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消さないでください
論文誌テンプレート
Ver.2009.04.06
論
文
直列形電圧補償装置における
出力電圧非線形性とキャリア周波数決定法
学生員
中田
上級会員
鳥井
篤史*, **
昭宏*
正員
上級会員
野嵜
正浩*
植田
明照*
Non-linear Characteristic of Output Voltage and Method for Determining Carrier Frequency
in a Series Voltage Compensator
Atsushi Nakata*,**, Student Member, Masahiro Nozaki*, Member,
Akihiro Torii*, Senior Member , Akiteru Ueda*, Senior Member
This paper describes the non-linear characteristic of output voltage and a method for determining carrier frequency. First, the
linear region of the output voltage is determined by calculating the upper limit of the modulation factor (ali) for which the gate
signal does not disappear. Second, the carrier frequency, which falls below ali, is determined by calculating the modulation factor
that generates the rated output voltage and by calculating the compensation voltage that reduces the dead-time and impedance
voltage. Third, the accuracy of the proposed design method is experimentally confirmed.
キーワード:直列形電圧補償装置,デッドタイム,キャリア周波数,出力電圧非線形性,変調率
Keywords:
:series voltage compensator, dead-time, carrier frequency, non-linear output voltage, modulation factor
のデッドタイム電圧は等価的に方形波電圧とみなすことが
1.
まえがき
できる。この方形波電圧はインバータへ流れ込む電流と逆
需要家の受電点である負荷端電圧を瞬時電圧低下時にも
位相で発生し,デッドタイム電圧による電圧降下や高調波
一 定 に 保 つ た め に , 直 列 形 電 圧 補 償 装 置 (Series Voltage
電圧が誘導電動機制御系を不安定にさせることが報告され
Compensator, 以下 SVC の略号を使用する)や直列形瞬時電
ている(5)(6)。また,SVC には LCR フィルタが用いられてお
圧低下補償装置(DVR)が用いられている(1)-(4)。SVC は瞬時電
り,PWM インバータが発生するリプル電圧を減じて系統へ
圧低下を検出すると,系統電圧と同期した基本波電圧を
の流出を抑制させている。系統電流が変圧器を介して電流
PWM インバータによって発生させ,系統に直列に挿入した
源として流れこむため,インバータ側のフィルタリアクト
変圧器を介して不足分電圧を系統へ重畳する装置 (1)(2) であ
ル L や変圧器の内部インピーダンスによる電圧降下によっ
る。瞬時電圧低下を補償する場合は高応答なオープンルー
て出力電圧が低下する(7)(8)。
プ制御を,フリッカ・不平衡電圧・高調波電圧を補償する
三角波と指令値を比較した結果である PWM 信号の立ち
場合は精度が良いフィードバック制御を行う多機能型 SVC
上がりをデッドタイム分だけ遅らせてゲート信号を作成す
も提案されている(2)。本論文では瞬時電圧低下を補償する場
るが,デッドタイムより短いパルスの PWM 信号はゲート信
合の SVC の設計法について議論するため,瞬時に出力電圧
号から消失する。同レグ中の一方のスイッチは完全に OFF
を発生できるオープンループ制御を用いる。直列変圧器は
し,
他方のスイッチはデッドタイム分だけ OFF する以外 ON
変流器と同じ動作をするため,変圧比に応じた系統側の電
となるため,過変調時のような動作をし,出力電圧が変調
流が電流源負荷となって電圧形 PWM インバータに流れ込
率に対して非線形となる(9)。デッドタイムによってゲート信
む。デッドタイム期間中に環流ダイオードへ電流が流れる
号が消失することは知られており,ある変調率を超えると
ことによってパルス列のデッドタイム電圧が発生する。こ
過変調時と同様の動作となって出力電圧が急激に変化す
る。産業界では強制的に最小 ON パルス信号をゲート信号に
*
**
愛知工業大学
〒470-0392 豊田市八草町八千草 1247
Aichi Institute of Technology.,
1247 Yachigusa, Yakusa-Cho, Toyota 470-0392
静岡理工科大学
〒437-8555 袋井市豊沢 2200-2
Shizuoka Institute of Science and Technology
2200-2, Toyosawa, Fukuroi 437-8555
© 200● The Institute of Electrical Engineers of Japan.
