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戦 略 論 と E R M
保険E R M 基 礎 講 座 《 第 連載 として、①期待する達成 る。戦略の主な構成要素 要なアクションと言え て、戦術はそのために必 ス」と定義できる。そし 達成するためのプロセ 抽出するなら、「目的を に、これなしでの保険の ために不可欠であるが故 技術は保険業を運営する 険に対する理解や管理の ある。自社が保有する危 支払う業務であるからで 遇した契約者に保険金を リスク管理し、災厄に遭 れ、それをプールとして 回》 生 存 空 間( 企 業 ド メ イ 軸と空間軸の中で特定の にそこから現在に線を引 後のストレス状況を前提 が予想されるなら、 年 前提になっている可能性 の段階では、企業に成功 ある。競争戦略論の初期 する二つのアプローチが と自社のリソースを重視 置かれているポジション いう考え方である。 前記の脅威に対処すると 源を投入することにより 本戦略に基づき、経営資 である(注1)。この基 年後は全く異なる環境 ない事態が生じた場合 ン)を選択し、経営資源 制度によって移転し、保 (リスク)を保険という 一般事業会社は、将来 に対する価値の変動性 に行きつくと言われてい ズム(適者生存の思想) 概念の源流はダーウィニ 略)が必要である。戦略 企業が生き残るために は、高度な政策(経営戦 として、3~5年先を線 貸借対照表をスタート点 ている場合には、現在の 将来環境が質的・量的 に大きく変化しようとし ならない。 値を創造し続けなければ 返して、レベルの高い価 体(創造的破壊)を繰り 報)の効果的な統合・解 強いインパクトを与える 自社のポートフォリオに である。このギャップが リスク管理は現時点に おける将来への働き掛け 1参照)。 なければならない(図表 の間のギャップに着目し 将来に線を引いたものと いたものと、現時点から 競合他社との関係といっ マイケル・E・ポータ ーは、競争という概念を る必要が説かれている。 な資源を戦略的に投入す 慎重に選び、そこに重要 的な産業やセグメントを 立案において、最も魅力 いていた。それ故、戦略 形成する外部環境)に置 部環境(特に産業構造を をもたらす決定要因を外 どの変化を必然とする出 がある。普段から規制な として認識しておく必要 や規制の変化を不確実性 のモニタリングの枠組み の一つとして、監督当局 あることから、その脅威 えば、保険が免許事業で 意を払う必要がある。例 も、その固有の要素に注 の枠組みを使用する際に 存在するので、ポーター 保険の場合には、一般 事業会社と異なる要素も る方法として、リーマン る影響を具体的に確認す これら複合的な要素によ ます重要となっている。 は戦略検討においてます 的な影響を確認すること 外のハザードによる複合 に保険会社を取り巻く内 を変化させる。このよう けるため、純資産の状況 治・外交状況の影響を受 ローバル環境の変化、政 ロ金融・経済に関するグ 資産運用リスクは、マク ように企業戦略は、時間 変化によって計画前提か は、戦略自体を変更しな (ヒト、モノ、カネ、情 プロファイルを達成でき ら乖離(かいり)し、戦 ければならない。 が、その後の大きな環境 略・ 戦 術 の 不 適 合 状 況 険料という形で固定化す る。企業は厳しい環境変 とするなら、その前提で たように狭く捉えるので ショック以降ストレステ (「戦略的リスク」と呼 ペタイト・フレームワー る。しかし、全てをリス 化に見舞われた場合、旧 のシミュレーションが必 はなく、各業界固有の経 来事や状況の発生など、 スト(注2)が重視され 営資源を投入し事業活動 成のシナリオを描き、経 の予測を立て経営目標達 業は、将来に対して一定 素である。 保険ERMの核をなす要 業の継続性を担保する。 て適切な資本を確保し事 変動性と不確実性に対し して、保険事故に関する ールとして管理する。そ 保険会社の場合は、契 約者から危険を集め、プ 必要となる。 得を追求していくことも 滅する運命にある。この れ、生存の場を失って死 企業活動は、将来に対 する働き掛けである。企 を展開する。これらが中 ただ、現在の方針を継続 ージングモニタリングや 観点からは、別途、エマ 略への機動的反映という に反映されるものの、戦 タという形でリスク計測 直近の経験は過去のデー ものである。もちろん、 けるかという観点が強い るとどのような影響を受 去のパターンが再現され いるが、その中心は、過 傾向を取り込んだりして いぜん)性の強い将来の 取り込んだり、蓋然(が 去のデータのパターンを 保険ERMにおける定 量的アプローチでは、過 ある。 他者よりも低い価格)、 ・リーダーシップ(競争 ている。それは、コスト 三つの基本戦略を提示し ポーターは数多くのビ ジネスを研究した結果、 みである。 争優位を築くという枠組 化し得る戦略によって競 威(図表2参照)を無力 産業を取り巻く五つの脅 ポジショニングし、その 高くなるところに自社を 益水準が平均利潤よりも 論は、業界内において利 た。ポーターの競争戦略 産業組織論的視点に立っ 性を判断できるという、 よって、その業界の収益 )に着目することに の 競 争 要 因( ルの変化にも注意が必要 によるマーケットサイク への資本の参入退出状況 場(再保険、資本市場) た、保険リスクの取引市 力を失うこととなる。