...

サルコイドーシスの胸部画像診断 - 日本サルコイドーシス/肉芽腫性

by user

on
Category: Documents
30

views

Report

Comments

Transcript

サルコイドーシスの胸部画像診断 - 日本サルコイドーシス/肉芽腫性
サルコイドーシスの胸部画像診断
〔総説〕
サルコイドーシスの胸部画像診断
藤本公則
【要旨】
サルコイドーシスの胸部単純X線分類は,その頻度や治癒率が知られており重要である.単純X線写真におけるリンパ
節病変の検索法として,肺門陰影,気管軸,気管分岐角の見方,肺・縦隔境界面ではとくに右気管傍線,奇静脈・食道陥凹,
肺動脈–大動脈境界,肺動脈–大動脈窓など所属リンパ節のチェック部位として熟知しておきたい項目である.肺野病変に
ついては高分解能CT(HRCT)の読影法として,Millerの二次小葉を基本としたリンパ路病変の見方が基本的な病変の広
がりを知るうえで重要である.他方,サルコイドーシスの胸部病変は,多種多様な画像所見を呈することも知っておく必
要がある.
[日サ会誌
2013; 33: 31-34]
キーワード:サルコイドーシス,胸部単純X線,高分解能CT,リンパ節腫大,肺・縦隔境界面
Thoracic Diagnostic Imaging of Sarcoidosis
Kiminori Fujimoto
Keywords: sarcoidosis, chest radiograph, high-resolution CT, lymphadenopathy, lung-mediastinal reflection
はじめに
種多様な画像所見を呈する 2, 3, 9) ことも知っておく必要が
サルコイドーシスは,多臓器における非乾酪性類上皮
細胞肉芽腫の存在を特徴とする,原因不明の全身性肉芽
腫性疾患であり ,日本では無症状,検診発見例が多く,
1)
自然治癒,不変,増悪がほぼ1/3ずつである 2).
発症は20–40歳代,50–60歳代に2峰性のピークがあり,
ある.
本稿では,サルコイドーシスの胸部病変を画像でどの
ように診断していくかという点に重きを置き概説した.
1.胸部単純X線分類と頻度,自然治癒率 4–6)
わが国では20歳代が多い.30–50%の患者は無症状である
単純X線所見では, 両側肺門リンパ節腫脹(bilateral
が,肺とその所属(肺門・縦隔)リンパ節が侵される頻
hilar lymphadenopathy: BHL)が特徴的で,縦隔リンパ
度が高く,全症例の90%以上である 3).
節腫大による肺・縦隔境界面の変化,気管分岐角の開大
サルコイドーシスの胸部画像診断に関して,胸部単純
などに注意が必要である(Figure 1)
.また,肺野所見で
は,その頻度や治癒率が知られており重要で
は,上中肺野優位の分布を示す微細粒状影やすりガラス
ある.また,単純X線写真におけるリンパ節病変の検索法
影,斑状の不透過影(Figure 2)
,気管支血管束の肥厚や
として,肺門陰影,気管軸,気管分岐角の見方,肺・縦
これに沿うような不規則陰影など,進行し線維化が起こ
隔境界面ではとくに右気管傍線,奇静脈・食道陥凹,肺
れば網状影や輪状影,肺容積の減少などもあわせて多彩
動脈–大動脈境界,肺動脈–大動脈窓などはサルコイドー
な像を呈する.
X線分類
4–6)
シスの診療のみならず,肺癌や食道癌などにおいても所
属リンパ節のチェック部位
7, 8)
として熟知しておきたい項
胸部X線所見で病期stageが区分され一般に5病期に
分けられるが,常に0期から始まり上の病期に進むとは
限らないので,病型分類と捉えた方が適当かもしれない.
目である.
肺野病変については高分解能CTの読影法として,Millerの二次小葉を基本としたリンパ路病変の見方が,サル
