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山本明美, 橋本喜夫, 飯塚一, RichardGabriele, HovnanianAlain
角化症研究会記録集 (2006.03) 20巻:80~84. Netherton症候群の1例 山本明美, 橋本喜夫, 飯塚一, RichardGabriele, HovnanianAlain はじめに 参 籔 Netherton症候群(NS)は魚鱗癬とbamboohairに代表され る毛髪の異常,ならびにアトピー症状を3主徴とする劣性 遺伝性疾`患で,原因はSPINK5遺伝子にコードされるセリ ンプロテアーゼインヒビターLEKTIの欠損である (Chavanaseta1.,2000)。LEKTIの基質候補として,KLK7 とKLK5(BitounctaL,2003)があげられている。KLK7と Netherton症候群の 1例 KLK5はデスモグレインなどの分解によって角層剥離に働 いていると推定されている(EkllolmetaL,2000)。KLK7は 層板頼粒に含まれる分子であることが知られているが (SondellelaL,1995),LEKTIの細胞内局在は不明であっ た。今回,著者らはNSのl症例を経験したので報告する 山本明美,橋本喜夫,飯塚一 旭川医科大学皮膚科 GabrieleRichard ジエファーソン医科大学皮膚科:米国 AlainHovnanian プルパン病院皮膚科:フランス とともに,正常表皮におけるLEKT1の細胞内局在も明ら かにした。 症例 患者は非水庖型先天性魚鱗癖様紅皮症としてすでに報 告した女性と同一である(写真1)(橋本,他1978)。出生時 から箸I)]な落屑を伴う紅皮症,落屑を認めた。3歳時には 低身長,低体重を指摘された。皮疹は年齢とともに軽減 したが,顔面と休幹は常に紅〈,四肢には鱗屑を伴う局 而がみられていた。17歳ころになって頭髪の伸びが遅い ことに気づかれた。毛髪には数本の折れ毛や結節性裂毛 がみられた。家族内に同症は認めず,両親は血族結婚で はない。末梢血好酸球増多(10.9%),IgE高値(3,8751U/ml) を認めた。 遺伝子変異の検索 患者末梢血からゲノムDNAをillll出しPCRによって SPINKs遺伝子全体を増幅した。全33エクソンを個別に増 幅し,DNA配列を解析したところ,2つの変異がみられた (図i)。まずエクソン25にhcterozygousな塩基の置換があ AcaseofNethe「tonsyndrome Ishida-YamamotoA,HashimotoY,lizukaH (DepartmentofDermatology,AsahikawaMedicalCollege) RichardG (DepartmentofDermatologyandCuianeousBiologyandthe JeffersonlnstituteofMolecularMedicine,JeffersonMedical College,USA) HovnanianA (lNSERMU563andUniversit6PaulSabatier1Departmentol Genetics,PurpanHospitaLFrance) り(2368C/T),790番目のアルギニンが停止コドンになっ ていた(R710X)(図1A左)。図1A中は正常の配列。この変 異によって制限酵素Taqlの切断部位が失われることが予 想され,図1A右でこれを確認した。患者(P)のエクソン 25をPCRによって増幅し,Taqlで消化すると,2つのバン ドが生じた。これは変異の入ったアレレに由来する未消 化の367bpの断片と,正常なアレレに由来する消化された 断片を現している(l81bpとl86bpのバンドなので1本に みえる)。正常人(Cl-C6)では完全に消化され,バンドは 1本のみにみえる。M:DNAlOObpladder(PromegaWI)。 図1B上左はもうひとつの変異である,エクソン5におけ B0-Netherton症候群の1F[ 17歳時 生後14日 籔蕊ぞ ウ LL巧 】 、届尹 '蕊翼 蕊讓,萄斗偏 詮平’『、.O '、iifl轍!(iⅧ :HⅡ ■■■■■■■ Y画:六 -T■ ■ 聲螂i 、 蕊 勺 胡刑 冒ニーヰ■ 職一 心 瀞 nhm ロー汀■牙一F会U- f鍬Jll ロ■ 霧 mLW. 