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コンティンジェンシー理論の再吟味

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コンティンジェンシー理論の再吟味
Kobe University Repository : Kernel
Title
コンティンジェンシー理論の再吟味(Reappraisal of
Contingency Theories)
Author(s)
占部, 都美
Citation
国民経済雑誌,141(3):1-22
Issue date
1980-03
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00172476
Create Date: 2017-04-01
コ ンテ ィ ンジ ェ ン シー理論 の再 吟 味
占
Ⅰ は
し が
部
都
美
き
経営管理論 の発展段階は,(
1)
テイ ラー (
W・F・Ta
yl
o
r
) の科学的管理法に代表
2)
メイ ヨー ・グループ (
Ma
yogr
o
up)に よる人間関係論に
され る古典的管理論 ,(
3)
バーナニ ドサイモン理論 (
Bar
nar
d-Si
mon t
he
or
y)
代表 され る新古典管理論 ,(
といわれ る近代管理論に分けることが できる。近代管理論の後に,新 しい管理
論 として コンティンジェンシー理論 (
c
ont
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nge
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yt
he
or
i
e
s
) が登場 してきた もの
として位 置づけることができるであろ う。それは,条件理論あるいは条件適合
1
理論・
ともいわれている。
現在 では,管理論や組織論において, コンテ ィンジェンシー理論はもはや一
つ の慣用語化 されてい る嫌いがあるが,その本質的特徴についてはまだ十分な
掘 り下げが行 なわれていない ように思われ る。 ここでは, まず, コンティンジ
ェンシー理論について,その展望を行なった上 で, コンテ ィンジェンシー理論
の形成に影響を及ぼ した源流にさかのぼ って検討す ることに よって,その本質
的特徴を とらえ,それを十分に掘 り下げて理解す るとともに,そ こに横たわ る
問題を取 り上げたい と思 う。
Ⅱ
コンティンジェンシー理論の展望
コンテ ィンジェンシー理論は,1
9
60年代か ら生成 してきた ものであるが,そ
の もっとも古典的な研究は, イギ リスのサ ウス ・-セ ックス地方 の 1
0
0の企業
2
d)の実証研究であろ う。その
を対象に行な った ウッ ドワー ド女史 (
J・Woodwar
1
占部都美編 「
組織のコソティジェソシ-理論」1979
第 141 巻
2
第
3 号
実証研究の結果,伝統的な管理論が主張 して きた管理 の幅の原則,専門化の原
則, ライン ・ス タ ッフ組織 の原則,権限 と責任の明確 化の原則な どの管理原則
を実行 してい る企業は,量産 システムとい う技術 システムを とってい る業種に
おいてのみ,企業的に成功 してお り,他 の技術 システムを とる業種 では,かな
らず Lも成功的 でない ことを 明 らかに した。 そ して, 「
技術 システムが異 なれ
ば,有効な組織は異な り,組織 の効率は,組織 と技術 システム との間の適合性
に依存す る」 と主張 した ものであ る。
ここで,技術 システムは生産 システムを意味 している。それは,生産 システ
ムに用い られ る技術 の複雑性 の程度 に よって, (
1個 別受注生産 システム,(
2)
量
3)
自動連続的装置生産 システムに分 け られ る。 (
1)
は,重電機,産
産 システム, (
業横桟 の よ うに,注文生産 であ り,個別の受注に よって製品の仕様設計が異な
り,個 々の顧客 の要求の充足が生産 システムにたい して至上命令をな し,熟練
労働者に よって作業が行なわれ る ことを特色 としている。 (
2)
は,家電や 自動車
の よ うに,見込市場生産 であ り, デ トロイ ト・オー トメーシ ョソの方式が とら
3)
は,化
れ,半熟練労働者に よって作業が行なわれ る ことを特色 としてい る。 (
学工業, セ メン トの よ うに, 自動連続工程に よる生産が行なわれ, 自動制禦が
装置 自体 のなかに組み込 まれ てい るプ ラン ト・オ- トメ←シ ョソであ ることを
2)
の量産 システムを とる業種にお
特色 としてい る。技術度において中位 にある(
いて,伝統的な管理原則が示す よ うに,組織 図や職務記述書に よって各職位 の
権限 と責任が 明確に規定 され,各種 のスタ ッフ職能の専門化が行なわれ, ライ
ン ・ス タ ッフ組織に よって命令系統 を明確に してい る企業がその経済的業績 の
上 で成功 してい る。 これにたい して,技術度の両極にある個別受注生産 と装置
生産の両 システムを とる業種 においてほ, スタ ッフ職能の専門化をあ ま り行な
わ ないで,生産,営業,財務,研究開発を柱 とす るライン組織が とられ,権限
2
J
・Woodwar
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965 (
矢島釣也,中村寿雄共訳 『
新
しい企業組織」1970)
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97
0 都築栄,宮城浩祐,風間萌三郎共訳
現代経営組織論」1971
「
技術 と組織行動 」1971,拙著 「
`
コンティンジェンシー理論の再吟味
3
と責任は明確にされず,環境 の変化にたい して柔軟に適応 し,決定の権限 と責
任が高度に委譲 され,参加的経営が行なわれている企業がその経済的業績の上
で成功 してい る。 この ように,組織 と技術 システムの関係にたいす る比較研究
を通 じて,技術 システムが組織構造の決定において,一つの重要な変数 である
ことを明 らかに したばか りではない。 「
異なる技術 システムにたい して,有効
な組織は異な る」 と主張す る点に,既成の管理論にたいす る新 しい挑戦が横た
わ るのであ る。
T・Lupt
on) は, ウッ ドワ- ド理論を構造的相対主義 (
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ラブ トン (
3
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) と名付けてい るが, それはわれわれの視点か らもほぼ正鵠をえた もの
と思われ る。管理論にたいす るアプローチ として,(
1)
人間的 アプローチ (
human
2)
構造的 アブ p-チ (
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alappr
oac
h) とに分けることができる。
appr
oac
h) と(
前者は, メイ ヨー ・グル-プに よるホー ソン実験を基礎 とした旧人間関係論 と,
C・Ar
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)
,リッカー ト (
R・Li
ke
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) 辛-ーツバーグ (
F.Her
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be
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g)
アージ リス (
に よる新人間関係論に分け られ る。 旧人間関係論は,組織の生産性の決定要因
として組織成員個人のモ ラール とそれに影響す るインフォーマル組織を主張す
る。新人間関係論は,成員の 自己実現の要求をみたす ことに よってそのモーテ
ィべ-シ ョソを高め ることが,組織の効率を高めることであ り,そのための リ
ーダーシ ップ ・スタイルや職務充実を取 り上げてきた。いずれに してち,そ こ
では組織の効率の決定要因 として,組織構造それ 自体 ではな くて,成員個人の
モーティベ-シ ョソとそれに影響す る諸要因が重要な組織変数をなす もの とし
て扱われてきたのである。 これにたい して,構造的アプ ローチは,組織効率の
決定要因 として,組織構造それ 自体を扱 うことを特長 としてお り,それはテイ
ラー以来の古典的管理論者が とってきた アプ ローチである。ちなみに, テイ ラ
f
unct
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onalor
gani
zat
n)を主張 し, テイラ
i
ー自身は,計画部の設置や職能的組織 (
ーの後継者の-マーソソ (
Eme
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on)に よって ライソ ・スタッフ組織が提唱され,
3 T.Lu
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9
7
6,p.1
3
4.