加える対策(10)などを行って,非線形性はあるが変調率と出
力電圧が連続性をもつ手法が用いられている。しかし,強
制的にスイッチングパルス幅を確保するため変調率に対し
て出力線間電圧の急激な変化は抑制されるが,非線形性は
1
依然残る。オープンループ制御で出力電圧の精度を確保す
るには,変調率と出力電圧の関係が線形であることが重要
である。オープンループ制御を用いる場合,その線形範囲
だけを使用するために,ゲート信号が消失しない上限の変
調率を求め,与える指令値の変調率を,その上限変調率以
下としなければならない。また,キャリア周波数に比例す
るデッドタイム電圧と系統電流の大きさに比例するインピ
ーダンス電圧による電圧降下が系統電流の力率によって最
Fig. 1.
も SVC 出力電圧を低下させる条件を求め,その補償電圧と
System configuration.
Table 1. Parameters of system.
定格出力電圧を出すのに必要な変調率とキャリア周波数も
知る必要がある。これらを解析的に検討した文献は,著者
の知る限りないように思われる。
以下,2 章で対象システムの回路構成とその回路定数を示
す。3 章で三角波比較方式の電圧形 PWM インバータの出力
電圧の非線形性について述べる。従来から知られている出
力電圧が線形出力可能となる変調率の上限値,つまりゲー
ト信号がデッドタイムによって消失しない変調率の上限値
を求める。4 章で,これまで検討がなされていない SVC 直
列部の制御に関し,変調率の算出法を明らかにした上で,
出力電圧の線形性をキャリア周波数決定の条件として追加
した手法を提案し,具体的な設計例を示す。5 章で 4 章を踏
まえたミニモデルによる実験について述べる。
2.
直列形電圧補償装置の回路構成
定格容量は 75kVA となる。標準的な 75kVA 変圧器の内部イ
Fig.1 に SVC のシステム構成図を示す。並列部は PWM 整
ンピーダンス値より,漏れインダクタンスを 2.25%,巻線抵
流器で直流電圧一定制御,力率 1 制御を行う。直列部は系
抗を 1%とする。1200V の IGBT を用いることとするため,
統電圧と同位相の正弦波電圧が発生するように制御を行
直列変圧器のインバータ側の電圧を 300V(Δ結線)とする
う。直列部では系統へ直列に変圧器が挿入されており,直
と,インバータ側に流れ込む系統電流は 144.3A となる。従
列変圧器は変流器と同じ振る舞いをするため,インバータ
って,インバータは定格出力線間電圧 300V,定格電流
側では直列変圧器はインピーダンスを持った電流源として
144.3A,直流電圧 600V,定格電力 75kVA となる。
動作する。変圧器と LC フィルタのインピーダンス電圧は電
インバータに使用する IGBT は 1200V,600A の素子を想定
流の大きさに比例して発生する。また,インバータの還流
している。本論文の SVC では伝導・放射ノイズの抑制を重
ダイオードに電流が流れることによってデッドタイム電圧
視する。数ある伝導・放射ノイズを抑制する手法の中で,
も発生する。SVC では電圧低下時,系統側に挿入された直
キャリア周波数を低くする手法 (11) やゲート抵抗を大きく
列変圧器から系統電圧と同位相の正弦波電圧を 1/2 サイク
してサージの発生量を減らす手法 (12) はよく用いられてい
(1)
(2)
ル以内 や 1/4 サイクル以内 など瞬時に発生させる必要が
る。ゲート抵抗を大きくすることによる IGBT 素子のター
ある。SVC でフィードバック制御を行うと,ゲイン不足の
ンオン時間とターンオフ時間の増加,およびゲートドライ
ため補償電圧指令値に追従せず,電圧低下の補償が瞬時に
ブ回路の遅延も考慮して,デッドタイム Tdt は 6µs と設定
行えなくなる。またゲインを大きくすると不安定となる問
した。
題がある。本論文で検討する SVC では高応答なオープンル
3.
