...

「細胞とふえ方」から

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

「細胞とふえ方」から
平成19年度
理数教育ステップアップ研修
実践記録
コミュニケーションが生まれる授業づくり
−第3学年 理科「細胞とふえ方」から−
(実践者
上越市立頸城中学校
工藤寛之)
中学3年生の単元「細胞」において、「話し合い活動」に重点をおいて展開を進めた。実験・
観察の前後で様々な視点から「話し合い活動」をさせ、生徒間や教師と生徒との「協同的な学
び」を展開した。また「話し合い活動と教師側の説明を聞く場面の座席の工夫」
「話し合い活動
の約束の指導」
「話し合いの視点を明確にした発問の工夫」を行った。これにより、教科の内容
に対する学習意欲も増し、理論的な思考力や科学的な思考力が身に付く。また、知識理解の面
からも、「自ら見つけ出した」という意識が芽生え、定着を図ることにつながる。
このような考えのもと単元を展開したところ、生徒が「わかった」と実感でき、
「話し合いが
自らの考えを深める」という意識が高められた。また、「理科が好きだ」「理科が得意だ」とい
う評価も高まった。ここに単元の展開や実際の生徒の様子を報告する。
1
「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想
(1)理科での“面白さ”を、こうとらえる
かねてから、
「理科はロマンティックな教科」として授業展開をしてきた。探求する意欲は、それに
裏付けられるだけの面白さが必要であり、
「生活に役立つ」とか「お金になる」といった世界からはは
なれたものであると考えている。また、その探求する意欲や深く追究することの面白さのおかげで、
今日まで科学の進歩があったのだと思っている。そこの面白さとは、
「実験がおもしろい」とか「この
現象ってすごい」ということをきっかけにして、そこから1歩踏み込んだ、
「結果からわかったことの
美しさ」とか「追究した達成感」とか追究する過程のおもしろさであるととらえている。
しかし、普段の授業では、その「追究する場面」にしっかりと踏み込めていないのも現状である。
(2)自らの理科の授業の現状と研究のテーマ
実験や観察が少ない単元では、テストによって生徒の「学びの意欲」を引き上げようとする傾向に
あった。また、そういった単元では、生徒にとって教師の話を聞くだけの場になっていることがよく
あった。また、理科の時間数の減少などから生徒自ら課題設定をし、追究する授業展開を十分に行え
ていない現状があった。
自分が研究主任を務める頸城中学校の研究推進プロジェクトでは、今年度、次の点で授業改善を図
ることを今年度の研究テーマとしている。
○「コミュニケーション」が生まれる授業づくり
○「自ら学びに向かう意欲」の育成
(3)頸城中学校の生徒側の現状から
学習規律は十分に定着しており、落ち着いた雰囲気の中で授業を展開している。また、自主的に学
習を進めることができ、
「知識・理解」の結果はよい。しかし、授業の展開の中で、きちんと自己主張
できる生徒が少なく、また、自ら課題を見つける能力が低いと感じることが多い。単元が設定されて
いる3学年という年齢のせいであると考えられるが、自らの意見を発表する、班の中で意見の交換を
する、等の場面では活気がないように思われる。
− 1 −
(4)今回の単元の中で
そこで、今回の単元では単元内の重点化を行い、実験・観察よりも話し合い活動に重点をおいて、
授業展開を進めた。生徒間のコミュニケーション不足が感じられるので、具体的な方策として、
「班で
のコミュニケーション」を授業内に多く取り入れ、生徒間や教師と生徒との「協同的な学び」が展開
される授業を目指した。また、「話し合いの視点がぶれないような授業の展開や発問の工夫」を行い、
生徒同士の対話が十分に生まれるように配慮した。
(5)コミュニケーションによって生徒に期待される効果
コミュニケーションを効果的に取り入れることで、教科の内容に対する学習意欲も増す。また、複
数人での探求活動により、理論的な思考力や科学的な思考力が身に付く。生徒間や生徒と教師間の「協
同的な学び」から、発表の場面で「自己主張する力」が養われ、自らの意見の調整を行い最終的な答
えを自らが出したという充実感を味わうことができる。知識理解の面からも、
「自ら見つけ出した法則
やきまり」という意識が芽生え、定着を図ることにつながると考えられる。
2 授業の実際
(1) 指導と評価の計画
細胞の世界
6時間
時
学習の
学習活動
間
テーマ
1 単元の導 • 生物と無生物の違いを、生徒との討論
形式で答えを導く。
入
生 物 と • 生物は細胞からできていることの説明
を聞く。
は?