ま 損(きそん)を招き競争 収益性の悪化、資本の毀 い。不適切な商品設計は 対応させなければならな 引受条件や価格を的確に れらの変化に応じて保険 危険事情は変化する。こ 合的な影響を受け、その ど、多様な要素による複 関するニーズの変化な 変化、生活安全・安心に 信を含む社会インフラの 然環境の変化、交通・通 医療技術などの発達、自 扱う危険は、先端科学や ものではありません) であり、所属する組織の (文中の意見に当たる 部分は執筆者個人のもの る。 ラインの提示を行ってい ステストの実施、ガイド 険年金監督局)がストレ は、EIOPA(欧州保 な ど が、 ま た、 保 険 で BOE(英国中央銀行) (欧州銀行監督機構)、 備制度理事会)、EBA ( 注 2) 銀 行 に お い て は、FRB(米国連邦準 モンド社 訳、1982年、ダイヤ 坤、中込萬治、服部照夫 ( 注 1) M・ E・ ポ ー ター『競争の戦略』土岐 ◇ c r o f e v i f ストレステストの実施に 差別化(よりよい製品・ である。リスク処理キャ ◆この連載は隔週木曜 日に掲載します。 (つづく) よる補完が必要となる。 サービスの提供)、集中 パシティー、資本コスト s e 企業戦略には、自社が 3.ポジショニン グに関する戦略 化(ある領域への特化) を変化させる。さらに、 クである。これらはいず ク移転できるわけではな 型的に予測することはで 要である。このような事 その兆候に留意し十分な ている。 ぶ)が生じる場合があ れも、資本配賦、ORS いし、逆に積極的にリス きない。例えば、今後3 態を想定し、該当するハ 済構造に注目した。そし 検討と準備を行う必要が 2.環 境 前 提 の 変化 A(リスクとソルベンシ 来の経営資源の配分を続 年程度は大きく顕在化す ザードを捕捉するための て、競争や業界全体の平 ある。また、保険で取り 期経営戦略や事業計画と る。 ーの自己評価)と並んで クを保有し、高い利潤獲 けると変化から取り残さ ることはないとしても、 モニタリングを日ごろの 均収益力を支配する五つ して具現化されている。 有限責任監査法人トーマツ 状況をビジョンとして描 戦略論はあり得ない。リ すると目標とするリスク 後藤 茂之 ディレクター ため戦略論が発達した。 くこと②それを経営目標 スク管理と戦略推進をい しかし、将来は常にラン (出典:ベン・ギラッド『「リスク」を「チャンス」に変える競争戦略』菅澤喜男監修、岡村亮訳、2006 年、株式会社アスペクト、 122 ∼ 124 ページ。 ( )内は執筆者補筆) しかし、保険会社の戦略 という価値評価可能な形 かに統合して経営するか ダムであり、不確実性を 不確実性:どんな代替技術が出現するのか? 高リスク:急速に進歩する、そして(あるい は)価格下落をもたらす代替品の 性能 1.戦略的リスク で設定すること③その目 という基本方針を文書化 孕(はら)んでいる。そ れ故、戦略や計画の中に 代替品 論はリスク管理抜きでは 的達成を目指し、企業内 したのが、リスクアペタ 不確実性:買い手は新製品に高い お金を支払うか? 高リスク:価格感受性を高める人 口動態的変化 不確実性:どんな新しい動きが計画されてい るのか? 高リスク: 新しいルール を設定する競合企 業の動き 成り立たない。保険業は 組織を事業計画や予算な イト・ステートメントで 資本 不確実性:誰が参入しようとしているのか? 高リスク:参入障壁がそれほど高くなく、新 しい能力を持ち込む潜在的参入者 契約者の危険を受け入 どによって統制すること も不確実性が内在してい 参入の可能性 「戦略」という用語は さまざまに定義されてい ―を挙げることができ ある。そして、それを実 る。 一 度 設 定 し た 戦 略 資本 図表2 ポーターのモデルによるリスクの優先順位付け るが、その本質的要素を る。 践する枠組みがリスクア RM関連パネルに参 加。現職にて、ERM 高度化関連コンサルに 従事。 大阪大学経済学部卒 業、コロンビア大学ビ ジネススクール日本経 済経営研究所・客員研 資本 =戦略的リスク 企業価値を向上させる ペタイト・フレームワ (現前提の延長) 負債 資産 サプライヤーの交渉力 保険交渉、合併・経営 統合に伴う経営管理体 制 の 構 築、 海 外 M & A、 保 険 E R M の 構 ーク、ORSAプロセ 究員、中央大学大学院 総合政策研究科博士課 程修了。博士(総合政 (想定される ストレス状況) ギャップ 買い手の交渉力 業界 不確実性:サプライチェーンは変 化するか? 高リスク:前方統合(メーカーと 原材料の企業統合)を 計画する 築、グループ内部モデ 【後藤茂之氏プロフィ ルの高度化、リスクア ル】 S、Geneva A ssociatio 10 10 射程に入れておく必要が 戦略論とERM (その1) 16 策)。 t0 ス整備に従事。IAI て、企画部長、リスク n、EAICなどのE 全く異なる環境前提 t10 変化が顕在化 t3 変化は潜在的 環境前提 大手損害保険会社お よび保険持ち株会社に 管理部長を歴任。日米 図表1 戦略的リスクの存在 2 0 1 6 年(平成 2 8 年)5 月 1 2 日(木曜日) ( 4 ) (第 3 種郵便物認可)