デッドタイムによる出力電圧非線形性
ープ制御を用い,フィードフォワード制御でデッドタイム
電圧とインピーダンス電圧をうち消す制御を行う。
〈3・1〉デッドタイム電圧
Fig.2 にデッドタイム電圧の
Table 1 にこの論文で検討対象とするシステムの定数を示
説明図を示す。デッドタイムによる電圧はデッドタイムの
す。Fig.1 の回路構成において最大負荷容量が 375kVA の場
期間パルス列で発生し,その平均値は近似的な方形波電圧と
合,系統電圧が 6.6kV であるので最大系統電流は 32.8A とな
みなすことができる。Fig.2 では相電圧を示しており,出力
る。瞬時電圧低下は 20%以下の割合が多く,費用/効果を考
電圧に対して電流は遅れの波形を示している。近似的な方
慮して,SVC は頻度の高い 20%以下の瞬時電圧低下を補償
形波電圧で示したデッドタイム電圧は電流と逆位相にな
する装置として開発されている(7)。系統電圧の 20%の電圧を
り,還流ダイオードによって電流の極性とは逆方向のデッ
補償するため,直列変圧器の系統側電圧(オープン側)は
ドタイム電圧が発生し,インバータ出力電圧の外乱として
762V とする。系統電流が 32.8A であるので,直列変圧器の
動作する。インバータが有効電力を放出する方向の電圧を
2
IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●
SVC の出力電圧非線形性とキャリア周波数決定法
Fig. 2.
Dead-time voltage.
Fig. 4.
Simulation result and theoretical value of output
voltage to modulation factor.
Fig. 3.
Simulation circuit.
発生させる場合,方形波状のデッドタイム電圧は高調波電
圧を発生させるだけでなく,インバータが出力した基本波
電圧を下げる働きもする。有効電力を放出する力率 1 の場
合は出力電圧をデッドタイム電圧が下げる方向に動作し,
Fig. 5.
有効電力を吸収する力率-1 の場合(回生)では出力電圧をデ
ッドタイム電圧が上げる方向に動作する。
Gate signal waveforms by simulation.
ュレーションでは基本波周波数の帯域通過フィルタ(BPF)を
デッドタイムの基本波線間電圧は直流電圧 Vdc とキャリ
通して十分時間が経過したときの実効値を測定した。イン
ア周波数 fc とデッドタイム Tdt に比例し
バータの電圧の位相と電流源の位相は同位相であるため,
出力電圧が正の場合,有効分を放出し,負の場合回生する
.......................................... (1)
電圧が発生していることを示している。理論値とシミュレ
で示され(7),IGBT に逆並列接続された環流ダイオードに電
ーション結果は概ね一致しているが,拡大図において,キ
流が流れることで発生する。また,インバータが発生する
ャリア周波数 fc が 5kHz のとき変調率 a が±0.95 付近,10kHz
基本波出力線間電圧は
のとき変調率 a が±0.89 付近で誤差が大きくなっており,こ
の変調率以上では変調率と出力電圧の関係が非線形とな
..................................................... (2)
る。従って,(3)式の理論式が成り立つ上限があるといえ,
で示される。a は変調率で±1 の範囲で変化し,Fig.3 の電流
その条件については<3・3>で検討する。
源の極性より,a の符号が正の場合は有効電力を放出する方
Fig.5 にキャリア周波数 fc が 10kHz で変調率が 0.95 時の
向で,a の符号が負の場合は有効電力を吸収する方向とす
シミュレーションによるゲート信号波形を示す。指令値で
る。出力電圧と電流が同位相(力率 1)のとき電圧降下が最も
ある正弦波が負の最大値付近になると P 側のゲート信号が
大きく,有効分を放出する場合の基本波線間出力電圧 Vuv
発生しなくなっている。これは三角波と比較された P 側の
