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実体経済面からみた日本と中国の関係について
エコノミストの視点 2012 年 9 月 28 日 実体経済面からみた日本と中国の関係について 中国における大規模な反日デモは一旦収まったかに見えるが、再燃の可能性 もまだまだ指摘されるなど、予断を許さない状況が続いている。こうした日中 間の社会的、政治的な緊張は、当然ながら経済的な関係の悪化にもつながると 懸念されるところである。以下、我が国経済に対して如何なる所、経路で影響 が及び得るのか、実体経済面に絞って日本と中国の関係を整理してみた。 1.輸出面への影響 日本からの中国向け輸出金額(財のみ、通関ベース)は、例えば 2000 年代入 り後、年平均二桁を上回る増加率で伸びてきた(輸出全体では年平均+2.7%)。 これによって我が国の名目 GDP 成長率は同+0.2%押し上げられた計算となる (同 +0.3%)。中国向け輸出の中身を生産段階別に見ると、規模的には部品、加工品、 資本財で全体の 3 割前後ずつ(2010 年時点。第 1 表)。また、中国向けの割合が 大きいのは素材で、世界合計の半分近くに達する(46.1%)。加工品(25.7%)、 部品(24.7%)、資本財(24.9%)の中国依存度も高め。消費財の比率は比較的低 いものの(8.4%)、日本製品の不買運動が一段と拡がりをみせるような場合には、 日本の輸出が広範囲にわたって落ち込む虞がある。 第1表:生産段階別にみた日本からの中国向け輸出の推移 日本からの中国向け輸出金額(億ドル)・・・(a) (a)が日本からの輸出総額(世界計)に占める割合(%) 変化率(年平均、%) 1990年 合計 1995年 2000年 2005年 変化幅(%ポイント) 1990年 2010年 1990年~ 2000年~ 1995年 2000年 2005年 2010年 1990年~ 2000年~ 87 288 415 1,002 1,710 16.1 15.2 3.0 6.3 8.2 15.5 22.6 19.7 14.4 18.9 0 2 5 21 44 31.2 23.7 2.0 15.2 27.2 41.4 46.1 44.1 加工品 36 114 161 339 553 14.6 13.1 6.5 12.3 16.4 23.4 25.7 19.1 9.3 部品 16 74 140 360 567 19.4 15.0 2.1 4.8 8.3 17.5 24.7 22.5 16.4 資本財 28 81 89 242 443 14.8 17.4 3.1 6.1 6.3 14.6 24.9 21.8 18.6 消費財 6 17 19 40 104 15.4 18.4 0.8 2.3 2.1 3.2 8.4 7.6 6.3 素材 (資料)経済産業研究所統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 2.輸入と国内生産面への影響 輸入サイドに目を転じると、日本の中国からの輸入金額は輸出ほどのペース ではないが着実に膨らんでいる。前段と同じく生産段階別にみると、2010 年時 点、消費財が中国からの輸入の中心である(合計 1,426 億ドルのうち約 4 割、 584 億ドル。第 2 表)。過去 10 年間の伸び率では、資本財が年平均+18.5%と最も 高い。他方、中国からの輸入比率は資本財および消費財の最終財・完成品で高 く、ともに日本の輸入総額の 40%以上を占める。とりわけ資本財の当比率は近 年、部品とあわせ、急上昇している(それぞれ 1990 年:1.5%→2010 年:47.0%、 1 2012 年 9 月 28 日 0.8%→29.4%)。これら輸入の遅延は国内生産面にまで波及してくる公算が大き いため、広く注意を要するところだ。なお、消費財に関して付言すると、衣類 の中国への依存度が非常に高く、その比率は 8 割に上る。 第2表:生産段階別にみた日本の中国からの輸入の推移 日本の中国からの輸入金額(億ドル)・・・(b) (b)が日本の輸入総額(世界計)に占める割合(%) 変化率(年平均、%) 1990年 1995年 2000年 2005年 変化幅(%ポイント) 1990年 2010年 1995年 2000年 2005年 2010年 1990年~ 2000年~ 13.2 10.1 5.1 10.8 14.6 21.2 28 ▲ 1.3 ▲ 1.3 5.5 4.9 4.3 3.1 21.5 2000年~ 16.4 6.9 119 359 547 1,077 素材 37 34 32 39 加工品 27 62 82 192 266 12.2 12.6 3.4 6.7 8.6 14.8 14.2 10.8 5.6 部品 1 18 58 168 227 30.0 14.7 0.8 5.3 10.6 24.3 29.4 28.7 18.9 資本財 3 22 59 229 320 27.0 18.5 1.5 6.3 11.7 36.9 47.0 45.5 35.2 消費財 51 223 316 449 584 12.9 6.3 9.4 21.9 31.7 37.7 40.8 31.5 9.1 合計 1,426 1990年~ 1.5 ▲ 4.0 ▲ 2.8 (資料)経済産業研究所統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 3.海外現法の活動と企業収益面への影響 中国に所在する日本の海外現地法人の売上高から確認しておくと、過去 10 年 ほどは年平均+20%を上回るペースで急増してきた様子が分かる(第 3 表)。業種 別に言えば、製造業が約 7 割、非製造業が残り 3 割で、前者のなかでは輸送機 械、後者内では卸売・小売業の売上が大きい(2010 年度)。こうした在中国現法 の売上高が日本の海外現法全体の売上高に占める割合としては、電気機械、非 鉄金属、繊維、食料品製造業で 30%以上となっている。