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国際会計基準 第21号 「外国為替レートの 変動の影響」 に関する解説

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国際会計基準 第21号 「外国為替レートの 変動の影響」 に関する解説
海
外
情
報
IFRS実務講座
2
日本企業への影響−M&Aによ
る英国進出に際して
英国でのM&Aというケースを除いては、
本ルールが直ちに日本企業に影響を及ぼす
ことはまれでしょう。シティ・コードの適
用対象となる英国企業の買収では、企業法
国際会計基準
第21号
「外国為替レートの
変動の影響」
に関する解説
務とM&Aに精通した現地専門家との連携は
当然のことながら、両国制度の差異を考慮
すると、日本サイドでも法律、会計、税務
の専門家を早期にチームに組み入れ、英国
専門家チームと双方の制度に基づく調整を
行う必要があります。また、資金的裏付け
の証明が要請されることから、ターゲット
会社の企業価値評価のほか、取引に伴う両
国の税金や借入利息などの取引コストにつ
いても十分な検討を行う必要があります。
英国アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)
1.はじめに
従来、在外子会社の財務諸表がその子会社
の所在地国において公正妥当と認められた会
計基準に準拠して作成されている場合には、
実務上の実行可能性などに配慮し、連結財務
諸表決算手続上、これを利用することが可能
でした。しかし、平成17年11月11日付で公表
された、企業会計基準委員会の実務対応報告
公開草案第18号「連結財務諸表作成における
在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い
(案)
」では、今後の当面の取り扱いとして、企
業集団で会計処理を統一しない場合には、連
では、豊富な経験と実績に基づいて多くの
結決算手続上、国際財務報告基準(以下、
日本企業のM&Aを支援しています。
IFRS)または米国会計基準に準拠して作成さ
れた財務諸表しか利用できないものとされて
います。そのため、従来、在外子会社の所在
<お問い合わせ先>
公認会計士
英 国 ア ーンスト ・ アンド・ ヤング( E & Y )
Japan Business Services
るといえます。
そこで本稿では、外貨建取引や海外事業を
information from overseas
E-MAIL:[email protected]
E-MAIL:[email protected](日本語可)
用していた日本企業にとっても、在外子会社
れ、相対的にIFRSの重要性が増大してきてい
TEL:44-20-7951-5687
TEL:44-20-7951-8622
地国の会計基準に基づく財務諸表を連結上利
でIFRSを採用するケースが発生すると予想さ
松繁宗彰
ペトラ ユリシチ
堀越和華
どのように企業の財務諸表に含め、どのよう
に表示通貨に換算するかを規定した国際会計
基準(以下、IAS)第21号に準拠して財務諸
表を作成する場合の概要および注意点を解説
します。
2.IAS第21号の背景にある考え方
IAS第21号の大きな特色は「機能通貨」を
主軸として基準を構成している点にあるとい
えます。この機能通貨とは、企業が営業活動
を行う主たる経済環境(つまり、企業が現金
を生成し、消費する環境)の通貨をいいます。
従って、例えば外貨建取引が主要な割合を占
める企業では、この機能通貨が必ずしも自国
(報告企業の所在地)通貨となるわけではなく、
一定の要件(「3.機能通貨の決定」参照)のも
し い
とに経営者の恣意性が介在することなく決定
されることとなります。IFRSを採用している
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45
IFRS実務講座
各企業は、その形態を問わず必ず機能通貨を
換算方法を区別している日本基準に照らして
決定し、それに基づいた換算を行わなければ
特徴的だといえます。
または決定可能な通貨単位で受領または
前述の指標が混在し、機能通貨が明確でな
