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バンドパス・フィルタ
第5回 バンドパス・フィルタ 佐々木 淑恵 これまで,いろいろな設計例をもとに,バターワース型とチ の範囲を示す周波数で,この周波数での減衰量を阻止域端減 ェビシェフ型のローパス・フィルタおよびハイパス・フィル 衰量といいます.周波数特性は図 1 に示すとおりです. タについて,設計手法を解説してきました.今回は,バター ワース特性,チェビシェフ特性におけるバンドパス・フィル タへの変換について説明します.バンドパス・フィルタへの 変換式は,参考文献が少なく,計算も複雑です.ここでは一 例題 1 次のようなバターワース特性バンドパス・フィルタを 設計せよ. 般的な変換の式を導き,公式化しました.式の導き方も記し 中心周波数 f 0 = 1000Hz てありますので参考にしてください.また,ディジタル・フ 通過域帯域幅 f p = 500Hz ィルタである IIR 型バンドパス・フィルタについても,設計 阻止域帯域幅 f s = 2000Hz アルゴリズムについてふれます. 通過域端減衰量 αmin = 3dB 阻止域端減衰量 αmax = 20dB 1. バターワース型バンドパス・フィルタの特性 バンドパス・フィルタは,ある一定の周波数区間の信号の みを通過させるフィルタのことをいいます.バターワース特性 入力と出力の信号は同相として,利得は 0dBで設計する. ●次数を求める バターワース特性バンドパス・フィルタの次数を求め バンドパス・フィルタは,通過域帯域が平たんで,減衰域 る式は,公式 1 のとおりです. は−6dB×n /oct(n はフィルタの次数)の傾斜で緩やかな曲線 公式 1 を描くフィルタです.通過域端周波数は,減衰量が− 3dB と バターワース特性バンドパス・フィルタを満足す なる点で,2 箇所存在します.この二つの周波数で囲まれた るために必要な次数 範囲を通過域帯域幅といいます.阻止域端周波数は,阻止域 N= [( ω 2 log s ωp 通過域端周波数1 20 通過域帯域幅fp 0 通過域端 周波数2 fp :通過域帯域幅(Hz) ωp = 2π fp 平たん fs :阻止域帯域幅(Hz) ωs = 2π fs 3dB (通過域端 減衰量αmin) 利 得 (dB) −30 )] )( log 10α max /10 − 1 / 10α max /10 − 1 阻止域端 減衰量αmax α min :通過域端減衰量(dB) (=3dB) α max :阻止域端減衰量(dB) この式に例題の仕様をあてはめて計算すると, N= [( )( )] = 1.65 log 10 20 /10 − 1 / 103 /10 − 1 2000 2 log 500 で,切り上げて 2 次のフィルタを設計すればよいことがわ かります. −80 10 周波数(HZ) 阻止域端周波数 10k 阻止域帯域幅fs 〔図 1〕バターワース特性バンドパス・フィルタの周波数特性 118 Design Wave Magazine 2000 August ●特性パラメータを求める 次に公式 2 と公式 3 から,N = 2(偶数)の場合の伝達関 フィルタ回路 の 設計ノート + 数を導きます. 1 段目のバンドパス・フィルタ BPF1 の中心周波数 …¾ f01 = f0 / m 公式 2 フィルタ回路の伝達関数 H (s) = N が奇数のとき 2 段目のバンドパス・フィルタ BPF2 の中心周波数 H ( N −1 ) / 2 (s + a ) ∏ (s 0 2 + b2 s + c2 n n =1 H (s) = N が偶数のとき 2 + b2 n −1 s + c2 n −1 n =1 公式 3 ) 4 × 2 × 2 + +1 + 16.7 16.7 − 4 × 2 × 2 + 1 + 2 2 ×2 2 2 ×2 = 1.194 1 1 = s 2 + b1 S + c1 s 2 + 1.414 s + 1 1 = 0.707 1.414 f02 = 1000 × 1.194 = 1194( Hz) です. 利得を 0dB にするためには,BPF1 と,BPF2 それぞれ 波数と Q の値を導きます. で信号を増幅する必要があります.増幅率は,全体で, H= 公式 4 Q 2 ( 2.87 ) 2 = 4 q2 = 2.06 となり,BPF1 の増幅率は, バンドパス・フィルタへの変換式 中心周波数 f0(Hz) 通過域帯域幅 fp(Hz) h1 = 2.06 = 1.43 BPF2 の増幅率は, 各特性のローパス・フィルタの伝達関数, c s 2 + bs + c …¸ h2 = 2.06 = 1.43 となります.これらの特性のパラメータをまとめると図 2 の Q を, c b …¹ と定義します. 4q2 + c + γ 2 2q (4 q 2 のようになります. ●回路を設計する バンドパス・フィルタの Q は, Q' 1 Q= q m + m c ただし, f q= 0 fp γ = BPF2 の中心周波数は, = 2.87 なので,公式 4 を使ってバンドパス・フィルタの中心周 m= 1000 = 837(Hz ) 1.194 1 Q = Q'q m + m 1 = 0.707 × 2 × 1.194 + 1.194 c =1 f q= 0 =2 fp Q' = f01 = 同じになるので, b = 1.414 H (s) = ここで,BPF1 の中心周波数は, バンドパス・フィルタの Q の値は,BPF1,BPF2 とも ここで, Q' = = 16.03 m= ) バターワース特性の場合は a0 = 1 mπ bm = 2 a0 cos 2N cm = 1 ただし m は 2n または 2n−1 H (s) = (4 × 2 × 2 + 1)2 − 4 × 2 × 2 × 1.414 2 r= H N/2 ∏ (s …¿ f02 = f0 ×m ) 2 + −4 q 2 + c + γ + c − 4 q 2b 2 2 2q 図 2 の回路を多重帰還型回路で設計します.多重帰還 …º 型回路の素子値の計算方法は図 3 のとおりです. まず,1 段目の回路は, …» …¼ …½ 入力 回路1 (BPF1) 回路2(BPF2) 多重帰還型 Q =2.87 f01=837Hz h1=1.43 多重帰還型 Q =2.87 f02=1194Hz h2=1.43 出力 〔図 2〕バターワース特性バンドパス・フィルタのパラメータ Design Wave Magazine 2000 August 119