第 141 巻
第
3 号
アーウィック (
L FIUr
wi
c
k) は,有効な組織構造に関す る諸原則を提示 した も
のである。 ウッ ドワー ド理論は,以上の 2つのアプローチのなかで,構造的 ア
プローチに属す るといえるであろ う。組織成員である個人や集団の行動ではな
くて,全体 としての組織構造のあ り方を取 り上げてい るか らであ る。
しか し他方において,古典的管理論は,あ らゆ る環境や条件において普遍的
に妥当す る組織構造の諸原則の定立を 目ざす意味において,構 造 的 普 遍 主 義
(
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m)の上に立 っている。 これにたい して, ウッ ドワー ド理論
は,技術 システムとい う組織の環境が異なれば,有効な組織は異なるとす る点
において,構造的相対主義であ り,その点において古典的管理論 と枚を分かつ
のである。
コソティンジェソシー理論におけ るも う一つの古典的研究は,メ -ンズ -ス
4
T.
Bur
nsandG.
M・St
al
ke
r
)の研究であろ うO彼 らのばあい,組織の環
ト-カー (
境 として技術 システムを取 り上げ るのではな くて市場や技術の環境の変化の速
度を環境変数 として特定化す ることを特色 としてい る。組織の技術や市場の環
me
c
han境の変化があま りな く,安定 してい る企業では,横桟的管理 システム (
i
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cmana
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ys
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m) が有効であ り, これにたい して,技術や市場の環境の
変化の速度が速い企業では,有機的管理 システム (
or
ga
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ys
t
e
m)
が有効であ ることが, レーヨン工場やエ レク トロニ ックス会社の実証研究か ら
導 き出された。 このはあい,機械的管理 システムは, まず集権的管理を特色 と
してい るが, さ らに,複雑な職能別専門化が行なわれ,各職位の権限 と責任の
明確化が行なわれてい るo権限の-イヤラーキ-の原則が守 られ,詳細な管理
手続や規則が設け られ る。そ こでは, また上司 と部下 との間のタテの権限関係
や タテ型の コ ミュニケーシ ョンが重視 され,上司にたいす る部下の忠誠心が尊
重 され る。それは,いわば, ウ ッ ドワー ド研究において,量産 システムにおい
て有効 とされ る組織類型に相当 してし
′
、る。バーンズ -ス ト-カーのばあい,技
術 システムの種類のいかんを とわず,環境の変化が少ない企業においては,機
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,前掲拙著,p
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・
コソティンジェソシ-理論の再吟味
5
概的管理 システムを とってい る方が組織の効率は高い とす るのである。 これに
たい して,有機的管理 システムは, まず分権的管理を特色 としてい る。各職位
の権限 と責任は と くに明細に規定 されていないが,企業の 目的の達成-の関心
が強 く,そのために部門間に有機的な協働が行なわれ る。上司 と部下の タテの
権限ではな くて,む しろ同僚 との間の ヨコの協働関係や ヨコ型の コ ミュニケー
シ ョンが重視 され る。職位の権限ではな くて,能力や知識の権限が尊重 され る。
したが って,環境の変化に よって問題が起 こると,その問題解決の能力や知識
を もった専門家が各部門か ら集め られ, プロジェク ト・チームを編成 して問題
解決にあた ってい くのであ り,能 力や知識の権限が支配的であることを特長 と
してい る。
バ ーンズ -ス ト-カ-のはあい,組織の環境変数を ウッ ドワー ドの よ うに技
術 システムに限定す ることな く,市場環境や製品構造な どをふ くめて,環境 の
変化の速度 とい う尺度か ら環境を類型化 し,他方において組織構造を有機的管
理 システムと機械的管理 システムに二分額す るところに,その特長がある。 し
か し,組織の環境が異なれば有効な組織は異なるものであ り,組織の効率は,
組織 と環境 との間の適合性に依存す るとす る点において, ウッ ドワー ドと共通
してお り,そ こには コソティンジェンシ-理論に共有の方法論的特色がみ られ
るのである。
コンテ ィンジェンシー理論は,は じめイギ リスに生 まれた ものであるが, ア
メ リカの管理論に も導入 され, よ り実践的な展開が行なわれ るようにな るが,
それは ロー レンス -ローシュ (
P・R・Lawr
e
nc
eandJ
・W ・Lor
s
c
h)の研究に代表 さ
5
れ る。 ロ-シュの研究に よれば,企業組織 の全体 とその環境 との適合性が問題
であるばか りでな く,.