細胞観察 • 生物とは、大きく動物と植物の2種類
いることの説明を聞く。
の理解
• 細胞観察のビデオを見て、次の時間の
課題を把握する。
2 細胞の観 • 細胞の観察をする。
察1
¾ ヒトのほおの内側の細胞
¾ ムラサキツユクサ
• 観察スケッチをする。
3 細胞の観 • 細胞の観察をする。
察2
¾ タマネギの内側の表皮細胞
¾ オオカナダモの観察
• 観察スケッチをする。
• 観察レポートの作成をする。
4 動物細胞 • 動物細胞と植物細胞とのつくりと特徴
について説明を聞く。
と植物細
胞の理解 • 次の点について話し合い活動を行う。
¾ 核はどんな役目
¾ 細胞膜はどんな役目
¾ 細胞のつくりの差
• 話し合い活動の結果を共通理解し、ま
とめの話を聞く。
5 生物の成 • 「生物が成長するとは」という点につ
長とは
いて、話し合い活動を行う。
• 細胞分裂と成長について説明を聞く。
• 体細胞分裂につての説明ビデを見る。
− 2 −
評価
• 生物と無生物の違いに興味を示し、意見を出し
ている。(関)
• 生物が細胞からできていることを理解する。
(知)
• 細胞観察の方法を習得する。(技)
• 適切に細胞観察を行っている。(技)
• 細胞の観察に熱心に取り組んでいる。(関)
• 理科のスケッチの方法に従って、丁寧に行われ
ている。(技)
• (上記と同様)
• レポートが適切に作成されている。
(技)
• 植物細胞と動物細胞の共通点や相違点について
理解する。(知)
• 細胞の作りについて、話し合い活動に積極的に
参加する。(関)
• 細胞のつくりの共通点や相違点から、その役割
について考え、答えを導き出すことができる。
(思)
• 生物の成長について、積極的に話し合いを行っ
ている。(関)
• 細胞分裂と細胞の伸張について理解する。(知)
• 細胞分裂の観察方法を習得する。(技)
• 体細胞分裂の過程を理解する。(知)
6
細胞分裂
の観察
• 観察方法の説明を聞く。
• 細胞分裂を観察し、細胞分裂の過程と
結びつける。
• 「染色体」の役目について話し合い活
動を行う。
生物の子孫の残し方
5時間
時
学習の
学習活動
間
テーマ
1 単細胞分 • 単細胞生物と多細胞生物の説明を聞
く。
裂と多細
• 生殖についての説明を聞く。
胞分裂
無性生殖 • 無性生殖についての説明を聞く。
と 遺 伝 • 「無性生殖の利点」について、話し合
子・形質
い活動を行う。
2 動物のふ • 動物の生殖細胞と生殖についての説明
え方
を聞く。
• 動物の有性生殖のビデオを見る。
• 遺伝子・遺伝・形質についての説明を
聞く
3
植物のふ
え方
• 植物の生殖細胞と生殖について説明を
聞く
• 花粉管がのびる様子を観察する。
• 観察レポートを作成する
4
植物の生
殖
有性生殖
• 植物の生殖細胞、果実、種子、胚につ
いての説明を聞く。
• 「有性生殖と無性生殖の違い」につい
て話し合い活動を行う。
5
減数分裂
有性生殖
と形質の
遺伝
• 減数分裂についての説明を聞く。
• 有性生殖と形質について、ワークシー
トをもとに作業を行う。
• 「有性生殖の利点」について話し合い
活動を行う。
• 細胞分裂の観察を、積極的に行っている。(関)
• 観察した細胞が、どの段階のものか確認できる。
(技)
• 細胞分裂と染色体の関係について考え、答えを
導き出す。(思)
評価
• 多細胞生物や単細胞生物について理解する。
(知)
• 生物にとっての生殖について理解する。(知)
• 無性生殖による生物のふえ方を理解する。(知)
• 無性生殖の利点について考え、遺伝子や形質と
関連づけて考えることができる。(思)
• 動物の生殖と生殖細胞について理解する。(知)
• 動物の有性生殖について興味をもってビデオを
見る。(関)
• 遺伝子・遺伝・形質について興味深く話を聞く
ことができる。
• 遺伝子・遺伝・形質について、理解をする。
(知)
• 植物の生殖と生殖細胞について理解する。(知)