の理論式は
PWM 信号がデッドタイム時間 6µs より短いため,ゲート信
号が消失しているためである。出力電圧が非線形となる影
響を軽減するために,産業界ではゲート信号が消失するの
....................................................................................... (3)
を防止する 1 手法として,ゲート信号に最小 ON パルス(デ
ッドタイムと等しい)を加えるなど (10) の対策が行われてい
となる。
Fig.3 はイ
る。この対策によって,出力電圧が変調率に対し急激に変
ンバータのシミュレーション回路図で,この等価回路でデ
化しなくなり,非線形性はあるが連続性が得られるように
ッドタイム電圧の影響を検討する。定数は Table 1 より,Is
なる。ただし,強制的にパルスを加えてパルス幅を確保す
を 144.3A,Vdc を 600V,Tdt を 6µs とする。
ると出力電圧の低次のひずみが増加する。出力電圧に急激
〈3・2〉デッドタイムによるゲート信号消失
Fig.3 の回路において三角波キャリア周波数 fc は 5kHz と
な変化が生じたりひずみが増えるので,テーブルなどによ
10kHz で検討を行う。Fig.4 にシミュレーション解析結果の
る出力電圧の非線形補正は適切でない。ゲート信号が消失
基本波実効値と(3)式の計算結果を示す。実線が(3)式の理論
する場合と最小 ON パルスを加えた場合のいずれも,変調率
値を示し,点がシミュレーション結果を示している。シミ
と出力電圧の関係はある変調率を超えると非線形となる
電学論●,●●巻●号,●●●年
3
4.
が,出力電圧が線形となる変調率の上限値は両者とも同じ
である。従って,線形出力とするために,その変調率以下
直列形電圧補償装置の回路解析と設計例
3 章で,インピーダンス電圧を無視し,デッドタイム電圧
で制御を行う必要がある。
を考慮し,出力電圧が線形となる変調率の上限と最大キャ
〈3・3〉変調率の上限値 ali の求め方
(3)式を変形して変
リア周波数を求めた。インピーダンス電圧は電流値に比例
調率 a について求めると次式となる。
し,デッドタイム電圧はキャリア周波数に比例する。本章
........................................... (4)
ではこれらの電圧を考慮し,出力電圧が変調率に対して線
形となるキャリア周波数の決定法を提案する。
Fig.6 に三角波とデッドタイムの説明図を示す。PWM 信
〈4・1〉等価回路と最大変調率 am
号は三角波と指令値を比較した波形で,立ち上がり信号を
Fig.7 に直列部の等
価回路を示す。Fig.7 のフィルタの並列部 Rf,Cf はリプル電流
Tdt 分だけ遅らせるデッドタイム回路を通す前の波形であ
を吸収する役割をする。また,フィルタ Lf と直列変圧器の
る。三角波のピーク値を 1,電圧指令値の振幅値を a とする
内部インピーダンスによって電圧降下が発生するため,こ
と,三角波の傾きから,Tdt によってゲート信号が消失しな
の降下するインピーダンス電圧もインバータが補償して,
い条件,つまり線形出力範囲の変調率の上限値 ali は
出力線間電圧 Vout_uv が定格電圧となるように制御をしなけ
............................... (5)
ればならない。
インピーダンス電圧とデッドタイム電圧を検討するた
となる。この式で求まる上限値以下でなければ,変調率と
となる。SVC の並列器は PWM 整流器であるため,直流電
め,フィルタの並列接続部 Rf,Cf を無視すると,単相等価回
.
路は Fig.8 と示すことができる。インバータ出力電圧 VIGBT
.
は系統電圧と同期した正弦波電圧 Vout(目的とする出力電
.
圧),デッドタイム電圧 Vdead を打ち消す電圧(基本波と高調
.
波),フィルタ電圧降下 VLf を打ち消す電圧と変圧器インピ
.
.
ーダンス電圧 VRt(巻線抵抗分)と VLt(漏れインダクタン
.
ス分)を打ち消す電圧を出力する。デッドタイム電圧 Vdead
.
