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18L-01 水溶液の放射線効果の研究
18L-01 水溶液の放射線効果の研究 研究テーマ代表者(東大院工)勝村庸介 実験参加者 (東大院工)工藤久明、室屋裕佐、林銘章、韓鎮輝、 付海英、山下真一、佐伯誠一、熊谷友多、 平杉慎、端邦樹、作美明、上田徹 (パリ南大)Mehran Mostafavi, Isabelle Lampre 【1. はじめに】 活性酸素は反応性に富むため生体内で正常組織を傷つけ、様々な疾 患を引き起こすと考えられ、この活性酸素を除去する効果のある抗酸化物質が近年注 目を集めている。抗酸化剤の一つで、脳梗塞用薬剤であるエダラボン (3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one)は体内で H H HC HC 発生する•OHを捕捉するため、近年では放射線防 H N N 護効果も期待され研究されている。しかし反応性 O O + N N + H に関する研究は少ない。エダラボンは水溶液中で pK a~7 ケト・エノール互変異性をとり、エノール形は Fig. 1 のようにpHによって形態を変化させるが、 図 1:エダラボンの酸塩基平衡 そのpKaも報告によって異なる[1,2]。本研究では エダラボンのeaq-やラジカルとの反応性を測定し、さらにpKa値の評価も行った。 【2. パルスラジオリシス実験】 東大原子力専攻の S バンドライナックから得られる ナノ秒の電子パルス(35 MeV, 10 ns(FWHM))を試料に照射し、分析光に Xe フラッシ ュランプからの白色光を用いて、パルスラジオリシス法により実験を行った。分析光 は試料を透過させた後、モノクロメータで分光し、シリコン PIN フォトダイオードお よびオシロスコープで可視光領域における吸収分光測定を行った。また試料は、フロ ーシステムを用いて常にフローさせることで、照射による試料の劣化を防いだ。 【3. 実験結果と考察】 3 評価した。エダラボン濃度を 0.2−0.8 mMの範 囲で増加させると立ち上がりが速くなる(Fig. 3)。濃度−反応速度プロットのフィッティング 直線の傾きより、反応速度定数を求めた。PH7、 9 のいずれもk=(8.7±0.3)×109 M-1s-1 であった。 0.4 0.35 0.3 Absorbance •OHとの反応性 N2O飽和した 1 mMエダラボ ン水溶液を試料に用い、pH7 および 9 における •OHとの反応生成物の吸収スペクトルを測定し た。pH7、9 のいずれも 320 nmにピークを持つ 吸収スペクトルが得られ(Fig. 2)、pHによる変 化は見られない。次に•OHとの反応速度定数を 3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 250 300 350 400 450 wave length / nm 500 Fig. 2. Spectra of the •OH adduct of edaravone measured at pH = 7(•) and pH = 9(+) by pulse radiolysis. 0.12 (d) 0.1 (c) (b) (a) Absorbance 0.08 0.06 0.04 0.02 0 -0.02 -1 0 1 2 3 time / μs 4 5 Fig. 3. Formation of •OH adduct of edaravone observed at the concentrations of (a) 0.2, (b) 0.4, (c) 0.6, and (d) 0.8 5 4 k / 10 9M-1 s-1 EPRによる間接的な測定による研究から速度 定数は 3.0×1010 M-1s-1と報告されているが[3]、 生成物の時間挙動を直接観測した本実験結果 のほうが信頼性の高い値であるといえる。 水和電子との反応性 •OHを捕捉するため 1% t-BuOHを加え、N2脱気した溶液を試料に 用いた。pH7 付近においてエダラボン濃度を 0.2−1.0 mMの範囲で変化させてeaq-の時間挙 動を測定した。eaq-の減衰はエダラボン濃度増 加により加速する。一方、pH9 付近では濃度 依存性は見られず、エダラボンアニオンとの 反応性は低いことがわかった。eaq-との反応性 のpH依存性を用いて、エダラボンのpKaの測 定を行った。pHはHClO4とNaOHで調整し、各 点における速度定数を測定し、pHに対してプ ロットした。結果をFig. 4 に示す。pKaは 6.9 と得られた。また、吸収スペクトル測定から 300 nm近傍に生成物によると思われる吸収が 観測されたが、その生成速度は水和電子の減 衰より遅いことから、電子との反応後引き続 く反応により生成してくる化学種を観測して いるものと考えられる。 その他のラジカルとの反応 pH9 におけるエ ダラボンと酸化性ラジカル種(N3• 、Br2•- 、 SO4•-)との反応性を測定した。N3•およびSO4•- pKa = 6.89 3 2 1 0 4 5 6 7 pH 8 9 10 Fig. 4. Rate constant measured at pH 5 – 9. The pKa value of around 6.9 was obtained. との反応速度定数はそれぞれ 5.4×109 M-1s-1および 1.0×108 M-1s-1と得られた。いずれも 生成物は 350 nm付近にピークを持つスペクトルを示し、•OHとは異なる。 【まとめ】本研究ではエダラボンのラジカル捕捉能をパルスラジオリシス法を用いて 測定した。従来より信頼性の高い•OHとの反応速度定数が求められ、eaq-との反応性か らエダラボンのpKa値を 6.9 と決定した。また、吸収スペクトルの違いから•OHと他 の酸化性ラジカルとの反応で得られる生成物は異なることがわかった。今後、構造の 近いエダラボン誘導体についても同様の実験を行い、反応性の評価を行うとともに、 エダラボンのもつ耐酸化性との関係について議論を進めていきたいと考えている。 【参考文献】 [1] M. S. Masound, et al, Molecules, 8, 430-438 (2003). [2] Y. Yamamoto, et al, Redox. Rep, 2 , 333-338 (1996). [3] S. Abe, et al, Chem. Pharm. Bull, 52, 186-191 (2004).