企業を構成す る各部門はそれぞれ異なる環境に当面す る
のであるか ら,各部門の組織構造や行動パターンは,それぞれの異なる環境に
適合 して,特殊化 され る方が有効 であるとす る。企業の主要部門は,生産部門,
営業部門お よび研究開発部門か らなるが,生産部門は工場環境に,営業部門は
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前掲拙著,P・R・Lawr
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67
,(
青田博訳 『
組織の条件適応理論』1977)
第 141 巻
第
3 号
マ-ケ ッ ト環境に, また研究開発部門は科学環境にそれぞれ当面 してお り,令
部門のタス クはそれぞれの環境か ら規定 され ている。生産部門のタス クは,情
報の確実性が高 く,変化率 も少な く,安定 してい る。 これにたい して,研究開
発部門のタス クは,情報の不確実性が高 く,変化率 も高い。営業部門のタス ク
は,両部門の間の中間にある性格のものであるo P-シュのばあい,組織の類
型は,たんに組織構造の次元だけでな くて,成員の態度や行動を意味す る組織
行動の次元か らもとらえるのが特色である。後者の組織行動の瑛型化を行な う
尺度 として,(
1)
目標志向性 (
成員の 目標意識が長期的,中期的あるいは,短期
2)
時間志向性 (
成員の視野や関心が長期的,中期的あるいは短期
的であるか)(
的であ るか) (
3)
対人志向性 (
命令的 リーダーシップかあるいは参加的 l
)-ダシップのいずれが とられているか)が用い られている。そ して,情報の確実性
6
が高 く,変化率 も少ない生産部門では,組織構造が高度に構造化 され,成員の
目標志向性や時間志向性が短期的 であ り, また命令的 リーダーシップが とられ
ている組織の方が有効である。 これにたい して,情報の不確実性が高 く,変化
率 も高い研究開発部門では,組織の構造化は低度であ り,成員の 目標志向性や
時間志向性峰長期的であ り, また参加的 l
)-ダ-シ ップが とられている組織の
方が有効である。営業部門は,両者の中間に位す る組織類型を とってい るとき
に,有効である。 この ように,各部門はそれぞれの異なる環境に適合 して組織
構造や組織行動を特殊化す る方が,そ うでないばあいに比べて よ り有効であ り,
このよ うに特殊化 した上で,企業組織全体 として,統合化の組織機構 と組織過
程が整え られ るとき,有効な組織が成立す るもの と結論づけ られ るのである。
以上は, コンティンジェンシー理論の もっとも古典的で,かつ代表的な所論
を跡づけた ものであ り,以上のはかにい く多の研究の展開が試み られている。
要す るに, コソテ ィンジェソシ-理論は,組織の効率の決定要因 として,組織
6 組織の構造化の程度を測定す る尺度 として, (
1)
管理の幅,(
2)
管理階層の数,(
3)
部門の業績報告の
瀕度 と詳細度, (
4)
集権的な公式手続, (
51
業績基準の詳細度が用いられ る。高度に構造化 された組織
は,機械的管理システムにほぼ相当 し,低度に構造化 された組織は,有機的管理 システムにほぼ相
当 している。
コソティソジェソシー理論の再吟味
の環童 との適合性を問題 にす るのであ るが,環境変数や組織変数 の と り方に よ
っ て, い く多の研究を刺激す る可能性を もってい るか らであ る。環境変数 と し
て,技術 システムが ウ ッ ドワー ドに よって取 り上げ られ,組織 と技術 の適合性
が 問題 に され,バ ーンズ -ス トーカーのばあい,環境 の変化の速度に よって環
境 変数が とらえ られ てい る。市場環境 を環境変数 として取 り上げれば,組織 と
7
市場 との適合性が問題にな る。 さらに,規模を組織の環境変数 として とらえれ
8
ば,規模 と組織 の適合性が問題に され る。 さらに,その国の文化や制度を環境
変数 として取 り上げ ることに よって,経営 と文化 との適合性が問題にな り,そ
れ は経営 の国際比較論や経営文化論を形成す る一つの要素 とな る。 さ らに,組
織 成員である個人を環境変数 とみなせば,欲求を異にす る個人や グル ープ と組
織 の適合性が問題になるであろ う。
他方におい て,組織変数について も,いろいろの異 なった とらえ方が可能 で
あ る。 ウ ッ ドワー ドのばあい,組織変数 として組織構造が とらえ られ ていたが,
ロー レンス -ローシュのばあい,組織構造 の次元だけでな く,成員の態度や行
動 のパ タ-ソとい う組織行動 の次元を明示的に とらえてい るo さ らに, フィはす でに1
9
5
1
年に l
)-ダ-シ ップの コンテ ィンジェンシー
9
二
理論にたい して実証的研究を開始 してい る。
ドラ-
(
F・Fi
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er)
フィー ドラーのばあい, リ←ダーシ ップの類型は,(
1
)
仕事中心的 ・命令的 リ
2)
人 間関係中心的 ・参加的 リ-ダーシ ップに分 け られ, リ-ダ
ー ダーシ ップと(
ーシ ップを測定す るための指標を開発 してい るO リ-ダーシ ップの環境変数 と
してほ,(
1)リーダーの もつ職位 の権限の強度
(
2
)
グル -プのタス クの性格 (
ル
3)リーダーと成員の人間
-チ ソな業務かあ るいは非 ル -チソな業務 であるか) (
関係 (
信頼関係があ るか ど うか)を特定化 している。実証研究の結果 として,
グル ープの業績を最大化す るための リーダーシ ップのスタイルの有効性は, こ
7 野中郁次郎著 「
組織 と市場」1
9
7
4
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967.
第 141 巻
第
3 号
れ らの グル ープとタス クの環境変数 の好意性に依存す ると結論づけてい る。す
なわも, リーダ-シップの環境変数が リ-ダーにたい して非常に好意的か,
め
るいは非常に非好意的であ るばあいには,仕事中心的 ・命令的 な リーダーシ ッ
プ ・スタイルが よ り有効 であ るのにたい して,両者 の中間転ある リーダ-シ ダ
ブ状況においては,人間関係中心的 ・参加的 リーダーシ ップが有効であ るとし
1
0
てい る。
D・Mc
Gr
e
gor
) に しても,従来 までの
ア-ジ リス, I
)ッカ- ト, マ クレガー (
1
)-ダーシ ップ研究は, あ らゆ る環境や状況に妥当す る l
)-ダーシ ップ ・スタ
イルを実証す ることに終始 し, あ らゆ る状況笹おいて,仕事*J
b的,命令的 リ
ーダーシ ップに比べ て,人 間関係中心的,参加的 1
)-ダ-シ ップが よ り有効 で
あ ることを実証 してきた。 これにたい して, リ-ダーシ ップの コソテ ィンジェ
ソシ-理論は,特定 の状況要因の下 では,む しろ仕事 中心的O命令的 リーダー
シップの方が よ り有効であ るとす るのであ るか ら,それは,既成の理論 と実践
にたいす る挑戦 とな ることは,い うまで もない。 同 じことは,既述 した組織構
造 の コソティンジェソシー理論について もいえることである。科学的管理法,
人間関係論,近代管理論を通 じて,それ らは共通 してあ らゆ る環境に普遍的に
妥 当す る管理原則や組織法則を追求 して きた ものであ る。それにたい して, コ
ソテ ィンジェソシ-理論は,あ らゆ る状況に適合す る最善の組織はあ りえない
の であって,環境が異 なれば,有効 な組織は異 なるとす るのであるか ら, それ
が既成 の管理論にたいす る挑戦的主張 であ ることには,疑 いない。
管理論の将来の発 展動 向を展望す る意味 で, コンテ ィンジェンシー理論 の其
の特徴は何であるか,そ こに どの よ うな問題があ るかについ て,つ ぎに検討を
加 えたい と思 うO コソティンジェソシ-理論の形成に影響を与えた源流 として,
(
1)
社会一技術 システム論 , (
2)
オープン ・システム論 , (
3)
構造- 機能主義があげ
られ るであろ う。 これ らの源流について,節を分 けて,考察を加えたい と思 う。
1
0 F]
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コソテ ィンジ5./シ-理論 の再吟味
I
I
I 社会-技術システム論
コソテ ィソ ジェソシ-理論は,イギ l
)スの タビス トック学派 (
Ta
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)
の社会一技術 システム論 (
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y) にその直接 の源流を もっ
てい る。 それは, イギ リスの ダーラムの炭鉱 の採炭現場におけ る作業組織 の実
証研究を まとめた トリス - †マ レイ (
E・L Tri
s
tand H・Mur
r
ay) の研究 に起源
してい る。 この研究 では伝統的な切 羽方式にかえて, 「長壁切 削方式」 とい う
新 しい採炭技術を採用 したはあい,二つ の異 なった作業組織を編成 して,両者
の生産性お よび鉱夫 の心理的 ス
㌔ トレスを比較研究 した ものである。
一つ の作業組織は,各人の職務分担 を明確に規定 した伝統的な機械的組織 で
あ り,他の一つの作業組織は,伸縮性を もち,各作業単位が 自律性を もった有
機的組織 であ る。結果におい.
