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Title Clematis属植物とその関連生薬の研究(第8報
Title
Clematis属植物とその関連生薬の研究(第8報): Clematis uncinataおよ
び近縁種の地上部に由来する「威霊仙」
Author(s)
御影, 雅幸; 中島, 由仁; 難波, 恒雄
Citation
生薬学雑誌 = The Japanese journal of pharmacognosy, 44(1): 21-28
Issue Date
1990-03-20
Type
Journal Article
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/36611
Right
Copyright © 日本生薬学会 The Japanese Society of Pharmacognosy
*KURAに登録されているコンテンツの著作権は,執筆者,出版社(学協会)などが有します。
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,各著作権等管理事業者に確認してください。
http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
生 薬 学 雑 誌
Shoyakugaku Zasslii
“(1), 21一一es (1990>
Clematis属植物とその関連生薬の研究(第8報)1)
Clernαti8 uncinatαおよび近縁種の地上部に由来する「威霊仙」2)
御影雅幸*・a,中島由仁b,難波恒雄b
a金沢大学薬学部,b富山医科薬科大学和漢薬研究所
Pharmacognostical Stedies on the Clemtz tis Plants and Related Crede DrEigs (VllD”
On‘‘Wei・ling・x血n,, Deri▼ed㎞m the Ae由1 P翫ts of
Cternatis uncinata aod Close Species2)
MAsAyuKi MiKAGE,*,a YuNi NAKAJIIvrAb and TsuNEo NAMBAb
‘Facu〃:yげPhar〃laceu’ica’56颪ε〃ces, Kanazawa伽ご昭rsity,13-1 Takaramach’, Kanazawa 920,抑4〃
bRelSearcゐInstit班¢.ノ「or〃’akan-yaku, Toyama Medi偲’and Pharmac刎iぐα’伽f昭rs‘ty,
26305配g・’ta〃’,7bッa〃凹93001,ノbpan
(Received June 21, 1989)
The Chinese crude drug‘‘Wei Iing xian”(威霊仙)is derived肋m the underground portions
of Clematis species. However, the aerial parts of the plants are also sold under the same name
in Guangxi(広西壮族自治区)and Sichuan(四川省)Provinces. Through a comparative
anatomical study of the 1eaflets, the botanical origins of the aerial part “Wei l ing xian” drugs sold
in Guangxi Province and S ichuan Province vvere proved to be C. undnata CHAMp. and C.
leiocarpa OLiv. ( =C. uneinata var. coriacea PAMp.), respectively. However, it is wrong to use
the aerial part of Clematis species as “Wei Iing xian.”
Keywo口口s-Chinese crude drug;We日i㎎xian;Clematis配πd〃a’o;αε摺傭leioea脚;
Ranunculaceae; Guangxi Prov.; Sichuan Prov.; leafiet; botanical origin; plant anatomy
漢薬「威霊仙」はr開宝本草』に初収載された薬物で,キンポウゲ科のαε〃mtis属植物の地下部を正品とし3a・1),
これまでに現在市販されている日本産,朝鮮半島産,台湾産,および中国大陸産の一部の商品についてその基源を明
らかにした3b).それらはすべてαe〃latis属植物の地下部であったが,今回入手した中国四川省各地や広西壮族自治
区桂林で一般に使用されている威霊仙は,すべて同属植物の地上部に由来すると思われるもので,外見上明らかに多
種基源であった.これらは「威霊仙」「霊仙」または「威霊仙葉」の名称で利用されているが,われわれが調査した
薬店および医院では地下部に由来する威霊仙は使用されていなかった.
Clematis属植物の地上部に由来する威霊仙については,謝4)が四川省で(r. chinensis OSBECKの全草,また同省や
西蔵自治区では他の同属植物の地上部も利用されるとし,またr中商大辞典』5)やr四川常用中草莉』6)にも四川省で
は同植物の茎葉(藤葉)が用いられると記されている.さらに,陳西省でも同種の根および茎藤が威霊仙として利用
され7),また貴州省では(7. uncinata CHAMP.の根および葉が銅脚威霊仙として用いられるとされる8》が,いずれも
確証はなされていない.
