祉法第32条の2(後見等に係る体制の整備等)
① 市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下「後
見等」という。
)の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行
うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
② 都道府県は、市町村と協力して後見等の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、前項に規定
する措置の実施に関し助言その他の援助を行うように努めなければならない。
62
2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❸
管理人に選任されることも多くなりました。他に、
⑵
後見制度支援信託 の信託設定に関わるケースも
ついては知り合いの不動産業者と連携するなど、
業務の広がりも大きくなります。
出てきたし、未成年後見人に選任される司法書士
― 全体的に見ると、成年後見制度は司法書士業
も多いです。
務にどのような影響を与えたのでしょうか。
― 昨今、家事事件代理権の司法書士への付与
松井 私が開業した当初は不動産登記業務がほ
が話題になりますが、このような実績から言って
とんどでした。その後不動産バブルが弾けて、全
も、代理権付与は自然な流れのように思います。
国的に不動産登記件数は2分の1ほどになりまし
松井 日司連もそのように主張しています 。もっ
た。登記件数が減っても司法書士の人数は増えて
とも弁護士人口も増加しているし、今後この分野
いるため、当然、登記の奪い合いになります。ま
については競争になると思います。
たクレ・サラ問題も沈静化しています。その中で
⑶
増加しているのは成年後見およびその付随業務だ
― 業務の広がりという意味では、成年後見に
けです。これは日本の人口構造からしても当然の
よって福祉関係者との接点が増えたことも大きい
ことと言えるでしょう。最近、東京で開業してい
のではないでしょうか。
る若手司法書士の中には、成年後見を専業で行っ
松井 福祉関係者に司法書士の存在が認知され
ている人も増えていると聞きます。
たということは非常に大きいと思います。見方に
よっては、簡裁代理権を取得したことよりも、成
― 今後、成年後見制度はどのような方向に進む
年後見を通して福祉関係者や自治体関係者に司法
のでしょうか。
書士の存在をよく知られるようになったことの方
松井 市民後見人が地域に普及したことを前提
が、司法書士の業務拡大に大きく貢献したとも言
とすると、ドイツにおける「後見人協会(世話人
えるのではないでしょうか。
協会)
」の制度が参考になります。ドイツでは専門
⑸
職の後見人 が3~4人集まって後見人協会を設
⑹
― 従来からの司法書士業務について言うと、成
立します。そして後見人協会は、名誉職世話人
年後見業務は相続登記まで携わることがポイント
の支援・指導・相談業務を行っています。このよ
なのでしょうか?
うな業務は、日本では老人福祉法32条の2によっ
松井 相続登記はもちろんですが、遺産整理業
て市町村の社会福祉協議会等が担っていくと推測
務全体に携わる意味合いが大きいと言えます。任
しますが、市民後見人制度が普及し、市民後見人
⑷
務終了時に管理計算 を行った後で、紛争性のな
に対するキメ細かい支援が必要になった段階で
い相続の場合には遺産分割に入るが、その際、相
は、ドイツの後見人協会のような存在が必要とさ
続登記だけでなく銀行預金の引き出し、有価証券
れるのではないでしょうか。現状、司法書士は市
の名義変更など、一般の方達にとって非常に煩雑
町村の社会福祉協議会に相談員という形で市民後
で法的知識を要する業務にも携わることになりま
見人の支援や養成に関与していますが、市民後見
す。これは、後見人として本人や相続人から信頼
人が普及し、その支援・養成により積極的に関わ
を得てきたからこそ出来る業務です。そして、相
るとしたら、ドイツの専門職世話人のような役割
続税については知り合いの税理士、不動産売却に
を果たす必要が生じると思います。その場合、
リー
