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第40 回表面分析研究会 講演資料

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第40 回表面分析研究会 講演資料
表面分析研究会
第 40 回研究会
* * * * * 講演資料 * * * * *
主催:一般社団法人
表面分析研究会
日時:2013 年 2 月 21 日(木)~22 日(金)
場所:大田区産業プラザ PIO
特別会議室
一般社団法人表面分析研究会
第 40 回表面分析研究会プログラム
2013 年 2 月 21 日(木)13:20 ~ 2 月 22 日(金)16:00
ページ
2 月 21 日(木)
13:20~ 13:30
13:30~ 15:00
開会挨拶
高橋 和裕((株)島津製作所))
一般講演
Powell 賞受賞記念講演
「FIB-TOF-SIMS によるリチウム電池正極
粒子表面の劣化物質の評価」
「Laser-SNMS による有機物分析」
大西 美和 1、松岡 修 2
野木 英信 2、坂本 哲夫 1
1
(1:工学院大学 ,2:三井化学)
石川 丈晴 1、長嶋 悟 1、柏木 隆宏 1
6
中川 潤 1、遠藤 克己 1、坂本 哲夫 2
藤井 正明 3、三澤 健太郎 3、宮崎 充
彦 3、 野田 浩之 4、蜂谷 正樹 4
(1(株)トヤマ、2 工学院大学、
3
東京工業大学、4 富士フィルム(株))
「Ar クラスター連続イオンビームを用いた
青柳里果 1, John S. Fletcher,2 Sadia
ペプチドの構造評価」
(Rabbani) Sheraz, 3 Irma Berrueta
10
Razo, 3 Alexander Henderson, 3
Nicholas P. Lockyer, 3 and John C.
Vickerman3
(1 島根大学、2 Gothenburg
University3 ,University of Manchester, )
15:00~ 15:15
― 休憩―
15:15~ 16:45
一般講演
「アルゴンクラスターイオンスパッタを
用いた Bi 一次イオン照射による
ポリマーへのダメージに関する検討」
「球面自己組織化マップ(SSOM)法による
各種判別データでのデータ要素間の
有意度の算出」
「XPS における自動ピークID に関する
RRT 報告- VAMAS/TWA2/A9 最終報告-」
18:00~ 20:00
懇親会
川島知子,森田弘洋,福本訓明
11
(パナソニック(株))
徳高 平蔵1、大北 正昭1、大木 誠 2
大藪 又茂 3、中野 正博4
15
(1㈲SOM ジャパン、2 鳥取大学工学部、3
金沢工業大学、4 純真学園大学)
鈴木峰晴 1、福島整 2、田沼繁夫 2
1
( パーク・システムズ・ジャパン
2
物材機構)
21
2 月 21 日(金)
9:30~ 11:30
一般講演
S. Tanuma1, H. Yoshikawa1
「Calculations of Mean Escape Depths of
H. Shinotsuka2, and R. Ueda2
Photoelectrons in Elemental Solids
1
National Institute for Materials
Excited by Linearly Polarized X-ray for
2
Algorithm
&
High Energy Photoelectron Spectroscopy」 Science, Advanced
32
Systems, Co. Ltd
「金属とその酸化物のオージェ・
2次電子放射特性;CuBe,Mg,Li」
「X線励起と電子線励起の Cr Auger
スペクトルの比較(その後)」
「硬Ⅹ線光電子分光による微量の
触媒活性元素の化学状態分析」
11:30~ 13:30
13:30~ 15:50
後藤 敬典(産総研)
33
福島 整(物質・材料研究機構)
42
吉川 英樹(物質・材料研究機構)
47
― 休憩(昼食)―
※研究会では準備いたしませんので、各自でお取り下さい.
ワーキンググループ討議と報告
深さ分析、TOF-SIMS、XPS
15:50~ 16:00
連絡事項・閉会挨拶
敬称略
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
FIB-TOF-SIMS によるリチウム電池正極粒子表面の劣化物質の評価
大西
1
美和 1, 松岡
修 2,野木
工学院大学工学部電気システム工学科
2
三井化学株式会社
栄信 2,坂本
哲夫 1
〒192-0015 東京都八王子市中野町 2665-1
〒299-0265 千葉県袖ヶ浦市長浦 580-32
リチウムイオン電池の高容量化や長寿命化は電気自動車の普及や次世代のクリーンエネル
ギー貯蓄システムとして大変重要である.しかし,特に長寿命化にかかわる電池の劣化機
構についてはいまだ明らかになっていないことが多い.一方,二次イオン質量分析法(SIMS)
においては,定性的には原子の電子親和力(電気陰性度)や金属元素の酸化数などの比較的基
礎的な化学的性質により,フラグメントイオンのスペクトルパターンに規則性が見られる
ことが知られている.そこで本研究では FIB-TOF-SIMS を用い,リチウムイオン電池正極材
料の表面から内部にかけての観察を行った.その結果,表面から内部にかけて二次イオン
スペクトルに変化が見られることから,酸化コバルト,あるいは四酸化三コバルトからコ
バルト酸リチウムに変化していることが示唆された.一方,その変化は断面分析における
観察から < 200 nm 程度の厚さで変化していることが示唆された.
Investigation of the surface degradation of LiCoO2 particles in cathode
materials of Li-ion battery using FIB-TOF-SIMS
M. Ohnishi1, O. Matsuoka2, H. Nogi2, and T. Sakamoto1
1
Department of Electrical Engineering, Faculty of Engineering, Kogakuin University, Tokyo, Japan
2
Mitsui Chemicals, Inc., Chiba, Japan
Abstract
Lithium-ion batteries will be more important in future generations for the use as clean
energy-storage devices. However, the degradation mechanism of the electrode has not been revealed
to date. On the other hand, when the fragment pattern of Ga+ primary ion time-of-flight secondary
ion mass spectrometry (TOF-SIMS) is observed, the fragment appearance regularity can be found. In
this study, the depth profile analyses of cathode material for the Li-ion batteries were performed by a
laboratory-made TOF-SIMS apparatus. The variation of the secondary ion spectra was observed
from surface to interior. From these results, the surface of cathode materials would be CoO and / or
Co3O4, and the inside of that would be LiCoO2. However, it could not be observed the phase
transition by the result of cross-section analyses. The information from these results indicates that
the thickness of CoO and / or Co3O4 on the cathode materials is about < 200 nm.
A-1
―1―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
2.実験手法
1.はじめに
リチウムイオン電池の高容量化や長寿命
本研究で用いた正極材は電極としてコバ
化は電気自動車の普及や次世代のクリーン
ルト酸リチウム にバインダーおよび導電助
エネルギー貯蓄システムとして大変重要で
剤としてそれぞれ PVDF とカーボンブラッ
ある.二次電池の電気特性は電極上での反
クを使用し,満充電(4.2V)後,80℃の恒温槽
応に密接にかかわっている.この反応は,
にて二日間浸して寿命試験を行ったもので
正極内あるいは表面でのリチウムの拡散,
ある.正極の充放電時に使用した電解液は
リチウムの電解質への溶出,そして負極内
エチレンカーボネイト(EC),エチルメチル
へのリチウムの挿入という,複数の段階か
カーボネイト(EMC),ジメチルカーボネイ
らなる.これまでのモデル試料での研究よ
ト(DMC)を体積比,1:1:1 で混合したものに,
り,こうした電気化学的反応が正極粒子の
電解質として,1M の LiPF6 を加えたもので
結晶面に依存しているということがいわれ
ある.この電極から粒子を削り取った後,
ている[1].しかし,特に長寿命化にかかわ
インジウム板に押し付け観察した.
る電池の劣化機構についてはいまだ明らか
分析に使用したのは JST 先端計測分析技
になっていないことが多い.電池劣化のメ
術・機器開発プログラムにより本研究室で
カニズムを明らかにすることにより,リチ
開発・改良を行っている FIB-TOF-SIMS[5]
ウムイオン電池の更なる長寿命化や,今後
である.本装置は FIB と電子ビーム(EB)の
の二次電池の材料開発において,重要な指
二つのビームを備えている.FIB を用いれ
針を与えることになる.一方,二次イオン
ば粒子の断面加工,二次電子像(SIM)による
質量分析法(SIMS)においては,定性的には
表面の観察,TOF-SIMS 分析が同一微小粒
原子の電子親和力(電気陰性度)や金属元素
子に対して可能である.EB は SEM として
の酸化数などの比較的基礎的な化学的性質
用い,断面加工中の観察や,二次電子像
により,フラグメントイオンのスペクトル
(SEM)による表面観察を行うことができる.
パターンに規則性が見られることが知られ
FIB-TOF-SIMS における元素マッピング時
ている[2, 3].またコバルト化合物の試薬の
の面分解能は 40nm,質量分解能(m/⊿m)は
分析結果より,コバルト化合物の種類に応
最高で約 3,000 である.FIB による断面加工
じて二次イオンスペクトルに違いが見られ
後の試料の断面分析では FIB のパルス幅は
ることが確認されている[4].そこで本研究
300ns,分析領域に対して 128×128 のピク
ではリチウムイオン電池の劣化評価に応用
セル,ピクセルあたり 300~400 回の積算で
するために,リチウム電池正極材料をガリ
二次イオンマッピングとスペクトル収集を
ウム集束イオンビームを一次イオンとして
行った.また深さ方向の分析としては正極
用いた飛行時間型二次イオン質量分析計
粒子の表面を FIB-TOF-SIMS による二次イ
(FIB-TOF-SIMS)による正極粒子表面から内
オンマッピングを行った後,スパッタする
部にかけての深さ分析を行い,正極材料の
ことにより表面を削り,再び二次イオンマ
表面の劣化物質の評価を試みた.
ッピングを行い表面と内部の比較を行った.
また,3m 四方のエリアをより深くスパッ
A-2
―2―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
タし,より深い内部との比較を行った.こ
ほぼ均一に存在していることが観察される.
の条件においては分析領域に対して 256×
Fig.2 は表面から正極粒子をスパッタし
256 ピクセル,ピクセルあたり 300~400 回
ていくことにより,深さ方向に分析を進め
の積算で分析を行った.
た結果である.リチウムイオンにおいては
最表面が最も二次イオン強度が高く,スパ
ッタしていくにつれ強度は減少するが,そ
3. 結果と議論
FIB で断面加工後の分析結果を Fig.1 に
の後再び強度が上がることが観察された.
示す.この結果からは,フッ素イオンは正
これはフッ素イオンの分布においても最表
極内部には存在しておらずごく表面からし
面がもっとも強度が高いことから,フッ化
か検出されないことが観察される.このこ
リチウムの影響を受けていることが考えら
とから,バインダー,および電解質由来の
れる.スパッタしていくうちにリチウムイ
フッ素は正極内部まで侵入してはいないこ
オン強度が減少していくのはフッ化リチウ
とがわかる.一方,リチウムイオン,コバ
ムの影響が減っていることが示唆される.
ルトイオン,コバルト酸化物イオンについ
一方,ある程度の内部に到達するとリチウ
ては,粒子の際表面ではエッジの効果と明
ムイオンの強度が再び上がることにより,
確には区別がつかない.また,断面内では
表面近傍より内部にはリチウムが多く存在
していることがわかる.
一方,表面からスパッタしていくにつれ
て,コバルトイオンの強度に対して相対的
にコバルト酸化物イオンの強度が高くなっ
ていくことが観察された.このことより,
表面から内部にかけてコバルト酸化物イオ
ンが検出されにくい物質から検出されやす
い物質に変化していることがわかる.コバ
ル ト 酸 リ チ ウ ム (LiCoO2) , 酸 化 コ バ ル ト
(CoO),四酸化三コバルト(Co3O4)の三種類
の試薬の分析結果より,酸化コバルトにお
いてはコバルトイオン,コバルト酸リチウ
ムにおいてはコバルト酸化物イオンが多く
検出され,四酸化三コバルトではコバルト
イオン,コバルト酸化物イオン両方が検出
されるがより多くのコバルトイオンが検出
されることが判っている[4].これらの結果
Fig. 1 FIB-induced secondary electron image
(SIM), and secondary ion maps of the
cross-section analysis. The rectangle indicates
mapping area.
より,正極粒子表面から内部にかけて,酸
化コバルトあるいは四酸化三コバルトから,
コバルト酸リチウムに変化している可能性
A-3
―3―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Fig. 2 Secondary ion maps of the cathode material. The rectangle indicates sputtering area. The
numbers on the bottom-right corner of each image are the max counts of secondary ion intensity.
が示唆される.断面分析結果からも内部に
とが示唆された.一方,その変化は断面分
コバルトイオンが少なく、コバルト酸化物
析における観察から< 200 nm 程度の厚さで
イオンが多く検出されること,そして内部
変化していることが示唆される.
から均一にリチウムが検出されることから
正極粒子内部にはコバルト酸リチウムが存
謝辞:本研究は JST 先端計測分析技術・機
在していることが示唆される(Fig.1).
器開発プログラムにより遂行しており,謝
これらの物質の変化は断面加工におい
意を表する.
ては明確には観察されなかった.このこと
から おそらくこ の物質の変 化の厚みは <
[1] M. Hirayama, N. Sonoyama, T. Abe, M.
200 nm 程度であることが示唆される.
Minoura, M. Ito, D. Mori, A. Yamada, R.
Kanno, T.Terashima, M. Takano, K. Tamura
4. まとめ
and J. Mizuki: J. Power Sources, 168 (2007)
寿命試験後のリチウムイオン電池,正極
493.
粒子の表面から内部に向けて深さ方向分析
[2] Z. Li, T. Hoshi and K. Hirokawa: Hyoumen
を行った.表面から内部にかけて二次イオ
Kagaku, 21 (2000) 651.
ンスペクトルに変化が見られることから,
[3] R. Van Ham, A. Adriaens, L. Van Vaeck, R.
酸化コバルト,あるいは四酸化三コバルト
Gijbels and F. Adams: Nucl. Instrum. Methods
からコバルト酸リチウムに変化しているこ
Phys. Res. B, 161-163 (2000) 245.