支払うことになる資産および負債をいい
なりません。機能通貨を採用することによっ
さらに、IAS第21号では、財務諸表が表示
い場合に経営者は、基本となる取引、事象お
ます。すなわち、その本質的な特徴は、
て、企業がその経済実態を、最も忠実に描写
される通貨を「表示通貨」と定義しており、
よび状態を反映する機能通貨を選択するため
固定または決定可能な通貨単位を受領す
する通貨により取引を記録することが可能に
どのような通貨(または複数の通貨)で財務
に、まず第一要因を検討します。つまり、基
ることができる権利(または引き渡さな
なると考えられています。
諸表を表示してもよいとされています。つま
本的な指標を検討した結果、企業の機能通貨
ければならない義務)にあります。
り、機能通貨と表示通貨に異なる通貨を採用
を明確に決定できる場合には第二要因を検討
(2)外貨建非貨幣性項目は取引日レートで換
することが可能だということです。
する必要はないということです。なお、機能
算します。非貨幣性項目の本質的な特徴
通貨は企業の関連する基礎的取引、事象およ
は、固定または決定可能な数量の通貨を
び状況を反映するため、いったん決定された
受領する権利(または引き渡す義務)が
「2.IAS第21号の背景にある考え方」で述べ
その後は、それらの基礎的取引や事象、状況
存在しないことにあります。
機能通貨の概念について明示的な説明は加え
たような、機能通貨の果たす役割をかんがみ
に変化がない限り変更されることはありませ
られていません。
るに、各企業にとって企業の基礎的取引およ
ん。
これに対して、日本基準では自国通貨であ
る円を採用することに重きをおいています。
従って、例えば在外支店に関してはあたかも
自国通貨である円ですべての取引や事象を認
識したかのように記録することになります。
また、IAS第21号では報告企業の所在地以
外の国または所在地国の通貨以外の通貨にそ
の活動の基盤を置く報告企業の子会社、関連
会社、ジョイント・ベンチャーまたは支店を
3.機能通貨の決定
び事象、状況を反映する機能通貨の決定は非
常に重要だといえます。
これは<表1>に挙げる第一要因により決定さ
れます。
「在外営業活動体」として一括して取り扱って
企業の機能通貨が第一要因によっても明確
います。この点は、在外支店と在外子会社の
にならない場合は、追加的に第二要因も考慮
■表1
機能通貨決定の要因 第一要因
1.(1)財貨および役務の販売価格に影響を与え、決済に使用される通貨
(2)特定国の競争環境および規制が財貨および役務の販売価格を決定している場合、その通貨
■表2
(3)公正価値で測定されている外貨建非貨幣
性項目は、公正価値算定日のレートで換
また、機能通貨が超インフレ経済下にある
場合は、IAS第29号「超インフレ経済下にお
ける財務報告」により財務諸表を再表示しな
算します。
3.貨幣性項目と非貨幣性項目の区分
ければならず、異なる機能通貨を採用するこ
上述したように、貨幣性資産は保有する通
とによって財務諸表の再表示の規定を免れる
貨単位ならびに固定または決定可能な通貨単
ことは認められません。
位で受領または支払う資産および負債であり、
4.外貨建取引の機能通貨への換算
1.当初認識
明白な例としては現金および預金残高、営業
債権および営業債務、貸付金および借入金が
あります。また、売却可能金融資産または満
期保有投資として保有される外貨建債券は貨
ここでいう外貨とは、機能通貨以外の通貨
幣性資産として取り扱われます。一方、固定
を意味しており、例えば、日本企業であって
または決定可能な数量の通貨を受領する権利
も、米国ドルが機能通貨と決定されれば、円
(または引き渡す義務)が存在しない非貨幣性
建て取引が外貨建取引となることに留意する
資産には、前払費用、のれん、無形資産、棚
必要があります。外貨建取引の当初認識は取
卸資産、非貨幣性資産の引き渡しにより決済
1.財務活動により資金が創出される際の通貨
引金額を取引日の機能通貨レートで換算して
される引当金(例えば、製品保証引当金)な
2.営業活動からの受取金額が通常留保される通貨
行います。取引日とは、当該取引がIFRSに準
どがあります。
さらに在外営業活動体の決定および機能通貨が報告企業と同じか否かを決定する場合は以下の追加