以上,文献記載されたC. ehinensisとC. uncinataの2種のうち,前者の葉は紙質で乾燥すると黒変する性質があ
り,後者の葉は革質で葉柄に関節を有する特徴があり9),この2種に限れば区別するのは容易である.しかし,今回
入手しえた葉が革質でほとんど黒変していない商品のなかには,小葉の形状はC, uncinataに酷似するが関節を有し
ないものも認められた.本属植物のClematis節Reetae亜節中で, C. uneinataに似て葉が1~2回羽状複葉,小
葉が全縁で革質になる植物は他にC. telOearpa OLIv.(=(r. uneinata var. coriacea)のみであり,品種はかなり趣を
異にする10).そこで本報では地上部に由来し,葉が革質でほとんど黒変しない威霊仙の原植物を明らかにする目的で,
この2種の小葉を比較組織学的に検討した.
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実 験 の 部
1.生薬材料(No.は富山医科薬科大学和漢薬研究所民族薬物資料館[TM PW]所蔵番号)
霊仙:広西壮族自治区桂林,楽群医薪店にて入手,No.4522,1985年11月
威霊仙素:桂林,中草画診所にて入手,No.4555,1985年11月
威霊仙=四川省万源県露天商(王方世氏)から入手,No.8014,1987年10月.
2. 比較植物([TI]は東京大学総合研究資料館所蔵標本,[KYO]は京都大学理学部所蔵標本)
Clenvatis uncinata CHAMP.:(中国)Prov. Ahhui(安徽省)群山桃花峯, S.R. Zhang(張野栄)1271[TMPW];
Prov. Zhejiang(漸江省)天目山, S. R. Zhang 1585[TMPW];Prov. Guangdong(広東省)陽山及付近, T. M.
Tsui 500[TI].(台湾)台北県観音山, M. Mikage 76021[KYO][TMPW],76027[TMPW];南投県哺里鎮,
M.Mikage 76055[TMPW];花蓮県南山場, M. M ikage 76142[KYO][TMPW];台中県門峰, M. Mikage 76046,
76051[TMPW].
C. leiecerpa OLIV.(一(7. ”ncinata CHAMP. var. eoriacea PAMP.):Prov. Hubei, Shen-nong-jia D ist.(湖北省神農
架),B。 Barthelomew et al.580[KYO];Prov. Hubei, A. Henry 2888[TIコ;Prov. Sichuang(四川省)万源県, X.
Wang 87009i1)[TMPW].
3. 実験方法:本研究で検討した商品は茎と葉とから構成されている.
茎の内部構造をCtematis ternl 6rora DC. var. robusta TAMuRAセンニンソウ(富山県下新川郡越中宮崎, M. Mi・
kage 8858[TMPW])を材料とし,蔓性の茎の先端から順に25の節間について内部構造を調査した結果,各節間は
表皮下の厚角組織の発達程度,皮層中の機械組織の量および分布形態,木部の発達程度などに大きな変異が認められ,
切断された商品では茎の内部構造による原植物解明は困難であると判断された12).次に,センニンソウ,c. chinensis
(台湾省台中市,W.S. Kan 760731[TM PW])およびC. uncinataについて各小葉の中央部(基部から1/3~1/2の
間)横切面を観察した結果,同一複葉内で多少の変異はあるが,それらの変異は小葉の複葉における位置とは無関係
であった.そこで本研究では比較植物,商品ともに無作為に摘出した小葉の中央部横切面を観察した.
小葉の下面に認められる乳頭突起の単位面積あたりの個数の測定は,任意の部分数個所について,0・5mm平方内
の
に存在するものについて行い,1mm平方あたりの個数に換算した.なお,同一一小葉内においては測定する場所によ
る大きな変異は認められなかった.柵状組織の解離は数倍に薄めた濃硝酸を用いてシュルツェ氏法によった.また走
査顕微鏡(日本電子製JS M-35)による観察は,乾燥葉をそのまま常法により処理し行った.なおPalisade Ratioの
測定を常法により試みたが,本植物の柵状組織は明野柵状柔細胞からなるため,表面視では各腕を軸方向から観察す
ることになり,それぞれが類円形に観察されるため,個々の柵状柔細胞の全体をとらえることができず断念した.
4.比較植物の形態
(1)Clentetis uncinata
外部形態:蔓性で,茎は一般tC帯黒色~緑褐色,先端から約30 cmの部位で径1.5~3.5mm.株により形態変異
が大きく,本研究に使用した謄葉標本では,葉は中国大陸産のものでは1回羽状複葉で,小葉は5枚,台湾産のもの
では1~2回羽状複葉で,小葉は3~9枚。小葉(Fig.1-A)は卵円形~卵状披針形~披針形で,長さ3~12㎝,幅
1.6~4,5cm,葉脈は3本,先端は鋭形,脚は円形~やや心形.上面はなめらかで緑褐色あるいは黒変するものもあ
る.下面は帯白色.質は薄い革質.細脈は通常わずかに突出する.