A-4
―4―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
[4] 大西、松岡、野木、坂本,
真空に関す
る連合講演会(2012 in review)
[5] T. Sakamoto, M. Koizumi, J. Kawasaki, and
J. Yamaguchi, Appl. Surf. Sci. 255 (2008) 1617.
A-5
―5―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Laser-SNMS による有機物分析
坂本
石川 丈晴 1), 長嶋 悟 1), 柏木 隆宏 1), 中川 潤 1), 遠藤 克己 1),
哲夫 2), 藤井 正明 3), 三澤 健太郎 3), 宮崎 充彦 3), 野田 浩之 4), 蜂谷
1)
株式会社トヤマ, 〒252-0003 神奈川県座間市ひばりが丘 4-13-16
2)
工学院大学, 〒192-0015 東京都八王子市中野町 2665-1
3)
東京工業大学, 〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 R1-15
4)
富士フィルム株式会社 〒250-0193 神奈川県南足柄中沼 210
正樹 4)
JST 先端計測機器開発事業の下、
(株)トヤマをリーダーとして開発した FIB-TOF-SIMS には高繰り返
しレーザーが搭載され Laser-SNMS 分析を行うことができる。この Laser-SNMS 分析の有用性を確かめ
るために数種類の有機物のマススペクトルの取得、定量性の検証を行った。多環芳香族化合物の SNMS
は分子イオンピークを明瞭に観測することができた。官能基をもつ有機物はその官能基に依存したフラ
グメントがマススペクトルで観測された。また、ポリマーでは、複雑なフラグメントシグナルを与える
SIMS と比べ、モノマーや特徴的な部位のフラグメントシグナルが観測された。定量性を確認するため
に混合比率を変えたポリマーアロイの分析では比率に対応したシグナル強度変化を確認した。
Organic Compounds Analysis by Laser-SNMS
Takeharu Ishikawa1), Satoru Nagashima1), Takahiro Kashiwagi1), Jun Nakagawa1), Katsumi Endo1),
Tetsuo Sakamoto2), Masaaki Fujii3), Kentaro Misawa, Mitsuhiko Miyazaki,
Noda hiroyuki4), Hachiya Masaki4)
1)
TOYAMA CO., Ltd 4-13-16 Hibarigaoka, zama-shi, Kanagawa 252-0003 Japan
2)
Kogakuin University 2665-1 Nakano-machi, Hachioji-shi, Tokyo 192-0015 Japan
3)
Tokyo Institute of technology
4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226-8503 Japan
4)
FUJIFILM Corporation 210 Nakanuma Minamiashigara-shi, Kanagawa 250-0193 Japan
The FIB-TOF-SIMS, that has been developed by TOYAMA under the grant aid of Japan Science and
Technology Agency (JST), is equipped with a high repetition rate solid-state laser. This instrument can measure
mass spectra of laser-ionized sputtered neutral particles. In order to confirm the ability of the Laser-SNMS
instrument, we measured Laser-SNMS signals of several kinds of organic compounds and polymers. In
comparison with the SIMS, SNMS spectra of poly aromatic compounds clearly showed parent molecular ions
with high sensitivity. Organic compounds with functional groups often showed fragment signals of characteristic
functions. In addition, for the organic polymers, there occurred monomer peaks in SNMS, where as the SIMS
hardly measures monomer peaks without decomposition. Result of good quantitative measurement was obtained
for blended polymers with different mixing ratios,
A-6
―6―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
1. はじめに
込み部に阻止電界をかけることで試料表面へと
二次イオン質量分析(SIMS)は試料微小表面の
押し返した。次いで TOF 引き込み部を負電圧に切
成分分析を行う手法として広く利用されている。
り替え、レーザーを照射して中性分子をイオン化
しかし、有機物に対しては二次イオンの発生率の
し、質量分析器に引き込んだ。この操作によりマ
低さ、フラグメント信号によるスペクトルの難解
ススペクトルは SNMS シグナルのみを観測する
さ、マトリックス効果、定量性の低さなどいくつ
ことができる。
かの問題が挙げられている。それを解決する方法
として、スパッタされた際に多く発生する中性粒
3. 分析
子(99%)を外部刺激によってイオン化し質量分
- 有機物マススペクトル取得
析するスパッタ中性分子質量分析(SNMS)が開
Fig.2 に今回測定した有機物を示す。サンプルは
1~4)
。外部刺激には光、電場、電子
Si ウェハ上に溶液を塗布し、スピンコートによっ
衝突などがあるが、その中でもレーザーを使って
て 成 膜 し た。 図 中 の 内枠 で 囲 っ てい る も の は
イ オ ン 化 す る も の が Laser-SNMS で あ る 。
Laser-SNMS 分析によりマススペクトルが得られ
Laser-SNMS 分析はかつて無機物に対して微小領
たものである。Fig.3 に同じサンプルで測定した正
域の定量性や深さ方向分析など興味深い成果が
イオン SIMS と Laser-SNMS のスペクトルを示す。
得られているが、有機物に関しては報告例が少な
Fig.3a にはピレンのマススペクトルを示した。
い。
SIMS では分子イオンピークはほとんど得られず、
発されてきた
これまでに JST 先端計測機器開発事業の下、東
フラグメントピーク(m/z = 169)が見られた。そ
京工業大学の藤井正明教授を中心として、単一微
の質量からはどのような分子構造によるフラグ
粒子履歴解析装置として集束イオンビーム-飛行
時間型質量分析装置(FIB-TOF-SIMS)の開発が行
われてきた。5-8) 現在、我々はこの装置の実証実
用化プログラムに移行し、市販化を目指し開発を
進めている。この装置には高繰り返しのレーザー
が搭載され、Laser-SNMS 分析を行えるようにな
っ て い る 。今 回 、 数 十種 類 の 有 機物 に 対 し て
Laser-SNMS 分析を行い、マススペクトル、定量
分析の検証を行ったのでその結果を報告する。
2. 装置構成
Fig. 1 Schematic diagram of optical system
C60
多環芳香族
開発された FIB-TOF-SIMS に搭載された光学系
O
O
NO2
CO2H
の配置を Fig. 1 に示す。島津製作所で開発した高
官能基を持つ
多環芳香族
RO
NO2
O
HO
N
NH2
繰り返しレーザー(波長 266nm, 繰り返し周波数
N
NH2
O
O
OH
O
O
O
O
OR
O
O
OR
RO
O
1kHz, 出力 40~80 μJ/pulse)から二枚のミラーに
よって光軸調整を行い、分析室手前に置いたレン
OH
機能性分子
HO
N
N
Cu
N
N
N
N
H
O
OH
NH2
OH
O Si O
Si
Si
O Si O
N
N
高分子
OR
N
N
N
ズにて集光させ、サンプル直上 100μm ほどで焦点
を合わせている。試料台は揮発性の有機物を扱う
OR
NO2
n
n
OH
n
n
n
O
OCH3
O
H
N
N
n
SO3H
HO
n
O
O
O
O
O
n
HO O
OH
Si O
Si
O H
n
n
m
R
ので-100℃程度で冷却している。一次イオン(FIB)
パルスを照射後発生した二次イオンは TOF 引き
S
R
R
n
S
n
O
n
O
O
n
Fig. 2 Organic compounds measured by SNMS
A-7
―7―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
メントかはよくわからない。一方、SNMS では分
なく、容易な成分同定を実現できる。
子イオンピーク(m/z = 202)がメインピークとし
て観測された。さまざまな有機物を SNMS により
- 定量分析
マススペクトルを取得するとピレンのように分
Laser-SNMS 分析による微小領域の定量性の検証
子イオンピークが観測されるもの、また特異的な
として、PS と PHS の混合比率を変えたポリマー
フラグメントシグナルが観測されるものがある
アロイを作成し、比率と成分シグナルカウント数
ことが分かった。一例として Fig3b にはフルオレ
をプロットした検量線を作成した。同様の測定を
ノン(m/z = 180)のマススペクトルを示した。
SIMS でも行った。Fig.4 と 5 には作成した PS/PHS
SNMS スペクトルでは酸素が外れたフルオレン
のモノマーの混合比率に対する SIMS と SNMS シ
(m/z = 166)が観測されている。官能基をもつ有
グナルカウントの検量線を示した。SIMS では PS
機物のマススペクトルを調べるとアミノ基、カル
は m/z = 91、PHS は m/z = 107 で、SNMS では PS
ボキシル基、ヒドロキシル基、エーテル基はそれ
は m/z = 104、PHS は m/z = 120 のシグナルで検量
ら官能基をもったままの分子イオンシグナルが
線を作成した。SIMS ではさまざまな成分由来の
観測され、カルボニル基、ニトロ基、ジアゾ基、
シグナルが混合するため、正確な検量線を示さな
スルホニル基では官能基が外れたフラグメント
いが、SNMS の検量線は PS/PHS の混合比率と良
シグナルが観測されていた。このことは、有機物
い比例関係を示した。同様に PS/ポリメチルメタ
の持つ官能基に対して特異的にフラグメント化
(a) Sample; pyrene
正イオンSIMS
169 ?
する傾向があることを示唆している。
顕著に SIMS と SNMS の違いが見られたのはポ
Laser-SNMS
202
リマーの分析であった。Fig3c にポリスチレン
(PS)のマススペクトルを示す。SIMS では多く
の複雑なフラグメントシグナルを与える。SNMS
(b) Sample; fluorenone
分析ではそのポリマーのモノマーに相当するシ
正イオンSIMS
OH
69
100
119
169
181
ンプルなスペクトルを与えた。PS 以外にも、ポリ
ヒドロキシスチレン(PHS)、ポリアニリンはモノ
37 50
63
Laser-SNMS
74
152
87
マーのシグナルを、ポリカルバゾールはカルバゾ
166
178
ールのシグナル、ポリシリコンオキサイドはジメ
チルシリコンのシグナルを与えている。ポリマー
(c) Sample; polystyrene
91
の SNMS はポリマーの同定に有用な繰り返し構
正イオンSIMS
115
103
造に特有のシグナルを与えている。
Laser-SNMS
104
二種類の有機物を混合した製膜試料を作成し、
78
91
その成分分析も行った。Fig. 3d に PS/アミノピレ
ンの SIMS と SNMS のマススペクトルを示す。
(d) Sample; 2-aminopyrene, polystyrene
正イオンSIMS
131
SIMS からは PS、アミノピレン、その他の妨害シ
169
221
グナルの重複により成分を同定する有益なシグ
Laser-SNMS
ナルは得られていない。SNMS では PS のモノマ
104
202
217
NH2
ー(m/z = 104)とアミノピレン(m/z = 217, 202)
がシンプルなスペクトルとして得られた。混合物
Fig.3 SIMS and SNMS spectra of measured
においても物質特有に現れるシグナルは変化が
compounds
A-8
―8―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
クリネート(PMMA)のポリマーアロイにおいて
Ref.) [1] 江端
も検量線を作成した。得られた PS モノマーシグ
身深
ナルは混合比率と比例関係となった。SNMS によ
科学会誌, 295, 4, 19, (2010)
って得られたシグナルはポリマー成分特有のシ
[2] 東
康弘, J. Vac. Soc. Jpn., 9, 44, (2001).
グナルであり、良い定量性を示している。
[3] 林
俊一, 橋口
坪
亮, 内野
新吾, 石原
盛男, 公文代
喜一郎, 圦本
康介,
尚義, 日本惑星
栄弘, Bruce J. McIntosh, 大
孝至, 鉄と鋼, 1980, (1991)
[4] 加藤
[5] 藤井
茂樹, 表面科学, 214, 17, (1996).
正明, 坂本
哲夫, 光学, 40(5), 232,
(2011)
[6] T. Sakamoto, J. Kawasaki, M. Koizumi, Appl.
Surf. Sci., 255, 1580, (2008).
[7] T. Sakamoto, M. Koizumi, J. Kawasaki, J,
Yamaguchi, Appl. Surf. Sci., 255, 1617, (2008).
Fig. 4 Analytical curve of PS/PHS by positive-SIMS
[8] T. Sakamoto, J. Yamaguchi, Appl. Surf. Sci., 255,
1621, (2008).
Fig.5 Analytical curve of PS/PHS by Laser-SNMS
4. まとめ
Laser-SNMS での有機物分析についてマススペ
クトル、定量分析の結果を示した。これらの結果
は SIMS の短所を補う Laser-SNMS 分析の有用性
を示している。
謝辞
本研究は JST 機器開発事業実証実用化プログラ
ムの下実施したものです。同プログラムの参画機
関として新日鐵住金(株)林俊一博士にご協力頂
きました。高繰り返しレーザーの開発には島津製
作所の井戸豊氏、東條公資氏、齊川次郎氏にご協
力頂きました。
この場を借りて感謝致します。
A-9
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Ar クラスター連続イオンビームを用いたペプチドの構造評価
青柳里果 Satoka Aoyagi,1,* John S. Fletcher,2 Sadia (Rabbani) Sheraz, 3 Irma Berrueta Razo, 3
Alexander Henderson, 3 Nicholas P. Lockyer, 3 and John C. Vickerman3
1
2
島根大学生物資源科学部地域環境科学科
Department of Chemistry and Molecular Biology, Gothenburg University
3
Manchester Institute of Biotechnology, University of Manchester, UK
*[email protected]
ペプチドの構造分析は、バイオデバイス、医薬品およぼ診断技術の開発にとって重要で
ある。ペプチドの分析方法としては、質量分析やクロマトグラフィーなどが用いられるこ
とが多いが、これらの手法では、ごく微量なペプチドの分析は難しい。一方、飛行時間型
二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)は、極めて高感度な測定が可能であるため、希少なペ
プチドでも分析可能であるが、従来の TOF-SIMS では、分子イオンが検出できるのが 1000
Da 程度までであり、フラグメントイオンとして検出される二次イオンは、ほとんどが単一
のアミノ酸に由来する 200 Da 以下の小さなフラグメントである。しかし、未知のペプチド
の構造を決定するためには、隣り合う複数のアミノ酸から発生する 300 Da 程度以上の大き
なフラグメントイオンの検出が必要であるため、従来の金属クラスターを用いる
TOF-SIMS では困難であった。大きなフラグメントイオンの発生には、Ar ガスクラスター
[1] [2]などの巨大クラスターイオンが有利であると考えられている。そこで、本研究では、
Ar クラスターを一次イオン源として用いて、ペプチドの構造分析への有効性を検討した。
モデル試料としては、構造および分子量の近いペプチドを 2 組選択した。一組は分子量
400 前後の(des-Tyr)-Leu-enkephalin と (des-Tyr)-Met-enkephalin であり、もう一組は分子量
1100 前後の angiotensin II と [Val5]-angiotensin I である。それぞれのペプチド水溶液を ITO
ガラスもしくは Si 基板に滴下して凍結乾燥した各試料を Ar クラスター連続ビーム[3]を一
次イオン源とした TOF-SIMS J105 (Ionoptika Ltd., Southampton, U.K.)を用いて測定し、正二
次イオンスペクトルを得た。
結果として、Bi3+を一次イオン源とした場合では検出できなかった 200 から 1000 Da 程度
の大きなフラグメントイオンの検出が可能となった。これらのフラグメントイオンの多く
は、一般的な MSMS でペプチドやタンパク質から検出される一連のおもなフラグメントと
一致した。MSMS では、ペプチド結合などペプチドの主鎖の結合が一カ所切断されること
によって生じるフラグメントイオンがおもに検出される。このペプチド主鎖の結合切断に
よって生じる一連のフラグメントイオンから、未知のペプチドの構造を決定することもで
きる。また、側鎖の結合切断をともなって発生する TOF-SIMS 特有のフラグメントイオン
も検出された。これらの一連のフラグメントイオンを解析することで、ペプチドの構造解
析が可能になると考えられる。
このように、Ar クラスターを用いることによって、試料の前処理、マトリックスの添加、
および二段階の質量分析などを必要とせずに、ペプチドが構造解析できる可能性が示され
た。
References
[1] H. Gnaser, K. Ichiki, J. Matsuo, Rapid Comm. Mass Spectrom., 26 (2012) 1.
[2] K. Mochiji, M. Hashinokuchi, K. Moritani, N. Toyoda, Rapid Comm. Mass Spectrom., 23
(2009) 648.
[3] S. Rabbani, A.M. Barber, J.S. Fletcher, N.P. Lockyer, J.C. Vickerman, Anal. Chem., 83 (2011)
3793.
A-10
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
アルゴンクラスターイオンスパッタを用いた
Bi 一次イオン照射によるポリマーへのダメージに関する検討
川島知子*1,森田弘洋*1,福本訓明*1
*1 パナソニック株式会社 R&D 本部,大阪府守口市八雲中町 3 丁目 1 番 1 号
Examination of Bi primary ion beam damage
on polymer surface with Ar cluster ion sputtering
Tomoko Kawashima,Hiromi Morita,Noriaki Fukumoto
Panasonic Corporation
3-1-1 Yagumo-naka-machi,Moriguchi City,Osaka 570-8501,Japan
1.はじめに
TOF-SIMS(Time of flight secondary ion mass
spectrometry)は半導体に代表される無機デバイ
スのみならず,有機 EL や有機太陽電池などの有
機デバイスから,生体・医薬関連などバイオマテ
リアルまで,広く適用範囲が広がっている注目の
分析手法である.
各種デバイスの形成プロセスの中で,材料また
はプロセスからの汚染の抑制は必要不可欠であ
り,そのためには汚染の混入要因を明確化し対策
を行うことは重要である.TOF-SIMS は微量、微
小な汚染材料を分析するのに,非常に有効な分析
手法であり多く利用されている.
しかし,TOF-SIMS 分析では,一次イオン照射
により分析対象物がダメージを受けるため,特に
有機物などのダメージを受けやすい材料の分析
時には一次イオンのダメージを考慮する必要が
ある.一般的に,一次イオンの照射限界は 1×
.