回 ● △ 鰹慰撞『 -七●セーーロ ̄-  ̄」 i零” 鯵慰橇 _に ̄ 刃 、 H建艤嬬鐇 鐸 鱸 写真1-生後14日目と17歳時の臨床像 A制聯P) ヴ トロfPTNRR代RR白 CRCTnGflCFiR同 MPO1C2C3C4C5C6 FD、ロハロ’二1円 ;CRCTCGRGRRR ヲcncTc6nGnlln ;CncTc6nGnIlll ←-367bp コマ》 と-186bp 》 WWWW 州,JiiIi LMllWW’ ,iIHlMjl 厚岸. ■■■』■》輻零 CRETGnGRi1n Wildtypesequence 勺-181bp 1 1 □わ Wy377delAT ~ 1 小1 MⅢ” nnHIl〔nTIlTGn CH nCIlG に、ⅡlⅢmWl RRFIFlCRTFITGRCRRCFIGRTIJTCCRC lDTB〔n Iw1',lWWl1ll,||,,ハ'wwllIl II ,,'1,,ハ llWllli 'W11lWW 2 onつ4RR 1 b■---=● ̄ b■ ̄ ̄ ̄ ̄●~- ---へ~へT・・.…←、へ白□が凸危DTIZT仇伊ロP 4 08642m WildtvDesequence Wildtypesequence EB 1 沢lgIrJ01ヴ 1,M.ルル伽 ll, A,ilW W'''1,|WIMwiAj 凸 [ 、匙』/ 10 ,Rr011 『I ■ ̄ ■■Ⅱ□0Ⅱ■■』■■曰呵Ⅱ cn 1‐:TCC llT鬼lヘ;〔、[CIlLIlINIUL n 冊flnCllT、ハrCnCCIl R n Fか● I r宮I ロユ|[可■ □。。□、1-1.TrIPI穴FD庁DPLnEurnnlInrUnII RRR,CRT111I詞ru「DrIm エコーu-n-エと□ 『 N l lL,~,バー 02468 図1-SPlNK5遺伝子に変異がみられた。 るhctcrozygousな2塩基ペアの欠損(377dclAT)を示してお り,フレームシフトと早期、停止コドンを生じる。変異の 入ったエクソン5は野生型よりも2ヌクレオチド分短いこ とがHPLCプロファイルの2番目のピークとして確認され た(lZllB上右)。図lB下は正常対照c 免疫組織学的検討 免疫染色にはLEKTIのN-[erminalDl-D6ドメインに対す 81 A 園 -■閂や■夢 ・8 》( - 》一 電『醜 P ■し 。 111 率》針灌』凸慈些 一一 幕;顎 十畔》毛 勺写 ;霞. |亜】 '1-- 刀 『【P一手 基頑= 》上』■エ一 r…筵. 』勺 潔 u ̄P・ 展 匹団小 」 ・寸 喧 、 - NHS 公一 -- 、 一=卓阜 50亀lLlI1 患者 50 1-1m ●、 O… Ⅱ Bi  ̄ 一句一 H面 霞 ■■J 田壺■ 撃謹 、:鼎叫…』! 》 》》瀞 箔筥黒 殖 Fさ、に=可 弓電=1 今 1 1. コ雰蔀鋳織ポ忌蕊一、 議篝iiiii こl 霞一同尾 B Ti 雪||患者 儲孤噸害罵工、‐  ̄“ ̄記- 5011m 101LIm NHS 写真2-患者表皮ではLEKTIが欠損し,穎粒層直上で裂隙形成がみられる。 NHS |患者 》蕊! ■  ̄▼P ■いり ロ● 写真3-患者穎粒層細胞ではデスモゾームの非対称性の分離が 圃鶏1 みられる。 るウサギポリクローナルおよびマウスモノクローナル抗 (写真2C)。デスモグレインの免疫電顕ではデスモゾーム 体(BilounetaL2003),D8-D11ドメインに対するラビッ が非対称性に分離していることが示された(写真3)。 トポリクローナル抗体(Hovnanian,未発表),デスモグレ SPINK5ノックアウトマウスでも同様のデスモゾームの分 インIマウスモノクローナル抗体(Dsgl-P23,ProgenoHcidel‐ 離が認められている(DescalguesetalL2005)。LEKTIの表 berg,Germany)、KLK7ラビットポリクローナル抗体 皮における生理的な機能はまだ十分に解明されていない (Tanimotoetal,1999),KLK5ラビットポリクローナル抗 が,今回の観察結果から,デスモゾームの分解に関与す 体(SantaCruzBiotechnoIogy,SalltaCI・uz,Calif)を用いた。 るタンパク分解酵素の附害に働いていることが示唆され LEKTIの発現をD1-D6ドメインに対する抗体を用いた免 た。Komatsuらも実際に,NS患者角層でのトリプシン様 疫組織化学法によって調べると,正常では表皮有鰊細 活性が増加していることを報告している(KomatsuetaL 胞,願粒細胞の表層側に発現していたが,患者では欠損 2002)。 していた(写真2)。したがって,本例では両方のアレレの また免疫電顕法によってLEKTlが層板順粒内に含まれ LEKTIがほとんど発現していないと考えられる。