内部形態:小葉の横切面(Fig.1-B, C)はほぼ直線状で,主脈部上面は通常平坦,まれにわずかに突出あるいは埋
入し,下面は大きくなだらかな半円形に突出する.葉縁部(Fig・1-B3)はわずかに反冷する.葉の厚さは徊体により
かなり異なり,主脈部の厚さは390~880μm,葉肉部では130~400μm.上面表皮細胞は外壁がやや肥厚した横長
の四角形を呈し,厚さ25~65μm,径65~140μm,脈上ではやや小型になる.下面表皮細胞は上面表皮細胞とほぼ
同様であるが,主脈部では著しく小型になる.また葉肉部の下面表皮には,中国大陸産の標本では乳頭突起が多数認
められ,台湾産のものではまったく認められない(Fig.4-A~C).乳頭突起の分布量は個体(株)により著しく異なる
が,同一個体内ではかなり安定している(張守栄1271では1mm平方あたり345~460個,張守栄1585では170~235
個,T・M・Ts董500では451)・突起の大きさは径25~35μm,高さ20~45μmで,一般に分布量の多い個体のものが
大型である.クチクラは歯牙状にならず,厚さ1~5μm.主脈部の上下面表皮下にはわずかに厚角組織が発達し,下
面のほうがやや顕著である.維管束は並立型で,ほぼ円形~卵形を呈し,主脈のほぼ中央かあるいはやや上部に位置
する.繊維および厚膜細胞からなる維管束しょうが維管束の上下に,ほぼ維管束を包囲するように著しく発達するが.
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Fig. 1. Leafiet of Clematis uneinata CHp M p.
A; Sketches. B; lllustrating transverse sections (1, midrib; 2, lateral vein; 3, margin). C; Detailed drawing of the
transverse section of the midrib. D; macerated palisade parenchyma cells (specimen: Ai, B, C, D, Zhang 1271; A2,
M. Mikage 76027; A3, M. Mikage 76021)
維管束の側面ではしばしば不連続である.木部はおもに階紋および孔紋道管からなり,大型のもので径25~50μm、
師部中に機械組織を認めない.柵状組織は主脈部を除く全体に発達し,馬弓柵状組織で,1~2層の通常H形をし
た柵状柔細胞からなり,解離したもの(Fig.1-D)では径15~50μm,長さ25~70μm.柵状組織全体の厚さは25
~100μmで,葉肉部の厚さの3分の1以下.海綿状組織は明瞭.表面視における上面表皮細胞(Fig.3-A1~Dl)は
波状の不定形~多角形を呈し,個体による変異が大きい,下面表皮(Fig・3-A2~D2)は乳頭突起のない個体では一般
に輪郭が波状を呈し,乳頭突起が多数認められるものでは小型で多角形となる.気孔は裏面にのみ認められ,表面視
では楕円形~ほぼ円形を呈し,大型のもので径(孔辺細胞の長径)45~55μm.気孔型はキンポウゲ型.
(2) Clemotis leiocarpa
外部形態:C・“ncinataに類似するが,小葉柄に結節を欠く.葉は2回羽状複葉で,9~15枚の小葉を有する.小
葉(Fig.2-A)は卵円形で,3脈が明瞭,細脈とともに表面には突出しない.上面は黄緑色で光沢があり,細かいシワ
が多いことが特徴的である.下面は緑白色.質は革質で,C・ uncinataに比してやや厚い.
内部構造:基本的にはC・ ancinataに類似するが,次のような特徴がある.横断面(Fig.2-B, c)において,主脈
部上面は平坦かあるいはわずかに凹溢し,下面は大きく半円形あるいはなだらかに突出する.主脈部の厚さは470~
650μm.維管束しょうの発達はC・ uncinataに比して悪く,とくに師部側ではやや大型の細胞が数個見られる程度
である.道管は大型のもので径25~33μm,葉肉部は厚さ320~440μmで,上面表皮は厚さ約35μm.柵状組織は
2~3層の有腕柵状柔細胞からなり,第・一一一一層がとくに大型の細胞からなり,径15~45μm,長さ40~150μm(Fig.
