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ゼロから10億電子ボルトまで3.3センチメートルで加速(米国)
NEDO海外レポート NO.992, 2007.1.10 < 新刊目次のメール配信をご希望の方は、http://www.infoc.nedo.go.jp/nedomail/ > 海外レポート992号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/992/ 【産業技術】 ナノテクノロジー ゼロから 10 億電子ボルトまで 3.3 センチメートルで加速 (米国) − レーザ航跡場加速のこれまでの最高エネルギー − レーザ航跡場(Laser Wakefield)加速の可能性を追求する先例を破る実験で、米国エ ネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所の科学者はオックスフォード大学の同 僚と共に研究し、電子ビームを僅か 3.3 センチメートルの距離で 1 ギガ電子ボルト (1GeV:ギガ電子ボルト)を越えるエネルギーまで加速した。この結果は Nature 誌 2006 年 10 月号に報告されている。 比較として、SLAC(スタンフォード線型加速器センター)は、加速電場が約 2,000 万 ボルト/メートルで制限される高周波キャビティーにより、2 マイル(3.2 キロメート ル)の距離で 50 ギガ電子ボルトまで電子を加速している。 レーザパルスによって駆動されたプラズマ波の電場は 1,000 億ボルト/メートルに達 することができる。その電場が、バークレー国立研究所グループとオクスフォード大 学の共同研究者に、SLAC の長さの僅か 10 万分の 1 で SLAC のビームエネルギーの 50 分の 1 を達成することを可能にした。 「これはまだ第一歩である。レーザ航跡場加速器からのギガ電子ボルトのビームは、 非常にコンパクトな高エネルギー実験や超高輝度自由電子レーザへの道を開く」とバ ークレー研究所の加速器・核融合研究部門(AFRD)のウィム・リーマンは述べている。 10 億ボルト・ビームへの道を開く 2004 年の秋に、LOASIS(レーザ光学および加速器システム統合研究:Laser Optics and Accelerator Systems Integrated Studies)と呼ばれるリーマンのグループは、レー ザ航跡場でほとんど均一のエネルギーを持つ緊密に集中した電子の束を加速し 70∼ 200 MeV (メガ電子ボルト)のピークエネルギーに到達したことを報告している 3 つの 研究グループの内の 1 つである。 他のグループは、大きなレーザ集光サイズの 30TW レーザパルス(TW:テラワット あるいは 1012 ワット)を使用しているが、LOASIS の「点火−加熱」アプローチは全く 異なっている。LOASIS は、一つ目のレーザパルスで水素ガス噴流中にプラズマチャ ネルを駆動し、第 2 のパルスでそのチャネルを加熱・成形し、その後、比較的低出力 の 9TW の 3 番目のパルスで加速波を形成している。 75 NEDO海外レポート NO.992, 2007.1.10 このような全ての技術で、原子を構成している陽子や電子へ電離させるのに十分な まで水素ガスを加熱することによりプラズマが形成される。このプラズマ中を伝搬す るレーザパルスは、レーザ波航跡を形成し、自由電子の束を閉じ込めともに、非常に 大きな船の航跡に乗るサーファーのように、この航跡に乗る。 位相散逸長として知られている距離を伝搬した後に、電子は航跡を追い越す。これ が、どれくらい遠くの距離まで加速することができるかを制限し、その結果、到達で きるエネルギーが制限される。位相散逸長を増加させるには低プラズマ密度を必要と する。しかし、同時に、レーザ光線の集束をより長い距離まで維持しなければならな い。 これをなす一つの方法は、回折を減らすためにレーザ光線のスポットサイズを増加 させることである。「このアプローチの問題は、スポットのサイズを 2 倍にすれば、ス ポット面積にわたり同一強度を維持するために、レーザパワーを 4 倍にしなければな らないということである」とリーマンは述べる。1 ギガ電子ボルトのビームを達成す るのに必要なスポットサイズを増加させるには、ペタワットレーザ(PW:ペタワット あるいは 1015 ワット)を必要とするだろう。「より強力なレーザは、より高価でそして より厄介である。それに加えて、レーザ充電にずっと長い時間がかかり、レーザパル スの繰り返し周期を制限する」と彼は続ける。 レーザの大きなスポットサイズは本質的に問題がある。「増加する電子放出リスク が伴うので、ビームの拡大をもたらし、集束を困難にする。自由電子レーザはレーザ 航跡場加速器の最も有望な応用の 1 つである。しかし、自由電子レーザは、ビーム中 の全電子の位相均一性に依存する。低い電子放出ビームは、自由電子レーザにとって 不可欠である」とリーマンは述べる。 加速距離を増加させる代替方法には、プラズマ航跡場を作成する駆動レーザパルス にガイドチャンネルを付ける方法がある。2004 年の実験では、LOASIS グループは、 点火パルスで水素ガス噴流中に細いフィラメント状のプラズマチャネルの穴を空ける ことにより、ガイドチャンネルを付けた。別のレーザパルスによって加熱すると、プ ラズマはチャネルの内部で拡大し、その密度は中心では真空に近いが、壁の近くでは 非常に高かった。このチャネルは、光ファイバーのように、2 ミリメートルの距離を 駆動レーザのパルスをガイドし成形する役目をした。しかし、この技術もまた限界を 持っている。 「レーザ成形チャネルは、非効率的な加熱のために、高密度のプラズマでのみ動作 していた。2 ミリメートル以上はるかに長く位相散逸長を拡大するためには、低密度 プラズマを必要とする。