て,生産性お よび欠勤率な どのス トレス指標にお
い て,後者の右横的組織 の方がす く
小
れた業績を示 した。その理 由は,地下にお
け る採炭 の一連 の作業は,落盤, 出水な どの偶発的な変化をひんぽ んに引 き起
こすために,変化に対応 しやすい有機的組織の方が効率が高か った のであ る。
エ メ リー ニ トリス トは,つ ぎの よ うに述べ てい る。
「われわれ の発見は,作業 グル - プの 自律性が,すべ ての生産状況におい て
最大 に され な くてほな らない ことを示唆す るものではない。技術 システムの要
請 を分析す ることに よってのみ,決定 で きる最適の組織化の方法があ るのであ
1
1
る」 と。
近代管理論 におい て,組織 の概念か ら物的 システム,すなわ ち技術 システム
や人的 システ ムを捨象す ることに よって,組織概念を純化 し,組織は, 「
共通
の 目的を達成す るために相互に調整 された人間行動 の システムであ る」 と定義
され,要言すれば一つの 「社会的 システム」 (
s
oc
i
als
ys
t
e
m) として規定 され てき
た。 これにたい して,社 会一 技術 システム論では,組織は社会的 システ ムとし
l
l F.
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.byF.
E.Eme
r
y,
1
96
9,拙著 「
現代経営組織論」 pp・1
05
-111
.
1
0
第 141 巻
第
3 号
て技術 システムか ら独立 して存在す るものではない。技術 システ ムの変化は,
組織に変化を与 えるし,技術 システムの要請をみたす組織が最適なのであ り,
社会的 システムと技術 シス テムとは不即不離の関係にあ る。か くて,組織は,
た んなる社会的 システムではな くて, フ ォーマル組織 とイソフォ-マル組織,
技術 システム,市場条件や成員の質な どの複合的な要素 の相互作用か らな ると
ころの複合的 システムであ るとみ なす ところに,社会一技術 システム論 の特色
が ある。
この社会-技術 システム論か ら,技術 システムの要請 を満たす組織が最適 な
のであ り,組織 の効率は,技術 システ ムと組織 の適合性 に依存す るとい うコソ
テ ィンジェソシー理論に発展 した といえ る。 エ メ リー- トリス トな どが作業現
場 におけ る作業組織 と技術 システムとの関係を研究の対象 とした のにたい して,
ウ ッ ドワ- ドほ,管理組織 と技術 システ ムとの関係を実証研究 の対象 とした と
いえるであろ う。
この社会一技術 システム論 の さらに深い根底には,つ ぎにのべ るオープン ・
システム論があることを注意 しな くてはな らない。
I
V オープン ・システム論
コソティンジェソシー理論が オープン ・システム論に根 ざす ことについては,
内外の諸学者 の多 くが一致す る点であ る。 オープン ・システム論 の源流は, シ
1
2
ステム論 の先駆者 といわれ る- ンダー ソソ (
L.
∫.Hender
s
on)に まで さかのぼ る。
- ソダ- ソソほ,1
9
0
5
年に --バ ト ドの医学部を卒業 し, ほ じ削 ま生物化学
を専攻 したが,後に科学哲学や社会学を専攻す るよ うに なった。その科学思想
T.Par
s
ons
)
,人間関係論 の メイ ヨは,社会学 の泰斗 といわれ るパ- ソソズ (
(
E・May
o
)
,レス リスバ ←ガ - (
F.
J.Roet
hl
i
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r
)
,近代管理論 の祖父 といわれ
C・
I・Bar
nar
d)
,新官僚制論 のマー トソ (
R・
K・M e
r
t
on) な どに影
るバ ーナー ド (
響を与え, とくにバ ーナー ドと親交があった ことは,有名である。 -ソダーソ
1
2 R.Ll
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9
7
8,pp.1
2
-1
4.
コソティンジェソシー理論の再吟味
l
l
ソ 自身は, パ レ- トの影響を うげ,社会的過程 の研究に不可欠の概念 として,
均衡 の概念 を強調 した。その均衡 とは,機械的均衡 ではな くて,有機的均衡,
す なわ ち生体均衡 (
ホ メオスタシス - homeos
t
a
s
i
s
) を意味 してい る。彼に よれ
ば,有機体は,均衡 の維持 を 目的 として, 自律調節の メカニズム (
s
e
l
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r
e
g
ul
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i
ng
me
chani
s
m) を もつ とい う。 環境 の変化か らシステ ムに不均衡 を生ず ることが
あれば,変化が起 こらなか ったばあいに存在 していた であろ う元の均衡状態に
帰 ろ うとす る反応が直ちに行なわれ,それに よって有機体は生存を続け るもの
とされ る。 この よ うな有機的均衡 は, オ- プン ・システムの重要 な特徴をあ ら
わす ものであ り, その均衡 の概念は, メ - ソソズの構造一機能主義,人 間関係
1
3
1
4
論におけ る 「
経営 の社会的均衡論」, メ -チ- ドニサイモ ンにおけ る組織均衡論
や マー トソの 「自然 システ ム論 」 (
nat
ur
a
ls
ys
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e
mt
he
or
y) にそれぞれ異 なった形
L V・Bar
t
al
anfy) のオ -プソ ・シス
で展開 され, さ らにはバ ークラソフィー (
テ ム論に展開 され てい るのであ る。
バ ークランフィーは,本来生物学者 であ るが,1
9
5
2年に, 「物理学 と生物学
におけ るオ ープン ・システムの理論」 とい う論文を発表 し,は じめてオ ープン
・システ ムの概念を 明 らかに した。彼は, また一般 システム論 (
Ge
ne
r
alSys
t
e
m
9
5
4
年に経済学者 のボ-ルデ ィソグ
The
o
r
yGST) の提 唱者 として有名であ り,1
(
K・
Boul
di
ng)らとともに一般 システ ム研究協会 (
Soc
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e
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ne
r
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mRe
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1
5
を設置 した。
彼に よれば,すべ ての有機体は, オ -プソ ・システ ムの特徴を もってお り,
それは環境 との問に物質,情報やエネルギーを交換 し,質源のインプ ッ トとア
ウ トプ ッ トを通 じて,システムの構成要素は変化す るが,安定状態 (
s
t
e
adys
t
at
e
)
を維持す ることに よって,有機体は生存 を続け る。環童か ら刺激を うけ ると,
システ ムはその安定状態を回復 しよ うとして, 自律調節 の棟能を もつ ことが,
1
6
オ ープン ・システムの 一般的な特色であ るとされ る。
1
3 拙著 「
経営学原理」1
9
8
0pp・3
21
7
・
1
4 拙著 「現代経営組織論」現代経営学全集 6巻1
9
7
1, pp.4
6
5
6
.
1
5 R.Ll
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f
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b
l
d.
,pp.1
8
21.
