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狂気の愛 - タテ書き小説ネット
狂気の愛 白雲 タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ 狂気の愛 ︻Nコード︼ N7881BM ︻作者名︼ 白雲 ︻あらすじ︼ 恋を知らない女の子が、友達の恋を知り、その手伝いをする。し かし、その友達の女の子が向けていた恋心の矛先は違った方向だっ た。 1 私には、誰かを好きになるという経験がなかった。とは言え、そ の感情が判らないわけではない。本や漫画、テレビ、世間、私の周 りには、好きという恋愛感情が当たり前のようにあって、むしろそ れが日常になっている。だからこそ、判らないというわけではない。 故に理解不能ではなく、未経験というわけなのだ。 そんな私が一際その感情を知ることになる。それが、私の高校か らの友達、小春の恋だ。小春は私が今通う高校に入って、一年の時 からの同じクラス、授業のペアでも休み時間でも帰り道でも一緒と いう、とても仲良しな女の子だ。そんな小春が、三年に上がって直 ぐの頃、突然私を屋上に呼び出したかと思えば、好きな人が出来た とのたまったのだ。 ﹁でさ、そんなに好きなら、いっそ今の勢いで私じゃなくて、むし ろその人をここまで連れて来て、告白でもしちゃえば良かったのに﹂ ﹁そ、そそそそそ⋮⋮︱︱っ﹂ ﹁そ? そんなこと出来ないって?﹂ 顔を真っ赤にして口を硬直させ、まともに喋られなくなった小春 に見かねて、私が彼女の気持ちを代弁してやると、壊れた人形のご とく首の関節を上下させた。 ﹁でもさ、放課後の屋上への呼び出し、しかも景色は夕暮れ、なん て良いシチュじゃない?﹂ 言いながら示す空は夕暮れ。六時限目までの授業を終え、帰り支 度をだらだらと済ませた後に寄った今、春先ですら日が傾くぐらい の時間になっていた。 ﹁それは、⋮⋮確かにそうかもしれないけれど、そんなの、無理だ よお⋮⋮﹂ 小春は私が知る限り、臆病で引っ込み思案、加えて軽い人見知り まで入っているというパーフェクト振りだ。あまり慣れていない人 に話しかけるとなれば、これほどまでに悪条件の整っている人物も 珍しいことだろう。 ﹁判った、判った。それで、誰なの? 黒須? 平川?﹂ 2 ﹁ち、違うよー! どうしてよりにもよってそんな学年でも一、二 を争う所をあげるのっ!﹂ ﹁いや∼だって、こういうのって、届かないような相手、ってのが お決まりじゃない?﹂ ﹁それはそうかもだけど⋮⋮、じゃなくて! どうせ届かない相手 だけど、酷くない?!﹂ ﹁はいはい、ごめんごめんっ。落ち着けー。それで、誰なの?﹂ 今までのおふざけな雰囲気は内側に隠し、私は気を取り直して、 小春に向き直って聞いた。 すると、小春は急にもじもじとし始めた。私の前では暫く見せる ことのなかった姿だ。慣れない人と話すときや、緊張すると小春は こうなる。言葉もまともに出せなくなり、頬を真っ赤に染めて俯く。 長い前髪が器用に小春の表情を隠してくれるお陰か、それが落ち着 くようだ。それは女の私でも可愛いなと思わせる姿だった。 久し振りにそんな姿を見せられて、嬉しくなった私はつい意地悪 をしたくなり、小春の前髪を上にかきあげてやった。当然いきなり の強行に小春は大慌てだ。口を半開きに開いたまま、あわあわと言 いながら、瞳を潤ませ、揺らしている。私は反抗のないのを良いこ とに、そのままかきあげた髪を袖に留めていた、ピンクのピンで留 めてしまった。 ﹁私の前でそんな仕草見せた罰ゲーム! 今日からそのままねっ。 小春は前髪で見える範囲を狭めちゃうからいけないんだよ。もっと 色んな景色を見なくちゃ。そうしたらきっと周りの視線にも慣れて くるし、その好きな人にもちゃんと好きって言えるよ。ねっ? まずは小さな一歩から始めようよ、出来ることからコツコツと! 小春にとってはその恋って、とっても大事な事なんでしょ? な ら少しずつでも前に進んで、掴み取らなきゃ。