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3 力学とエネルギー
物理学 第 3 回 3 力学とエネルギー 3.1 運動方程式を「解く」ということ ニュートンの運動方程式は F = ma と書かれる。ここで、m は物体の質量、a は加速度である。左辺の力 F が与 えられると、それから加速度 a を知ることができ、そこから速度や位置とい うその物体の運動が求められる。ここでは最も簡単な場合について、その方 法を調べてみよう。 地上の物体は、それを支えるものが無ければ落下する。古代ギリシャのア リストテレ スの運動論では 、物体には本来存在すべき場所 (石では地面,煙 は上空) に戻ろうとする、という運動 (自然運動) によって物体の落下を説明 した。むろん 、現在では落下をこのようには説明しない。 ところで 、落下の際、速度が徐々に大きくなることは容易にわかる。石を 手にもち、それを話して落下させると、手からはなれた瞬間は速度はゼロで、 徐々に速くなる。速度の変化率を「加速度」という。 一方、ガリレ イの慣性の法則によれば 、力の働いていない物体は等速度運 動を続ける。落下運動は等速度運動ではないので、この物体には「力が働いて いた」ということになる。地上で物体の落下をもたらす力を「重力」という。 この物体に働く「重力」は、その物体と地球との万有引力である。それは、 2 つの物体 (今の場合だと、地球と物体) の間の距離の 2 乗に反比例するので、 場所によって異なる。例えば高い山の上の物体は海面上の物体に比べ少しは 重力が小さいが 、地球の半径に比べ,山の高さなど 問題にならないくらい小 さいので 、地上ではの重力がほぼ一定と考えてよい。また、万有引力は物体 の質量に比例するため、重力を F = mg と表す。この g は一定である。この重力をニュートンの運動方程式に代入する。 F = mg = ma これから、 「加速度 a は、g に等しい」ということが分かる。すなわち,重 力を受けて落下運動する時の加速度は g となる。この g のことを「重力加速 度」という。g は一定であるから,落下運動は 、等加速度運動ということに なる。 この運動方程式を「解いて」、物体の運動、すなわち、速度と位置を知るこ とが出来る。それは以下のように行う。 1 加速度は「速度の変化率」である。速度が一定なら加速度はゼロだし 、自動 車の急発進のように球に速度が変化する場合には加速度はおおきい。これを、 v a= t と書こう。右辺の 化 v v は、時間間隔 t = t2 ; t1 の間に速度 v がどれだけ変 t = v2 ; v1 という意味である。この時間間隔が長いと正確な加速度に ならず、均されたものとなってしまう。そこで v dv a = limt!0 t = dt というように書く。この表し方を「微分」という。加速度は速度の時間に関 する微分である。 落下の運動では、運動方程式から、加速度 a は重力加速度 g に等しい。そ こで、速度は v(t) = gt というように時間に比例して増大する。物体の移動距離は、速度が一定なら 速 度 時間 時間 となるが 、速度が時間に比例して変化する場合には 加速度時間 2 となる。すなわち、 仕事とエネルギー 3.2 日常用語の「仕事」(英語で 語で x(t) = 12 gt2 work ド イツ語で arbeit(アルバイト ) フランス traveille(トラバーユ)) には、「金を稼ぐ 手段」といった意味がある。少 しも仕事をしないのにたくさんお金を貰う、とか逆にたくさん仕事をしたの に・ ・ ・、とか日常的な意味での仕事の「量」を決めるのは困難である。しか し 、物理学での「仕事」は「力と移動距離の積」という明確な量で規定され ている。 W =F s s は力の働く方向への移動距離である。力 F の単位は Newton(= 2 Kgm=s ) であるが 、仕事の単位をジュール 、Joule(= Nm = Kgm2=s2 ) で 表す。日常的にはこの単位より、仕事率 (単位時間あたりの仕事) の単位であ るワット、Watt(= J=s = Kgm2 =s3 ) のほうが馴染み深いかもしれない。 ここで ここで、仕事を「行う」のは力もし くは力を発揮している主体である。あ る人が質量 m の物体を持ってゆっくりと垂直に s だけ上ったとすると、その W = mg s だけの仕事をしたことになり、逆に s だけ下に下がると W = ;mg s の負の仕事をしたことにする。これは、その人が物体を支え 人は ているのは「上向き」の力のためである。また、 「仕事をされる」のは力の働 いている物体である。では仕事をされた物体はその仕事によって何が変わっ 2 たのだろうか。これを考える前に、 「仕事の量は経路に依らない」ことを、図 でみてみよう。 図で、質量 m の物体を斜面に沿って斜めに押し上げたときの仕事量を計算 してみよう。斜面を持ち上げるときの力は F = mg sin 斜面の長さは 、 l = sinh ここで、h は斜面の高さ。こうすると、斜面に沿って持ち上げるときの仕事 量は W = F l = mgh となる。