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熱プラズマ応用製品のための要素技術開発

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熱プラズマ応用製品のための要素技術開発
218
熟プラズマ応用製品のための要素技術開発
DevelopmentofCharacteristicTechniqueonThermalPlasmaApparatus
*
1
雄一進
*
〃
栗
光耕
藤田
加
技 術 本 部
山 下 一 郎*2
榎 田 直 彦*4
西
3
*
熟プラズマを使うと高温度,高熱流束が得られることに着目し,プラズマアーク炉の大容量化,安定なプラズマ形状の確保,
アーク駆動技術及び運転に適した条件を見いだすためのプラズマ計測技術の獲得を目指した研究を行っている.本報では以下の
5
ことについて述べる.①ごみ焼却灰溶融70ラズマアーク炉の設計,最適運転操作に必要なアークプラズマの電気及び伝熟特性
についての実験研究成果,②板材加熱処理や前処理へのプラズマ応用に必要なアークの横幅方向磁場駆動技術の実験結果,③
高周波熟プラズマの現象解明に必要なプラズマの流れ,電子密度及び温度分布の簡易計測法並びにプラズマの超微粒子製造等高
温加熱源への応用技術.
Themostimportantfeaturesofthermalplasmasaretheirhightemperatureandhighheatflux.Wehaveperformed
StudiesinordertoapplythermalplasnaS
.
magneticallymovingelectricarc.③FlowvISualizationandmeasurementsofelectrondensityandtemperatureininductive
1ycoupledplasma.Theresultsofthesestudiesareusefulfordevelopingactualplants.
陰極(炉内)
1.ま え が き
当社では,(D増大し続ける都市ごみ焼却灰処理のための溶融
固化装置,②製鉄プロセス用帯鋼板急速加熱装置及び表面処理
装置,③高沸点物質の高純度超微粒子製造装置及び溶射装置な
ど数々の熟プラズマ応用製品の開発研究を実施中である.
その開発研究をより効果的にかつ,新しい発想に基づいた製品
開発を実現するには,熟プラズマの新しい要素技術が必要である.
そのため,①ごみ焼却灰溶融プラズマアーク炉の設計,最適運
転操作に必要なアーク70ラズマの電気及び伝熱特性についての実
陽極(スラグ)
験研究,②板材の加熱処理や前処理へのプラズマ応用に必要な
図1 プラズマアーク炉中のプラズマの発生状況
アークの板幅方向磁場駆動技術の実験,③高周波熟プラズマの
移行型アークプラズマが陽極と陰極間で発生してい
る状態を示す.
現象解明に必要なプラズマの流れ,電子密度及び温度分布の簡易
Typicalelectricarcplasmaconfigurationinincin−
erator residue meltillg furnace
計測法並びにプラズマの超微粒子製造等高温加熱源への応用技術
についての研究,を行った.その結果は,概略,次のとおりであ
る.
ている.灰溶融炉は各社が開発を進めているが,当社は加熱源と
(1)プラズマアーク炉の大容量化に対しては,アーク長をパラメ
ータにして電気特性と放射エネルギー密度分布を測定した.被
加熱物を陽極とする構成が,入熱効率の点で有利である.アー
クを長尺化すると,アーク維持電圧の増加によりアーク炉の大
容量化に寄与するが,陽極への入熱効率の向上対策が必要であ
る.
して熟プラズマを使いパイロットプラント炉で実験を行っており,
実機の電源容量は2−5MWとなることを予想している(l).
プラズマアーク炉の電極構成は炉内電極と,炉底電極により構
成される.定常運転では図1に示すように,炉内電極から灰の溶
融物であるスラグに移行型アークプラズマが形成され溶融状態で
は導電性を持つスラグを通して炉底電極に電流が流れる.大容量
(2)帯鋼板加熱用としてアークの磁場駆動を行い,実機を想定し
化としてアークを長尺化しプラズマへの入力電力を増やす方法が
た出力及びライン速度で使える約300Hz以上の走査ができる
考えられるが,スラグ等各部への入熱分布が不明で,また70ラズ
ことを実証した.
マが不安定になり消弧するなどの懸念があるため実験による検討
(3)高周波熟プラズマ装置の原料供給位置及びガス供給条件を決
めるための,プラズマの流れ,温度分布の簡易計測法を得た.