悩むよりはまず行動 ! これが大事な時もあるんだよ∼慎重派の小春ちゃん﹂ 真面目ぶいた事を言っていて、途中から恥ずかしくなった私は、 最後でおふざけなセリフを言って、小春の開いたおでこを指で弾く 3 と走って逃げた。今のは酷いと言いながら小春が追いかけてくる。 私達は笑い合いながら、屋上を後にした。 その後、家について、お風呂に入り、宿題も予習も済ませて、さ あ寝るかと思った頃に、小春から一通のメールが届いた。 そこには今日のお礼と、好きな人の名前が書いてあった。 私は小春があれほどまでに緊張して言えなかった好きな人の名前 を、こんな形とはいえ、私に教えてくれたことが、たまらなく嬉し かった。なのに、すっきりしない思いでいっぱいだった。何故なら、 小春が述べた好きな人、白鳥夕は私の幼馴染だったからだ。 白鳥夕とは生まれた時からの幼馴染だ。元々親同士四人ともが仲 の良い友達で、共に隣同士に一戸建てを持ち、共に交流のある家同 士だった。しかも私も夕も一人っ子とくれば、自然と仲も良くなる ものだ。むしろ異性というのを忘れ、幼稚園、小学生とほとんどの 時間を一緒に過ごしていた。今思えば何をしていたのかと、あの頃 の自分に言いたくなる。異性の幼馴染とは、仲が良いのは本当に精 々小学生くらいのものだろう、それ以上になると、思春期とやらの せいで大抵は関係が崩れる。私と夕も同様で、今の高校までずっと 学校は同じだし、クラスも時折同じにはなるものの、中学以降はほ とんど口も聞いていない。どちらからともなくといった空気感だっ たような気がする。 で、今の高校三年生になって、めでたく夕とまた同じクラスにな ったわけだが、当然口はきいてもいない。共に帰宅部というのもあ り、たまに帰り道が被ることがあるが、話すことはない。むしろケ ータイの番号だって知りもしない。そんな彼は小学生までは私と同 じくらいの身長だったくせに、いつの間にか私を超え、二十センチ は差をつけられている。私だって女の子の中ではそれなりの背なの に、男でも群を抜いて背が高い夕には敵わない。話したりはしない が、そういうところで何だよと思うことは少なくなかった。 だからこそ、親友の小春がそんな夕のことを好きだという話を聞 いて、戸惑ったのだ。我ながら何ということか。ちょっと自分の感 4 情が判らなくなくなった私は、とりあえず気持ちをリセットさせる ために、もう寝ることにした。 それから何日経っただろうか、朝から学校の終わりまでは小春と 過ごし、帰りは小春とあたり障りのない話をして、夜はメールでち ょっとだけコイバナという、ルーチンワークをこなしていた。学校 や帰り道では決して話せず、恋の話は全部メールでというのがまた 女の子らしくて可愛らしい。一度邪心が働き、教室でコイバナを振 ったことがあるが、真っ赤な顔で首を左右に振りながら必死に私の 口を塞いできたため、止めてあげた。あまりに可愛かったのでもう 一度くらいはやろうと思うが、今は小春が警戒してしまっているの でダメだ。ほとぼりが冷めたころにまたやってやろう。 そんな日常の日々の一日、週の真ん中水曜日。たまたま体調を崩 し小春が早退してしまったせいで、私は帰り道を一人でとぼとぼと 歩いていた。少し物足りない気分で、いつも小春に合わせて緩めて いた歩幅を開放して歩いていた。 すると、すこし前に見覚えのある背中が歩いていた。白鳥夕だ。 少しズボンの下がったいわゆる腰パンというやつに、バックを怠そ うに背負い、歩いていた。いつもならスルーして行ってしまう場面 だ。けれど、小春のことが引っ掛かった。少しだけ話してみて小春 のためになるなら、ちょっとぐらい話してみた方がいいか。そう思 い、私は勢いよく駆け出すと、夕の大きな背中にカバン越しにパン チを食らわして、その勢いで夕の前に立った。 ﹁よっ、相変わらずだらだら歩いてるねっ!﹂ いきなりの強襲に、驚き苛立ちを見せたのも束の間、夕はすぐに 私に気が付いた。 ﹁何だ、静香かよ。