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M&A成功のカギとなる 統合・検証フェーズ

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M&A成功のカギとなる 統合・検証フェーズ
TREND
5. 移転価格
3. その他の租税条約に係る最近の動向
新条約では、
日米租税条約と同様に、移転価
格課税の処分に関して条約上の期間制限が設
けられました。課税年度の終了時から7年以内に
WAT C H E R
M&A成功のカギとなる
統合・検証フェーズ
1. 日仏租税条約の改正(議定書による改正)
調査が開始されない場合には、
原則として当該利
2006年1月より改正交渉が開始された日仏租
得の更正をしてはならないと規定されています。
税条約は、改正について基本合意に至りました。
アーンスト アンド ヤング トランザクション アドバイザリー サービス㈱
今般の基本合意は、議定書により現行条約の
トランザクション インテグレーションチーム ディレクター 小林 忍
2. 日印租税条約の改正(議定書による改正)
内容を部分的に改めるものです。具体的には、
日本・フランス間で支払われる配当、利子および
2006年2月24日、東京において、
日本とインドと
使用料の限度税率を軽減することとなります。ま
の間で「条約を改正する議定書」の署名が行
た、
日仏社会保障協定に関連して、相手国社会
前回は、
わが国におけるM&Aの動向を敷衍し、
歩きながら、X社とY社は同じグループとして機
われました。06年6月に改正議定書は発効して
保障制度に対して支払われる社会保険料につ
成功のカギとしてM&A計画の策定フェーズと
能しているのか?といぶかったことを思い出します。
います。日本においては、改正議定書は以下の
いて、
就労地国において所得控除を認める措置
統合・検証フェーズの重要性について概説しま
なぜ受付を一本化しないのだろうか、
どうして同
ものに適用されます。
を相互に導入することとなります。
した。今回は統合・検証フェーズについて、
さら
じA社グループのX社への来訪客をY社にて受
に掘り下げたいと思います。
け付けてくれないのか、
と。他方、B社では受付
●
源泉徴収される租税に関しては、06年7月
1日以後に租税を課される額
※2
2. 日比租税条約の改正(議定書による改正)
2006年5月より改正交渉が開始された日比租
は一本化され、万一、敷地内で間違って別の子
1. なぜ統合・検証フェーズが重要か
会社を訪れても、
目的の会社まで案内してくれま
した。
源泉徴収されない所得に対する租税に関
税条約は、改正について基本合意に至りました。
しては、07年1月1日以後に開始する各課
今般の基本合意は、議定書により現行条約の
前回も触れたとおり、M&A案件の約6割にお
税年度の所得
内容を部分的に改めるものです。具体的には、
いて期待された成果が出ず、
株主価値を毀損し
れません。
しかし、
統合の成果を出す、
といったと
日本・フィリピン間で支払われる配当、
利子および
たといわれています。
き、
オペレーション
(受付もその一環です)
を統合
今回の改正議定書では以下の改正が行わ
使用料の限度税率を引き下げることになります。
例えば、競合2社の経営統合で発足した非製
すること、
組織の重複を無くしてコストを下げるこ
れています。
また、
みなし外国税額控除についても、
適用に期
造業A社の例を見ると、
同社の株価は企業統合
と
( 受付業務を2カ所から1カ所に減らすことも、
限を設けること
(なお、
その間、適用対象範囲を
後 4 年を経て大 幅に低 下し、不 本 意な結 果と
その一環といえるでしょう)は、M&Aを発表する
拡大する)
になります。
なっています(<図1>参照)。
当事者がシナジーとして掲げる基本の施策です。
他方、
A社とほぼ同じ時期にやはり競合2社が
それがA社では「受付」という比較的摩擦が生
統 合されて発 足した製 造 業 B 社は、その後も
じがたい領域においても、統合1年以上を経て
日本国政府は、
アラブ首長国連邦(UAE)政
M&Aを通じて企業規模の拡大を志向し、着実
効率化できていなかったのです。
府およびクウェート政府との間で、
租税条約の締
に株価を向上させています(<図2>参照)。
結交渉を開始することになりました。
統合・検証フェーズの進め方の巧拙がこれに