⑵ 後見制度を本人の財産管理面でバックアップするための信託。家庭裁判所の指示にもとづき、本人の現金や預貯金に
関して、信託を活用して管理することができる仕組み(一般社団法人信託協会HPより抜粋)
⑶ 日本司法書士会連合会は平成23年2月の第73回臨時総会で「司法書士法改正大綱」を承認。そこで「家事に関する事
件につき代理すること」の新設を要望している。
⑷ 民法第870条(後見の計算)
後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、2箇月以内にその管理の計
算(以下「後見の計算」という。
)をしなければならない。ただし、
この期間は、
家庭裁判所において伸長することができる。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
63
司法書士
ガルサポートは情報センターとして、このような
されるのであり、他の職業よりも二段も三段も上
司法書士に対する支援・相談業務を行うことにな
の高い倫理観が求められます。私が見聞きした
るのではないかと思います。
ケースでは、後見人である司法書士が本人から預
かったお金を事務所の銀行口座に入れたために、
― リーガルサポートの拡大のために、今後他士
事務所のお金と混じって諸経費の支払で自動的に
業に正会員資格を開放する予定はあるのでしょう
引き落とされてしまい、本人の財産を費消したと
か。
して、法務局から懲戒処分を受けて業務禁止とな
松井 以前は税理士等の他士業から開放の要求
りました。事務所の経営が苦しいといって、本人
がありましたが、開放して来ませんでしたし、今
の財産を少しでも流用してしまったら、その時点
後も開放することは考えていません。各専門職で
でアウトです。人様の財産を預かるというのは、
前提となるベースも違いますし、一定の知識や経
それだけ高い倫理観が要求されます。しかも成年
験を前提とする研修も行い難くなります。この分
後見人の場合は通常、本人が亡くなるまで長期間
野は今後競争の時代に入っていくと思いますし、
財産を預かる訳ですから、極めて高い倫理観が求
各専門職がそれぞれ強みを発揮できるように競い
められることになります。
合っていく方が良いのではないでしょうか。リー
ガルサポートとしては今後も司法書士を基盤とし、
― 高い倫理観が要求されるということは、後見
市民後見人をいかにサポートしていくかがテーマ
人になろうとする人に対して何としても伝えて行
になると思います。
かなければなりませんね。
松井 私は研修で常々、「後見業務で最も大切な
― 成年後見業務には高い倫理観が要求される
ことは基本を忘れないこと」だと事例を紹介しな
と思いますが、リーガルサポートとしてはどのよ
がら口を酸っぱくして伝えています。成年後見業
うな形で質を担保しているのでしょうか?
務は後見人自身が行わなければならないのに、事
松井 そのために研修制度を充実させています。
務所のベテラン職員に預金通帳を預けていたとこ
後見人候補者名簿に名前を載せるには、18時間の
ろ、その職員がある日突然預金から金を引き下ろ
単位制の研修を受講しなければなりません。研修
して行方をくらました、というケースもあります。
の中でも、倫理研修を最重要として位置付けてい
夏目漱石の「こころ」にもあるように、人間は生
ます。特に有効なのはグループディスカッション
まれながらの悪人はいないが、大金を目の前にす
で、1つのテーマに6~7人で取り組み、各自の
ると善良な人も悪人に変わってしまう、というこ
意見を言い合うという形を取っています。また2
とを肝に銘じるべきだと思います。
年ごとに12時間の更新研修も受講しなければなり
ません。質の確保には研修を通して指導・監督を
― 成年後見業務は非常に責任の重い業務です
継続的に行っていくことが最も重要であるし、裁
が、これによって司法書士が「街の法律家」と言
判所からも強く要望されているところです。
われてきたことに実体が伴ってきたと思います。
松井 成年後見業務に司法書士の未来があると
― 司法書士試験に合格したからといって、すぐ
感じてか、若手の司法書士のほとんどがリーガル
に後見人として務まる訳ではないということです