おどかすなよ、バーカ﹂ ﹁はあ? バカとは何よ、それが久し振りに話し掛けてきた幼馴染 に言うセリフ?﹂ ﹁はいはい、すみませんでした。本当に久し振りすぎんだよ、だか らびっくりした。いつもなら俺なんか無視してくだろ? なのに、 5 何で今日は絡んできたんだよ﹂ ﹁別になんでも良いでしょ、たまたま気分が乗ったのよ!﹂ ﹁そうかよ、意味わかんねえけど、納得しといてやる。それで? 何の用だよ?﹂ 私は何を言ったわけでもないのに、夕は最初から私が何か用があ って話し掛けているのを見抜いている。むしろ何か言いたそうにし ているのを見抜いていると言った方が良いか。とにかく簡単に私の 中を見透かしてくれたのが気に食わなかった。ので、蹴った。 ﹁痛って! 何すんだよ!﹂ ﹁乙女の秘密を詮索しようとするアンタが悪いのよ!﹂ ﹁乙女って柄かよ⋮⋮、って痛っ! また蹴ったなお前!﹂ ﹁うるさい、今のはアンタが悪い!﹂ ﹁はいはい、用がねえなら帰るぞ?﹂ ﹁帰るのは良いけど、どうせ同じ道でしょ? 付き合いなさいよ﹂ ﹁偉そうだな﹂ ﹁可愛い私のボディーガードをさせてあげるっていうんだから、感 謝しなさいよね!﹂ ﹁そんなことになったら、お前を囮に堂々と逃げ出してやるよ﹂ そう言って笑った夕を、また私が蹴る。流石に三度目は読まれて 避けられた。 ﹁あんまりそういうことしてっと、スカートめくれんぞ?﹂ そのセリフに驚いたというか、恥ずかしくなったというか、急に 私の中の攻撃的な気持ちが止んだ。そして何も出来なくなり、バー カと大声で叫んだ。 変わらない笑顔だった。小学生のころまでずっと隣で見ていた、 笑顔。その笑顔と寸分違わない笑顔だった。大きくなってしまって、 一緒に遊ぶ機会もなくなり、もうあんな笑顔も見せないのだろうな と、勝手に思っていた私にとって、その事実は、嬉しかった。 それからケータイ番号も交わし、前ほどとはいかなくとも、夕と 仲を戻した。そのお陰で小春にも夕の有益な情報を伝えてあげるこ 6 とが出来るようになった。好きな食べ物、好きなテレビ、映画、女 優、そういうものを教えてあげた。それを聞いて小春は嬉しそうに メモに取る。いつか役に立つ日が来ると良いななどと、私は思いな がらその様を見ている。 そうして夏に差し掛かる季節。雨季の最中、久し振りの快晴。そ の放課後。私と小春はまたもや屋上にいた。 ﹁ねえ、小春。今週の日曜日、映画行かない? お父さんに割引券 もらってさ。行く人いないからどうせなら小春とって思って!﹂ 言ってチケットの一枚を渡す。 ﹁うん、今週は特に予定もないから良いけど、急だね?﹂ ﹁急にもらったチケットだからね、なんでも会社でもらったとか言 ってたよ﹂ ﹁へ∼、そっか。なら良いんだ、でも本当に私とで良いの?﹂ そう聞いてきた小春の瞳は、少しも笑っていなかった。私の作戦 を見抜かれたのか? そうも思ったけれど、小春に限ってそれはな いだろう。 ﹁どうしてそんなこと言うの? 当然じゃん!﹂ 私は会心の笑顔で告げた。そこまで言い切ると、小春は先程の顔 はどこへやら、いつも通りの笑顔で、なんでもないよと言った。そ の後は大した話もなく、帰った。 その日の夜、私は夕を映画に誘う、勿論私とという約束でだ。そ もそもこれで出てこなかったら作戦は台無しだなと思ったけれど、 その心配の甲斐あってか、夕はあっさりと承諾した。こうして夕と 小春の二人と映画の約束を交わした。場所と時間も指定した、当然 同じ場所を。あとは私がそこに行かなければ、作戦は成功だ。夕と 小春が出くわし、私の作戦を知るも映画に行くしかなくなる。笑い が込み上げてきそうだ。 そうして日曜日、私はわくわくしていたが、このままでは逆に落 ち着かないと考え、思い切って昼から夕方過ぎまで寝てしまうこと にした。小春がうまくやって、夕とどうなったか、考えるだけでも 7 楽しみだ。そうして寝入って、夜の七時に目が覚めた。辺りが真っ 暗になっており、一日が終わりに差し掛かっているのを感じる。鈍 った体を起こし、カーテンを開けてみれば、どうやら小雨が降って いるようだ。 