2.ごみ焼却灰溶融プラズマアーク炉一大容量化一
を行った.
2.1アークプラズマの電気及び伝熟特性
アーク電流を300Aとし,電極間距離を20∼100mmの範囲
で変化させた場合のアーク維持電圧,アークから陽極等各部への
我が国では,都市ごみの大半は焼却処理されており,ごみ焼却
入熱量,及びアークプラズマからの放射エネルギー密度の測定結
場から排出される焼却灰は埋立処分されている.焼却灰を溶融固
果を図2に示す.ここで各部の入熱量は冷却水の温度上昇量から,
化して,更に減容化を図るとともに無害化する方法が注目を集め
放射エネルギー密度は光学系を介してサーモバイルを用いて測定
*1基盤技術研究所機能材第二研究室長
*2広島研究所応物・振動研究室
*3広島研究所応物・振動研究室工博
*4広島研究所機械プラント研究推進室
*5横浜研究所環境装置研究推進室主査
三菱重二L技報 Vol.33 No.3(1996−5)
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埋砂肝f豊ヘート
20
40
60
80
100 120
電極間距離(mm)
(a)電極及び入熱特性
×108
(b)陰極先端形状
10
図3
Electricarcandcathodeconfigurations
8
6
4
2
︵M∈\き︶ 触感TJT⇒棺H轟帝
アークの形状と陰極先端形状 アークの形状が陰極点位置によって変わる
ことを示す.
0
10
20 30
40
(陰極)
50 60
70 80
陰極からの距離(mm)
(b)軸方向放射エネルギー密度
図2 アークプラズマの伝熟特性(電流300A) アークプ
ラズマの電極間距離と電圧,入熱量特性及び放射エネルギ
図4 板材加熱用プラズマトーチ 熟プラズマトーチの構成とア
ー密度特性を示す.
ークの磁場駆動原理を示す.
Heattransfercharacteristicsofelectricarc(Current300A)
Plasmatorchforstripheating
した.アークから両電極への入熱量は圧倒的に陽極が大きく,被
膜除去による耐食性向上,亜鉛めっきラインでの前処理,あるい
加熱物を陽極とする構成が有利である.長尺化の効果はアーク維
は浸炭,窒化,さらに省スペース化のための急速加熱のニーズが
持電圧の増加となって現れ,アーク炉の大容量化に寄与するが,
陽極への入熱量はさほど増加しないため,炉の運転条件によって
高い.生産量,帯鋼板幅から100mm当たり投入電力50kW以
上で1−2mの板幅の加熱に対応できる熟プラズマ装置が必要と
アーク長の最適化が必要である.アーク長尺化に伴う維持電圧の
なる.
増加は,図2(b)に示した放射エネルギー密度分布の測定結果か
従来の円筒型の熟70ラズマトーチを,板材の加熱に適用するに
ら,陽極近傍の低放射エネルギー密度領域の拡大によるもので,
は,70ラズマジェットを交流磁界によって振動させるか,板幅方
陰極近傍の高放射エネルギー密度領域は変化しないことが分かる.
向に複数台のトーチを並べる方法などを採らざるを得ない.両者
放射エネルギー密度は陰極近傍が高いにもかかわらず,入熱量は
共に装置構成が複雑でかつ,被加熱面での均一加熱が難しい欠点
陽極の方が多いことから,アークから陽極への熟の流れは,陰極
がある.
近傍の高温領域において形成され陽極へ向かうプラズマジェット
本研究では図4に示すように平行な陽極,陰極間で発生させた
による対流熱伝達過程が主であると考えられる.したがって,長
アークを磁場を使って板材幅方向に駆動し加熱を行う基礎実験を
尺化による入力増加を有効に利用するためには,プラズマジェッ
行い,実機条件を満足する目途を得ることを目的とした.
トの制御が必要である.
2.2 アークプラズマの形状
陰極点の形成位置によっては図3(a)に示すようなアーク形状
3.1アークの磁場駆動のモデル化
熟プラズマトーチ内のアークには,図4中に示す力が働く.次
の仮定を置くと,アークに対する運動方程式をつくることができ
が観察される.図3(a)は陰極点が陰極の端部にあり,プラズマ
る.すなわち,①アークの形状は一様な円柱状とする,②アー
ジェットが明確に形成されている.この状態は運転の初期に見ら
クと電極面間での抵抗力はない,③アークには正弦波的に磁場
れるが,陰極先端に図3(b)に示すくぼみができると陰極点は中
を印加し,ローレンツ力を働かす.