サポートに入ってきます。ここから突破口を開い
ね。
ていく司法書士も多いのではないかと思います。
松井 成年後見人は財産管理と身上監護を行い
ますが、特に前者については包括的な権限を付与
― 最後になりますが、これから司法書士になる
⑸ 世話人とも言う。後見業務を専門に行う職業のことで、1人当たり40人前後を担当する。
⑹ 日本でいう市民後見人に当たる。
64
2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❸
方達に向けてメッセージをお願いします。
松井 成年後見の究極の目的は、本人の財産や
名誉、自由、そしてその方の尊厳を守ることです
から、決して簡単な仕事ではありません。しかし、
非常にやりがいのある仕事であるし、全国津々
浦々、人のいる所で必要とされる仕事です。その
仕事を通して地域社会に深く法律専門家として貢
献していくことにより、そこから、たとえ時間が
かかろうとも、着々と未来が開けていくと思いま
す。
― 貴重なお話を聴かせていただき、有難うござ
いました。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
65
対談 ❹
●
伊見 真希
先生
Maki Imi
元全国青年司法書士協議会会長/司法書士
平成8年司法書士登録(千葉司法書士会)、平成19年全国青年司法書士協議
会会長。
ホームレス状態にある方など生活困窮者の法的支援を通して、多重債務問題
と公的扶助の問題に取り組む。
現在、千葉司法書士会副会長、日司連子どもの権利擁護委員会委員、司法書
士法教育ネットワーク会員、千葉県多重債務対策会議幹事(福祉行政班担当)。
全国青年司法書士協議会の
活動と司法書士による法教育
元全国青年司法書士協議会会長であり法教育ネットワークの会員でもある伊見真希先生
に、全国青年司法書士協議会の活動や法教育の状況についてお話いただきました。
― 本日は伊見先生に大きく分けて2つのテーマ
して、パブリックコメントへ団体として意見書を
につき、お話しを伺っていきたいと思っておりま
提出することも行っています。
す。1点目が全国青年司法書士協議会(以下、全
活動理念としては市民と共にあること、社会的弱
青司)の活動について、2点目が司法書士による
者の少数意見を代弁していくことを重要視してい
法教育分野についてです。
ます。任意団体なのでフットワークも軽く、色々
伊見真希先生(以下、敬称略)
はい、わか
な問題に向き合って行けるのが特徴的ですね。
りました。どれだけのことをお伝えできるかわか
りませんが、自分自身の活動を振り返りつつお話
― 全青司はどのような経緯で設立されたので
しできればと思います。
しょうか?
伊見 最初は各地にあった青年会から始まりまし
― では、早速、まずは『全青司』についてお話
た。40年ほど前にですが、司法書士制度を廃止し
しを伺ってまいります。漠然とした質問で恐縮で
てもよいのでは、という議論が高まった時期があ
すが、
『全青司』とはどのような団体なのでしょ
りました。しかし当然ながら司法書士としては、
うか?
その反対表明として司法書士の社会的必要性をア
伊見 全青司の活動は、全青司ホットラインとい
ピールする必要があったわけですね。そこで各地
う電話での無料法律相談や法教育の一環としての
の青年会が単独で動くのではなく、合従連衡して
法律教室の開催、司法書士合格者を支援するため
協力していこう、という機運が高まり、各地の青
の開業フォーラムの開催など多岐に亘っています。
年会の連絡組織として発足したのです。
また、司法書士の立場として対外的に意見を発信
なお、各地の青年会は任意加入ですが、青年会に
していくソーシャルアクションも重要視していま
所属した方は、原則的に全青司にも所属している
66
2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❹
ということになっています。青年会には地域の先
るわけです。
輩後輩関係として加入される方が多いですね。そ
他にも先ほどご紹介した常設のホットラインも手
の会の中で、業務についての相談ごとなどから関
当無しで、会員の司法書士が当番でやっています。
係性が生まれ、それが会全体としての活動にも繋