コイドーシスにおける基本的な病変の広がりを知るうえ
しかし,通常はⅠ期からⅣ期へと進行し,一般的に病期
は予後と相関すると考えられている.
胸部単純X線所見の病期の詳細,頻度と自然治癒率を
で重要である .他方,サルコイドーシスの胸部病変は多
Table 1に示す.
久留米大学医学部
Department of Radiology and Center for Diagnostic Imaging,
Kurume University School of Medicine
9)
放射線医学講座・画像診断センター
著者連絡先:藤本公則(ふじもと きみのり)
〒830-0011 福岡県久留米市旭町67
久留米大学医学部 放射線医学講座・画像診断センター
E-mail:[email protected]
本論文の要旨は第32回日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
総会の教育セミナー1:サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会の画
像・病理・ 呼吸機能で発表した.
日サ会誌 2013, 33(1)
31
〔総説〕
サルコイドーシスの胸部画像診断
a)
Figure 1.
b)
サルコイドーシス病期Ⅰ期(20歳代,女性)
縦隔・肺門リンパ節腫大の胸部単純X線写真(a)と造影CTの冠状断再構成像(b)における対応を示す.
右気管傍線を開大させる右気管傍リンパ節(1),右肺門リンパ節(2),奇静脈・食道陥凹境界を不明瞭化させる右気管分岐下リンパ
節(3),気管分岐角を開大させる気管分岐下リンパ節(4),左下葉支を圧排する左気管分岐下リンパ節(5),左気管傍リンパ節(6),
左肺門リンパ節(7)などの腫大がみられる(Az=奇静脈,E=食道).
Table 1. サルコイドーシスの胸部X線写真所見による病期分類
病期
胸部X線所見
0期 胸部X線写真で異常影がみられない
サルコイドーシス病期Ⅱ期(40歳代,男性)
両側肺門リンパ節腫大(△)と両中肺野を主体に微細粒
状,斑状影(▲)を認める.
自然治癒率
(%)
5–15
−
Ⅰ期
肺門・縦隔リンパ節腫脹を認めるが
肺野病変はない
45–65
50–90
Ⅱ期
肺門・縦隔リンパ節腫脹および肺野
病変を認める
30–40
30–70
Ⅲ期 肺野病変のみ認める(線維化はない) 10–15
10–20
Ⅳ期
Figure 2.
頻度
(%)
網状影,肺構築改変,蜂巣肺など進
行した肺線維化
5
0
部より上方から胸郭入口部のやや下方までみられる索
状 な い し 帯 状 の 陰 影 を 右 気 管 傍 線(right paratracheal
2.胸部単純X線写真におけるリンパ節腫大の
チェック部位 7, 8)
stripe:RPS)という.RPSの異常な拡大(5mm以上)は,
気管右傍領域の腫瘍やリンパ節腫大を示唆する.
●奇静脈・食道陥凹:奇静脈弓の下部で,右肺下葉後内
縦隔リンパ節腫大による右気管傍線の拡大,気管分岐
側が椎体前面に入り込み,奇静脈上行部や食道と近接す
角の開大や奇静脈・食道陥凹の不明瞭化,大動脈–肺動脈
ることで境界面が形成される.奇静脈・食道陥凹下部の
窓(A-P window),大動脈–肺動脈境界,前大動脈陥凹境
突出像ないし陥凹自体の不明瞭化・消失は,同領域の腫
界などの不明瞭化などがみられる(Figure 1)
.これら単
瘤性病変,下行大動脈の異常(蛇行も含め),胸膜病変の
純X線写真における肺・縦隔境界面の読影は,心大血管
左側への突出などでみられる.
陰影が重なり複雑な構造を呈する肺門・縦隔におけるリ
●大動脈–肺動脈窓:上方は大動脈弓下縁,下方は左肺動
ンパ節腫大や腫瘍性病変の発見の糸口ともなりうるため
脈上縁,前方は上行大動脈後壁,後方は下行大動脈前壁,
熟知しておくことが大切である.