1
2
第 141 巻
第
3 号
バ -タラソフィーのオ ープン ・システ ム論 は, イギ リスにおけ る コソテ ィソ
ジェソシー理論 の発生に直接 の影響を与 えた よ うに思われ る。
i.
J.M i
l
l
erand A.
K・Ri
ce)は,
その著 「
組織 の システム論」
ミラー -ライス (
1
7
(
Sys
t
emsofOr
gani
zat
i
on,1
967) において,つ ぎの ように述べ てい る。
「どの ような企業 もオ ープン ・システムとして理解 され る.企業は,生物体
と共通 した特質を有 してい る。 オ ープン ・システ ムは,その環境 との間に資源
を交換す ることに よって生存 し, また,その よ うなはあいにのみ生存 し うるの
conであ る。 オー プン ・シス テムは,環境か ら資源 をイ ンプ ッ トし,変換過程 (
ver
s
i
on pr
oce
s
s
)を通 じて資源を産 出物に変換 し, その一部を システム内部 の維
持 のために消費 し,残 りを環境にア ウ トプッ トす るo この よ うな投入一変換産出 (
i
mpor
t-co
n
v
e
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s
i
o
ne
x
po
r
t
)の過程は,企業が生存す′
るためには遂行 しなけれ
ばな らない仕事 であ る」 と。
企業は, オ -プン ・システムとして,環境か ら,原材料, 労働力や情報 をイ
ンプッ トし, これを生産過程 とい う変換過程をへて製品やサ ー ビス とい うア ウ
トプッ トに変換 し, それを環境に提供 し,貨幣 と交換す ることに よって,生存
してい る。環境 との問に交易があるか ぎ り, システム内部の構成要素は変化す
るが,それに もかかわ らず均衡状態を保つ ことに よって生存を維持す ることが
できる。不均衡は,有機体 のばあい病気 を意味 しているが,企業組織 のは あい,
効率の低下や衰退をあ らわ してい る。環境 の変化に よって;不均衡を生ず ると,
オープン ・システムは 自律調節作用に よって元 の均衡状態を回復す るよ うに直
ちに反応を起 こす ことに よって,生存 を準 け るのであ る。企業組織が環鄭 こた
い して均衡を維持す ることは,組織 と環境 との間に適合性を保つ ことであ り,
均衡が保たれ るばあいに,組織の効率は もっ とも高い と考え られ るのであ る。
この よ うに して, コソテ ィンジェソシ-理論が オープン ・システ ム論に根 ざし
てい ることが十分に理解 された よ うに思われ る。
16 L.vo
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9
67.p.3.
1
7 E.
J.Mi
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ra
ndA.
K.Ri
c
e,S
コソティンジェソシー理論の再吟味
1
3
しか し, オープン ・システム論を管理論や組織論に適用す るばあい, ともす
ればおち入 りやすい錯誤があ り, コンティンジェンシー理論それ 自体に も一つ
の錯誤があることは,注意 しなければな らない。
オ -プソ ・システムは,本来生物ない し有機体を説明す る概念であるO生物
は,意思決定の過程を もたない 自然 システム (naturalsystem)であ り,環境の変
化にたい しても無意思的な 自律調節作用を通 じて反応 し,均衡状態を保つ こと
を特色 としてい る。 これにたい して,組織は,人為的 システム
s
t
em ) であ る点で,生物 とは異なってお
(
manmade s
y-
り,環境の変化にたい して 自律的に適応
す るのではな くて, あ くまで経営者 とい う行為主体の意思決定を通 じて適応 し
ていかな くてはな らない。
ウッ ドワ- ドにおいて,組織は,異なる技術 システムの環境にたい して,組
織それ 自身が反応 して適合性を保つ ように とられているが,それはオ-プソ て
1
8
システム論の適用における一つの錯誤 ではないか と思われ る.技術 システムの
要求にたい して組織が適合性を保つためには,その間に意思決定の過程を必要
とす る。 もしそ うであるとすれば,サイモンが主張す るように,行為主体の意
思決定を導 く決定前提には,事実前提 と価値前提 とがある。た とえ, ウッ ドワ
- ドが実証す るように,量産企業におい七は,棟概的管理 システムが有効 であ
ることが事実であるとしても,組織設計には事実前提だけでな く,経営者の価
値前提が作用す るであろ う。価値前提 として,経営者が経営民主化の経営理念
を もち,あ るいは従業員の 自己実現の欲求をみたそ うとす る人間主義的な経営
理念を もつ ときほ,量産 システムにおいても,技術的要請が許す範囲において,
従業員のモラールの向上をほか るた削 こ,分権管理を行ない, さ らに 自主管理
1
8 筆者は,1
9
7
1
年に公刊 した拙著 「
現代経営組織論」においてこの種の批判を行なったが, (
同書
pp.1
45
66) 後にチイル ド (
J・Chi
l
d,Or
ga
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i
そ
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orMan,i
n "Ma
n and Or
ga
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i
on日
,
e
dt
・byJ
IChi
l
d,1
973) によって,同種の批判が行なわれている。彼によれば,環境変数 と組織変
数 との間の関係は,実際には機械的, 自動的なものではない。一つには,組織的意思決定者の組織
方針によって,一斉の環境条件にたい しても,経済業掛 こ重要な影響を与えることな しに,異なっ
た蔽織を選択する余地があるか らである。二つには,技術 システムなどの環境は,決 して与件では
な く,組鰍 も 環境を計画的に操作 した り,環境を選択する戦略的選択 (
s
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r
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gi
cc
hoi
c
e
) の余地
を残すことをその理由としてあげている。 (;
b
2
'
d・
,pp・242-6)
・
1
4
第 141 巻
第
3 号L
作業集団を形成 し,有機的管理 システムに近づけ る努力が行なわれ るであろ う。
多 くの コソティンジェソシー理論において,組織の効率 と成員のモ ラ-ル と
は切 り離 され,環境,組織,効率 の三者の関係のみが取 り上げ られ るが,組織
の効率 と成員のモーティべ -シ ョソは,不即不離 の関係にある。
ウッ ドワ- ドは,機械的管理 システムを採用 してい る量産企業においては,
「
業績が良好 であるにかかわ らず, 与れ らの企業におけ る従業員は, ス トレス
と不安感を もってい るのが特徴 であ り, --・
手に負えない よ うな人間関係の諸
1
9
問題が集中 していた」 と述べ てい る。そ こでは,効率 とモ ラールの両者は切 り
離 されてい るが,短期的にほ とも角 として も,長期的には両者は不即不離 の関
係にあ り, モ ラールの低下は組織 の効率を阻害す ることは, 自明の ことであ る。
コソティンジェソシ-理論は, オ-プソ ・システ ムのアナ ロジ-に とらわれ
て,組織それ 自体が環童 の要請 に反応す るかの よ うにみ るところに,一つ の錯
誤があるといえる。環境 と組織 の適応 の間には意思決定の過程が介入す る事実
を看過す るのであ る。意思決定 の過程をへ て,組織構造の適応が行なわれ る と
すれば,意思決定には事実前提 とともに価値前提が働 らき,経 営者の経営理念
が組織設計 の決定に重要 な影響を与 えることをみのが してい るといえる。
さ らに,閑説すれば, オ -プソ ・システ ムのアナ ロジ-に とらわれて,組織
と環境 との適合性に注意 を奪われて,組織 の効率 の決定要 因 としてのモ ーティ
べ-シ ョン要 因を軽視す る嫌 いがあ ることも, コンティンジェンシー理論 の一
つの問題点 であろ う。た とえば, p-シュに よれば,情報 の不確実性 の高い研
究開発部門では,参加的 リ-ダ-シップが有効 であるのにたい して,情報 の確
実性 の高い,安定 した生産部門 では,命令的 リーダーシップが有効 であ るとす
る。 しか し,生産部門の従業員 も, 自己実現 の欲求を もつ とすれば,命令的 リ
-ダーシップの下 では従業員の 自己実現 の欲求は満た されないか ら, モラ一ル
は低下 し,それは長期的には組織 の効率を低下 させ ることが考 え られ るのであ
る。
1
9 Z
b
l
'
d
.