1012ions/cm2 程度以下である(スタティック限界)
一方、最近ではアルゴンクラスターイオンを用
いて、有機物を低損傷で加工する技術が確立され,
有機物の深さ方向分析などを可能としている。
本研究では,有機物を低損傷でスパッタ可能な
アルゴンクスターイオンを用いて,ポリマー(ポ
リスチレン)への Bi 一次イオン照射によるダメ
ージについて検討を行った.また最後に,本検討
を応用したアプリケーション事例についても述
べる.
2.実験
実験は,スピンコートでシリコンウエハー上に
形成したポリスチレン膜を使用し,ION-TOF 社
製 TOF.SIMS5 で分析を行った.ポリスチレンに
は Shodex 製の S-1.2,S-1.7,S-13,S-53,S-809
を用いた.
TOF-SIMS 分析の一次イオンには,
30k
++
Vで加速した Bi3 を,スパッタイオンには,事前
にポリスチレンが低損傷にスパッタ可能である
ことを確認した 5kVで加速した Ar2500+を用いた.
スパッタの電流は 1nA,範囲は 320×320μm2 と
した.スパッタ箇所の深さ測定に用いた段差計は,
Tencor 社製 P-10 を使用した.
3.結果
Fig.1(a)に,TOF-SIMS で分析した,ポリス
チ レ ン (S-1.2) の マ ス ス ペ ク ト ル を 示 す .
800-1500m/z 付近にポリスチレンの分子イオン
が検出され,また C7H7+,C8H9+,C9H7+,C9H9+,
C10H8+,C13H9+,C14H10+,C15H13+などにポリス
チレン構造由来と考えられる〔1〕
〔2〕フラグメ
ントイオンが検出されている.一方 Fig.1(b)に
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
は,一次イオンをスタティック限界以上である 4
×1014ions/cm2 照射後のポリスチレンのマススペ
クトルを示す.ポリスチレンの分子イオン,およ
びポリスチレン構造由来と考えられるフラグメ
ントイオンの二次イオン強度は著しく減少し C+
などが主なピークとなっていることが分かる.こ
れは一般的に一次イオン照射によるポリスチレ
ン構造へのダメージのためと考えられている.
〔3〕
2×102
6×105
Intensity 〔counts〕
C7H7
(a)
C9H9
C8H9
C15H13
C14H10
C10H8 C H
13 9
0
800
200
100
2×102
5×103
(b)
C
Intensity 〔counts〕
1500
m/z
0
200 800
100
1500
m/z
Fig.1 ポリスチレン(S-1.2)のマススペクトル
100000
A
Intensity 〔counts〕
(a)
(b)
10000
C8H9+
C9H7+
C9H9+
C10H8+
C13H9+
C14H10+
C15H13+
1000
100
0
5E+12
1E+13 0
一次イオン照射量 〔ions/cm2〕
100
200
300
400
500
600
700
スパッタ時間 〔sec.〕
Fig.2 (a)一次イオン照射時のポリスチレン由来の
二次イオン強度の変化,
(b)アルゴンクラスターイ
オンでスパッタ時の二次イオン強度の変化
この一次イオン照射によるポリスチレンへの
ダメージについて,アルゴンクラスターイオンス
パッタを用いて,ダメージ層の厚みやスパッタ速
度への影響について検討を行った.
検討方法としては,一次イオンを照射してポリ
スチレン表面にダメージを与えた後,アルゴンク
ラスターイオンスパッタでダメージ層を除去し,
その厚みを確認することで行った.
〔4〕
Fig.2 に一次イオンを 1×1013ions/cm2 まで照
射した時のポリスチレン由来の二次イオン強度
の変化(Fig.2(a)
)と,その後同箇所をアルゴン
クラスターイオンでスパッタを行った場合の二
次イオン強度の変化(Fig.2(b)
)を示す.ポリス
チレンには S1.7 を用いた.Fig.2 より,一次イオ
ン照射のダメージにより減少していたポリスチ
レン構造由来の二次イオン強度が,アルゴンクラ
スターイオンスパッタでダメージ層を除去する
ことにより,増加し安定することが分かる.二次
イオン強度が安定する Fig.2(b)のAでスパッタ
を止めて,スパッタ深さを段差計で測定すること
で一次イオン照射によるダメージ層の厚みを確
認することが可能と考えた.
Fig.3 は,ポリスチレン(S-1.7)の 50×50μm2
の範囲に 5×1012ions/cm2 一次イオンを照射した
後,同箇所を含む範囲をアルゴンクラスターイオ
ンでスパッタし,Fig.2 の A に相当する時間でス
パッタを止めた場合の,スパッタ部の写真と段差
計の測定結果である.Fig.3 において, B は一次
イオン照射部,Cは照射していない箇所のスパッ
タ深さを示している.B におけるスパッタ深さが
一次イオン照射によるダメージ層の厚みを現し
ていると考えられ,本検討の条件では,約 60nm
程度であることが分かった.
更に,スパッタ箇所が凸形状であることから,
一次イオン照射部では,照射していない箇所と比
較してスパッタされにくい傾向であることが分
かった.一次イオンの照射有無でのスパッタ速度
の比率は1:2.7程度であった.
次に分子量の異なるポリスチレンについて同
様の検討を行った.Fig.4 にポリスチレンの分子
量に対する,一次イオン照射有無でのアルゴンク
ラスターイオンスパッタにおけるスパッタ速度
を示す.一次イオンの照射量は 5×1012ions/cm2
とした.
何れの分子量においても,一次イオン照射によ
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
4.アプリケーション事例
一次イオン照射によるダメージ層の厚みやア
ルゴンクラスターイオンスパッタ時のダメージ
層のスパッタ速度についての検討結果を応用し,
微小なポリスチレン粒子の分析を行った事例を
紹介する.
TOF-SIMS分析では、スタティック限界
により,微小な有機パーティクルなどの分析では
十分な二次イオンシグナルが得られる前に試料
にダメージが入ってしまい,分析が困難な場合が
あった.
本研究で得られたダメージ厚みやスパッタ速
度の結果を利用して,アルゴンクラスターイオン
スパッタによりダメージ層を除去し,二次イオン
シグナルを加算することで,より小さいサイズの
有機パーティクルの分析が可能となると考えた.
Fig.5 に概念図(イメージ)を示す.
りスパッタ速度が遅くなる傾向が確認された.ス
パッタ速度への分子量の影響としては,分子量が
小さくなるほどスパッタ速度が速くなる傾向が
見られたが,一次イオン照射有ではその傾向が小
さかった.
段差測定
nm
50
0
-50
イ
オ
ン
照
射
-100
C
-200
0
100
200
一
次
-150
B C
300
400
500
600
μm
Fig.3 一次イオン照射部を中心としてアルゴンクラスタ
+
+
ダ メ
ーシ
二次イオン
一次イオン照射による
有機物表面のダメージ層
゙層
除
去
有機物粒子
試料
有機物粒子
ーイオンでスパッタしたスパッタ箇所の写真と段差計の
測定結果
繰り返して,二次イオンシグナルを加算
3
各層で検出された
二次イオンシグナルを加算
スパッタ速度 〔nm/sec.〕
一次イオン照射有
一次イオン照射無
Fig.5 アルゴンクラスターイオンスパッタを利用した
2
微小パーティクル分析の概念図
1
0
1000
10000
100000
1000000
分子量(Mp) 〔u〕
Fig.4 分子量が異なるポリスチレンにおける一次イオン
照射有無でのアルゴンクラスターイオンのスパッタ速度
一次イオン照射によるスパッタ速度の変化要
因については,一次イオン照射時のエネルギーに
より,ポリスチレンの構造が変化したためと考え
られる.構造変化の可能性としては,架橋などが
挙げられる.
〔5〕
本検討では,1μmφのポリスチレン粒子を用い
てその有効性を確認した.一次イオン照射による
ダメージ厚みである 60nm 程度以上をアルゴンク
ラスターイオンスパッタで除去して,各層で得ら
れた二次イオン強度を積算した.その結果,表面
分析だけでは十分な二次イオン強度が得られな
かったポリスチレン構造由来の二次イオンシグ
ナルの積算が可能であり,微小な有機パーティク
ル分析にアルゴンクラスターイオンスパッタが
有効であることを確認できた.
5.まとめ
アルゴンクラスターイオンスパッタを用いて
一次イオンのダメージを除去することで,ポリス
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
チレンへの Bi 一次イオン照射によるダメージ層
の厚みやスパッタ速度の変化について検討を行
うことができた.また,アプリケーション事例と
して,より微小な有機パーティクル分析に有効で
あることを確認した.今後,他の有機材料の検討
や,一次イオン照射による有機物へのダメージ形
成のメカニズム検討を行うことで,更に活用範囲
が広がるものと考えられる.
5.参考文献
〔1〕Static SIMS Handbook of Polymer
Analysis , ed. by T.Hohlt et.al. ,pp26-27 ,
Perkin-Elmer Corporation (1991)
〔2〕D. Briggs, in TOF-SIMS:Surface
Analysis by Mass Spectrometry, ed. by J.C.
Vickerman and D. Briggs, pp 449-451, IM
Publications and SurfaceSpectra Limited
(2001)
〔3〕G. Gillen, S. Roberson, Rapid Commun.
Mass Spectrom. 12, 1303 (1998)
〔4〕. Matsuo, K. Ichiki, Y. Yamamoto, T. Seki,
T. Aoki, Surf. Interface Anal. 44, 729 (2012)
〔5〕C. M. Mahoney, Mass Spectrom. Rev. 29,
247 (2010)
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
球面自己組織化マップ(SSOM)法による各種判別データでの
データ要素間の有意度の算出
徳高 平蔵1,大北 正昭1,大木 誠 2,大藪 又茂 3,中野 正博4
1)㈲SOM ジャパン,2)鳥取大学工学部,3)金沢工業大学,4)純真学園大学
1. はじめに
球面自己組織化マップ(SSOM)法[1-3]で各種ベ
ンチマークデータ[4]を判別した.アヤメデータ
[4],乳ガン[4],糖尿病[5],肝臓病[6],疲労感
のアンケート結果[7]を判別した.なお,乳ガン
[4],糖尿病[5],肝臓病[6],疲労感[7]に関して
は紙面の都合で記載を省く.そしてデータを構
成する要素データの判別結果への有意度を計算
した.まず,アヤメデータで有意度算出のアル
ゴリズムを述べる.その前に,SOM 法での有意
度計算の概略を述べる.表 1 に疲労感とそれに
関する他の要素との関係を図示する.
表 1 疲労感有り無し,とその要素間の関係を
示す.A 群は疲労感有り,B 群は疲労感無し
3.降順に並べた scod ファイルで表 3(a)のよう
に種別 B 列で最小値 Vmin_1,0.980877,最大
値 Vmax_1,0.01901 を探す.そしてこの最小
値 Vmin_1 以上で各要素列をも含めて平均値
Min-ave_1,…Min-ave_5,を最大値 Vmax_1
以下で各要素列をも含めて平均値
Max-ave_1…Max-ave_5 を求める(表 3(b),表
4(b)の黄色行)
4.計算した 2 行の平均値をコピーし,100 倍
する.Min-ave_i×100(i=1,2,…5),
Max-ave_i×100(i=1,2,…5),
(表 5(a),(b),図
4)
5.100 倍した 2 行の差を取り有意度 Sig-value_i
は(Sig-value_i=100×(Min-ave_i- Max-ave_i)
(i=1,2,…5)とする(表 6(c),図 5)
表 2 アヤメの元データ.ここに種別を追加
SOM で学習した場合,その順列で A 群か B 群
かを判断する.しかしそれは煩わしい.そこで
差をとることで,一目で A 群か B 群かを判断す
ることにした.それが A-B である.この方法に
より,負に出る要素が疲労感無しに相当するこ
とが分かる.以下にこの方法をアヤメのベンチ
マークデータに応用した.
2.
有意度算出のアルゴリズム
表 2 にアヤメデータの種別,1 (setosa),2
(versicolor) を加えた元データ(1,2 各 50 株)
の一部,図 1-2 に学習結果を示す.
まずアルゴリズムをまとめる.
1.SSOM 学習後保存した scod ファイル(コー
ドブック)を開き,種別で降順に並べる(表
3 以下)
2.図 2(a)に示すように学習し色付けされた球
(第 1 要素)
面上で,判別 2 データの種別要素
の最小値 Vmin_1(この例では 0.980877),
また(b)では判別 1 データの種別要素(第 1 要
素)の最大値 Vmax_1(この例では 0.019013)
を球面上でそれぞれ探す
表 2 のように元データに種別 1,2,を加え,
縦方向で正規化後,学習すると図 1 に示すよう
に U ーマトリクス表示では,境界 1,2,がはっ
きりと区別される.
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
図 1 (a)グリフ値(0),(b)グリフ値(0.5),(c)
グリフ値(1) .但し,(a)には球面 642 ノードと
赤○印の 5 個のコードブックを示す
図 3 学習後の要素マップ.種別,Versicolor 側
を正面に向け他の 4 要素の様子を図示した
色の色調から花弁の長さ,幅,蕚片の長さ,
幅の順に有意度が変化している.これを数値
評価しようと言うのが本題の目的である.
表 3 学習 scod データをまず種別(B 列)他の
4 要素と共に降順に並べる.そして(a),(b),
では図 2(a)での最小値(2-30)(赤矢印)以上で
平均値を計算(261 行を新たに挿入し計算)
図 2 アヤメ種別 1(setosa),2(versicolor)での学
習結果.(a),(b),での球面の赤マークはそれ
ぞれ,(a)では判別 2 データの種別要素の最小
値 0.980877,(b)では判別 1 データの種別要素
の最大値 0.019013 を示す
図 2 は境界区分を色付けで区別した.次に学
習された scod(図 1(a)に示す 642 個のノードの
学習された球面のコードブック)データを使う.
表 3,表 4 では scod データの種別(B 列)を主
にして他の要素項目と一緒に降順に並べている.
次に学習後の要素マップを図 3 に示す.
さらに表 4 のように計算を続ける.
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
表 4 表 3 を続けて利用する.(a)では図 2(b)で
の最大値の境界行(0.019013) (赤矢印)を示
し,(b)では境界行以下での平均値を計算
表 6 (c)では表のように B列から F列まで全て,
上部 2 行の差を取る
表 6 (c) の 649~651 行目にはこうして計算さ
れた有意度を示す.結果を図 4 にグラフ化する.
表 5 表 3(a),表 4(b)の結果を使って有意度の
計算.
図 4 表 6 の 649~651 行,B~F 列までをグラフ
化した
図 5 図 4 での C の出力結果をグラフ化
こうして,図 3 の要素マップの説明をもっと
数量的評価出来たと言える.図 3 に示すのは
versicolor 側を正面に向けたときの要素マップ
の様子である.色調から, 花弁_長さ,花弁_
幅,萼片_長さ,は versicolor 側で有ることが
分かる.そして,萼片_幅,のみが setosa 側で
水色である.
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
表 7 当該球面 SOM 法と重回帰法での有意度
の比較
表 7 に当該球面 SOM 法と重回帰法での有意度
の比較を示す.上段は当該方法で有るが,重回
帰分析の結果は下段に黄色で示す.重回帰分析
では,花弁_長さが,一番有効となり,次が花弁
_幅,そして次に萼片_幅の順で,ここまでは当
該 SOM 法と一致する.ただ,萼片_長さは,重
回帰分析では値も小さく,符号も負と反対で P
値も他と比べて非常に大きく重回帰分析では
判定不能と結論されている.しかし,当該 SOM
法では 34.24%と結構大きく,ここだけが不一致
である.また,SOM で見られる要素マップ図 3
から萼片_長さも十分に versicolor 側である.
さて,重回帰[7]と SOM のこの差は,重回帰
は直交系(説明変数間に相関が無く)
,SOM は
非直交系(ベクトル間の距離だけで計算が進行)
である差である.事実,
相関行列を計算すると,
萼片_長さは,花弁_長さと花弁_幅とに相関が強
く依存した変数なので重回帰で判定不能のネガ
ティブな結果になるとしている.つまり,重回
帰分析では,各変数の重みは相対化されるが,
SOM では同等に扱われることの違いが出た結
果とも言えるであろう.