がっていきます。
― それは凄いですね。まさに理念で動いている
団体だからこそ出来ることだと思います。そのス
― 全青司と日本司法書士会連合会(以下、日司
ピード感ある活動が、結果として業界全体に波及
連)の違いについて教えてください。
していく力を生んでいくわけですね。
伊見 確かに司法書士の団体という意味では区
伊見 全青司から始まった活動も数多くあります
別がわかりづらいところもあるかもしれません。
よ。貧困問題は2004年ごろから議論をしつつ、生
実際に全青司で過去に取り組んでいたものが、今
活保護110番は同時期から始めていました。これ
は日司連がやっている、ということも多いです。
が現在の貧困問題対策の起点になったと自負して
何故そうなるかと言いますと、それはやはり失敗
います。路上相談もその頃からやっていましたし、
を恐れずにスピード感ある動きができることに尽
同じ問題に取り組む弁護士との協力関係もその頃
きます。
から始まりました。
日司連では26,000人にも及ぶ会員の中間意見で意
やはり日司連という大きな会では中心となってで
思決定しなくてはいけないので、どうしても何を
きないことも、全青司が動くことでこういった流
やるにしても時間がかかってしまうんですね。一
れを作れたのだと思います。
方、全青司はあくまで任意団体ですから、やろう
と思えばすぐに動けるんです。それは凄いスピー
― クレサラ問題が持ち上がってきた頃から、司
ド感ですよ。例えば昨年の東日本大震災のときも、
法書士全体の意識が変わり始めたように思いま
とりあえず現地に行こう、という司法書士がどん
す。
どん現地に入っていきました。何が出来るのか?
伊見 そうですね、やはり貧困問題や多重債務
と考える前に、とりあえず現地に行きながらそれ
者の対応を通して、司法書士業界全体の人権意識
を考える、というようなスピード感です。このこ
が高まっていきました。実際にその頃からそういっ
とはとても大きな違いですね。
た問題への対応スピード・パワーは格段に変わっ
ただ、勿論任意団体なので、その費用は基本的に
てきたと思います。
は各会員自身の負担で動いています。なんらかの
そうそう、クレサラ問題の時に、日弁連と組んで
予算から経費を回す、といったことはありません。
中心的に動いていたのは、実は全青司なんですよ。
だからこそ、やるべきと感じたときにすぐに動け
日司連ではなく、全青司です。そのあたりからも
何のしがらみも無く、理念一本で動ける全青司が
担っているところを象徴しているように思います。
― 先ほどお話に出た震災復興支援への関わり
について、少し詳しくお聞かせください。
伊見 一司法書士というレベルではなく人間とし
てというレベルの「まず行かなくては!」という
気持ちで動けるし、それを許してくれる組織です。
勿論、司法書士だからこそできることがあるから
行くわけですが、そういうことを考える前に動く
ことができます。
過去にも阪神・淡路震災、新潟の震災やその他水
2012 士業最前線レポート 司法書士編
67
司法書士
害などがあるたびに災害対策本部を設置して、会
としても優先的に対応を行ってきました。
司法書士が震災の現場でできることは、不動産に
関する相談から成年後見まで幅広くあります。多
重債務者の対応やADRの経験などから業務上身
についているため、メンタルヘルスの配慮も重要
視しています。こういった部分で、法律相談だけ
じゃなく、総合的な支援ができる点で、現地では
とても必要とされますよ。
考えないで動くなんてどうだろう、と思う方もい
らっしゃるかも知れないですが、実際に足を運ん
でその場で感じないと、次に繋がる提案ができま
せん。だから、まずは現地に入って、そこで何が
だけでなく、本来業務のクオリティを上げるため
できるかを考える。このマインドが全青司のマイ
にも必要なことなんですよね。“点”の仕事ではな
ンドを象徴的に現していると思います。
く、その前後に関係する問題という“線”や“面”を
意識して仕事することが高いクオリティの業務提
― メンタルヘルス、というお話も出ましたが、
供に繋がっていきます。なので、個人の趣味・ボ
やはり対人サービスという側面は重要視されてい
ランティアという意識はありません。
る分野なのでしょうか?