は系統電流 Is と同位相で,パルス列電圧がフィルタリング
圧を変更できる。(4)式より,直流電圧を上げることによっ
されて方形波状の電圧波形となるため,ツェナーダイオー
インバータ出力電圧の関係は非線形となる。参考文献(10)
の強制的に最小 ON パルスを加える方法でも同様である。た
だし,(5)式の変調率の上限値 ali は理論上ロジックレベルで
ゲート信号が存在する条件である。デッドタイム電圧だけ
を考慮した場合,定格線間電圧を出すのに必要なキャリア
周波数の上限値は(4)式と(5)式より
...................................................... (6)
ド(ツェナー電圧は Vz)でモデル化した。系統電源の相電圧を
.
基準とし,Vout は系統の相電圧と同相に制御する。
て変調率の最大値を下げることが可能である。直流電圧を
上げると,電解コンデンサをはじめ直流部品を高耐圧の部
Fig.8 の回路の電圧平衡式は次式で示される。
品にする必要がある。直流電圧を上げることは,部品容積
を増加させ,コストを上昇させることとなる。Table 1 より,
定格出力線間電圧 Vuv が 300V,直流電圧 Vdc が 600V,デ
................. (7)
.
インバータ出力電圧 VIGBT は相電圧であるので,次式とな
ッドタイム Tdt が 6µs とし,Fig.3 の回路のようにインピー
る。
ダンスによる電圧降下を無視した場合,(6)式より fc ≦
......................................... (8)
6,727Hz となる。この結果を(5)式に代入すると変調率の上
限値は 0.919 となり ali≦0.919 を満たす必要がある。(5)式と
電流 Is の系統電圧に対する位相をθ(遅れを正)とする。
(6)式の結果より,電流源とインバータのみの回路構成では,
(7),(8)式より,インバータが出力すべき電圧の実軸成分と虚
キャリア周波数が 6,727Hz 以下で変調率が 0.919 以下であれ
軸成分の変調率を解くと次式となる。
ば,インバータ出力電圧が線形出力できると求まる。
....................................................................................... (9)
..................................................................................... (10)
Vout,Vdead,VRt,VLf,VLt は各電圧の実効値を示しており,スカラ
量である。(9),(10)式はインバータの出力電圧の実軸成分と
虚軸成分の変調率であるので,これを合成すると次式とな
る。
......................................................... (11)
Fig. 6. Triangle waveform and dead-time.
4
IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●
SVC の出力電圧非線形性とキャリア周波数決定法
(12)式より変調率が最大となる力率角θm を求める。求めた
θm を代入した(13)式の am と,(5)式の変調率の上限値 ali と
が一致するキャリア周波数 fc が,求めるべきキャリア周波
数の上限値となる。Fig.9 に 100%負荷時,75%負荷時,50%
負荷時の(5)式と(18)式の交点からキャリア周波数の上限値
を求めた図と,キャリア周波数が 5,636Hz 時の力率角を変化
させたときの最大変調率を求めた図を示す。Fig.10 に負荷を
0%から 100%まで変化させたときの各相電圧実効値と最大
変調率 am と最大力率角θm を求めた図を示す。Fig.10(a)に示
Fig. 7. Equivalent circuit in series converter.
すように,デッドタイム電圧は負荷率に依存せず,キャリ
ア周波数のみに依存する。最も大きな変調率を必要とする
のは 100%負荷時で(12)式の最大力率角となる条件のときで
あり,これが最も厳しい条件である。Fig.9(b)と Fig.10(b)よ
り,100%負荷時で力率角が 35.6 度のとき,変調率を 0.932
以下とする必要がある。これが変調率の最大値であり,
5,636Hz 以下のキャリア周波数かつ 0.932 以下の変調率でな
ければ,変調率に対して出力電圧が線形性を維持できない
といえる。
3 章でも述べたが,これらの理論的な検証によって求まっ
たキャリア周波数や変調率は,ゲートロジックレベルで信
Fig. 8. Equivalent single-phase circuit.