央の〈ぼみに入り込み,プラズマジェットが明確には観測されな
い図1に示すような拡散型70ラズマとなる.パイロットプラント
では拡散型プラズマで比較的安定な運転を行っているが陰極先端
したがって,
(アークに働く力)=(ローレンツ力ト(流体抵抗)
となり,運動方式は次式のようになる.
部の形状効果を含め,陰極点の挙動及び70ラズマジェットの形状
の解析が必要と思われる.
3.板材加熱用プラズマーアークの磁場による駆動一
製鉄プロセスでは,熟プラズマを用いたステンレス鋼板の酸化
睾極意=鋸cosα仁‡脚2cD・β
ここで,
u:アークの速度(m/s)p,:プラズマ密度(kg/m3)
B。:磁束密度(T)
pg:雰囲気ガス密度(kg/m3)
三菱重工技報 Vol.33 No.3(1996−5)
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が可能であり,超微粒子製造や溶射等応用範囲が広い.
高周波熟プラズマを利用するためには,流れの状態と温度分布
を把握し原料を供給する位置及びガス供給条件を決定する必要が
ある.しかし,高周波熟70ラズマの全体的流れを実測する方法は
なく,本研究では独自の計測方法により簡易的にプラズマ流を可
視化し,流れ方向分布を求めることを試みた.また,温度分布に
ついては,干渉法を用いた温度分布計測(3)や幾つかの計算(4)はな
されているものの,簡易的な計測である分光法による有効性を確
認することにした.
100 200 300 400 500 600
0
アーク電流(A)
図5 アークの磁場駆動による速度
アーク電流による移動
速度を実験と計算とで比較した.
Electricarcmovingvelocityinmagneticfield
4.1高周波熟プラズマ中の流れの可視化と流れ方向分布
流れの可視化は図6(a)に示すように,先端に表面を酸化させ
たタングステンワイヤを巻きつけた¢1.Ommのタングステン
棒をプラズマ中に挿入し,プラズマの熟で気化した酸化タングス
テン蒸気の発光を観察することで行う.この発光をトーチの横に
設置した鏡により2平面同時に高速度ビデオで撮影することでプ
CD:流体抵抗係数(−)
J:アーク電流(A)
β:アーク直径(m)
山:磁場走査角周波数(1/s)
ラズマの流れ方向を求めた.
表1にビデオ撮影写真を示す.プラズマの位置により発光線の
さらに,アークの直径は電流の関数として表す(2).
方向が異なることが分かる.また,これらの可視化写真をもとに
3.2 アークの磁場駆動の実験結果
求めた流れ方向分布からガスの供給法により流れの方向が変わる
100mm幅のモデルプラズマトーチを使い,アーク柱を磁場で
ことが分かる.
実機のライン速度である100∼200m/min程度に対応可能な200
以上の測定結果から本方法は,超微粒子製造時の原料粒子のプ
Hz以上の走査を行うことの実証及びプラズマヘの投入電力を求
ラズマへの供給位置及びガス供給条件を決めるために有効なこと
める実験を行った.
が分かる.
図5にアーク移動速度について計算値と実験値との比較を示す.
アークの移動速度は,幅方向の3箇所でアーク光を光検出器によ
り測定し光の強度の検出時間差から算出した.
アーク電流575A,磁束密度0.1Tでアーク移動速度は約60
4.2 高周波熟プラズマ中の電子密度と温度分布
アルゴンと窒素の2種類のガスについて水素ガスをトレーサと
して体積濃度約2%混合し,発光分光法によりプラズマ内部の電
子密度と温度分布を計測した(5).
m/sであり走査周波数は300Hzとなる結果を得た.一方,最大
投入電力はアルゴンガスで約73kW,窒素ガスで56kWであり
6(b)に示す.観測した発光線は,水素分子の解離により生成さ
幅方向に広くしていくことで実用に供し得ることが分かった.
