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タイの洪水の影響に関する会計および税務(PDF:495KB)
JBS Japan Business Services タイの洪水の影響に関する会計および税務 アーンスト・アンド・ヤング バンコク事務所 公認会計士 山本隆司 Ⅰ はじめに 2011年下半期に発生したタイの洪水災害は、 正味実現可能価額よりも高い場合、帳簿価額を 正味実現可能価額まで減額させ、減額相当額を 注記情報として開示する必要があります。 当事務所のクライアントを含む多くの企業に、 さまざまな被害を及ぼしました。そこで、当事 3. 原価計算 務所では11年11月初旬に、洪水の影響に関す ほとんどの被災企業は、通常の操業水準での るコールセンターを開設し、会計・税務などの 生産活動を行えませんでしたが、この間も製造 分野におけるクライアントへのサポートおよび、 固定費は必然的に発生し続けました。このため、 質問対応を行ってきました。本稿では、これま こういった企業は、通常の操業水準に鑑み、製造 で当事務所にお寄せいただいた質問などから、 固定費を在庫に按分すべきか、あるいは管理費 代表的なものを、タイにおける会計と税務のそ として処理すべきかを検討する必要があります。 あんぶん れぞれについて、まとめました。 4. 保険金収入 Ⅱ 会計 1. 有形固定資産 修繕できない損傷した有形固定資産は売却で 保険金収入は、保険金の受け取りが、ほぼ確 実になった時点で、収益として計上します。例 えば、保険会社から保険金額を確認する旨のレ ターを受け取った場合などが挙げられます。 きない場合、その帳簿価額を減額し、損失とし て処理する必要があります。当該有形固定資産 5. 修復費用および清掃費用 の売却が可能な場合、当該有形固定資産の帳簿 タイ会計基準(TAS)第37号によると、企業は 価額を販売可能価額まで減額させるために減損 貸借対照表日に法的または推定的な債務を有し 損失を認識し、減損相当額を注記情報として開 ている場合に限り、負債性引当金を計上できま 示する必要があります。 す。企業が修復費用または清掃費用の発生を予 想しているという事実のみでは、直ちに引当金を 2. 棚卸資産 棚卸資産が洪水によって全面的に損傷し、販 売できない状態になった場合、11年度中(洪 計上することの正当な理由とは、なり得ません。 これは、係る債務が、まだ発生しているとはい えないためです。 水が発生した会計期間中)に、その全額を損失 として計上すべきです。 しかし、棚卸資産が部分的に損傷しているも のの、修理を施して割引販売できる場合、見積 1. 資産の滅失 販売価格から修繕費用と販売費用を控除した額 (1)法人所得税 に基づき、当該棚卸資産の正味実現可能価額を 求める必要があります。棚卸資産の帳簿価額が 8 Ⅲ 税務 情報センサー Vol.69 March 2012 ① 保険に加入している場合 資産の滅失に係る損失は、直ちに税務上の損 山本隆司(やまもと たかし) アーンスト・アンド・ヤング バンコク事務所 シニアマネージャー。2006年8月からバンコクに駐在。タ イ駐在以前は、日本で主として商社、製造業、サービス業などの監査業務に従事。現在、タイにある数多くの日系企業向けに、会計・ 税務関連のアドバイザリー業務や講演活動を行っている。慶應義塾大学経済学部卒業。 金として取り扱うことはできず、保険金請求の ければならず、従業員を支援するための金額 問題が解決するまで待たなければなりません。 は、合理的かつ適切である必要があります。会 すなわち、資産の滅失に係る損失は、保険請求 社の取締役会で決議し、特定のグループまたは 額についての合意がなされてから、税務上の損 個人ではなく、全員が援助を利用できる旨を示 金として取り扱えます。 すことが推奨されます。 保険会社から受け取った保険金が、滅失した 固定資産の帳簿価額を超える場合、当該超過分 については法人所得税が免除されます。しかし、 (2)個人所得税 ほ てん 洪水の結果として受けた被害を補塡するため 保険会社から受け取った保険金が、 (固定資産 の金銭的支援、あるいは洪水の影響を受けた従 ではない)物品の帳簿価額を超える場合や、事 業員に対する宿泊所の提供については、個人所 業中断を原因として受け取った場合は、特に優 得税が免除されます。従って、会社は影響を受 遇税制が与えられていないため、課税所得とな けた従業員に提供した金銭的支援につき、個人 ります。 所得税に係る源泉徴収を行う必要はありません。 なお、一部の税務調査官による税法の解釈は ② 保険に加入していない場合 異なる可能性があり、もし、この類いの援助が、 発生した損失は、直ちに損金として取り扱え 従業員が受けた実際の損失を考慮せずに提供さ ます。しかし、資産または物品が完全に滅失し れた場合、これらは従業員の所得であり、源泉徴 ておらず、損壊しただけであれば、損金算入す 収の対象になると見なされる可能性があります。 る以前に滅却または売却する必要があります。 滅却または処分が行われた場合、これらを将来 的にも参照できるようにするための、証拠資料 の確立および保管が必要となります。 Ⅳ おわりに 今回のタイの洪水災害は、流出した水量や、 影響を受けた人数などから、過去最悪の洪水と (2)付加価値税(VAT) 物品および資産の滅失または損壊は、当該物 いわれており、前記以外にも実にさまざまな話を 耳にします。年度末監査を間近に控える今、さ 品および資産の販売とは見なされず、VATは発 らなる想定外の事象が発生するかもしれません。 生しません。また、滅失または損壊した物品およ 当事務所としても、復旧・復興に向けて日々取 び、事業中断を原因として保険会社から支払わ り組んでいるクライアントの皆さまに、少しで れる保険金は、当該物品の販売またはサービス もお役に立てれば幸いです。 の提供に伴う対価の受領とは見なされないため、 なお、本稿は不特定多数のクライアントを対 VATの対象とはなりません。しかし、損壊した物 象とした一般的なものであり、特定の諸問題に 品または資産を、保険会社を含む他者に販売し ついては、より詳細な調査を必要とする場合が た場合、当該収入についてはVATが発生します。 あります。実際の意思決定の際には、専門家の 意見を照会されることを推奨します。 2. 従業員に対する支援 (1)法人所得税 金銭的支援または宿泊所の提供という形で、 <お問い合わせ先> 会社が洪水の影響を受けた全ての従業員に提供 アーンスト・アンド・ヤング した援助は、法人所得税上、損金として取り扱 バンコク事務所 えます。 ジャパン・ビジネス・サービス 会社は、洪水の影響を受けた全従業員に対し て、援助を提供するための指針や基準を定めな Tel:66 2 264 0777 E-mail:[email protected] 情報センサー Vol.69 March 2012 9