在中国現法においては 現地販売の比率が上がってきていることもあり(2001 年度:55%→2010 年度: 76%)、日本企業のグローバルな収益に負の影響を及ぼす要因として警戒される。 ちなみに、企業数ベースで見ても、売上高と概ね同様のパターン。輸送機械製 造業や卸売・小売業の現法数が多く、海外現法全体の企業数に占める在中国現 法の割合は繊維(58.8%)、電気機械(43.3%) 、非鉄金属(36.9%)、食料品(36.7%) といった製造業で高い。 第3表:業種別にみた中国に所在する日本の海外現地法人の売上高の推移 中国に所在する日本の海外現地法人の売上高(億円)・・・(c) (c)が日本の海外現地法人の売上高全体(世界計)に占める割合(%) 変化率(年平均、%) 2001年度 2005年度 変化幅(%ポイント) 2001年度 2010年度 2001年度~ 2005年度 2010年度 2005年度~ 2001年度~ 2005年度~ 41,385 32,335 123,811 93,223 262,771 185,402 22.8 21.4 16.2 14.7 3.1 5.1 6.7 10.7 14.3 20.8 11.3 15.7 7.6 10.1 食料品 1,000 3,613 7,781 25.6 16.6 5.0 18.8 31.4 26.4 12.6 繊維 合計 製造業 2,073 3,002 2,192 0.6 ▲ 6.1 22.6 31.9 31.6 9.1 ▲ 0.3 非鉄金属 724 2,007 6,671 28.0 27.2 8.3 14.9 33.1 24.8 18.2 電気機械 4,715 18,111 15,483 14.1 ▲ 3.1 15.1 32.6 33.2 18.1 0.7 輸送機械 非製造業 卸売・小売業 6,114 21,359 76,055 32.3 28.9 2.6 5.9 18.8 16.2 12.9 9,049 30,588 77,369 26.9 20.4 1.3 3.1 8.2 7.0 5.1 7,972 26,225 68,998 27.1 21.3 1.2 3.1 9.2 8.0 6.1 (資料)経済産業省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 2 2012 年 9 月 28 日 4.国内消費面への影響 最後に、我が国のサービス輸出としてカウントされる中国人観光客や商用客 による日本国内での消費がどう動くか。中国からの訪日客数は、東日本大震災 のあった昨年を含めて 2008 年以降 100 万人を超えており、全体に占める割合は 2011 年で 17%となっている(第 1 図)。また、対中国間の旅行収支上の受取額を 見ると、ここ数年は 3,000 億円に迫る年も多いし、昨年には全体の 31%を占めた (第 2 図)。中国人訪日客それぞれが消費する額も相対的に大きいと推察される。 仮に中国からの訪日客数が 1 割、約 10 万人減り、一人当たり消費額が不変とす れば、日本の旅行収支は 300 億円程度悪化する計算で、国内小売業者等にとっ ては決して無視できないマイナス影響となろう。 第2図:中国からの旅行収支上の受取額の推移 第1図:中国からの訪日客数の推移 200 (万人) (%) 20 3,500 (億円) (%) 35 中国からの旅行収支上の受取額〈左目盛〉 3,000 中国からの訪日客数〈左目盛〉 150 15 同、全体に占める割合〈右目盛〉 100 10 50 5 0 0 04 05 06 07 08 09 10 (注)国籍に基づく法務省集計ベース。 (資料)日本政府観光局資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 同、全体に占める割合〈右目盛〉 30 2,500 25 2,000 20 1,500 15 1,000 10 500 5 0 0 11(年) 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11(年) (資料)日本銀行統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 このほか、中長期的な影響も考えられる。一つには、中国へ向けた直接投資 の慎重化に伴って在中国現法の活動が停滞、国内企業収益を圧迫するなどの形 が想定され得る。中国向け直接投資は過去 10 年間を均せば毎年 6,500 億円ずつ 行われている格好であり、2011 年末時点の残高は 6.5 兆円となっている。且つ、 中国に所在する現法の売上高経常利益率は全地域平均を上回る。そこでのプレ ゼンス減退は、貴重な収益機会をみすみす失うことにもなりかねない。 既にみた輸出面、輸入と国内生産面、海外現法の活動と企業収益面、国内消 費面への短期的な悪影響やそれぞれが結び付き悪循環となるリスク、先々まで 禍根を残す中長期的なリスクの両睨みで、情勢の見極めと対処が欠かせまい。 (H24.9.28 石丸 康宏 [email protected]) 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、金融商品の売買や投資など何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様ご自身でご判断下さいますよう、 宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当室はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに変更することがありますので、 予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作物法により保護されております。全部または一部を転載する場合は出所を明記してください。 3