2-D).柵状組織全体の厚さは155~200μmで,葉肉部の厚さの約半分を占める.海綿状組織はやや密である.下面
表皮には径20~35μm,高さ28~40μmの乳頭突起が密に認められる.表面視では上面表皮細胞(Fig.3-E1)は波
状の不定形,下面表皮(Fig.3-E2)は多角形を呈する.乳頭突起(Fig,4-D)の密度は1mm平方あたり504~785.
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Fig. 2. Leafiet of Clematis leiocarpa OLiv.
A; Sketches. B; lllustrating transverse sections (1, midrib; 2, lateral vein; 3, margin). C; Detailed drawing of the
transverse section of the midrib. D; macerated palisade parenchyma cells (specimen: Ai, B, C, D, X. Wang 87009;
A2, B. Barthelomew et aL 580)
気孔は大型のもので径45~50μm.
5.商品の形状および基源
(1)桂林市場晶「霊仙」および「威霊仙葉」(Fig。5-A)
外形:両商品は互いにきわめて類似し,同一の公司から供給されたものと思われる.商品は葉および細い茎からな
り,2~3cmに刻まれ,わずかに果実が認められる.小葉は披針形~卵円形と思われ,小型で3脈性のものと大型で
5脈性のものが認められ,細脈が明瞭に突出するものとしないものがある.小型のものでは円脚,大型のものでは心
脚.幅1.5~4.5㎝,長さは測定できない.小葉表面は光沢があり,滑らかで,淡い緑褐色~緑灰色.裏面は帯白色.
薄い革質でこわれやすい.小葉柄に結節が認められる.茎は径3~6mm.果実は棒状,黒色で無毛.
内部形態:本実験で検討したC・ uncinata le比して全体にやや大型である.主脈部の厚さは710~900μm,葉肉部
は380~500μm.主脈部の維管束しょうの発達は著しい.葉肉部における上面表皮細胞は厚さ65~95μm.表面視
における上面表皮細胞は波状の不定形.裏面には乳頭突起が多数認められ,1mm平方あたり275~490.気孔はほぼ
円形で径45~50μm.他の形質は(「. uncinataの変異内に収まる.
原植物および採集時期:以上の形態は変異の大きい(「. uneinataの変異内に収まるものと判断でき,商品は(:㌦
uncinataであると鑑定した.また,果実が混入し,若い枝が認められないことから,本生薬は秋期に採集されたもの
であることが判断され,乳頭突起の数にかなりの変異が認められることから,商品は複数の株に由来するものである
と判断できる.
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Fig. 3. Surface View of Leaflet
A-vD; C. uncinata. E; C. leiocarpa (1;upper surfaoe, 2; lower surface) (specimen: A, S.R. Zhang
1271; B, S.R. Zhang 1585; C, M. Mikage 76021; D, M. Mikage 76142; E, X. Wang 87009)
A B e一 D
100 um
Fig. 4. Secondary Electron lmage of the Lower Surface of Leaflet, Showing the Distribution of Papilla
A・vC; C. uncin. ata. D; C. leiocarpa (specimen: A, S. R. Zhang 1271; B, S. R. Zhang 1585; C, M. Mikage 70021;
D, X. Wang 87009)
(2)四川省万源県市場品「威霊仙」(Fig.5-B)
外形値増は葉をつけ煙性の茎を励曲げて束ねたものである.茎は軸方向闘瞭な条力渤,径2~8㎜で,
5㎜程度以下のものは紫黒色,それより太いものでは黄褐色を呈する.葉の形状はC. leiocarpa rc.よく一致する.
葉や細い茎は破折しゃすい.枯草様の臭気がある.
内部形態:C晦oc4脚の内部形態とよく合致する.
商品の採集時期:商品中に果実の混入は認められないが,若い枝が認められないことから,秋期に採集されたもの
と判断できる.
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審
一 一
5(nn 10 cm’
A: The sample from Guilin, Guangxi, [TMPW B: The sample from Wanyuang, Sichuan, [TMPW
4555]. 8014].
Fig.5. Wei ling xiaバon Markets
結論および考察
1. 中国大陸および台湾産のClematis uneinataの小葉の内部形態を検討した結果,維管束しょうの発達程度,表
面視における表皮細胞の形状その他にかなりの変異が認められ,とくに葉裏の乳頭突起に関しては密に認められるも
のと全く認められないものがあることが明らかになった.またC. leioearpaは柵状組織がつねに2~3細胞層からな
り,厚さが155~200μmと厚いこと,乳頭突起がより多いことなどで,C. uncinataと明確に区別できた. .