また, ることがわかった(写真4)。層板穎粒はpost-embedding法 HE標本では,患者表皮穎粒層直上での裂隙形成がみられた では孤立性の楕円形の穎粒として(写真4A),凍結超薄切 82-Netherton症候群の1例 層 Al ijm霞「‘』」錘レー '。《 髄。 『{ 鶏 -m… ---- --句… 100Khm F1 露 懲一 贄 霧 ■ iOOI1m 週 囚ヨ ■ ⑥■ 房 徹 蕊 DB■ ■ 、薄【、 ・1節行寵 写真4-LEKTlは層板穎粒に含まれる分子で、細胞外に放出される。 N關鴛 写真Cの 大きな標 識はデスモグレイン1..はデスモゾーム 岸 ミj・豆 = -.2 iliiil篝篝iiiii篝ii1 Iぼく 名尹沖 i蕊1,111;|iii曇 鍛欝艫驫鑿 ・望 .:蕊 i謹闘 P ■■ >r鱸 醤 110401■4j0-11 ■ 騨琴 =勘■」Cj吟5 弓窟 薪DII  ̄」 ’・劇1.総 △ 瀞 (8 LE,、職KL俺(銅;雛 農ll--LE紙k耐SCC百一ILEim鯉KL怖(scrE)|:ノパ| KT K7 7( C LEKTI&KL E I課 '凸一一一 写真5LEKTlは基質とされる蛋白分解酵素(KLK7,KLK5)よりも角化細胞分化の早い段 階で発現する。 片法では連珠状の構造としてみられるが(写真4B),いず れの場合も躯粒の一部がLEKTI陽性であった。これまで 培養角化細胞からLEKTIが培養液中に分泌されることが 泌されるKLKaKLK7によるデスモゾームの分解を一定期 間11M」|こしているが,患者ではLEKTIが欠損しているため にデスモゾームは早期に分解しやすくなっている。 報告されている(BilounetaL,2003)。免疫電顕法によって LEKTIが頚粒層表層と角屑の間で,細胞間に放出されて いることが確認された(写真4c)。共焦点レーザー顕微鏡 による観察では,LEKTIはKLK7やKLK5よりも分化の早 文献 1)BitolmE,MichcloniA、LamantL,elal:LEKTlproteolyticproccssing inhumanprlmarykeraIi'IocyleSftissL】edislributionanddcにctiveeX- plCSsionillNethcrl()nsyndron1c.H"JM4oIGcノビalZ:2417-2430,2003 い段階で発現していた(写真5)。 2)ChavannSS,BodcmcrC,RochalA,Cl小MLlta[ionsinSPINK5,en- 離の機構のモデルを図2のように考えた。すなわち,正常 3)DescargucsRDcraisonCoBonnarlC,etal:Spink5-deficientmice 以上の結果から正常表皮とNS患者表皮における角層剥 ではまずLEKTIが層板願粒から分泌されて,あとから分 codingaseriu1eprolcaseinhibiIor,causeNeU】er[onsyndrome、MW)℃ GB"α化s25:141-142,200() mimicNcIherto】lsyndI・omcthroughdcg】Fadationofdesmogleinlby EF8 》|》 蕊 cpideTmalproteasehyperactivity、ノVhrGe"α37:56-65,2005 4)EkholmlE,BrausandlvLEgelrudT:SIratumcorncum【rypticcnzyme inllormalepidcr】11isIamissi11glinkin【hedcsquamationprocess?J myeslDeノアJ江I/Oノ114:56-63,2000 5)橋本喜夫,石ll1明美,松本光陣ほか:NonbullousCongenitallch‐ 鱸 thyosifbrmErythrodemlaの1例.臨床皮膚科41:207-213,1987 6)Koma【SUN,TakataM,OtsukaN,eLal:Elevaiedstmlumcomcum hydlolyIicactivityinNcthertonsyndromcsuggeslsal]inhibi[oryregulationof(lGsquamationbySPINK5-derivcdpeptides,Jlm'GFJD2J7?】qroノ 叩 118:436-443,2002 7)Sondel]B,ThomellL-E,EgelrudT:Evjdencell1atstm[umcorneum '讓i雛imiii chymotrypticenzymeis【ransporIed[otheslrammcomeumex[racclluIarspacevialamellilrbodies・ノノノ11ノBs1Der/"n1oノ104:819-823,1195 8)TanimoIoH,UnderwoodLJ,S11igemasaK,etal:ThestratumcorI1cumchymotrypticenzymcthalmedialessheddinganddesqualnHllion ofskinccllsishighlyoverexprcssedinovaliantumoTcells・CtmcB)・S6: 。