うまくいったかな? あの二人。天気を見て、少し不安になった。 そうして私は不意に気付いた。外、私の家の門前で雨に降られて立 っている、夕の姿に。顔は俯き、表情は見えない。何をやっている のか、私は驚いて部屋を飛び出し、傘も持たずに外に出た。 そうして真正面、私の胸ぐらいの高さにある門を挟んで、夕と対 峙した。 ﹁夕⋮⋮? どうしたの? 何か、失敗した?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮︱︱じゃねえよ⋮⋮﹂ 雨の音が酷い、小雨だったのが勢いを増してきているようだ。 ﹁え、ごめん! 聞こえないよ! 何? 夕!﹂ 私が耳を差し出して叫ぶ。もうこの時点で服はびしょびしょにな りつつあったが、今更傘をと戻れる空気でもないから諦めた。 返事がない、そう思って視線を前に戻す。雨音が酷い。耳障りに 鼓膜を打ち鳴らす。 雨の中、夕は泣いていた。静かに、声も上げずに泣いていた。雨 で顔もびしょびしょで、涙と見分けはつかなかったけれど、私には 判った。夕は、泣いている。 ﹁ふざけんじゃねえよ! 何勝手なことしてんだよ、俺は別にあの 子のことなんか知りもしねえし、好きでもねえよ! なのに何であ んなことしたんだよ!﹂ ﹁それは、ごめん。騙すような真似をしたのは謝る。でも小春はい い子だよ? 真剣に夕のことを好きなんだ。だからもう少し考えて あげてよ?﹂ 突然の剣幕に驚いたが、どうやらうまくはいかなかったようだ。 となれば、悪いのは私だ。せめて小春を悪く思わないで欲しい。そ う思った私は夕の怒りも悲しみも察することなく、そんなことを言 8 っていた。 すると、夕は表情を消して、私を睨んでくる。 ﹁それ本気で言ってんのか? あの子は俺のことなんか微塵も好き じゃねえよ。むしろ、お前がいないと判った瞬間、凄い形相で俺に 丸めたチケットを投げつけて帰っていったよ!﹂ どういう意味だ? 意味が分からない。小春は夕のことが好きで、 それで私のことを頼ってきて、だから私は彼女が一歩踏み出せる環 境を作ろうと⋮⋮。 ﹁それにな、俺もお前が来ると思って楽しみにしてたんだ! お前 が、俺のことを誘ってくれて嬉しかったんだ! なのに、何なんだ よこの仕打ちはっ!﹂ 小春が、小春が頑張れるようにって、頑張って⋮⋮。 ﹁もう良いよ⋮⋮、お前。もう知らねえよ﹂ そう告げて去っていく夕。その背を止めることもできない。今私 の中に渦巻くものが何なのか判らない今、私は何も出来なかった。 動けなかった。ただ雨に降られた。体中をびしょびしょにされて尚、 飽き足らず梅雨の冷たい雨を身に浴びた。 翌日、私は訳も分からないまま登校した。 夕は一昔前のように口もきかなくなった。そして、小春は休みだ った。それが余計に私の心を蝕み、歪ませていく。あれから一睡も していなかった。眠れるわけがない。混乱していた。どうしてこん なことになったのか。判らない。私は小春の後押しをしただけだっ たのに、小春は失敗するどころかそれ自体を撥ね退けた。どういう ことか。夕が突然の事態に怒るのはまだ納得できる。それについて は本当に申し訳ないと感じている。でも、小春の件が解決していな い今、私には夕のことを考える余裕は無かった。 悶々と考えたまま、一日が終わった。そうして帰り道、答えのな い考え事に明け暮れながら私はいつもよりゆったりとしたペースで 歩いていた。もう家も目の前という所で、不意に、景色が回転した。 後頭部を鈍痛が襲い、意識が緩やかに消えていく。何をされたのか、 9 そんなことを考える余裕もなかった私の意識は、易々と失われた。 気が付いたときに見えたのは、薄明りの電灯と、下着姿の少女の 後ろ姿だった。意識がはっきりしてくると、後頭部のひり付いた痛 みが湧き上がってくる。それを気にして後頭部を触ろうとしたが、 うまくいかない。何故なら両手を後ろ手に何かで縛られていたから だ。冷たい感触から金属質なものなのは判るが、故に頑丈でびくと もしない。