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不確かさとお友達になるために ~リスク社会を生き抜くための「不確実性

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不確かさとお友達になるために ~リスク社会を生き抜くための「不確実性
【金 賞 】
不確かさとお友達になるために
~リスク社会を生き抜くための「不確実性リテラシー教育」の提言
杉本 崇
神奈川大学非常勤講師
〔今田高俊研究室修士課程 2003 年修了〕
キー ワー ド:不確実性、リスク、リテラシー教育
概 要 :今後ますます不確かさを増していくであろう今後の社会に対処するため、人間の本能に根差した
不確実性への不寛容を克服するための「不確実性リテラシー」と仮に呼ぶものの教育の推進を提言する。
科学技術の発達、情報化社会の進行とともに人間社会をとりまく状況は複雑さを際限なく増し
てきており、我々はそれに伴って増す不確実性と曖昧さの中で生き、考え、決定することを余儀
なくされている。しかし、認知心理学の分野では’70 年代以降から現在に至るまでの不確実性下で
の意思決定の研究において、「いかに人が曖昧さや不確実性を嫌うか」「人がいかに単純で決定論
的な説明を好むか」ということが明らかになっている。生物としての人間の思考が数十年単位の
短いスパンで起こる急速な状況の変化に合わせて対応し、変化できるわけではないのである。
現実は紛れもなく不確実で曖昧なものであるのだから、それを理解し、分析し、答を出そうと
するためには不確かさを忌み嫌うのではなく、
「そういうもの」としてあるがままに受け入れなく
てはならない。「わかる」「わからない」、「確実である」「曖昧である」の二分法ではなく、「わか
らなさ」、「不確かさ」を濃淡で考えなくてはならないのである。しかし、不確実性を嫌う人間の
心理は人間という生物が進化の中で得てきた本能的な修正であり、克服は容易ではない。それで
も、人がどれほど確実性を望もうとも現実は人間の都合に合わせてはくれないのだから、不確実
性への非寛容は時として大きく誤った社会的判断を生んでしまう。
例えば、リスクに関する専門家のコメントはしばしば「曖昧すぎてわからない」
「そんな不確か
なことしか言えないのならば専門家の意味がない」といった批判にさらされる。しかし、リスク
は元来曖昧で不確実なものであるので、それをありのままに説明しようとすれば曖昧で不確実な
説明になるのは必然であり、
「曖昧さ、不確かさのない説明をせよ」というのは「嘘をつけ」とい
うことになる(現実が曖昧で不確実なのは専門家の罪ではない!)。現在批判にさらされている「原
発安全神話」も、専門家側が説明を受ける側の欲求に阿りすぎて、まるで不確実性がないかのよ
うな説明をしようとした結果生まれたものではなかったか。
学問の目的はまさに世界を理解し、分析し、答を出すことなのであるから、曖昧さや不確実性
を嫌う思考を克服し、世界をあるがままの不確実なものとして受け入れる思考を推進するという
難題は大学、大学院教育が率先して行うべき課題である。その必要性はこれからますます増して
いくと考えられる。近年教育推進の必要性が指摘されているリテラシーには科学リテラシー、リ
スク・リテラシー、統計リテラシー、経済リテラシーなどがあるが、これらすべてに共通したキ
ーワードとなるのが「不確実性」であることはそのことを示していると言えるであろう。これら
のリテラシー教育がそれぞれ重要なことは論を待たないが、そもそもこうしたリテラシーが浸透
していない理由がまさに不確実性、曖昧さへの非寛容であるとも考えられ、それを克服しない限
りそれらの教育も表層的なものとなりかねない。そこで、まず不確実性に対する認識、
「不確実性
リテラシー」とでも言うものを教育することの必要性を提言したい。
すなわち、前述の「わかる」「わからない」、「確実である」「曖昧である」の二分法ではなく、
「わからなさ」、「不確かさ」を濃淡で考える思考を養うための教育である。
そのための具体的な提言にはどのようなものが考えられるか。
何度も繰り返すことになるが、
(いくら強調してもしすぎるということはない)不確実性を忌避
する傾向は本能に根差したものである。であるから、大学教育のなるべく早い段階で不確実性に
対する認識を生徒に持ってもらうための授業を設けることが望ましい。まず、心理学における不
確実性下の意思決定におけるバイアス、および曖昧性忌避に関する知見を知ってもらうことで、
不確実性を忌避する心がいかに判断のバイアスを生むか、という認識を持ってもらうことが重要
であると言える。また、リスク学の初歩の講義も全学的に行うことで「不確実性リテラシー」の
向上に寄与できると考えられる。前述した4つの不確実性に関連したリテラシーの中で特にリス
ク・リテラシーが重要である、ということではないのであるが、実社会に直結した内容であり、
概念的な不確実性を理解させるのに最も適切であると考えられ、また生徒側に興味を持たせるこ
とが比較的容易であると考えられるからである。それによって不確実性に対する認識を持たせる
ことが他の3つのリテラシー(科学、統計、経済)の推進をもたらすことも期待できる。
社会から不確実性に対する非寛容を取り除く、という課題は極めて困難で道の遠い課題である
が、その先鞭を切るとしたらそれは大学、大学院がもっともふさわしいと考える。ゆえに、ここ
に大学、大学院教育における「不確実性リテラシー教育の推進」を提言するものである。
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