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超音波がドラッグデリバリーを可能にする方法が示される(米国)【PDF

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超音波がドラッグデリバリーを可能にする方法が示される(米国)【PDF
NEDO海外レポート
NO.986,
2006.10.4
< 新刊目次のメール配信をご希望の方は、http://www.infoc.nedo.go.jp/nedomail/ >
海外レポート986号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/986/
【産業技術】ライフサイエンス
超音波がドラッグデリバリーを可能にする方法が示される (米国)
エネルギーが治療用分子を入れるために細胞膜を開く
超音波エネルギーがどのようにして、生細胞を保護している外膜を一時的に「開放
(open a door)」することができるのか、またその後、細胞自身がどのようにしてそれ
をすぐに閉じるかを、研究者達は明らかにした。この「開放」によって、薬剤やその
他の治療用分子
1
の細胞中への投与が可能となる。このメカニズムを理解することに
より、遺伝子治療や化学療法、および容易には細胞膜を透過しない大型分子薬剤の投
与への超音波の利用が進展する可能性がある。
研究者達は、5 つの異なる顕微鏡検査技術を用いて、気泡の激しい破裂(超音波に
よって引き起こされる作用)が、液体媒体中に浮遊している細胞の膜に穴を開けるの
に十分な力を作り出すことを示した。ほんの数分後に細胞自身により閉じられるその
穴が、直径 50 ナノメーター(大部分の蛋白質よりも大きく、遺伝子治療のために使用
される DNA と同じくらい)の大きさの治療用分子の投与を可能にする。「穴は気泡の
破裂との機械的相互作用により作られる」とジョージア工科大学化学生物分子工学部
の Mark Prausnitz 教授は語る。「気泡は超音波場で振動して破裂し、衝撃波を発生さ
せる。その衝撃波に伴う流体運動で細胞膜に穴が開き、外部から分子を細胞内に入れ
ることが可能になる。穴が開いて数分以内に、細胞は細胞内小胞を結集させて開いた
穴を塞ぐ」
アトランタにあるジョージア工科大学とエモリー大学の科学者達によって行われた
研究は、学会誌「医学と生物学の超音波(Ultrasound in Medicine and Biology)」(第
32 巻 6 号)で報告された。この研究は国立衛生研究所(NIH2)と全米科学財団(NSF3)
により支援が行われた。
超音波は画像診断に既に広く用いられている。ドラッグデリバリーには、より高い
電力レベルと異なる周波数を使用し、作用を高めるために気泡が用いられる。
超音波によるドラッグデリバリーは遺伝子治療にとって、とりわけ魅力的となるか
もしれない。細胞内に遺伝物質を投入するためにウィルスを使用する遺伝子治療は成
功してきたが、これには副作用がある。この超音波を用いたドラッグデリバリーは、
化学療法の薬剤をより目標を絞って届けるためにも使用できるだろう。
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2
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therapeutic molecules
NIH: the National Institutes of Health
NSF: the National Science Foundation
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NEDO海外レポート
NO.986,
2006.10.4
超音波が照射された直後の前立腺がん細胞
を示した透過電子顕微鏡写真。
画像は細胞膜が取り除かれた場所を示すため、
色度が高められている。
(画像出所:Robyn Schlicher 他)
「超音波の大きな利点の一つは非侵襲性
4
であることだ」と Prausnitz 氏は語る。
「化学療法の薬剤を局所的に、もしくは身体の至るところに投与することができ、腫
瘍がある場所だけに超音波を集中できる。このことにより、細胞の透過性が増し、タ
ーゲットの細胞だけに薬剤を取り込ませ、他の健康な細胞への影響を避けることがで
きるだろう」
研究者達は、超音波によって細胞膜の透過性が大きくなり、細胞内への薬の投入に
役立つことをごく最近発見したばかりである。超音波が、細胞膜に穴を開け、透過性
を増大させるとの仮説は立てられていたが、明白には証明されてはいなかった。
Prausnitz 教授と共同研究者の R.Schlicher 氏、H.Radhakrisha 氏、T.Tolentino 氏、
V.Zarnitsyn 氏(ジョージア工科大学)、エモリー大学の故 R.Apkarian 氏は、前立腺