図 7 アヤメ 2(versicolor),と 3(versinica)間の
有意度をグラフ化
同様の比較をアヤメ 1(setosa),と 3(versicolor),
アヤメ 2(versicolor),と 3(versinica)で比べた.結
果を図 6,7 に示す.
ここで SOM 法による判別データの質を評価し
て見よう.
1.Best:U-マトリクス,色表示とも明確な区
別,境界が有る(図 1,2 でのアヤメデータ)
2.Second:U-マトリクス表示はさほどでも無
いが,色表示では Case1,Case2 が区別出来
る(疲労感データ[7]の場合)
3.Third:U-マトリクス,色表示とも Case1,
Case2,の区別が明確では無い
図 8 上記,1,2,の U-マトリクスの例を示す.
アンケート疲労感データの場合は,アヤメの
データほど,U-マトリクスでの境界は明確で
は無い
Third:の例を図 9 に示す.これはある疾病に関
する 58 項目のアンケート結果の解析であるが,
この場合,SOM 法での有意度計算は不能であっ
た.しかし,多変量解析は数値計算だけなので,
それなりの答えを出してくれるので信頼するし
か無いが,それが反対に怖い.しかし,このア
ンケーと結果でも,身体(15 要素)の場合は,
1.の Best 級,運動(9 要素)に分けた場合で
も 2.の Second 級の解析が出来た.
図 6 アヤメ 1(setosa),と 3(versicolor),間の
有意度でグラフ化
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
図 10 に指尖脈波の SOM マップ上[3]での位置関
係を示す.健康な波(A 波),不健康な波(G
波)は両極端の位置に有る.
波形を図 11 に示す.
図 9 3 番目の例.色表示が明確で無く,Case1,
Case2 が混在し,SOM 法での有意度計算は不
能
これまでの結果をまとめてみる.
1. SOM では要素マップが使われている
2.しかし,定量表現が中々難しい
3.球面 SOM を使うことによりその定量化に
成功した(Case1,Case0,の 2 ケースで)
4.それをここでは有意度と言う
5.多変量解析は数値結果だけで判断する
6. 球面 SOM 法では,U-マトリクス,色表示,
要素マップでデータの質を判断出来る
図 11 A 波は多いのでその一部(A1 波形群)
と G 波形群,それぞれ 50 点をマップのコー
ドブックから切り出し表示
3. 数値データを使っての評価
今までの議論で,球面 SOM 法で要素マップ
の数値定量化,いわゆる有意度の策定に成功し
た.数値データを使いこれを検証する.
図 11 の波形の SOM学習結果を図 12 に示す.
U-マトリクス,色付け共,A 波,G 波を明確に
学習していることが分かる.
図 10 (a) 加速度脈波の健康な波(A 波)と
(b) 不健康な波(G 波)のマップ上での位置
を示す
図 12 A 波,G 波の SOM 学習結果.左は U-マ
トリクス,右は色付け表示
図 13 に有意度の結果を示す.図に示した 12
点目で G 波,A 波群の差が最大.22 点目で,両
波形群の大きさがほぼ同じで有意度は差が無く,
0 になる.そこを超えると,図 11 に示すように
A 波群が G 波群より大きくなり,図 13 のよう
に A 波群の有意度が大きくなっている.有意度
は 30,42 点目で A 波群がそれぞれ最大値を取
っている.
A-19
―19―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
化した図 14 を比較すると 12 点目,30 点目,42
点目のピーク位置を含め形状も完全に一致して
いる.こうして数値データで求めた有意度は,
G 波群,A 波群のデータ内容を正確に再現した
内容で有り,この SOM 法による有意度の求め
方の妥当性を証明出来たと考える.
4. まとめ
図 13 G 波形,A 波形群の有意度計算結果
表 10 a: A 波入力データと各列の平均,b: G 波
入力データとその平均,平均を 392 行と 393
行にコピーし再示する.395 行に 393 行から
392 行を差し引いた G-A 波平均を示す
以上,球面自己組織化マップを用いてベンチ
マークデータ,医療データを用いての有意度の
解析を行った.勿論,多変量解析でも有意度の
解析は可能であるが,取り扱いには数学的バッ
クグラウンドが必要である.つまり,データを
入れれば解析結果は出て来るので,ついつい,
出てきた数字だけを信じる傾向が有る.一方,
球面 SOM 法では,学習後の,境界の色付け,
U-マトリクスの明瞭度を考えて有意度を計算
し,その信頼度についても評価が可能である.
種別が 3 種になった場合,重回帰では,-1,0,1
(または 0,1,2)と割り当てざるを得なくなり,
順序が無いものに数的順序を割り当てるのはど
うかと思う.しかし SOM では次元を増やし,
種別のところを 3 次元にして(1,0,0・・・)と
すれば済む話で,この点 SOM の方が扱いやす
いしメリットとであると考える.
参考文献
その G-A 波平均を以下の図 14 に示す.
図 14 表 10 で計算した G 波形群の平均から A
波形群の平均を引き算しグラフ化した.
SOM 学習で得た図 13 の有意度と表 10 に示す G
波,A 波の入力データ群の平均値の差をグラフ
[1] 徳高平蔵,藤村喜久郎,大北正昭: 球面 SOM
を用いたクラスタ分析, バイオメディカル・フ
ァジィ・システム学会誌, Vol. 8, No.1, pp.29-39,
2006.
[2] 大北正昭, 徳高平蔵, 藤村喜久郎, 権田英
功:自己組織化マップとそのツール, シュプ
リンガー・ジャパン(株), 2008.
[3] http://www.somj.com
[4] http://www.ics.uci.edu/~mlearn/databases/
[5] 糖尿病データ:D.F. Andrews, A.M. Herzberg,
Data: A Collection of Problems from Many Fields
for the Students and Research Workers, Springer,
1985.
[6]肝臓病データ:A.Albert, E.K.Harris, Multivariate
Interpretation of Clinical Laboratory Data, Marcel
Dekker, Inc. (New York), 1987.
[7] 中野正博: 看護・保健・医療のための楽しい
多変量分析, ヘリシティ出版 , 神戸, pp.1-212,
2009.
A-20
―20―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
XPS における自動ピーク ID に関する RRT 報告
- VAMAS/TWA2/A9 最終報告 –
RRT Report on Automated Peak ID in XPS Spectra
- Final Report of VAMAS/TWA2/A9 project パーク・システムズ・ジャパン 1),物材機構 2)
Park Systems Japan Inc., NIMS
鈴木 峰晴 1),福島 整 2),田沼 繁夫 2)
Mineharu Suzuki1), Sei Fukushima2), and Shigeo Tanuma2)
abstract
2000年のISO/TC201/SC3の「自動ピーク検出方法」に関する日本からの新規提案表
明に端を発し,約8年を要したVAMAS/TWA2/A9 “Evaluation of procedures for
automated peak detection in X-ray photoelectron spectra”に関する初期からの活動
内容をまとめた.テスト用親スペクトルの作成,ノイズを重畳させたテストスペクト
ルの作成から開始した.国際共同実験により,親スペクトルを使っての目視ピーク検
出効率の検討,ノイズ重畳スペクトルを使ってのピーク自動同定効率の検討を行い,
P(ピーク強度)/N(雑音強度)<1の場合,同定効率はほぼゼロ,1<P/N<10の場合
は10%から20%,P/N>90の場合は,90%以上となっている,という結論を得ること
ができた.
1.はじめに
X線光電子分光法(XPS)を用いて未知の試料を分析する際には,初めにスペクトルに
含まれるピークを検出し,次に必要なピークから元素同定,さらには定量へと進める.
ISO/TC201/SC3 (Data Management and Treatment)では,第一ステップであるピーク検出
の手順を標準化するために2000年のTC201総会で「自動ピーク検出方法」に関する新規提
案表明が日本(JISC:Japanese Industrial Standards Committee,日本工業標準調査会)か
らされた.その議論を進めるにつれ,より基礎的な検討が必要となった.そこで,VAMAS
(Versailles Project on Advanced Materials and Standards)/TWA2 (Technical Working Area
2:表面化学分析)/A9プロジェクトとして2004年3月から活動を開始した.
ISO/TC201/SC3では,バックグラウンド(BGD)法,ピーク・バックグラウンド(PB)比較
法,二階微分法(2ND)の3種の方法が提案された [1, 2] .VAMAS活動では,その3手法の
ピーク検出効率を検討するためにテストスペクトルの作成から着手した.テストスペクトル
をISO提案された手法で解析したが,BGD法では,シャープな主ピーク周辺に高密度でピー
クが検出され,2ND法ではスペクトル全域にわたってほぼ一様にピークが検出された.ノイ
ズを重畳させた場合には,ISOの議論では影響が低いと言われている振幅でも,検出される
ピーク数が格段に減少することが分かった.ISO活動で提案された内容は,まだ大いに検討
の必要があると考えられた[2].
そこで,VAMAS活動ではISO提案手法にこだわることなく,XPS装置に付随したソフト
または市販のツールを用いた国際共同実験(RRT)を進めることとした.詳細は文献[2]で
A-21
―21―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
報告されている.
ここでは,テストスペクトルの作成,RRTでの目視ピーク検出[3],日常的に使用してい
るXPSスペクトル解析ソフトを用いたピーク同定結果に関して報告する.
2.テストスペクトル
実測されたAu,Ag,CuのXPSスペクトルから I(Au; BE) + I(Ag; BE) + I(Cu; BE),I(Au; BE)
+ 0.1 x I(Ag; BE) + 0.01 x I(Cu; BE),I(Au; BE) + 0.01 x I(Ag; BE) + 0.001 x I(Cu; BE)を合成
したものを親スペクトルとして,b001,b002,b003と名付けた.ここで,I(M; BE)は,金
属Mの結合エネルギーを関数としたスペクトルを表している.スペクトルの結合エネルギー
範囲は,1200 eVから0 eV,エネルギーステップは0.5 eVである.
Fig. 1
An example set of test spectra. The three spectra, named (a) b001, (d)
b002, and (g) b003, correspond to I(Au; BE) + I(Ag; BE) + I(Cu; BE), I(Au;
BE) + 0.1 x I(Ag; BE) + 0.01 x I(Cu; BE), and I(Au; BE) + 0.01 x I(Ag; BE)
+ 0.001 x I(Cu; BE), respectively. Here I(M; BE) denotes the spectrum of
the metal M as a function of BE. (b) b001_41, (c) b001_71, (e) b002_31,
(f) b002_71, (h) b003_21, and (i) b003_71 are artificially
noise-superposed spectra onto the parent spectra (a), (d), and (g).
A-22
―22―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
ま た , 親 ス ペ ク ト ル に 人 工 的 に ノ イ ズ を 重 畳 さ せ た も の を b001_7m, b001_4m,
b002_7m, b002_3m, b003_7m, b003_2m (m = 1, 2, 3, 4, 5)とした.スペクトル名に含まれ
る数字は各々,7は比較的小さい振幅のノイズ,4, 3, 2はb001中のAr 2p, Cu 2p3/2, Au 4sス
ペクトル強度と同程度の振幅に対応する.その各々に5回独立に乱数発生させたものをmと
した.詳細は文献[2]で報告している.Fig. 1に親スペクトルとノイズを重畳したスペクトル
の例を示す.
3. 国際共同実験参加情報
本 VAMAS プロジェクトに参加して頂いた方は,Ayao Akiyoshi (Tokuyama, Japan),
Vincent Crist (XPS International, USA), Kazuhiko Dohmae (Toyota Central Lab., Japan),
Mark Engelhard (Pacific Northwest National Laboratory, USA), Hiromi Yamauchi (Mitsubishi
Chemical, Japan), Yasuhiro Oda (UBE, Japan), Shinya Ootomo (Furukawa Electric Co.,
Japan), Terimi Ito and Masamitsu Sato (Mitsubishi Materials, Japan), Hartmut Steffen
(Institute of Low Temperature Plasma Physics, Germany), Kazuhiro Takahashi (Kratos
Analytical Ltd. Japan Branch, Japan), and Midori Takano (Panasonic, Japan)である.
Table 1
A
B
Spectral
Data
Processor
Software
Multipak
Manufacturer
PHI
XPS
International
Version
6.1A
4.3
RRT participant information
C
D
E
F
G
H
I
J
K
HM
Multi Pak
MultiPak
Multi Pak
MultiPak
MultiPak
CasaXPS
CasaXPS
Multipak
HM
PHI
PHI
PHI
PHI
PHI
6.2.1
8
6.1A
8
7.3
Casa
Software
Ltd.
2.3.13
Casa
Software
Ltd.
2.3.12
7.3.1
PHI
*HM: homemade
Eye peak detection
b001
R
b002
R
b003
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
Automated peak identification
b001_71
R
b001_72
R
b001_73
R
b001_74
R
b001_75
R
b001_41
R
b001_42
R
b001_43
R
b001_44
R
b001_45
R
b002_71
R
b002_72
R
b002_73
R
b002_74
R
b002_75
R
b002_31
R
b002_32
R
b002_33
R
b002_34
R
b002_35
R
b003_71
R
b003_72
R
b003_73
R
b003_74
R
b003_75
R
b003_21
R
b003_22
R
b003_23
R
b003_24
R
b003_25
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
NR
NR
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
R
A-23
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Table 1 に,参加者を記号で示し,使用したソフトウェアとバージョン,b001,b002,
b003 に対する目視ピーク検出の報告状況,ノイズを重畳させてスペクトルに対するピーク
同定の報告状況をまとめる.”R”は reported,”NR”は not-reported を意味する.
4.目視によるピーク検出
RRT 参加者には,Au,Ag および Cu から合成されたピークであることは知らされないま
ま,先ずは親スペクトル b001,b002,b003 に含まれるピークを目視で検出して,その結
合エネルギー位置と強度(三段階:s,m,w)を答えてもらった.
Number of detected peaks
40
35
30
25
20
15
●
●
■
10
▲
●
■
5
▲
b001
P1
b002
P2
b003
P3
<b001>
<P1>
<b002>
<b003>
<P2>
<P3>
0
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
LAverage
Analyst
Fig. 2
The numbers of detected peaks are plotted for each participant for the b001, b002,
and b003 spectra. The points at the right shows the average number of detected
peaks for each spectrum.
Fig. 2 に,3本の親スペクトルでの検出ピーク数を示す.F,J は検出数が比較的少なく,
一方,A,G は検出数が比較的多い,また B,C,I は,b001 に関しては検出数が多いが b002,
b003 に関しては少なめであるという傾向がある.この情報では比較が難しいので,検出ピ
ーク数,ピーク強度のパラメータをもった情報を PCA(principal component analysis)解
析した.その結果を図3に示す.
Fig. 3(a)ではⅠ群(A,G,L)が比較的多くのピークを検出しており,Ⅱ群(F,J)の
検出ピーク数は少ない.Ⅲ群(D,E,H,K)は,3本の親スペクトルに対して検出ピーク
数が比較的近い.また,Ⅳ群(B,C,I)は,b001 に関しては検出数が多いが,b002,b003
A-24
―24―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
に関しては少なめである.これらは,分析担当者の経験や個性によるものと考えられる.
Fig. 3(b)からは,b001 が他の2本のスペクトル(b002,b003)と性格(類似性)が異なっ
ていることが分かる.このことは,図 1(a),(d),(g)を直感的にとらえた結果と一致する.
Fig. 3(c)では強度に関して解析した結果を示しているが,強度の強いピークおよび弱いピー
クは第 1,第 2 因子ともに近在しているが,中間の強度を示す情報が広範囲に分散している
ことが分かる.
(a)
Second component
2
III
1
II
J
H
I
E
D
K
F
G
0
I
-1
B
A
IV
L
C
-2
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
First component
P2
(b)
Second component
0.4
P3
0.2
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
P1
-1.0
0.50
0.52
0.54
0.56
0.58
0.60
0.62
First component
(c)
Second component
0.4
P1 w
P1 s
P3 w
P3 m
P2 m
0.2
P2 w
P3 s
0.0
P2 s
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-0.6
P1 m
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
First component
Fig. 3
Analysis of the number of detected peaks using the PCA method. (a) Characteristics of
the participants, (b) Characteristics of the test spectra, and (c) Similarity of the peak
intensities for the test spectra. P1, P2, and P3 correspond to the parents spectra b001,
b002, and b003, respectively.