• 興味をもって、花粉管がのびる様子を観察する
ことができる。(関)
• 花粉管がのびる様子の観察ができ、観察レポー
トをまとめることができる。(技)
• 植物の生殖と生殖細胞、果実、種子、胚、につ
いて理解する。(知)
• 話し合い活動に積極的に参加をしている。(関)
• 有性生殖と無性生殖の違いについて考え、その
違いを遺伝と形質という点から考察している。
(思)
• 減数分裂について、有性生殖と関連づけて理解
する。(知)
• 親とは全くちがう形質が子に表れることを理解
する。(知)
• 有性生殖の利点という点を、親との形質の違い
について関連づけて考察している。
(思)
(2)学習の実際
①生物とは何か 細胞観察の理解
生物と無生物との違いを討論(生徒対教師)したところ、生徒の反応もよく、自主的な挙手が見られた。主
な意見として、「生きているかどうか。」「呼吸をしているかどうか。」「細胞でできているかどうか。」「自分で
自分を繁殖させるかどうか。」などの意見が出された。
十分に討論をした後、生徒の意見を吸い上げる形で、生物は細胞からできていることの説明を行う。その説
明の中で、トピックス的な話題として、
「動物」の例を生徒にあげさせる。その例から、
「動物」というと「セ
キツイ動物」というイメージがあるが、「昆虫」もその他の小動物も「動物」であることを説明する。また、
生物は大きく分けて「植物」と「動物」に分けられることも説明する。
その後、次回の課題把握のためのビデオを見る。ビデオの内容は、細胞の観察方法(染色法法)、植物細胞
と動物細胞の基本的な作りに関するもの。
− 3 −
②細胞の観察
課題把握が前の時間に終わっているので、授業のスタートでは簡単な注意だけで、観察実験を行うことがで
きた。
観察レポートは4種類のスケッチに説明を加えるものを課題とした。レポートは白紙にまとめる形式とした
ために、まとめ方に不安をもった生徒が多かったようだった。そこで、2時間目のスタート時にレポート形式
の例を板書し示した。
顕微鏡の操作方法については、生徒の様子から1年次の内容を復習する必要がありそうだったので、資料集
を参考にするように指示した。また、スケッチの様子から、顕微鏡の倍率が適当でないものに対して、
「何が
見たいのか」についての目的を意識させ、倍率を適当なものに変えさせ、スケッチをやり直させた。
生徒によって、観察やスケッチの速さが違うが、2時間目の終了時にはほぼ全員レポートを提出できる状態
であった。
③動物細胞と植物細胞の理解
プレゼンカメラで生徒のスケッチを示しながら、植物細胞と動物細胞の特徴について板書にまとめた。細胞
のモデルをプリントで配布し、ノート整理の時間を短縮させ、その後の話し合い活動を充実させた。
3年生がスタートしてから間もないために、まずは、話し合いのルール(方法)を確認した。
○椅子を移動させ話し合いをする4人が向かい合うこと。
(後に述べます。)
○話し合いで出てきた意見は、お互いに尊重をすること。
○出てきた意見を紙にまとめ、ホワイトボードに張ること。
話し合いの場面では、4名が顔を合わ
次時の授業を意識して、話し合いのポイントの3つ目に「生物が
せて話し合う。教師の話を聞く場面と
細胞からできているわけ」について話し合いをさせた。
区別するなど、座席の工夫をした。
核の役割については、どの細胞にも見られたことから、「細胞に
とって重要なものだ」ということが意識できているよ
うであった。生物が細胞からできているわけについて
は、班内でも意見がなかなか出なかった。そこで、
「生
物が細胞でできているとよいことを考えてみよう」と
話し合いの視点を変えてみるように指示したところ、
多くの意見が出されていた。期待通りの意見が出され、
次時につなげることができた。
話し合い活動「核はどんな役目」「細胞膜の役目」「生
物が細胞からできているのはなぜ」
○核はどんな役目→細胞の心臓のような働き、細胞の
