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胚移植

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胚移植
N―254
日産婦誌53巻9号
.クリニカルカンファランス
4
.生殖医療における妊娠率の向上を目指して
3
)胚移植
セントマザー産婦人科医院
院長
田中
座長:旭川医科大学教授
温
石川 睦男
体外受精・胚移植の臨床成績を向上させる為にはどのようにすればよいのか.この問は,
不妊症治療に携わっているものにとって一生の課題である.当院における日常の診療の中
で心がけている点について列記してみる.
良質な卵子を沢山作る
いかに良質の卵を数多く採取できるかが妊娠率を大きく左右する.その為には,どのよ
うな過排卵処理法を行うかの決定が臨床上重要となる.我々は,この過排卵処理を以下の
臨床所見より選別している.すなわち月経周期が整か不整か,a
n
tra
lfo
llic
leの数,年齢,
P
C
O
(多 胞性卵巣)型か,P
O
F
(早発閉経)型かのいずれに分類し,各々に対し U
ltra
lo
n
g法(d
o
w
nre
q
u
la
tio
n確 認 後 H
M
G
使 用)
,s
h
o
rt法 又 は c
lo
m
ip
h
e
n
e
+H
M
G
,
c
lo
m
ip
h
e
n
e
,自然周期に対応して用いている.すなわち,若年者で a
n
tra
lfo
llic
leが多
いか,または P
C
O
型では U
ltralo
n
g法,a
n
tra
lfo
llic
leが普通で少な目,3
5
歳以上の方
は fla
reu
pを期待して s
h
o
rt法としている.高齢者や P
O
F型では G
n
R
H
-aの効果は少
なく c
lo
m
ip
h
e
n
eを投与している.
良好精子を回収(保存)する
通常の性状を示す精子に対しては,s
w
im
u
p法や p
e
rc
o
ll法で十分である.問題とな
るのは,重症男性不妊症における精子調整法であり,これらの点について述べてみる.
不動精子症:低浸透圧下における精子の細胞膜の変化を応用した H
y
p
o
-o
s
m
o
ticte
s
t
(H
O
S
T
)を施行する.この H
O
S
Tにより,生存精子と死滅精子とを容易に区別するこ
とが可能となる.さらに,この鑑別率を向上させる為に低浸透圧下に精子尾部が屈曲した
精子を等浸透圧の培養液内に移し,屈曲した精子尾部がもとの状態に戻った精子を用いる
ことにより(新 H
O
S
T法)IC
S
Iの受精率は3
2
.7
%(1
75
2
)から5
0
%(2
65
2
)に上昇
した. 無精子症〈閉塞性無精子症〉
:陰 切開後,精巣上体頭部より採取する方法(M
ic
ro
s
u
rg
ic
a
le
p
id
id
y
m
a
ls
p
e
rm
a
s
p
ira
tio
n
―M
E
S
A
)と経皮的に採取する方法(P
e
rc
u
ta
n
e
o
u
se
p
id
id
y
m
a
ls
p
e
rm
a
s
p
ira
tio
n
-P
E
S
A
)とがある.特に,M
E
S
A
では精子
C
lin
ic
a
lA
p
p
ro
a
c
hfo
rIm
p
ro
v
e
m
e
n
to
fth
eS
u
c
c
e
s
sR
a
teinA
R
TE
m
b
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oT
ra
n
s
fe
r
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u
s
h
iT
A
N
A
K
A
Saint Mother Hospital, Fukuoka
K
e
yw
o
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s:Inv
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m
b
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otra
n
s
fe
(I
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F
・E
T
)
・C
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o
p
re
s
e
rv
a
tio
n
・
B
la
s
to
c
y
s
ttra
n
s
fe
r・O
H
S
S
N―255
2001年9月
上体より容易に良好な精子を多量に回収し,凍結保存が可能となる.凍結した精巣上体精
子を用いた IC
S
Iの妊娠率は3
0
.9
%(2
5
58
2
5
)で,新鮮なものを用いた場合の妊娠率2
8
.5
%(1
4
85
2
0
)と大差がなく良好な臨床成績を得ることができた.
〈非閉塞性無精子症〉
:
精巣生検を行い精巣内精子を回収し(T
e
s
tic
u
la
rs
p
e
rm
e
x
tra
c
tio
n
―T
E
S
E
)IC
S
Iを行
い良好な結果を得ている.妊娠率3
7
.5
%(1
54
0
).もし,精巣内精子が認められないか,
たとえわずかながら認められたとしても形態異常や死滅している場合には後期精子細胞を
用いる場合も選択の一つとなり得る.妊娠率2
7
.0
%(6
62
4
4
)
.脊損患者に対しては M
E
S
A
を行い9
0
.6
%(1
1
51
2
7
)で精子を採取,凍結保存することができた.この精子を用いて
IC
S
Iを行い,妊娠率は6
6
.1
%(7
61
1
5
)であった.また脊損センターにて直腸電気刺激
により採精した精子を凍結保存する方法は外科的侵襲が少なく,今後,有用と期待できる.