,Woodwar
d,I
ndus
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r
i
alOr
gani
z
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l
O
n,Pp.1
8011
.
コソティンジェソシー理論の再吟味
1
5
つ ぎに, オ ープン ・システム論 を管理論に適用す るについて, も う一つのお
ち入 りやすい トラップがあ る。生物は,その 自律調節作用に よって環境に適応
してい くが,環境を積極的に変えた り, コン トロール した り, あるいは 自己の
生存 に有利な新 しい環境を創造す るよ うな機能を もたない。 オ -プン ・システ
ムのアナ ロジーに とらわれ て, ウッ ドワ- ドほ,一定 の技術 システムを所与 と
して出発 して,技術 と組織 の適合性を問題に してい る。他の コンティンジェン
シー理論においても,市場環境や規模な どの環境を所与 として,環境 と組織 と
の関係を問題 にす るのが,特徴 である。人為的 システムであ り,それ 自体が意
思決定 システムであ る組織 のばあい環境 に受動的に適応す るばか りでな く,そ
の戦略的決定を通 じて 自己の生存に有利な よ うに,環境を変 えた り,新 しい環
境 を創造 してい く点 で,生物 とは まった く異 な るのである。組織 の環境適応に
は意思決定が介在す るか ぎ り,組織 と環量 との間の均衡は,組織が環境 の要語
をみたす よ うに受動的に適応す るばか りでな くて,戦略的決定を通 じて環境を
変 えた り,新 しい環境を創造す ることに よって も,保 たれ るのである。
Vol
vo)社は, コンベアー ・システムを廃止 し
現に, ス ウェーデンのボルボ (
て, 自主管理作業団に よって 自動車組立を行な うよ うに,生産 システムを変革
す ることに よって,成員のモ -ティベ -シ ョソを高め, 同時に生産性 の向上 と
欠勤率 の減少 とい う成果をあげてい ることは,周知 の事例 であ る。わが国の量
産企業においても, コンベア ・システムの採用が技術的,経済的 な理 由か ら必
要 とされ るばあいで も,各作業者の作業サイ クルを延 ば し, コンベアの速度を
落す とい う技術変化を行なって,職務拡大をはか ることに よって, モ -ティべ
-シ ョソと生産性 の向上をはか ってい る事例は,多い。
さ らに,製品が多角化 し,市場環境が複雑 になれば,組織 の市場環境 の安定
化 と単純化をはか るために,企業は職能別組織か ら製品別事業部制へ変革を と
げ ることに よって,環境- の適応を行な うのである。 この点について, チ ャン
ドラーは, 「
経営戦略 と組織」についての実証研究か ら,盤業は,環境 の変化
に適応す るために,経営戦略を決定 し,その戦略を成功 させ るために,組織構
1
6
第 141 巻
第
3 号
道 を変革す るのであ って, 「組織構造 は戦略 に したが う」 とい う命題 を提 出 し
2
0
てい る。企 業が現有製品分野 の拡大戦略 や垂直 的多角化戦略 を採用す る ときは,
職能 別部 門組織が有効 であ るのにたい して,異 な る製品分野 に多角化す る水平
的 多角化や斜行的多角化 の戦略 を採用 す る ときは,製 品別事業部制が有効 であ
る事実 を指摘 してい る ことは,重要 であ る。
最後に, オ -プソ ・シス テ ムの アナ ロジ-は, コソティンジェンシ-理論 に
保守的性格 を与 え る側面が あ ることを注意 しなけれ ばな らない。 ウ ッ ドワー ド
は, 「
量 産企業 では,意識 的に組織計 画を作成 してい る企 業は,成功 してい る
が,個別受注生産企業 では,意識的に組織計画を作成 してい る企業 よ りも, 蘇
意識的に組織 が技術 システ ムに順応 してい る企業 の方が業績が よい」 と主張 し
てい る。 それ は,生物 は環境 の変化 にた い して 自律調節に よって無意識的 に適
応 してい くとい うオ ープン ・システ ムの アナ ロジーに とらわれた保守的見解 で
2
1
あ る。 それ は,環境 の変化や価値観 の変化 にた いす る組織変革や組織開発 の努
力にたい して冷 水を浴 びせ る保守的性 向を もつ もの といわ な くてほな らない。
V 構造-機能主義
最近 では, コンティンジェンシー理論 にたいす る組織社会 学か らの研究が多
s
t
r
uc
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al
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un°
くなってい るが,組織 社会学 に共通 にみ られ る構 造-機能主義 (
t
i
onal
i
s
m) が コンティン ジェン シー理論 に影響 を与 えてい ることをみの が せ な
い。構造一 機 能主義は, 社会学 の一つ の方法論 であ り, それはパ ー ソンズ (
T・
Par
s
ons
) の社 会 システ ム論 をは じめ, マ ー トソ (
R・
K・M e
r
t
on)や グール ドナ ←
(
A.W .Goul
dner
) にお け る官僚 制 の逆 機能論 な どに共通にみ られ るもの であ る。
2
2
構造一 機 能主義に よれ ば,組織 は, よ り広い社 会 システ ムにた い して一つ の
20 A.
D.Cha
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dSI
,
u
c
l
u
r
e
,1
962 (
三菱経済研究所訳
「
経営戦路と組織」
)
, 拙著 「
事業
部制と利益管理」現代経営学全集第17巻 pp・77-8・
21 拙著 「
現代経営組綴論」197
1, p・1
64,チャイルドも,筆者と同じく,後に,ウッドワード
理論
の保守的性格を指摘しており, (J・Chi
l
d,Or
ga
ni
z
at
i
o
n,
i
bt
d
・
,p・246)
,
両者の見解が一致している点
は,興味深い。
22 主として,メ-ソソズの社会システム論 (
T・Pa
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o
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m,1
951
)によっているO
コンテイソジェソシー理論の再吟味
1
7
機能を果たす ところの特定のタイプの 目的を達成す るた削 こ組織化 された一つ
の社会 システムとみな され る。企業組織の 目的は, よ り広い社会 システムであ
る経済制度にたい して特定の機能を果たす もの とみなされ る。組織それ 自体 も,
各下位 システムか ら構成 され るが,各下位 システムは組織にたい して特定 の機
能を果たす ものであ り,成員個人は,一定の役割 と相互関係を与え られ,一定
の価値体系の下に,組織に統合 化され るもの とみなされ る,組織が生存す るた
めにはその機能を果たす ことが必要 であ り,そのためには, (
1)
適応 (
adapt
at
i
on)
(
2)
目的達成 (
goal
ac
hi
e
ve
me
nt
)(
3)
統合化 (
i
nt
e
gr
at
i
on)お よび(
4)
維持 (
mai
nt
enance
)
