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GM 酵母でエタノール生産効率を向上

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GM 酵母でエタノール生産効率を向上
NEDO海外レポート
NO.936, 2004. 7. 28
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海外レポート936号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/936/
【産業技術】ライフサイエンス
GM 酵母でエタノール生産効率を向上 (米国)
パデュー大学で開発された酵母株は、廃棄するか動物の餌として利用するしか道のなかった
農業残さを用いてさらに効率的なエタノール生産を実現する。この酵母の最初のライセンスは
バイオテクノロジー企業アイオジェン(Iogen)社に供与されている。
パデュー大学の遺伝子組み換え(GM)酵母は、自然界に存在する“天然種”と比較して、トウ
モロコシの茎や麦わらなどの農業残さから抽出した糖分を原料とし約 40%増のエタノールを
生産する。
農業残さは主にセルロース系原料として知られるセルロースと “ヘミセルロース”から成
っている。従来エタノール生産の原料として使われてきたトウモロコシの穀粒等とは違ってセ
ルロース系原料は主要な糖分としてグルコースとキシロースの 2 種類を含むが、エタノール生
産業界で使用されている自然に存在するサッカロミセス属酵母では、この両方の糖を(同時に)
エタノールに発酵することはできない、と上級研究科学者でパデュー大学再生可能資源工学研
究所(LORRE)の分子遺伝学グループリーダーのナンシー・ホーは指摘する。
アイオジェン社はセルロース系原料からのエタノール生産を専門としている。
ホー率いる研究チームは 1980 年代から 1990 年代にかけてより効率の良い酵母を開発してき
た。従来の酵母はグルコースをエタノールへと発酵させることができるが、キシロースを発酵
させることはできない。キシロースは農業残さ由来の糖の約 30%を占めるため、キシロースを
発酵できないことはエタノール生産での大きなロスである、とホーは指摘する。
パデュー大学の研究者らは、グルコースとキシロースを同時にエタノールに発酵することを
可能にする遺伝子を 3 つ挿入し、酵母の遺伝子構造を変更した。キシロースを発酵することが
できることで、麦わらからのエタノール生産量が約 40%向上する。グルコースとキシロースは
共に農業残さに含まれているため、この両方の糖を同時に発酵できることは大きな意味がある、
とホーは言う。
ホーはさらに、
「この 2 種の糖をエタノールへの発酵前の段階で分離するには莫大なコスト
がかかるため、この両方の糖を一緒にエタノールに発酵することができることが重要である。
ガソリンとのコスト競争力をさらに上げるにはこの 2 種の糖を同時にエタノールへ変換する必
要があるが、我々がこの酵母を開発するまで、この 2 種の糖を同時に変換するのに適した微生
物は存在しなかった。
」と話す。
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アイオジェン社はパデュー大学研究基金からこの酵母の非排他的実施権(ライセンス)と関
連する特許を供与されている。同社のカナダ、オタワの実証施設は世界で初めてセルロース
系原料からエタノールを生産する工場である。アイオジェン社は同社が麦わらから得た糖で
エタノールを生産するのにパデューの酵母を用いている。
アイオジェン社の上級研究科学者のジェフリー・S. トランは、
「現在入手可能なもののなか
で、パデュー遺伝子組み換えグルコース・キシロース発酵酵母が最も効率よくセルロース系
原料からエタノールを生産する微生物であることを確認した。この酵母を用いた我々の工場
でのエタノール生産量と生産効率は、ホー博士のグループが研究室で得た結果と合致してい
る。又、この酵母は扱いが容易で工場の作業員にも好評である。
」と話している。
アイオジェン社の工場で生産されたエタノールはモントリオールのペトロ・カナダ製油所で
ガソリンと混合される。自動車は何の改良も加えることなくエタノールとガソリンを混合し
た燃料を使うことができる。通常ドライバーはガソリンポンプの表示以外ではエタノールが