A-25
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Fig. 4 には b001 スペクトルの A/値(雑音比:バックグラウンドを含めた強度をノイズ
振幅で除した値)と検出ピーク数(a)および平均強度(b)との相関を示す.なお,ここで(s,
m,w)という強度には,各々(3,2,1)という値を与えた.Fig. 4(a)の A/値 10 は,検
出効率 75%に相当する.Fig. 4(b)では A/値 10 を下方臨界値とするS字曲線に近い分布が
示されている.
Fig. 4
(a) Relationship between number of detected peak and S/N ratios of peaks for b001.
(b) Relationship between average intensity score and S/N ratios of peaks for b001.
ノイズを重畳させたスペクトルでのピーク同定の効率を検討するためには,参照ピーク
群が必要となる.本検討では,先に述べた目視ピーク検出で検出効率 75%以上であるピー
クをその参照群とすることとした.ただし,検出効率が低くても明らかにピークとして(報
告者には)認識されるピークを含めることとした.そのリストを Table 2 に示す.
A-26
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Table 2
Reference peaks defined by the reported results using eye peak detection processes
[3]. The binding energies, energy levels for photoelectrons / Auger transitions, and
eye detection efficiencies are listed.
(a) b001(P1)
Binding
energy
(eV)
4.65
57.77
75.34
77.36
84.20
87.89
97.20
122.67
242.00
284.77
335.21
353.40
368.43
374.42
378.60
547.71
568.26
573.49
604.15
640.11
647.75
689.20
719.79
759.89
932.90
952.67
964.50
1097.14
1128.99
1134.82
(b) b002 (P2)
Energy level/
Transition
Eye
detection
efficiency
valence
Au 5p3/2
Au 5p1/2
Cu 3p
Au 4f7/2
Au 4f5/2
Ag 4s
Cu 3s
Ar 2p3/2
C 1s
Au 4d5/2
Au 4d3/2
Ag 3d5/2
Ag 3d3/2
Ag 3d loss
Au 4p3/2
Cu L3M45M45
Ag 3p3/2
Ag 3p1/2
Cu L3M23M45
Cu L3M23M45
noise ???
Ag 3s
Cu LMM ?
Cu 2p3/2
Cu 2p1/2
Cu 2p Loss ?
Cu 2s
Ag M4VV
Ag M5VV
75
100
100
33.3
100
91.7
58.3
100
100
100
100
91.7
100
91.1
8.3
100
91.7
100
100
75
100
66.6
100
91.7
100
100
91.7
91.7
91.7
100
(c) b003 (P3)
Binding
energy
(eV)
Eye
Energy level/
detection
Transition
efficiency
4.03
6.47
57.51
74.47
84.22
87.89
241.87
335.31
353.44
368.43
374.47
546.69
573.45
604.16
642.81
761.91
933.00
952.53
1129.12
1134.72
valence
valence 2
Au 5p3/2
Au 5p1/2
Au 4f7/2
Au 4f5/2
Ar 2p3/2
Au 4d5/2
Au 4d3/2
Ag 3d5/2
Ag 3d3/2
Au 4p3/2
Ag 3p3/2
Ag 3p1/2
Au 4p1/2
Au 4s
Cu 2p3/2
Cu 2p1/2
Ag M4VV
Ag M5VV
75
58.3
100
91.7
100
91.7
91.7
91.7
100
100
91.7
100
91.7
83.3
100
100
100
100
91.7
100
Binding
energy
(eV)
3.75
6.49
57.55
74.16
84.21
87.87
335.26
353.42
368.36
374.34
546.68
573.45
642.77
761.86
763.08
Eye
Energy level/
detection
Transition
efficiency
valence
valence 2
Au 5p3/2
Au 5p1/2
Au 4f7/2
Au 4f5/2
Au 4d5/2
Au 4d3/2
Ag 3d5/2
Ag 3d3/2
Au 4p3/2
Ag 3p3/2
Au 4p1/2
Au 4s
Au 4s
75
50
100
83.3
100
91.7
100
100
91.7
100
100
75
91.7
91.7
8.3
5.ノイズ重畳スペクトルのピーク自動検出
ここで使われたソフトウェア,RRT で報告されたテストスペクトルに関しては Table 1
に示されている.なお,分析者 J の報告値は,Table 2 に示す基準値から結合エネルギー値
が大きく(平均値 > 1.4 eV)逸脱していたため,本検討からは除外している.
Fig. 5 には,b001_4m および b001_7m に対する結合エネルギー値と目視検出効率・自
動ピーク同定効率との相関,および目視検出効率と自動ピーク同定効率との相関を示す.目
視検出効率が 100%であっても自動ピーク同定効率は,20%から 100%の範囲で分散してい
て,両者に強い相関関係は見られない.b002_3m,b002_7m,また b003_2m,b003_7m
A-27
―27―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
に関しても同様の結果であった.
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Fig. 5
The comparison of detection efficiency of automated peak identification and that of
analysts’ eye detection efficiency for (a) b001_4m spectra and (b) b001_7m spectra.
The correlation between software identification efficiency and eye detection
efficiency for (c) b001_4m spectra and (d) b001_7m spectra.
Fig. 6 には,いくつかのピークに対する自動ピーク同定効率をノイズ重畳スペクトルを横
軸として示す.Ar 2p は,b001 の目視検出効率は 100%であったが,b001_4m,_7m で,
各々50%,20%と減じている.Cu 2p3/2 は,b001_7m,_4m で 100%であるが,b002_7m,
_3m では 10%から 15%となっている.この最も大きな要因は,b002 の Cu 成分は b001 の
1/100 の強度であることによる.Au 4s ピークは,Cu LMM ピークに覆われるため Cu 組成
の高い b001 では検出されていない.Ag 3d5/2 ピークは b001 を基準とすると 1/10 組成では
検出されているが,1/100 になると同定効率は格段と低くなる.
興味深いのは,Au 4f7/2 – 4f5/2 と Au 4d5/2 – 4d3/2 の比較である.Au 4f7/2 はどのテストスペ
クトルでも自動同定効率 100%であるが,Au 4f5/2 は 20%(目視検出効率:91.7%)と低下
している.一方,Au 4d5/2,Au 4d3/2 はいずれも自動同定効率ほぼ 100%である.Au 4f の二
重項のエネルギー差は 3.6 eV であるのに対して,Au 4d は 18.1 eV と大きく,報告者は,
A-28
―28―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
前者のようにエネルギー差の小さい場合は,4f7/2 を示せば分析者は 4f5/2 を認識するだろうと
ソフトウェア設計者が期待しているのでないかと推論している.後者の場合は,分析者の能
力に期待することなく,二重項のいずれをも同定する設計になっているのではないか.しか
し,分析技術を十分に理解していない方が装置を操作する機会が増えているという現実を考
えるとこのようなソフトウェア設計には再考が必要であると言える.
また,同様の理由でオージェピーク,光電子サテライトピーク,エネルギー損失ピーク
にも同定されることが好ましいと考えている.
Fig. 6
Average automated peak identification efficiencies for (a) Ar 2p, (b) Cu 2p3/2, (c) Au 4s, (d)
Ag 3d5/2, (e) Au 4f7/2, (f) Au 4f5/2, (g) Au 45/2, and (h) Au 4d3/2 for the test spectra set of
b001_7m, b001_4m, b002_7m, b002_3m, b003_7m, and b003_2m.
A-29
―29―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Fig. 7 には Fig. 6 にプロットした情報をピークの雑音比と自動同定効率との相関として
示す.
Fig. 7
The correlation between the efficiency for automated identification and the ratios of
peak height to noise amplitude. The ratios of peak height to noise amplitude were
obtained from b001_71, b001_41, b002_71, b002_31, b003_71, and b003_21
spectra. The peak heights were obtained from differences of peak and background
intensities. The noise amplitudes were evaluated for the BE region from 45 eV to 15
eV of every spectrum. The identification efficiencies are plotted for the peaks shown
in Fig. 6.
図から明らかなように同定効率は,P/N<1 の場合はほぼゼロ,1<P/N<10 の場合は 10%
から 20%となっている.P/N>10 の場合は,効率は一気に高くなり 90%以上となっている.
なお,図中 P/N>100 で効率 20%の点は,先述した Au 4f5/2 の問題に由来している.この結
果は,本来の信号が雑音成分の強度より1桁大きければ同定効率が非常に高くなることを意
味しており,私たちの直感ともよく合う.ただ,1<P/N<10 の場合に,同定がより高効率に
なるようなアルゴリズムを開発してもらえれば,一般の分析者は大いに助かるのではないか.
6.まとめ
約 8 年 を 要 し た VAMAS/TWA2/A9 “Evaluation of procedures for automated peak
detection in X-ray photoelectron spectra”の初期からの活動内容をまとめた.本プロジェクト
は,テスト用親スペクトルの作成,親スペクトルにノイズを重畳させたテストスペクトルの
作成から開始した.国際共同実験により,親スペクトルを使っての目視ピーク検出効率の検
A-30
―30―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
討,ノイズ重畳スペクトルを使ってのピーク自動同定効率の検討を進めた.最終的には,
【P/N<1 の場合,同定効率はほぼゼロ,1<P/N<10 の場合は 10%から 20%,P/N>90 の場合
は,90%以上となっている】
,という経験的に推測可能で単純な結論にまとめざるを得ない.
しかし,その検討過程で明らかになった,【現実の分析者の力量】を反映したアルゴリズム
になっていないのではないか,という点に関しては是非ソフトウェア供給者の検討を期待し
たい.
また,本プロジェクトで作成したテストソフトウェア群は,SASJ のホームページ上から
ダウンロード可能になるはずである.ピーク同定の検討のみならず,サーベイスペクトルを
対象としたデータ処理の評価に使ってもらえることを期待する.
References
[1] Y. Furukawa, Y. Nagatsuka, Y. Nagasawa, S. Fukushima, M. Yoshitake, and A. Tanaka, J.
Surf. Anal. 14, 225 (2008).
“Practical Methods for Detecting Peaks in Auger Electron
Spectroscopy and X-Ray Photoelectron Spectroscopy”.
[2] M. Suzuki, S. Fukushima, and S. Tanuma, J. Surf. Anal. 14, 104 (2007).
“Assessment of
Peak Detection Algorithm Proposed by ISO/TC201/SC3 for X-ray Photoelectron
Spectroscopy
- Activity Report of VAMAS/TWA2/A9 Project “Evaluation of Procedures
for Automated Peak Detection in X-ray Photoelectron Spectra”- ”.
[3] Mineharu Suzuki, Sei Fukushima and Shigeo Tanuma, Surface and Interface Analysis,
40, 1337 (2008).
“Efficiency of visual peak detection in X-ray photoelectron spectra”.
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―31―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
Calculations of Mean Escape Depths of Photoelectrons in Elemental Solids Excited
by Linearly Polarized X-ray for High Energy Photoelectron Spectroscopy
S. Tanumaa,*, H. Yoshikawaa, H. Shinotsukab, and R. Uedaa
a
National Institute for Materials Science, 1-2-1 Sengen, Tsukuba, Ibaraki 305-
0047,bAdvanced Algorithm & Systems, Co. Ltd., Ebisu IS Bldg. 7F, Ebisu 1-13-6,
Shibuya, Tokyo 150-0013
We have calculated mean escape depths (MEDs, D) of photoelectrons from Si, Cu, and
Au excited by linearly polarized X-rays in the 50 to 10,000 eV energy range for high
energy photoelectron spectroscopy. These calculations were done with Monte Carlo
methods using the values of electron inelastic mean free paths λ that were calculated by
the relativistic full Penn algorithm and Dirac-Hartree-Fock atomic potential for electron
elastic scattering. In order to know the dependence of MED on the asymmetry
parameterβ in the anisotropic photoelectron emission and the emission angle θ, we have
calculated MEDs corresponding to the conditions of β= -1 to β= 2 (by 0.5 steps) andθ
=0° to θ=80° (with respect to the surface normal). The resulting MED values increase as
the β values decrease over the 50 to 10,000 eV energy range. We also found that the
values of D/λcosθ are approximately constant to within 10% for a given value of θ and
for the three elements over 1000 eV (except for the condition of β=-1) over a range of
emission angles (typically 40°–60°). We also found that the energy dependence of the
ratios D/λcosθ can be expressed by the Jablonski-Powell predictive equation over the 50
to 10,000 eV energy range. Finally, we have obtained a predictive MED equation that
could be applied to the wide range of experimental conditions that are used in high
energy XPS with synchrotron radiation.
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SASJ 平成25年02月21-22日@Pio
金属とその酸化物のオージェ・2 次電子放射特性:Li,Mg,CuBe
○ 後藤敬典 1,2、山内幸彦 1、田沼繁夫2
1. 産業技術総合研究所・中部センター、2.物質材料研究機構
Auger and secondary electron emission from metals and its oxide:Li,Mg,CuBe
Keisuke GOTO,1,2 Yukihiko YAMAUCHI,1 and Shigeo TANUMA2
1. Advanced Industrial Science and Technology・Chubu-Center and 2.National Institute
for Materials Science
1.はじめに:オージェ電子 と 2 次電子は電子線を物体に入射したときに放射される電子で、学術的にも実用
的にも重要な物理量であり、オージェ電子は 2 次電子の中に含まれる.しかしながら2者を関連させて論じるこ
とは,装置の関係もあってバックグラウンドとその効果を語るとき以外,まずない.オージェ電子は物質の同定
や状態を知る上で重要であるが,2 次電子は SEM(走査型電顕)などの‘像’形成の信号として応用される以外
は物理量として扱われることは少ない.大きなエネルギーを扱う分野では重要な量となっている.2 次電子は高
いエネルギーのものから,弾性背面散乱電子,非弾性散乱電子〔プラズマ損失,内殻励起損失,その他〕,オ
ージェ電子,真の 2 次電子(固体中電子のカスケードにより励起された‘0’を基準にした電子で仕事関数を越
えて外部に放射されたもので通常数 eV のところにピークを有する)からなる.2 次電子の構成要素から見ても
お互いに密接な関係にあることが分かるが,これを解析することは困難で定性的な域をでていない.我々は実
験的に正しいデーター(絶対計測)を提供して,この分野の一助になることを期待している.
今回の報告では軽元素で応用面で重要な Li, Mg, と Be(Cu)について得られた結果を述べる.Li は原子番
号3でオージェ電子分光で対象となる最も軽い元素でありスペクトル構造など扱いやすいのではないかと期待
されるし,工業的には電池への応用で注目されている物質である.Mg は原子番号 12 でよく使われる物質であ
る.ディスプレイの発光部として重要である.Be は原子番号 4 で Li の次に重い原素で,われわれには 2 次電
子増倍器のダイノード(CuBe)としてあるいはばね材としてなじみ深い.Be の酸化物セラミックスは熱伝導に優
れており以前はトランジスターなどの絶縁放熱に使われていた.これらの物質がどのようなオージェ・2 次電子
特性を有しているかを以下にみる.
2.Li,Mg,CuBe およびこれらの酸化物の全 2 次電子特性(σ vs 加速電圧):これら 3 つの物質の全 2 次電
子利得を我々が所有するs-CMA 装置で計測した結果を Fig.1 に示す.比較のために Cu(111)の特性も添え
た.この計測では 1 次電子流をファラデーカップで計測し,信号としては試料電流を用いて簡単な計算で求めた.
試料に戻ってくる迷走電子(3 次電子)の補正を行っていないので,5-15%くらい小さめにでていると思われる.