号が消失しない条件の上限値である。実際には素子のター
(11)式に(9),(10)式を代入した式より da/dθ=0を求め,変調率
ンオン遅れとターンオフ遅れ,ゲート・ドライバの遅延(主
a が最大値となるときのθをθm とすると
にフォトカプラによる遅延)の影響を考慮する必要がある。
理論上キャリア周波数 fc は 5,636Hz 以下と求められたが,
............................................. (12)
スイッチング素子やゲートドライバの遅延を考慮して,キ
ャリア周波数は余裕をとって 5kHz とする。
となる。(12)式が成り立つとき,(10)式の aIm は 0 となり,変
調率の実軸成分のみとなるため,変調率の最大値 am は次式
となる。
..................................................................................... (13)
〈4・2〉キャリア周波数決定法と設計例
前節では等価回
路の解析を行った。以下では,提案するキャリア周波数の
決定法を,Table 1 の回路定数を用いて具体的な設計例とし
(a)
Determination method of carrier frequency by
て示す。デッドタイム電圧には基本波成分以外に高調波成
intersection point in Eq.(5) and Eq.(13), and maximum
分が含まれるが,変調率のピーク値に影響がないため,こ
power factor angle.
こでは基本波成分のみを検討することとする。
定格出力電圧(線間)は 300V であるので,相電圧の定格出
力 Vout は 173.2V となる。定格電流が流れた場合,変圧器の
内 部 イ ン ピ ー ダ ン ス に よ っ て 発 生 す る 電 圧 は , VLt が
3.897V(2.25%),VRt が 1.732V(1%)となる。
フィルタのリアクトル Lf の%インピーダンス{%Lf}は基
本波電流の振幅値に対して最大のリプル電流の比率を 30%
以下としたいので,6%とする(13)。フィルタ Lf が 6%で定格
電流が流れた場合,フィルタのリアクトル Lf に発生する電
圧 VLf は 10.392 V となる。
Fig.8 において,インピーダンス電圧 VRt,VLf,VLt は系統電
(b)
流 Is の大きさに比例するが,キャリア周波数には依存しな
Maximum modulation factor and power factor angle at
fc=5,636Hz when load is 100%, 75% and 50%.
い。デッドタイム電圧 Vdead は系統電流 Is の大きさに依存し
Fig. 9. Determination method of carrier frequency and
ないが,キャリア周波数に比例する。fc の数値を変化させ,
maximum modulation factor.
電学論●,●●巻●号,●●●年
5
Table 2. Parameters of series converter.
(a) Each phase voltage.
(b) θm and modulation factor.
Fig.10. Phase voltage, θm and modulation factor in the case of
changing load from 0% to 100%.
5.
直列形電圧補償装置の実験回路
Fig.11 にミニモデル実験回路図を示す。Table 1 に示した
Fig. 12. Block diagram of proposed method.
回路定数と等価性を維持するため,単位法を用いて設計を
Table 3. Parameters of vFF in the case of fc=10 kHz
行いミニモデル回路の定数を求める。Table 2 に直列器の回
and fc=5 kHz.