が必要 とされ る。 ここで,適応 とは,他のシステム,すなわち環境か ら材料,
人,資金な どのインプッ トを うけて, 内部 で これを変換 してアウ トプッ トを環
境に提供す ることを意味 してお り,適応の過程を通 じて他のシステムの要求を
みたすのであ り,構造一棟能主義がオープン ・システム論 の上に立ってい るこ
とはい うまでもない。統合化 とは,組織の各下位 システムを全体に統合す るこ
とであ り,維持 とは,一定の価値体系を維持 し,各成員の一定の相互関係を維
持す ることをさしている。適応 と日的達成は,組織の能率の問題 であ り,統合
化 と維持は,組織 の安定の問題をな してい る。
要す るに,構造一機能主義は,組織の機能 とそれを遂行す るのに適切 な構造
2
3
的関係を重視す るが, シルバ ーマン (
D・Si
l
ve
r
man) も指摘 しているように,組
織 の機能は,組織行動の結果であ り,それは組織行動が引 き起 こされ る原 因を
説 明す るものではない。組織行動は,意思決定を通 じて引き起 こされ るのであ
り, さらに意思決定はなん らかのモーティべ-ショソに よって引き起 こされ る
ものである。構造-故能主義の下では,組織の形式的な構造や機能は考察 され
るが,組織行動の原因である意思決定やモーティべ-シ ョソとい う組織の動態
23 シルバ-マン (
D・S
i
l
v
e
r
ma
n) は,構造一機能主義を批判 して,それは,一定の環境にたいす る
行為主体の定義や彼の利用できる選択を無視 し,組織の機能を重視す ることに よって,組織構造の
形成に働 らく行為主体の合 目的な行動の役割を軽視するとしている。また,人間のモーティベ-シ
ョソにたいする考察を抜きに して,鮭織構造にたい して因果論的説明を行な うことは,困難である
i
i
ve
r
ma
n,TheThe
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9
7
0
)
.
としている。 (D.S
1
8
第 141 巻
第
3 号
的過程は, とらえ られないのであ る。
つ ぎに,構造一 機能主義の下 では,組織 の動態的な環境適応の過程が十分 に
とらえ られない とい う欠陥が ある。組織 の変革は,外部 の環境の変化に よる外
生的変革 と,組織 内部の緊張か ら生ず る内生的変革 とに分けて考察 され るが,
やは りオ ープン ・システムのアナ ロジ-に とらわれ て,組織が環境を変 えた り,
.
あ るいは新 しい環境を創造す るよ うな動態的な環境適応 の過程は,取 り扱われ
ないのであ る。
コソティンジェソシ-理論 と構造一 機能主義 とは同 じではない。前者は,後
者の影響を うけなが らも,環境 ・組織 ・効率の三者 の関係を実証す るためには㌢
比較研究が必要 であ り,そのためには操作能可な概念構成を必要 とし,組織や
環境 を測定す るための具体的な指標化を必要 としてい る。
最近 の コソティンジェソシ-理論 では,組織類型の測定にあた って,つ ぎのい
2
4
よ うな指標が用い られ てい る。
(
1
) 複雑性
(
c
ompl
e
xi
t
y)製品や技術が多様化 し,異質 の専門家の数が多いほ
ど,組織 の複雑性が高い とされ る。組織 の複雑性が高いほ ど,異質の情報源の
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数が多いので,た とえば革新の アイデアが多 く生 まれやすい とす る。
(
2) 公式化 (
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on) それは,業務 の遂行の基準や方法を規定す る手続
や規 則が どの程度成文化 され てい るか,計画や報告制度が どの程度公式化 され
てい るかをはか る指標 である。公式化の程度が高いほ ど,各人の 自由裁量の余
地が少な く,環境-の適応力が弱い機械的組織の性格を もつ。公式化 の程度が
低いほ ど,伸縮性のあ る有機的組織をな し,改善のための情報収集が活発に行
なわ九,革新の アイデアは多 く生 まれ るとす る。
(
3) 集権化 (
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on)管理 階層の数が多 く,決定 の権限が トップに集権
化 され てい るか, あ るいは分権化 され てい るかを測定す る指標をな してい る。
集権化が行なわれ てい るほ ど,環境-の適応が遅 く,革新 のアイデアは窒息 し
2
4 この組織測定指標は,主にザルトマン=ダソカソによったものである。(
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5)
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コソティンジュソシー理論の再吟味
1
9
て しま う。分権化に よって,意思決定への参加が行なわれ るほ ど,組織は,香
機的であ り,情報量が増 し,革新のアイデアが生み出されやすい とされ る。
(
4) 対人関係 成員相互の対人関係は,開放的であ り,挑戦的であるほ ど,
また,信頼関係が強いほ ど,革新は成功率が高い とされ る。
(
5) コソフ リダッ トの解決
組織内部の コソフ リクッ トが どの ような方法で
解決 されてい るかを測定す る指標 である。問題をすべて表面に出 し,意見の不
一致の原因を究明 し,徹底的に意見を戦わせ るコソフロンテ-ショソ (
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n)が行なわれ る組織は,革新のアイデアが多 く生み出され る。 これにたい
して,政治的なかけ引きや妥協に よって, コソフ リクッ トを解決 している組織
では,革新の発生は少ない とされ る。
以上の よ うな組織測定の指標は,組織のきわめて形式的な構造的特徴を とら
えるものにす ぎない とい う点で,最近の コソティンジェソシ-理論は,組織社
会学におけ る構造-機能主義の影響を強 くうけてい るように思われ る。貌織の
効率を決定す る要因は,意思決定,情報処理, コ ミュニケ-ショソあ るいはモ
ーティべ-シ ョソとい う組織の動感的な過程のあ り方 であるにかかわ らず,そ
こでは,組織の形式的な構造的特徴が とらえ られているにす ぎない。わずかに,
2
5
p-シュの研究か ら, コソフT
3ソテーショソとい うコソフ リクッ ト解決の過程
が取 り入れ られているにす ぎない。意思決定やモ-ティべ-ショソの概念を欠
くと,組織の実体的特徴は適確に とらえ られないのである。た とえば,(
1)
の複
雑性についていえば,異質の専門家の数が多い とい うことは革新の発生に直接
につなが るものではな くて,異質の専門家の間の異花授精が行なわれ る鼠織過
程を もつ組織においては じめて,革新の発生率は高いのであるO さらに,革新
は, 内部の技術的発 明よ りも,外部の市場の新 しい ニ-ズの発見か らくるばあ
いが圧倒的に多いのであるか ら,異質の専門家の数が多いか少ないかをほか る
組織の複雑性の指標は,革新の発生率を予定す るもの とはな らない といえる。
25 J
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965,pp・1
46-7,才
出著 「
現代経営組織論」 pp.1
98
-9.