何が起こっているんだと歯噛みして下を向けば、私は一 糸纏わぬ姿でベッドに寝かされていた。思わず息を呑む。制服どこ ろか下着さえなく、よく動かしてみれば、足も何かで縛りつけられ ている。こちらは縄のようだ。肌に食い込む感触がきりきりとした、 繊維の感触だ。 ﹁気が付いた? 静香﹂ 不意に聞こえた声に驚き、顔を上げた。するとそこにいたのは先 程の下着姿の少女、小春その人だった。 真正面を向いた小春の前髪には、前に私があげたピンクのピンが 留められていた。 ﹁こ、はる、なの? 一体どういう状況なの?﹂ ﹁静香が感じたとおりの状況だと思うわ。付け加えるなら、私がこ こにあなたを連れてきて、服を脱がせたわ。全部﹂ 凍り付くような冷たい声。私が今まで聞いたことのない小春の声 だった。 ﹁どうして、こんなことを⋮⋮?﹂ 私が当然のように疑問の声を上げると、小春の表情が一変した。 ﹁どうして、ですって? 静香が訳の分からないことをしたからよ。 私はあんな男のことなんて好きでもなんでもないのに、わざわざ嘘 をついてまで出掛けさせられて、恥をかかされたのよ? しかもあ なたの謀略によってね。それってあまりに酷いと思わない? 私は ずっと、こんなにもあなたのことを想っていたというのに、そんな 私が大好きな静香によって辱めを受けるなんて酷いわ。私は誰かを 好きになったと言えば、あなたがダメって言ってくれると思ったの 10 よ。だからあんな嘘をついた、好きでもない男の名前を出した。な のにあなたは協力すると言ったばかりか、私のためと言ってあの男 と接触した。しかもまんざらでもなさそうに、嬉しそうに話したり していた。あの時は本当に嫌だったわ。その後はあなたが一生懸命 に私に話をしてくれるから、内容には目を瞑っていたの。男のこと については、私が行動しなければ特に問題ないだろうと思っていた から。なのにあなたはあろうことか、無理矢理私とあの男を引き合 わせた。そんなあまりに惨い行いに流石の私も腹が立ったわ。だか ら、静香とゆっくり話をするためにこの場所を設けたの。誰の邪魔 も入らない、この場所を。ねえ、静香? 静香は私のこと好きよね ? 私は、静香のことが大好きよ?﹂ 何て愚かなことをしたのだろうか、私はそう思った。私が見てい た恋は、何もかも嘘だったのだ。真実など、どこにもなかった。彼 女の恋心は、私に向いていたのだから。 私は不思議と、それを聞いて混乱もしなかったし、気持ち悪いと も思わなかった。むしろやっと気付いたと言い換えても良い。私が 小春に対して感じていた安心感、安息、楽しさ、愛しさ、可愛いな と思う事、そういうものの類、感情こそが恋だったのだと、気が付 いたのだ。 嗚呼、何て愚かな私。自身の想いにすら気付けないとは。これは その戒めか。なら甘んじて受け入れよう。しかも刑を行うのは愛し き小春だ、何の不安もない。 私は笑った。心からの笑顔を見せた。すると、小春も笑顔を返し てくれた。そして小春は纏っていた最後の下着を床に落とし、私の 方に歩み寄ってきた。 その瞳は艶めかしくとろみを帯びている。狂気にも似た愛しさが 滲み出ている。 近付いてくる唇と肌、私はその唇を受け入れ、舌を這わせる。肌 同士がぶつかる。小春の熱いぐらいの体温が、私の全身を、隅から 隅まで埋め尽くしてく。 11 これが好きという感情、何て恐ろしい麻薬のようなものなのか。 私の初恋はこうして成り立った。形は歪かもしれないけど、後悔は 無い。むしろ満足のいく結果だ。だって愛しい小春と愛し合う場を 得られたのだから。 そう思いながら、私は小春の舌に夢中でしゃぶりついた。 身体で感じる、小春の指の感触を、体温を、痛みを、快感を、味 わい尽くした。 愛していると、告げる代わりに。 12 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n7881bm/ 狂気の愛 2016年7月8日07時48分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 13