極少精子の凍結保存:時々1
0
匹程度の精子を排出する無精子症に対し,この極少精子
を凍結保存できるならば臨床上非常に有用となる.卵細胞質を完全に除去し,空となった
卵子の中に数匹の精子を IC
S
Iの要領で注入し,8
%グリセリン+3
%
H
S
A
inP
B
Sの凍害
保護液で液体窒素蒸気内で急凍凍結した.融解後の精子の蘇生率はほぼ1
0
0
%であり,精
子の紛失もなく,IC
S
I後の受精率・分割率は良好精子と同様であった.
ICSI を積極的に行う
詳細は,
田
薫先生の講演内容を参照.
良好な分割卵を高率に発生させる
S
e
q
u
e
n
tia
lm
e
d
iaの使用:従来の s
in
g
lem
e
d
iaより c
o
m
p
a
c
tio
n前後で内容成
分の異なった m
e
d
iaに交換する s
e
q
u
e
n
tia
lm
e
d
iaを使用することにより胚盤胞への発
生率,発生速度が明らかに上昇した.B
io
p
h
a
rm
a社製の C
le
a
v
e
g
am
e
d
iu
mB
la
s
to
c
y
s
tm
e
d
iu
m
および H
T
Fを用いた群における採卵 5日後の胚盤胞への発生率(受精卵
当り,4細胞期胚当り)は,それぞれ〔4
6
.8
%(7
41
5
8
)
,6
7
.3
%(7
41
1
0
)
〕
〔
,2
4
.2
%(2
2
9
1
)
,2
9
.3
%(2
27
5
)
〕
であった. 共培養:卵管上皮細胞や V
e
ro細胞を fe
e
d
e
rc
e
ll
として,共培養を行うと胚盤胞への発生率は8
0
.0
%(2
02
5
)で s
e
q
u
e
n
tia
lm
e
d
iaを用
いた成績より高値となった.ただし,常に fe
e
d
e
rla
y
e
rを準備しておかなければならな
い点が問題点であり,この点が解消されるならば,着床率はもっと上昇するであろう.
子宮内膜がうすい場合には移植せず,全胚凍結し,自然周期に移植する
胚移植における子宮内膜厚が7
m
m
以下および1
0
m
m
以上における妊娠率は,それぞれ
1
8
.3
%(1
0
25
5
7
)
,4
3
.7
%(1
4
33
2
7
)であった.さらに,自然周期またはクロミフェン
周期に凍結胚を融解し,移植した妊娠率は5
6
.5
%(9
11
6
1
)
,5
0
.4
%(6
61
3
1
)でそれぞ
れの内膜厚の平均値は9
.6
m
m
,9
.1
m
m
であった.以上の結果より,子宮内膜厚が7
∼8
m
m
以下の場合には積極的に凍結胚移植に切り替えるようにしている.クロミフェン無効の
P
C
O
Sに対しては,腹腔鏡下卵巣電気焼灼が効果的である.焼灼後の自然周期およびク
ロミフェン周期における排卵率,妊娠率は〔9
2
.9
%(2
62
8
)
,5
7
.1
%(1
22
1
)
〕
〔
,8
8
.9
%
(1
61
8
)
,5
0
.0
%(71
4
)
〕
であった.胚凍結法としては,3
∼8細胞における E
th
y
le
n
eg
ly
c
o
l(1
.8
M
)
+S
u
c
ro
s
e
(0
.2
M
)を凍害保護液として行っている,この凍結法を用いた
際の胚の生存率,分割率,妊娠率および流産率は,
〔8
5
.0
%(7
,6
6
19
,0
1
4
)
,8
4
.9
%(6
,5
0
1
7
,6
6
1
)
,5
1
.5
%(9
6
61
,8
7
5
)
,1
2
.6
%(1
2
19
6
0
)
〕
であった.
N―256
日産婦誌53巻9号
子宮内膜が厚い場合には培養期間をのばす
子宮内膜厚が9
m
m
以上の症例における 2日目,3日目および 5日目における妊娠率は,
3
4
.8
%(3
29
2
)
,4
2
.0
%(8
92
1
2
)
,5
0
.3
%(9
31
8
5
)と培養期間が長くなるに従い上昇し
た.しかし,すべての受精卵が胚盤胞にまで発生するわけではなく各々の胚移植日までの
発生率を掛けた修正妊娠率は,2
9
.7
%,3
1
.6
%,2
3
.6
%と 3日目移植が最も高値を示した.
しかし,今後は高い着床率,低い多胎率を示す胚盤胞移植の n
e
e
d
sが高くなってくるで
あろうと予測される.