路定数を示す。電源線間電圧 Vs は 50V/60Hz とする。変換
器の中間リンクコンデンサ Cdc は 2,640µF とし,直流電圧
Vdc は 100V とする。インバータの定格出力電圧(線間)は 50V
とし,定格線電流 Iinv は 4.33A とする。実験回路は Table 1
の回路定数に対し電圧比は 1/6,電流比は 3/100 のミニモデ
Fig.12 に制御ブロック線図を示す。デッドタイム電圧とイ
ルとなる。並列器の順変換器に用いるフィルタ定数には,
ンピーダンス電圧の補償電圧 vFF は次式で求められる(7)。
インダクタ L1,L2 とも 1mH を用い,Cr は 3.3µF をΔ結線とし,
ダンピング抵抗 Rr は 2Ωとした。
.............. (14)
直列変圧器は単相変圧器 100V:100V で 500VA 定格を 3 台
用いてインバータ側を 1 次,系統側を 2 次として使用し,1
.............................................. (15)
次側をΔ結線し,2 次側をオープンにして系統に直列に挿入
する。Table 2 のフィルタ Lf,変圧器の漏れインダクタンス
............................................................ (16)
Lt,巻線抵抗 Rt は本実験回路の定格電流 4.33A で短絡試験
を行い,実測値から求めた。変圧器のインピーダンスはイ
ンバータ側からみたインピーダンスを示している。なおフ
..................................................................................... (17)
ィルタ Lf の巻線抵抗は短絡試験の結果 0.2mΩと非常に小さ
(16)式の n は高調波の次数を意味する。(14)-(17)式から補償
いため,無視する。
電圧を求め,その値を用いてデータテーブルを作成し,フ
ィードフォワード電圧指令値 vFF でデッドタイム電圧とイン
ピーダンス電圧を補償する。キャリア周波数 fc が 10kHz の
場合と 5kHz の場合の,定格電流時の vFF パラメータを Table
3 に示す。ここではデッドタイム電圧やインピーダンス電圧
は相電圧実効値で記述している。また,Fig.8 においてデッ
ドタイム相電圧を方形波で模擬したが,相電圧には存在す
る 3 の奇数倍次の高調波電圧は互いに打ち消され,インバ
ータ線間出力電圧に現れないため, vFF 補償パラメータには
Fig. 11. Mini-model experimental circuit.
ない。
6
IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●
SVC の出力電圧非線形性とキャリア周波数決定法
Table 3 のパラメータを Fig.12 の vFF に用いて実験を行う。
以上の結果より,提案法から求められたキャリア周波数
なお,定格時の線間出力電圧を 50V としたいので,相電圧
5kHz ならば,定格出力電圧を設定した変調率で出力可能で
出力 Vout が 28.87 V となるように vout*の振幅は 0.8165 とし
あることが実験により検証できた。
た。直列変圧器がΔ-オープン接続であるため,SVC の線間
6.
まとめ
出力電圧が系統の相電圧と同期していなければならない。
よって,相電圧出力指令値 vout*の位相は系統相電圧より,30
本論文では三角波比較方式の電圧形 PWM インバータに
度遅れた位相とする。
電流源負荷を接続した場合において,変調率と出力電圧と
Table 4 にキャリア周波数と最大変調率の計算結果を示
の関係が非線形となる現象について検討を行った。SVC の
す。これはキャリア周波数が 10kHz または 5kHz のとき,力
出力電圧が線形出力可能となる変調率の上限値,つまりゲ
率角θが 0 度のとき,または変調率が最大となるときの力
ート信号がデッドタイムによって消失しない変調率の上限
率角θm を検討した結果である。なお,本実験では 5kHz 用
値を解析的に求めた。系統電流の力率によって,デッドタ
に設計された LCR フィルタ
(13)
で実験を行い,電圧降下を引
イム電圧とインピーダンス電圧による電圧降下が最も SVC
き起こすデッドタイム電圧によって出力電圧が十分出せる
の出力電圧に影響する条件を求めた。系統電圧と同期した
か否かを確認する。キャリア周波数が 10kHz の場合,リプ
SVC 出力電圧を定格電圧まで出力するのに必要な変調率
ル電流とリプル電圧が設計値に対して半減するが,これら
と,その補償電圧を出すのに必要な変調率を求めて合成し,
リプル成分は基本波出力電圧に影響しないため,実験目的
合成した変調率が非線形となる変調率の上限値を超えない
に対してフィルタ定数は変更しなくても支障はない。
ようにするための,キャリア周波数決定法を提案した。
インバータが最大の変調率を必要とするのは,変調率の
提案した設計法を用いて SVC を設計し,実験による検証
無効成分 jaIm が 0 となるときであり,(12)式より力率角θm
を行った。実験による検証の結果,提案法の妥当性を確認
が求まる。この条件が成り立つのは,fc が 10kHz の場合で
できた。SVC だけでなく DVR など直列器の場合は,電圧形
力率角 θm が 17.0 度,fc が 5kHz の場合で θm が 27.7 度のとき
PWM インバータに電流源負荷が接続された様な振る舞い
である。(5)式より,線形性が維持できる変調率の上限値 ali
をするので,本論文で提案した設計法が利用できる。
は am≦ali を満たす必要があるが,fc が 10kHz の場合では,
(11)式より求めた変調率 a は 1 を超えており,ali が 0.88 以下
Table 4. Calculation results of carrier frequency and maximum
をいずれも満たさない。よって,この場合は過変調となり,
modulation factor.