2.比較組織学的に検討した結果,広西壮族自治区桂林で使用されている「霊仙」ならびに「威霊仙葉」は果実期
に採集されたC・ uncinataの地上部であり,また四川省万源県で入手した市場品「威霊仙」は秋期に採集された(7・
侮oc二二の地上部であることを確証した.これまで広西二二自治区でctematis属植物の地上部が威霊仙として使用
されるとする報告はなく,本研究で初めて明らかになった.またこれらとは別に,四川省や雲南省ではC・ chinensis
の地上部に由来すると思われる威霊仙が使用されており,このものについては別報で述べる.
3.威霊仙としてCtematis属植物あるいは他の植物の地上部を用いるとする記載は,過去の本草書中には認めら
れない.中国の地方薬物誌では,四川省6),陳西省7),貴州省8)などで本属植物の地上部を利用するとしているが,こ
れらの土地は中国の山岳地域であり,これらの土地ではかなり以前から用いていたのかも知れない.あるいは民間的
に用いられていたこれらが,名称の混用などが理由で,漢薬として利用されるに至ったことも考えられる.いずれに
せよ,漢薬「威霊仙」の正品はCtematis属植物の地下部であり3a),地上部を用いることは明らかに間違いであり,
是正すべきである.
4. Clematis属植物の地上部に由来する生薬としては,中国では「木通」の異物同名品として種々の本属植物の
地上茎が利用されるとされ13),また『中薪大辞典』にはCpanieulata TH UNB.5)の葉を歯痛に外用し, C・florida
THuNB.テッセンの全草を虫蛇咬傷に外用し, C. henrJ,i OLIv.の葉を腫物に外用し, C伽ε’颪4π4 Lεv’L. et VAN’T.
の茎葉を打撲傷に煎服し,C. lasiandra MAXIM.の全草を筋骨痛などに煎服するなどと記載されている.また,わが
国では新鮮な葉のしぼり汁を手首の内側に塗り,扁桃腺炎に用いることがよく知られ,またなまずやたむしなどの皮
膚病にも応用される14).しかし,これらの利用方法は威霊仙の薬効とはかなり異なるものであり,威霊仙とはまった
く別の薬物であると判断され,四川省で地上部が威霊仙として使用されるようになったいきさつは現在のところ不明
である.ただ,同省では「人参」としてPanax属植物の地上部が15,また「紫胡」としてBupleuru〃1属植物の地上部
が1fi}代用されており,本生薬もこれらと関係があるのかも知れない.
5,今回剖検したC. uncinataのうち,中国大陸産の個体の葉裏には乳頭突起が認められるものと認められないも
のがあった.そこで,東京大学および京都大学所蔵の関連標本をルーペ視にて観察した結果(1988年11月現在),台
湾からのC. uncinata ecはまったく乳頭突起が認められず,中国大陸からのものでは,広東省大回県産のW. T. Tsang
21006,21613,21174,同省梅県産のW.T. Tsang 21349,同省Ding-Hu-Shan産のK. C. Ting et K.L. Shi 1699,1706,
香港産のY・W.Taam 2237,以上[KYO],などにはまったく乳頭突起が認められなかった.一方,同じ広東省産で
(26)
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も陽山県からのT.M. Tsui 500[TI]には多くの乳頭突起が認められた.また, C. ancinataの変種に関しては, var・
fioribundU HAYATA(江蘇省太湖, Kawakami et Hayata 58;Type[TI])には認められず,日本産のvar・ovatヴholia
キイセンニンソウにもまったく認められない17).このようにC. uncinataの葉裏の乳頭突起の有無には変異が多く,
北方産の個体ほど乳頭突起が多い傾向にあるといえるが,乳頭突起が認められる個体についても,その分布密度には
かなりの変異があり,乳頭突起の有無のみで種を細分類することは困難と考える.なお,王18)はC槻伽伽のなか
で2回羽状複葉となるものを》ar・ biternataとしているが,乳頭突起をも含め,内部形態的には区別しえなかった.
6. 本研究では常法により,葉のPalisade Ratioの測定を試みたが,表面視では有腕柵状柔細胞の各腕を軸方向
から観察することになり,それぞれが類円形に観察され,個々の柵状柔細胞の全体を把握することができなかった.
有腕柵状組織が発達する葉のPal isade Ratioの測定には新たな工夫を要する.