OHSS に十分な対応策をもつ
不妊症治療の中で最も注意しなければならない合併症は O
H
S
Sである.特に,重篤な
副作用を生じる後期 O
H
S
Sの発生を防止しなければならない.すなわち,O
H
S
Sが予
測される症例では妊娠率が一般より高くなることもあり,妊娠をなんとかして避けるよう
にしなければならないのである.その為には,まずすべての胚を凍結保存し,採卵周期に
は胚移植を行わないことが最も重要である.全胚凍結の基準としては,卵巣腫大,自覚症
状とともに卵巣内部エコーの診断が有用である.c
y
s
ticp
a
tte
rnを示す症例では後期
O
H
S
Sの頻度が s
o
lidp
a
tte
rnより高値となるので要注意である.O
H
S
Sの対応策とし
て,早期入院,低用量ドーパミン投与(1
∼1
.5
µ gk
gm
in
)が有効である.ris
kfa
c
to
r
保有者(P
C
O
S
,初回治療,若年者)に対しては十分な in
fo
rm
e
dc
o
n
s
e
n
tを心がけて
いる.
胚移植技術の向上
胚移植時に注意すべき点としては,子宮口の分泌物を十分に除去する,出血させない,
経腹超音波でチューブの先端を確認し,子宮内膜の最深部より約5
m
m
程手前で胚移植を
するなどがある.シングルチューブが円滑に入らない場合には,ただちにガイドワイヤー
付きチューブに変更する.さらに入らない場合には,経子宮筋層移植を行うようにしてい
る.従来の経子宮筋層移植は,子宮内腔に垂直にチューブを挿入していたが,この方法は
技術的に困難であった.そこで,我々は超音波プローブに特殊アダプターを装着し,内腔
への挿入角度とより平行となるようにしている(写真1
)
.この特殊アダプターを用いた
移植法により妊娠率,流産率は2
1
.7
%(4
01
8
4
)
,1
7
.5
%(74
0
)と上昇した.
Assisted hatching を行う
A
s
s
is
te
dh
a
tc
h
in
gの効果は,一般に報告されている程高いものではない.我々は,
高齢者および凍結胚の中で透明帯が明らかに厚化したり茶色となっている胚に対しての
み,この操作を行っている.透明帯はマイクロピペットで物理的に切開した.新鮮胚,凍
結胚における妊娠率,
流産率はそれぞれ〔2
9
.2
%(1
5
05
1
4
)
,
1
6
.0
%(2
41
5
0
)
〕
〔
,3
3
.3
%(4
2
1
2
6
)
,1
4
.3
%(64
2
)
〕
であった.
卵管水腫は先に治療する
卵管水腫は,胚の着床に対して悪影響を及ぼすことが知られている.我々は,良好な分
割卵と内膜にもかかわらず,過去 2回以上の IV
F
・E
Tを失敗した患者の卵管水腫に対し
ては,積極的に腹腔鏡下に卵管狭部切断,水腫部切開を行っている.同手術後の妊娠率,
流産率は4
1
.2
%(1
43
4
)
,1
4
.3
%(21
4
)と上昇した.
N―257
2001年9月
(写真 1
)経子宮筋層胚移植用の新しいアダプター
卵管内移植
IV
F
・E
Tの成績向上により,最近では G
IF
TZ
IF
Tの出番はなくなってしまったように
思われているが,卵管内移植の有用性には捨てがたいものがある.我々は4
0
歳以上,採
卵数が 2
∼3個と少なく,内膜は9
m
m
以上,先行 IV
F
・E
Tで妊娠失敗の症例に対し,IC
S
I
後の卵管内移植を行っている.IC
S
I-G
IF
T
,IC
S
I-Z
IF
Tの妊娠率,流産率は〔3
6
.4
%(2
3
7
6
5
1
)
,1
5
.2
%(3
62
3
7
)
〕
〔
,3
5
.3
%(7
92
2
4
)
,2
1
.5
%(1
77
9
)
〕
と良好な結果と示した.
覚醒が早く,副作用の少ない採卵時の麻酔
再度,IV
F
・E
Tを希望したいが,採卵時の麻酔を思うと躊躇するという患者は少なく
ない.そこで,我々は従来のジアゼパム+ケタミン(K
D
法)の方法からプロポフォール
+リドカイン(G
O
P
L法)の静注法に切り換え,良好な結果を得ている.K
D
法で多く
認められた悪心,嘔吐,不快な夢はほとんど認められず,完全覚醒は2
0
0
分から2
5
分に短
縮した.K
D
法および G
O
P
L法の両者を経験した1
0
0
名の患者に次回の麻酔法について
アンケートをとった結果8
5
%が G
O
P
L法を希望し,K
D
法を希望した数は 1名のみで
あった.
以上,どうすれば IV
F
・E
Tの妊娠率はもっと上昇できるか,について述べてきたが,
これらの方法を用いてもどうしても現在のところ対処できない問題点が残されている.
今後の課題
子 宮 内 膜 が ど う し て も 厚 く な ら な い 症 例, L
o
w
q
u
a
lityo
o
c
y
te
s
,L
o
w
re
s
p
o
n
d
e
r, 非閉塞性無精子症における M
a
tu
ra
tio
na
rre
s
t, 胚盤胞の凍結法の改良,
体外培養液の改良, 受精卵診断(体外受精卵の染色体異常)
,これらの点について,
今後も検討を行い,IV
F
・E
Tの妊娠率向上に精進していきたい.
〈共同研究者〉
永吉
基,粟田松一郎,馬渡 善文
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