内側前方は気管–左主気管支,内側後方は食道,外側は左
●肺門陰影:既存の構造物を確認しつつ,X線透過性の変
肺の内縁(縦隔胸膜)で囲まれた領域である.この領域
化,肺・縦隔境界面の偏位や消失などに注意して腫瘤影
には,縦隔脂肪,Botallo靭帯(動脈管索),リンパ節,左
やリンパ節腫脹がないか丁寧に読影する.
迷走神経からの反回神経,気管支動脈などが含まれ,同
●右気管傍線:気管の右側壁と右肺の内側が接する境界
部に腫瘤性病変,リンパ節腫大などがあると透過性の低
面で,気管気管支分岐部の奇静脈が上大静脈に流入する
下,内外縁の不明瞭化,外縁の突出がみられる.
32
日サ会誌 2013, 33(1)
サルコイドーシスの胸部画像診断
〔総説〕
●大動脈–肺動脈境界: 上行大動脈の前外側縁の縦隔面
tato like”と称されるような累々とした腫大で,一般的に
(脂肪)と肺が接する境界で,正面像では大動脈弓の上方
造影後期では淡く均一に造影されることが多い(Figure
から内側に陥凹し,やや外側に斜走する「く」の字のよ
3)
.
うな線状影ないし縁取りとして見られる.上行大動脈や
石灰化はCT上45–55%と比較的頻度は高く,石灰化の
肺動脈幹の外側縁を現していると理解され,この線状影
パターンは淡い高吸収の雲状ないし氷砂糖様ないし中心
の消失,不明瞭化は大動脈傍リンパ節や同領域の縦隔腫
性結節状が特徴的とされる.リンパ節の大きさは,初回
瘍などが示唆される.
発見時が最大であることが多く,3–6ヵ月で縮小傾向を
3.縦隔・肺門リンパ節腫大の特徴
示すことが多い.
2, 3, 9)
胸腔内異常ではもっとも頻度が高く(胸部単純X線異
常の80%,CTでは90%以上)
,中縦隔・肺門(右気管傍,
大動脈傍,気管分岐下,両側肺門)に多い(Figure 1,3)
が,前縦隔リンパ節腫大は稀である.
CTでは,腫大リンパ節は境界明瞭,辺縁平滑で,
“po-
4.高分解能CT所見と病理像の対応:リンパ路
病変の分布の見方 9, 10)
肺野病変についてはHRCTの読影法として,Millerの二
次小葉を基本としたリンパ路病変の見方が,サルコイドー
シスにおける基本的な病変の広がりを知るうえで重要で
ある.
リンパ路として重要な気管支血管周囲間質,小葉間隔
壁,胸膜といったリンパ管が豊富な結合組織に主たる病
変が存在する状態をリンパ路分布(lymphatics distribution)と称する.サルコイド肉芽腫はリンパ路に沿うよう
に配列するので,HRCTでは,気管支血管束周囲,小葉
間隔壁・肺静脈,胸膜面(葉間胸膜,臓側胸膜)に分布
する微小粒状〜小結節影が典型的な所見である(Figure
4)
.類似のHRCT画像を呈するものとして,癌性リンパ
管症や悪性リンパ腫のようなリンパ増殖性疾患があげら
れる.
HRCTでびまん性に微小結節がみられる場合,まず胸
膜に接する微細粒状影が多数存在するかに注目し,存在
が確認できれば,リンパ路分布病変か血行散布性病変が
Figure 3.
サルコイドーシス病期Ⅰ期(20歳代,女性)
造影CTでは,両側肺門リンパ節,気管分岐下リンパ節
が累々と腫大し,淡く均一に造影されている.
a)
Figure 4.
疑われる.次いで,前述のリンパ路に沿うような規則性
があるかに注目し,規則性がある程度確認できればリン
パ路病変を強く考える根拠となる.
b)
サルコイドーシス病期Ⅱ期(40歳代,男性)
左中肺野の高分解能CT像(a)では,微細粒状影がびまん性に分布し,一部は融合するように結節状を呈し,周囲の散布影を伴って
いるようにみえる(矢印).
微細粒状影の分布を模式化した図(b)に示すように微細粒状影は白点に示すように葉間胸膜,小葉間隔壁や肺静脈に沿うように,
また,黒点に示すように細気管支・血管束に沿うように,リンパ路としての規則性をもって分布している.