要、分裂して仲間を増やすため、細胞に働きを指令す
る
○細胞膜の役目→核の防衛、細胞質の流出を防ぐ、細
胞を守る、細胞を区別する
○細胞からできているわけ→ケガをしたとき一部の細胞が死んでも他の細胞は死なない、子孫を残すため、繁
殖をするため、細胞が生まれ変わり成長するため
④生物の成長とは
「細胞の作りの差」については、前時の復習として話し合い活動を行った。多くの班が植物細胞にのみある
組織について着目し、答えを出していたようだった。少数の班では動物細胞にその組織がない理由を考え、答
えを出している班もあった。いずれの班の答えも正解であることを伝え、共通理解を図った。
生徒の中には「タマネギの表皮細胞は植物細胞でありながら葉緑体がないこと」を指摘し、質問をしてくる
班もあった。その班には、逆に「なぜそうなるのか」を次の時間までに調べてくるように宿題とした。
本時の主題である「生物の成長と細胞」について、細胞の観点からどのようになっているのかを話し合いさ
せた。細胞の大きさや数から考えて、どの班でも正しい答えを導き出していたようである。
その後、説明を行い、体細胞分裂についての説明ビデオを見た。話し合いの後の説明ビデオは、知識理解の
定着に役立っているようである。
話し合い活動「細胞の作りに差があるのはなぜか」
光合成をするかどうかの差、植物細胞は細胞壁で体を支える必要がある、植物では細胞が固定されているが動
物では固定されていては困る
− 4 −
⑤細胞分裂の観察
細胞分裂について、教科書ではプレパラートの作成から実験
を行うようになっているが、話し合い活動に重点を置きたいの
で、実験方法は説明だけに終え、実際の観察はすでに固定され
ているものを使う。観察は「エンドウの根の先端」
で行った。
顕微鏡カメラを用いて、細胞分裂の途中のものを
TVに映し出し、それぞれの過程と教科書の写真と
を結びつけて説明した。
TV画像のひも状のものに着目をして「この役目
は何か」について話し合い活動を行った。話し合い
活動によって、細胞の情報伝達にまで答えがたどり
着かず、分裂の手助けや成長の手助けをするという
考えが多かった。後の授業で「形質・遺伝」につい
て説明する際に、考えの訂正をすることで対応する。
話し合い活動「染色体の役目」
細胞を分裂させるもの、核を分裂させるもの、核の
分裂を手助けするもの、細胞をコピーするもの
話し合いで出された意見は、理科室の掲
示板に掲示し、いつでも見られるように
なっている。他学年も目にすることがあ
り、活気のある理科室となっている。
⑥単細胞分裂と多細胞分裂、無性生殖と遺伝子・形質
単細胞生物、多細胞生物について教科書の図や資料集の図を用いて説明を行う。参考資料としてゾウリムシ
の体の構造についての説明を行い、発達した細胞について興味をもたせた。
生殖についての説明を行い、また、単細胞生物の無性生殖についても説明を行う。注意点として、無性生殖
=単細胞生物の生殖とならないように、チューリップ、ハイビスカスなどの例をあげて説明をした。
その後「無性生殖の利点」について話し合いを行い、無性生殖についての知識理解を深めることができた。
話し合い活動「無性生殖の利点」
自分のコピーが残せる、1人で殖えていける、1人で生殖できて絶滅しない、確実に子孫を殖やせる、相手を
見つける必要がなく好きなときに殖やせる
⑦動物のふえ方
動物の生殖については、性教育の授業でもふれているので、生物学としての用語の説明などを簡単に行った。
生徒の様子は自らの体に関連することでもあるので、真剣に話に聞き入る様子がうかがえた。ビデオによる動
画の説明は、生徒の知識理解の十分手助けとなっていた。
前の単元での積み残しであった「染色体」の正体について触れ、遺伝などについての説明を行った。遺伝の
参考例として、耳あかや爪の形などにふれた。遺伝に関しては、興味関心を十分によせているようで、自分か
ら進んで資料集のページを開く姿が見られた。
⑧植物のふえ方