拠して最初に認識可能となる日です。ただし、
2.労務費、材料費またはその他の原価に主に影響を与える通貨
機能通貨決定の要因 第二要因
的要素も考慮して決定する。
1.在外営業活動体の活動が相当程度自主性をもって営まれているか、または報告企業の延長線上
で営まれているか。その例としては、在外営業活動体が報告企業から輸入した財貨のみを販売
し、その代金を報告会社に送金するだけの活動しか行っていない場合が挙げられる。自主性を
もって活動を営んでいる例としては、営業活動体が実質的に現地通貨で、現金およびその他貨
幣製項目を蓄積し、費用を発生させ、収益を上げ、借り入れを行っている場合が挙げられる。
2.報告企業との取引が在外営業活動体の活動に占める割合。
3.在外営業活動体の活動からのキャッシュ・フローが、報告企業のキャッシュ・フローに直接影
響を与え、すぐに送金できる状態になっているか。
4.在外営業活動体の活動からのキャッシュ・フローが、報告企業による資金援助なしに、既存の、
そして通常予想される債務の返済原資として十分か。
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して決定しなければなりません(<表2>参照)
。
しかし、他方でこれらの区分が明確になら
実務上の理由から、為替レートが大きく変動
ない場合が多く存在します。例えば、優先株
していない場合には、例えば、1週間または1カ
式への投資、外貨建資本金などについては条
月の平均レートを、取引日の直物レートの近
件によって異なる結論が導き出される場合が
似値として、その期間中に発生したすべての
あります。
外貨建取引に用いることも認められています。
2.外貨建資産・負債の期末換算替え
4.換算差額の処理
(1)貨幣性項目
(1)外貨建貨幣性項目は、決算日レートによ
貨幣性項目の決済または換算替えで生じた
り換算します。ここでいう貨幣性項目と
換算差額は、その発生した期の損益計算書に
は、保有している通貨単位ならびに固定
計上しなければなりません。
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IFRS実務講座
税
務
タックス・リスク・マネジメント
新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人 (2)非貨幣性項目
れています。
非貨幣性項目の公正価値による評価替えに
(1)表示される各貸借対照表の資産と負債(比
より生じた換算差額は、その評価替えによっ
較情報を含む)は、貸借対照表日の決算日
て生じる損益の一部として認識されます。従
レートで換算
って、評価替えに係る損益が資本に直接認識
された場合、これに対応する換算差額も資本
に直接認識しなければなりません。例えば、
有形固定資産の再評価により生じた利得およ
(2)各損益計算書の損益(比較情報を含む)は、
取引日の為替レートで換算
(3)上記の結果、発生したすべての換算差額は、
資本の個別項目として認識
び損失は資本に直接計上しなければなりませ
1.はじめに
−税務戦略におけるコスト削減とリスク管理
これは金銭的な意味でのコスト発生のリス
んが、当該有形固定資産が外貨建てで測定さ
実務上の理由から、報告企業は実際の為替
れている場合には、その再評価額も再評価日
レートに近似するレート(例えば、期間平均
の為替レートを用いて換算され、結果として
レート)を収益および費用項目の換算に用い
欧米の多国籍企業は長年にわたり、連結ベ
ば支出する必要のない追加的コストが主なも
換算差額も資本に計上されることになります。
ることもできます。しかし、為替レートが著
ースでの税務コストの効率化および税引き後
のですが、税務上の措置(R&D減税、外国税
逆に、非貨幣性項目の評価替えに係る損益
しく変動している場合には、期間平均レート
利益・キャッシュフローの最大化を経営目標
額控除など)を適切に利用しないことによる
の使用は適切ではありません。
として、経営戦略と一体化した税務戦略を実
機会損失なども広い意味での財務リスクとい
えます。
が損益計算書に認識された場合は、これに対
クです。例えば、二重課税や追徴課税などの
ほか、税務調査対応コストなど、本来であれ
応する換算差額も損益計算書に認識しなけれ