一方、斜面など 使わないで、図にあるように水平に移動させて (この ときは仕事は 0 である) 、その後、垂直に持ち上げる場合の仕事量は F = mg; 移動距離 = h より W = F 移動距離 = mgh これは先ほど の斜面に沿って持ち上げ る場合の仕事量に等しい。すなわち、 仕事量はどのような経路にそって持ち上げるか 、という持ち上げ方に無関係 なことが分かる。途中の経路に関係しないわけだから、 「最初の位置と最後の 位置」だけで決まることになる。今は、重力という特殊な力について調べて いるが 、この「仕事が最初の位置と最後の位置だけで決まる」というのは重 力に限らず、一般的に (摩擦力などの例外を除いて) 成立する。 このように、人が物体をそおっと持ち上げる場合には、物体が人からされ る仕事は、 W = U (最後の位置) ; U (最初の位置) とあらわされる。ここで U (位置) とは物体の位置だけで決まる関数で、 「位 置エネルギー」という。エネルギーとは力と違って物体が所有するものと考 えてよい。人が物体をそおっと持ち上げる場合には、物体は仕事をされるこ とで、位置エネルギーが変化する。 3.2.1 力学的エネルギー保存則 前節で、物体は仕事をされることで、位置エネルギーが変化すると述べた。 しかし 、仕事をされても位置エネルギーが変化しない場合もある。水平な平 3 面に置かれた物体に一定の力 F を、時間 t の間、加えるという場合を考えて みよう。最初静止していた物体は F a= m だけの加速度で運動する。最終的には F v = at = t m だけの速度で動くことになる。ではこの間、力が物体に対して行った仕事は どれほどであろうか。この間の移動距離 l は 2 l = 21 at2 = 2va だから、力の行った仕事は W = F l = 12 mv2 ということになる。これも前節のように解釈すると、右辺を「運動エネルギー」 を呼び 、物体は力から仕事をもらって「運動エネルギーが増大した」といえ る。この場合には位置エネルギーは変化していない。 このように、外部から力を受けた物体は、力の行った仕事によって、その 位置エネルギーや運動エネルギーを変化させる。それでは、位置エネルギー と運動エネルギーの関係はど うなっているのだろうか。これを調べるために、 高さ h の所におかれている物体が重力を受けて高さ 0 まで落下する場合の運 動エネルギーと位置エネルギーの変化をみてみよう。位置エネルギーは mgh だけ小さくなる。一方、運動エネルギーは 1 mv2 2 p 2 だけ、大きくなる。ところで、v = gt = 2gh; (H = 12 gt2 = v2g ) より、 mgh = 21 mv2 の関係がある。これは「位置エネルギーが小さくなった分だけ運動エネルギー が大きくなった」といってよい。こうすると、 「運動エネルギーと位置エネル ギーを合わせたものはいつも等しい」と一般化できる。この関係を「力学的 エネルギー保存則」という。エネルギーは力とは異なり、 「物体が所有するも の」である。相互的なものではない。運動の状態は位置と速度とで決まるが 、 その状態に従って特定の値を取る。エネルギー保存則が言っているのはどの ような運動の状態であっても、全体のエネルギー (運動エネルギーと位置エ ネルギーの和) は変化しないということである。 4 このエネルギー保存則の関係から、運動方程式と解いて各時間における速 度、位置を求める、という方法の依らずに、位置と速度の関係を知ることも できる。例えば振り子を振らせて見よう。早くなったり遅くなったりしながら 往復運動を行う。一番したでは速度が大きく、上で瞬間的にとまる。最初に 早く振ると、大きく高く振られる。これを位置エネルギーと運動エネルギー の関係で表すと 、 1 mv2 + mgh = E (一定) 2 となる。ここで h は最も下のところからの高さ (図参照)。こうすると、速度 v が 0 の所での高さ h はエネルギーに比例し 、最初に振り子に与えられたエ ネルギー E が大きいと、振り子は家宅まで上がることがわかる。また、高さ h がゼロの所で最も速度が大きくなり,その 2 乗もエネルギーに比例する。 この「運動エネルギーは速度の 2 乗に比例する」ということには注意を要 する。速度が 2 倍が 2 倍になると運動エネルギーは 2 倍ではなく 4 倍になる。 「ある速度で動いている車が壁にぶつかって止まった」という状況を想定しよ う。壁にダ メージがないとすれば車の持っていた運動エネルギーは車へのダ メージに使われるのである。そのエネルギーは速度の 2 乗にひれいするので あるから、時速 30Km の車と 60Km の車とでは壁に当たった際の破壊の大き さは 4 倍違うことになる。次に、動いている車にブレーキ (制動力という力) を働かせて,車をとめるという場合を考えよう。これは車に W = F l とい う負の仕事を与えてエネルギーをゼロにするのである。ここで l は力をかけ ている間車が動く距離。力が同じだとすると、止まるまでの距離は車の速度 の 2 乗に比例することがわかるであろう。 5