ンテナンス、購買、顧客サービスの一元化や、人
深く関係している、
というのが筆者の考えです。
事制度の統合などについても、恐らく同様の対
●
1 配当に対する限度税率が一律10%に引き
下げられました。
2 利子に対する限度税率が一律10%に引き
下げられました。
3 使用料および技術上の役務に対する料金
に対する限度税率が一律10%に引き下げ
3. 新租税条約の締結交渉開始
られました。日本法人がインド法人のソフ
さ まつ
これは、
とても瑣末な逸話に感じられるかもし
き そん
より調整が難しいこと、例えば設備・機材のメ
こう せ つ
トウエア開発に対して支払う対価を含む、
4. 日豪租税条約の改正交渉
技術上の役務に対する料金についての源
日本・オーストラリアは、
日豪租税条約改正交
泉地国課税は継続するものの、その税負担
渉の早期立ち上げが適当であるとの認識で一
筆者はある時、
この2社を相次いで訪問しまし
いることも、
その意味で納得がいきます。
は20%から10%に軽減されました。
致し、
今後、
所要の調整を行うこととしています。
た。当時は両社とも、
持株会社が母体となった企
他方、
B社では、
本社や主力工場などにおいて、
業を100%子会社として保有する形態を取って
目に見える形でオペレーションの統合を進めてい
いました。
ました。人事、経理、知財・法務などのバックオ
A社の子会社であるX社を訪ねようとした筆
フィスが短期間で統合されたのは無論のこと、
者は、誤って同じビルにある、
ほかの子会社Y社
開 発 、購 買、商品企画などについても、社内競
の受付を訪れてしまいました。
ところが、
そこでは
争を推進するために相互の開発企画内容など
受付をしてもらえず、
同じビル内で階の移動が許
は意識的に統合はなされなかったものの、商品
されないため、
いったんビルの1階に下りてからX
企画から設計、QA( 品質保証 )に至るさまざま
社に行くように指示されました。X社の受付まで
な書式・手順は統一され、工場の地理的な集約
4 現行条約第23条3項(C)に規定されてい
る「みなし外国税額控除」が廃止されました。
※2 同日以後に「支払いを受けるべき」投資所得(利子、配当、使用料および技術上の役務に対する料金)から適用されます。
支払いを受けるべき日は具体的には、以下のとおりとなります。
(配当)
株主総会その他正当な権限を有する機関において決議された配当がその効力を生ずる日
(利子、使用料および技術上の役務に対する料金)
契約においてその支払日が定められているときはその支払日、
支払日が定められていないときは実際に支払いが行われた日
42
ふ えん
〔ある逸話から…〕
応がなされている可能性が高いと考えられます。
A社が統合の実を挙げられず、株価が低迷して
43
TREND
WATCHER
■図1 A社と日経平均、主要競合社の株価推移
200.0
180.0
日経平均
(A社統合後IPO時=100の指数)
160.0
140.0
主要競合社
(A社統合後IPO時=100の指数)
120.0
100.0
80.0
A社
(A社統合後IPO時=100の指数)
60.0
40.0
20.0
と合わせ、
生産の統合を迅速に進めることができ
このDay1において何が決まっていないといけ
ました。
ないのでしょうか?
こうした迅速な統合の経験を生かし、B社は
まず、
当然ながら持株会社THDのミッション・
社内に「M&Aプラットフォーム」
(<図3>参照)
機能が定義されていなければなりません。母体2
と呼 ばれる概 念を定 着させながら、
さらなる
社がそれぞれ持っていた本社機能などを統合し
M&Aに累次乗り出しており、業界における代表
てTHDに移したり、母体2社それぞれに機能を
的なM&Aプレーヤーとして、
さまざまな案件を持
残しつつTHDにもそれらを統括する機能を持た
ち込まれるようになっています。売り手側企業が
せたりするなど、
統合方針を明確にし、
持株会社
一様にコメントするのは、B社なら自社(売り手)
の機能が明確に定められていなければなりません。
の持ち味、
ブランドを活用しながら、購買、生産、
次に、
THDの下で事業を続ける母体2社の運
販売網など既往のグループ力を向上させ、
より大
営方針です。
「THDに移す本社機能以外は従
きな事業展開の場を開いてくれるということです。
来どおりとして、
あえて統合しない」という保守的
これこそM&Aを通じて企業価値を向上できた
な方法もあれば、
「生産、購買なども統合すべく