7.植物分類学的にC.leiocarpa OLiv.をC. uncinata CHAMP.の変種(var、 eoriacea)として扱う説10・18》がある
が,本植物には(7・ uneinataの特徴である小葉柄の結節がない点で大きく異なる19).内部形態的にも本研究で明らか
にしたように本植物はC・ uncinataとはかなり異なるもので, C. uncinataの変種として取り扱うのは不適当と判断
される.
謝 辞=本研究にあたり比較植物の同定および植物分類学的なご教示を賜った神戸大学理学部田村道夫教授,所蔵
標本の利用を許可され,材料の一部をご提供くだされた京都大学理学部植物学教室および東京大学総合研究資料館,
ならびに現地調査に便宜を計っていただいた中国薬科大学の徐国鉤教授ならびに王引回氏に深謝する.
本研究の一部は文部省科学研究費補助金(一・般研究C,課題番号63540548)により行われ,また現地調査に係る渡
航費は,内藤記念科学振興財団の海外研究交流助成を受けた.ここに記して感謝の意を表する.
List of abbreyiations: bs: bundle sheath, co: corenchyma, cu: cuticle, epl: lower epidermal ce11, epu: upper
epidermal cell, pa: palisade tissue or palisade parenchyma, ph: phloem, pp: papilla, sp: spongy parenchyma, sto:
stoma, v: vessel, xy: xylem
引用文献および注
1)第7報:御影雅幸,難波恒雄,生薬,37,361(1983).
2)本研究の一部は日本生薬学会第34回年会(1987年10月,大阪)にて発表した.
3)a)御影雅幸,難波恒雄,生薬,37,351(1983);b)T.:Namba, M. Mikage, Shoyakugaku Zαsshi,37,307
(1983);M.Mikage, T. Namba, Shoyakugaku Zasshi,37,317,325(1983);御影雅幸,難波恒雄,生薬,37,
334, 342(1983).
4)謝宗万編著,“中蔚材品種論述”,上戸,上海科学技術出版社,上海,1964,P・91.
5)江蘇新医学圃場,“中軸大辞典”,上海人民出版社,上海,1977:威霊仙,P.1632;鉄脚威霊仙, P.1865. C. pa・
niculataの学名の是非については田村9〕が意見を述べている.本書に述べられているものはおそらくC. terni:t7hra
DC.タチセンニンソウであると思われる.
6)四川省中蒋研究所編,“四川常用中草薬”,四川人民出版社,1971,P.959.
7)陳西省革命委員会衛生局商業局編,“陳西中島i商”,科学出版社,1971,P・517・
8)貴州省中医研究所編,tt貴州草薪”,第二集,貴州人民出版社,1970, P・404・
9) M. Tamura, Acta Phytotax. Geobot., 15, 17 (1953).
10)王文采編著,“中国植物誌”,第二十八巻,科学出版社,北京,1980,P・165・田村9)や王(1957)18)はC・ uncinata
をFlammula節Rectae亜節に分類している.
11)X. Wang 87009は花や果実がないが,葉が革質で,表面に細かいシワが多く認められ,また内部形態的にもB.
Barthelomew et at. 580によく合致する.
12)詳細未発表.
13)全国中草薬彙新編語語編,“全国中草薬彙編”,上鞍,人民衛生出版社,北京,1983,P.130.
14)大塚敬節,“漢方と民間薬百科”,主婦の友社,東京,1966,p.225.
15)難波恒雄,御影雅幸,察 少青,楼 之峯,生薬,42,12(1988);難波恒雄,御影雅幸,察 少青,楼 之學,
田中 治,生薬,42,19(1988).
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16)富山医科薬科大学和漢薬研究所民族薬物資料館所蔵標本中にある.未発表.
17)関連植物では,(「.armandii FR.(大陸産), C. trichecarpa TAMURA(大陸産,台湾産とも), C. alsomitrt70iia
HAYATA(台湾産)などには乳頭突起はまったく認められなかった.
18)王 文采,植物分類学報,6,375(1957).
19)C・ leiocarpa*および(「・ uncinata var・ coriacea**のそれぞれの原記載はともに小葉柄の結節には触れていないが,
本研究に供した標本のそれ以外の特徴は両記載によく一致する.また著者らは原標本を見ていないが,王1e}は標
本調査の結果C. leiOcarpaとC. uncinata・var. coriaeeaは同一であると述べている.*:Hooker, Ic. Pl.,16, pl.
1533 (188(D. ” : R. Pampanini, Nuov. Giorn. Bot. ltaL n. ser., 22, 288 (1915).
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