がん細胞群を用いて詳細な現象に関する研究に着手した。彼らは超音波の作用と細胞
の反応を評価するために、固定細胞
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を用いた走査型透過電子顕微鏡法
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と、生細胞
を用いた二種類の光学顕微鏡法を使用した。
超音波が細胞膜に穴を開けることの実証のほかに、彼らは細胞が穴を修復するメカ
ニズムについても研究を行った。超音波の照射後、彼らは通常は細胞に取り込まれな
い化学物質を細胞培地に投与した。その化学物質を投入する時期を変えることにより、
彼らは大部分の細胞が数分以内に自身の細胞膜を修復すると判断できた。
この研究者達は、学会誌に発表した研究では前立腺がん細胞を使用したが、他の種
類の細胞についての研究も行っており、多くの種類の細胞に一時的に穴を開けるため
の一般的な手法として、超音波を用いることができると考えている。超音波がヒトへ
のドラッグデリバリーに利用できるようにする前に、FDA(米国食品医薬品局)の承
認を含む数多くの課題に研究者達は直面している。例えば、超音波の作用は細胞全体
にわたり均一ではなく、およそ 3 分の 1 のみ影響を受ける。研究者達は、安全上の懸
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5
6
非侵襲性―外科的な処置を行わず、組織や身体が傷つかないこと、その治療。
固定細胞:顕微鏡標本を作るために、凝固液などに浸し、生きている状態に近い形にままで殺し、
固めて保存していた細胞
Scanning and transmission electron microscopy: STEM
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NEDO海外レポート
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2006.10.4
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海外レポート986号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/986/
念についても取り組む必要があり、身体組織内における気泡の破裂(キャビテーショ
ン 7 として知られる現象)の生成についても最適化する必要がある。
明視野顕微鏡(上段)と共焦点顕微鏡
/蛍光顕微鏡(下段)で映した前立腺がん細胞。
超音波照射前(左側)、照射直後(中央)、
照射からしばらく経過後(右側)。
細胞膜の穴は矢印で強調されている。
(画像出所:Robyn Schlicher 他)
「超音波を体内の治療に使用可能とするためには、私達は超音波の照射をコントロ
ールする方法を学ぶ必要があるだろう」と Prausnitz 氏は指摘した。「もし超音波が細
胞に与える影響を正確に計画することができたら、私達は細胞が対処できる大きさの
衝撃を発生させることが可能になるだろう。私達は細胞内へ薬剤の運搬を可能にする
のに過不足のない衝撃は必要としているが、細胞がその穴を修復する能力を超えるほ
どの圧力が加わる衝撃は必要としていない」
細胞膜の穴が病気に冒された細胞に対して長期的な危害を引き起こすかどうかにつ
いては、今のところ研究者達も分かっていない。一般的な分析結果では、細胞膜の穴
を修復した後も細胞が生き続けることを示しているが、細胞行動の詳細な研究が引き
続き必要である。細胞膜は身体の中ではたびたび損傷を受けては修復されており、長
期的な危害がないことが、他の研究者達が行った研究の証拠によって示されている。
これは、細胞は超音波の作用に対しても同様に耐容性を示すであろうことを示唆して
いる。
「最も難しい課題の一つは、実験室や小動物での成功を、ヒトの臨床治療での成功
に翻訳することだろう」と Prausnitz 氏は述べる。「今や私達は超音波の作用のメカニ
ズムについてより理解しているため、超音波を薬物療法のために更に効果的に利用す
ることができる」
以上
翻訳:NEDO 情報・システム部
( 出典:http://www.gatech.edu/news-room/release.php?id=1116
Copyright (c)2006, Georgia Institute of Technology, All rights reserved.
Used with Permission.)
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Cavitation: 溶液の中での局所的な圧力低下により形成される無数の極めて小さな気泡が連続してつぶ
れること。
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