成年後見や多重債務者支援も最初はそうでした。
伊見 もちろん全青司でもそういった点は重視し
そんな業務がメイン業務になると、最初から予想
て議論しています。具体的には、僻地で開業して
していた人はいなかったと思います。しかし最初
いる医者の先生を招いての講演会なども開催しま
に全青司がそこへ飛び込み、いまや司法書士の大
した。
「病気を診るのではなく、人を見るんです」
事な業務の一つになっています。こういう成功体
というようなことを話していただいたわけなので
験があるからこそ、どんどん新しいことに踏み込
すが、それはまさに司法書士としても意識すべき
んでいく良い流れができているのかな、と思いま
ものだ、と考えています。登記の依頼一つをとっ
す。
ても、司法書士はただ登記代理をするだけではな
く、その人の人生の中での位置づけを踏まえた上
― では、新しいこと、という言葉も出ましたの
での色々なアドバイスや提案をしていくことがで
で、続いては法教育活動についてお聞きしていき
きます。そういったやり方をすることで、その登
たいと思います。法教育というものは司法書士法
記の案件一つから、成年後見やADRに繋がって
施行規則に明記されている附帯業務なんですよ
いくこともありますし、対人サービスから広がる
ね。
業務がある、という考え方が重要だと思いますね。
伊見 条文にはあるといっても、業務の一環とし
ての意識を持っている実務家はほとんどいないと
― ここまでお話しを伺ってきて思うのですが、
思います。ただ、法律の専門家としては、そういっ
すぐにお金にならないかもしれないだろう会務
た知識を社会に役立てていくのは当然のことです
に、どうして皆さんは熱心に携われるのでしょう
から、意識するしないの問題以前のことかもしれ
か?
ませんね。
伊見 もちろん司法書士法3条に規定されてい
法教育活動としては、昭和50年代くらいから相続
る業務が司法書士業務の中心ではあります。しか
や消費者被害の講演などが始まっています。最初
しその周辺にあることにもしっかり関わっていく
は個人で請け負っていたものが、青年会レベルに
ことが非常に重要です。業務の広がりということ
なり、全青司に広がり、今は連合会に委員会もあ
68
2012 士業最前線レポート 司法書士編
対談 ●
❹
るくらいに広がってきています。
ただ、依頼によっては往復の交通費と食事だけ、
講演テーマとしては、相続・消費者被害といった
というようなこともあるようですが(笑)
。
ある分野に特化したものが多いですね。
ただ、小学校・中学校あたりからのご依頼での講
― 実際に聴講される生徒さんの反応はどうで
演では、当然ながら聴講者である学生さん達には
すか?
大人と同等のレベルの一般常識がありません。そ
伊見 いい反応が多いですよ。生徒さんたちはこ
こで法律というもの自体を噛み砕いて、どうして
ちらからの質問の投げかけに、本当に真剣に考え
法律が存在するのか?といったような内容のお話
て返事をしてくれます。
しをしています。こういった法律そのものの存在
通常の教育機関では法律を教えてきません。なの
意義を多くの子どもに知ってもらうことで、さま
で、こと法律に関しては、実は大人の依頼者と知
ざまなトラブル回避の源流が作れるのではないか
識レベルは余り変わらないんです。そういった意
と思います。今後は、こういった法律そのものの
味で、お客様の考え方の擬似的なサンプルに多く
重要さなどをしっかり伝えていくことも大事だ、
触れることができる、という意味では本当に貴重
と感じています。
な機会とも言えますね。
― 講演の依頼がくる経緯はどういった形が多い
― 学校からはどんな要望をもらうことが多いで
ですか?
すか?