20
* 141 %
#
3 %
(
2)
の公式化についていえば,公式化の程度が高いほ ど,組織は非伸縮的 であ
り,機械的であ り,革新の発生が少ない とされ る。 しか し,企業の意思決定に
紘,定型的意思決定 と非定型的意思決定 とがある。前者は,一定の方針,手続,
規程を予め設定す ることに よって敏速に処理 され,組織成員は,革新に導 く非
定型的決定に よ り多 くの時間をさ くことが できるのである。 したが って, 手続
や規程の数が多いか少ないかをはか る公式化の指標は,組織のきわめて形式的
な特徴を とらえるものにす ぎない。 また,公式的な計画や報告制慶 も,公式化
の一つの指標 とされ るが,長期経営計画や戦略的経営計画は,公式的に作成す
2
7
る方が,そ うでないばあいに比べ て,革新を刺激す るはず であ り,それ らを公
式的な手続,規程 と同 じ範噂に取 り扱 うことに も,問題がある。
(
3)
の集権化の指標についていえば,分権化が行なわれ るほ ど,組織は有機的
であ り,革新の発生率が高い とされ るが,そ こにはやは り意思決定の概念を欠
くた馴 こ,組織の実体的特徴は適確に とらえ られ ていないのである。分権化に
2
)
連邦制分権化の区別がある。前者は,職能的部門組
は,(
1)
職能制分権化 と,(
織を と りなが ら,分権化を行な うものであ り,後者は,事業部制に よる分権化
を さしてい る。後者のはあい,各事業部は,独 自の利益責任を もつ 自立的な経
営単位 として組織 され,それにたい して分権化を行 うものである。 同 じ分権化
であっても,職能制分権化 と事業部制に よる分権化 とでは,意思決定のパ ター
28
ンを全 く異に し, したが って組織の実体的特徴を異に してい るのである。
ⅤⅠ む
す
び
コソティソジェソシ-理論は,近代管理論以降に登場 した新 しい管理論 の意
義をもってい ることをわれわれは否定す るものではない。 とくに,その メ リッ
トとしては,組織 ・環境 ・効率 の三者の関係を実証す るために,概念の操作化
が行なわれ,組織 の測定指標が開発 され 統計的な比較研究をすすめて きた貢
27 拙著 「
戦略的経営計画論」197
0
,同 「
経営戦略と経営計画」現代経営学全集 7巻,1
97
3を参照さ
れたい 。
82 拙著 「
事業部制 と利益管理」現代経営学全集, 7巻 ,1
96
8を参照されたい.
コソティソジェソシ-理論の再吟味
2
1
献 は大 きい といえ る。最近 では,経営 の国際比較 において も, それ らの測定指
標が用い られてい る。
しか し, ここで, コンティンジェンシー理論をその源流に さかのぼって検討
を加 えてみ る と, それは明 らかにオ ープン ・システ ム論に根 ざしてい る ことに
ついては,異論 はないであろ う。組織を クローズ ド・システムとしてではな く,
オ -プソ ・システ ムとしてみ る新 しい視野については,われわれ も同感 であ る。
近代管理論におい て,組織は,適応的 システ ム (
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m) とみな され,
そ こにはオ ープン ・システムの概念が基底におかれ てい るといえ る。
しか し, オ -プソ ・システムは,本来生物を説 明す るシステムの概念 であ り,
それが もつ 自律調節作用や情報 フィー ドバ ックの原理は,機械工学や情報科学
に も応用 され,社 会学や組織論に も応用 され てい るのである。 しか し, オープ
ン ・システムの概 念を組織に適用 した コンティンジェンシー理論には, オ ープ
ン ・システムのアナ ロジ-に とらわれた多 くの トラップがあ ることをわれわれ
は指摘 したのであ る。
オ ープン ・シス テムのアナ ロジーに とらわれ て,組織は,恰か もそれ 自体 で
環境 に適応す るか の よ うに考 え,組織構造 と環境 との間に意思決定が介在す る
ことをみのが してい るのであ る。 さらに, オ ープン ・システムの アナ ロジーに
とらわれ て, 組織 は, 環境 の変化にたい して受動的に適応す るだけでな くて,
戦略的決定を通 じて, 自己の生存に有利 な ように,環境を コン トロール した り,
新 しい環境を創造す ることに よって,環境 と組織 との間の均衡を保 ってい くこ
とをみのが してい る。 この よ うにみ て くると, コソティンジェソシ-理論は,
組織 と環境 との適合性につい ての比較静態学的研究以上 の ものではないのであ
って,組織 の動態 的な環境適応 の理論 を提供す るものではない といえ る。
さ らに,最近の コンティンジェンシー理論 には,構造一機能主義に も とづ く
組織社会学の影響が強 くみ られ る。構造一機能主義は, オ ープン ・システム論
の社会学的な展開 であ る。 そ こでは,組織が他の システムや よ り高次の システ
ムに果たす機能や構造が重視 され るが,組織の機能は,組織行動の結果 にす ぎ
2
2
第 141 巻
第
3 号
ないのであって,組織行動の原 因をなす意思決定やモ-ティべ -シ ョンの過程
は, とらえ られないのである。われわれの見解 では,意思決定や モ ーティべ シ ョソの概念を欠 くために,組織構造の とらえ方 も,形式主義に流れ,組織構
造 の実体的特徴を とらえ ることに失敗 している といわな くてほな らない。
0世紀初頭におけ る- -メ - ドの科学哲学
オ ープン ・システム論 の源流 は,2
普, - ソダーソソに さか のぼ る。彼は,人 間関係論 の メイ ヨー,構造一 機能主
義 のパ -ソソズ, そ して近代管理論の祖父 であ るバ ーナ - ドに も影響を与えた。
そ して また, バ ークランフィーを- て, イギ リスの社会一技術 システム論に も,
影響 を与え る結果になってい る。 コンティンジェンシー理論 の直接 の源流は,
社 会一技術 システム論 であ り, それにたい して後に構造一棟能主義 の影響が組
織社会学者の手に よって加え られた もの といって よいであろ う。 しか し, 同 じ
オ ープン ・システム論 を源流に もつが,科学者 であ るとともに経営者の経験 を
もつバ ーナー ドに よって構築 され,サ イモ ンに継承 された近代管理論に も う一
度帰 ることに よって, コンティンジェンシー理論 の経営学的展開が正 し く行 な
え るよ うに思われ るのであ る。
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