れる水素原子のパルマ一系列のHβ線(486.133nm)のスペクト
4.高周波熟プラズマの計測
分光測定により電子密度と温度分布を求めるための配置を図
ルである.
熟プラズマ中の水素原子のHβ線は,プラズマ中の電子密度揺
高周波熟プラズマは,図6に示すようにプラズマトーチ外部に
動に伴うミクロな電場の影響を受け,シュタルク拡がりを起こし
設けたコイルを流れる高周波電流により作動ガス内部に誘導電流
ている.この発光線の半値全幅以は,電子密度ノ鴨と密接に関係
が流れ,このジュー
しており,以下の関係がある(5).
ル発熱によって生成される.
直流アークプラズマに比べプラズマ中に電極がなく,さらに流
速が遅い特徴を有しているためにクリーンな高温加熱を行うこと
Ne=C(Ne,T)a)3/2
ここで,係数C(鵡,r)は電子密度j鳩と温度rの関数で
す.
Schematicarrangementofexperimentalequipmentforinductivelycoupledplasmameasurement
三菱重工技報 Vol.33 No.3(1996−5)
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表1高周波熟プラズマの可視化法
F】owvisualizationofinductivelycoupledplasma
げられる.また窒素で観測されたプラズマ中心からずれた位置で
の電子密度や温度の増加は,高周波誘導電流の表皮効果とガス流
れによる渦の発生(4)が関係していると考えられる.
86A.
︵M−∈U︶
このように高周波熟プラズマを加熱源として使う場■合にガス種
及び投入電力により利用に適した温度領域を選定するための計測
世塵巾辟
法を得ることができた.
5.あ と が き
2
熟プラズマを産業・製鉄・化学機械装置へ応用するために実施
した要素技術開発結果を次のように展開する.
0
9500
(1)大容量化
直流アークでは長尺化するに従い,プラズマ投入電力を増大
盲 9000
できるが,陽極への入熱効率の向上方法を開発していく.
世 8500
(2)各種形状への加熱対応
蛸 8000
陰極形状あるいは,アークの磁場駆動により各種形状の加熱
7500
プラズマ中心からの距離(mm)
図7 高周波熟プラズマの電子密度と温度分布 アルゴン
と窒素を用いた熟プラズマの半径方向の電子密度と温度分
布を示す.
Electrondensityandtemperaturedistributionsininduc−
tivelycoupledplasma
に対応できる可能性がある.今後,処理対象形状に適した使い
方を工夫していく.
(3)プラズマ計測法
高周波熟プラズマトーチ内部の流れ及び電子密度,温度分布
を定量化するための簡易計測法を使い原料供給位置及びガス供
給条件を決め製品開発を推進する.
ある.上式を用いることにより,アーベル変換後の水素原子の
Hβ線の半値全幅αから,プラズマの半径方向の電子密度分布を
得ることができる.プラズマが局所熱平衡状態にある場合にはプ
ラズマの状態方程式とサハの式を用いて,電子密度と温度の関係
を得ることができる.
アルゴンと窒素の電子密度分布と温度分布を園7に示す.プラ
ズマ半径は窒素の場合はアルゴンに比べて約半分であり,電子密
度分布は,アルゴンと窒素では全く異なっている.この様子は,
高周波電力の増加に伴い顕著になっている.
窒素がアルゴンに比べてプラズマ半径が小さい原因としては,
アルゴンの準安定状態の寿命が窒素のそれに比べて長いことが挙
参 考 文 献
(1)西川,本多ほか,ごみ焼却灰溶融プラズマアーク炉の開発,
三菱重工技報Vol.29No.4(1992)p.346
(2)RomanW.C.andMyersT.W.,ExperimentalInvestiga−
tion of Electric Arcin Transverse Aerodynamic and
MagneticFields,AIAAJournalVol.5No.11(1967)
p.2011
(3)SatoS.,etal.,Proc.ofthelstJapaneseSymp.onPlasm
Chemistry(1988)p,175
(4)WatanabeT.,etal.,].ChemErlg.Japan,24(1991)p.33
(5)栗田ほか,高周波誘導プラズマ中の電子密度と温度分布,日
本機械学会第72期全国大会講演論文集(ⅠⅠⅠ)(1994)p.118
三菱重工技報 Vol.33 No.3(1996−5)
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