混合されていることに気づくことすらない。オタワ工場は、セルロース系原料を使ったエタ
ノールを燃料として広く普及させるというアイオジェン社の目標を達成するために最新の方
法を実践している、とトランは言う。
アイオジェン社のプロセスでは麦わらの約 2/3 がエタノールに変換され、麦わら 1 トンにつ
き約 75 ガロンが生産される。発酵できずに残った 1/3 の農業残さは、工場で必要な電力を発
電するために燃やされ、廃棄物や化石燃料の消費は非常に少ないことから、トランは「セル
ロースエタノールの使用は現在利用可能な他の輸送用燃料では得られない環境への利点があ
る。
」と言う。
また、エチルアルコールとして知られるように、エタノールは単独でも、またガソリンと混
合しても燃料として使用できる。パデューの酵母は、まず農業材料をキシロースとグルコー
スに変換するための開発中の他の技術と組み合わせて使用される、とパデュー大学の農業・
生物工学の著名な教授で LORRE の所長でもあるマイケル・ラディックは言う。
「アイオジェン社の取り組みによって、セルロース変換技術の発酵部分における産業テスト
ベッドが提供され、それによって、業界でセルロース系原料の前処理やセルロース系原料か
らの糖への変換技術などの他の技術が開発・実証されれば、多様な作物及び作物残さに使用
できるセルロース変換技術の開発が促進されるという点で、インディアナ州及び全米の他州
の企業にとって有益である。
」とラディック教授は言う。
ラディック教授は、エタノールは環境に優しくガソリンよりもクリーンな燃料であると述べ、
その理由として、植物は二酸化炭素をセルロースに光合成サイクルの一環として取り込むた
め、エタノールを燃焼させて発生する二酸化炭素は植物原料に再循環すること、これによっ
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て温暖化ガスの一部がリサイクルされるため、その純発生量が削減されることを挙げている。
エタノールは現在、グルコースとそれと同族のヘキソース−サトウキビやトウモロコシその
他でんぷんの豊富な穀物に含まれる六炭糖−を酵母で分解して生産されている。しかし、ホ
ーによれば、このような作物は高価なうえ比較的供給が限られていて、輸送用燃料に要求さ
れる十分な量のエタノールを生産することはできない。
この問題はセルロース系原料を使用することで解決できる、とホーは言う。1 トンあたりの
セルロース系原料のコストはトウモロコシの約半分であるが、トウモロコシよりもエタノー
ルへの変換が難しい。この難しさの一端は、五炭糖であるキシロースをエタノールに発酵す
るところにある。この糖は自然界で酵母やその他の微生物によって発酵されることはない。
「米国でトウモロコシから生産されるエタノールは現在年間約 30 億ガロンである。控えめ
に見積っても、収穫の終わったトウモロコシ畑に残された 30%の残さからさらに年間 40∼50
億ガロンのエタノールを生産することが可能である。
」とホーは言う。そしてさらにセルロー
ス系原料の使用は限界耕作地で栽培が可能な牧草などの作物の新しい市場を開拓し、雇用を
創出し、エネルギー自給率の増加につながる可能性がある、と期待する。
ホーが開発した酵母株が、環境に優しいサッカロミセス属の酵母から作成されたことも利点
として挙げられる。サッカロミセス属の酵母は何世紀にも渡ってワインの醸造や製パンに使
用されてきた酵母で、グルコースからのエタノール生産に大規模に産業使用されている唯一
の微生物である。
ホーは 20 年間、トウモロコシの茎、木の葉、ウッドチップ、刈り取った芝や段ボール箱ま
で、植物材料に含まれる糖分をより多く効率的にエタノールに変換する酵母の作成を行って
きた。
セルロース系原料で生産するエタノールは、理想的な自給型燃料であるとホーは考えている。
1993 年、ホーの研究チームは世界で初めて遺伝子操作でグルコースとキシロースの両方を
効率的に発酵できるサッカロミセス属の酵母の作成に成功した。
以上
翻訳:橋本 明子
(出典:http://news.uns.purdue.edu/html4ever/2004/040628.Ho.ethanol.html
Copyright 2004, Purdue University. All rights reserved. Used with permission. )
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