なおこれとは別に2%の絶対精度で計測できる装置を摂南大学の JAMP に取り付けまた当所でも s-CMA にこ
れように工夫した試料保持台を試作中である.Fig.1 を一見して,利得の範囲が桁違いに広いことで,ほかの
物質では経験しなかった特性である. 図中破線で示したのは純物質の特性である.Li 金属の特性は原子番号
から期待されるように大変小さなσ特性で、従来経験した中で最も小さい.この特性は UHV 中に 1 週間くらい
放置しても目立った変化を示さなかった.これに酸素(残留ガス)が‘吸着’したのが直上の特性であるが一様
ではないが 2 倍くらいになっている.あまりにも酸化が遅いので,試料を試料準備室まで引き戻して30Torr くら
いにもらした環境に 1 時間さらしたのがその上の少々うねっているものである.特性は純物質の数倍である.特
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SASJ 平成25年02月21-22日@Pio
4.5
σ(2次電子利得)ー特性
4
3.5
σ
3
2.5
2
Li
Li(O)
LiO
Mg
Mg(oxide)
CuBe
Cu(111)
1.5
1
0.5
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
Vp(V)
Fig.1 σ‐Vp characteristics from Li,LiO,Mg,Mg(oxide),CuBe,Cu(111).
性がうねっているが、これは試料の酸化物の分布と表面の凹凸によるとおもわれる.Li 金属の特性は原子番
号から期待されるように大変小さなσ特性で、従来経験した中で最も小さい.この特性は UHV 中に 1 週間くら
い放置しても目立った変化を示さなかった.これに酸素(残留ガス)を‘吸着’させたのが直上の特性であるが一
様ではないが利得は 2 倍くらいになっている.あまりにも酸化が遅いので,試料を試料準備室まで引き戻して空
気を30Torr くらいもらした環境に 1 時間さらしたのがその上の少々うねっているものである.特性は純物質の
数倍である.特性がうねっているが、これは試料の不均一さによるところが大きいと思われる.このときの試料
は少々灰色がかっていた(水分が多い部屋では数秒で真っ黒になる).純 Mg の特性も原子番号が若いので利
得は小さく(C くらい),滑らかな変化を示している.この酸化物(oxide:MgO)の特性が一番上のものであるが,
最大値のところでは5.4倍くらいである.実験の順番は MgO をやって次に Mg の実験をやった.なおこれも
UHV 中では大変安定で実験中(1 週間以上)スパッターを施す必要は無かった.実際に 2 次電子増倍管のダイ
ノードとして使われていた CuBe(2-3%)をはずして水で洗浄しただけの試料をそのまま計測したのが上から 2
番目の特性である.これを当所の標準スペクトル Cu(111)と比較すると利得は約 2 倍である.文献1の値もかな
りひろい範囲に亘っているが平均的にはここでの値と同じである.このようにもともとの純物質は利得が小さい
にも関わらず,これが酸化物になると大きな利得を示すことは大変興味深い.特に 2 次電子のどのエネルギー
成分が増えているのかということである.定性的には,酸化物(絶縁体)になると荷電子帯におおきなギャップが
生じて,そのチャンネルを,固体内部で発生した 2 次電子がバンドギャップのチャンネルを価電子帯の電子と相
互作用することなく深いところから表面に向かって走ることができるからだ!1と説明している.光が大気中を遠
くまで伝播できるのと類似の発想である.どの 2 次電子エネルギーがこのような成分を有するのかを次からの
エネルギー分布計測で観測したい.
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3.Li と LiO の特性:Li に所属する電子は 3 個であるからスペクトルは単純になることが期待される.仕事関数
は 2.38eV2 で mp は 179℃である.計測した Li のスペクトルを Fig.2 に,またその酸化物の LiO を Fig.3 に示
す.それぞれの試料につき 40 本のスペクトルが準備されているが,紙面の都合で代表的な加速区電圧として
Vp=5000v(A),1000v(B),30v(C)のものを示した.スペクトル全体を見るために一番上の列は強度軸,EN(E),
を対数目盛で示した.これらは通常見慣れたスペクトルとは形と強度においてずいぶん異なるが原子番号3と
いうことを考えると納得がいく.次の列は損失(プラズマ,内殻励起,バンド励起)であるが分光器のエネルギー
分解能(0.25%)によって高いエネルギーではなまっている.(A)の 3 番目の特性は40-300eV に現れる
微細構造を見たものであるが,単純な理論では解釈できない.それぞれの一番下の特性は真の 2 次電子の領
域であるが,立ち上がりエネルギーは仕事関数が低いためか0.8eV 前後で通常より低い,ただし30vではよく
定義できない.LiKVV のピークエネルギーは48.45(3)eV であった.なお通常は数 eV に見られる典型的な
真の 2 次電子が‘肩’のようにしか見えないが,N(E)の形にするとピークとして見える。紙面の都合で表面に酸
素が吸着した Li(O)の特性は純 Li と酸化物の中間に来そうなきがするがここでは割愛する.
LiO の特性を Fig.3 に示す.前述のごとくこの試料は金属 Li を大気に近い低真空中で強制的に酸化したもので
表面は灰色であった.比較のため Fig.2 と同じ系列で示す(酸素が含まれるようにした).LiO の特性は Fig.3 か
ら直ちに分かるように,ほとんどの点で金属の Li とは異なっている.Li と結合した O の原子番号が8と重く,全体
として Li より強度が増すことは定性的に想像がつくが,ほかの構造も全く異なっている.損失構造とオージェ電
子ピークのスペクトル、さらに真の 2 次電子強度は顕著で一桁大きい.(C)の損失部にかなり大きなギャップが
あり,さらに,弾性散乱ピークに張り付くように微小な構造があるが,これは酸化物に由来するものかとおもわれ
る.吸着状態の O があるときは試料に 1 次電子ビームを照射してもσの値は大して(数%)程度しか変化しない
が,酸化物の状態では 50%くらい変化することもある.いわゆるビーム損傷だが,ビームを試料に当てた瞬間か
ら始まり最初の状態ではマニュアルでの計測が追いつかない.この損傷は照射エネルギーに関係なしに, 1-
5000V, 生じた.観測された LiKVV は36.91(3)eV で金属 Li の主ピークの 48.45(3)eV は小さいが残って
いる.OKVV のエネルギーは 505.83(2)eV で通常より若干低い.CKVV は 262.0(3)eV であったが,スペクトル
形状は 2 つ山である.
4.Mg と Mg(oxide)の特性:Mg はよく使われる金属であるが純物質を得るのは難しいといわれているが,使用
したのは試薬クラスであるが酸素の量は保証されていないという.仕事関数は 3.64eV で mp は 377℃である.
前の例と同様に,Mg の特性を Fig.4 に,また Mg(oxide)のそれを Fig.5 に示す.準備の段階で試料をイオン・シャ
ワーの中で加熱したが,蒸発温度より100℃以上低い温度で加熱していたにも関わらず,真空槽ののぞき窓が
不透明になるくらいに蒸着してしまった.しかしこの失敗で清浄な面が容易に得られた.なお後で取り出してみた
ところ,イオン照射されていたところが以上に深く(φ2x1mm)えぐられるよう二掘られており,その中にはウイス
カー様で綿ほこりのようなものが残っていた.この穴の中にビームを照射すると 2 次電子利得が異常に小さくな
る(ファラデーカップ効果)ので清浄なスペクトルではあるが使わなかった.図(A)は Vp=5000v のものであるが、
典型的な低原子番号の形をしている.MgKLL 主ピークは 1180.76(5)eV,LVV は 56.24(14)eV と 42.0(1)eV で
ある.エネルギーの値は PC のデーターをそのまま使うと,システムの応答のため,高い方にずれるので注意が
必要である.中間の Vp の(B)ではプラズモンの励起が顕著に二なり 1000v あたりでは最高 12 本くらい観測さ
れ,自由電子の多い物質に見られる特徴である.低速の領域の(C)ではプラズモンの励起もあるがバンドの励
起が顕著になり,2 次電子も励起されている.
Mg(oxide)の特性を Fig.5に示すが,実験はこちらを先にやった.Fig.4 の金属 Mg とは一見似ているようだが
よく見るとずいぶん異なっている.(A)の5000vの特性では MgKLL の主ピークは 1174.75(5)eV に OKVV の
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10
100
100
Li,30v,(.24),281212
Li,1000v,(.152),271212
Li,5000v,(.073),241212
0
1000
2000
3000
4000
5000
detected current [pA]
1
detected current [pA]
detected current [pA]
10
10
1
0
200
400
600
800
1
0
5
10
15
20
25
30
0.1
1000
0.01
0.1
0.1
0.001
E [eV]
E [eV]
E [eV]
13
4.7
Li,5000v,(.073),241212
12
4.2
Li,30v,(.24),281212
6
3.7
3.2
2.7
detected current [pA]
11
detected current [pA]
detected current [pA]
7
Li,1000v,(.152),271212
10
9
8
5
4
3
2
7
2.2
1
6
1.7
1500
0
5
2000
2500
3000
3500
E [eV]
4000
4500
5000
800
0.35
850
900
E [eV]
950
1000
0
5
10
15
E [eV]
20
25
30
(C)
3
Li,1000v,(.152),271212
Li,5000v,(.073),241212
0.34
detected current [pA]
detected current [pA]
2.5
0.33
0.32
0.31
0.3
2
1.5
1
0.5
0.29
0.28
0
40
90
140
190
E [eV]
240
290
1
10
20
30
E [eV]
40
50
60
(B)
Li,5000v,(.073),241212
0.9
0
detected current [pA]
0.8
0.7
0.6
Fig.2 Energy distribution from Li for (A)Vp=5000V,
0.5
(B)1000V, and (C)30V.
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
60
(A)
それは 503.18(3)eV であり,また MgLVV は 30.4eV であり,いずれも金属 Mg のそれとは少々異なっている.
注目すべきは,真の 2 次電子は 9.5eV あたりに異常に大きな構造がありおそらく価電子帯のバンドギャップをす
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SASJ 平成25年02月21-22日@Pio
100
100
1000
LiO,1000v,(.67),230113
LiO,5000v,(.31),240113
LiO,30v,(.59),210113
10
1
0
1000
2000
3000
4000
detected current [pA]
detected current [pA]
detected current [pA]
100
10
1
5000
0
200
400
600
800
10
1
0
5
10
15
20
25
30
0.1
1000
0.01
0.1
0.001
0.1
E [eV]
E [eV]
E [eV]
10
13
12.3
LiO,5000v,(.31),240113
LiO,1000v,(.67),230113
12
8
detected current [pA]
detected current [pA]
9.3
8.3
7.3
6.3
10
9
8
7
5.3
6
4.3
5
3.3
4
1500
2000
2500
3000
3500
E [eV]
4000
4500
5000
detected current [pA]
11
10.3
LiO,30v,(.59),210113
9
11.3
7
6
5
4
3
2
1
0
800
850
900
E [eV]
950
1000
0
5
10
15
E [eV]
20
25
30
(C)
1.6
LiO,5000v,(.31),240113
1.5
LiO,1000v,(.67),230113
10
1.3
detected current [pA]
detected current [pA]
1.4
1.2
1.1
1
0.9
0.8
8
6
4
2
0.7
0
0.6
40
140
240
340
440
540
E [eV]
4.5
10
20
30
E [eV]
40
50
60
(B)
LiO,5000v,(.31),240113
4
0
detected current [pA]
3.5
3
Fig.3
2.5
2
Energy
distribution
from
LiO
(A)Vp=5000V, (B)1000V, and (C)30V.
1.5
1
0.5
0
0
10
20
30
E [ V]
40
50
60
(A)
りして表面に達した固体内電子ではないかと想像する.これは酸化物の高い 2 次電子利得の一部をなしている
のではなかろうか.図の(B)は1000vの特性であるが真の 2 次電子の構造は5000vに類似であるが,損失構
造は見かけ上随分異なっており複雑である.図の(C)の30vの特性はさらに特徴的である.弾性散乱ピークの
A-37
―37―
for
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SASJ 平成25年02月21-22日@Pio
1000
100
100
Mg,1000v,(.62),121212
Mg,5000v,(.29),101212
Mg,30v,(.33),141212
detected current [pA]
10
1
0
1000
2000
3000
4000
100
detected current [pA]
detected current [pA]
10
10
1
0
5
10
15
20
25
30
0.1
5000
0.01
1
0
0.1
200
400
E [eV]
600
800
0.001
1000
E [eV]
E [eV]
3.6
8
103
Mg,5000v,(.29),101212
Mg,1000v,(.62),121212
93
3.4
3
2.8
6
detected current [pA]
detected current [pA]
detected current [pA]
83
3.2
Mg,30v,(.33),141212
7
73
63
53
43
5
4
3
2
33
2.6
1
23
2.4
1000
1050
1100
1150
E [eV]
1200
1250
0
13
800
1300
850
900
E [eV]
950
1000
0
3
10
15
E [eV]
20
25
30
(C)
Mg,1000v,(.62),121212
10
Mg,5000v,(.29),101212
5
detected current [pA]
detected current [pA]
2.5
2
1.5
1
8
6
4
2
0.5
0
0
0
10
20
30
40
E [eV]
(A)
50
60
70
0
10
20
30
40
E [eV]
50
60
70
(B)
Fig.4 Energy distribution from Mg for:(A)Vp=5000v, (B)1000v,and (C)30v.
直下にはほとんど構造が無く,価電子帯のバンドギャップに対応しているのではないかと思っている.
5.CuBe の特性:2 次電子増倍管のダイノード,CuBe(2-3%) ,の特性を Fig.6 に示す.この材料は従来より使
われており優れた利得・安定性・耐久性と復元性(空気中あるいは酸素雰囲気で焼く)がある.仕事関数は
4.2eV2とそれほど低くはない.図(A)では,損失構造はエネルギー分解能のためになまって見えないが,O と C
は明朗に分かる.図では分かりにくいが Cu も認められるが数%以下である.オージェのエネルギーは:酸化
BeKVV 主ピークは 89.29(12)eV,OKVV は 501.31(8)eV(酸素としては低い),CKVV は 363.4(2)eV. 異常に
強度の強い真の 2 次電子のピークは 5.95eV であるが,バンド構造によると思われる構造も見られる.図(B)
A-38
―38―
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の1000V の加速では損失構造は比較的単純に見える.ここでは Be の K 殻励起の損失も認められる.オージ
ェ電子と真の 2 次電子の構造は5000vのときと類似の特性である.ただ真の 2 次電子のピーク強度が金属の
それに比べて異常に(1 桁)強いのが注目される.図(C)の30vの特性は大きな単純な構造に見えるが,弾性
散乱ピークの下に続く構造は平らで広く 5.7eV もあることは注目され,バンド構造と密接に関連がある現象であ
る.これは加速電圧が小さくなったために顕著に見えるようになった結果でほかのエネルギーのときでも起こっ
ている.これらのことが CuBe が高いσ値を有する要因と思われる.このような特性はここで調べた酸化物に共
通の特性であるようだ.
1000
100
1000
M g (o x ide ) ,( 3 .5 1 ) ,2 0 1 1 1 2
M g (o x ide ),5 0 0 0 v,(1 .3 1 ),2 2 1 1 1 2
Mg(oxide),30v,(1.13),231112
100
1
0
1000
2000
3000
4000
detected current [pA]
detected current [pA]
detected current [pA]
100
10
10
5000
10
1
0
5
10
15
20
25
30
0.1
1
0
0.1
200
400
600
800
1000
0.01
0.001
0.1
E [eV]
E [eV]
E [eV]
9
3.5
Mg(oxide),(3.51),201112
41
8
36
3.1
2.9
2.7
Mg(oxide),5000v,(1.31),221112
7
detected current [pA]
detected current [pA]
detected current [pA]
3.3
31
26
21
6
5
4
3
16
2
11
1
2.5
2.3
1000
1050
1100
1150
E [eV]
1200
1250
6
800
1300
0
850
900
E [eV]
950
1000
5
10
15
E [eV]
20
25
30
(C)
2.1
Mg(oxide),5000v,(1.31),221112
50
Mg(oxide ),(3 .5 1 ),2 0 1 1 1 2
detected current [pA]
1.9
detected current [pA]
Mg(oxide),30v,(1.13),231112
0
1.7
1.5
1.3
40
30
20
10
1.1
0
0.9
200
300
16
400
E [eV]
500
600
0
10
20
30
40
50
60
70
E [eV]
(B)
Mg(oxide),5000v,(1.31),221112
detected current [pA]
14
12
10
8
6
4
2
0
0
10
20
30
40
E [eV]
(A)
50
60
70
Fig.5 Energy distribution from Mg(oxide) for:(A)Vp=5000v,
(B)1000v,and (C)30v.