日サ会誌 2013, 33(1)
33
〔総説〕
5.多様な肺野病変の高分解能CT所見 2, 3, 9)
肺野病変は肉芽腫による粒状, 結節状陰影が主体で,
線維化病変が進行すると線状, 索状影, 肺構造の偏位,
構築再変など間質性肺炎像がみられる.
肺野では,数mm大の微細粒状ないし小結節状陰影が,
肺内リンパ路(気管支血管束,小葉間隔壁・肺静脈,葉
サルコイドーシスの胸部画像診断
引用文献
1)Baughman RP, Lower EE, du Bois RM. Sarcoidosis. Lancet
2003; 36:1111-8.
2)藤本公則.サルコイドーシス.村田喜代史,他編.胸部のCT,
第3版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,
2011: 514-25.
間胸膜,臓側胸膜)に沿って分布する像やそれらの不規
3)Müller NL, Silva CIS. Sarcoidosis. In: Müller NL, Silva CIS
則な結節状肥厚様陰影としてみられる.頭尾方向の分布
eds. Imaging of the Chest, volume 1. Saunders Elsevier,
はさまざまであるが,一般的には上中肺野に優位性があ
Philadelphia, 2008; 668-88.
る.1cmを超える結節影ないし腫瘤状影を呈することも
あり,また,周辺の微小散布影(sarcoid galaxy sign)も
みられることがある(Figure 4)
.
気道病変としては, 気道壁の結節状, 平滑な肥厚像,
気道内腔の拡張が起こりうる.肉芽腫は気道を狭窄,閉
塞させ,閉塞性換気障害を起こすこともあり,空気捉え
込み現象(エアートラッピング)による肺野吸収低下域
がモザイク状に介在するmosaic attenuationなどもみられ
る.
4)Scadding JG, Mitchell DN. Sarcoidosis. Chapman and Hall,
London, 1985.
5)藤本公則.肺門の正常解剖と異常像.画像診断 2004; 24: 420-41.
6)Lynch JP 3rd, Kazerooni EA, Gay SE. Pulmonary sarcoidosis.
Clin Chest Med 1997; 18: 755-85.
7)藤本公則.縦隔のX線解剖と肺・縦隔境界面の応用.臨床画像
2006; 22: 1062-79.
8)藤本公則.CT・MRIの読影に必要な局所解剖−4: 奇静脈・食
道境界.臨床画像 2009; 25: 180-2.
肉芽腫の融合によって胞隔が圧縮され肺胞内腔の空気
9)Hansell DM, Lynch DA, McAdams HP, et al. Idiopathic diffuse
がなくなり,また,マクロファージや肉芽腫の肺胞腔内
lung diseases. In: Hansell DM, Lynch DA, McAdams HP, et al.
充満も加わって,偽肺胞性(pseudoalveolar)病変を示す
eds. Imaging of Diseases of the Chest. 4th ed, Mosby Elsevier,
こともある.肉芽腫は完全寛解するか線維化を残して治
Philadelphia, 2010; 641-713.
癒する.肺の線維化は軽度から高度まで起こる.
10)Elicker BM, Webb WR. Nodular lung disease. In: Fundamentals
of High-Resolution Lung CT. Lippincott Williams & Wilkins,
Philadelphia, 2013; 37-57.
34
日サ会誌 2013, 33(1)
Fly UP