1年生の学習内容「受粉」について復習し、
「受粉」から「受精」までの段階で「花粉管」の必要性にふれ、
実験の導入を行った。
実際の花粉管の観察では、インパチェンスの花粉を使用し、教科書の寒天培地の方法よりもより簡単な方法
(ショ糖溶液を滴下する方法)で行い、実験時間を短縮した。
全員が花粉管の伸張を観察することができた。花粉管の観察レポートとして、スケッチと気づいたことを書
かせ、次回の宿題とした。
⑨植物の有性生殖
前回のレポートをもとに、植物の生殖と発生について説明を行った。話し合い活動の時間を十分に確保する
ために、あらかじめ発生のモデルをプリントしておき、記入することでまとめを行った。
話し合い活動では、十分に回数を重ねてきているので、班でのスムースな導入ができ、焦点を絞って話し合
いが進められていた。また、話し合いの途中で、話し合われる内容がさらに発展するようなヒントを与えると、
− 5 −
それをきっかけに、話が進んでいるようであった。また、話し合いを進めていく中で、理科的な用語を正しく
使い、話し合いが進められていた。張り出された話し合いの結果を見て、いずれの答えも正しいことを全員で
確認する。
話し合い活動「有性生殖と無性生殖の違い」
全く同じ遺伝子を受け継ぐか継がないか、生殖細胞があるかないか、親と同じ形質のものができるかどうか、
生殖に時間がかかるか、かからないか
⑩減数分裂、有性生殖と形質の遺伝
話し合いで出された意見を参考にし、授業を展開する。
前時の復習として、重要語句を確認する。
これにより、前時とのつながりをもたせることができ、
生殖細胞の受精や体細胞分裂(無性生殖)につ
また、生徒には話し合いでの意見を採り上げられたと
いて、染色体の数に着目して考えさせる。有性生
いう充実感を味わわすことができる。
殖で、染色体の数に注目するとその数が合わなく
なることから、「減数分裂」の話を切り出す。あ
らかじめ準備しておいたワークシートを使って、
減数分裂についてまとめた。
発展的な学習として、ピーターコーンの白と黄の
粒を数えさせ、どうして数の比が3:1になるのか
を考えさせた。その際に、減数分裂の考え方を用い
るようにヒントを与える。後半の話し合い活動に十
分に時間をかけたいので、数の比の考え方について
は深入りさせず、すぐに回答を与えた。時間をかけ
れば、生徒は正しい答えにたどり着いたであろう。
前時の有性生殖と無性生殖の違いを意識させ、そ
れでも有性生殖を行う生物がいるのはなぜか、とい
う問いかけをして、話し合い活動を始める。ホワイ
トボードに張り出された意見は、いずれも正しいこ
とを全員で確認した。
話し合い活動「有性生殖の利点」
個性があっていい、個性があり自分にないものを補い合える、少しずつ異なった形質が出るため少しずつ進化
できる、自分よりも優れた生物が生まれる可能性がある、品種改良ができる、その時の環境に合わせて進化し
ていける
⑪理科室の配置と座席の工夫
自分の理科の授業では、実験の有無にかかわらずすべて理科室で行っている。2分野では主に第2理科室を
使用し、机の配置は次のようにしている。
話を聞く、板書を見る
ポジション
実験・観察、話し合い
のポジション
普段の授業では、ホワイトボードの方を見て授業を行った。普通教室での授業のように活動を進めることが
できた。また、実験・観察のポジションでは、グループで顔を合わせて話し合い活動ができるように座る位置
を変えて行った。このように2つのポジションを変えることで、生徒にメリハリを付けさせた。
− 6 −
3 実践の考察とまとめ
①生徒のアンケートから
授業を展開した2クラス(合計60名)で、単元の導入前と単元終了後に次の項目についてアンケートを行
った。「1そう思う」∼「4そう思わない」の4段階評価をした。
1 好きだ。
2 得意な方である。
3 楽しい。
4 「わかった!」と思う場面がある。
5 「話し合い活動」を行うと、知識が身に付く。
6 「話し合い活動」を行うと、自分の考えが深まる。