伊見 各地域の単位司法書士会から案内のチラ
伊見 子どもたちが想像しやすいような話を求め
シなどを送付して、教育機関から依頼が来るとい
られることが多いですね。子ども自身が自分のこ
うような流れが多いです。私の所属している千葉
ととして考えてもらう内容にすることで、その話
司法書士会では年間で20校程度です。もっと広
した内容がしっかりと定着していくという教育効
がっていくといいな、と思っています。やはりそ
果があります。勿論、反応がいいほうが話してい
ういった法教育を受けられたかどうかが子どもに
る方も楽しいので、そういった意味でも子どもた
よって異なるのは不公平でもありますしね。
ちの 反 応 を 想 像 し て 話 を 組 み 立 てます けど ね
(笑)
。
― 実績としては高校が多いようですね。
伊見 伝統的に消費者被害を防ごう、というテー
― 共通して法教育の現場で発進しているメッ
マが多いことが一つの理由でしょうね。そういっ
セージはどんなものですか?
たテーマは小学生・中学生には少し難しいところ
伊見 トラブルがあったら泣き寝入りをしないよ
もあるので、高校がメインとなるというところが
うに、ということは共通して伝えてきています。
あります。
ただ、先ほども言ったとおり、もちろん小学校・
中学校にも、もっと基本となる考え方の話もしに
行くこともあります。ただ、なかなか学校側にそ
の存在を知られていないのが現状の課題なので、
そういった基礎的な法教育の重要性の啓蒙活動も
必要と感じています。
― やはり気になる点の質問なのですが、報酬は
いただける業務なんでしょうか?
伊見 単位司法書士会ごとに基準があるのです
が、報酬無しということはさすがにないですね。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
69
司法書士
市民の求めるリーガルサービスを提供できる司法
書士が必要とされていくのではないでしょうか。
司法書士としてどうあるべきか、というテーマは
とても難しいものですね。
私としては、司法書士ができること、やれること
はやはり生活債権レベルのトラブルシュートが主
幹になっていくのではないかと考えています。ま
た今後のところでは、やはり人口構成の変容から
も福祉関連との連携がどんどん広がっていくと思
います。成年後見の分野では社会福祉士との連携
は重要です。
もちろん社会福祉士だけでなく、税理士・行政書
― 伊見先生といえば、以前講演した学校から司
士・社会保険労務士といった他士業との連携は業
法書士を目指し、合格後に報告してくれた子がい
務上非常に多く行います。そのことに慣れている
たというエピソードをお聞きしました。
のが司法書士であり、その特性こそに活路がある
伊見 あれは嬉しかったですね!彼は合格した後
と思っています。
にわざわざ千葉司法書士会の事務局に電話してき
法律・福祉は縦割りにすべき問題ではなくて、そ
てくれたんですよ。法教育という分野の一つの成
もそも本来は一人の人間の複合的な問題です。こ
果でもあり、次代の担い手を得られたというとこ
れを連携して解決してあげられる中心的位置にな
ろでも達成感があったことでした。一緒に法教育
れるのが司法書士です。柔軟さを活かしていくこ
の分野を盛り上げて行ってくれるものと思います。
とが、今後の司法書士にとっての強みになってい
くのだと思いますね。
― さて、色々なお話しを『全青司』と『法教育』
をキーワードにお伺いしてきましたが、最後に伊
― 貴重なお話、ありがとうございました。
見先生が考える、これからの司法書士像について
お聞かせください。
伊見 “市民の伴走者”とも言われる司法書士です
が、これは今までの歴史から生まれたものでもあ
ります。昔から訴訟支援という立場で訴訟に関
わってきたり、無料で法律相談を受けてきたとい
うような背景から、依頼者と対等の関係で一緒に
考えていくという特性が生まれたのだと思います。
このことは司法書士の特性でもあり、市民から求
められる法律家としての位置づけでもあると思っ
ています。
ただ、これは司法書士に限ったものではなく、弁
護士でもできること、やっていることです。今の
時代では司法制度改革により弁護士も非常に増え
てきており、そういったスタンスの弁護士も増え
てくるでしょう。また、司法書士も簡裁代理権を
持つことができるようになって、時代は大きく変
わってきています。その時代にいち早く対応して、
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
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