A-39
―39―
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1000
1000
100
CuBe,5000v(detail),(1.09),191012
CuBe,30v,(.89),171012
CuBe,1000v,(2.14),101012
100
1
0
1000
2000
3000
4000
detected current [pA]
detected current [pA]
detected current [pA]
100
10
10
5000
0.1
200
400
600
800
1000
0
5
10
15
20
25
30
0.1
0.01
0.1
E [eV]
0.001
E [eV]
E [eV]
10
35
3
9
CuBe,1000v,(2.14),101012
CuBe,5000v,(1.04),151012
30
2.4
2.2
2
1.8
8
detected current [pA]
detected current [pA]
2.6
detected current [pA]
1
1
0
2.8
10
25
20
15
7
6
5
4
3
1.6
2
10
1.4
CuBe,30v,(.89),171012
1
1.2
5
800
1
200
400
600
800
850
900
E [eV]
1000
950
1000
0
0
5
10
15
E [eV]
20
25
30
E [eV]
1.9
(C)
4.9
CuBe,5000v(detail),(1.09),191012
1.8
CuBe,1000v,(2.14),101012
1.7
detected current [pA]
detected current [pA]
4.4
1.6
1.5
1.4
1.3
3.9
3.4
1.2
1.1
2.9
1
50
100
150
50
200
100
150
200
E [eV]
E [eV]
70
CuBe,5000v(detail),(1.09),191012
CuBe,1000v,(2.14),101012
60
20
detected current [pA]
detected current [pA]
25
15
10
50
40
30
20
Fig. 6 Energy distribution
10
from CuBe for:(A)Vp=5000v,
5
0
0
0
10
20
(A)
30
40
50
0
10
20
30
40
50
(B)1000v,and (C)30v.
(B)
文献
1.Walter H. Kohl,”Handbook of Materials and Techniques for Vacuum Devices”,AIP Press (1995).
2.V.S.Fomenko,”Handbook of Thermionic Properties”,Plenum Press DATA Division, N.Y.(1966).
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X線励起と電子線励起の Cr Auger スペクトルの比較
(その後)
福島 整
独立行政法人物質・材料研究機構 中核基盤部門材料分析ステーション
([email protected])
昨年6月の第 39 回研究会で、Cr LMM について、SAM での測定と XPS での測定では金属と酸化物(3価)
の間で生じるシフトが違って見える事について、測定データを扱う上の問題点を中心に報告した。その場で
いくつかの問題点についてのご指摘を頂戴したが、そのうちの重要な1,2点についての進展を報告したい。
1. スパッタクリーニングされた金属表面の C の状態
金属試料表面のスパッタクリーニングは、日常業務でごく当たり前に行われる。しかし、クリーニングし
た後で他の試料の測定結果と比較をしようとした場合、特に比較試料が絶縁物である場合は何を(どのピー
クを)手かがりとして比較するか迷うときが(私には)よくある。ISO に携わっておられる方であれば、そ
のためにエネルギー軸校正の手順があるのであり、チャージアップ補正の基準としての C 1s の位置の指定が
あるのだ、とご指摘くださる。確かにその通りなのだが、私のように疑い深い年寄りであると、たとえ装置
が普段確実に信頼できる担当者に保守していただいていても、測定中の不安定性や故障発生のリスクを考え
ると、どうしても物質基準の補正をしたくなるものなのである。
図1は、前回もお示しした、金属 Cr 表面の C 1s 領域の測定
結果である。As received とスパッタ後に大気に 200 秒暴露した
表面には、見慣れた(吸着汚染による)炭化水素のピークが見
られる。これに対して、スパッタ直後の表面には、少々低エネ
ルギー側に小さなピークが検出される。前回の議論で、これを
炭化水素と同等に見て良いかという問いかけをさせていただい
たところ、カーバイドではないかというご指摘を頂戴した。ま
図1
ず、この点を確認してみた。
3 種類の金属 Cr 表面の C 1s
信頼できるクロムカーバイドのバルク試料が入手できなかっ
たので、アルファ・ケミカルズの高純度 Cr3C2 粉末を入手し、In
シートに埋め込んで XPS の測定を行った。粉末なので表面汚染
がひどいのではないかと心配したが、案の定であった。
図2は、図1の三種類の金属 Cr 表面と Cr3C2 粉末の O 1s ピ
ークについて、as measured でプロットしたものである。これを
見ると、Cr3C2 粉末の O 1s の形状はスパッタ直後の金属 Cr 表面
吸着の O 1s の形状と大変よく似ている。一方、as received と大
気暴露後のピークはいずれも先の二つとは形状が異なる事から、
図2
Cr3C2 粉末と 3 種類の金属 Cr 表面
の O 1s(補正無し)
別の状態をとっていると考えるのが妥当である。この結果から、
Cr3C2 粉末の O はスパッタ直後の金属 Cr 表面に吸着している O と同じ物であると仮定し(吸着水が主)
、こ
A-42
―42―
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の図の値 0.93eV をエネルギー補正値として使用することと
した。なお、Cr3C2 はバルクの電気伝導度 133×104・Ω-1・
m-1 とそれほど大きくないため、測定時にはニュートララ
イザーを作動させている。したがって、今回の中和条件は
実際は過剰だったため、Cr3C2 の O 1s が低エネルギー側へ
シフトしたのだと考えられる。
図3は、図2の結果を用いて補正してプロットした、C 1s
の測定結果である。ここには、ニュートラライザーを作動
図 3 図 2 の結果で補正した各試料の C 1s
させて測定した粉末 Cr2O3 上の C 1s の測定結果も併せて示し
てある。この図を見ると、Cr3C2 の C 1s ピークは、低エネ
ルギー側に小さなショルダーを示しており、この位置はス
パッタ直後の金属 Cr 表面の C 1s の位置とよく一致する。
すなわち、この肩が本来の Cr3C2 中の C の状態を反映して
いるものと推定することは可能である。以後、この仮定を
採用した上で、そのほかのピークの位置の補正を行った。
これは、スパッタ直後の金属表面のデータを基準として測
定データを補正する事に相当する。
また、Cr3C2 の C 1s のメインピークは、as received もし
くは大気暴露後の金属 Cr 表面の C 1s の位置と 0.33eV のず
図4
図3の結果で補正した各試料の O 1s
れを示している。粉末 Cr3C2 表面の C の主状態がこれらの C の
状態とほぼ同じと仮定できるのであれば、この値は酸化皮膜に
よる differential charge-up であると考えられる。また、Cr2O3 上
の C 1s のピークは、粉末 Cr3C2 表面の C 1s の位置とよく対応
している。したがって、以後のプロットにおいて、Cr2O3 のデ
ータはこの図の結果をそのまま用いた。
図4は、図1のデータに対して再度図3の結果を基にプロッ
トし直し、Cr2O3 のデータと併せて示した物である。金属 Cr 上
の表面酸化皮膜は基本的に Cr2O3 と同じ構造をとることが知ら
れており、スペクトルの形状はスパッタ直後を除けばいず
図5
図3の結果で補正した各試料の Cr 2p
れもよく似ている。また、膜が厚くなりバルクになるに従
って、O 1s スペクトルは低結合エネルギー側にシフトする可能性が高いこともわかる。また、図5に同様に
してまとめた各試料の Cr 2p を示す。酸化 Cr 及び金属の位置は相対的によく一致しており、ここで行った補
正の妥当性の傍証になっている。また、粉末 Cr3C2 表面の Cr は、かなり酸化されていることがわかる。
ということで、徹底的にスパッタした後で検出された金属 Cr 表面の C は、かなりの確度をもってカーバイ
ド起因だと推定できる。
2. 計算による Cr LMM の金属と酸化物間のエネルギー変化の検討
もともとのこれらの議論の出発点は、SAM で測定した Cr LMM と XPS で測定した Cr LMM のシフトの方
A-43
―43―
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向が見かけ上異なって見えたことが発端であった。
どちらが正しいかの検証をする上で、対応するクラ
スター計算の利用について検討を進めてきたが、こ
れには大きな問題点が存在した。すなわち、異なる
物質系に対応したクラスターモデルによる結果同士
を、どのようにして比較するかという問題である。
これは、ここで利用している DV-X法だけでなく、
a priori に外部からポテンシャルを設定しない ab
initio 系のクラスター計算法では共通の悩みである。
まずは、図6をご覧いただきたい。これは、最も
小さなクラスターモデルを用いて DV-X法で計算し
た金属 Si と SiO2 の各固有値である。ご存じの通り
図6 最小のクラスターモデルを用いた、
金属 Si はダイアモンド構造であるから、隣の原子
金属 Si と SiO2 の計算例
とで構成される最も小さなクラスターモデル小さ
なクラスターモデルは正四面体型の SiSi40 となる。また、水晶中の Si は、これもよく知られているように隣
接の O 原子とともに SiO44-をとっているので、これをそのままモデルに用いる。光電子放出も何も生じてい
ない基底状態の結果が、図6である。
これを見ると、例えばおなじみの Si 2p のエネルギー値は、XPS でよく見慣れた位置(100eV 付近)とはかけ
離れた値を示している。何よりも、SiO2 の Si 2p の方が固有値の値が小さくて、XPS で見慣れた SiO2 の方が
高結合エネルギー側に出現する実測結果と矛盾している。しかし、この計算結果から中心原子の有効電荷を
求め、自由原子モデルとその結果を用いて再度 Si 2p の位置を計算し直すと、ほぼ実測に対応する結果が得ら
れる。何よりも図6の結果を見ると、SiO2 の価電子帯の準位などは正の値を示している。これは、どのよう
に考えればよいのであろうか。
これは、小さなモデルに大きな電子数が仮定されていること、特に SiO2 では、モデルの一番外側は価電子
のリッチな O 原子で囲まれているため、クラスターモデル全体のポテンシャルがモデル近傍で真空準位より
盛り上がってしまう事などが主な原因である。すなわちこのようなクラスター計算法の場合、クラスターモ
デルの構成原子の原子ポテンシャルやクラスター自体のポテンシャルは、モデル含む原子の種類・原子配置
及びモデルが含んでいる全電子数に依存する。言い換えれば、計算結果として得られる各準位の固有値自体
(準位のエネルギー値に相当)はモデル構築の際に用いた仮定に強く依存するため、類似したモデル間の結
果の比較でない限りは、各準位の固有値の直接比較は意味がない。
したがって、前もってマーデルングポテンシャルを別に評価して計算条件に入れてやるなど(DV-X法で
は、このためのソフトも準備されている)すれば、ある程度この問題を避ける事ができて固有値の直接比較
も可能になりうる。しかし、このような手法を利用すると、せっかくの ab initio 系の良いところが損なわれ
てしまう。ではどうするか。
図7に、真空準位、フェルミ準位、及び導電体と絶縁体の価電子帯の模式図を示す。このような図が成立
するのは絶対零度の条件下である、という「正しい指摘」にはちょっと目をつぶっていただくことにして、
電子分光でエネルギー軸を扱うときのフェルミ準位近傍の位置関係は、大雑把にこのような図で表せるであ
ろう。電子分光測定では、試料からアースに電流が流れて初めて測定が成立するので、試料のフェルミ準位
と装置のアースは同電位であるというのが、重要な基本概念の一つである。そうすると、いわゆる仕事関数
A-44
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表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
は真空準位とフェルミ準位との差であるから、おおよそ図7に書
いたような位置関係になる。また、絶縁物であると、一般にフェ
ルミ準位は価電子帯の最もエネルギーの高いところよりも「高い
ところにある」。従って、試料に電圧を印可する、或いはフラッド
ガンからの電子のポテンシャルを利用するなどして、フェルミ準
位と価電子帯のトップとの差を埋めることでようやく信号が出て
くるわけである。すなわち、この差(図では、
「電荷補償に相当す
る」と記述してある)を知れば、価電子帯のトップの位置をフ
ェルミ準位に合わせて(価電子帯のトップを 0eV として)さら
図7 価電子帯の各準位の位置関係
に補正してやることで、光電子スペクトルや Auger 電子スペクトルに対応した検討を、クラスターモデル間
の計算結果を直接比較しながら行えると考えられる。この場合、価電子帯のトップの位置を、クラスター計
算結果における電子の詰まった最も高いエネルギー準位(highest occupation molecular orbital : HOMO)と見な
すことで補正を行う。また、この補正の値は、図7に示すように第一イオン化ポテンシャルと仕事関数の差
で見積もることができる。
残念ながら、Si に関してはこの両者の値は不
明であったが、Cr2O3 に関しては報告[1]があり、
第一イオン化ポテンシャル(i.p.)は 6.5eV、仕事
関数(w.f.)は 5.6eV であった。今回はこの値を用
いて計算結果を補正し、スペクトルのシフトを
検討することにした。
図8に、計算結果を示す。とりあえず現時点
では、内殻空孔による緩和を考えない基底状態
図8 DV-X法による、金属 Cr と Cr2O2 の、Cr 2p の
のモデルを用い、考え得る Auger ラインと XPS
結合エネルギー及び LMM の運動エネルギー位置の
の測定に対応する Cr 2p の位置を図7の考え方
予備的な計算結果
でデータを補正して求めた。この Auger ライン
の位置は、微細構造を含めた1つのオージェ過程によって発生する線すべてをひっくるめた重心のを与えて
いる。したがって、スペクトル上の個々のピーク位置には直接対応しないことに注意していただきたい。こ
の結果を見ると、XPS のシフト方向は実測の結果と一致しているので、この計算結果の妥当性はあると見な
すことができる。そうすると、Auger ラインの計算
結果からは、金属の方が Cr2O3 よりも高運動エネル
ギー側へシフトする事が示される。
3. 実測スペクトルとの対応
図9は、物材機構・荻原俊弥博士に半球型アナラ
イザによる SAM(JAMP-9500)で注意深く測定して
いただいた金属 Cr と Cr2O3 の Cr LMM である。こ
れを見ると、図8の計算結果は実測によく対応して
いる事がわかる。したがって、X 線励起と電子線励
図9 金属 Cr と Cr2O2 の Cr LMM の測定結果
A-45
―45―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
起で Auger スペクトルの変化に差がない、というきわめて穏便かつ安心できる結果が確認されたことになる。
現在、各 Auger 過程の軌道緩和を取り入れた計算を進めている。また、イオン化ポテンシャルと仕事関数
の両方が入手できる他の物質系に対して、ここでの補正法が妥当であるかどうかの検討を進めることにして
いる。
なお、本稿をまとめるにあたりいろいろとご教示いただいた物材機構・田中彰博博士、岩井秀夫博士、木
村隆博士に感謝申し上げる。
以上
参考文献
[1] Supplementary Information of M. T. Greiner et al., NATURE MATERIALS, Vol.11 January 76-81 (2012)
A-46
―46―
表面分析研究会 第40回研究会(2013.2.21-22/蒲田)講演資料
硬Ⅹ線光電子分光による微量の触媒活性元素の
化学状態分析
吉川
英樹
物質・材料研究機構 極限計測ユニット
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
実用触媒において,触媒物質の量が極微量であっても化学反応場において十分に高い触媒活性
を示す場合は少なくない。Ⅹ線光電子分光法(XPS)は,多くの触媒物質の化学状態解析に利用
されてきた歴史を持っているが,対象とする触媒物質が極微量である場合,XPS では観察は困難
である。近年,硬Ⅹ線光電子分光法(HXPS)が放射光施設を中心に盛んに利用されるようになっ
てきた。今回 1 keV 以上の大きな結合エネルギーを持つ深い内殻準位の硬Ⅹ線光電子分光観察が,
微量触媒物質の化学状態の観察に有効であることを紹介する。
Chemical analysis of small amount of catalytic materials by
hard X-ray photoelectron spectroscopy
Hideki Yoshikawa
National Institute for Materials Science (NIMS)
1-2-1, Sengen, Tsukuba, Ibaraki 305-0047, Japan
It is well known that the small amount of catalytic materials work effectively as high-active catalysts.