所作といえるでしょう。
新たに生産子会社を設立し、
さらなる効率化を
このように、企業統合後のオペレーションや組
追求する」
「設計、開発などのワークフローを統
織の統合、すなわち統合・検証フェーズでの巧
一し、人材の互換性を高めたり生産工程とのコ
拙が両社の企業価値の差につながったと考えら
ネクションを共通化したりする」といった、
より積極
れるのです。
的な方法もあります。M&Aの本旨を踏まえるなら、
当然ながら積極的な方法が望ましい場合が多
0.0
第1週
第110週
第219週
■図3 B社のM&Aプラットフォーム
の段階では、
あえて保守的な方策を採用し、段
製品ブランド群
(商品企画・開発をする部隊)
■図2 B社と日経平均、主要競合社の株価推移
200.0
当初2社
甲
B社
(B社統合後IPO時=100の指数)
乙
いでしょう。他方、
時間的な制約を勘案し、
Day1
新規M&A
その後の買収
丙
新規
案件
会社が運営できません。つまり、
Day1は出発点
研究開発(基礎研究、先端技術研究)
SCM(購買・ロジスティクス・生産)
販社(世界4地域本社)
140.0
経営企画・法務・人事・経理・知財
120.0
M&Aプラットフォーム
(HQ機能、シェアドサービス機能など)
に過ぎないのです。先に紹介したA社でも、
Day1
時点では持株会社の機能が定められ、傘下の
事業会社の運営方針も
(基本的には上記の保
守的アプローチのようでしたが)明確でした。そ
れにもかかわらず上記の差異につながったこと
を考えると、成功するM&Aには、
さらに何が求
100.0
2. 統合・検証フェーズの
ベストプラクティスを目指して 80.0
日経平均
(B社統合後IPO時=100の指数)
某月某日
(以下、
Day1)
を期して新会社「統
40.0
主要競合社
(同社IPO時=100の指数)
20.0
0.0
44
〔ベストプラクティスへの4要件〕
これらがDay1時点で決まっていないことには
160.0
第1週
ある場合もあります。
丁
180.0
60.0
階的に後者に移行していくという戦略が正解で
第120週
第239週
合ホールディングス」
(以下、THD)が発足する
と仮定します。持株会社であるTHDの傘下に、
められるのでしょうか?
私たちのこれまでの経験や、
さまざまな事例の
観測から、以下の点がM&Aの結果を分かつポ
イントと考えています。
1. 明確な企業ビジョンの設定と共有
母体となった2社がそれぞれ事業運営主体とし
統合によって企業価値を向上させた企業は
て存続する、
わが国でもよく見られる形態を想定
いずれも、
「なぜ統合するのか」
「統合してどの
します。
ような企業になりたいのか」といった企業のビジョ
45
TREND
WATCHER
ンがDay1時点で明確に定められています。そし
て、統合過程において問題が生じた場合、
この
3. 現場のコミットメントを加速させるシステム
目的を明確化せずにとにかく知り合い、親しくな
る企業が学ぶべきところは大きいのではないで
ろうという形で推進を図る方法は、企業文化の
しょうか。
ビジョンに立ち返り、
その実現に資するかどうかと
「統合」とは結局のところ、
企業のオペレーショ
統合はソフトな手法でないと対処できないという
いう観点から判断を下しています。
ンや制度に対する働きかけであって、
これらがな
固定観念が背景にあるのかもしれませんが、
こ
他方、
企業価値を毀損させるような場合では、
されない限りは、結果としてのシナジーも出ようは
れだけでは目立った効果はあまり見られないよう
<お問い合わせ先>
例えば足し算でシェアトップを取ることを目指すと
ずがありません。
です。成功ケースでは、
企業「文化」
を日本「文化」
アーンスト アンド ヤング トランザクション
いったように、
まず統合すること自体が目標として
しかし、
現場にとっての「統合」とは往々にして
とか英国「文化」という文脈における「文化」と
アドバイザリー サービス㈱
先にありきで、
目指す姿が不明確であったり末端
手間が掛かる作業・プロセスである場合が多い
異なり、企業で奨励される行動様式や基本的な
トランザクション インテグレーションチーム
まで浸透していなかったりするようです。こうなると、
ことも事実です。
発想の総称と明確にとらえています。そのような
TEL:03-3595-8350
E-MAI
L:
sh
i
nobu.
kobayash
i@j
p.
ey.