上記の手続きは連結財務諸表に在外子会社
行してきました。近年、日本の多国籍企業の
ばなりません。この代表例としては、評価替
を組み入れる場合だけでなく、関連会社およ
中にも税務戦略の重要性を認識し、具体的な
えに係る損益が損益計算書に認識される金融
びジョイント・ベンチャーの業績を取り込む
対策を講じる企業が増えてきています。
商品が挙げられます。
場合にも適用されます。これらの手続きは外
しかし、むやみに実効税率の低減を目指す
ージの悪化や株価下落などに見られる風評リ
国支店の業績が財務諸表を作成する個別事業
だけでは有効な税務戦略を実行することはで
スク、実際に関与した個人が罪に問われるな
体、または子会社を持たない企業の財務諸表
きません。それに伴うリスクの管理も必要と
どの人的リスクも考えられます。特に、最近
に含められる場合、さらにIAS第27号に従い
なります。
ではエンロン事件以降の企業統治の影響もあ
5.機能通貨で記帳を行っていない
場合
例えば、現地の規定に準拠するために所在
個別財務諸表を作成する企業が機能通貨以外
地国の現地通貨で取引を記帳する際、企業は
の通貨で財務諸表を表示する場合にも適用さ
IAS第21号に基づく機能通貨ではない通貨で
れます。
記帳を行う場合があります。このような場合、
IAS第21号の規定に従い、すべての金額を機
7.おわりに
能通貨に換算しなければなりません。これに
外貨建ての会計処理をめぐる論点は、換算
より、すべての項目が機能通貨で当初から記
過程で用いられる換算レートと、発生した換
録されていたとしたら発生したであろう金額
算差額の事後処理に集約されるといえます。
と同じ金額で表示されることになります。貨
幣性項目は決算日レートにより機能通貨に換
ここでは、この税金に関するリスク管理
(タックス・リスク・マネジメント 以下、
TRM)について考えてみたいと思います。
2.TRMとは
(2)風評リスク・人的リスク
金銭的なコストが発生した場合の企業イメ
り、風評リスクが会社にとってより大きなリ
スクとなっています。
3. TRMの背景と効果
TRMが最近注目されるようになった背景お
よびTRMを行った際の効果には、以下のよう
なことが考えられます(<図1>参照)
。
1. TRMとは
(1)市場の圧力
TRMとは、税務に関する業務上・管理上の
市場において、税金も会社の重要なコスト
IAS第21号は、2003年12月の改訂を経て、こ
プロセスを評価・改善・見直すことにより税
の一つであるという認識が浸透し、また重要
れらの論点に対応した優れた基準になったと
務上のリスクを管理することをいいます。例
なコストである以上、そのリスク情報の開示
算され、取得原価を基準に測定されている非
いえます。しかし、IAS第21号が取り扱って
えば、典型的な税金に関するプロセスである
も市場における企業評価を高めるために重要
貨幣性項目は、それを認識する取引日の為替
いない主な分野として、国際会計基準審議会
税金計算を例にとると、税務調査が入って初
になってきています。TRMにより、税務コス
(IASB)が意図的に規定していない資本項目
めて対応する、もしくは申告書作成後に専門
トの削減・リスク情報開示が可能になり、結
の換算が挙げられ、これに関して今後の動向
家のレビューを受けるのではなく、税金計算
果として財務諸表における税金関連情報の信
を注視する必要があるといえるでしょう。
というプロセスの中でリスクを認識し、可能
頼性が増すことで市場の評価が高まることに
な限り排除する体制を築くことがTRMを実行
なります。
レートを用いて換算します。
6.表示通貨への換算
および在外営業活動体の換算
機能通貨が超インフレ経済下の通貨ではな
い企業の経営成績と財政状態は、以下の手続
きにより表示通貨に換算を行うことが求めら
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税理士 高松裕一
することになります。
2. タックス・リスクとは
(1)財務リスク
(2)コンプライアンスの強化
エンロン事件以降、米国の企業改革法など
に見られる内部統制・リスク管理などに関す
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