X-ray photoelectron spectroscopy (XPS) has been powerful to observe the chemical states of various catalytic materials, but is often not adequate for the chemical analysis of small amount of catalytic materials.
Hard X-ray photoelectron spectroscopy (HXPS) has been recently developed especially at the 3rd generation synchrotron radiation facilities. The effective HXPS detection of deep-core electrons (binding energy >
1 keV) enables to analyze the chemical states of small amount of catalytic materials.
1. はじめに
歴史的に一般的な Al 管球などの軟Ⅹ線光源
を 使った 一般 的なⅩ 線光 電子分 光法 ( X-ray
photoelectron spectroscopy: XPS)は,試料表面の
触媒物質の化学状態観察に積極的に用いられて
きたが,表面層に(成分比が 1%を大きく下回
る)極微量にしか存在しない触媒物質について
は XPS 観察は非常に困難である。一方,実用触
媒において,含有量が少ないにも関わらず極微
量の触媒物質が実用上十分な触媒活性を示す現
象は,しばしば見られる。これらの極微量の実
用触媒物質に対して,化学状態分析をⅩ線光電
子分光で行うには,近年多くの実用材料系で利
用されるようになってきた硬Ⅹ線光電子分光法
(Hard X-ray photoelectron spectroscopy: HXPS)
の利用が効果的であることを紹介するのが,本
発表の趣旨である。
HXPS は,4~15 keV の高いエネルギーを持つ
硬Ⅹ線で高速の光電子を励起する手法で,その
観察深さは 20~30 nm にも達し,”バルク敏感”
または”表面鈍感”な光電子分光法として,近
年,高輝度Ⅹ線光源を持つ SPring-8 などの第 3
世代放射光施設で盛んに利用されるようになっ
てきた。HXPS は,触媒物質の観察において以
下に示す2つの特徴を持っている。
①バルク敏感性による反応生成物層の影響の低
減
超高真空装置である XPS 装置内で触媒反応
のその場観察を行うのは困難であるため,一般
に XPS による触媒物質の観察は,触媒反応前ま
たは触媒反応後の試料を観察する。触媒反応後
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の試料の XPS 観察において,反応生成物が試料
表面を厚く覆っている場合が多く,これが触媒
物質の XPS 観察を妨げる。HXPS は,大きな観
察深さを持つため,反応生成物が試料表面を
覆っていても,その被覆層の下の触媒物質を非
破壊で観察することを可能にする。
②深い内殻準位を高効率に観察する。
HXPS は,結合エネルギー1 keV 以下の浅い内
殻準位に対しては,Ⅹ線のエネルギーが高くな
ればなるほど,光電子の励起確率(正確には光
イオン化断面積)が劇的に減少する。図 1 にそ
の例を示す。図中,shallow core と記したものは,
浅い内殻準位の光イオン化断面積がⅩ線のエネ
ルギーに応じて変化する様子を示している。な
お図 1 の縦軸が対数スケールであることに留意
されたい。
図 1 各内殻準位の光イオン化断面積のⅩ線エネル
ギー依存性。Scofield の理論計算[1]の結果を使って表
示した。
この励起確率が小さいが故に,この励起確率の
小ささを補うために,高輝度放射光光源を使っ
て入射Ⅹ線の光束を増やすことによって,感度
面で HXPS を実用的なものにしている。
ただし,図 1 に見られるように(図中,deep
core と記した)1 keV 以上の結合エネルギーを
持つ深い内殻準位に対しては,HXPS であって
も高い励起確率が期待できる。その上,深い内
殻準位は,他の元素の種々の内殻準位と結合エ
ネルギーが大きく異なるため,浅い内殻準位を
測定した時のように隣接する他のピークおよび
ピークが作る(プラズモンなどの)バックグラ
ウンドスペクトルとの干渉を心配する必要がな
い。また,HXPS では Auger 電子ピークと光電
子ピークの運動エネルギーが大きく異なるため,
Auger 電子ピークとの干渉も心配する必要がな
い。
以上のことから,HXPS を使った深い内殻準
位の観察は,高感度分析に適している。次に,
この特徴を実際の触媒物質の分析に応用した例
を示す。
2. 硫黄終端した Au 上の Pd 触媒の HXPS 観察
GaAs 基板や Au 基板上に硫黄を終端させ,更
に有機パラジウムを固定した触媒が,
Suzuki-Miyaura 反応や Mizorogi-Heck 反応など
の有機化合物において C-C 結合を作るクロス
カップリングに高い活性を示すことが報告され
ている[2-4]。触媒活性を維持した状態で基板上
に固定化された触媒物質は,反応後の触媒の回
収コストの低減,反応後の生成物中に残留する
触媒の濃度の低減が期待されている。例えば,
有澤らによって開発された固定化 Pd 触媒は,
10 回以上の再利用を可能とし,また反応液中へ
の触媒物質の漏れ量は 0.04 ppm とアメリカ政府
機関が決めた基準値 5 ppm [5]を大きく下回っ
ている。この優れた特性を持つ固定化 Pd 触媒
において,有澤らの研究によって基板の硫黄終
端処理が重要な役割を果たしていることが経験
的に知られていた。しかしながら,一般に硫黄
は”触媒毒”として触媒反応を妨害する物質と
して知られており,この触媒の分野における硫
黄に関する一般常識は,上記の有澤らの経験と
相いれないものであった。
この固定化 Pd 触媒における硫黄の役割を調
べるため,HXPS による分析が行われた。その
結果を図 2 に示す。S 1s ピーク(結合エネル
ギー:約 2472 eV)の観察を行い,このときの
Ⅹ線のエネルギーは約 6 keV であった。なお,
通常の軟Ⅹ線励起の XPS では,硫黄の観察の際
には S 2p ピーク(結合エネルギー:約 163 eV)
が利用されるが,本試料においては,1原子層
以下の硫黄が終端した基板上に Pd 触媒および
反応副生成物が堆積していたため,通常の XPS
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では S 2p ピークの観察は困難であった。図 2 中
に示されている"{Pd}S-Au"は,硫黄終端された
Au 基板上に Pd 触媒を固定化したものを意味し
ている。HXPS では,明瞭に S 1s ピークを観察
することができ,0 価に近い化学状態を硫黄が
とっていることが分かった[6]。図 2 中にある
"Piranha-treated Au"は,ピランハ処理によって硫
黄処理をした後の(Pd 触媒の固定化をする前
の)Au 基板を意味しており,この段階では硫黄
は酸化された状態にあることが分かる。しかし
ながら,その後に続く有機 Pd を含むキシレン
中で加熱する(100℃,12 時間)Pd 固定化処理
によって,Au 基板上に堆積している硫黄は 0
価に還元されており,
(基板を終端する硫黄はほ
ぼ 0 価を取ることが分かっているので)硫黄が
Au 基板表面を強固に終端していると考えられ
る。
図 2 硫黄終端をした Au 基板上に Pd を固定化した触
媒({Pd}-S-Au)の S 1s の硬Ⅹ線光電子スペクトル[6]。
この触媒を使った Suzuki-Miyaura カップリング反応
系において,反応前と反応後のスペクトルを示して
いる。参照試料として,Au 基板上に硫黄を堆積する
ためにピランハ処理をした後の試料,Na2SO3 ,PdS
の試料の結果も示している[6]。なお,Na2SO3 試料は,
図中に表記したように,複数の価数の成分が混じっ
たものとなっている。
硫黄は,一般に他の多くの元素と強固な化学結
合を作るために,触媒反応液中で触媒毒となっ
てしまうが,今回の場合,初期段階で Au 基板
上に硫黄が強固に固定化されているため,触媒
反応時に硫黄が液中に漏れることがなく,触媒
毒としては働かないと考えられる。また,Au
基板表面を終端している硫黄は,Pd とも結合を
作っているため,Pd が Au 基板から剥離するの
を防いでおり,そのため Pd 触媒が複数回の再
利用に耐え,かつ反応生成物中への Pd 触媒の
漏れ量も著しく抑制されていると考えられる。
3. デンドリマー中の Pt3Ti ナノ粒子の HXPS 観
察
触媒の分野において,触媒物質をナノ粒子化
することによって,バルクの触媒物質に比べて
触媒活性が向上する事例が多くあることが知ら
れている。ただし,金属ナノ粒子触媒について
は,ナノ粒子化をしようとした際に,ナノ粒子
同士が凝集体を作ってしまい,ナノ粒子化した
ことによる触媒活性の増大効果がうまく発揮さ
れない場合がある。そこで Saravanan らは,触
媒活性のある Pt3Ti 金属間化合物のナノ粒子を
デンドリマー分子のかご状の空間内に挿入し,
Pt3Ti ナノ粒子同士の凝集を抑制することを目
的として,水酸基で終端された第 2 世代デンド
リマー(G2OH と略す)や第 5 世代デンドリマー
(G5OH と略す)と Pt3Ti ナノ粒子の混合溶液を
作った[7]。このようにして製作した試料を透過
電子顕微鏡(TEM)で観察したところ,重元素
の Pt を含む金属ナノ粒子を分散化させるのに
成功したことを確認した。なお,デンドリマー
は,世代数が増えるにつれて,デンドリマー分
子全体のサイズが大きくなる。
TEM の観察だけでは,実際にナノ粒子が,
Pt3Ti の金属間化合物の電子状態を保っている
かどうか,またナノ粒子がデンドリマーのかご
状空間に確かに挿入されているかどうかについ
ての実験的確証は得られていなかった。そこで,
デンドリマーと Pt3Ti ナノ粒子の混合試料につ
いて,Pt の化学状態を知るために HXPS 測定を
行った。HXPS 測定の前に,通常の XPS による
デンドリマーと Pt3Ti ナノ粒子の混合試料の Pt
4f ピーク(結合エネルギー:約 71 eV)の観察
が行われたが,ナノ粒子が非常に希薄であった
ため観察は困難であった。HXPS 測定において
も,浅い内殻準位である Pt 4f ピークの観察は困
難であったので,深い内殻準位である Pd 3d
ピーク(結合エネルギー:約 2122 eV)の HXPS
観察を行った。 その結果を図 3 に示す。
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4. 謝辞
本講演の元となっております研究は,物質・
材料研究機構の下田正彦博士,阿部英樹博士,
Govindachetty Saravanan 博士,北海道大学の有
澤光弘准教授,阿南高等専門学校の塚本史郎教
授との共同研究によるもので,これらの諸先生
方に深く感謝いたします。
図 3 Pt3Ti 金属間化合物の Pt 3d5/2 硬Ⅹ線光電子分光ス
ペクトル。試料の形態は,Pt3Ti のバルク試料,Pt3Ti
の(凝集体を作っていると考えられる)ナノ粒子,
Pt3Ti ナノ粒子と第 2 世代デンドリマー(G2OH)の
混合体,Pt3Ti ナノ粒子と第 5 世代デンドリマー
(G5OH)の混合体.
Pt3Ti ナノ粒子が,(デンドリマーが無い状態
で)凝集体を作っている場合には,バルクの
Pt3Ti と同じ結合エネルギーを持っており,第 2
世代デンドリマー(G2OH)と Pt3Ti ナノ粒子の
混合試料も,Pt 3d5/2 のピーク位置は変化しな
かったことから,いずれの試料も Pt3Ti 金属間化
合物の電子状態を保っていることが分かった。
興味深いことに,第 5 世代デンドリマー
(G5OH)
と Pt3Ti ナノ粒子の混合試料だけが,高結合エネ
ルギー側へピークがシフトする現象が見られた
[7]。4~5nm 以下のサイズのナノ粒子が,電気
伝導性の悪い媒質に囲まれている場合,粒径に
依存して高結合エネルギー側に光電子ピークが
シフトする現象が final state effect として知られ
ている[8,9]。この現象は,G5OH と Pt3Ti ナノ粒
子の混合試料において,Pt3Ti ナノ粒子はデンド
リマー内のかご状空間にあることを示唆してい
る。逆に言うと,Pt3Ti ナノ粒子は G2OH には取
り込まれないことを意味している。これは,
G2OH がデンドリマーのサイズが小さいために,
かご状空間が半開きの状態にあり,Pt3Ti ナノ粒
子を閉じ込めきれないためと推定される。
5. 参考文献
[1] J.H. Scofield, Theoretical photoionization cross
sections from 1 to 1500 keV, Lawrence Livermore Laboratory report UCRL-51326, Livermore, California (1973).
[2] M. Arisawa, S. Tsukamoto, M. Shimoda, M.
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L1197-L1199 (2002).
[3] M. Arisawa, M. Hamada, I. Takamiya, M.
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(2006) .
[4] N. Hoshiya, N. Isomura, M. Shimoda, H. Yoshikawa, Y. Yamashita, K. Iizuka, S. Tsukamoto,
S. Shuto, M. Arisawa, ChemCatChem 1,
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[5] Environmental Health Criteria for Palladium,
International Programme on Chemical Safety
(ICPS): World Health Organization, ISBN
92–4–157226–4, ISSN 0250–863X, QV 290,
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[6] N. Hoshiya, M. Shimoda, H. Yoshikawa, Y.
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Chem. Soc. 132, 7270-7272 (2010).
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Com. 48, 7441-7443 (2012).
[8] G.K. Wertheim, S.B. DiCenzo, S.E. Youngquist,
Phys. Rev. Lett. 51, 2310-2313 (1983).
[9] M. Shimoda, T. Konishi, K. Tateishi, T. Toujyou,
S. Tsukamoto, N. Nishiwaki, M. Arisawa, N.
Hoshiya, S. Shuto, N. Isomura, H. Yokota, Y.
Furukawa, K. Iizuka, T. Ogiwara, Y. Isozaki, Y.
Yamashita, H. Yoshikawa, S. Ueda, K. Kobayashi, J. Appl. Phys. 108, 024309 (2010).
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第 40 回表面分析研究会(2013 年 2 月 21-22 日)での WG 活動について
SASJ WG 担当
永富隆清(旭化成株式会社)
第 40 回表面分析研究会においても WG 討議の時間を確保いたします.各 WG の活動内容等については WG 活動
紹介の Web ページで確認をお願いします.過去の WG 討議での討議予定や討議に用いられた資料,機関誌(JSA:
Journal of Surface Analysis)への報告記事などを閲覧できるようにしています.当日 WG 討議へ参加される場合は事
前にご確認いただけますと幸いです.では,皆様のご参加をお待ちしております.
なお,各 WG の討議予定は以下の通りです(随時更新します).
◆SASJ-WG 活動紹介
こちらのページをご覧ください.
◆ToF-SIMS WG
TOF-SIMS WG では現在発足当時からのテーマである表面に存在する化学種の同定に必要な質量較正手順の標準
化を目指し,これまで共有化してきたナレッジのまとめとしてのラウンドロビンテストを行っています.
次回の WG 討議では,以下を予定しています.
1.RRT-10 以降の活動の進捗
新規質量較正法の探索(進捗)
2.質量較正に与える因子の深堀
初速を考慮した質量校正に関する論文の紹介
◆DP-WG
深さ分析 WG では,現在,高深さ分解能・高感度スパッタ深さ分析を実用レベルで実現することを目的とした活動を行
っています.そのために,まず基本となる,イオンビームのアライメント方法について検討を行っています.
また,「界面」評価に関する実用的な定義作成を目指した活動も行っています.まず分析担当者の要望を把握するた
めのアンケートを実施し,現場の声を反映させた定義となるよう検討を行っています.
次回の WG 討議では,以下を予定しています.
1.多層膜での RR に関して
2.匠の技レシピの改善
3.勉強会或いは検討会の提案
◆XPS-WG
XPS-WG ではイオンスパッタ後表面の分析において「帯電」や「スパッタダメージ」をうけたスペクトルの変化などのた
めに化学状態分析を行うことが困難になるという現状に対し,具体的な課題を抽出し,課題解決につながる取組を行っ
ています.
現在、ダメージ低減化を目指したスパッタ方法として斜入射スパッタの検討を始めています.
次回 WG では以下の討議を予定しています.
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