NHS罰 2074-2082,1999 図2-正常表皮における角層剥離調節機構とNethelrton症候群の 発症機序のモデル D/SCUSS/○N 石橋たいへん明快なご研究で,ありがと インヒビターがあるというわけですね。そ るのですか。 うございました。思いつきなんですが,表 れが毛の場合も同じなんではないかと考え 山本はい,2005年の『NatureGelleticsjに 皮の場合には,外に垢として落ちていかな たわけです。毛ではケラチンがあって, AlainHovnanian先生のグループの論文が出 ければなりませんから,ああいう酵素が必 KAPがあるわけで,それが外れると折れて ていまして,同じようにdesmosomeの非対 要だと思います。毛の場合もやはりそうな しまう。それが折れないように,インヒビ 称性のスプリットを観察して報告されてお んでしょうか。つまりインヒビターがない ターが存在するのではないかと推測したと ります。 と毛が折れちゃうでしょうか? いう話なんですがいかがでしょう。 眞鍋どうもありがとうございました。 山本そうですね。 山本毛でのSPINK5の発現とか,LEKTI 須賀あともう一つ,大磯先生,お願いい 石橋毛もやはり角層と同じように,本来 のとか,見ていないのです。患者さんの材 たします。 はそれがないと折れちゃうようになってい 料もないですし,正常皮膚でのSPINK5と 大磯素晴らしいご発表をありがとうござ るんでしょうかね。インヒビターがあるた かそういったものもまだ検討したことがな いました。ちょっとお教えいただきたいの めに伸びて行くに過ぎない。そういうこと いので。Netherton症候群のモデルマウス ですけれども,この』患者さんのご両親はア なんでしょうかね。いかがでしょうか。 が,AlaillHovnallian先生たちが作ったもの トピー性皮IiW炎を生じていましたでしょう ちょっと思いつきなんですが。 がありますので,今後そういったものも, か。それとも正常だったか。 山本毛自体の形の異常もありますので, 共同研究する機会があれば考えてみたいと 山本私が知る限りではカルテ上にそうい 正常で起こっているアナジェン,カタジェ 思います。ありがとうございました。 う記救はなかったのですけれども,そうい ン,テロジェンのサイクルが早まっている 眞鍋角層がはがれやすくなるということ う目で患者さんの両親について詳しく皮疹 とかそういうのとはまた違った,毛の脆弱 の代償作用として角層が厚くなると考えて を調べたりしていなかったと思うので,正 性みたいなものがあるのかなと思います おられるのですか。 確なお答えは現在できません。申し訳ない が。 山本そうですね,厚くなっている部分は ですけど。 石橋最近毛ではケラチンと,いま言った あるのですけれど,本質的には,早期剥離 大磯ありがとうございました。 それをくっつけるものにKeralin-associated といいますか,Acantholysisにちょっと似 protein,KAPという蛋白が問題になってい たような変化が,表皮の頼粒鳳角層の間 ますが,表皮の場合はそれがインポルクリ のところで起きているというのが,本質だ ンとかいくつかの異なった名称で呼ばれて ろうと。 います。KAPの場合は番号がI寸いていて, 眞鍋文献的な情報で結櫛ですが, そういった蛋白を番号違いのKADとして SPINK5のノックアウトマウスでも同じよ 総括して取り扱おうという傾向にあると思 うなことが起こっているのですか。つま います。ですからそれから見ると,お話の り,先生力形態学的に出された角質の下層 ように表皮の角質層でははがれて,垢に の裂隙というのは,やはり,SPINK5の なって落ちてしまう。それを抑えるように ノックアウトマウスでも同じように見られ B4-Nethe「to、症候群の1例 座長~須賀康 順天堂大学医学部皮膚科 石橋康正 東京逓信病院名誉院長 眞鍋求 秋田大学医学部皮膚科 大磯直毅 近畿大学医学部皮商科