7 「実験・観察」は楽しい。
8 「実験・観察」で知識が身に付く。
9 「実験・観察」で自分の考え方が深まる。
10 将来の役に立つ教科だと思う。
11 これからも学んでいきたい教科だ。
いずれの項目においても、単元後には評価が上がった。特に結果がよくなったものについて考察を行う。
4「わかった!」と思う場面が
ある。という評価項目について右
4 実施前
4 実施後
のような結果となった。評価1の
「そう思う」生徒の割合はあまり
変わっていないが、評価2の「ま
あそう思う」生徒の割合が大幅に
増えている。また、評価4の「そ
1
1
う思わない」生徒の割合が0にな
2
2
3
った。これは、今回の単元で目標
3
4
とした「学びあい」が一定の成果
4
を上げたと考えられる。
また、話し合い活動をしている
生徒の様子から、教師側の説明で
「わかった」と表情を変化させる
ことよりも、生徒間の話し合いの
中で「わかった」という様子を見せることの方が多かった。今回の単元の話し合いの内容が発展的なものを扱
うことが多かったが、生徒間のやりとりの中に「課題をより簡単に解釈しよう」とする様子がうかがえた。ま
た、話し合いの課題を十分に理解できない生徒に対して、自分たちの言葉で説明しようとする姿が見られ、こ
のような効果を上げたと考えられる。
5「話し合い活動」を行うと、
知識が身に付く。
という項目では、
5 実施前
5 実施後
評価1・2の項目共に評価の割合
が上がり、生徒自身の意識の中に、
「話し合い活動」による学習効果
への意識が高まっていることがわ
かる。この結果は、6「話し合い
1
1
活動」を行うと、自分の考えが深
2
2
まる。という項目においても、同
3
3
4
4
様の結果が現れている。
実際に生徒自身が「わかった」
と実感し、その内容が自分自身の
知識になっていると実感できてい
ることがわかる。
②授業中の見取りから
生徒の話し合い活動を中心とした授業展開で、活気のある授業が展開された。話し合いを展開する際に心配
された仲間関係や学力低位の生徒への配慮に関しても、活動の機会を重ねることで改善され、どの生徒も積極
− 7 −
的な発言が見られるようになった。
今回の「話し合い活動」でねらった理論的な思考力や科学的な思考力については、十分な調査や見取りを行
うことはできなかった。しかし、発表の場面(話し合い活動の中で自分の意見を発表する場面)で、活動の機
会を重ねるごとに生徒の「自己主張する力(建設的な意見を述べる力)」が身に付いてきたようである。
以上のことから、単元内の重点化を行い、話し合い活動に重点をおいて授業展開を進めることで、生徒間や
教師と生徒との「協同的な学び」が展開されることがわかった。コミュニケーションを効果的に取り入れるこ
とで、教科の内容に対する学習意欲が増し、生徒間の「協同的な学び」から、答えを自らが出したという充実
感を味わわせることができた。また、知識理解の面からも、「自ら見つけ出した答え」という意識が芽生え、
定着を図ることができたと言える。
③小・中・高校の連携を通して
今回のステップアップ研修では、他校種の先生方と共同で研究を行った。
小学校の理科について検討していく中で、より多くの物(今回の場合では植物)に「実際にふれることの大
切さ」を感じた。小学校で積まれてきたこの多くのの経験を、中学校で系統立てて整理していく作業を行い、
科学の基礎(理論的に物事を考えること)を学んでいくことになる。また、高校ではより専門的な知識理解を
身につけ、より専門的な学びを展開し、科学研究の一端にふれることが大切だと感じた。
また、それぞれの学校において「知識・理解についてはこのあたりまでおさえておいてほしい」とか、
「理
科に対する関心や科学的な思考力についてここまで高めておいてほしい」など、意識をするよい機会となった。
参考文献
「VIEW21」2006年9月号
ベネッセ教育研究開発センター
− 8 −
Fly UP