com
そ じょう
統合過程において母体会社の思惑がぶつかり
例えば、多くのM&A案件で俎上に載せられ
企業では、企業文化を醸成するのはインセンティ
合い、
オペレーションや制度の統合が先送りされ
る購買プロセスのケースを考えてみましょう。製
ブシステム、つまりは人事制度にほかならないと
たり、極端な場合には統合自体が撤回されると
造業においては、部品番号体系から統合しない
いう点が容易に理解されていることでしょう。そし
いった結末になる場合もあります。
と現場では実際のプロセスは機能しません。
とこ
て、
こうした視点からいち早く人事制度について
ろが、
部品番号の統合とは、
一方の側にとっては
統合のみならず、新たな統合ビジョンに即した方
従来の番号体系を捨てることを意味しています。
向での再設計に取り組んでいます。これが、
さら
2. 経営トップの明確なコミットメント
この言葉は、
企業経営を語るときに度々用いら
設計者や工場の作業員などは、従来の番号体
にビジョンの共有化を加速させるという正のスパ
れます。M&Aの統合・検証段階における経営
系とは異なる新たな番号体系を覚える必要が生
イラルをもたらすのです。
トップのコミットメントとは具体的には何でしょうか?
じます。実務的な作業負担の大きさから、
さまざ
以上の4つの要件は、
どれも当たり前のように
成功するM&Aのケースで共通するのは、経営
まな理由をもって当該プロセスに係る統合回避
見えて事前の計画と事後の実行が難しいもので
トップが物理的に統合プロセスに時間を割いて
へ向けて働き掛ける誘因になるということは十分
す。実際の統合プロセスにおいても重要なポイン
いるということです。
考えられます。
トとしてDay1以前に認知され、対処方法が取ら
企業統合を行う際には、IMO(Integration
人事制度も同様です。給与規程から海外出
れていることは決して多くはないようです。結果
Management Office:統合推進本部)がしば
張におけるビジネスクラス利用の可否といった細
として成功を収めることができなかったM&Aに
しば設置され、
Day1以前の統合企画プロセス
部に至るまでが統合プロセスを遅らせ、時に頓
おいて、
その遠因を探ると上記の4つの要件に
挫させる要因になり得るのです。
突き当たることが多いのです。
しん ちょく
からDay1以降の実際の統合の進 状況管理
まで指揮監督するという役割を担います。この
成功するM&Aのケースでは、
トップの裁断に
IMOが実際にどの程度機能するかは経営トップ
よって決定力のある人材がIMOの中核に据えら
の姿勢次第です。例えば、経営トップ自らがまず
れ、前掲1、2と相乗効果を出しながら、現場の抵
前述のB社は、
統合会社発足前に母体2社の
IMOのミーティングを主催し、
さらにIMOの下で
抗力に対処しつつ、
統合を推進しています。
トップが入念なビジョン作成を行うところから始まり、
購買、経理、生産など、個々の機能別にオペレー
ション統合実務を推進する分科会にもしばしば
46
4. 企業文化への目配りと制御
〔再びB社へ〕
コンサルティング会社出身の経営統合分野の専
門家を経営トップ自らが採用して役員として迎え
参画するとします。こうなれば、IMOは極めて高
各種オペレーションや制度を統合していく過
入れるなど、
当初から上記の4つの要件を強く意
い実効力を発揮します。
程で、母体会社の基本理念や企業文化の相違
識していました。統合後も、両経営トップと当該
逆に、経営企画担当の役員や部長に運営が
といった目に見えない要因が当事者双方に違和
役員がIMOを主導し、
また部長級の実力者を準
役員待遇のIMOメンバーに引き上げ、現場の求
一任されているような場合には、IMOも分科会も
感を抱かせ、
スムーズな統合を阻害し、
ひいては
形式的あるいはそれに近い組織になってしまう
統合の実を削ぐといったことが、
しばしば見られ
心力を維持しながら、着実に統合へ向けて事前
でしょう。構成員も、実務上の判断力・決定力を
ます。
に設定した課題をこなしていきました。
有するメンバーではなく、
時間がある人物が任命
企業文化への目配りは誰もが意識するポイン
B社幹部は「経営統合は一つのアート
(技能)」
されるようなことになり、
ここでの決定事項は実効
トです。
しかし、
その対処方法において、成功す
ととらえており、
結果として事前の予想を大きく上
力を有さずに、現実には何も決まらないままに時
るM&Aとそうではない場合とでは差異があるよ
回る成功を収めました。
トップのコミットメント、専
が流れるといった結末に陥る可能性が高いとい
うに思われます。
門家のスキル、実力者による現場把握力をそろ
えます。
例えば、
いわゆるオフサイトミーティングのように、
えたB社の経営手腕に、
これから経営統合を図
47
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