この分野での非常に多くの研究者が、より高いビームエネル 76 NEDO海外レポート NO.992, 2007.1.10 < 新刊目次のメール配信をご希望の方は、http://www.infoc.nedo.go.jp/nedomail/ > 海外レポート992号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/992/ ギーに到達するただ一つの方法は、より大きなスポットサイズとはるかにより強力な レーザを使用することであると考えていた」とリーマンは述べた。 リーマンは、「チャネルガイドの明白な利点、低パワーレーザからの高強度パルス、 可干渉性の産出、エネルギー拡散がない強く集束したレーザビーム等が、このチャネ ルアプローチを継続するバークレー研究所グループの強い動機だった」と語る。 サファイアとコンデンサー リーマンは、オックスフォード大学でサイモン・フッカーに会った。彼のグループ は、数年間、プラズマチャネルガイドとX線レーザやプラズマ加速器を駆動する応用 を研究していた。フッカーは、サファイアを刻んで作った毛細管チャネルガイドをリ ーマンに示した。「これは、何回のレーザショットに使うことができるかい」とリーマ ンは尋ねた。そして、「何回でも好きなだけ」とフッカーが答えた時に協力が生れた。 最近の実験では、フッカーと彼のグループは、高輝度レーザパルスをガイドするた めに、オックスフォード導波管とそれを使用する際の専門技術を提供しており、リー マンと彼のグループは、強力なレーザ、技術的能力、そして導波管中でレーザ航跡場 加速器を駆動する際のユニークなノウハウを提供している。「これらの 2 つのグルー プの経験を一緒にする機が熟した」とフッカーが述べる。 これらの実験では、ガイド毛細管は、サファイアブロックに合わせた面に切られた 2 つの半分のチャネルから成っている。ブロックが向かいあって結合されると、チャネ ルの両半分が毛細管を形成する。他の管は前・後部に正しい角度で入り、それにそっ て水素ガスが流れる。毛細管の両端の近くに電極が置かれる。 毛細管内の水素ガスをプラズマに変えるために、電極から毛細管を通してコンデン サーから電流を放電させる。ほとんど即座に、この電気放電は毛細管内部に、新しく 形成されたプラズマを加熱し、中心の高温低密度プラズマと毛細管の冷サファイア壁 に対する高密度の光ファイバー状チャネルを作る。 フッカーが説明するように、「それぞれのチャネルの断面は凸レンズのように作用 し、チャネル中心へ向けてレーザビームを絶えず集束させる」。 このシステムの利点は、別のレーザでチャネルを加熱することだけでなく、そのコ ストにもある、とリーマンは述べる。「1 ジュールのコンデンサーは、1 ジュールのレ ーザよりはるかに安い」。 77 NEDO海外レポート NO.992, 2007.1.10 正確な短い時間遅れの後に、40TW レーザからの駆動パルスが、プラズマ中に強力 な航跡場を生成し、自由電子の束を閉じ込め、3.3 センチメートルの長さの毛細管内で 1 ギガ電子ボルト以上までに加速する。 一旦、電子ビームが毛細管を通り抜けたら、研究者は、偏向磁石と1メータの大き さの蛍光面を使用して、ビームエネルギー、エネルギーの広がりおよび発散を測定す る。2004 年に報告された点火−加熱実験より 15 倍以上長い加速距離で、非常に高強 度のレーザパルスがかってない最長距離のチャネルを作った。そして、4 倍のピーク レーザパワーにより、強く集中した電子束は 1 ギガ電子ボルトに到達した。各々の電 子束内の電子エネルギーの変化は、最大 2.5 パーセントで恐らくはそれ以下であろう。 かくして、初めてのレーザ駆動加速器は、従来のシンクロトロンや自由電子レーザ で典型的に得られる電子ビームエネルギーに到達した。「これは素晴らしいことであ るが、これは氷山の一角である。我々は、加速空胴に充分に高いエネルギーのビーム を入射する研究を既に実施している。また、一つの毛細管から次の毛細管へそして次々 と継続して、非常に高いエネルギーのビームが達成されるまで、高エネルギービーム を引き渡してゆくことを計画している」とリーマンは述べた。 ブルックヘーブン国立研究所の物理学者ビル・ウエングは、「レーザ航跡場加速器で 実施された成果は、DOE のこの分野への 25 年間の投資を評価するだろう」と語った。 リーマンのグループと共同研究者は確信をもってこの挑戦に期している。「DOE サイ エンス局高エネルギー物理部は、10 ギガ電子ボルトまで達するものを研究するように 我々に求めている。恐らく 30 メートルの距離のレーザパルスを必要とするが、長さ 1 メートル未満の加速器で達成が可能であると信じている」とリーマンは語った。 レーザ航跡場加速はテーブル上の高エネルギー加速器を約束すると言われているが、 実際の加速器はそれほど小さくはないかもしれない。しかし、レーザ航跡場加速は、 確かにこれまでの既存のマシンより潜在的にはるかに強力で、小さな建物内に収まる 電子加速器を可能とする。 「長さ cm 規模の加速器によるギガ電子ボルトの電子ビーム」、 "GeV electron beams from a cm-scale accelerator"」、by Wim P. Leemans, Bob Nagler, Anthony J. Gonsalves, Csaba Toth, Kei Nakamura, Cameron G. R. Geddes, Eric Esarey, Carl B. Schroeder, and Simon M. Hooker、Nature 誌 2006 年 10 月号に 投稿。 (出典:http://www.lbl.gov/Science-Articles/Archive/AFRD-GeV-beams.html ) 78