変調率 0.88 以上で変調率と出力電圧の関係が非線形とな
る。fc が 5kHz の場合,ali が 0.94 以下であるため,力率角が
27.7 度の場合でも最大変調率 am は 0.936 であり,am≦ali を
満たすため,定格出力電圧まで線形に出力可能である。
これらの提案法によって求めた結果を検証するため,以
下の実験を行う。
実験 1:fc が 10kHz で力率角 0 度,つまり IL が 0A で IR
・
が 2.5A 負荷としたとき。
実験 2:fc が 5kHz で力率角 0 度,つまり IL が 0A で IR
・
が 2.5A 負荷としたとき。
実験 3:fc が 5kHz で力率角 27.7 度,つまり IL が 1.17A
・
で IR が 2.21A 負荷としたとき。
Fig.11 の実験回路において,実験 3 では IL は三相スライダ
Fig.13. Experimental waveforms in the case of fc 10 kHz and
power factor angle 0°.
ックの 2 次側に 200mH のリアクトルをΔ接続し,1 次側の
電流を 1.17 A 程度となるように調節する。また IR は摺動抵
抗を使用して 2.21A 程度となるように調整する。実験 1-3 の
インバータ電流 iinv_u と出力電圧 vout_uv 波形を Fig.13-15 に示
す。
実験の結果,fc が 10kHz の実験波形を示した Fig.13 では
出力電圧が定格電圧 50V に対して 42.8V(85.6%)しか出力さ
れていない。これはデッドタイム電圧による電圧降下が大
きいため,出力電圧が不足するためである。これに対し,fc
が 5kHz の実験波形の Fig.14 及び Fig.15 では,計算通りほぼ
定格電圧まで出力されている。なお,Fig.14 と Fig.15 の出力
Fig. 14. Experimental waveforms in the case of fc 5 kHz and
power factor angle 0°.
電圧が 0.9V 異なるのは,測定誤差の影響と思われる。
電学論●,●●巻●号,●●●年
7
(9)
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(11)
(12)
Fig. 15. Experimental waveforms in the case of fc 5 kHz and
power factor angle 27.7°.
文
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(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(13)
献
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田 篤
史 (学生員) 1973 年生。1998 年 3 月愛知工業大
学大学院工学研究科修士課程電気電子工学専
攻修了。同年 4 月(株)明電舎入社。電力変
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(有)桃園電設入社。FA 制御盤設計製作と電
気工事業の業務に従事。代表取締役。2010 年
4 月愛知工業大学大学院工学研究科博士後期
課程電気・材料工学専攻へ社会人入学。2012
年 4 月静岡理工科大学理工学部電気電子工学
科特任講師。電力変換装置の研究に従事。
野
嵜 正
浩 (正員) 1987 年生。2012 年 3 月愛知工業大学
大学院工学研究科博士前期課程電気電子工学
専攻修了。在学中,電力系統用電力変換装置
の研究に従事。2012 年 4 月東洋電機製造株式
会社入社。
8
鳥
井 昭
宏 (上級会員) 1966 年生。1994 年名古屋大学大
学院工学研究科博士後期課程修了。現在,愛
知工業大学工学部電気学科教授。博士(工学)。
精密計測,マイクロメカトロニクスに関する
研究に従事。
植
田 明
照 (上級会員) 1943 年生。1965 年名古屋大学工
学部電気学科卒業。同年日立製作所入社。
1994 年から愛知工業大学工学部電気工学科
教授。工学博士。電力系統用,産業用,車両
用の電力変換装置の研究に従事。1983 年
IEEE-IAS 論文賞,1990 年電気学会論文賞受
賞。IEEE 会員。
IEEJ Trans. ●●, Vol.●●, No.●, ●●●
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